―――それはホルファート学園、夏休み初日の出来事。
以前より話題となっていた、ラーファン子爵家令嬢マリエを筆頭とする王太子陣営と、レッドグレイブ侯爵家令嬢アンジェリカを筆頭とするリオン陣営による決闘騒ぎ。
生徒達の中で莫大な金額が動く賭け事まで行われる中で行われた最初の一戦。
その結果は―――
「せ、戦闘不能……。しょ……勝者―――バルトファルトォォッ!!」
闘技場に、審判の困惑の色の混じった声が静かに響く。
それもそのはず、今の状況は、その場に居るほぼ全ての生徒、及び教師の予想とは違っていたからだ。
片や、広大な土地を有するフィールド辺境伯の跡取りであるブラッド・フォウ・フィールド。
片や、ぽっと出田舎貴族のリオン・フォウ・バルトファルト。
王国最新式の鎧と数世代前の旧式にしか見えないロストアイテム。
明らかに勝敗が分かっていたような戦いの結末は、互いに拮抗して白熱するどころか、開始早々リオンがブラッドを一発KOという、余りにも呆気ない物。
数千の生徒達はただ、呆然とするしか無かった。
「―――ま……分かっちゃいたけど、歓迎されてねぇよなぁ」
周囲を見渡しながら彼、リオン・フォウ・バルトファルトは気だるげに声を漏らす。
観客席は静まり返り、彼に拍手を送った一部の人物は、生徒ではオリヴィアとアンジェリカ、その他数人の男子生徒。
そしてアロガンツのカメラには、彼が『師匠』と崇める相手、教師であるルーカスが背筋を伸ばし堂々と拍手をしている姿が映る。
……そんな彼の紳士っぷりに感動を覚えながらも、彼の乗るアロガンツは悠然と闘技場の中心に佇む。
中央で立って待っていると、何やら殿下……ユリウスたちの様子がおかしい事に気付き、アロガンツのマイクが殿下たちの声を拾う。
『……俺が行く。ブラッドの軟弱野郎は確かに弱いが、アレは確かに脅威だ。お前たちじゃ荷が重い』
『―――ほう?舐められたものだな。私がお前に負けるというのか?』
前を見るとグレッグとクリスが言い争いをしており、ユリウスとジルクは無言でアロガンツを見ていた。
『バルトファルトの奴と……
『おそらくロストアイテムでしょう。ですが、ロストアイテムの中にここまで強い鎧が眠っているなど聞いたことがありません。見た目から言えばパワータイプのようですが』
闘技場の雰囲気は番狂わせが起きたという事でざわついていた。
彼、リオンが負ける――ユリウス殿下たちの勝利を信じて疑わない生徒たちが沢山、というかほぼ全員がそうなのだ。
オマケに今回の勝敗への賭け事で大金を賭けた者も多い。
「ま、まあ、これくらいして貰わないと見に来た意味がないぜ……」
「で、でも次で終わりよね……?」
そんな生徒達の安心しきった風な声をアロガンツのマイクが拾う。
だが否、否である。
そもそもリオン自身、自分一人でも十分に勝ちを確信していたものであるし、万が一、億が一負けたとしても、自分だけではなく保険として
彼の
『今回の戦闘データから槍での戦闘方法を修正しました』
「ご苦労さん。おっと、次はグレッグか」
ルクシオンの報告を聞きつつ、中央に登ってきた鎧を見据えるリオン。
グレッグ・フォウ・セバーグ。
リオンの前世から来る知識では、彼はゲーム内の攻略対象の1人で、冒険者としての実績を持つ伯爵家の跡取り。
槍を得手としており、自身の能力に絶大な自信をもっているが、そのせいか鎧などの装備に拘らず、何故か旧式の量産品(ちなみに他の4人は特注品)を使っている。
その結果、実戦で実力を発揮しきれない脳筋である。
グレッグがリオンに槍を向ける。
『バルトファルトって言ったな……その名前は覚えておいてやるぜ。だが、調子に乗るのもここまでだ。ロストアイテムで強力な鎧を手に入れたみたいだが、しょせんは鎧の力だ。お前の力じゃない』
痛い程の正論。
彼には反論の余地もない。
「―――ま、残念ながらお前の相手は俺じゃあないんだがね」
『……はぁ?まさかその後ろの野郎か?鎧も無しに?』
このまま戦ったとしても勝てるだろう。
圧倒的戦力差から、それを予期していたリオンだったが、今回彼は戦わない。
何故か?
それは当然、彼以外にアンジェリカ陣営の代表者が居るからである。
尤も、その実態は生徒達からのヘイトを分散するためにリオンが無理矢理引き摺ってきたという、何とも言えない理由だったのだが。
「ああその通りだとも。さぁ喜べ、出番だぞ……『エルブレイブ子爵家のヴァン』君?」
「……何で俺がこんな茶番に付き合わなきゃならん」
そう闘技場の壁に寄り掛かりながら顔を上げる、長身痩躯で猫背の男は、これから決闘に臨むとは到底思えない格好だった。
テンガロンハットと黒のタキシードに身を包み、黒のタキシードの下は学園の制服である白シャツのまま。
辺りに彼のものと思わしき鎧はなく、腰には一本の蛮刀が差してあり、その風貌はとても貴族の人間とは思えなかった。
その様子を見た生徒たちがざわめきの声を上げる。
「アイツ、バルトファルトの冷やかしじゃなかったのか……って事はアイツが噂の……?」
「もう一人の決闘参加者って奴か……。確か、エルブレイブ子爵家……だったか?」
「よりによってあんなヤツの肩を持って殿下達に喧嘩売るとか……終わったな」
「私、この前アイツが食堂で料理に凄い量の調味料掛けて食べてるの見たんだけど……」
「え、何それ………」
名前が出ただけで散々な言われようである。
尤も、家系がヤベーと思われていることも、調味料の件も一応事実なので彼も言い返せないのだが。
ましてや本来、鎧を扱うにはそれ専用の服を着る必用があるのだが、彼にはソレも見受けられない。
ソレこそがエルブレイブ子爵家の、『ヴァン・フォウ・エルブレイブ』と言う男であった。
「……さて、あの鎧のお手並み拝見といきますか」
闘技場の隅に立つアロガンツの操縦席で、リオンは親指と人差し指を広げ、顎を撫でる。
『宜しいのですか、マスター。彼を引きずり出す理由は無かった筈ですが』
「良いんだよ。順番的に俺がグレッグとジルクを殴れないのは残念だが、アイツもまあまあ乗り気だったしな。それにお前も興味あるんじゃないか?」
『……否定はしません。彼にも旧人類の遺伝子が多少含まれているのは確認済みですし、マスターの妄言が仮に正しいのならば、彼の持つ鎧を持ち上げる理由も分かります』
「そりゃあな。まさかよりによって、こんなクソゲー世界で―――
―――彼、リオン・フォウ・バルトファルトは、日本人としての前世を持つ転生者である。
課金アイテムとして入手した宇宙船ルクシオンを、転生後のこの世界でも苦難の末入手し、そのお陰で彼が散々敬遠している、狂った貴族社会に足を踏み入れることになった男。
そして赤い一つ目の球体端末という姿で活動し、リオンの側に付いているルクシオンが言うように、闘技場に立つヴァンも、リオンと同じ世界を生きる、前世を持つ存在であった。
アロガンツと入れ替わり、生身で闘技場に立つヴァンを見て、グレッグは呆れの声を上げる。
『エルブレイブ、と言ったな。見た感じ鎧がないようだが、どうやってオレと戦う?バルトファルトのように、ご自慢のロストアイテムでも使うか?』
「……まあ、そうカッカすんなよ」
『―――舐めてるのか』
「あ、すいません……」
『何なんだお前……』
掴みどころの無い奴だと、グレッグは思った。
他人を散々コケにするあのバルトファルトよりは遥かにマシだとは感じるが、目の前の男は何を考えているかが全く分からない。
はっきり言って不気味だ。
……だが、ソレもこの瞬間までであった。
「―――まあ、やれるだけやりますか」
帽子のリングに指を通し、180°回転させる。
そして腰に差してあった蛮刀を引き抜き、流体である特殊金属で構成されている蛮刀は、空気中で不規則に揺らめいた。
空気が変わる。
その所作だけで辺りには一瞬の静寂が訪れ、会場全体がヴァンの動きに見入っていた。
そしてヴァンの太刀の刀身に電流が流れ九つの穴が空き、そのまま彼は太刀を振るい、虚空をVの字に切り払った。
7
V
―――
サテライトベース。
本来であればこの世界には存在しない代物。
その衛星は常に搭乗者が持つ専用武器の位置座標を捕捉・追尾しており、専用武器の
つまり―――
『 boot up A−OK 』
『 chester vitals A−OK 』
『 LZ−C A−OK 』
『ーーー ORIGINAL SEVEN ーーー』
『ー DANN of THURSDAY ー』
『 execution 』
―――その異変を、ルクシオンは真っ先に感知した。
空の彼方よりやって来る、ヘブライ語で『神は裁き』の名を冠する鎧の存在を。
『……!?宇宙空間より、大型物体の射出を確認。大気圏を突破、現在高速で飛来中。到着まで……5、4、3、2、1。』
「おお、遂にか!」
……大空より飛来した大太刀は、闘技場へと飛来した。
アロガンツと同程度の大きさを持つその剣が地面に激突した事により、大量の砂埃が辺りに舞う。
「な、何だ今のは……!?」
「ええと、空から巨大な剣が降ってきました……」
「何だソレは!?……まさか、アレが奴の持つロストアイテムなのか……?」
鎧ほどの大きさの剣が、空の彼方より飛来する。
傍から見れば意味不明な状況に、アンジェリカ達を含む生徒達は困惑の声を上げる。
しかし、驚くのはまだ速い。
砂埃が開けた後、彼らの目に移ったのは、白い外装と藍色のボディを持つ、王国の鎧とは全くデザインの異なる
ヴァンは片膝をついて蛮刀をヨロイの床に突き刺し、蛮刀を握る掌は手甲により覆われる。
そして一言、その鎧を動かす呪文を唱えた。
「ウェイクアップ……
―――それは、剣だった。
アロガンツと同程度の全高を持ちながら、装備は右腕に握られた大太刀一本のみで、他に武装は見当たらない。
背部にマウントされた刀身と合わせて、その鎧はまるで一振りの剣を彷彿とさせる。
その異様なフォルムに、学園の生徒達はざわめきを上げる。
「何だアレ……鎧、なのか……?」
「い、いや―――随分と凝った演出だな!グレッグの敵ではない……筈だよな?」
「武器もあの古臭い剣一本でしょ?いくらロストアイテムって言っても……」
会場が不安と動揺に揺れる。
リオンという前例をつい先程見てしまったが故か、王国製のものよりも一回り大きいその鎧が、彼等には脅威としか思えなかった。
今の動作を演出だと思いたい様だが、もし彼にグレッグが敗北した場合、
そんな不安が、その場を支配していた。
『……面白い。剣一本でこの俺に挑むか!だったら正面からぶっ潰してやるよ!!』
その声は自身に満ちていた。
自分が負けるなどあり得ないと言った風に。
実際、次代の剣聖として期待されているクリスが身内に居る以上、その慢心は仕方ないのかも知れないが。
そして審判が試合開始を告げる。
『では両者―――始め!!』
『何でなんでなんで!?どうして!?ドウシテ!?………もしかしてこの世界、『アルトリーベ』原作じゃないの!?―――なんでバリバリの別作品キャラが居るのよぉぉぉ!?』
彼女、マリエ・フォウ・ラーファンは動揺していた。
というかかなりパニクっていた。
リオン達には知る由もないが、彼女もリオン達と同じ世界で育った前世を持つ転生者であり、乙女ゲームの知識で原作主人公のイベントを先回りして実行し、ゲームでは序盤にもかわらず攻略対象の
そうして原作通りの展開を進めていたらこの始末である。
本来名すら登場しないモブであるリオンの台頭。
登場云々どころか、最早なんでお前いんの状態のヴァン。
バタフライエフェクト此処に極まれりである。
そうして困惑しているのを、グレッグの心配をしているのではと勘違いしたユリウスが、マリエに柔らかな表情で声をかける。
「グレッグの心配をしているのか?大丈夫、あいつの実力は本物だ。そんな簡単に負けやしないさ」
『……いやいや無理に決まってるでしょ!?あのモブ男は兎も角、アレはゴリゴリの戦闘アニメの出身よ!?ボコられて終わりに決まってるでしょ!』
悲しいことに、マリエの予想は当たっていた。
槍を振るい、果敢に攻めるグレッグだが、斬っても、突いても、その全ての攻撃をヴァンの蛮刀にいなされている。
それも純粋な技量でだ。
『くっ……強え……』
「―――何だ、こんなもんか」
『何だと……!』
ヴァンの一言が気に触ったのか、更に激しく攻めたてるグレッグ。
そしてそれをヴァンは冷静に見切り続ける。
「うわぁ……まだ初期だからグレッグのヤツ素の実力でも押し負けてやんの……ザマァ」
『―――良かったですね、マスター。今の戦闘データから推察するに、マスターとヴァンさんが戦ってマスターが勝利する確率は34.246%です。アロガンツでコレとは情けないですね』
「やかましいわ。てかどうやったらアレに勝てるんだよ、勝てるビジョン浮かばねぇよ」
『ご安心を、私が操作すれば100%です』
「いや俺の勝ち筋ないんかい」
そんな会話がアロガンツの中で行われていたとは露知らず、二人の戦いももうすぐ決着が着こうとしていた。
「せりゃあ!」
『なっ……腕が……』
ヴァンの振るった一撃が、グレッグの鎧の右腕を刈り取る。
直ぐ様槍を左腕で握り直して、反撃を行おうとするが、今度は左腕の肘から先を切断され、周囲からは小さく悲鳴が漏れる。
「……ほら、もうお前の負けだ」
『―――ちくしょうが!!俺はまだやれる!やれるんだぁぁぁ!!』
そう叫んで破れかぶれのタックルを仕掛けてくるグレッグに対して、ヴァンは静かに蛮刀を構え直した。
そして正面からグレッグに突撃し、すれ違いざまに―――
「チェーストォォォ!!」
『なっ……!?』
―――グレッグの鎧の、両足を切り落とした。
ダルマとなった鎧は、そのまま勢いよく地面へと倒れる。
試合の続行は不可能だろう。
よって……
『しょ、勝者、エルブレイブ―――!!』
その宣言に、会場が沸き立つことは無かった。
◆◇◆
◆◇◆◇◆
―――夏休み明け後、学園の食堂にて。
「……いやあ、退学覚悟で喧嘩を売ったのに、よりによって出世する羽目になるとは……」
「別にいいじゃないか、国からすれば二人の新しい騎士様の誕生だ」
「そうですよ!リオンさんの活躍が認められたってことじゃないですか!!」
「でも昇格は国王様の嫌がらせって可能性あるじゃん?」
そう愚痴を零しながら学食のデザートを頬張るリオン。
不敬極まりないが、何とも言えないので両隣に座っているオリヴィアとアンジェリカも苦笑するしか無かった。
ふとそのテーブルに、皿を持った一人の男が訪れる。
決闘時のタキシード姿ではなく、普通の学生服だ。
「相席いいか?」
「ヴァンか、いいぞ――――――って何だそのアホみたいな料理は。何掛けた?」
「調味料を全部」
「お前バカだろ……」
彼……ヴァンの持つ皿は、大量の調味料が掛けてあった。
マヨネーズ、ケチャップetc……もう元の料理が何なのかさえも分からない。
「ダメですよヴァンさん、これは体に悪いですし、調味料が勿体ないです!」
「大丈夫だ、偶にしかやらないから……」
「偶にやるのか……」
そう軽い会話を挟みつつ、ヴァンは只、無言で料理を食べ進める。
その光景を見て、もしかして本当に美味いのか……?と疑問を持った三人は、その光景を困惑気味に見守っていた。
そう、これはガン×ソードのヴァン(偽)に転生した男が、ヴァンらしく生きていく物語―――
―――ではなく、
「―――不味い」
「やっぱバカだわお前」
……ヴァン(偽)が、取り敢えずその場のノリで生きて行くだけの物語である。
元がゲームである以上、コラボ出演ってことでデータがゲーム内にあったってことにすれば何でも出せるの強いよね。
【ヴァン・フォウ・エルブレイブ】:主人公。リオン達と同じ世界(日本)から転生したらヴァンになってた。
RPしてるように見えるが素である。
だから調味料ぶっかけも偶にしかしないし、オリジナル笑顔を披露する機会も多分殆ど無い。
ちなみにアルトリーベ&その他の原作知識は皆無。
エルブレイブ子爵家:王国の建国期に、無駄な合体システムを持つロストアイテム(鎧)を用いてキチガイじみた活躍をした。
祖先は正義を体現した様な存在で、後ろめたいことをしている貴族や悪党を片っ端からボンバディーロしていた為、今も割とマジで大半の腐った貴族からヤベェ一族扱いされている。
なので結果的に悪質な女性避けとなり、大体の男性が比較的良識ある女性と結婚出来る好循環が生まれている。
やったぜ。
ちなみにそのロストアイテムは数十年前に封印されたとか何とか。
評価バーが赤かったら連載します。