係員がズタズタの鎧の中から緑を回収する。
見た感じ命に別状は無さそうだが気絶していて、全治一週間程度の怪我を負っていた。
……あれだけ言ったのだ。
流石にこれで性懲りも無く圧力を掛けてくる程に愚かではあるまい。
腐っても一流貴族の一員なのだから。
再び数分のインターバルを挟んだ後、最後の試合である皇子とリオンの決闘が幕を開ける。
ちなみに俺は、既に今日の役目を終えたダンを空の上へと帰還させているので、手元に鎧はもうない。
その時はやけに会場全体が唖然としていたが。
『まさかお前達の何方も欠けずに、俺まで順番が回ってくるとは思わなかった。その奮闘に敬意を表しよう』
皇子はこの絶望的な状況の中でも落ち着いていて、その毅然とした態度を崩さなかった。
しかし、周囲は皇子が勝つとは思っていない様で、その声は完全に絶望一色に染まり切っている。
『もうダメだ、おしまいだぁ……』
『いくら皇子でも二対一だぞ…。俺、この決闘に全財産賭けたのに……』
『バルトファルトは兎も角、あの強さのエルブレイブに勝てる訳が無いわ……』
弾丸を切り裂いたり、竜巻並みの強風を起こしたのがかなり印象に残ったようで、何故か俺がどうあがいても絶望の化け物みたいな扱いを受けている。
些か心外だが、もし俺があの時問答無用で緑を瞬殺していたらどうなったのかという興味も―――いや、無いな。
既に終わったことを掘り返す必要も無い。
「おいおい、お前等もうお通夜ムードかよ。つまんねー」
リオンはまだ自分が不完全燃焼なのに、この既に終わった感じが嫌らしく、露骨に不満そうな声を上げる。
まあ二試合とも一瞬で終わらせてたしな。
だが直後、閃いたと言わんばかりに手を叩き、観客席含む周囲全体に煽り口調全開の大声で呼びかけた。
「みんなー?賭けに負けそうで怖いんだろー?可哀想だねぇ。でも味気ないから、君達にハンデをあげよう! この試合、もし仮に万が一俺が負けたら―――ヴァンも決闘を辞退する! いやぁ、良かったね!もし王子が勝てばお前達の勝ちだよ!」
『―――!』
「……は?」
―――待て。
そんな事何も聞いてないんだが、思いつきか?
やはり俺以外も初耳だったらしく、アンジェリカが「お前は正気か!?」と驚き果てていた。
それに対し審判は、困ったような声を出しながら俺の方を見てきた。
『ええと、本人の了承があれば可能ですが……』
「そこで振ってくるのか……」
おびただしい数の視線が突き刺さる。
審判の教師の声にも、お前は空気を読め的な意志が込められていたような気さえする。
正直言って俺にメリットは無いのだが、ここで頷かないと周囲の恨み辛みが俺の方にまで向いてきてしまう。
ダンも戻した以上、今の俺には頷くという選択肢しか存在していないような物だった。
『……承認を得ました。ただ今から特別ルールとして、リオン・フォウ・バルトファルトが敗退した場合、ヴァン・フォウ・エルブレイブは強制的に棄権する物とします!』
俺が静かに頷き、審判が特例措置を決めると、先程の暗い雰囲気が嘘だったかのように会場が殺気立つ。
絶望の渦中にいる中垂らされた、一筋の希望の糸。
それに縋らない者は居ない。
『王子ーッ!』
『頑張ってぇぇぇッ!』
『その田舎者を倒してくれぇぇぇッ!!』
熱の籠もった声援が送られる中、王子は少し不満そうに鼻を鳴らす。
『……フン、俺のことを愚弄する気か?』
「別に良いだろハンデあげるって言ってんだから。それに相手が勝確の雑魚だし……ねぇ…?」
『……』
リオンが煽るが皇子の反応は薄い。
左手に大盾を、そして右手に剣を持った。
随分と華美な見た目をした白い鎧は、正しく王族の専用機といった風体を醸し出している。
「殿下、一つ質問をよろしいですか?」
『俺に答えられることなら』
「特待生のオリヴィアさんをどう思います?」
……何故、そんな質問を?
ああアレか、あの主人公と攻略対象が云々。正直殆どそのこと忘れてたから全然気にしてなかった。
やはりと言うか、当然皇子の反応は薄かった。
何故、そんな質問をされるのか分からないから。
『あの特待生はオリヴィアというのか? 頑張っていると聞いているが、それがどうした?』
「……そうですか」
審判が開始の合図を告げた。
『はじめっ!』
◆◇◆
―――戦況はやはり、リオンが優勢。
だが腐っても王族のエリート。
前の二人に比べても、かなり善戦している。
皇子が怒濤の攻撃をしてリオンを押していると、周囲からは凄まじい熱のこもった声援が送られていた。
……自分の為に必死とも言えるが。
『俺は負けられない。俺の勝利を願ってくれる彼女のためにも――負けられないんだぁぁぁ!』
鎧の背部から翼のような青い炎が噴射される。
その優美な見た目と相まって、一撃一撃に気迫が籠もっているのが見て取れた。
やはり本人の技量だけならば、俺達の知る以前から訓練を重ねていたであろう皇子の方が上だろう。
「王太子殿下、流石ですね。前の四人より随分と気迫が違いますよ。……やっぱり、前の四人は心の中で思っていたんじゃないですか? 一人減れば自分とマリエちゃんの時間が増えるから、殿下消えてくれないかな、って!」
『戯れ言を言うな! お前に俺たちの何が分かる!』
「何も分かりませんけどね。このままが良いとは思えないんですよ」
背部の青い炎が更に強くなり、勢いを増していく。
リオンの鎧との間にある圧倒的な性能差を覆そうと、鎧にかなりの負担を掛けているのが分かった。
「殿下、真剣に他者を愛するってどういう気持ちですか? 俺、そういう気持ちが分からないんですよね」
……言われてみれば、それは俺も分からない。
今まで俺は、
だが、本当にソレを経験した者と比べれば、その思いの丈も俺とは雲泥の差なのだろう。
『だろうな、だから他人の邪魔が平気で出来る。本当に誰かを愛したことがあるのなら、こんな騒ぎなど起こさないはずだ! 本当に愛しているのなら、潔く身を引けば良い!』
「それってアンジェリカさんのこと言ってます? いや~、彼女は殿下のことを愛していると思いますよ」
『――じゃない』
背中の炎が今までで一番の勢いで噴射され、既に限界が近いであろう皇子の鎧はもう1段階スピードを上げた。
他の四人とは比べ物にならない程に素早く移動して、果敢にアロガンツに斬りかかる。
『あいつの気持ちが愛である訳がない! あいつは俺の気持ちなど察しなかった! 所詮は王宮の女と同じだ。俺に王族としての生き方を強要する! 俺は王族として生まれたくなどはなかった。誰も俺自身を見ない王宮での生活など――』
「いやいや―――」
―――それを自分で言えよ。
思わずそう言いそうになったが、万が一皇子に聞かれると余計にややこしくなるので黙っておく。
だが、相手の気持ちの全てを察するなんてことは、余程親しい相手でも早々出来る物じゃない。
彼女は婚約者であそこまで奴のことを想っているのなら、それを言えばきっとある程度は変わっただろうに。
『マリエだけが、俺の気持ちに気づいてくれた!』
大方、自分から何かしなくても全てが与えられる王族としての生活に慣れてしまったせいで、無意識的に自分から主張する考えが薄れてしまっていたのだろう。
だからこそ、何も言わずとも自身を理解したというマリエに彼処まで入れ込むようになってしまった。
……何でそのマリエとやらは、恐らく初対面の段階から皇子のことを知っていたのかが分からないが。
『偉そうなことを言っているお前も同じだ! お前の言葉は薄っぺらいんだ! 今のお前は、大きな力を手に入れて傲慢になっているだけだ! 楽しいか? それだけの力で他を圧倒し、挙句の果てには自分の仲間をダシにしてまで、上から目線で説教する気分は―――どんな気持ちだ!』
「―――最高だね!!」
『なっ!?』
アロガンツが皇子の鎧を蹴り飛ばした。
後ろに吹き飛ぶ瞬間に、両肩のキャノンで砲撃されたが防御姿勢さえ取らずとも、アロガンツには傷一つついていない。
「もう最高の気分だよ! あれだけ威張り散らしていたお前らを、圧倒的な力でねじ伏せて説教してると思うと気分が晴れる。言い返せないお前のお仲間もどうかと思うけどさ。まぁ、負けた癖に言い返すしか出来ない姿も惨めさを誘うだけだよな! それになぁ、俺は確かに傲慢だが、お前らはそんな俺にも勝てない訳だ。その辺の気持ちはどうだ? 格下に見ていた奴に負ける気分はどうですか、王子様!」
『貴様はぁぁぁ!』
激昂した皇子がアロガンツへと突貫する。
アロガンツは左手を振りかぶり、盾を殴りつけると皇子の鎧は左手に限界が来たのか煙を噴いていた。
皇子はひしゃげて使い物にならなくなった盾を捨てる。
「それから一つ言っておく。お前の気持ちなんか知るかよ、ば~か! 大体、お前は俺の気持ちが分かるのかよ! それにアンジェリカさんの気持ちだって――」
『黙れぇぇぇっ!!』
皇子は叫びながら斬りかかり、それに対してアロガンツはスコップで鍔迫り合いを行い、頭部を付き合わせる。
傍から見ると体格差も相まって、皇子の鎧がアロガンツに覆いかぶさられているようにしか見えない。
「何が王族に生まれたくなかった、だ。――お前、変態婆に売られそうになったことがあるのかよ……?」
『な……!?』
「女子にペコペコ頭を下げて、嫁に来てくださいって頼んだ経験は? 田舎は嫌だとか、愛人も支援しろと言われたことは!? 惨めだぞ。結婚して生活の支援を全てするのに、愛は愛人と育むとか言われた俺達の気持ちが分かるかぁぁぁッ!!」
何処からともなく啜り泣く様な声が聞こえてくる。
辺りを見回してみると、ぽつぽつと強く頷いていたり、涙を流してリオンの言葉に同意している男子たちの姿が見えた。
……実際に経験したのか。俺からはもうご愁傷さまとしか言えない。
『そ、そんな事がどうしたというのだ! お前らは自由じゃないか! 良い相手を見つければ良いだけだ!』
アロガンツの攻撃が激しくなる。
連続でスコップで殴りつけられて、中に居る皇子は苦悶の声を漏らしていた。
「自由!?自由だって!? 俺みたいに必死に生きてきた男が自由! それに良い相手を見つけろだって?―――馬鹿にするなよ、このボンボン野郎! お前、純潔の危機を感じながら! 命がけで! 小さな船で! 空に船出が出来るのかよ! あんな美人な婚約者がいて、他の女と遊んでいるのも許されて……何が王族に生まれたくなかった、だ。エンジョイしまくりじゃないか!一度田舎貴族になって出直してこい!」
『遊びではない! 本気だ!』
「なお悪いわ!」
果たしてどの辺りまで本気なのだろうか。全部?
皇子の一つ前の発言に関してだが、皇子の言うように良い相手が簡単に見つかるのなら、観客席の男子に泣く理由は無いし、ここまでリオンはキレて無いんだよな。
皇子の主張的に、間違いなく皇子としてよりも平民として生を受けたほうがマシだっただろう。
「はぁ……もういいだろう? 遊びは終わり。お前の相手はあっち。分かった?」
既に片腕は破壊され、武器の弾薬も尽きた皇子に対して、リオンは親指で観客席の――アンジェリカを指さしていた。
彼女は悲しそうな顔をしていたが、身を乗り出して皇子自身の言葉を待っている。
―――強いな。
きっと辛い筈なのに、それでも目を逸らさずにいる。
『……まだだ』
「は?」
『まだ終わっていない。マリエを奪われるくらいなら死んだ方がマシだ! 俺は絶対に負けを認めない。殺すなら殺せ! これは決闘だ! 俺かお前が死ぬまでこの決闘を止めることを禁ずる!』
要は最後の意地―――か。
王族なんか嫌だと言っていた自分を曲げて、王権を濫用するまでにマリエと居たいと言うのなら、その気持ちだけは認めるに値するのかもしれない。
あくまで気持ちだけだが。
それに―――
経緯はどうあれ、自分を曲げた皇子にはもう―――
「ま、間違っています!」
突如としてオリヴィアが観客席から立ち上がり、声を張り上げる。
「確かに王太子殿下はマリエさんを愛しているかも知れません。でも、アンジェリカさんだって王太子殿下を愛しています! だって、ずっと、ずっと苦しそうにこの戦いを見守っているんですよ! 見ているのも辛いのに、目を背けないで悲しそうに見ているんです! それを愛じゃないなんて言わないでください!」
それを見たアンジェリカが焦ってオリヴィアを止めようとする。
「お、おい、止めろ」
恐らく興奮状態に陥っている彼女こ肩を摑んで引き下がらせようとするが、オリヴィアは止まらなかった。
よく通り、そして人を惹き付ける声で叫ぶ。
闘技場内にいる観客――生徒や教師たち、その全てが言葉を発すること無く、彼女へと視線を向けていた。
「どうして否定するんですか! 相思相愛でなければ愛じゃないんですか?」
「良いから止めろ。オリヴィア、もう止せ!」
「いいえ、言わせて貰います。アンジェリカさんの気持ちは愛です。受け取る、受け取らないは本人の自由です。けど、否定なんてしないでください!」
それだけ言い切って、辺りには沈黙が訪れる。
……不思議な、声だった。
彼女が何もしなくとも、そこに居るだけで皆を惹き付けるような、透き通るような声。
最低でも
そしてこの沈黙を破ったのは―――皇子だった。
『言いたいことはそれだけか―――女』
ユリウスが声を絞り出している。
鎧の中から喋っているので声がくぐもっていて、明瞭に聞き取る事が出来ないが、ユリウスはオリヴィアに言い返した。
その口調は何処か怒気を孕んでいる。
『一方的に押しつけるのが愛だと? 俺を王子としか見ていないその女の気持ちが愛? 俺は……俺個人を見てくれる女性を見つけた。そして分かったんだ。これが愛だ。これこそが愛だ! アンジェリカ、お前は俺を理解しようとしたか? お前の気持ちは押しつけだ。愛じゃない。もう、二度と俺に関わるな!』
気持ちの押し付け――ねぇ。
緑にも似たようなことを言った気がするが、一体どっちがどっちに似たんだろうな。
類友で仲良くなったから元からとかか?
『さぁ、続きを始めようか。どちらかが死ぬまでこの決闘は終わらない。俺は覚悟を決めたぞ。お前はどうだ!』
そういう皇子の鎧は既に小破しており、とてもじゃないがマトモな戦闘が出来るとは思えなかった。
さてはこの雰囲気に任せたゴリ押しでもする気か?
あの状況で打てる策としてはマシなのかもしれない。
―――少々相手が悪かったと思うが。
「覚悟を決めた、ですか? つまり今まで覚悟もなく戦っていたとでも? 負けそうになってようやく決める覚悟ってなんですか、馬鹿にしているんですか? というかさぁ……決闘って元からそういうものだから。学園内の暗黙のルールがあるから命は取らなかっただけで、俺やヴァンが本気になったらお前等ごときすぐに終わっていたんだよ。気が付かなかったの? これなら俺一人だけで五人同時に相手にしても良かったわ。その方が楽に終わったし。自分たちの方が強いって自信満々にしていたから警戒したけど、想像以上の弱さだったよ。ほんと勘弁してよ。だってこれだと……俺が弱い者いじめをしているみたいじゃないか」
リオンが長々と口煩く説教をする。
揚げ足取りに加え、徹底的に五人を虚仮にしていた。
だがこれだけでは終わらない。
「要は今まで覚悟が決まってなかったけど、ボロボロになって負けそうだから覚悟が出来た、ですか。……自分の命を盾にして勝ちを得ようとする執念は認めますよ。だけど、こう言えば俺が引くんだろうな、って淡い期待があるのが見え見えなせいでドン引きですけどね。流石に俺も王太子殿下は殺せないし負けを認めてあげようかな。良かったね! 君は王太子殿下だから戦いに勝利するんだよ。王子として生まれたくなかったと言いながら、立場を最大限に利用するその強かさは賞賛に値しますよ」
その時、闘技場内にいる全員が思っただろう。
―――こいつ最低だ、と。
大丈夫、俺も思ったから。
いくら
理由の一つに、言っても無駄というのもあるのだが。
「ほら、負けてくださいって言えよ。僕は大好きなマリエちゃんと離れたくないから、勝たせてくださいってお願いしろよ」
『で、出来るわけがないだろう! これは神聖な決闘だ。互いに全力で戦うのが礼儀だ!』
「え? 気を利かせてお前が負けを認めろ、って? ちょ、それはきついっすわ~。どう見てもここで負けを認めたら神聖な決闘の侮辱じゃないですか~。ここからどうやっても逆転できそうにないし。 それとも俺の気持ちを動かすような名演説でもはじめます? まぁ、心が動かされるとは絶対に思いませんけどね。五人が五人とも、聞いていて首をかしげたくなる戯言ばかり。俺の心は一ミリも動かされませんでしたよ。逆にここまで嘘くさい台詞をよく言えると感心しましたけどね」
一度は回復した闘技場の雰囲気も、今や見る影はない。
リオンにかなりの不満が募っている。
女子のほとんど、そして男子さえも、リオンに罵声を浴びせていた。
アロガンツが皇子の鎧に組み付いた。
俺達には聞こえない程度の声量で、先程から何かを話し合っている。
「やっぱ―――地――捨て―――ですか?」
『愚かだ―――か? だが、それだけの―――。地位や名誉も―――い。あいつだけ―――れればそ―――』
途切れ途切れになっていて、肝心の所が聞こえない。
でも今までの話から推測するに、彼女と一緒に居るためなら地位や名誉など要らない、とかだろう。
そう考えていると、再び二人の声量が大きくなり、ここまで聞こえるようになる。
『そんな事はない! マリエは必ず付いてきてくれる。俺は――俺たちはマリエさえいてくれれば―――!!』
「それは良かったですね。でも、負けるんだから今後は付き合いを遠慮してください」
スコップが皇子の鎧を強打。
鎧がへこみ、そして中にいる皇子は衝撃によって大きく揺らされ体勢を崩した。
その隙にスコップを捨てたリオンが懐に入り込み、手のひらを鎧へと当てる。
そして―――
『インパクト』
白い光と共に衝撃が起きて、鎧が粉々に吹き飛んだ。
一瞬でバラバラになった鎧に、観客たちは絶叫する。
静まりかえる闘技場。
リオンが審判に視線を送ると、審判は勝利宣言の前に医者を送ってきて殿下の安全を確認している。
幸い、気を失っているだけだと分かると項垂れるように勝者を宣言した。
『勝者、リオン・フォウ・バルトファルト――よって、決闘の勝者はアンジェリカ・ラファ・レッドグレイブ。両者、決闘の誓いに則り――』
決闘に負けた方は勝者に従えと言い終了が宣言された。
一瞬唖然とする観客達だが、次の瞬間―――闘技場内には殿下たちに賭けた証拠の青い札が舞い、辺り一面が絶叫と罵声が入り交じる地獄のような空間と化した。
「金返せ!」
「インチキだ! こんな決闘が認められるものか!」
「返してよ。私のお金を返してよ!」
リオンは肩にスコップを担ぎ、そのまま会場内をゆっくり飛行して観客たちの顔を録画して回っていた。
「みんな―――賭け事は程々にね!」
観客席から大量のゴミを投げつけられていた。
しかし、リオンは華麗にそれらを避けながら高笑いをしてオリヴィア達の所に戻っていた。
一応俺もそちらへと向かう。
リオンがボックスの中に鎧を戻すと、鎧が収納されてボックスは空へと戻っていった。
……あいつもダンと似たようなことが出来るのか。
「どうですか、お嬢様。見事に勝ってまいりましたよ」
「……そうだな。礼を言おう」
複雑そうな顔をしていた。
少なくとも代理人の使命を全うした人に対して、礼を言うような顔ではない。
表情は青く、皇子の安否を気にしている様子だった。
リオンは真顔で告げる。
「怪我はさせていない。気を失っているだけなのは本当だよ」
「あ、あの、これで本当に良かったんですか? 周りの方たちの視線が……」
そう不安そうに言うオリヴィア。
どうやら周囲を見て危機感を覚えたらしい。
俺達二人を射殺さんばかりに睨み付けてくる生徒たち。
つまらない罵声を浴びせてくる奴や、絶望のあまり泣いている奴もいた。
「身から出た錆だよ。言わせておけ」
「そそ、放置で良いよ。あいつらは賭け事で全財産をすったんだ。自業自得。良い勉強になったことだし、授業料と割り切って貰うさ」
アンジェリカが溜息を吐く。
「よく言う。こうなると分かって自分に大金を賭けたんだろうが。……今回の件、助かった。ありがとう。礼は後でする。私は殿下の所へ向かう」
アンジェリカがその場を足早に離れていくのを見て、取り残された俺達は控室へと戻るのだった。
「……リオンさん、どうしてあんなに酷いことを殿下たちに言ったんですか? 黙っている方が良かったですよね?」
その道すがらオリヴィアがリオンと話をしていたのだが、俺から見るにオリヴィアは、リオンに対して過剰とも言える信頼を抱いている。
まあ誰からも蔑まれて相手にされない中、手を差し伸べてくれた相手だから仕方無いか。
この前も一緒に勉強会したとか言ってたし。
俺は『KYのヴァン』と呼ばれることもある。
だから極力二人の邪魔はしないようにしよう。
「ヴァンよりも出来るだけ俺にヘイトが集まる方が良かったから。それだけだね」
「良いんですか? あ、あの、結婚とかこの先不安になると思うんですけど」
そう問うオリヴィアに対し、リオンはなんてことないように真顔で返した。
「あぁ、それは全然大丈夫。少なくとも、俺は退学になるだろうし」
「そう言えばそうだな。なら俺も退学か」
その言葉に頷き、相槌を打つ。
俺達から突然言われた真実についていけないオリヴィアは、「―――え?」と間の抜けた声を出していた。
※KYのヴァンのKYは、『
今回は介入ポイントが無いからほぼ原作通り。
大体空賊退治辺りまでは原作沿いだと思われ。
それでは、前回高評価をしてくださった、
【☆9】
翔悟さん、メルギアさん、新居 輝さん、A-kiそん、づらさん、光の亡者予備軍さん、チキサさん、室伏周平さん、螺旋Ω阿里亜さん
ありがとうございますm(_ _)m
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