乙女ゲーの世界で『ウェイクアップ』と叫んだ男   作:R1zA

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高校ってここまで執筆時間取れないものなんやなって。


ep.Ⅺ「鎧の力」

 

 あの後はそれ以上特に何も無くお開きとなった。

 だがマトモな生活が当日まで行えるかと言われれば、当然そんな訳もない。

 

「……はあ」

 

 視界に映るのは自身の部屋()()()もの。

 中に置いてあった私物はその全てが壊され、毀たれ、使い物にならなくなった状態で無惨に打ち捨てられており、床や壁にも汚水が撒き散らされている。

 

 まあ実際俺の行った行為は褒められた物では無いのだが、昨日の今日でここまでするのは予想外。

 皇子達の手引きではなく、他の奴が独断で行ったのだと信じたいものである。

 

 そんな事を考えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえ、扉を開けるとリオンの姿が。

 俺の後ろに広がる部屋の様子を覗き込むと、その光景に顔を顰めていた。

 

「うわ…、やっぱりお前もやられたのか。これ掃除大変だぞ」

「お前()?その言い方だとお前……」

「そうだよ。俺も……ついでに言えばアンジェリカさんもやられてる。多分殿下の取り巻きの指示だと思う」

『ちなみに実行犯はマスターと同じ田舎貴族のグループですね。所詮は儚い友情でしたか』

「お前それ言うの二回目だろ。あいつらも逆らえなかったんだから誤解を招く言い方はよせって」

 

 

 話を聞いた辺り、この惨状を引き起こしたのはダニエルやレイモンド等の知り合いらしい。

 伯爵家等の出身である皇子の取り巻きにはどうあっても逆らえなかったのだろうから無理もない。

 その程度で縁切りする程無慈悲な奴だと思われてたのなら心外だが。

 

 

「ってか本題はそんな話じゃなくてだな……。なぁ、俺が言うのもアレだけど何であそこで出てきたんだ? 別に必要は無かったと思うんだけど」

「……あの振る舞いが気に入らなかったから。正直これ以上の理由は要らんだろ」

『アレを穏便に済ますことも不可能では無かったでしょうね。つまりこれは単なるエゴと』

「分かってるよそのくらい」

 

 ――ああ、そうだ。

 これは婚約者(アンジェリカ)が邪魔だという皇子側のエゴと、ソレが見ていてムカつくという俺達のエゴのぶつかり合いだからな。

 もしこれが終わったら生涯二度とやりたくないと断言出来るくらいには程度の低い争いだろう。

 

 

 その後、オッズ比がとんでも無いこととなっていた賭けに乗らないかとリオンが提案してきたり、俺がそれに乗ったりと、紆余曲折ありながらも―――遂に決闘当日の日が訪れる。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 夏休み初日。

 話題になっていた皇子達の出る決闘が遂に行われると聞いて、闘技場の観客席は殆ど埋まっていた。

 裏で行われている賭けのオッズは、依然として俺達が圧倒的に不利。

 

 リオンに言われるがまま手持ちの白金貨五十枚を全て注ぎ込んだのだが、決闘の後コレ返ってきたら幾らになるのだろうかと思案する。

 反対側の通路から、黒っぽいインナーの上にベストとズボンを着込んだリオンがやってくる。

 

 

「……お前ソレで行くのか? いやまあでもおかしくは無いのか」

「これよりも鎧を動かしやすい服が無いしな。何度も言うがこう見えて性能は一級品だ」

 

 

 俺の服装は以前にダンジョンに潜ったときと同じ、白シャツの上に羽織った改造タキシードだ。

 これでも一般的な鎧用のスーツと比べれば性能は段違いだし、もしかしたらコレもロストアイテムの括りに入るのかもしれないな。

 それにしても―――

 

 

「なんかやる気凄いなお前。そんなに自分の国のトップを殴るのが楽しみだったか?」

「それもあるけど、オリヴィアさんに応援されたからかな。俺みたいなモブが主人公に応援されるとは光栄なことだよ」

 

 

 そう言って何処か照れ臭そうに頬を掻く。

 成る程、だからかリオンが何時にも増してかなりやる気のありそうな雰囲気を出している気がしたのか。

 歩き方も少し胸を張った感じで歩いており、気の入りようが中々にガチだ。

 

 

 そうして二人で控え室から闘技場の方へと向かうと、既に向こう側の五人は揃っていた。

 自前の鎧を既に用意しており、見た目から分かる貴族の威容を観客に見せつけていた。

 俺達が現れたのに気付くやいなや、会場全体が俺達へのブーイングで溢れかえる。

 

『くたばれバルトファルトォォォ!!』

『田舎貴族が出しゃばりやがって!』

『まーけーろー!』

「うっせえ愚民どもォォォオォォォ!!」

 

 それに対しリオンは、両手の親指を下に向けて大きく仰け反ることで煽り返していた。

 どう考えても絶対敵に回したくはないが、あの胆力は素直に称賛出来るとも思う。

 

 そんな事を考えていると、俺達が通った通路から公爵令嬢ことアンジェリカとオリヴィアがやってくる。

 アンジェリカは俺達の周囲に全く鎧らしき物が無いのを見て詰め寄ってくる。

 

 

「おい!バルトファルトにエルブレイブ! 鎧がどこにも無いじゃないか! あれだけ強気なことを言っておきながら用意出来なかった訳では無いだろうな!」

「―――大丈夫、今着きました」

『アロガンツ、来ます』

 

 

 そう言って空を見上げるリオンにつられて上を見ると、僅かだが小さな黒い点が見えた。

 数秒間の間をおいて、その黒い点―――黒塗りの箱は、闘技場の中心へと落下する。

 開いた箱の中から現れたのは、黒塗りの鎧。

 リオン曰く、その名はアロガンツ。名の意味は不明。

 皇子達の鎧に比べると無骨で大きく、おそらくダンと同じくらいか僅かにアロガンツが大きいだろう。

 

 

 アロガンツの出現に会場全体の観客はどよめき―――辺り一面の大笑いに包まれた。

 アンジェリカが疑ったような視線を向ける。

 

「……お前、これで戦うつもりか?」

「ま、見ていてくださいよ」

 

 リオンはそれだけ言い残してアロガンツへと向かう。

 が、周囲がリオンを笑っている理由が分からなかったオリヴィアがおずおずとアンジェリカに問いかける。

 

「あの……っ、何で皆さん笑ってるんでしょうか」

「お前……本当に何も知らないんだな。―――あの鎧は恐らく、ロストアイテム。現在の技術では確かに再現不可能な代物だが、強さの指針にはならない。加えて、今の鎧は高機動戦闘が重視されており、パワーと装甲に特化しているだろうあの鎧は型落ちだ」

 

 その説明を聞いたオリヴィアは頬に指を当てて首を傾げていた。

 

「でも、何だか可愛いですよ」

「それはお前の感覚が可笑しいのだ」

 

 ……何かみんな仲良いな。

 二人は観客席へと移動したので、俺は闘技場から控室までの通路を背もたれにして、自分の出番まで決闘を眺めておくことにする。

 

 見た感じ何か言い争っているようだが、距離があるからか話の内容は聞こえない。

 リオンの武器は……スコップか。

 まあスコップは殴れる刺せる穴掘れるの万能武器だからリオンが使っているのも可笑しくない……のか?

 

 

「せ、戦闘不能……。しょ、勝者―――バルトファルトォォッ!!」

 

 そんな事を考えている間に決着がついていた。

 まだ三十秒も経過していなかったはずなのだが、どうやら案外呆気なく勝ってしまったらしい。

 ここまで早く出番が来るのは少々予想外だ。

 

 会場の方から感じ取れる沈黙を無視して、リオンの乗るアロガンツが控室の格納庫まで戻ってくる。

 俺が闘技場へと歩き出すと、すれ違いざまにリオンが激励の一言を送ってくる。

 

「相手は脳筋のグレッグだ。俺の分までおもいっきりぶっ潰してやってくれ」

「分かった」

 

 言われなくとも、こっちは最初からその気だがな。

 視線を皇子達のいる方へと向け、光線の焦点をくっきりとひとつに結ぶようにして感覚を研ぎ澄ませた。

 

 さて―――やるか。

 

 

◇◆◇

 

 

 俺が改めて闘技場へと足を踏み入れると、観客席からのざわめきの声が耳に入る。

 

 

「ま、まあ、これくらいして貰わないとせっかく見に来た意味がないぜ……次はグレッグだし大丈夫だよな?」

「そ、そうよ。流石に次で終わりよね……?」

「私、この前アイツが食堂で料理に凄い量の調味料掛けて食べてるの見たんだけど……」

「え、何それ………それに鎧は?」

 

 

 色々と言われているが、俺の心持ちは変わらない。

 既に鎧に乗って出てきていたグレッグは、俺の姿を見て話しかけてくる。

 

『鎧はどうした、エルブレイブ。まさか生身で戦うなんて言い出さないだろうな?』

「当たり前だ。あといちいちそんな喧嘩腰になるなよ……」

『あぁ?』

「あ、すいません……」

『くそ、調子狂うな……。何だお前』

 

 

 掴みどころの無い奴だと、グレッグは思った。

 他人を散々コケにするあのバルトファルトよりは遥かにマシだとは感じるが、目の前の男は何を考えているかが全く分からない。

 はっきり言って不気味だ。

 

 

 ……そんな事を目の前の男に考えられているとは露知らず、俺はぽりぽりと頭を掻く。

 何かつい謝ったけど何で謝ったんだろうな、俺。

 考えても答えが出るはず無いので、改めてこの戦闘へと意識を割く。

 

 余計な思考は必要ない。

 ただ只管に、正面から叩き潰す。

 さあ―――

 

 

「覚悟はいいな―――?」

 

 

 目の前の赤髪にしか聞こえない程度の小声でそう呟く。

 帽子のリングに指を通し、180°回転させる。

 そして腰に巻き付けてあった蛮刀を引き抜き、流体である特殊金属で構成されている蛮刀は、空気中で不規則に揺らめいた。

 

 

 空気が変わる。

 

 

 辺りには一瞬の静寂が訪れ、ここで野次を飛ばして来るような無粋な奴も居なかった。

 そして蛮刀の刀身に蒼い電流が流れて九つの穴が空き、そのまま俺は蛮刀を振るい、虚空をVの字に切り払う。

 

 

 

 ―――そしてその信号を受信した(ソラ)の彼方で、その座標に向けての射出シークエンスが開始された。

 

 

 

 

 

 

 

『 boot up A−OK 』

『 chester vitals A−OK 』

『 LZ−C A−OK 』

 

    『ーーー ORIGINAL SEVEN ーーー』

    『ー DANN of THURSDAY ー』

 

 

 

 

『 execution 』

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――そして、彼の者の剣は舞い降りる。

 

 

 大空より飛来した剣は、闘技場へと着地した。

 アロガンツと同程度の大きさを持つその剣が地面に激突した事により、強烈な烈風と大量の砂埃が辺りに舞う。

 

 

「な、何だ今のは……!?」

「ええと、私にもよく分からなかったんですけど、空から巨大な剣が降ってきました……」

「まさか、可変機なのか…?だがいくら何でも通常の鎧から逸脱しすぎだろう!? ……まさかアレが奴の、エルブレイブの所有するロストアイテムなのか……?」

 

 

 はっきり言ってアンジェリカにとってソレは、リオンのアロガンツよりも異常に思えた。

 鎧が変形したと思われる巨大な剣が、肉眼では見えない空の彼方より急速で飛来する。

 傍から見ればやはり意味不明な状況に、アンジェリカ達を含む生徒達は困惑の声を漏らす。

 

 

 しかし、彼女らが驚くのはまだ速い。

 砂埃が開けた後、彼らの目に移ったのは、白い外装と藍色のボディを持つ、王国の鎧―――否、既存の鎧とは全くデザインも、設計思想さえも異なる()()()だったのだから。

 

 

 

 ―――何か、外野がやけに騒がしいな。

 邪魔だから静かにして欲しいのだが、多分気のせいだろうということにしておこう。

 そう直ぐに結論づけた俺は操縦席に乗り込んだ。

 片膝をついて蛮刀を操縦席の床に突き刺し、右手の蛮刀を握る掌は手甲により覆われる。

 そして一言、その鎧を動かす呪文を唱えた。

 

 

Wake up(ウェイクアップ)……DANN(ダン)

 

 

 機体の紅い双峰が光を放つ。

 ―――それは、剣だった。

 アロガンツと同程度の全高を持ちながら、装備は右腕に握られた大太刀一本のみで、他に武装は見当たらない。

 背部にマウントされた刀身と合わせて、その鎧はまるで一振りの剣を彷彿とさせる。

 

 

 俺の(ヨロイ)を見た観客席の生徒たちがざわめきの声を上げている。

 何を言っているのかは聞こえないが、雰囲気で分かる。

 その声に不安と動揺の色が強く現れていた。

 

『何だアレ……鎧、なのか……?』

『い、いや―――随分と凝った演出だな!グレッグの敵ではない……筈だよな?』

『武器もあの古臭い剣一本でしょ?いくらロストアイテムって言っても……』

 

 

 大方、今のダンの動作を演出だと思いたいとかな筈。

 俺がここで勝った場合、あの賭博でかなりの額が動いていた筈。

 だから賭けの結果は絶望的と(最悪全財産を失うことに)なってしまう。

 

 

 きっとそんな不安が、その場を支配していたのだろう。

 全て終わった後から考えればつまらん話だが。

 

 

『……ハッ、武器は剣一本か。所詮はバルトファルトと同じ、鎧の性能頼りのお前には負けない!さっさとぶっ潰してバルトファルトも引きずり出してやるよ!!』

 

 

 その声は自信に満ちていた。

 向こうは負けるなんて一片たりとも考えて無いらしく、意気揚々と槍を構えている。

 確か実力派の実践主義なんだったか?

 まあ、他人の考えに態々口を挟む必要は無いだろう。

 

 決闘の誓いを行った後、審判が開始を告げる。

 

 

『両者、始め!』

 

 

 開始をの合図と共に、赤髪――確かグレッグだったか?

 直ぐ様距離を詰めてきて、俺に対し一直線に槍を振りかざしてくる。

 それを俺は、その場から動かずに切り払う。

 

 

 ―――少し様子見するか。

 

 

◆◇◆

 

 

 

『おらぁ!どうした!そんなもんかよぉぉぉ!』

「―――」

 

 リオンは一度アロガンツから降りて、控室から闘技場までの通路で二人の戦いを見ていた。

 横に居るルクシオンは万が一の為、周囲から見えないよう偽装術式を発動している。

 

 

「ルクシオン、どうだ?」

『傍から見ればグレッグが押しているように見えますが、ヴァンは決闘開始から一歩も動いておりません。おそらく攻撃の癖を見極めているのでしょう』

「……ただでさえゲームの中では能力が高い代わりに、武器に対して変なプライドがあったから弱かったのに、本人の能力差でさえ勝ててないとか皮肉だよな。ザマァ」

 

 リオンの視線の先では、グレッグが槍で果敢に攻め立てているのを涼しい顔で打ち払うヴァンの姿が。

 最初こそグレッグも気づいていなかったものの、直ぐに自身が遊ばれているという事実に気づいて憤慨する。

 

 

『くそ…!お前、俺のことを馬鹿にしやがって! さっさと本気で来やがれ!』

「いや、別に手を抜いたつもりは無いんだが……。まあいい、なら次は―――こっちの番だな」

 

 

 そう言いながらヴァンが蛮刀の刀身を見せつけるように構え、上へと角度を僅かにずらす。

 刀身に太陽の光が反射し、照り返した光が一瞬だけグレッグの視界を塞いだ。

 思考の外からの攻撃に驚き、何が起きたのかを完全に理解するまでに時間を要したグレッグは一度距離を取っていたヴァンの接近を許してしまう。

 

 

『なっ!?くそ、お前卑怯だぞ!!』

「卑怯じゃない。お前こそ、戦いをお遊びの模擬戦か何かと勘違いしてるんじゃないよな!」

 

 

 槍と剣の鍔迫り合いが一瞬起こるが、反応の遅れたグレッグの姿勢が悪かったのと、純粋な鎧の膂力の差でダンにグレッグの鎧が吹き飛ばされる。

 槍も柄が中心で両断されており、槍のメリットであるリーチの差は機能しなくなっていた。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 一方で、皇子側の観客席で状況を見守っていた彼女、マリエ・フォウ・ラーファンの様子はと言うと―――

 

 

『(え嘘何でなんでなんで!?どうして!?ドウシテ!?………もしかしてこの世界、『アルトリーベ』原作じゃないの!?―――なんでバリバリの他作品キャラが居るのよぉぉぉ!?)』

 

 

 動揺していた。

 というかかなりパニクっていた。

 

 

 今のリオン達には知る由もないが、彼女も前世を持つ転生者であり、原作知識を用いて原作主人公のイベントを先回りして実行し、ゲームでは序盤にもかわらず攻略対象の五人(五馬鹿)全てとの逆ハーをなし得た猛者である。

 

 

 そうして原作の展開を進めていたらこの始末。

 本来名すら登場しないモブであるリオンの台頭。

 登場云々どころか、なんでお前いんの状態のヴァン。

 

 

 バタフライエフェクト此処に極まれり。

 

 

『(最初に出てきた時は知らないモブだと思ってたけど、あの服と鎧でようやく分かったわ! モブどころかあの頭お花畑以上にやばい主人公じゃない! あのキャラが出てたアニメとかゲーム、昔兄貴の横で一緒に見た記憶があるから何となくは覚えてるけど、マジで何で居るのよ!? あの会社この作品でソシャゲとかして無かったでしょ!?)』

 

 

 なまじ中途半端に知識があった故に、リオンの鎧を見てから薄っすらとあった焦燥感が高まっていく。

 主人公を騙る仮面が本気で外れかけ、場所が場所ならなりふり構わずに泣き叫びたい程には、その瞬間の彼女の混乱は増し切っていた。

 そしてそのマリエの様子を見て、何をトチ狂ったのかグレッグの心配をしているのではと勘違いしたユリウスが、マリエに柔らかな表情で声をかける。

 

「グレッグの心配をしているのか?大丈夫、あいつの実力は本物だ。そんな簡単に負けやしないさ」

『(……いやいや無理に決まってるでしょ!? あのモブ男…?は兎も角、アレは半分お遊びみたいなこの世界と違って、ゴリゴリの戦闘モノの出身よ!? ボコられて終わりに決まってるでしょ! てかもう八割方負けてるし、ユリウス殿下って本当に目ついてるの!?)』

 

 心の中とはいえ、割と散々な言い様である。

 だが実際問題マリエの指摘は正しく、最初の勢いは完全にヴァンの手へと移っていた。

 

 

◆◇◆

 

 

 ……まさか此処までとは。

 

 実を言うと、実力派の実践主義を謳っていたこいつはかなり強いと踏んでいた身としては、期待外れだったというのが率直な感想だ。

 確かに動きは良い。

 突きは鋭いしフェイントも織り交ぜてくるのだが、如何せんそれだけなので動きが比較的単調である。

 だから先読みもかなりしやすいし、最初にある程度の動きを見たかいがあった訳だが。

 

 

 でもこれなら普通に兄貴の方が強いしなあ……

 

 

「こんなもんか……」

『あぁ!?くそ、舐めやがって!』

 

 

 無意識の呟きが聞こえていたらしく、怒ったグレッグの攻撃が激しくなるが、視野が狭くなっているのか前以上に単調な攻撃となり、対処は容易だった。

 グレッグが短くなった槍を握る片手で突きの姿勢を取ろうとした瞬間、それよりも早く刃を走らせて槍とついでに右腕を地面へとはたき落とす。

 

 呆気なく腕を落とされた事実に対して僅かに動揺していたが、すぐに左腕でダンの頭部目掛けてストレートを放ってくる。

 

「そんなの食らうかよ!」

『くっそぉぉぉぉぉ!!』

 

 蛮刀を握った右腕でガードすると、今度は右足で蹴りを入れようとしてきたので左足で同じく蹴りを放って相殺―――しようと思ったのだが、衝撃に耐えられなかったのかグレッグの鎧の右足が砕け散る。

 まあ結果オーライと言う事で、蛮刀の背部に装備されている小刀を左腕で抜刀。

 そのまま左足の人間で言う所のふくらはぎ辺りに小刀を突き刺すと、両足を失い体勢が崩れる。

 

 

『そうやっていたぶって楽しいか! 搦め手ばかり使いやがって……! 騎士なら騎士らしく戦いやがれ! 結局は鎧のおかげで勝っているくせに!』

「ああ、そうか。じゃあもう終わりだから早く降参してくれ」

『何だと……!』

 

 

 鎧のお陰……か。

 まあ否定はしないが、そこまで鎧任せの戦いをしていた覚えも無いのだが。

 なんかもう救いようが無いからこれ以上話したくなくて、降参を推奨したのだが、返ってそれがこいつの神経を逆撫でしてしまったらしい。

 鎧から出てきたかと思えば、折れて丁度いい長さとなった鎧用の槍を握っている。

 

 

『ふざけんなっ! 俺はまだ負けていない。こうなったら死ぬまで戦ってやるよ!』

「はあ?まさかとは思うがお前、本気で鎧のせいで負けたと思ってるのか?」

『違うと言うのなら鎧から降りて来い!お前自身の力を見せてみろ!』

 

 マジかよそう来たか。

 結構な我儘を仰るようで。

 そもそもこれ鎧の決闘だからもう俺の勝ちだと思うんだが、この手の奴は本気で分からせないと五月蠅いやつだ。

 まあこれで最後だし―――

 

 

「審判。ここで俺が鎧から降りても違反にはならないな?」

『え、ええ……構いませんが……』

「よし」

 

 

 審判からの許可は得た。

 膝を付かせたダンからひらりと飛び降り、槍を握ったグレッグと対峙する。

 その目は血走っており、もう会話は出来そうに無い。

 

 勝負は一瞬だった。

 

 

「うわぁあぁァぁァぁあぁアぁァあッッッ!!」

「――」

 

 

 槍を両手で握り、叫びながら俺目掛けて走って最速の突きを繰り出そうとするグレッグ。

 俺がその間合いに入ろうとする直前、俺は蛮刀を鞭のように伸ばし、グレッグの槍を掴み取って真反対に投げ飛ばす。

 そして得物を失って無手となったグレッグの懐へと最速の動きで潜り込み―――

 

 

「がっ―――」

 

 

 チリン、とリングの音を鳴らしながらグレッグの顎辺りを思い切りアッパーで殴り飛ばした。

 衝撃で脳を揺らされて、抵抗する間もなく意識を手放したグレッグは白目を向いたまま崩れ落ちる。

 完全にグレッグが気絶したのを見て、覇気のない審判の声が響いた。

 

 

『……勝者、ヴァン・フォウ・エルブレイブ。両者の健闘に拍手を!』

 

 

 パラパラとした拍手が俺たちに送られていた。

 リオンが一際大きな拍手をしていたのが印象に残る。

 まあ最後の一撃を普通に喰らえば、まず間違いなく死んでいたので、今は勝利の余韻に浸るとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 





鎧が駄目なら素の実力差で理解(わか)らせればいいじゃない。


ヴァン:話に付き合う必要は無い。
 彼ら相手なら普通に会話するよりも、もはや肉体言語の方が数億倍マトモな会話が出来るだろう。
 そう考えて実行した。結果は言わずもがな。
 


それでは、前回高評価をしてくださった、

【☆9】

HAWU氏さん、ACPφさん、ナイトアーツさん、マカロニサラダさん、〇米3さん、室伏周平さん、翔悟さん、Klantzさん、とりにくSTRさん、ただコナさん、SCP-███-██さん、下Heyヘさん、dekさん、神神神さん、ティクワ大明神さん、ぺちぷにさん

ありがとうございますm(_ _)m


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