レイ君の初任務から約二日が経過した。
魔力の使いすぎで私が助けに来た頃には既に意識は飛びかけで私が来て安心したのかそのままレイ君は倒れてしまった。
「団長、新人が心配なのは分かりますが流石に寝てください。いや、何時ものようにずっと寝るのもダメですけど、今の団長は寝なさすぎです」
「でも・・・・・」
私は今もベッドで横たわり、起きることの無いボロボロのレイ君の事を考える。
初めての任務である新人のレイ君に危険度が凄く高い任務を任せてしまったことや、もう少し私が早く来ていればレイ君もあんなにボロボロにならずに済んだのかもしれない。
「あの新人は団長が助けたから今生きているのです。正直な所、私はあれでも奇跡に近いと思っています。山の異変をキテンに居た魔法騎士がいち早く知らせてくれたから何とかなったに過ぎません」
横で私の仕事の見張りをしている団員が淡々て意見を述べていく。
そんなのは私も分かっている。
でも、もう少し他の選択があったんじゃないか?レイ君一人じゃなくてもう二人位一緒に行かせたら良かったんじゃないか?そう思ってしまう。
「それにあの新人も大したものですよ。多少の誤差はあるでしょうがあの山にあった魔獣の死体は約260匹。団長が生け捕りにした魔獣を合わせると相当な数です」
「・・・・・・珍しいね。君が異邦人を褒めるなんて」
「客観的に評価したまでです」
団員が動き出して私はその動きを目で追う。
「私は少し外しますが、居眠りをせずに仕事をして下さいね」
団員が部屋を出て部屋は私一人になる。
とりあえずレイ君が眠っている分、私がレイ君の報告書を仕上げなきゃ駄目だけど書いている内にやっぱりレイ君の事が心配になってくる。
この気持ちはなんだろう?
初めて出会ってまだ三日しか立っていないのにどうしようもなく不安にかられて、それと同時に今回の事件の首謀者に腸が煮えくり返る位憤りを覚えてしまっている。
「ちょっとだけなら、大丈夫だよね・・・・」
音を立てないように椅子から立ち上がって部屋を出る。
レイ君の部屋はずっと空いていた私の部屋の隣で案内した時は「お前の隣かよ・・・」って不服そうだったけど、次の日になれば何食わね顔でご飯を食べていたからそこまで文句はなかったんだと思う。
レイ君の部屋の扉を開けるとキー、と音がなって少し肩を震わせる。
「レイ君、起きてる?」
声をかけても返事は返って来ない。
聞こえるのはレイ君の寝息と「パチュリー・・・」と言う寝言。・・・・・・寝言?
「もしかしてレイ君、ただ寝てるだけ?」
それにしても今レイ君は寝言で何と言ったのだろうか?
パチュリーと言ったのだろか?
パチュリーは月火水木金土日の七曜の魔法を操る魔女で今から500年以上前の人間のはずだ。
レイ君が彼女の名前を知っている筈がない。
「君は一体何者なのかな・・・・・?」
涎をたらして「もう食べられない・・・・」と寝言で言っているレイ君を見ながら未だ謎に包まれているレイ君について考える。
魔力もほとんど無いのに強魔地帯の魔獣に匹敵する魔獣260匹を相手に善戦して、パチュリーを知っている。
「君のこと、もっとオネーサンに教えてほしいな・・・」
レイ君の頭に手を乗せて私はゆっくりと手を動かした。
翌日。
報告書も書き終えて、起こしたレイ君を私の部屋に呼び出した。
「さて、レイ君が仕事に復帰してすぐだけど、団長会議に参加して貰います!」
レイ君が起き上がってから私は何時もの調子でレイ君に面と向かって喋る。
あの後レイ君を起こして話を聞いてみたらどうやら寝てたのは一日だけで残りは只の昼寝だったらしい。
何時もの事だけどやっぱりレイ君はちゃらんぽらんで人の気も知らない自分勝手な子だ。
「団長会議?」
「この前の任務の報告を聞きたいんだって」
「報告書なら団長が出したでしょうに」
「当事者の君の報告が欲しいの!」
レイ君がため息をついて指を三本揃えて胸の前に出す。
これが騎士団の敬礼で、最初はレイ君も知らなかったようで異邦人の敬礼なのか五本の指を揃えて頭の上に出していた。
私がそれを見て騎士団の敬礼を教えてあげたのだ。
「それで、その団長会議って何時あるんです?」
「今日!」
「いきなり過ぎだろ!」
それから数十分、レイ君と一緒に王都をクローバー城に向かって歩いていた。
箒に乗って向かえば早いんだろうけど、まだ時間はあるしレイ君は魔力がほとんど無いから箒で飛べない。
それに、レイ君と一緒にゆっくり過ごしていたかった。
自分でも最近はおかしいと思っている。
何時もはずっと寝てるのにレイ君が側にいるとずっと起きていられる。
不思議なこともあるものだなと思いながら私も少し心を踊らせながらレイ君の隣を歩く。
「おいあれ!」
「珊瑚の孔雀団団長、ドロシー・アンズワースよ!」
「隣の奴は誰だ?」
「ローブ着てるし珊瑚の孔雀の団員じゃない?」
「何か仲良さそうだな」
「付き合ってるのか?・・・・つか何食べてるの?」
周りの言葉を聞きながらさっき買ってあげたムラサキヘビの蒲焼きを食べながら歩いているレイ君を見つめる。
ムラサキヘビを売っていたお婆ちゃんがそこら辺で拾ったムラサキヘビって言ってたけどお腹壊さないのかな?
「美味しい?」
「まぁまぁだな。上手くもないが不味くもない。てかここの人間は高そうな服着てる奴らばっかだな」
「王貴界だからね」
「王貴界?なんだそれ?」
レイ君はムラサキヘビの蒲焼きを全部食べきって串を咥えながら私を見る。
異邦人と言っても流石に何も知らなさすぎる気がする。
「クローバー王国は王貴界、平界、恵外界三つに分けられるんだけど、ここは王貴界って言う王族と貴族が場所なんだよ」
「へぇ・・・・・」
レイ君が周りの貴族の人達を見る。
レイ君の事をゴミを見るような目でレイ君を見る人もいる。
「あの服装、下民ではないか。何故この王貴界にいる?」
「魔法騎士にもズルして入ったんじゃないか?」
辺りがざわめき始めているが、レイ君は呑気にも辺りを物珍しそうにキラキラした目で見渡している。
「団長団長!王貴界って楽しい所ッスね!」
「・・・・・・そうだね」
「あ!あっちに面白そうなのありますよ!」
レイ君が私の手を掴んで走り出す。
ちょっと嬉しいけど少し手が痛い。
レイ君を見ると顔は見えないけど明らかに怒っている感じかする。
聞こえてたんだ・・・・。
聞こえていて、それでもレイ君は気付かない振りをしているんだ。
「・・・・・・ごめんね。私のせいで」
「あ?何言っちゃってんの?レイさん只この街を楽しく観光してるだけだっつうの」
そう言ってレイ君が私から手を離すとさっきまでフラフラと寄り道をしながら歩いていた筈のレイ君はクローバー城に向かってまっすぐと歩き始めた。
「ウォォォォォォォォォォォ!!!!!」
クローバー城のトイレにある大便所の中で唸っている男がいた。
そう、この俺、風切零だ。
「大丈夫と思ったのに!ムラサキヘビの蒲焼きとか、八ツ目鰻の蒲焼きと一緒だと思ったのに!」
絶賛下痢中の俺は会議前に籠り腹に貯まった毒素を排出するためにトイレに閉じ籠り気張ってようやく排出が完了したと思った矢先にまさかの事態。
トイレの紙がすべて使い果たされていたのだ。
「何この状況!城だろ?城なんだろ!?トイレの紙の補充くらいしといてくれよ!」
毒素のすべてを出しきって解放感に浸ってる中のこれ。
天国から地獄に叩き落とされるとはまさにこの事だと俺は思いながらどうやってトイレから出ようかを考える。
「おい!うるせぇぞ!」
「!?誰か居るのか!?頼む!紙を!紙をくれ!」
「・・・・・・紙も仏もねぇよ」
「あ!?今紙ないっつったか!?」
何てこった!じゃあここに紙は無いのか!?
「いや、まだだ!大便所はもう1個ある!最後の希望だ!」
俺はケツを出しながら声が聞こえた方と逆の壁を上る。
一番上まで上り隣のトイレの中を見る。
「あ、君がレイ君だね!ドロシーの報告だと珍しい魔法を使うらしいね!ぜひボクにその魔法を見せてくれ!」
そこにいたのはズボンを脱いで座っていた派手な格好をしているおじさんだった。
俺はゆっくりと頭を下げて壁を下りて便器に座る。
「何か子供みたいに目を輝かせたおっさんが居たんだけど!?」
「あ?なんだそれ?」
「やぁ!私は一魔法騎士なのだがトイレの紙が無くて困っていてね!」
終わった・・・・・。
ここにあるすべてのトイレには今、紙が無い。
「誰か俺に、紙をくれェェェェェェェェェェ!!!!!」