※短編の方とは一部設定が異なります。
ep.Ⅰ「バカが乙女ゲーにやってくる」
―――輪廻転生、という概念を知っているだろうか。
命あるものが何度も転生し、様々な生類として生まれ変わること、と言うのが広義的な意味だ。
しかし昨今は、『異世界転生』という概念が広く知れ渡ったことにより、「転生」と聞くとこちらを想像する人の方が多いのでは無いだろうか。
……かくいう自分も、例に漏れずそちら側の人種であるのは言うまでもない。
そして、何故誰かに聞かれている訳でもなく突然こんな話をするのか。
それを簡潔に言うと―――
「……ここ、は?『俺』はいったい―――!?」
―――自分がその『異世界転生』を果たした当人になってしまったからだ。
……夢、と表現すれば良いのだろうか。
成る程、ここではない何処かの男の一生を何かの拍子に……今回の場合は父との稽古の最中に強く頭を打って、倒れてしまったのが原因か。
とはいえ、夢だと言いきるのに、ソレはあまりに
「……っ」
頭がズキズキする。
夢と記憶が混濁しているのか、ここは何処か、自分は何を経験してきたのか、挙句の果てには自分の名前さえも思い出せない。
訳が分からず、右手で顔を覆う。
それは今まさに、その夢の記憶と今までの記憶が混ざり、すり合わせを行っているようだった。
いや、現にそうなのだろう。
少しずつではあるが意識がはっきりしてくる。
先程まで散らばっていた記憶のピースが、次々と本来あるべき所へとはまっていく。
真っ白なベッドからまだ小さい身体を起こしながら、自身の頭は改めて理解した。
「……どうすれば良いんだ?これから」
改めて辺りをゆっくりと見回す。
――無駄な物や装飾の無い、簡素な部屋だった。
石壁に取り付けられた本棚や暖炉、木製の机と椅子、そして白い布団にベッド。
近くの窓からは、薄い光が差し込んできている。
さしあたり少し豪華な中世ヨーロッパの家、とでもいったところか。
「……?」
廊下からギシギシと足音が聞こえる。
自分の部屋に向かって来ているのだろうか。
少しすると足音は消え、代わりに部屋のドアがガチャリ、と音を立てて開かれた。
そこで見た、
「……起きたか」
「兄、さん」
兄の名は【ウィリアム・フォウ・エルブレイブ】。
自分よりも二歳年上で、自分は茶色のかった黒髪だが、兄は金色のかった黒髪で、毛先を紐で結んでいる。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。えっと、何があった?」
「……忘れたのか?昨日お前は、父上との稽古の最中に頭を打った。それでそのまま一晩目覚めずにいたのだ」
成る程、元々自分の兄なのだから、見たときに既視感を覚えるのは当然といった所か。
自分が昨日、父との稽古の最中に頭を打ったと言うのも記憶と一致している。
ただ―――
「―――いや、覚えてる。もう大丈夫だ」
「そうか、なら良かった。……朝の食事だ、着替えたら降りてこい。
―――この拭いきれない違和感は、何なのだろうか。
◇◆◇◆◇
数分後。
手早く身支度を済ませて、階段を駆け下りる。
そしてガチャリと音を立てて、広間の扉を開いた。
目線の先には、威厳のある佇まいをした男―――俺の父親が立っていた。
「―――おはよう」
「おお、ヴァン、もう動けるのか?」
「はい」
俺の父、【ガオード】は領主――貴族だ。
公国の国境近くの浮島を収める子爵家であり、宮廷階級とやらが【四位下】であるらしい。
何故か貴族と聞くと、綺麗な礼服を来て細身の嫌味ったらしい感じのイメージが浮かんできたが、親父は貴族というよりは武人、と形容したほうが良いかも知れない。
―――また既視感を覚える。
「……っ」
「――まだ頭が痛むのか。部屋で休んでても良いのだぞ?」
「いや―――大丈夫」
不可解な要素がいくつかある。
夢の記憶と今の記憶。
それらの間にどのような因果関係があるのか、そして既視感の正体は何なのか。
せめて何かあと一つ、この既視感の正体の根拠になり得るものがあれば―――
そう思った瞬間、ふいに宙に浮かされたような浮遊感を覚えて、思考が途切れる。
慌てて振り返ると、そこには自分を抱きかかえる、ビール腹で赤色のかった髪の爺―――俺の祖父がいた。
「ハハハッ、どうしたヴァン、そんな辛気臭い顔をしよって。シャキッとせんか。そんなんじゃあ俺達みたいな勇者になれんぞ?」
「勇者って……」
―――微かに酒の匂いがする。
祖父の【ネロ】は今みたいに酒に酔っている時には特に、俺が次代の勇者だの何だの言ってくる。
以前に兄が勇者ではなく騎士になりたいと言ったらしく、そのせいでこうして俺が皺寄せを受けているが、はっきり言って勘弁してほしいものだ。
数十年前、エルブレイブ男爵家当主だった爺さんは、家の寄子出身だった友人たち四人と力を合わせて、フォンアース公国やその近くに存在した【ザウルス帝国】の侵略から王国を守っていて、人々からはやれ『伝説』だとか『王国の勇者』やら呼ばれていた―――という話を聞いている。
だったら何でうちは困窮してるわけでもないのに、半ば貴族として孤立状態なのかが子供ながらに感じた疑問だが、それは追々聞くとしよう。
……でも何故だろうか、昨日までは嘘だとしか思っていなかった筈なのに、前世での記憶を視てから、それが微塵も嘘だとは思えない。
何なら丁度その時期に滅んだって本に書いてたしな、ザウなんちゃら帝国。
―――ん?この設定、何処かで……
「―――まさか」
いや、焦る必要は無い。
すぐに料理を食べて、鏡で自分の顔を確認するだけの簡単なお仕事ではないか。
自分の仮定が合っているとは限らないのだから。
「どうしたのヴァン?早く食べましょう?」
「あ、ああ。そうだな、母さん」
母親の【メグミ】に言われてテーブル脇の椅子に座る。
因みに母さんは寄子の娘の準男爵家の出身で、黒髪ロングの大和撫子という言葉がよく似合う女性だ。
……自分がもし結婚出来るなら、是非こんな女性と結婚したいものである。
先程導き出した仮定のことを考えながら、俺は朝食のパンを齧って、ミルクを飲んだ。
そして横の卵料理に手を付けた時に―――俺はとんでもないことに気づいてしまった。
「―――これ、めっちゃ味付け濃いな」
「そうかしら?いつもと同じくらいだと思うけど?」
俺は自分の耳と舌を疑った。
それもそのはず、それは卵焼きの割には塩分で生計立ててるのかと言いたくなるほどには味が濃かったのだ。
しかも何故かしっかり卵の味もして美味いから質が悪い。
このままでは他の料理をまともに食べられなくなりそうだと思いつつも朝食を完食した俺は、ごちそうさまとだけ言い残し、洗面台の鏡へと直行する。
そこに映っていたのは、悲しいことに――――――予想通りの顔だった。
「―――」
黒髪黒目の鋭い顔立ち。
まだ少年らしい幼さが残るものの、その容姿はあまりにも記憶にあるアニメのキャラクターと酷似していた。
【ガン✕ソード】のヴァン。
上記の作品の主人公であり、最愛の人を殺した、自分達の視点から言うとラスボスのような相手を殺すことを第一目標とした
それだけではなく、作中では料理に大量の調味料をかけたり、訳の分からない二つ名を多数持っていたりとと、数々の奇行を見せた男でもある。
だがなぜ自分がその彼そっくりの人物になってしまったのか。
関連性など、強いて言えば前世で死ぬ直前に最後に見たのが、この【ガン✕ソード】だったという程度なのだが。
少なくとも作中の設定で、彼が天涯孤独だと言われていた以上、ヴァン本人ではないのは確定なのだが……
だがなんにせよ―――
「なんなんだよもう……」
ヴァン・フォウ・エルブレイブ。
彼は知らない、ここが【ガン✕ソード】原作世界でも、それに似た並行世界でもなく……
よりによって、倫理観の狂った【乙女ゲー】世界に転生を果たしてしまったことなぞ―――
◇◆◇◆◇
「……ふう」
あれから五年が経った。
兄のウィリアムは現在、王都の学園に通っており、
ストレスでRAZOKUに目覚めてないか心配だが、所詮普通クラスに通う予定の俺からすれば他人事なのでどうでもいい。
記憶を取り戻した状態でこの五年間を過ごしてきて、色々思うところはあったが、簡潔にこの世界のことを表すならば―――『貞操観念逆転世界に近い何か』だ。
前の世界に比べて、この世界は女尊男卑の風潮が強く、女性は家庭内での権力が強く、往来の場で奴隷(愛人)を連れまわしたりするのが普通なのに対し、男性は最低でも二十歳までには結婚しなくてはいけないという制約付き。
ここで我が家は倫理的に極めて良識的な家庭だったという事を思い知らされた。
まあ親父たちが子爵でありながら準男爵の女性を正妻に迎えたことで、一部の伯爵家や王家など以外とは交流のない村八分状態になってしまっているが。
―――エルブレイブ子爵家は、砂漠の様な土壌をした浮島と、普通に草原が広がっている浮島という、全く環境の異なる二つの浮島が巨大な湖を中心に、8の字の様な形で繋がって出来た特殊な領地を持っている。
その規模や発展度合いを見るに、伯爵位やあわよくば、国境沿いの要地を担うことから辺境伯となっていたかもしれないと勝手ながらに思っているが、前述の通り、寄子の家系を正妻に置いた為に出世が止まっているのだろう。
そこで俺はこの世界が、女性が主体となっている貞操観念逆転世界なのだと推察したが、政治的な女性の立場は一般的なファンタジー世界などと、左程変わらないように見受けられる。
金を稼いで一家を養うのは男。
戦争で国のために戦うのも男。
なのに主観的に見て、女性のほうが強いという歪な社会。
はっきり言って不気味と言わざるを得ない。
他国との戦争、小競り合い。
空賊というはぐれものにモンスタ-。
そんなのと戦う親父たち騎士や軍人は死亡率が高く、国全体で見ると男の人口の方が少ないとまで思えてくる。
そんな歪な国家の中でも、個人的に冒険者は抜きんでて優遇されていると思う。
ホルファ-ト王国自体が冒険者によって建国された国らしいので、この国で唯一、財産の保護や取り締まりの制度が行き届いている珍しい職業だ。
来年からは学園に通う都合上、自由に冒険が出来ない以上、一度くらいは行ってみたいものである。
そうと決まれば話は早い。
親父の剣の訓練や爺さん達の正義講座も退屈しなくて良いのだが、ファンタジー世界で冒険に憧れるのは共通の事柄と言って良いだろう。
故に―――
「なぁ、親父。小型の飛行船を一隻回してくれないか?」
「―――構わんが、何故だ?」
親父が腕を組んだ状態のままこちらを一瞥する。
何故かと問われれば、当然その答えは決まっている―――
「―――一回限りの冒険に出てみたい年頃なのさ」
俺がそう言うと、親父は難色を示す様な表情をするが、少しすると、髪の毛に手をつっこんでかりかりと頭を搔きながら、やれやれといった様に言い出した。
「―――はあ、お前もそんな歳になったか。……一度出たら一月以内に帰って来い。それで良いならばその目と身体で存分に見聞を深めて来るのだ」
「……分かりましたよ」
……思ったよりあっさりだったな。
やはり冒険者と言うのは馴染み深い物なのだろうか。
――まあいいか。
外に出ると丁度夕焼けが広がっており、その空はいつもより少しだけ澄んで見えた。
さて、冒険者―――やりますか。
勇者な祖父に、断罪の父、裸族の兄。
……うーん()
ヴァン:転生者。子爵家のヴァン。
‘‘まだ’’染まりきっていないが、順調に本家に有り方が近づいて来ている。
なお童貞である。
ガオード:ヴァンの父親。モチーフはガチペドさん。
何気に軍属であり、司令官になる程度には地位のある地味にスゲー人。
ウィリアム:兄。モチーフはメッツァメッツァの人。
将来学園女子へのストレスで裸族になることが確定している。
レイピア使いで実力は学園生徒の中でもかなりのもの。
メグミ:母。祖父の友人の娘。
モチーフは強いて言えば、勇者爺達のお孫さん。
料理の味付けが謎に濃い。
ネロ:祖父。モチーフというかまんま。
数十年前にはニチアサ枠並みの活躍をしたご様子。
そして某合体する鎧も数十年前まで活躍していたらしい。
……つまりは、そういうことだ。
それでは、今回高評価をしてくださった、
☆10:個性論→ポセイドン⁉︎(空耳)さん
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ありがとうございますm(_ _)m