乙女ゲーの世界で『ウェイクアップ』と叫んだ男   作:R1zA

19 / 22
ep.XⅧ「その緑に用がある」

 

 

「……めっちゃ好みだったのに」

 

 膝を抱えて椅子に座り、無念そうに言うリオン。

 あの後ゴミ箱から出ると、やはり幾つかの割れた皿などの破片が刺さって中々グロい光景になっていたが、オリヴィアの回復魔法によって傷は塞がり元通りになっている。

 そしてこれは先程の発言が本気だったという事の裏付けでもあるが、アンジェリカはそれを見て呆れていた。

 

「この阿呆が。どこの国に自国の王妃を口説く騎士がいるというのか」

 

 どこぞの島国の某裏切りの騎士を始めとして、こことは違う世界などでは案外居るものなのだが、どのみち褒められた事では無いのでこれ以上は止めておこう。

 今部屋には、俺とリオンにオリヴィアとアンジェリカが居るのだが、オリヴィアは俯いていて二人の会話に入ろうとせず、女性陣二人の間にはどこかぎこちない態度が見え隠れしている。

 

 

 俺は部屋の壁に寄りかかって腕を組み、二、三歩後ろ辺りの距離感からその微妙な雰囲気の二人を見ていた。

 

 

 頼りになりそうなルーカス先生は既に仕事に戻っており、ダニエルとレイモンドも気を遣ってか席を外している。

 俺もこれに関しては何も出来ないので、リオンに頑張って貰うか二人が自然に解決する以外の方法は無い。

 ただ、それまでにどれほどの時間がかかるだろうかという懸念もあった。

 

 

 そんなことを考えていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえてくる。

 

 

「あの~、もう良いですか?」

 

 

 その女子は、初めて見る顔だった。

 他の女子のように嫌がらせをしに来た訳では無さそうだが、あの一騒動の後に接客する気力が残っているかと聞かれれば、否である。

 多分リオンは来年もやると思うから、今年はもう諦めてくれ。

 

 

「今日は俺の心も身体も限界なので閉店です」

「また来年お越しください」

「え、えっと、それだと困るんですけど。オリヴィアさん、お願いできない?」

 

 

 どうやらこいつはオリヴィアの知り合いらしい。

 立場の都合上話し相手が居なかったオリヴィアも、ついに他に友達が出来たのかと思っていると、オリヴィアが顔を上げて俺達にお願いしてくる。

 

 

「そ、その……新しいお友達です。カーラさんです。リオンさんと、ヴァンさんを紹介して欲しいと言われて」

 

 

 『紹介する』と、オリヴィアは言った。

 普通に考えれば別に何てことのないものだが、ここは多くの貴族の子供が通う学園。

 権力や力関係、面子までもが複雑に絡み合ったこの場では、その単語だけでも警戒に値する物である。

 

 案の定アンジェリカは険しい目でカーラを見ており、カーラという女子はその視線に怯えながらも室内に入ってくる。

 

「カーラ・フォウ・ウェインです。男爵様方、お見知りおきを」

 

 ウェイン家。

 その名を聞いた途端、リオンは今まで膝を抱えていた姿勢を戻して真剣な表情となる。

 アンジェリカは已然としてカーラを睨み続けている。

 

 ―――え、誰? この娘そんな危険人物なの?

 俺はウェイン家という名自体はどこかで目にした覚えがあるが、それが何なのかを詳しく把握していなかった。

 この場合は俺が何も知らないというよりかは、アンジェリカとリオンが勤勉過ぎるだけだとも思うのだが。

 

「え、えっと、普通クラスの生徒さんで、学園祭を一緒に回って貰って」

 

 この知ってて当然の様な雰囲気に水を差すのもアレなので、俺もいかにも全て分かってます、といった感じのオーラを出しておく。

 ―――これは後でリオンから聞いたのだが、ウェイン家は先程の女子の家……()()()()()()()()()()らしい。

 だからそれを知っていた二人は、オフリーの差し金だと思って警戒していたようだ。

 

「……わざわざリビアに紹介させた理由を聞いても良いかな?」

 

 オリヴィアがいつもとリオンの雰囲気が違うと察したのか困惑している。

 今は俺と同じ何も知らない組―――いや、彼女は貴族間の腹芸とも縁が無いのだからそれ以上か。

 

「あ、分かりますか? 流石は出世頭ですね。そっちも気付いているみたいですし、他の男子とは大違いですよ」

「それはどうも」

「……」

 

 白々しくそう言う彼女に対し、リオンはぶっきらぼうに返事を返し、俺は軽く会釈した。

 オリヴィアがアンジェリカに助けを求めるように視線を向けるが、すぐに視線を落としていた。アンジェリカも何か言いたそうにしているが、口を閉じて俯く。

 代わりにリオンに尋ねることにしたらしい。

 

「リオンさん、いったいどうしたんですか? なんだかいつもと雰囲気が――」

「ちょっと黙っていてねオリヴィアさん。これから割と大事な話をしたいから」

 

 本性を表したとでも言うべきか、カーラの冷たい態度にオリヴィアはショックを受けている。

 少なくともこれでリオンからの印象は最悪になっただろうが、その事実には気付いているのだろうか。

 

「男爵……私を、ウェイン家を、いえ――私たちをお救いください」

 

 アンジェリカが彼女を睨む理由……それは、俺達に頼ってきたと分かったからだ。

 頭を垂れる彼女を見て、俺はまた厄介な事に巻き込まれたのだという事実を再確認した。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 二日目。

 昨日色々あった影響か、今日は嘘みたいに平和だった。当然、客は一人も来なかった。

 

 昨日はあの後、先に返ってしまったオリヴィアとアンジェリカ以外の四人で打ち上げをして、夜にはリオンの部屋で作戦会議をした。

 

 ……結論から言えば、カーラが持って来た空賊退治の依頼は受けることにした。

 俺も入学前に空賊討伐の実績があるということで、些か過剰戦力な気もするが参加することになった。

 なんでもリオン曰く、ゲームではその空賊達がオリヴィアを聖女にする為のキーアイテムの一つを持っているようで、それを回収するためらしい。

 

 やけにオリヴィアが聖女になるのを重要視しているリオンだったが、それはその内訪れる『戦争パート』とやらで、オリヴィアの力が無いとルクシオン込みでも詰みに近い状況に持っていかれるからだそうだ。

 話を聞く限り、既に俺達(エルブレイブ)やリオンなどのイレギュラーが溢れかえっている中でその通りに未来が進むと考えているのはやや迂闊だと思ったが。

 

 そして当のオリヴィアはというと……

 

「あの二人、大丈夫かな?」

「あんな奴らの言葉なんか、気にしなくていいのに」

 

 ダニエルとレイモンドの視線の先には、どこかお互いにたどたどしい態度で仕事をするオリヴィアとアンジェリカが。

 昨日のオフリー伯爵とやらに言われたことを引き摺っているようで、二人の間に会話は無い。

 

 

「二人を休憩に出そうか。お前らもいいよな?」

「それがいいだろうな」

「僕も異論はないよ」

「じゃあ今日はもう閉店で……」

「いい訳ねーだろ」

 

 リオンの提案に全員?が頷き、二人を休憩に出すことになった。でも俺の提案は受け入れられず、昨日の分も含めて、抜けた二人の仕事を全て俺がやることになった。

 

 解せぬ。

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 三日目。

 この学園祭の目玉、メインイベントと言って差支えない各競技が行われる日だ。

 俺達は有料のラウンジからそれを見ており、俺はリオンの向かい側のソファーに座っている。

 テーブルの上には、リオンが賭けで稼いだ金貨や銀貨、そして大量の札束が積み上げられていた。

 

「いやー。勝つって楽しいね」

 

 周りに聞こえる程度の声で、そう告げるリオンに対し、賭けに負けた連中は怨嗟の視線を向けていた。

 それにしてもルクシオンの力で結果を予測して確定勝ちって、もうちょっとこう、手心というか……

 

「お前もやれば良かったのにな。今ならルクシオンの力で確定勝利ボーナス付きだぞ」

「やらん。そもそも、金に困ってる訳でも無いしな」

 

 夏休みの間、ダンジョンの深層に一人で潜っては返って潜っては返ってを繰り返していたので、学生のお小遣いとしては十分な額が手元にある。ディア換算で七桁くらいの。

 

 アレだね、深層に出てくるちょっと硬めのモンスターが出る辺りの魔石の換金効率って良いんだな。

 周りに同じ学園の人は誰も居なかったから半ば取り放題みたいな状態だったし。

 

「お前という奴は、本当に周りを煽るのが好きだな」

「あまり賭け事に入れ込むと、いつか痛い目に遭いますよ、リオンさん」

「大丈夫。俺、賭け事最強だから。一回二回くらい負けても問題なし」

 

 実際問題、周囲に居る賭けで大負けした奴等は、勝ち続けるリオンが憎くて仕方ないだろう。

 リオンは今更数人に恨まれた程度では誤差だよって感じの精神なので気にして無さそうだが。

 そんな事を言っていると、丁度やっていたエアバイクレースが終了する。

 結果は当然リオンの賭け通りで、更に積み上げられた金の山が大きくなる。

 

 

「もうホント、笑いが止まらないねぇ!」

「……せめて人間の顔を保て」

 

 

 右手で銭マークを作って笑うリオンの顔は、もう完全に悪役のそれだった。

 アンジェリカもあまりの酷さに指摘する始末。

 

 

 そして次のレースでは、優勝候補と目されているらしい緑……ジルクが出てくるらしい。

 リオンもしっかりジルクに賭けているようだし、この試合の結果は分かりきった様な物か。

 

 そう思って手元に視線を落としていたが、レースが始まった途端に周囲がざわめきだした。

 何事かと思えば、その答えはレース場を見れば一発だった。

 

「ジルクの奴、マークされているな」

 

 一年生でも優秀な選手ならマークされてもおかしくはないが、そのマークのされ方が徹底していたのだ。

 囲まれ、そして機体をぶつけられ―――明らかに悪意を持った攻撃を受けている。

 

 

「ど、どうしてあんな事を? ジルクさんが可哀想です」

 

 

 オリヴィアは困惑していた。

 まあスポーツマンシップの欠片も無いし、普通に考えれば理不尽以外の何者でも無いからな。

 そんな中アンジェリカがジルクを妨害する人達を見て、とあることに気付く。

 

 

「そういうことか。奴等は伯爵令嬢―――クラリスの取り巻き達だ」

「クラリスだって?それって確か―――」

 

 

 ―――レースが中盤から終盤へと移行すると、ジルクが勝負に出て上級生たちの囲みを突破した。

 他の選手と同じバイクとは思えないような機敏な動きで囲みを抜け出し、そのまま加速して次々に他の選手たちを追い抜いていく。

 

「なんかあいつだけ違法改造したバイクみたいだな」

「いや、いくらアレでも流石にそれは……」

 

 ぽつりとリオンが言葉を零す。

 普通なら直ぐに否定の言葉が返ってくる筈なのに、一瞬ありそうと思ってしまうのはジルクの悪い方向の信頼故か。

 

 

 ジルクはギリギリ一位でゴールしていた。

 控室に戻ると、足を抑えて倒れ込んだために医療関係者たちが集まって担架で運んでいく。

 ……折れたか?と思って見ていると、それを見ていたアンジェリカがラウンジから出ようとしていた。

 

「アンジェ、どこに行くんだ?」

「……これでも一年のまとめ役だからな。ジルクの怪我の様子を確認して、必要なら代役を用意する。実行委員と話をするさ」

 

 オリヴィアが付いていこうとするので、俺達も追いかけることにした。

 リオンが急いで丸テーブルの上の札束や金貨をバッグに詰め込んでいた様子が印象に残った。

 

 

◆◇◆

 

 

 医務室にはマリエの声が響いていた。

 

「ジルク〜っ!」

「大丈夫ですよ、マリエさん。私はこの通り無事です」

 

 マリエを心配させまいと笑顔を向けるジルクだが、足の骨自体は完全に折れているようで、安静にしていれば全治三日で治るらしい。

 要は今日あるレースの決勝に、ジルクは出れないということである。

 

 今医務室に居るのは他に、皇子ことユリウスと、マリエの専属使用人【カイル】というエルフの少年がいる。

 他の男子たちは選手として出場するらしいので、この場にはいなかった。

 

 アンジェリカは一年生の実行委員と話をしている。

 

「代役を立てるしかないか」

「で、でも、そうなると選手に誰を充てがうのかが……」

「優秀な男子はほとんど他の競技に出ていますし、代わりなんて突然……」

 

 どうやら代役探しに難航しているらしい。

 対してマリエはというと……

 

「エアバイクのレースは賞金も高かったのに!私の賞金がぁぁぁっっ!!」

 

 まあ……うん。うん。

 確かに酷い本音だが、一昨日の彼女の言い草的に、生活費さえも碌に持っていなかったようだから何とも言えない。

 

 ユリウスは、そんなマリエの背中に手を置いて慰めている。

 

 

「大丈夫だ、マリエ。俺やみんなが他の種目で優勝するから」

 

 

 各競技で優勝すると、賞金が出る。

 種目別に賞金額は違っており、エアバイクレースの賞金は日本円換算だと一千万円だ。

 それだけの人気があるのを賞金金額が物語っている。

 

「エアバイクレースに期待していたの! 他の競技じゃ全部手に入れてもエアバイクレースの半分の金額にもならないのよ!」

 

 だからこそ、マリエのこの怒りっぷりである。

 緑が申し訳無さそうにしていた。

 

「申し訳ありません。まさかここまでするとは思っていませんでした」

「本当よ。上級生も酷くない? 慰謝料を請求してやるわ」

 

 マリエのそんな言葉にユリウス殿下もジルクも、自分たちを心配しているのだと思って照れくさそうにしていた。

 ……お前ら、そのマリエからは穀潰し(無職のボンボン)だと思われてるぞって言ったらどんな反応をするだろう。

 普通に信じてくれなそうだが。

 

 

 そんな事を思っていると、医務室にズカズカと上級生達が入ってきた。

 その女子は二年生の【クラリス・フィア・アトリー】伯爵令嬢であり―――ジルクの元婚約者だった。

 彼女のその橙色の瞳の奥には、憎悪の炎が宿っているのが見えた。

 

「あら、随分とみすぼらしくなったわね。……ジルク、今の気分はどうかしら?」

 

 ジルクの姿を見てニヤニヤと笑う取り巻き達。

 だが、公爵令嬢のアンジェリカがこの場にいるのを知ると表情を改めていた。

 この時点で、この人達が先日の女子達に比べれば随分とマシなのは分かる。

 

 

「……クラリス、貴方の仕業ですか」

「えぇ、そうよ。私を捨てたあんたには、これからもっと酷い目にあって貰うわ。―――私はあんたを絶対に許さない」

 

 

 事のあらましを察して目を閉じるジルクに対し、感情的に怒鳴り散らすクラリス先輩。

 その声には随分と迫力があったし、ジルクが憎くて憎くて仕方ないと言った彼女の愛憎入り混じった感情がストレートに表れていた。

 

 ―――というか待てよ。

 

 ここまで強い憎悪をジルクに抱いたクラリス先輩に、それを初めから分かっていたかのような態度のジルク。

 明らかに憎しみの延長線上にある今の二人の関係など、数々の情報の欠片が頭の中で一本の線となり、繋がり始める。

 そして、一つの結論に至った。

 

 

 ―――コイツ、決闘後から今に至るまで元婚約者(クラリス)に対して何もしてないなコレ。

 

 

 いやまあ決闘のアレは、俺が空から地面に蹴り落とした後に言ったから聞こえて無かったのかもしれないし、そこは別に良いとしても。

 せめて最低限のけじめくらいはつけとけよって言った筈だし、よりにもよって放置とかうっそだろお前。

 そりゃああんなに拗らせる訳だわ。

 

 

 いやまあ、代わりにまた手紙送りました!これで解決!とか抜かしたらそれはそれで駄目だけど。

 正直今すぐあの緑の顔面に矯正パンチを浴びせたい所だが、この場で露骨にやると俺が怒られる。理不尽。

 

 

「医務室では静かにして欲しいな。……クラリス、気持ちは分かるがレースで堂々と不正行為か?」

「……あんたが殿下の手綱を握れていないからこうなったこと、本当に分かってる? 同じように捨てられたくせに、自分だけ何事もなかったように偉そうにして腹が立つわね。いつもみたいに怒鳴り散らしなさいよ」

 

 

 アンジェリカが眉間に皺を寄せていた。

 ……怒りっぽいのはもう十分分かったから、頼むから殴り合いに発展とかだけはしないで欲しい。

 そこで苦労するのは俺なんだ。

 

 

「一人だけ悲劇のヒロインにでもなったつもりか? 専属奴隷まで連れて、以前までの姿は猫をかぶっていたと見える」

「―――っ! あ、あんたに何が分かるのよ!」

 

 

 二人がつかみ合いになりそうなところで、クラリス先輩の取り巻きたちが止めに入った。

 流石に公爵令嬢相手は分が悪いと分かっていたのだろう。

 本当にこの人達が比較的良心的で良かった。

 

 クラリスは、未だに目を閉じて彼女を見ようとしないジルクを睨み続けていた。

 こいつ、10:0で自分が悪いこと分かってる……よな?

 頭摑んで無理やり正面向かせた方がいい気がする。

 

「次も出てきなさいよ。公衆の面前で潰してあげるわ。これからもずっと、ずうっと仕返しをしてあげる。精々泣いて許しを請うのね」

「……それで貴方の気が収まるのなら、存分にすると良いでしょう。ただし、マリエさん達へ何かすれば、私は貴方を絶対に許しません」

 

 

 二人の間で完全に空気になっていたマリエの名前が出た為に、マリエに対してクラリス先輩の血走った目が向けられる。

 ビクリと反応するがそれでスイッチが入ったのか、突然皮を被ったように、彼女の纏う雰囲気が変わった気がする。

 

 

「先輩、復讐は何も生み出しはしませんよ。もっと大事な――」

「知ったようなことを言ってんじゃないわよ! 何も生み出さない? だから? それがどうしたのよ!」

「はいぃすみません!」

 

 

 ただ、言葉選びが致命的に駄目だった。

 そもそも当人にとっての復讐に生産性なんか求めてる訳が無いんだし、手に入るものもスッキリする程度だからな。

 スッキリする為、自分の私怨と憂さ晴らしの為に復讐者は動き、そして復讐する訳だ。

 見た感じ、マリエ本人も心にも無いことを言ったせいで、余計にクラリス先輩を刺激してしまったのだろう。

 

 アンジェリカもマリエに冷たい目を向けていた。

 

 

「……もういいだろう。アンジェリカもそんな目をマリエに向けるな」

「……申し訳ありません、殿下」

 

 

 二人の視線を遮るように、皇子が前に出てくる。

 アンジェリカが謝罪をすると、ユリウス皇子はクラリス先輩へと視線を向けた。

 

 

「クラリス先輩。ジルクのことが許せないのは理解している。だが、もうこんな事は止めて欲しい」

「―――殿下がそれを言いますか。そこのたった一人の女のために、どれだけの人間が不幸になったか分かりますか? アンジェリカだけじゃない。私や、他の婚約者たちが陰で何て言われているかご存じで? 知らないですよね。貴方たちが知るわけがない」

 

 

 運命の歯車は、変数(マリエ)の手によって狂わされた。

 婚約者を格下の女子に寝取られたとあっては、本人含め家の面子は丸潰れだろう。

 リオンが小声で『でももしマリエが何もしなかった所でこんな展開になるのやっぱ酷すぎて笑えねえな』と言っていたが、今そのifを語るのは余計な蛇足とも言える。

 俺達しか知り得ないとしても、残酷な真実過ぎる。

 

 

「……俺たちに説教をする権利がないのは分かっている。だが、こんなことを続けさせるわけにはいかない。貴方自身のためにもならない」

 

 

 過去の行いを取り消すことは不可能。

 一応皇子は正しい事を言っているのだが、自身も緑とやったことが全く同じなので説得力に欠ける訳だ。

 さらに二人共現在進行系でマリエに引っ付いてるから、周りも余計にそう感じてしまうのかもしれない。

 

 

「出てくるなら次も叩き潰してあげるわ。出てこなくても、代役を潰すわよ。あんたたちには思い知らせてやる……絶対に許さないから」

 

 

 踵を返して部屋から出ていく後に、取り巻きの男子たちや使用人たちが続いていく。

 ……医務室の空気は最悪だった。

 

 

 ほんとどうすんのこれ。

 

 

 





 今回も蛇足的な余談を。
 何気に今回の話、三回くらいストーリー練り直したんですよね。主にクラリス先輩の扱い&ジルクの行動で。

※読み飛ばしても大丈夫です。

 順に話すと、

1:ジルク謝罪ルート。初期はこのままクラリス先輩をヒロイン化する構想でしたが、後々話の構成に響いてくるのと、出番もあまり無さそうなので泣く泣く断念。
 そもそもまだメインヒロインが出てないのに安易なヒロイン化をするのはエターの素になりそうだったんです。ユルシテ…ユルシテ…

2:ジルクが(お手紙で)謝罪するルート。当然本来よりも状況は悪化する。
 でも流石に一度婚約破棄を手紙でした後にまた謝罪文送るのは謎いよね?ってことで却下。

3:ジルク謝罪無し兼原作ルート。正直一番話がスムーズに進むので楽だった。
 唯一の懸念点はジルクが意地でも謝らない人になっちゃう事だけど……まあええやろ()。

 って感じ。正直ここまで書いて活動報告に書けばよかったって後悔してる。


 それでは、前回高評価をして下さった

【☆10】
下ノ助さん、ジェネリック鉤爪の男さん
【☆9】
特急なはさん、フウヨウハイさん、斬咲 瀧さん、天獄と地獄さん、脳内チンパンジーさん、翔悟さん、ALEX4さん


 ありがとうございますm(_ _)m


Twitter
https://twitter.com/Riza_dayoo?t=qVWwrWgxrh0FpA0mylUtEA&s=09

マシュマロ
何か言いたい事有ればどうぞ
https://marshmallow-qa.com/riza_dayoo

 

 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。