そして比島の状況は…
伊藤龍生 「実はですね…」
伊藤はこれまでの経緯を話し始めた。
私は入隊するとき、もともと海軍の軍人になるつもりでした。しかし、海軍には当時私が入れる航空隊がありませんでした。なのでしょうがなく陸軍に入隊を希望したんです。
坂井三郎 「なるほど。もとは海軍に入りたかったわけだな。」
伊藤龍生 「はい。そうなんです。」
伊藤は続けた。
陸軍に入隊してからは隼の搭乗員として戦っていました。しかし、43年頃からでしょうか。今乗っている隼はかなり旧式化が進んできました。上からは近いうちに三式戦闘機飛燕を送ると言っていましたが、私のいた部隊にはまだ隼と屠龍(とりゅう)しかありません。
なので今だに隼で戦っています。
赤松貞明 「まるで前の俺たちみたいだな。」
岩本徹三 「まあ、俺たちは練度の差でどうにかしてきたけどな。」
西澤広義 「七八型ができなかったら、私達も今だに五二型に乗っていたかもしれませんね。」
しかし、昨日上層部から連絡があったんです。”台南航空隊に異動しろ”と。陸軍なのになぜという疑問は持っていましたが、念願の海軍の航空隊に入れるチャンスでした。これは逃せないと思い、命令に従ったということです。
岩本徹三 「じゃあさっき俺が助けたときは、移動中だったのか。」
伊藤龍生 「はい。先程は本当にありがとうございました。」
岩本徹三 「いい。困ったときはお互い様だろ。」
坂井三郎 「そういえば、比島は今どういう状況になってる?」
坂井がそう西澤に聞いた。
西澤広義 「確か、大規模空襲作戦がされていると聞きました。」
赤松貞明 「大規模空襲か…」
赤松はそう呟いた。
比島 ルソン島
次々と爆発音が響き、輸送船団が炎上していく。その空を陸軍の重爆撃機”四式重爆撃機 飛龍”が何十機も飛行している。そして爆弾を投下していく。
米兵1 「クソッ!ジャップの航空戦力は壊滅したんじゃないのかよっ!」
米兵2 「そんなこと言う暇があったら早く撃ち落とせ!」
すると四式戦疾風(はやて)が低空飛行をしてきた。
米兵1 「伏せろっ!機銃掃射だ!!」
疾風の12.7粍(ミリ)機銃、20粍機銃が火を吹いた。
ドガガガガガガ!! ガガガガガガ!!
機銃弾が飛び交い、逃げ遅れた米兵たちを撃ち抜いていった。撃たれた米兵たちはパタパタと倒れていった。
司令部
司令官 「どうなっている!?なぜ迎撃機は出撃しない!」
参謀 「前日の敵艦載機の攻撃によって稼働できる機がないんです!」
作戦前日に、伊四百型潜水艦から発艦した特殊攻撃機”晴嵐”(せいらん)により多数の基地の航空機が破壊されていたのだ。
司令官 「空母はいつ支援にくるんだ!このままじゃ、ここもいずれ陥落するぞ!」
実は比島の約八割は帝国陸軍、海軍の活躍により多数の犠牲を払いながら奪還していたのだ。現在米軍の支配下に入っているのはこのルソン島だけである。
司令官 「このままではここも危ない!早く防空壕に…」
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
空から風切り音が聞こえてきた。米兵たちが見上げると、500キロ爆弾の雨が降ってきたのだ。
バァーン!! バァーン!! バァーン!! バァーン!!
次々と爆発音が響く。米軍の基地がまたひとつ撃破された瞬間だった。
フィリピン海
アメリカ海軍の空母機動部隊が航行している。ルソン島の援護に向かうためだ。旗艦は先程まで沖縄近海にいた空母タイコンデロガだ。
艦長 「もうすでにルソン以外の島は奪還されている。なにがなんでもルソンは奪われてはいけない。」
航海長 「艦長、これより艦載機の発艦用意を始めます。」
艦長 「分かった。なんとか陥落前まで間に合わせるのだ。」
艦長がそう言った。その時、
偵察員 「水上レーダーに反応!!敵艦隊です!!」
艦長 「なん、だと…。」
航海長 「どういうことだ!ここ近海に日本海軍がいるわけがない!仮にいたとしても奴らの艦隊は壊滅状態だ。まず艦載機の発艦を急げ!」
航海長がそう叫んだ。しかし
偵察員 「偵察機より入電!敵艦隊より多数の航空機が接近中!」
航海長 「ふざけるな。日本海軍に空母なんかいるわけがない!」
偵察員 「しっ、しかし…」
航海長 「しかしもヘチマもあるか!」
さらに声を上げる航海長に艦長は静かに言った。
艦長 「いや、航海長。奴らに空母はいる。確かにレーダーにはそのように写っている。」
航海長 「艦長…、ですが…」
艦長 「戦闘機の発艦を優先させよ。急ぐんだ。」
航海長 「…了解しました。」
10分後
遂に、アメリカ艦隊上空に攻撃隊が現れた。日本海軍の第一航空戦隊雷龍(らいりゅう)、信濃(しなの)の攻撃隊だ。
米軍機銃員 「撃ち方始め!!」
米軍機銃員たちが戦闘機の迎撃を逃れた攻撃隊に向けて機銃による迎撃を開始した。またたくまに上空に向かい弾幕が張り巡らされる。
彗星搭乗員 「すごい対空砲火だ。だが必ず爆弾は命中させる。死んでいった同胞の仇だっ!!」
カチャ… ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次々と彗星艦爆から爆弾が切り離された。まっすぐタイコンデロガに向けて落ちていく。
艦長 「取舵いっぱいぃぃ!!」
艦長の指示によりタイコンデロガは左に舵をとった。すぐ右側に先程の爆弾が落ちていった。爆弾が着弾し、水柱が上がる。
彗星搭乗員 「くそ!外したか…!」
すると、回頭した方向には魚雷が接近していた。
艦長 「!?」
流星搭乗員 「またせたな。あとは任せろ。」
次回 グアム島に向けて…
海軍航空隊とアメリカ空母タイコンデロガとの死闘。この闘いを制するのはどちらか…