NPCになりまして。   作:紅絹の木

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クエスト:村を助けましょう1

 

 

 第九階層の一室。

 モモンガ様の自室より広い部屋の中にいる。

 

 部屋の中には、長く少し広い長方形のテーブルがある。かけられた白いテーブルクロスは、上品な刺繍が施されており、美しい。

 モモンガ様が上座に座り、その近くに私が座っている。警護にはセバスさんがついている。

 部屋の中には三人だけがいた。

 

 モモンガ様と私の前には遠視の鏡が置かれている。

 二人でせっせっと鏡を操り、ナザリックの外の世界――つまり地上――が目まぐるしく移り変わる。

 ある時は草原を、ある時は森をうつす。

 村はまだ見えない。

 

「(モモンガ様、早くカルネ村を見つけちゃってください)」

 

 私が見つけてもいいと思うけれど、襲撃された村を救うのか判断されるのはモモンガ様なのだ。

 モモンガ様が見つけた方が、スムーズに物事が進むと思った。

 

 が、村を見つけたのは私の方だった。

 

「……モモンガ様、村です」

「おお、見つけたか。よくやった」

「はっ。ありがとうございます。それであの、何だか様子がおかしいのですが……」

「む?」

 

 鏡の中では、騎士風の男たちが、村人たちに剣を振り回し殺している。

 モモンガ様がこちらに来られたので、席を譲った。

 モモンガ様は席に座られて、その様子を見た。

 

「祭りか?」

「多分、殺しです。その証拠に片方は逃げて、もう片方は追いかけていますから……。モモンガ様、どうしますか?」

 

 モモンガ様はこちらを見られた。私も鏡から目を離しモモンガ様を見る。

 

「助けるか、見なかった事にするか。どちらにしますか?」

「お前は、助けに行きたいのではないか?」

「そう、なんでしょうか。今考えているのは、助けた時のメリットです。そればかりぐるぐる頭を巡っています」

「ふむ。聞かせてくれ」

「まず、あの騎士風の男たちと戦闘ができます。この世界のレベルを知る良い機会です。村を助けるという大義名分が立ちます。村人たちが恩知らずではなければ、友好関係を築けるでしょう。――それに、」

 

 鏡が少女と幼女を映し出す。

 何かから逃げているようだ。

 

「――助けたいです。とっても」

 

 私は急いで、モモンガ様に膝をついた。

 

 

 

 ――――――

 

 

 

 モモンガ様の魔法〈転移門〉をくぐり、森の中に出る。

 少女たちが右手側、騎士たちが中央と左手側に計三名いる。

 

 ――うん。弱いな。

 騎士たちから感じられる気配は、なんというか軟弱なものだ。これなら至高の存在をお呼びしてもいいだろう。

 

「――ご主人様、問題ありません」

「わかった」

 

 今度はモモンガ様が〈転移門〉から出てきた。顔を隠されていない、骨が見える姿で。

 びっくりしていた空気が、今は凍りつくようだ。

 

「では、まずは……」

「う、うわあああ!」

 

 混乱した騎士風の男の一人が、モモンガ様に襲いかかる。

 ――頭にカッと血がのぼった。ゆらりとモモンガ様の前に立ち、間合いを測る。

 

「ここ……!」

「!!???」

 

 私の腕よりもずっと長い距離、それだけの差があったのに。

 相手の心臓を、私は盗んでいた。

 厚い鎧を貫き、服を裂き、肉を破り、痛みもなく心臓を手に入れる。

 

「え?あ、え??」

 

 男は最期まで理解できず死んでいく。

 まだ鼓動する心臓は、地面に落とした。同時に男も倒れた。

 男の開いた胸を中心に血の海ができあがる。

 

「ひいい」

「お姉ちゃん」

 

 少女たちが身を抱きしめ合って、顔を伏せた。

 それでいい。もうちょいじっとしててね。

 

「ご主人様、私の得意技が効きました」

「それは何より。さて、次は私だな」

 

 叫んで男たちが逃げ出す。

 数歩、走ったところで一人が転んだ。後ろのもう一人も巻き込んで、派手に倒れる。

 

「〈心臓掌握〉」

 

 一人が絶命する。できあがった死体が重りとなり、下敷きとなった人間はジタバタとと足を動かした。

 

「<龍雷>」

 

 今度は龍のような形の電撃が、モモンガ様の指から放たれる。その先には倒れている騎士風の者がいた。

 雷撃に飲み込まれる。白く輝いた。

 輝きは一瞬で、光がおさまると騎士風の者は動かなくなった。肉体が焼け焦げた、そんな臭いが鼻につく。

 

「――くしゅん!」

 

 思わずくしゃみをしてしまった。

 

「すみません」

「風邪か?」

「いいえ。焦げた臭いに慣れていないせいです」

「そうか。平気か?」

「はい。問題ありません」

「うむ」

 

 モモンガ様は地面に倒れている騎士風の者たちをじっと観察する。

 

「弱すぎるな……そう思わんか?」

「彼らが特別弱いのかもしれません」

「その可能性もあるな。さて、どうするのだ?」

「え?」

「そこの人間たちを助ける目的は達成された。後はどうする?」

 

 まるで試されているような、そんな感じがする。

 なぜ試されているのかは、わからない。とにかく、今思いつける案も特別ないし、原作通りに動いてみよう。

 

「次は、ご主人様のスキルを試してみませんか?」

 

 私が心臓を盗った死体を指さす。

 

「あれで壁役のデス・ナイトを召喚するのです」

「ふむ。よい考えだ」

 

 モモンガ様はデス・ナイトを召喚された。人間がデス・ナイトになる場面はえげつなくて、目を細めておいた。視界が霞んでよく見えない。よし。そして姉妹がさらに縮こまるが、今は無視です。

 

「このデス・ナイトをどうする?このまま私たちの傍に置くか?」

「許していただけるならば、村人たちを助けに向かわせてください。……それか私が行きましょうか?」

「いや、お前は残れ。次はデス・ナイトの強さがみたい」

「かしこまりました」

「うむ。デス・ナイトよ。この村を襲っている騎士を殺せ」

 

 モモンガ様が殺した騎士風の者を指さす。デス・ナイトはそれに応えて、雄叫びをあげた。そして駆け出した。

 二・三メートルはありそうな巨体に似合わない、素早い動きで走り去る。

 

「――迷いなく行っちゃいましたね」

「……そうだな。さて、次は……」

「ひいい」

 

 モモンガ様が姉妹の方を向くと、姉が妹を庇うようにその小さな身に覆いかぶさる。

 そのとき、モモンガ様が開いていた<転移門>からフル装備のアルベドが出てきた。門は閉じられる。

 

「準備に時間がかかり、申し訳ありませんでした」

「いや、そうでもない。実に良いタイミングだ」

「これで村を救いに行けますね」

 

 私がそう言うと、アルベドが驚いた雰囲気をかもし出した。

 

「あれ?セバスさんから聞いてない?私たちは村人たちを助けに来たんだよ」

「そうだったの」

「当面の敵は、あの騎士たちだ。さて今度こそ……」

「お姉ちゃん……」

 

 姉妹は可哀想なぐらい泣いている。

 私はモモンガ様に小声で進言した。アルベドにも聞こえるぐらいの大きさで。姉妹たちには背を向けて。

 

「今後村との友好的な関係を築く為にも、ここであの子たちからの印象を良くしておきましょう」

「具体的にはどうする?」

「それはですね……」

 

 原作でモモンガ様がやった事を、提案する。

 モモンガ様は気に入られたようだった。アルベドはなぜそこまでするのか、わからないようだった。

 姉妹に渡すアイテムは、私のアイテムボックスから出す。

 これにはアルベドが驚いた。

 

「いいの?それは至高の存在から下賜されたアイテムでしょう」

「いいんだ。ナザ……ギルドの利益に繋がるなら、至高の御方々は許してくださるはずだよ。ですよね、ご主人様?」

「ああ……私が許そう」

「ありがとうございます」

 

 下級治癒薬、小鬼将軍の角笛を二つ手のひらで転がす。治癒薬はやまいこ様から貰って、角笛はウルベルト様から貰ったんだよね……。懐かしい。

 

「では、ご主人様からお渡しください。その方がよりご主人様に感謝が集まります」

「わかった。アルベドは周囲を警戒しておけ。来い、ナナミ」

「かしこまりました」

「かしこまりました」

 

 私とアルベドの声が重なる。

 私はご主人様の先を歩かせてもらい、姉妹に近づいた。姉妹は怖がっているので、程よい距離で立ち止まる。

 声は私からかけた。できるだけ優しさを含んで。

 

「さっきは驚かせてごめんなさい。もう大丈夫だよ。私たちは助けに来たんだよ」

「…………助けて、くれるんですか?」

「うん。だから、もう心配しないで?安心してね」

 

 地面に膝をついて、視線の高さをできるだけ合わせる。

 信じてくれたのか、姉妹の瞳に力が戻る。

 そこからはモモンガ様が姉妹と話された。アイテムの受け渡しはスムーズに行われる。アルベドが怒ることはなかった。

 

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