RTAとしてやっと色々加速させていきますわよ~
ケルディックについた俺たちは、シオンの先導で宿に向かうことに。
シオンはケルディックに来るのは初めてだと言っていたが、迷いなく目的の宿、『風見亭』に到着した。
中に入り、宿の女将さんのマゴットさんに挨拶して、部屋に案内してもらった……のだが、案内されたのは大部屋だった。
「ベッドが5つしかないってことは……」
「まさか男子と女子同じ部屋ってことですか!?」
「あたしも流石にどうかと思ったけど、構わないってサラちゃんに強く押し切られちゃってねぇ」
「僕たちは構わないけど、女の子はそうもいかないだろうし――」
「まぁそりゃ旅行じゃないんだし、こうなるのはなんとなく予想できたかな」
「アリサ、ここは我慢すべきだ。そなたも士官学院の生徒。軍は男女区別なく寝食を共にする世界だ。ならば部屋を同じにするくらい、いずれ慣れるべきだ」
「うっ……分かった、分かりました!――あなたたち、不埒な真似は許さないわよ?」
「あはは、しないってば」
「……右に同じく」
「しないよ。それに実習をこなした後にそんな真似できるほど余裕ないと思うよ」
「……ちょっと待ってどういう意味?」
アリサが怪訝な顔をしてシオンを見るが、それを意にも介さずマゴットさんに視線を送る。頷いたマゴットさんは懐から封筒を取り出した。
「それじゃあこれを渡しておこうかね」
俺が受け取った封筒には士官学院の紋章が刻まれていた。ということはこれが……
「《特別実習》とやらの具体的な内容とやらか」
「ご明察」
「えっと……これは……」
「ああ、シュバルツァーが持ってて。今朝も話したけど僕は今回保護者役だ。基本君たち四人で実習をこなしてほしい」
あ、勿論実習に直接関係がなかったら手伝うからねーと言って数歩下がって腕を組んでいる。本当に後方腕組保護者面するのか……
ともかく、内容を確認してみる。……内容は手配魔獣の討伐、壊れた街道灯の修理、薬の材料良達の3つだ。この内の魔獣討伐と街道灯の修理の横には必須の文字が躍っている。
なお一日の終わりにはレポートの提出もある模様。
「……なんというか」
「実習というより何でも屋みたいだね……」
「一応魔獣討伐も入ってはいるようだが……」
「――なるほど。つまりはそういうことなんだな?シオン」
「うん、合ってるよ」
「ちょ、ちょっと、どういうことよ」
自由行動日にあった生徒会の手伝い。あれが今回のテストケースだったのだろう。自由行動日にあったことを皆にも共有する。恐らく依頼を通してその町のことを理解するのも目的の一つだろう。そしてこれは恐らく……
「まぁ必須の依頼以外はやらなくてもいいからね。そしてその判断も全て君たちが決めるように。それ含めての――」
「《特別実習》、というわけか」
「そういうこと」
満足げにうなずくシオン。だがそれに納得してないのか、アリサが突っかかる。
「それじゃあなんであなたは実習に参加しないのかしら?」
「んー、僕が参加すると支障が出るって話はしたよね?僕はこの依頼みたいなことをやったことがあるから、今回は参加を見送ったんだ。勿論ずっと不参加は《Ⅶ組》の目的に反するから次からは参加するよ。これで満足?ラインフォルト」
「っ……!ええ、満足したわ。あと、私のことは名前で呼んでくれるかしら?名前を隠しているのにそう呼ばれるのは嫌なのだけれど」
「そう?隠してるつもりならもう手遅れだと思うよ?《Ⅶ組》で気づいていない子はいないと思うけど」
「(……ねぇリィン、アリサってやっぱり……)」
「(ああ、恐らくRFグループのお嬢様だろうな……)」
実際アリサが隠せているかどうかで言えば全然そんなことなかった。入学で忙しいのもあり、、誰も触れられたくないのだと分かってあえて触れていなかったが……
「あ、あなたねぇ……!?」
「別に馬鹿にはしていないよ。でも、その名前は君と家族との大切なつながりだろう。それを簡単に切れはしないんだよ。それにここに君がラインフォルトだから、という目で見る人間もいない。ラインフォルトと関係ない、そんな自分を見てほしいというなら先にそういえば良い。……折角親元から離れたんだから、多少は素直になってもいいんじゃない?そうすることでシュバルツァーとも分かり合えたんでしょ?」
もしそれでも嫌なら改めるけど、と続けて黙った。アリサの方はと言えば色々衝撃を受けたようで少し固まっている。ここまで諭されるとは思ってなかったのだろう。改めて考えてみれば、シオンは誰に対しても平等だ。貴族だからと媚び諂わず、平民だと見下すこともなく、留学生であるガイウスとも隣人のように接している。
そんなシオンだからこそ、さっきの言葉には説得力がある。それを理解しているからこそアリサも固まっている。
どうするべきかエリオットやラウラと顔を合わせていると、
「――良いわ。別に貴方に悪意があってやっていたわけじゃないのも分かったし。それに……そうね、名前を隠しても私がラインフォルトの人間だということが消えるわけでもない。……でも、これからは名前で呼んで頂戴。私としてはそっちで呼んでもらえた方が良いわ」
「――うん、そういうことなら。改めてよろしく、アリサ」
そう言って握手を交わす二人。どうやら一区切りついたようで、大きく息を吐く。落ち着いたところで改めて依頼をこなしていくことに。基本依頼に直接関わるようなことには手を出さず、それ以外のことに積極的に手助けしてくれた。戦闘でも一人だけリンクを繋いでいなかったものの、俺たちが動きやすいように魔獣相手に隙を作ったり俺たちのカバーをしてくれていた。
街道に設置されていた魔獣除けの導力灯は、アリサが手早く直し、指名手配されていた魔獣は、道中でシオンが見せてくれた動きを取り込むことで連携がうまくいき、これといった被害もなく倒すことができた。
帰りに教会の方に薬草も納品し、一度宿に戻ろうとしたところ、大市の方から騒ぎが聞こえてきた。
「何やら諍いめいた響きだな……」
「気になるわね、行ってみる?」
振り返ってシオンに目配せすると頷きで返された。……実習外のトラブルも自主性に任せるということだろう。大市の方に歩いていくと、二人の男が店を開く場所を巡ってトラブルが起こっているらしい。近くにいた人から事情を聴いていると取っ組み合いの喧嘩に発展しそうだったため、俺とラウラで無理やり引きはがすことに。
自分たちは士官学院の学生で、実習でここを訪れていることを明かし、話を聞こうとすると、大市の責任者……オットー元締めが場を収めてくれた。その後お茶でもとお誘いを頂いて、元締めのお宅にお邪魔している。
「……では、あなたが実習の依頼を?」
「うむ。ヴァンダイク学院長とは旧知の仲でな」
今回実習の根回しの窓口となってくれたのがオットー元締めらしい。どうやら話を聞くと、店の出店許可証は貴族の領主が発行していること、最近税を上げられ、商人たちが苦しんでいるので陳情に赴くも門前払いされてしまうこと、そして本来騒ぎを治めるはずの領邦軍が動かず、増税の陳情を取り消さない限り不干渉を仄めかされたこと。色々な話が聞けた。
「やっぱり理不尽だよね……」
「うむ。他家の内政に口を出したくはないが……」
「露骨すぎる嫌がらせよね……」
「ああ……」
お茶のお礼をして出てきた俺たちはオットー元締めから聞いた話を思い返してどうにかできないかと頭を抱えていた。相手は四大名門の内の一角、クラスメイトのユーシスの親とはいえ、当主の決定は絶対だ。
「――まぁ、やれるだけやってみたら良いんじゃない?君たちが何かしでかしてもフォローできるように今回僕がついてるわけだし」
「……いずれにせよ、日も暮れてきたころだ、そろそろ宿に戻らないか?」
「そうだな……」
「流石に疲れたわね……」
「うう、夕食を食べたらすぐに寝ちゃいそうだよ……」
「エリオットは今回の実戦での魔導杖のレポートもあるから頑張ってね」
そうして俺たちは初めての実習の1日目を終え、宿へと戻ったのだった。
夕食を食べ、レポートも本日の分を書き終えた夜。夜中に物音がして目が覚める。周りを見ると、シオンのベッドだけ空いている。……さっきの音はシオンが出ていった音だろうか?すぐに眠りにつけなさそうだったので一度水でも飲もうと1階に降りる。そこにはラウラが座っていた。
「む……リィンか。そなたも目が覚めたのか?」
「ああ、何か物音が聞こえた気がして。ラウラは?」
「私も似たようなものだ。少し目が冴えてしまってな」
言いながら俺の分の水をもらい、二人でテーブルにつく。
「……ちょうど良い。リィン、そなたに聞きたいことがある。――なぜ、本気を出さない?」
「……」
「東方剣術の集大成である《八葉一刀流》――その程度のものではないはずだ」
「はは、詳しいんだな。俺はただの初伝止まりさ。ユン老師から剣の道に限界を感じて修行を打ち切られた身だ」
「……え……」
ラウラには悪いが、これが俺の"限界"だ。誤解させてしまったのなら申し訳ない。そう続けようとしたとき、宿の扉が開いた。
「こんな時間まで起きてるのは感心しないね、実習は明日もあるんだよ?」
「シオン……」
「そういうシオンはどこに行ってたんだ?」
「んー、たまたま目が覚めちゃったから散歩……かな?」
伸び伸びと答えるシオンと反対に残念そうな様子で入れ替わりで出口に向かうラウラ。
「そうか……では私も少し素振りをしてくる。二人は先に……」
「まぁまぁ、少し待ってよ。そんなにリィンの実力に疑いがあるのなら一度二人で試合でもしてみたら良いんじゃない?」
背を向けたラウラに提案をしたシオンは、試すようにこちらを見る。……確かに、今まで同年代の武人と手合わせしたことはなかった。いい機会だし、やってみよう。
「俺は構わない……ラウラは?」
「無論やらせてもらう」
「うん、立ち合いは僕が務めるよ。場所は……街道でいいか」
夜の街道で向かい合って構える。辺りには魔獣の気配もなく、静謐に満ちていた。
「――八葉一刀流《初伝》、リィンシュバルツァー」
「――アルゼイド流、ラウラ・S・アルゼイド」
「「参る――!!」
初手、同時に駆け出し、ラウラの上段からの唐竹割に、太刀を掬い上げるようにふるい、弾かれる。すぐに体制を立て直すが、勢いを乗せたラウラの連撃が迫っている。後ろに跳び、一瞬納刀。
「弧影斬!」
「ふっ――!」
大剣を盾にする形で防がれたが、次はこちらの番。構えなおされる前に疾走、横から太刀を振りぬく。後ろに跳ばれたが、予測していたので納刀。
「肆ノ型、紅葉斬り!」
「鉄砕刃!」
戦技を放つが同じく戦技で迎撃され、鍔迫り合いになる。状況が膠着し、千日手になっているが、ここからどうすれば……
「うん、試合終了~」
「「いたっ」」
いつの間にかそばにいたシオンにラウラと二人そろって頭をぺしっと叩かれた。お互い不完全燃焼ながらも武器をしまうと、シオンは満足げに笑っていた。
「お互い少しはすっきりしたかい?特にアルゼイドはシュバルツァーが手を抜いてなどいないことはわかっただろう?」
「うん。すまなかった、リィン。恐らくそなたにはそなたなりの事情があるはずだ。それに対して本気ではないというのは……」
「いや、俺の方こそ。ただの初伝止まりなんて失礼な言葉だ。剣の道を軽んじたことを謝らせてほしい。剣を通してラウラがどれだけ真摯に打ち込んでいるのかよく伝わってきたよ」
「――それなら、もう一つ抜けている。そなたの事情は知らぬが、そなた自身を軽んじた言葉を撤回するべきだ」
「あ……」
「リィン。"剣の道"は好きか?」
「――もう好きとか嫌いとか、そんなものより、ないと俺じゃなくなるくらいだよ」
「――ふふ、そうか」
「いやぁ、仲直り出来たみたいで僕は安心だよ。……もしかしたらおせっかいだったかもしれないけど、お互いに少しはいい経験を積めたんじゃないか?」
だったら止めないでくれよというといや君たち絶対両方ボロボロになるまでぶつかってたでしょと茶化され、違いないと相槌を打つ。そうして宿に戻った俺たちは充足感と程よい疲労感で今度こそ朝まで目を覚ますことはなかった。
『それって……』
アリサ「……ねぇ、シオン、あなたの使ってる武器って……」
シオン「やっぱり気になるよね……」
アリサ「そりゃそうよ。家のカタログとかでも見たことないし、ARCUSや魔導杖みたいにテスト運用されてるものでもない。一体どこで手に入れたのかしら?」
シオン「……うーんアリサになら良いかな。誰にも言わないでよ?」
アリサ「……分かったわ。絶対に誰にも言わないわ」
シオン「実は…………これは未来から持ってきたんだ」
アリサ「…………馬鹿にしてるの?馬鹿にしてるわよね?」
シオン「大真面目だよ。だってこの機構とか見たことないでしょ」
アリサ「確かに見たことないわね。――もしかしたら本当に」
リィン「でもその武器この前ジョルジュ先輩と一緒に完成させたって話してなかったか?」
シオン「あっ」
アリサ「シ~オ~ン~?」
シオン「じゃあちょっと僕は用事を思い出したから先に町に戻るとするよ!!!」
アリサ「あっ待ちなさーい!」
ラウラ「……追いかけなくて大丈夫だろうか?」
エリオット「あはは……まぁシオンが先頭だし大丈夫じゃないかな」
リィン「それにしても……騙すにしても余りにも突飛すぎないか?」
初回1日目は色々あったねって話。やはり信用を得るには餌付k……一緒にご飯を食べることって大事ですよね。