追記※ある人物の表記漏れがあったので追加しました。すみません。
自由行動日。完全に休日となっている今日は、クラブにて研鑽する者、勉強に精を出す者、はたまた帝都に繰り出す者。過ごし方は様々だが、俺は――
「えぇと、旧校舎地下の探索に、導力器の配達、落とした学生手帳か……」
改めて渡された封筒の中身を見る。以来の内容は様々だが、よく見たら依頼人が学院長と技術部の部長からだ。最初からこれは大丈夫なのだろうか……?
技術部といえば……シオンが頻繁に利用しているというのを聞いている。今朝も朝食を作り終えた後学院の方に向かったみたいだし、もしかしたら会うかもしれないな。
依頼の横に必須と書かれたものは優先的にやってほしいものらしい。今回で言うなら旧校舎の探索と導力器の配達がそれにあたる。……時間もあるし、学生手帳の方から焦らずこなしていこう。
「——失礼します、生徒会の依頼できたのですが……」
「やぁ、待ってたよ。君がリィン君だね?」
「あなたは、入学式の時にトワ会長の隣にいた……」
「うん、2年のジョルジュ・ノーム。技術部の部長を務めている。改めてよろしく、リィン君。話はトワとシオン君から聞いてるよ」
黄色い作業委を身にまとったジョルジュ先輩から依頼の内容を確認し、荷物を受け取り、出発しようとしたとき。
「あれ、シュバルツァー。今朝ぶりだね。もしかして生徒会の依頼かい?」
部屋の奥からこちらは青い作業服を着たシオンが出てきた。銀髪がくすんでいるところを見るに先ほどまで何か作業をしていたのだろう。
「ああ、今朝ぶりだな。生徒会の依頼だ。そういうシオンは?」
「ああ、こっちはちょっとね。ここがオーブメント工房なのはノーム部長から聞いていると思うけど実は武器の調整もやっていてね」
「へぇ……あれ?そういえばシオンは素手じゃなかったか?」
オリエンテーリングの時から気になっていた疑問をぶつける。体術を使う流派はあれど、腕の保護や威力を上げるために籠手を着けるはずだが、それすらもつけていなかった。
その疑問にシオンは苦笑しながら答える。
「あはは……実は入学式の前の日に壊れちゃってね。もう長いこと使ってたから寿命だと言えばそれまでなんだけど……まぁそれで仕方なく素手だったんだけど、技術部では武器の取り扱いもしてるって聞いて駆け込んだんだ。その時のことは生徒会室で話したよね?」
「ああ、あの早口のやつか……」
「あの時は凄かったんだよ。『すみません遅くに失礼しますここで武器を取り扱っていると聞いて来ました至急武器を用意してほしくてですねあっサラ教官から色々書類は準備してきてます材料も持ってきています図面もありますというわけで協力お願いしますあとこちらつまらないものですが帝都の有名店のケーキです』って一息で言ってたからね……衝撃的だったよ……」
「それは……衝撃的ですね……」
「ケーキの味が」
「そっちですか!?」
「僕としては早口を覚えてることにツッコミたい」
ってことは……
「もしかしたら今その武器を用意してるところなのか?」
「うん、お昼までには完成しそうかな。可能ならどこかで運用してみたいけど街道の魔獣はクォーツのためにさっき倒してきちゃったしどうしようかな……」
「……なぁ、もしよかったら今日の依頼に旧校舎地下の探索があるんだが、同行してくれないか?多分武器の試しもできるだろうし」
今日の依頼の一つである旧校舎地下の探索は学院長からの依頼だ。旧校舎自体には昔から奇妙な言い伝えがあり、前に戦ったガーゴイルもその一つということ。あれは倒しても復活するらしく、旧校舎は生徒の修練の場として活用されていた。しかしここ1年程見たことのない扉が増えたりどこからともなく声が聞こえたりと不思議な報告が多数寄せられているらしい。
そこで今回《Ⅶ組》全体に旧校舎地下の調査という依頼が来た、ということらしい。実際修練としては実践に近い形式でできるだろうし何より《Ⅶ組》には《ARCUS》のデータ取りという面もあって適任だ。それで今は校舎を回りながらいけそうなメンバーに声をかけている。現在はエリオットとガイウスが参加予定だ。
一通りの事情を話すと、
「……うん、面白そうだし、僕も同行しようかな。何よりこれを実践で使ってみたいしね」
そういって箱を指さす。恐らくあの中に武器がはいっているのであろう。
「わかった。じゃあ配達が終わったら《ARCUS》で連絡するからまた後で」
「了解した、じゃ後でね」
「すまない、僕が最後かな」
「いや、大丈夫だ」
「みんな揃ったね」
「では行こうか」
最後にやってきたシオンを迎えて旧校舎に立ち入る。1階は入学式の時と変わってないように思える。
「うう、またここに来ることになるなんて……」
「気が進まないなら付き合わなくていいんだぞ?」
「う、ううん。来週には実技テストがあるし、魔導杖の扱いに少しでも慣れておきたいから」
「まぁクレイグは後衛でサポートだから僕たちで前線を抑えよう」
「そうだな。この人数だ、慎重に進もう」
階段があった部屋から降りよう、と扉を開けた瞬間、違和感を感じた。いや、違和感どころではない。
「あれ……この部屋ってこんなだっけ?」
「いや……俺たちがあの化け物と戦った時より小さくなっている」
「え”」
「うん、間違いないね。それに石像も無くなっている。これは気を引き締めた方がよさそうだね」
「2回り以上ほど小さくなって……それに見覚えのないものまであるな」
「とりあえず行ってみよう」
新しく表れた扉の前に立つ。恐らくここから先も前回と中は変わっているだろう。
「そういえば、シオン、その剣はどうしたの?」
エリオットの指摘にそういえばと思い出す。
「新しい武器って剣なのか?」
「うん、剣だよ。といっても色々あるけどね。例えば……ほら」
ガシャッ!と音を立てて普通の剣から導力銃のように変形した。……え”。
「ね、面白いでしょ」
「うん、中々凄いな。これが帝国の技術か」
「いやいやいや僕こんなの初めて見たよ!?」
「俺もだ……こんなのどうやって作ったんだ……?」
「ああ、仕組み自体は導力杖を参考にしてるよ、変形機構もそれを元にしてるし」
「ちょっと待って僕その仕組み知らない……」
「あオフレコなの忘れてた。……今すぐ忘れて?」
「「「無理」」」
「だよねぇ」
色々ツッコミどころが多すぎるが……多分キリがないしシオンはもうこれ以上話す気はないみたいなので改めて探索にいこう。
結論から言うと、旧校舎の中は大分変わっていた。こうやって最奥まで来たが、前回探索したのと間取りが全然違う。出てくる魔物も変化していたが、どうにか対処できた。問題は……
「この奥になにかいるね」
「ああ、恐らくこの階層の主のようなものだろう。みんな、準備はいいか?」
「いつでも行ける」
「う、うん……僕もいけるよ」
「同じく、行けるよ」
「じゃあ……行くぞ」
扉を開けた先には2足で立つ魔物、"ミノスデーモン"が待ち構えていた。
相手がこちらに気付くと同時に俺とシオンが駆け出す。俺はエリオットと、シオンはガイウスとそれぞれリンクを繋いでいる。
エリオットのアナライズにより相手の体勢を崩しやすいところを発見。
「虚影斬!」
「ヴァリアブルトリガー!」
俺の斬撃とシオンの銃撃が同時に弱点にヒット。そこにすかさずガイウスが威力の高い突きを入れる。
「はぁっ!」
槍が魔物を貫き、苦しそうに暴れるが、ダメージを受ける前に離脱。
「フレアショット!」
「アクアブリード!」
シオンの戦技が動きを阻害、そこに駆動を終えたエリオットのアーツが襲い掛かる。かなり痛手を与えたと思うが、相手はかなり頑丈なようで、そのままエリオットに向かい、攻撃しようとする。が、
「どこを見ている!瞬迅剣!」
変形したシオンの剣による刺突で反対方向に吹き飛ばされる。そこに待ち構えていた俺は、万全の一撃を放つ。
「肆ノ型……紅葉斬り!」
すれ違いざまに斬撃を叩き込んで戦闘は終了した。
「……ふぅっ、皆、お疲れ様。ケガはないか?」
「僕は全然かな。ウォーゼルは大丈夫?」
「ああ、オレも大丈夫だ。暴れられたときは少しヒヤッとしたが……」
「うーん、僕の方に向かってきたときは驚いたけど、助けてくれてありがとう、シオン」
「当然のことだよ。それに一番戦闘に慣れていないだろうし、寧ろどんどん頼ってほしいな」
各々の状態を確認して、帰途につく。といっても帰りは入口まで瞬間的に移動できる装置を利用して楽ができた。
それぞれの所感も伝えた方がいいだろうと思い、そのまま皆で学院長のもとに報告しに行くことになった。
「なるほど……旧校舎の地下がそのように……」
「構造が丸々変わってしまったか……」
学院長室にて、学院長と、恐らく報告を待っていたサラ教官が唸る。それはそうだ、俺も他人から聞いただけでは到底信じられないことが起こっている。
「えっと、あの遺跡って外見から随分昔に建てられたみたいなんですけど何か由来があるんですか?」
「――恐らくあれは《暗黒時代》に建てられたものじゃ」
《暗黒時代》――1200年前の《大崩壊》のあとしばらく続いた混沌の時代。あの頃の遺跡やそこから発掘された、《アーティファクト》と呼ばれるものは魔導や錬金術などの失われた技術が使用されており、人智を超えたものが多いと言われている。
「地下の構造が変わってしまったのは流石に普通じゃないですよね?」
「うむ、学園の記録を見る限り初めてのことじゃ。何がトリガーになったかはわからぬが……」
「あたしの方でも色々と調べてみます。赴任して以来気になっていた場所でもありますし」
「すまんな、そうしてくれるか。シュバルツァー君、エリオット君、ウォーゼル君、それにルクレシア君、ご苦労じゃったな、本当に良く調べてきてくれた」
「いえ、力になれたのなら幸いです」
「あはは……頑張った甲斐がありました」
「こちらも良い経験を積まさせてもらいました」
「……失礼する」
サラ教官も一緒に学院長室から退室すると、こちらに向き直った。
「今日は色々お疲れ様。特にリィン、次からもよろしくね」
「はぁ……なんとなく予想してましたし、分かりました。生徒会長を手伝ってあげたいですし」
「うんうん、会長にも伝えておくわね。あとシオン」
「分かってます、可能な限り手伝いますよ」
「よろしい。あと、旧校舎のカギは預けておくわね。また気が向いたときにでも見てきてちょうだい。それじゃあね~」
言いたいことはすべて言い終えたのか颯爽と去っていく教官。
「えっと……」
「いいのかリィン?それにシオンも」
「ああ、クラブにも入っていないし、今日くらいの依頼ならどうにかなりそうだ」
「同じく。元々会長の仕事を手伝ってるし、僕もクラブには入る気ないからね」
「そうか。なにかあったら遠慮なく声をかけてくれ」
「うん、旧校舎に行くときも付き合うよ!」
「はは、ありがとう」
アリサのラクロス部の片づけを手伝った後、第3学生寮に戻ると、キッチンにシオンが立っていた。手元を見ると何かを切っているようで、夕飯を作っているのだろう。
「ん、お帰り、シュバルツァー。今日はカレーを作ろうと思ってるんだけど、君も食べる?」
「ああ、そうだな……」
前から料理を教わってみたいと思っていたし、今頼んでみるか……?
「……なぁシオン、俺に料理を教えてくれないか?多少なら出来るんだが……」
「ふふ、構わないよ。まだ作り始めだし、ここから先は一緒に作ろうか」
そこからはシオンから指示を貰いながらカレーを作った。作る際に色々細かいポイントや工夫できるところなどを教わり、後は味を調えるだけに。
「……うん、いいと思う。シュバルツァーも味見してみて。調理人がしっかり味見しないといい料理はできないからね」
「……美味い。多分こんなに上手く作れたのは初めてだ」
「そこはシュバルツァーにも才能があるよ。飲み込みが速いから教え甲斐があるよ」
特に材料が高価なわけでもない普通のカレーだが、とても美味しい。手間をかけてやるほど美味しくなると言っていたのを理解できた。
「よければ今度僕がお世話になった本を貸すよ。ほんとは新品を渡したいんだけど中々置いてなくてね……」
「良いのか?俺はとても助かるが……」
「良いの良いの。これまで周りに料理の話ができるまともな人が少なかったし」
「まともって……」
「火を最大火力の何倍も高いくらいにして焦がしたり料理に実験として薬を混ぜるあたりがまともじゃないかな」
「普通に癖が強すぎないか……!?」
よくそんな人たちが周りにいたのにこんなにおいしい料理を作れたな……しみじみ感心しているとエリオットやガイウス、サラ教官も帰ってきて、皆で食卓を囲んだ。カレーは皆にも好評で、少しむずがゆかったが、いい経験を積めたと思う。食後にシオンから本を借りたので、今日料理部のニコラス部長からもらった料理手帳と一緒にどんどん使っていこうと思う。
部屋でパラパラと一通り本に目を通していると、ひらりと一枚の写真が落ちた。拾ってみてみると、今より少し幼いシオンと金髪の女性、鎧姿の女性3人組と紅いコートをきた青い髪の男性、銀髪の男性に写真のシオンと同い年くらいの黒髪の男の子、紫色の髪の女の子が写った集合写真らしきものだ。
写真の中のシオンは満面の笑顔で、今の落ち着いた雰囲気とは似ても似つかない。
違和感を感じたが、明らかに大切なものだろうしすぐに返した方がいいだろう。シオンの部屋に赴き、ノックすると、どうぞーといわれたのでドアを開ける。
武器の整備中だったのか、床の上には雑多なパーツや工具が置かれている。
「シュバルツァーか、どうしたの?」
「ああ、すまない。借りた本を読んでいたらこれが挟まってて……」
と、写真を取り出すと、シオンの表情が強張った。だがそれも一瞬のことで、何事もなかったように写真を丁寧に受け取ると、安心したように息をついていた。
「……大事なものなのか?」
気になったので問いかけると、少し困ったような顔で返された。
その後部屋に戻ったが、本を読む気分ではなくなってしまったので鍛錬をしながらジョルジュ先輩からもらった導力ラジオをつける。女性のパーソナリティが色々話しているが、いまいち頭にはいってこない。
……あれは、どういう意味なのだろうか。
"とっても大事なものだったよ、壊したくないくらい"、なんて。
『どういう仕組み?』
エリオット「それにしても、不思議な武器だね、それ」
シオン「これ?まぁ導力杖とか導力銃を参考にしてるけど、半分くらいはオリジナルだしね。1つだけ教えてあげると、中にセピスを使ったカートリッジが入ってて、そのエネルギーを射出してるよ」
リィン「すごいな、オリジナルなのか」
エリオット「うーん、僕の魔導杖も変形できるみたいだけどいまいちわからないんだよね……」
ガイウス「シオンは剣と銃、二つとも使いこなしているが、これも帝国の流派なのか?」
リィン「いや、銃を使う流派は聞いたことがない。俺の八葉も珍しい方だと思うが……」
シオン「それはまぁ、独学だからね」
エリオット「独学……シオンは一体入学するまで何を……」
シオン「はいそこまで。ここで説明してる場合じゃないし、秘密があった方がかっこいいでしょ?その話はいずれね」
リィン「(……剣だけでなく銃も使っての実践的な動き……遊撃士や猟兵みたいだ。シオンは一体……?)」
《Ⅶ組》には訳アリの子しかいなよねって話。いずれ書きたい話はたくさんあるけどそれまでかけるかしら……