蒼焔の機影 〜ハワイ攻略作戦編〜   作:蒼海 輪斗

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 グアム島に進撃する伊藤たち。その時伊藤は今までの記憶を振り返る。


第五話 伊藤の隼

 隼は私の愛機です。陸軍に入った当時からこの隼で戦線を戦い続けていました。隼はいい戦闘機でした。海軍の零戦や敵機に比べると、火力や速度は劣っていましたが、格闘戦になれば負ける気はしませんでした。

 

 戦争中期までは…

 

1944年 5月   南部越南(ベトナム)上空

 

伊藤龍生    「くっ、まずい!」

 

ガガガガガガ!! ガガガガガガ!!

 

 伊藤の目の前に写っている敵機は英国(イギリス)軍の戦闘機、”スピットファイア”だ。性能は隼を遥かに超えていた。

 

隼乗員     「うわあああああああああああああああああああ!!」

 

 また一機撃墜された。現在は数ではもちろん性能でも隼隊は劣勢に陥っていた。なんとか僚機だけでも助けようと伊藤は僚機に襲いかかっていくスピットファイアに向かっていった。スピットファイアは今にも僚機を落とそうとしている。

 

伊藤龍生    「させるか!!」

 

 伊藤は、敵機に照準を合わせると、機銃を撃った。

 

ガガガガガガ!!  ガガガガガガ!!

 

 スピットファイアに伊藤の放った機銃弾が撃ち込まれていく。そのままスピットファイアは火を吹いて落ちていった。

 

 ようやくスピットファイアを一機撃墜し、僚機を助けることができた。

 

 

 

 

 

 その日の、戦闘の帰りに伊藤は半分以下にまで減った自分たちの隊を見ながら呟いていた。

 

伊藤龍生    「はやく飛燕(ひえん)が隊に投入されれば、もっと楽に戦えるんだが…。」

 

 三式戦闘機 飛燕は二式戦闘機の後続として1943年頃に開発された戦闘機であり、日本では珍しい液冷エンジンを搭載した戦闘機である。しかし、そのためエンジントラブルが多く、伊藤たちの隊には投入がかなり遅れていた。

 

基地

 

 伊藤はようやく基地へと帰ってきた。疲労がどっと押し寄せてくる。

 

伊藤龍生    「今日は何人やられたんだろう…」

 

 いつも聞く、戦果及び被害発表。今回の我々の被害は半機が未帰還だった。一方で戦果は、敵機八機撃墜のみだった。

 

伊藤龍生    「やっぱり、隼では無理があるな…」

 

 伊藤は自身の乗機である隼をみながら呟いた。伊藤は隊の中でもなかなかの操縦技術を持っていたので、この激戦をなんとか生き延びていた。しかし、中には伊藤よりも優れた腕を持つ、ベテランですら未帰還だったこともある。

 

???     「小隊長。」

 

 急に伊藤に話しかけた人物がいた。

 

伊藤龍生    「小国。どうした?」

 

 伊藤は自身の小隊の隊員、小国雅史(おぐに まさし)に聞き返した。

 

小国雅史    「今日は助けていただきありがとうございました。」

 

 そうだ。あの時、伊藤が助けた僚機は小国だったのだ。小国は練習生時代からの伊藤の戦友であり同じ釜の飯を食った仲間である。

 

伊藤龍生    「そんなことない。仲間が死にそうになってほっとくやつがいるか。俺は無理だ。」

 

小国雅史    「はは、小隊長らしいですね。」

 

 小国は明るい性格の優しい男だった。妻はいないが両親と年の離れた妹がいた。この戦いが終わるまで死ねないなんていつも言っていた。

 

伊藤龍生    「小国、言っておくが絶対に死ぬなよ。」

 

小国雅史    「当たり前ですよ。今まで何回も小隊長から助けてもらったのですから。」

 

 小国は当然といったように答えた。

 

小国雅史    「しかし小隊長、自分になにか会ったときのために、これを持っていてくれませんか?」

 

 そう言って小国は伊藤になにかを手渡した。

 

伊藤龍生    「これは…」

 

 伊藤に手渡されたのは、銀色の懐中時計だった。

 

小国雅史    「親父が御守りにってくれたんです。中には手紙も入っています。」

 

 小国がそこまで言ったところに、

 

飛行隊長    「小国一等兵!」

 

 飛行隊長が小国のことを呼んだ。

 

小国雅史    「すみません、小隊長。行ってきます。」

 

 数機の隼が離陸体制にあった。どうやら緊急の出撃のようだ。

 

伊藤龍生    「小国…。気をつけろよ。」

 

 伊藤がそう言うと、小国は笑いながら返事をした。

 

小国雅史    「もちろんですよ。」

 

 そう言って、小国は愛機へと走っていった。その背中を伊藤はいつまでも見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

             伊藤と小国の会話はそれが最後だった。

 

 

 

 

 

 

 グアム島と向けて伊藤は、新しい乗機である零戦七八型の操縦席でそんなことを思い返していた。操縦席の計器類の中にあの懐中時計が下げられている。

 

伊藤龍生    「…小国。」

 

 伊藤はもういない戦友の名を呟く。あの日の夜、伊藤は同僚から小国の未帰還を伝えられていた。未帰還は撃墜、すなわち”死”を意味する。

 

伊藤龍生    「(小国はきっと自分の死期を悟っていたのだろうか…。だから俺にこの懐中時計を渡したのか…。)」

 

 何が何でも守ってやりたかった…。家族の待つ日本に帰してやりたかった。自らの命を賭けてでも守りたかった…。

 

 伊藤の頬に、涙がこぼれた。

 

 

 

 

               「小隊長、頑張ってくださいね。」

 

 

 一瞬、小国の声が聞こえた気がした。

 

西澤広義    「伊藤さん?どうしたんですか?」

 

 無線に入ってきた、西澤の声で伊藤は我に返った。

 

岩本徹三    「おいおい、ここは戦場だぞ。しっかりしてくれ。今まで散っていった仲間達のためにもアメ公に一矢報いるんだろ?」

 

 岩本の声も無線を通じて入ってきた。

 

赤松貞明    「敵討ちも果たせずに死ぬんじゃねえぞ。」

 

 赤松も伊藤に語りかける。

 

坂井三郎    「小国一等兵のためにも頑張らないとな。」

 

伊藤龍生    「!!」

 

 小国の名が出た時に思わず驚いた。

 

伊藤龍生    「坂井さん!なんで小国を…」

 

坂井三郎    「細かいことは気にするな。ほら、もうじきグアムだ。」

 

岩本徹三    「すでに先攻隊が先制攻撃を加えている。菅野たちが抑えてる間に攻略するぞ。」

 

伊藤龍生    「了解しました!」

 

 伊藤も覚悟が決まったようだ。

 

赤松貞明    「死ぬんじゃねえぞ。」

 

伊藤龍生    「その台詞は聞き飽きましたよ!」

 

 伊藤たちは、こうしてグアム島へ攻撃を開始したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

次回   F研究防衛戦




小国のために戦う伊藤。そしてグアム島の攻略を開始する。
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