私が妾筆頭だって!?
「ごめん、シャルティア。私、異性愛者なんだ」
「気にしないでありんす」
「気にしてほしいな!?」
…………
………………
夜。エ・ランテル。馬車の中。
動き出した馬車の中は、大変静かだ。
向かいに座るソリュシャンとセバスさんが、心配そうに私たちを見ている。
それもそう。
シャルティアはぷりぷり怒っているし、私だって多少怒っている。
なぜなら「妾筆頭」の話を、互いに譲らないからだ。
私はなりたくないし、シャルティアは私を手に入れたい。
なんで??
ちなみに、セバスさんの向かい側。
吸血鬼の花嫁、シャルティア、私の順番で座っているのだが……ケンカ中にも関わらず、シャルティアは私から離れようとはしない。
ここまで好いてくれるのはありがたいけれど、私は!男性が好きなの!そこはわかってくれ〜!
吸血鬼の花嫁はずっとハラハラしていた。
セバスさんが軽く手を挙げた。
私たちの視線が集まる。
「お二人はケンカをされていますね。原因は何でしょう?」
シャルティアがツンと、そっぽ向いた。
「フン!ナナミったら、わたしの妾筆頭にしてあげるという話を、断るのよ。信じられないでありんす」
セバスさんの目が大きく開き、ソリュシャンが口元を片手で覆う。それぞれ驚いているようだ。
セバスさんが、私の方に身を乗り出す。
「ナナミ、交代しましょうか?」
「いえ、それはしなくても大丈夫です」
「しかし……」
「シャルティアは狼じゃないですよ」
私がそう言うと、シャルティアは妖艶な雰囲気をまとわせて、にっこり笑った。
「今のところはね」
セバスさんが腰を浮かせる。
私は「いいから」と言って、セバスさんを元の位置に戻させた。
それから、私はシャルティアに向き合う。
「シャルティアはさ、なんで私を妾筆頭にしたいの?きっかけというか、理由を知りたいな」
「……まあ、教えてあげるでありんす。きっかけはペロロンチーノ様でありんす」
「シャルティアの創造主様が?」
「そう。至高なる御方は、わたしの前でこう仰いんした。“ナナミちゃんを妾筆頭にしちゃおうかな!シャルティアの隣に並べたら、お似合いだし、モモンガさんに頼もう!”と……」
「お、おお……」
漏れ出た声を、どう判断したのか、シャルティアは機嫌よく続けた。
「わたしはそれから、ぬしの事が気になるようになりんした。よく見れば可愛いし、よく気が利くし、社交的で、確かな実績もある。わたしの妾筆頭にふさわしいでありんす」
「う、うん……」
褒められるのは嬉しいんだけどなー!
「だから、手に入れたいの。ねえ、いいでしょ?ナナミ、ぬしを頂戴?」
「アインズ様の許可をもぎとってきてね」
「ああん、いけずう」
「やめれ」
くねりと体を引っ付けてくるシャルティアに、私は呆れる。
もう始めの頃の、怒っている雰囲気はなかった。
やがて馬車は止まる。
全員が仕事モードに切り替わった。
私はついクセで、敵を数える。
「索敵開始、敵は……」
そこでシャルティアが、私の頬をつつく。
なんだろ?
「ナナミ」
「なに?シャルティア」
「ぬしは後ろでどっしり構えてなさい」
はえ?
そんな事、初めて言われたよ??
というか、こういう初めての場面で、探索者である私の力を使わないなんて、そんな事ある?
「え、なんで?」
「ザコ相手に、ぬしの力を使うまでもないでありんす。そこで見てなさい。わたしが、見事に手柄を持って帰る様子を」
細い指が滑らかに、頬から顎へたどる。
耳元に彼女の口が寄り添って。
甘い声に誘われる。
「……可愛らしい耳ね」
息がかかり、背中がぞわぞわした。
「シャル、ティア……くすぐったい」
「あら、耳が弱いの?ふふ、後で可愛がってあげるでありんす」
それ「耳かきしてあげる」とか、そんな健全な意味じゃなさそう。
上機嫌となったシャルティアは、私から離れた。馬車のドアの前に立つ。吸血鬼の花嫁が、主人の後ろに並ぶ。
ちょうど、ドアが開いた。
さあ、惨劇の始まりだ。
襲ってきた賊の死体すらもナザリックへと運び、セバスさんとも別れて、私とシャルティアと吸血鬼の花嫁は、夜の森を進む。
セバスさん、最後まで私の事を心配してたな……。良い人だよ、本当に。だから幸せになってほしい。
まあ、今は未来を考えるよりも、目の前に集中しよう。
「そこに罠あるよ、足元注意ね。そこにもあるよ。ジグザグに走るから、着いてきてね」
賊のアジトに向かうほど、罠が多くなる。
私たちは、それらを全て回避していた。
先頭に、シーカーである私がいるもの。こんな魔法で隠されていない罠を発見するなんて、朝メシ前だよ!
さて、木々がまばらになってきた。
アジトが近いな。
木々が完全になくなり、石が大地から突き上げている草原に出た。
こう言うの何だっけ?カルスト地形……だっけ?
奥の方に洞窟が見えて、穴から明かりが漏れている。
人はいるな。何より、穴の入り口に見張りが二人いた。
遮蔽物として、木でできた簡単な作りのバリケードがある。
それ以外、身を隠せるものはなかった。
私たちは木々に身を隠しつつ、小声で会話する。
「それで、これからどうするの?」
さすがに、そろそろ私の力を使うでしょ?そうだよね?
シャルティアはニコッと笑う。
「ナナミは、ここで待機でありんす。一緒に行ってもいいけれど、それだと過剰戦力になるし……」
「確かに、そうだね。じゃあ、見張りでもしておくよ」
重要な場面はここではないから、私は素直に引き下がった。
「頼みんしたよ。ほら、B子。“それ”をよこしなさい」
「はい。シャルティア様」
B子は、枯れた人間の死体をシャルティアの前に、差し出す。
死体はギクシャクと動き、シャルティアの前にかしこまった。
下位吸血鬼である。吸血鬼に吸われた、馬車を襲ってきた賊の成れの果てである。
シャルティアは一点だけ、質問をする。
「この塒の出入り口は、一つだけでありんすか?」
下位吸血鬼は、大きく頷いた。
シャルティアも満足気に「そう」と呟く。
そうしてゆっくりとした動作で、下位吸血鬼の服を掴んだ。
「貴方に、一番槍をいう大役を命じんす。さあ、行きなんし」
そして下位吸血鬼を、野球ボールの如く投げた。
当たったのは、洞窟を見張る一人。胸部から上が弾け飛び、無惨な死体となった。
もう片方の見張りは驚き、何が起こったのかわからない様子だ。
シャルティアは言った。
「すとらーいく」
私は手頃な大きさの石を、シャルティアに手渡した。
シャルティアは微笑み、それをまた投げた。
結果は満足がいくもので、見張りは二人とも死体となった。
「つーすとらーいく……でありんすかね」
「さすが、シャルティアだね」
「お見事です。シャルティア様」
二人でパチパチと拍手する。
シャルティアも機嫌が良さそうだ。
「では、突入するでありんす」
「いってらっしゃい、二人とも気をつけてね」
「ナナミは心配性ねえ。すぐ戻ってくるでありんす」
「行って参ります」
「はーい。あ、そこ落とし穴あるからね」
二人はビタリと止まり、するりと落とし穴を避けて、また進んだ。
私は二人が塒に入ったのを見届けて、木の上に身を隠す。