NPCになりまして。   作:紅絹の木

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モモンガ様とお喋り

 

 

 水筒をアイテムボックスから取り出し、飲んだ事で、わかった事がある。

 

 私もアイテムボックスが使えた。

 アイテムボックスの中身は、おそらくユグドラシル時代と同じである。これは後でちゃんと確かめる必要があるけどね。

 そして何より。

 水を飲んだという事は、そのうちトイレに行きたくなるという事……!

 ……宝物殿にトイレなかったよね?今の状況ヤバいね。

 

 私は水筒をアイテムボックスに戻し、立ち上がって指輪の力を解放しようとして――。

 

「どこへ行かれるというのです?あなたはか弱いネコ様のご意志でここに待機しているはずですよ」

 

 パンドラに止められちゃった。

 私は素直に言った。

 

「トイレに行ってくる。我慢できなくなる前に」

「……すぐお戻りください」

「了解」

 

 領域守護者様にちゃんと許可をとり、私は自室がある第九階層へ転移した。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 第九階層、スイートルームへ続く廊下前。

 私がそこに転移すると、慌ただしい光景が目に入ってきた。

 

 今まで第九階層に配置されていなかったシモべたちが、警備にあたっているようだ。コキュートスの配下である高レベルで尚且つ品位のある昆虫系のシモべたちが数人、一列となり一糸乱れぬ動きでどこかへ歩いて行く。

 

 これ、あれか。

 すでに第九、第十階層の警備を増やした後か。

 という事は、もしかして転移初日から数日たっている?それとも数週間かな?……数ヶ月って事はないよね??

 

 とりあえずトイレで花を摘んでから考えるかと、そう思って歩き出したら呼び止められた。

 振り返るとたくさんのシモべたちを連れて歩くモモンガ様がいた。

 

「ナナミ」

「モモンガ様」

 

 久しぶりに会える事が嬉しくて、お辞儀も忘れてニコッと笑う。

 花に引き寄せられる蝶の如く、モモンガ様の方へふらりと歩み寄り、程よい距離で止まった。

 お連れのシモべたちに警戒されたが、無視した。感動の再会には邪魔だったから。

 まっすぐモモンガ様のお顔を見つめる。

 

「えへへ、お久しぶりです。お会いしたかったです」

「……うむ。お前は、他の者とは違うな……。傭兵NPCだからか?」

「?私はもう傭兵ではありません。モモンガ様の従者ですよ?」

「ああ、そうだな。忘れていないとも」

「そうですか?ふふ、よかった」

 

 冗談っぽく言うと、周りの空気が固まった。

 びっくりしてキョロキョロと自分以外の人たち――ほとんどが異形種――を見る。

 

「あの、何かやっちゃいましたか?」

 

 恐る恐る尋ねると、モモンガ様は首を振る。

 

「いや、それで良いのだ。……ナナミ」

「はい。モモンガ様」

「これから、お前を私の専属護衛とする」

「……えっ?」

 

 なんでー?

 

 

 ――――――

 

 

 ……ユグドラシルから転移して数日。

 俺は疲れきっていた。

 

 どこへでも付いてこようとするシモべたち。

 誰にあっても深々と下げられる頭。

 ナザリックの主人としてのしかかる重責。

 

 息苦しい。楽になりたい。

 せめて儀仗兵の数だけでも減らせないかと考えていたところ。

 第九階層でちょうど転移してきたナナミに出会う。

 

 俺の傭兵……じゃなくて今は従者NPCか。

 黒目で黒髪ショートヘアのスレンダーな女性だ。

 和風で愛嬌のある顔立ちが可愛らしく、好ましい印象を与えてくる。

 

 普段着として与えていた、ロング丈の素朴な青いワンピースではなく。

 豪華な刺繍が美しい、露出の低い品のある白いドレスを着ていた。

 

 なんでだ?

 さらに気づく。

 

 ――確か、ナナミは転移魔法を覚えていなかったはずだ。

 

 そう思って、ナナミをよく観察した。そしてナナミの指にある物がはめられている事に気づく。

 リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。

 めっちゃ驚いた。

 誰だよ!ギルドの重要アイテムをNPCに預けた奴は!!?

 

 俺はどうにかするべく、ナナミの方へ歩き出す。

 

 

 

 そしてナナミと会話した。

 

 深い敬意よりも、親しみが込められた視線。

 下げられなかった頭。

 自然と向けられる笑顔。

 優しい声色。

 仲間たちと話すかのように、気を張らない会話。

 

 今の俺には、最も必要だったもの。

 心が震える。活力が戻ってくるようだ。

 

 ……ナナミが傍にいてくれたら、儀仗兵を置かなくても済むのではないか?

 レベル百だし、気配察知や罠感知に特化した探索者(シーカー)だし、ナザリック内で最も素早いし、〈伝言〉使えるし……うん。いいんじゃないか?

 

 身の安全も確保できて、儀仗兵も減らせる。良い案だ。

 だから、ナナミを専属護衛にした。

 ……決して、気楽に話せる相手が欲しかったわけではない。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 モモンガ様の専属護衛に選ばれた件について!

 モモンガ様の後ろにいる儀仗兵たちがめちゃくちゃ驚いている雰囲気を醸し出しているけれど、それも無視する。

 

 驚いたままではいられないので、とにかく言葉をつむぐ。

 

「え、えと、その、嬉しいです!びっくりしちゃって言葉が出なくなるぐらいに」

「そうか」

「はい。えーと、それでですね。各所にモモンガ様の専属護衛になった事を連絡したいと思いますので、お時間いただけますでしょうか?」

「かまわない。が、グズグズはするな」

「はっ!かしこまりました。では、行ってきます」

「うむ。行け」

 

 深々とモモンガ様に頭を下げる。そして私はとりあえず自室に向かった。早足で、だ。

 用事を済ませるためだ。それに着替えたい。ドレスのままでは護衛仕事はできないもんね。

 

 

 第九階層の至高の御方々のお部屋、スイートルームを抜けて。

 スイートルームよりもいくつかランクダウンした自室――それでも前世の一人暮らしをしていた家より断然広い――に入る。

 

 まずは着替えだ。

 白のドレスから、ラフで動きやすい格好に着替える。ぱっと見た感じは冒険者のようだ。

 青いシャツに黒いパンツ、皮の胸当てに、皮の手袋と皮のブーツを着用して。愛用の剣――クリティカルヒットが出やすいもの――を携える。

 

 ドレスやヒールなどはアイテムボックスにしまった。

 これで準備はいいかな?

 

 用事をぱぱっと済ませて、私は姿鏡で身支度を整えた後、再び部屋を出る。

 そしてちょうど目の前を歩いていたメイドをの一人、たしかフォスだったかな?彼女を呼び止めた。

 

「仕事中にごめんね」

「かまいません。ご要件は?」

「あのさ、アルベドってどこにいるのかな?」

 

 

 

 ――――――

 

 

 メイドたちとシモべたちに聞いて周り、やっとアルベドを見つける。

 彼女は転移門に入る直前だった。

 

「アルベドー!待ってー!」

 

 アルベドはピタリと立ち止まり、ゆっくりとこちらを振り返る。

 久しぶりに会う彼女は、やっぱり綺麗で美しい。ユグドラシル時代でも見とれちゃったけど、今も見とれちゃう。でも今日は急いでいるから、用件を伝える。

 

「よかった!会えた。あのね、伝えなくちゃいけない事があるの!忙しいと思うけど、ちょっとだけ時間をちょうだい」

「何かしら?」

「私、モモンガ様の専属護衛になったの、だから……」

「なんですって!!?」

「ひえ」

 

 爬虫類を思わせる瞳がグワッと見開かれる。こわっ!

 アルベドはズカズカと私に近寄り、顔を近づかせる。

 ……わあ、いい香り。

 

「どういう事なの!説明しなさい!どうやったの!?」

「えーと、あの、説明してもいいけど。モモンガ様からグズグズするなって言われているから、話進めたいな〜……なんて」

「……わかったわ。後で説明してね」

「了解」

 

 警備担当者や防衛担当者など各所への連絡を任せたいと願うと、アルベドは頷いてくれた。

 

「助かるよ。よろしくお願いします」

 

 ぺこりと頭を下げる。

 アルベドは微笑んだ。

 

「そんなに気を使わなくていいのよ。私たちの仲じゃない」

「……聞きたいから聞くんだけど、それって友達ってこと?」

「そうよ」

「……えへへ!ありがとう!」

 

 嬉しくて顔がにやける〜。

 転移して早々に友達がいるっていいよね!心の安心感が違うわ。

 私が嬉しそうに笑うと、アルベドの笑みが深くなった。

 

「それじゃ、私は次に行くよ。またね、アルベド」

「ええ、またね。ナナミ」

 

 指輪の力を解放して転移する一瞬――。

 またもやアルベドの目がグワッと見開かれて驚く事になった。

 ……これ、後で指輪の事も説明する流れかな?

 

 

 

 転移した先は宝物殿だ。

 合言葉を扉に向けて言い、パンドラがいる奥へ向かう。

 彼は広い部屋の隅、私たちが座っていたソファにいた。

 

「パンドラ〜、ただいま。ちょっと伝えたい事があるんだけど」

「お帰りなさいませ。何でしょうか?」

「私、モモンガ様の専属護衛になったから、モモンガ様のお傍につくね」

「それはそれは、おめでとうございます。羨ましいですね」

「うん、ありがとう。だからまた転移するよ。またね、パンドラ」

「ええ、また会いましょう。私のお嬢さん」

「……恥ずかしいから、その手の冗談やめて」

「これは失礼」

 

 パンドラが大袈裟に、でも優雅にお辞儀をする。

 私は膨らませた頬から、ゆるりと力を抜く。

 にかりと笑って手を振り、また第九階層へ転移する。

 

 

 ――――――

 

 

 今度もメイドたちとシモべたちに聞き周り、モモンガ様の居場所を突き止める。

 どうやら自室にいらっしゃるらしい。

 私はいくつものスイートルームを早足で抜ける。モモンガ様の自室にどんどん近づく。

 お部屋が目視できる距離になった時、扉の前にセバスさんがいるのを確認した。

 

 セバスさんは私より年下なんだけど、見た目がナイスミドルなおじいさんだからかな?なんか「さん」付けしたくなるんだよね。

 

「セバスさん」

「これはナナミ様。お待ちしておりました」

 

 右手を左胸に当てるセバスさん。私は軽く頭を下げる。

 

「ナナミでいいですよ。あの、中に入ってもいいんでしょうか?」

「では、これからナナミと呼びましょう……はい。モモンガ様がお待ちです」

「わかりました。では取り次ぎをお願いできますか?」

「かしこまりました」

 

 セバスさんは上品にノックする。

 扉の向こうから大好きな声が返ってきた。

 

「――なんだ?」

「モモンガ様、ナナミが到着しました」

「入れ」

 

 セバスさんが扉を開く。

 

「どうぞ」

「ありがとう」

 

 私は扉をくぐり、中に入った。

 ――まずは広い応接室が私を出迎えた。

 背後で扉が閉まる。

 あれ?室内にモモンガ様しかいないの?

 

「よく来たな。さあ、近くへ来い」

「はい」

 

 疑問を他所にやり、長く広い室内を歩く。最奥のテーブルのさらに奥に座られるモモンガ様の近くへ寄る。

 テーブル越しでモモンガ様とお会いした。

 私はぺこりと頭を下げた。

 

「ナナミ、ただいま参りました」

「うむ。よく来たな」

 

 労る心が見えるようで、私は嬉しくてによによと頬を緩ませる。

 モモンガ様がこてりと首を傾げられた。

 

「どうした?変に笑いおって」

「嬉しいのです。モモンガ様からお優しい言葉をかけてもらえる事が、すごく嬉しいんです」

「そうか。……友好度MAXだとこんな感じなんだな」

 

 後半は独り言なので、私はあえて聞いていないフリをした。

 モモンガ様は立ち上がり、数段下がった場所にある応接用のソファへ歩き出す。

 

「来い」

「はい!」

 

 後ろをピッタリついていく。

 ほわ〜モモンガ様のお背中、広い!大きい!

 モモンガ様は上座に座られる。そして向かいのソファを指さした。

 

「そちらへ座れ」

「かしこまりました」

 

 愛用の剣を取り外し、自分が座る隣りに立てかける。

 ソファは優しく、柔らかく私を受け止めた。

 あっ、これ高いやつだわ。うまく感想を言えないけれど、間違いない。

 

 ソファの座り心地に感動していると、モモンガ様はそのお背中を背もたれに預けた。足を組まれる姿でさえ、かっこいい。

 

「ナナミ、お前にはいくつか聞きたい事がある」

「はい。私もモモンガ様にお話ししたい事というか、ご報告しておきたい事、そしてモモンガ様のご判断を仰ぎたい事があります」

 

 私の言葉を聞いたモモンガ様が、ご自身の顎をさすった。

 

「私に?なんだ、それは」

「私のお見合いの事でございます」

「…………お見合いを、したのか?誰と?」

「コキュートス、マーレ、デミウルゴス、セバス、パンドラズ・アクター……以上、五名といたしました。主催者はか弱いネコ様です」

「あー……あの人か。NPCで遊ぶの好きだったんだよなあ。……もしかして、見合いのためにあの白いドレスを着て、宝物殿に行くために指輪をか弱いネコさんから渡されたのか?」

「左様でございます」

 

 モモンガ様は何度も頷かれた。

 

「合点がいった。加えて、私の質問も解消された。そうか、そういう事なら仕方がない」

 

 今度は身を乗り出して、私を見る。

 

「それで、判断を仰ぎたい事とは?」

「はい。お見合いはパンドラズ・アクターが最後でした。彼で終わりなのでしょうか?それとも他にするべき相手がいるのでしょうか?」

「あ〜……そうだな。か弱いネコさんは最後に何か言っていなかったか?」

「たしか『あ〜、満足した』と」

「では、お見合いは終わりでいいだろう」

「かしこまりました。ではお見合いに参加したメンバーに、終了した事を報せておきます」

「うむ。そうするといい」

 

 私は深く頭を下げた。

 

「私の話を聞いてくださってありがとうございました」

「よいのだ。それで、ナナミ」

「はい。何でしょうか?」

「お見合いをして、どうだった?」

「楽しかったです。皆さんとの仲が深まった気がします」

「そうではなくてな……その、特定の誰かを良いと思ったか?」

「あっ、えと、それは……」

「いるのか!?」

 

 私は俯いた。頬が熱くなっていく。

 モモンガ様はかなり驚かれた様子だ。声の調子から、それがわかる。

 

「だ、誰だ?」

「えーと、その。一番長く、一緒にいた方はコキュートスです……」

「そ、そうか」

 

 モモンガ様は「そうか。コキュートスか」と呟かれた。

 私は顔を両手で覆った。頬が熱く、手はひんやりしている。

 

 

 

 ――友好度は、様々な方法で増える事がわかっている。

 例えば私に対して、一定の距離内に一緒いたり、話しかけたり、アイテムをプレゼントしたり、一緒のチームとなって敵を倒したり。様々だ。

 

 モモンガ様への友好度はMAX。ギルド維持費を集める時も一緒にいたからね。長い事お傍にいましたよ。

 他の至高の御方々は、長い間会っていないので友好度はそこまで高くない。減りはしないけれど、増えないのだ。

 

 そして友好度の他に、ある条件を満たせば好感度という項目が増える。

 ある条件とは「告白の青い羽根」というアイテムを使う事だ。

 

 これは大抵、プレイヤーが結婚または恋人になりたいNPCに対して使うアイテムの一種である。

 好感度が上がる度に、特別なテキストが読めた。NPCによってはボイスが聴けた。

 好感度の上げ方は、友好度と同じである。

 

 そして「告白の青い羽根」はNPC同士にも使える。

 使われたNPCたちの間には、お互いに対する好感度の項目が増える。

 コキュートス、マーレ、デミウルゴス、セバス、パンドラズ・アクターには、私に対する好感度の項目がある。

 私には、その五人に対する好感度の項目があった。

 

 一番長くいた場所は、第五階層。つまりコキュートスの傍だ。か弱いネコ様に何があったのかは知らないけれど、第五階層にしばらく放置されたのだ。

 次に長く放置された場所が宝物殿だ。なので、コキュートスの次にパンドラの好感度が高い。

 

 他のメンバーの好感度と友好度は高くない。というか、低い。か弱いネコ様に相手を紹介されたと思ったら、次の場所へ転移していたから。

 

 

 

 懐かしいな。コキュートスとはずいぶんと会っていないから会いたいや。

 

 モモンガ様は私の事を、というか友好度と好感度について熟知されていらっしゃるから、さっきの会話でご理解されているだろう。

 

 ご主人様に恋バナを聞かせてしまうとか恥ずかしいな。

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