初期の五馬鹿はどれだけsageても良いという風潮がある気がします。
その後、リオン達を呼んでパーティー会場に戻ると、辺りは騒然としており、異様な空気が蔓延していた。
当事者では無い生徒たちは中央の集団を遠巻きに取り囲むようにして、壁際に立ち静観している。
「いったい何があったの?」
「最初は軽い言い争いだったんです。けど……」
リオンの問いに困ったような表情で返答したオリヴィアは、再び中央へと視線を向ける。
中央にいるのは最近悪い意味で有名になりつつあるマリエと、彼女を囲む六人の男子。
その男子たちは皇子達を始めとする例の五人と、見慣れない顔である金髪碧眼のエルフの少年だった。
その七人に向かい合う形で立つ公爵令嬢が声を荒らげている。
「どうして私の話を聞いていただけないのですか!私は―――私は殿下のために!」
悲痛な叫び声を上げる彼女に対して、婚約者であるはずの皇子はどこまでも突き放したような、冷めきっている表情をしていた。
「―――お前の言葉は聞くに堪えない。それだけの話だ」
「待ってください。その者の性根を知ってどうして受け入れられるのですか!」
性根……?
話の繋がりがいまいち分からないが、彼女の向けている痛烈な視線の先を見るに、その者とはマリエとやらのことだろう。
俺と同じくいまいち状況が理解できていないリオンが視線でオリヴィアに說明を求めると、その先をぽつぽつと話し始める。
「えっと、マリエさんが王太子殿下とは別の男性と手を繋いでいるのを見て、アンジェリカさんが怒ってしまって。そしたら、王太子殿下はその程度で騒ぐこともないと」
成る程、俺の予想通りこの件の中心に居るのはマリエと皇子達らしい。
……それにしてもまじかぁ……二股かぁ。
俺は頭を抱えた。片手で前髪を鷲掴みにするようにして、ここ最近でも一番と言えるほど項垂れている。
よりにもよって時期国王相手に二股して、挙句の果てにそれが本人公認だなんて、どうすればそんな状況に至るのか是非とも聞いてみたい。
公爵令嬢から針のむしろとなっているマリエ本人は、皇子の後ろへと隠れていた。
彼女か皇子の婚約者だと分かってやっているのだろうし、もしや本気で事を構えるつもりか?
これはかなり―――荒れそうだな。
「……レッドグレイブ家の娘もこうなると惨めだな。見ろ、お前に賛成する奴はこの場にはいないぞ」
紫髪の奴が前に出て、公爵令嬢を煽る。
実際に彼女が周囲を見渡すと、これまで取り巻きとして彼女に付き従っていた生徒たちが顔を逸らす。
逆に、彼女に対し反感を持っていた生徒たちがニヤニヤと君の悪い笑みを浮かべて遠巻きに彼女を見ている。
「お前たち、その女が何をしたか知っているのか?お前たち全員に―――」
全員に手を出した、と言いかけるが、彼らの表情に動揺の色は存在しない。
それどころか―――
「それくらい知っている」
「な!?」
彼女の言葉を遮るように青髪の眼鏡がそう返し、何をそんな当たり前のことを、とでも言いたげに彼ら五人は公爵令嬢を見つめている。
予想とは正反対の答えが返ってきたが故か、彼女も僅かに狼狽える。
そう、おまけに皇子と誰かの二股だと思っていたが、実際は彼ら全員との五股だった訳で。
しかも見た感じ全員がそれを受け入れているのも凄いとは思うが、余計にたちが悪い。
まあ俺がそんな事を思っても意味はなく、彼らのボルテージは上昇していき、遂には―――
「私は彼女に救われたんだ。悩みを聞いてくれた。そして、彼女を――守りたいと思ったんだ」
全生徒の前で愛の告白を始める始末。
いやそれ自体は別に俺としては他所でやれ、と思うとはいえまあ構わないのだが、問題は彼ら自身に別の婚約者が居たり、五人で一人の女性を囲っている奇怪な状態な事だ。
「お前は屁理屈が多いんだよ。素直にそんなことが関係ないくらい好きだって言えば良いだろうが」
「そうですね。素敵な女性です。けれど、マリエさんを一番愛しているのは私だと思いますけどね」
赤髪と、二歩ほど後ろに下がっていた緑髪も前に出てきて、同様に愛を囁き始めた。
それを見て絶句する公爵令嬢は、何処か縋るような視線を向けるが、当の皇子はどこかムッとした様子で――
「ジルク、例えお前でもそれは違うと思うぞ。―――マリエを一番愛しているのは、この俺だ」
その言葉に、今まで黙っていた女子たちが黄色い声援を上げる。
言っていることは堂々とした浮気宣言なのだが、何故か周囲に好意的に受け取られている事実に対し、衝撃を禁じえない。
『今の聞いた!?』
『私も言われてみたい!』
『羨ましいわ。それに引き換え、公爵令嬢は無様よね』
最初の勢いは既に無く、場の雰囲気は完全に皇子達へと呑まれている。
ああ、何というか―――
『(―――気に食わないな)』
主観的な意見だが、彼女に非はない筈だろう。
公爵令嬢なんて存在が理由ありきとはいえ頻繁に怒鳴るのは確かに頂けないが、それ以外に問題行動は一切無い。
なのに全員に手を出して、本来裁かれる側の
そしてその公爵令嬢は言葉を発することも無く、静かに下を向いている。
「……殿下は在学中のお遊びで終わらせるつもりはないと言うことですか?」
「俺にとってかけがえのない女性は一人だけだ。アンジェリカ、学園に入学する前なら、お前のことは嫌いではなかった。だが、マリエを傷つけるようなら容赦はしない」
皇子の言葉がホールの中に響く。
周囲の女子たちが公爵令嬢のことを嗤っていた。
『聞いた? 公爵令嬢様もこれで終わりよね』
『これってもう婚約破棄と同じじゃないの?』
『私、あの子のことが嫌いだったのよね』
相手の立場が弱くなると言いたい放題。
今までの鬱憤を晴らすかのように、歪んだ嘲笑を公爵令嬢に向ける外野の事が、俺はもう只の人の皮を被った化け物にしか見えなかった。
その悪辣さに虫酸が走る。
「……ハーレムを見る女子の気持ちってこんな感じなのか?なんかむず痒いというか、こういう場面は痛々しく見える」
「どうしました、リオンさん?」
リオンはそんな感想を漏らしていた。
当然、周囲にその意味が理解される事は無かったが。
ダニエルとレイモンドは、顔を上げた公爵令嬢の表情を見て驚いている。
「お、おい、これちょっとやばくないか?」
「なんか今にも凶行に及びそうな顔をしているね」
何かの決心をつけたような、それでいて全てを諦めたかのような、そんな表情。
その瞳は淀んでおり光も無く、彼女は何かをマリエに対して投げつけた。
「――へ?」
マリエが呆気にとられていると、投げられた何かはマリエに当たって、ぽとりと床に落ちる。
それは彼女が身につけていた黒の手袋だった。
「拾え、売婦。殿下たちを誑かした魔女め」
それは決闘の合図である。
手袋を投げ、それを相手が拾うことにより正式な決闘が成立する。
「そう言えばそんな設定もあったな。決闘イベントか」
「また訳の分からないことを言って! お前、この決闘の意味を分かっているのかよ!」
レイモンドが慌てていた。
国内でも王家に次ぐ力を誇る公爵家の令嬢が、子爵家の令嬢に決闘を申し込んだ。
それに、令嬢同時の決闘の場合は―――
「……代理人か」
決闘の際、女子は男子を代理人に出来るらしい。
戦いで前線に出るのは男子であるが故、男子が代理人を用意すれば恥扱いとなるが、女子の場合は許される。
そして、この雰囲気だとマリエ側の代理人は……
「―――アンジェリカ、俺を失望させたな」
眉間にしわを寄せ、婚約者に向けるものとは思えない程に、侮辱と蔑みの色を孕んだ視線を公爵令嬢に向ける皇子は我慢の限界、と言わんばかりに苛立ちを隠さずにいた。
「マリエ、拾え。大丈夫だ。お前には俺が付いている。お前の代理人は俺が務めよう」
皇子の言葉に続く周りの男子たち。
直後に前に出たのは緑髪の奴。
「殿下ばかりに良い格好はさせておけませんね。学園のルールでは女子の代理人である男子が一人とは限りません。私も立候補をしましょう」
赤髪が手のひらに拳を打ち付ける。
「面白いから俺も参加する。誰でも良いからかかって来いよ!」
「脳筋はこれだから……けど、売婦とは聞き捨てならないな。当然、僕も参加だ」
赤髪と紫髪も、この騒ぎに対してノリノリならしい。
この調子だと止める人は居なそうだ。
「剣の腕には自信がある。マリエの剣として戦って見せよう」
これで向こう側の面子は五人で、尚且つ手が出しにくい名門と王家ばかり。
マリエが指で涙を拭う。
「みんな……私、怖いけど、みんながいれば安心だね。私、この決闘を受けるよ。アンジェリカさん、私はみんなと戦います」
一瞬感動の場面と錯覚しそうになるが、その実内容は現状維持のままであり、ただの茶番にしか思えない。
「本当にお馬鹿なご主人様ですね。僕がいるのを忘れていませんか? 応援くらい出来ますよ」
「ありがとう、カイル」
あのエルフの少年は始めて見たので何とも言えないが、随分あのメンツの中違和感なく溶け込んでいるものである。
まるでその場にいるのが自然とでも言うように。
横に立つリオンが、突如全ての辻褄があったように、ハッとした表情をしていた。
「―――これ、逆ハーレムルートだ」
「またリオンが何か言っていやがる。……だがこうなると公爵令嬢様はどうするんだろうな。あの五人を相手にする奴なんかいるのかよ」
ダニエルの意見はご尤もで、レイモンドも頷いていた。
何故かという理論を、レイモンドが簡単に說明する。
「殿下は普通に成績上位だし、他もみんな凄い成績だからね。五人を相手に戦えそうな男子なんてこの場にはいないよ。第一、次期王国最強剣士の筆頭候補のクリスが相手だしね。僕たちなんかが敵うわけがないよ」
そう。
ただでさえ殆どの貴族が介入することが困難なのに、そもそも皇子達五人と張り合える存在が居ないのだ。
ソレが分かっているから、自分の被害を考えて戦うことを嫌がっている男子が大半だった訳で。
今まで公爵令嬢に群がっていた男子も、自身の破滅を恐れて関わりたくない態度を取っていた。
公爵令嬢が周囲に視線を向けると、上記の男子含めた全ての男子たちが一斉に視線を逸らす。
それを見た赤髪が周囲を煽る。
「おい、誰かこいつを助けてやろうって思う奇特な奴はいないのか?取り巻きもいただろうに、ここまで人徳がないと同情したくなるぜ。……決闘を申し込んだんだ。代理人が用意できなくても逃げるんじゃねぇぞ」
彼女を
誰もが彼女を助けない。
皇子達という絶対的な『正義』の皮を被った存在の影響により、会場に居る誰もが彼女を皇子に見限られた哀れな悪だと認識して嘲笑っていた。
現に、周囲の女子達の公爵令嬢に対する悪意の連鎖は留まるところを知らない。
『ねぇ、あの女がどんな無様を晒すのか賭けない?』
『実家に泣きついて終わりよ。こんな決闘、認められるわけがないわ。だって、絶対に代理人なんて見つからないもの』
『あいつ自身が出てくるかもよ。そうなったら、ボコボコにして欲しいわ』
人間とは、闇が深い生き物である。
何故なら、人間という存在が最も残忍になれるのは、悪意と憎悪に呑まれた時ではない。
本当に恐ろしいのは―――自分達が『正しい側に立っていると誤認した時』だ。
何をしても『悪に対する裁きである』という免罪符が深層心理に付き纏い、悪意による動機では多少の罪悪感により行えない事も、相手側の気持ちを考慮しないから平気で行う事が出来るのだ。
その理論を体現したかの様な状況が目の前で行われていると、改めて認識した瞬間、自身の胸の内から憤りが込み上げてくる。
―――あの皇子は、浮気しておきながら婚約者に対して此処までの仕打ちが出来るとでもいうのか。
怒りによって無意識に自身の拳が強く握られ、彼らを見る視線が鋭くなる。
その沸き起こる苛立ちを何とか抑え、公爵令嬢の方へと向き直ると、彼女は俯き歯を食いしばっている。
「た、例え誰かに代理人になって貰わなくとも……」
「どうした? さっきの威勢はどこにいったんだ?」
赤髪が公爵令嬢を鼻で笑っていた。
周囲はアンジェリカさんに酷く冷たく、中でも一番冷たいのは皇子だろう。
『(いや、落ち着け。この場以外の事情を何も知らない俺が、公爵令嬢を助ける理由も必要性も無いはずだ……)』
自分が薄情だとは思う。
でももしかすれば、あの固い雰囲気を崩さずに皇子と接し続けていたとか、今までに至るまでの彼女の行動が原因で、皇子とここまで不仲になってしまったのかもしれない。
それでも今の光景を見る限り、悪い方に傾くのは完全に皇子側なのだが。
「アンジェリカ、覚悟は出来ているんだろうな? 今更なかった事には出来ないぞ」
―――さて、どうする?
ここで部外者の俺がその場の感情に身を任せて名乗りを上げたとして、いたずらに場を掻き乱すのは返って悪手なのではと考える。
すると横でリオンが、公爵令嬢の方向へと向けて―――一歩、踏み出した。
……結論は多少違えど、考える事は同じか。
「あ、あの……どうするつもりなんですか?」
不安そうな表情でリオンの袖をつまむオリヴィア。
ダニエルとレイモンドも同様に、変な行動をしないかとリオンを心配していた。
「馬鹿、なんで関わろうとするんだよ。関わったら駄目だ!」
「こんな決闘、戦う前から勝負なんか決まっているようなものだよ。それに、勝っても負けても代理人だってただじゃすまない。相手は殿下たちだよ?」
「……おい、ヴァンも何か言えよ!」
ダニエルが俺に話しかけてきていたが、考えるあまり周囲の声に対する注意力が散漫になっていた俺は、その声を聞き取る事が出来なかった。
リオンはこちらはと振り返り―――ニヤリ、と悪どい笑みを浮かべていた。
「俺さあ―――あいつら嫌いなんだよね」
あいつら嫌い―――か。
……その言葉を聞いて、自身の中で答えに対する何かの取っ掛かりが見つかった気がする。
そう言い残したリオンは、人混みを掻き分けて中央へと歩いて行くのだった。
◇◆◇
「はい、は~い! 俺が決闘の代理人に立候補しま~す!」
そう言ってリオンが軽いノリで名乗り出る。
しかし周りの視線はあまりよろしくなく、「空気読めよ」的な視線が向けられる。
「お前、いったい誰だよ?」
赤髪がリオンの顔を見るが、知らない人だったらしい。
紫髪は、リオンを値踏みするような目で見ていた。
「確か入学前に冒険者として成功した奴がいたな。独立して男爵になる予定だと聞いたが、お前のことか?」
明らかにリオンのことを下に見た発言。
残している成績やら立場を考えれば、眼中にないのも頷けるが、俺がそれを聞いて苛つくのは事実。
リオンは紫の言葉を無視して話を続ける。
「あの、立候補をしたんで認めて欲しいんですけど? アンジェリカさん、ほら、はやく認めないと」
公爵令嬢は突然の事に呆気にとられている。
「え、あ……」
「ほら、認める。それだけ言えば万事解決ですって」
「み、認め……る」
彼女の言葉を聞いて頷いたリオンは殿下たち―――マリエ一味に振り返った。
「―――と、言うわけでリオン・フォウ・バルトファルトが決闘代理人を引き受けました。そちらは殿下たち五人で間違いないですよね? 決闘方法の確認もしたいんですけど、その前に何を賭けるんです?」
そうして軽いノリで場を仕切りだすリオンの事を、あり得ないとでも言うように周囲の奴等が見つめている。
マリエとやらも唖然としていた。
ソレを見てリオンの視線が鋭くなる。
「因みにアンジェリカさんの決闘を申し込んだ理由は何ですか?そこ、ハッキリさせて貰わないと困るんですよね」
リオンが公爵令嬢―――アンジェリカの方へと振り返り、彼女も困惑していたものの、直ぐに持ち直して自身の要求を述べた。
「……殿下に近づくな。私の望みはそれだけだ」
周囲からはまたヒソヒソと悪口が聞こえてくるのだが、聞くに堪えないので存在しないものとし、聞こえないふりをする。
頼むからこれ以上――俺を怒らせないでくれ。
「……で、決闘なのでそちらの希望も聞きたいんですけど」
リオンがマリエの方に向き直り問うと、皇子がリオンのマリエに向けた視線を遮るように前に出た。
「そこまでして俺たちを引き裂きたいのか。どっちが魔女か分かったものではないな。アンジェリカ、例え俺たちの仲を引き裂いたとしても、俺の気持ちがお前に戻ることはない!」
「分かっています。分かっていますが、その者を引き離すのが私が出来る最後の……」
完全に確信した。
この件において非があるのは、どう考えても皇子側。
情状酌量の余地も無さそうだ。
だが今はリオンが完全に場を取り仕切っているので、まだ静観の姿勢をとる。
「いや、そういうのは後でお願いします。ほら、そっちの条件を早く出してくださいよ。はーやーく」
手をパンパンと叩き、会話をぶった斬ったリオンにムッとするマリエ達だが、数秒間の間をおいてマリエが前にでる。
リオンの表情に変化は一切無く、彼女が何を言うか分かっているような、不思議な雰囲気を纏っている。
『「わ、私が勝ったら、もうこんな酷いことは止めてください。実家の権力で言うことを聞かせるような真似は
『(……主人公のセリフ、パクりきれてないし)』
実際、俺の予想が正しかったと分かるのは数日後の話。
リオンが間髪入れずにぶっきらぼうに問い返す。
「じゃあ、こっちが勝ったら殿下とあんたは別れる。こっちが負けたら、もう関わらないって感じで良いよね?なら、次は決闘方法の確認ね。闘技場を借りた鎧での決闘はどうかな?一般的な決闘方法だと思うんだけど」
決闘は派手さも重視して鎧での決闘がベター……らしい。
でも別にそんな事は今の俺にとってどうでもいい。
リオンは、自分の意志に従って皇子達に喧嘩を売った。
俺もここは、この憤りに任せて代理人として名乗り出るべきなのだろうか。
でもそれでは、実家爺さんや親父、兄貴に要らぬ迷惑をかけてしまう―――という、目の前の決闘に参加したい思いと、それによって周りに迷惑をかけるわけにはいかないという、相反する二つの感情のあいだを行き来していた。
そうして俺が思い悩んでいる間も、リオンと彼らの口論は留まるところを知らず、 片っ端から勢いで言い負かしているリオンに対し、苛立ちの籠もった視線を向けている。
そして―――
「……お前じゃ勝負にならない。目立ちたいだけならさっさと逃げ帰れよ、雑魚」
そこまで聞こえた辺りで、俺の中の何かが―――プツリと切れたような気がした。
もういい、ここまで大して良くもない頭でウジウジ悩んでいた自分がバカだった。
リオン達の方へと向かって一歩踏み出すと、ぎょっとしたダニエルとレイモンドが俺を引き留めようとしてくる。
「ちょ、まさかお前まで行くつもりか!?やめとけよ、後のことを考えろ!」
「そうだよ、態々ヴァンまでこの惨状に入る必要は―――」
「いや、損得なんて関係無しに俺は礼をしないといけないんだよ―――」
そう言ってダニエルとレイモンドの方へと振り返り、ニヒルな笑みを浮かべる。
何故か慄いたように青ざめた表情をしていたのが気になったが、本題とは関係ない。
「―――人が、ここまで怒ることが出来ると証明してくれたお礼をな」
もう損得云々なんて知ったことか。
取り敢えず、あの五人は一度懲らしめないと俺の気がすまない。
だから―――ぶっ潰してやる。
「あー、まだ代理人って募集してます?」
リオンと公爵令嬢がこちらを見て、目を見開く。
それと同時に、周囲がざわめきの声を上げ、「なんか増えたよ」みたいな視線が突き刺さってきて、最初のリオンはこんな気持ちだったのか、と何とも言えない感傷に浸る。
すると、緑髪が前に出てきて、ニコニコと笑みを浮かべながら問いを投げてくる。
「おや、まさか直ぐにもう一人現れるとは思いませんでしたよ。……それで、貴方はどちら様でしょうか?」
……大方、疑問二割、挑発八割か。
そんな程度の低い煽りに乗るほど俺は阿呆ではない。
「ヴァン・フォウ・エルブレイブ。人呼んで『空賊ハンターのヴァン』。そこの辺境伯のお隣さんだ」
「エルブレイブだと……!?」
何故か紫髪じゃなくて公爵令嬢が驚いている。
多分面識無かった筈なんだけどなあ……。
『(王国建国以来最高の英雄にして勇者、先祖返りとも呼ばれたネロ殿の家系。四十年前にザウルス帝国の侵略をロストアイテム込みとはいえ、実質単体で退け国家を壊滅へと追い込み、いつしか【王国の懐刀】とまで呼ばれたエルブレイブ子爵家の次男か? いや、今は男爵か。でもだとしたら何故私の味方を……?)』
そんな事を考えられているとはつゆ知らず。
紫髪の方は一瞬首を傾げるものの、そういえばといった表情でこちらを見てきた。
「……確か、入学前に領内に攻めてきた空賊を捕えて男爵位を得たものが居たな。ソレがお前か」
「まあ、そうだな」
気の抜けた返事を返した俺に、苛立ちの籠もった視線をぶつけてくるが、その程度じゃあ俺は動じない。
先程の緑髪がまた出てくる。
「勝負方法は鎧を使った一対一の形式で行いましょうか。ただし、こちらは五人。そちらが期限までに人数を揃えるなら五名まで、つまりあと三人の参加は認めます。居なければ片方が二回、もう片方が三回の交代制で構わないでしょう。闘技場は……もう夏期休暇も目の前。終業式の翌日には借りることも出来るでしょう」
話をまとめにかかってきたが、思ったよりも普通だったのでありがたく頷いておく。
だが、終業式まで残り日数が少ないのでこれ以上の人は集まらないと思う。
「二対五か。一対一を三回で良いなら思ってたよりもだいぶ余裕だな」
「本気で勝つつもりですか?今では珍しいですが、決闘で命を落とすこともあるのですよ」
確かに命を奪っても構わないらしいが、ソレはもう半分形骸化してきていると聞く。
ここまで来たのに俺たちが引くとでも思っているのか?
同じことを思っていたのか、リオンがそれに対して鋭い返答を行う。
「知っていますから大丈夫です。でも、一つ聞いて良いですか?」
「……何か?」
「どうして自分たちは大丈夫、って顔をしているんですかね?大好きな女の子の前で格好を付けたい気持ちは分かりますよ。ただ、自分たちは死なないと思っているのはちょっと甘すぎませんか?」
その煽りが余程堪えたのか、緑髪が目を細める。
先程までの温和そうな雰囲気は何処へ行ったのやら。
「実績のある方だと聞いていましたが、どうやら期待外れのようですね。相手の実力を測れていないようだ」
「そこまでにしておけ、ジルク。リオンと……ヴァンと言ったな。もう冗談では済まされない。覚悟は出来ているんだろうな?」
すまないがもうアンタと話をする気は無い。
背景や経緯がどうあれ、浮気を正当化するような奴と話し合っても多分一生分かり会えないと思うんでね。
「当たり前だろ。ソレが分かっているから出てきたんだ」
「ヴァンの言う通りだな。あと大事な恋人との別れを済ませておけよ、王子様。あれ? 他の四人は関係ないから付き合えるし、指を咥えてみていろ、って方がいいのかな?」
変に煽ったせいか皇子の視線が鋭くなる。
それ俺は関係ないと思うんだが。
そんな事を思っていると、偶然俺の近くに落ちている公爵令嬢の手袋を見つけた。
……折角だし、拾って渡すとするか。
「リオン、忘れ物だ」
「ん?ああ―――いいねぇ。ほら王子様、忘れ物だぞ」
手袋を受け取ったリオンがニヤリと笑い、皇子へとその手袋を投げつける。
そして手袋を投げた手を向けたまま、こう言い放った。
「―――決闘しようぜ、王子さま」
そして俺も笑みを浮かべる。
始めからこうすれば良かった。
潔く、大義名分があるのならムカつく相手は全員懲らしめておくのが一番手っ取り早い。
「さあ、やろうか。―――ぶっ潰してやるよ」
バーティー会場にて。
俺は、俺達は、皇子達に改めて喧嘩を売った。
五馬鹿の行動に反応するだけでアンチ・ヘイトのタグが活躍するの何なん……?
ヴァン:キレた。前までの行い+
キレる時は限界まで溜め込んでから爆発するタイプ。
バカレンジャー:通称五馬鹿。初期だと動かすだけでゴリゴリのアンチ小説っぽくなる人員。
個人的にマシな順で並べると、クリス→ブラッド→グレッグ→殿下→→→→→→→緑くらいだと思ってる(偏見)。
【☆9】
ケンシン1さん、風見滝さん、ターニャンさん、dekさん、雲外鏡さん
ありがとうございますm(_ _)m
https://twitter.com/Riza_dayoo?t=qVWwrWgxrh0FpA0mylUtEA&s=09