乙女ゲーの世界で『ウェイクアップ』と叫んだ男   作:R1zA

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ep.Ⅸ「調味料モンスター」

 

 

 今回潜るこのダンジョンは、一言で言い表すなら「廃鉱」という感じだ。

 通路には等間隔で木の柱や梁が用意されており、誰かが作ったような印象を受けさせる。

 

 

 時折、壁から出土する鉱石が出てくるのだが、それがダンジョンの宝でもあった。

 宝箱も時間が経てばいつの間にか置かれているようだが、その原因は究明されていない。

 究明されればそれはそれで怖い気もするが。

 

 

「見てください、見つけちゃいました」

「おめでとう。こいつで百ディアは確実だな」

 

 

 彼女の手に抱えられているのは、たった今そこで採掘した鉄のような何か。

 しっかり精錬されて出てくるお陰で、単体の価値も効率も結構なものだ。

 オリヴィアから鉱石を受け取ったリオンは、鉱石を背中の荷物入れへと放り込む。

 

 

 オリヴィアが周囲を見回す。

 何かダンジョンに思う所があるのか少し気になった俺は、何気なしに問を投げる。

 

 

「どうした?何かあったか?」

「ああいえ、あの……どうしてダンジョンにはこうした現象が起きるのかな、って。宝箱もあると聞きますし、なんだか変ですよね。誰かが用意しているみたいです」

 

 

 思っていたよりもかなり深淵に迫ろうとしていた質問に、俺は手を顔に当てて途方に暮れた。

 ……そういうのは気にしたら負けだと思うの。

 今までの国の重要な財源でもあるし、そこに疑問を持つあたりが他人とは隔絶している証だろう。

 

 

 実際この事柄に対する答えを持っているだろうリオンも、話題を逸らそうと強引に進もうとする。

 

 

「ソウダネ、不思議だねー。よし、先に進もう」

「ま、待ってくださいよ!リオンさん達は気にならないんですか?」

 

 

 そう言われてもなー。

 こういうメタ的な疑問って、大概知ってしまったら冷めるパターンだしなあ。

 だって嫌でしょ。宝箱はダンジョンの主が毎日手作業で準備して設置してますとか言われたら。

 

 

「俺は全く」

「俺は……いや、寧ろ知りたくない」

 

 ダンジョンの中を進みながらも、俺達が両者共に否定的な答えを返せば、むっとしてしょげるオリヴィア。

 

「リオンさんとヴァンさんが冷たい」

 

 ……最初に比べて随分と打ち解けたな。

 リオンもなんやかんや世話を焼いてるし、家柄を考慮しなければ結婚出来たほどにはあの二人の相性が良いのかもしれないな。

 

「落ち込んでいないでさっさと――おっと、止まった方が良いか」

「ん?―――ああ、そういう事か」

 

 

 成りあがり(リオン)成り上がり…?()特待生(オリヴィア)

 ただでさえ普段から目の敵にされている他の奴らと組むことは無く、こうして独立して先行させられているが、お陰でなんの遠慮もなく動き回れる。

 

 俺と同じく通路の先から気配を感じたリオンが、横に居たオリヴィアを後ろに下げ、後ろ腰に下げた剣……直刀の日本刀もどきを取り出す。

 ほぼ同時に俺も、腰に巻き付けていた蛮刀を抜刀した。

 

 

「あれが……モンスター」

 

 

 その声は震えていた。

 緊張感と恐怖からか、彼女は小さく身震いする。

 俺達の視線の先に居たのはジャイアントアント。体長七十センチから八十センチくらいの巨大蟻だ。

 初級のモンスターといえども大きな顎の力はかなりのもので、噛みつかれるとそれはもう大変なことになる。

 

 

「あーあ、こういう通路だとライフルも使えないから面倒なんだよな」

「……なんかやけに多いな。十体も出るなんて珍しい」

 

 

 現れた数は十。

 左右から五匹づつ湧き出たソレは、俺達を視界に入れるなり一目散に襲いかかってくる。

 まず最初に一直線に向かってきた一匹目の側面に最低限の動きで回り込み、頭と胴体の間を両断した。

 風を切った様な音を立てて断頭されたジャイアントアントは、黒い煙を出して消えていくが、気にせず次の相手に視線を向ける。

 

 続けて二匹目と三匹目の蟻が襲い掛かってくる。

 

 

「キシャアァァ―――!?」

「ほら、受け取れ――ッ!」

 

 

 鞭のように伸ばした蛮刀で二体目の蟻の首近くを締め上げ、三体目の蟻へと締め上げた蟻の顎をぶつける。

 そうして二匹が雁字搦めになった状態を作って蛮刀を元に戻す際、伸ばしていた蛮刀で首を締めるように最初の蟻の首を刎ね、続けざまに仲間の頑丈な顎をぶつけられてぐったりしていた方の蟻も両断した。

 

 直後、背後に総毛立つ様な二つの気配を感じる。

 

 

「―――!?上か……ッッ!!」

 

 

 咄嗟に視線を上げた先には、ばねのように空中へと跳び上った二匹のジャイアントアントの姿が。

 そのまま飛び降りざまに顎で噛みつく心積もりのようだったが―――空中では逃げ場は無い。

 

 

 即座に腰を入れて居合の構えをとり、右手に握られた蛮刀で―――真一文字に一閃。

 疾風のごとき速さで放ったソレは手元に『切った』という手応えさえ感じさせずに、二匹のジャイアントアントの首を一瞬で切り裂いた。

 ……やっぱりこの剣、凄い切れ味だな。

 

 

「……一応、これで終わりか」

 

 やっぱり何度も戦ってると慣れてくるものだな。

 リオンの方へと視線を向けると、丁度同じく五匹のジャイアントアントを狩り尽くしている所だった。

 蛮刀を腰に巻き付けて納刀すると、先程まで後ろに居たオリヴィアが近づいてくる。

 

「お二人共、強かったんですね。あんなに怖そうなモンスターを次々に倒しちゃうなんて」

「弱点とか知っているからね。オリヴィアさんも慣れれば簡単に倒せるよ」

「そうだな。大体百匹倒した辺りからはどこを切ればいいかとか分かるようになるぞ」

 

 それを聞き「えぇ……」と困ったような表情をするオリヴィアを尻目に、先へ進もうとリオンが提案したことから、再びダンジョンの奥へと歩き出す。

 

「リオンさん達は頼もしいですね」

「この辺は余裕だからね。それに雑魚しか出てこないし。あ、トラップには注意してね。よーし、サクサク行こうか!」

 

 

 このとき、本能的に勘のようなものが不穏なサインを送って来ていた。

 それで反射的に抜刀した次の瞬間、その不穏なサインは的中する。

 

「そういう事ではない気が―――」

 

 唯一反応が遅れていたオリヴィアをリオンが後ろへと突き飛ばし、直ぐ様両腕でクロスガードの体勢をとる。

 そして間髪開けずに、懐に入った俺が下から蛮刀を振り上げてリオンの腕へと噛み付いた影――モンスターを切り裂いた。

 正体は猿のようなモンスターだった。

 

「悪い、助かった。くそ、油断したな……」

 

 モンスターは黒い煙となり消滅したが、胴体を切り裂いてもしぶとく噛み付いていたので、歯はリオンの身につけていた手甲を破って肉に届き、腕からはじわりと鮮血が垂れていた。

 傷は比較的浅かったが、リオンに突き飛ばされて座り込んでいたオリヴィアが、腕の傷を見るやいなや血相を変えて飛び上がるように立ち上がる。

 

「ご、ごめんなさい。私を庇ったから――」

「俺も油断したから別にいいよ。これぐらいの怪我は大丈夫だから……」

「駄目です!直ぐに治療しますから……」

 

 血で一部が滲んだリオンの手甲を外したオリヴィアは、傷口へ手をかざした。

 一体何をと思った瞬間、彼女の手のひらが淡く白の光を放ち、その光に照らされた傷がどんどん治っていく。

 

 これはもしや―――

 

 

「……治療魔法か」

 

 

 治療魔法はその性質から、才能と技術が高水準で求められるが故に、他の魔法よりも使い手が極端に少ない。

 彼女のようにすぐ傷口が消えるほど完璧な治癒というのは、学生の域を越え、王国の治癒師のなかでも十指に入るほどの腕前だろう。

 

 

「良かった、傷が塞がりました」

「あ、あぁ、ありがとう」

 

 学生としてはかなり珍しい治療魔法に、その圧巻の腕前を直で感じたリオンも僅かにたじろいでいる。

 

 

「……私、昔から()()が得意だったんですよ。旅をしていた学者の先生に色々と教えて頂いてからは、独学で勉強していました」

「……凄いな」

「そうだな……」

 

 独学でこの領域まで来れるとは、自分が言うのも何だが規格外にも程がある。

 平民でありながら特待生として招かれたのも、これを見れば皆納得するだろう。

 

 

「お役に立てて良かったです」

 

 

 そう言って微笑む彼女を見て、何故リオンがそこまで彼女を重要視しているのかが、少しだけ分かった気がした。

 

 

 

◇◆◇

 

 

 その後は、設置されたトラップの位置を把握していたリオン主導のもと、無事に目的地のダンジョン地下三階へと辿り着くことが出来た。

 この面子ならもう少し行けそうな気もしたが、俺と同じ考えの生徒が独断専行をしないよう見張り役の教師が待っており、到着した俺達はすぐ近くの待機部屋で待つことになる。

 

 

「流石は王都のダンジョンだ。先行させられた時は、貴族のボンボン共はくたばれとか思ったけど大量に金属が手に入ったぞ」

「改めて見ると結構な量集めてたな。換金したらだいたいどのくらいだ?」

「えーと、これとこれで二百ディア……これは二百五十ディアはあるはずだから―――山分けしても一人三百ディアはあるだろうな。思ってたよりも魔石が見つかったし」

 

 

 パンパンに膨らんだリオンの荷物入れには、精錬された鉄や銅、魔石などが敷き詰められており、かなり重そうだ。

 でも実際かなり集める事が出来たんじゃないかと思う。

 一人で潜るときは荷物の持てる量も限られてくるから、複数人で潜ると効率が桁違いだ。

 

 

 オリヴィアがリオンの荷物入れに入っていた魔石の一つを手に取り、興味ありげに見つめている。

 

「宝石みたいですね。綺麗です。いったい何に使うんでしょうか?」

「――ん?あぁ、魔石? エネルギー資源だね。後は金属を鍛える時に釜に放り込むと良い感じに鍛えられるらしいよ。詳しくは知らないけどなんか凄い石だね。こっちは高値で売れるからどうでも良いけど」

 

 

 いやなんか凄い石て。

 でも実際認識としては間違ってないし俺も似たような考えだったから人のことは言えないが。

 船や鎧の駆動系を動かすときにも重宝するし、魔石の経済的な需要はかなり高い。

 

 でも今回の成果だけでは満足行かないのか、リオンが歯痒そうにワシャワシャと頭を掻く。

 

 

「これだけあれば二人で分けても茶会一回分に……ならないな。くそっ、もっと稼がないと」

「なら今度一緒に行くか。実力的に今日より割と深くまで潜れるから大分稼げる筈だぞ」

「いいなそれ、乗った。また新しい茶葉の補充をしなきゃいけない所だったんだ」

 

 

 今度二人でダンジョンに行くことが決まった訳だが、リオンも随分お茶の道に染まってきたもので。

 多分所持金の六割近くを使ってるんじゃないか、と思うまでに茶器の揃え方などの熱量が他とは違う。

 

 

「それにしても、どうして魔石が産出するんでしょう? まだ金属は埋まっているから納得するんですけど、魔石が出てくる鉱山なんてありませんし、出てくるのはダンジョンだけと聞いていますから気になりますね」

「あー、アレだよ。アレ。モンスターを倒すと魔力が放出されて土に溜まっていくの。それが魔石になるんだって」

「そうなんですか? 初めて聞いたんですけど………えっと、教科書にはまだ解明されていないって書いていましたよ」

 

 

 視線を鉱石に向けたまま雑に返したリオンに対して、そう言って疑問符を浮かべるオリヴィア。

 今自分がどれほど重要な事を口にしたのか気づいていないリオンは、彼女が感じた疑問を意にも介さずこう続ける。

 

 

「俺を信じろ。どこかで読んだ気がするから間違っていないはずだ。アレ? そうなると、宝箱も魔力が溜まって形になった物なのかな? 魔法というか、魔力って便利だよね」

 

 

 そう言って再び眉間に皺を寄せた真剣な顔で何かを考え込むリオンを見て、「あれ……?」といまいち納得行かなそうな表情で首を傾げるオリヴィアであった。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 男子寮のリオンの部屋。

 そこに招かれた俺は、同じく招かれたダニエルとレイモンドと一緒に飲み物やらお菓子を食べて軽い談笑をしていた。

 食べているのは茶会等の菓子ではなく、フライドポテトの様な手頃に食べられるスナック菓子に近いものだ。 

 

 

「聞いたか? 金持ち連中、もう二人は結婚確定だって。しかも相手は俺たちにも優しかったミリーとジェシカだ。……羨ましすぎるだろ。狙ってたのに」

「僕たちの実家よりも良い条件があればそっちに行くのは当たり前さ。最初から無理だったんだ……そう、ミリーが幸せなら僕はそれでいい」

 

 

 レイモンドが比較的平静を装っていたのに対し、ダニエルは見てわかるほど露骨に項垂れていた。

 今日集まった目的も、落ち込んでいた二人を慰めようというよが主な目的だ。

 そう、だから言えない。

 

(―――風の噂で、その二人とリオンが割と脈アリだったとかマジで口が裂けても言えねえ)

 

 切っ掛けは無い。

 ただ普通に過ごしてたら、女子達の『バルトファルト男爵って結構良いよね〜』みたいな内容の会話が聞こえてしまっただけなんだ。

 三人には悟られぬよう平静を装っているが、内心では胸が炙られるような焦燥感に襲われ、鼠のようにきりきり舞い。

 流石にこれを口にして余計この場の空気と今後の関係を悪くするほど俺はKY(ジョシュア)では無いので、このことは墓場まで持っていこうと密かに決意した。

 

 そう、まさに知らぬが仏というやつだ。

 やけを起こしたダニエルが炭酸飲料を一気飲みし、空になったグラスをテーブルに叩きつける。

 

「ちくしょう! これでこの学年の希望はもうなくなった! 後は酷い女子ばかりじゃないか!」

「ほんと、今年の一年は運が悪いよね。王太子殿下を筆頭に、名門貴族の跡取りが沢山いるのも悪いよ。比べられるこっちはたまったものじゃない」

 

 

 いわゆるカースト上位同士の男女が結婚することにより、残るのは最も男子全般へのヘイトが高い女子たちと、俺たち下級貴族の男子という構図が生まれるわけだ。

 ダニエルやレイモンドが優しい女子を切望したように、女子たちも名門貴族レベルを基準にしてくるから質が悪い。

 当然名門と比べれば、家柄、立ち振る舞い、財力、外見などなど……その上、婚約者もいて余裕もあるから精神的なゆとりも違う。

 これはあくまで一般的な男子にしか当てはまらないが。

 

 

「それよりもリオン、お前の方は上手くいっているのか? 最近、あの特待生とずっと一緒じゃないか。もしかしてヴァンみたいに結婚を諦めたのか?」

「まさか。ちゃんと招待状は出しているけど、女子から拒否されているだけだ」

 

 ダニエルの問いかけに対し、そう返してリオンは肩をすくめる。

 ……いま何故か俺に流れ弾が火の玉ストレートで飛んできたが、ここは節度を持った行動を。流石にこれくらいでいちいち拾っているとキリがない。

 

 

「下手な同情心は身を滅ぼすよ。……特待生に入れ込んでいるから女子の反感を買ったんだ。距離を置いた方が良い」

 

 

 確か、三年生の先輩にも同じようなことを言われていたな。

 曰く、本当に結婚が難しくなってきた男子は、結婚の条件として亜人奴隷以外の愛人を認めさせられるとか。

 ソレを結婚と言うのかはいささか疑問なので、隷属契約とでも言った方がいっそ清々しい気もするのだが。

 そんなのはこっちから願い下げだとその男子たちも言いたかっただろうに、この国の世間体がそれを許さない。……この国普通に粛清対象では?

 

 

 薄暗い考えが脳裏に浮かんだので、首を軽く振って思考を断ち切る。

 こんな歪な体制を爺さんたちが容認しているという事は王国自体が終わってるわけではないだとかの、何かしらの理由があるのだろう。

 

 

「リオンの兄貴は確か普通クラスだよな?」

「そうだな」

「羨ましいよな。普通クラスはまともなんだろ?」

 

 

 ダニエルが言いたいのは、結婚がそこまで難しくないという意味だ。

 先程までは悪い面しか考えていなかったが、普通クラスの女子は本当に普通だ。

 俺達の知る(上級クラスの)女子のように横暴では結婚できないため、割と対等な関係で結婚できるらしい。

 

 

「話を聞いた時にさ……」

「ん?」

「……俺は兄貴を殴りたくなったよ」

 

 

 普通クラス――騎士家の女子というのは不遇だ。

 理由はまあ色々とあるのだが、その一つとして結婚相手である男子が――少ない。

 上級クラスの女子が普通クラスの男子と結婚が出来ても、普通クラスの女子が俺たち上級クラスの男子と()()結婚できないのも原因だ。

 

 三人が俺へと視線を向ける。

 

「……そう考えるとさあ、ヴァンの兄貴って凄いな」

「うん、なにせ学園始まって以来のことだからね。引く手数多だったはずなのに……」

「あー……」

 

 

 その前提があったからこそ、兄貴の行動がどれほど前代未聞かよくわかる。

 かなりの困難があったとか言っていたし、周囲の圧ををあの謎に高い実力と頭脳による根回し兼理論武装で乗り切ったんやなって。

 

 

「―――そういえば、この前兄貴が言っていたよ」

「……なんて?」

「『全ては――我が愛の力だ』って」

「ごめん俺には理解できない領域だわ」

 

 

 そうか?

 『愛があれば何でもできる!』ってだけの単純明快な内容だと思うんだが。

 皇子たちも内容は悪い意味でアレだがやってることは多少似てるぞ。

 

 

「そう言えば、最近は王太子殿下の周りが騒がしいらしいよ」

 

 

 

 俺たちはジュースを飲みながらレイモンドの振った話題を遠い世界のことのように聞いた。

 確かに興味はあるが、自分達には関係のない話。

 こうして話題の種にはするが、近寄る気はない。

 

 

「アレだろ?あのマリエって女子。あの子、女子の間で随分といじめられているらしいじゃないか」

「その噂に関係しているんだけど、なんでもそのいじめの中心人物が公爵令嬢だったんだよね。それを王太子殿下が知って激怒したらしいよ」

「―――ぶふっ!?」

 

 

 レイモンドがそう話した瞬間、リオンが飲み物を噴き出しそうになりむせて咳き込む。

 様子を見るに何か心当たりがありそうだったが、ダニエル達が聞いても「いや、気管に入っただけだから」とはぐらかしている。

 恐らくあの原作云々の話に関係があったのだろう。

 

 

 リオンがハンカチで口元を拭っている間、俺たちはジュースのこぼれたテーブルの片付けをするのであった。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 一学期も後僅か。

 学園内の恒例行事として各学年別のパーティーが開かれるのだが、学園の私有地であるホールで行われたソレは圧巻のものだった。

 テーブルに並んだ料理の質や量に舌を巻く。

 俺達男子は学生服で参加しているが、女子はほとんどがドレスを着用していた。

 

 横にいるリオン達も視線が無意識に女子たちの方へと向いている。

 リオンがいかにも真剣そうな顔で咳払いし、一言。

 

 

「―――今の胸はFカップ?じゃなかった、凄い料理だね」

「こんな大きなパーティーは初めてだ。学園は凄いな」

 

 ダニエルが皿いっぱいに肉料理を載せて食べている。

 俺もそれにならって結構な量の料理を取っていた。

 レイモンドは俺たちのソレを見て呆れている。

 

 

「ダニエル、口に物を入れて喋るなよ。これだけの規模のパーティーを三箇所も学年別で開いていると思うと、王都はやっぱり凄いよね。地方の貧乏男爵家とは大違いだ」

 

 

 リオンがそれにうんうんと頷いている。

 それにしても、やっぱり料理は美味いんだが、どうしても物足りなく感じるなあ……と思っていると、三人が呆れたように俺を見ていた。

 

「なあヴァン……くれぐれも()()はするなよ?いやほんとマジで」

「今日くらいは我慢しなよ。下手したら僕たちまで追い出されちゃうからね」

 

 そんな人を所かまわず調味料かけるモンスターみたいな言い方ェ……

 失礼だと思わないのかと言いたい。否定はせんが。

 アレはもう俺という人間が行わなくてはならないルーティーンのようなものと思っていただきたい。

 

 

 ダニエルが周囲を見渡す。

 

「普通クラスの女子もドレスが多いな。制服で参加している女子が少なすぎるぜ」

「ドレスだって値段は上から下まで幅広いからね。二千ディアもあれば一着用意できるらしいよ」

 

 

 それでもおおよそ二十万円。割と高い。

 でもどうせ毎回新しいのを買いなおすのだろうとも思う。

 そんな中、今話題の女子であるマリエが制服姿で登場し、注目を浴びる。周りではザワザワと男女含めた生徒たちが口うるさく話をしていた。

 

 

 それよりも、と言いたげな表情でゲ○ドウポーズをとったリオンが二人に声を掛ける。

 

 

「―――さて、二人とも準備は良いか?」

 

 

 ダニエルが皿を置いて立ち上がる。

 

 

「――あぁ、腹ごしらえは十分だ」

 

 

 レイモンドもくいっ、と眼鏡の位置を正す。

 

 

「――僕たちも頑張らないとね」

 

 

 今の三人からは、その立ち振る舞いさえも普段とは一線を画すやる気が滲み出ている。

 実際、このパーティーというのはチャンスだった。

 先輩たちからの情報では、こういう時に色々あってカップルが成立する場合があるらしい。

 

 だからこそいつもより気合が入っているのだろう。

 取り敢えずこの状態を、リオン・フォウ・バルトファルトハイパーモードと名付けよう。

 効果は特にない。

 

 

「よし、じゃあヴァンも一緒に――」

「あ、俺はここで飯食ってるからガンバ」

 

 リオン達三人はずっこけた。

 なんとか気を取り直して行動を開始した三人の後ろ姿を、多分失敗するんだろうなと思いながら俺は見ている。

 

「むっ!あそこに女子三人組を発見!ジェットストリームアタックをかけよう!」

「ジェットストリーム……?」

 

 うん、多分失敗するな。

 真っ先にそう結論づけた俺は、結果を確認せずに料理の乗った皿を持って外へと出る。

 室内だとアレは確かに迷惑だと思うが、色々考えていた後、脳内に一つの結論(悪魔)が降臨する。

 

 

『え?何故か無性に調味料を掛けたいけど周りに迷惑?なら逆にこう考えるんだ。―――別に、誰にも見られないようにすれば構わんのだろう?』

 

 

 そうと決まれば善は急げ。

 近くに丁度おいてあったシロップを拝借して、俺は会場の外へと歩き出した。

 

 

◆◇◆

 

 

「……」

 

 拝借してきたシロップを皿に載せてあった料理へと絞り出す。

 たちまち黄金色一色になったソレは、常人ならば逆に食べる気が失せるだろうが、俺の場合は非常に強く食欲を刺激する原動力となる。

 

 

 だからだろうか。

 食べるのに夢中になっていた俺は、後ろから接近する気配に気付けなかった。

 

 

「あ、ヴァンさん!いま大変なんで――」

「甘ーーい!!」

「えぇ……?」

「……ん?」

 

 何だ、オリヴィアか。

 なにやらやけに焦っているようだが、何かあったのだろうか。

 そんな事を考えていると、俺の持った皿を覗き込んだオリヴィアがぎょっとする。

 

「って、何ですかこれ!?流石に不健康すぎますよ!?」

「あー、まあ気にするな。これくらいが丁度良いんだよ」

「いやいやいやいや……」

 

 あり得ないとでも言うかのような表情をするオリヴィアだが、何か大事なことを思い出したのか、はっとしていた。

 

「そ、そうじゃなくて!……あれ?リオンさんたちは一緒じゃないんですか?」

「あいつらは……あっちだな。それで、何かあったのか?」

 

 そう言ってホールの玄関で抜け殻と化していたリオン達を指差すと、オリヴィア「そうですよ!」とでも言いたげな顔で本題へと入った。

 

 

「―――マリエさんとアンジェリカさんが、言い争いを始めていて大変なんです!!」

 

 

 

 

 





彼らは知らない、実はヴァン自体もリオンと似たベクトルで若干モテていることを―――


ヴァン:いつでも調味料をかける男ヴァン。
 一応裏設定というか、ここまで謎に調味料ぶっかけをやる理由の()()として、今の彼の身体が通常に比べて非常に多くのカロリーを消費しているというのがある。
 故に普通の食事量では足りず、調味料でエネルギーの水増しを行っている。
 なお対して効果はない。


オリヴィア:まあ原作通り。
 ヴァンはその奇行に振り回される友人とでもいった所か。
 今後各キャラとヴァンの相性評価でも書くときにでも書こうと思っていたが、もし世界線がマリエ√ならヒロインだったかもしれない。


 それでは、今回高評価をしてくださった

【☆10】
カムナさん
【☆9】
風を追うものさん、脳内チンパンジーさん、カヌラさん、翔悟さん、やなにさん、小畑屋さん、車椅子ニート(レモン)さん

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