数日後。
俺は―――空の上を彷徨っていた。
いや、彷徨っていると言っても飛行船でだが。
「食料と剣にピストルに魔弾、それとコンパスか……」
特に何かすることもないので、甲板に載せられた結構な数の荷物をボーっとした表情で眺める。
やはり異世界に来た身としては、新しい島や新しいダンジョン存在には憧れるというもの。
なのでこうして、国の定期便(飛行船)が通っていない地域まで、身一つ―――船一つでやってきたという訳だ。
まあ、自分が銃を持つのは若干の抵抗があったが、自分は『彼』本人ではないし、優先すべきは自分の生存だ。……本人だって銃を使用するシーンが有るのだし良いだろう。
「―――ん?」
気配を感じる。
人ではない何かが自身を害そうと忍び寄ってきている。
すぐさま気配がする方向に視線を向けると、其処には―――魚の様な姿をした生物……【モンスター】が居た。
俺はピストルの銃身と回転輪胴を下向きに折り曲げ、弾丸を装填するとそのまま両手で狙いを定めて引き金を引いた。
今使用しているのは
「……くそっ、外したか」
いかんせん空の上、尚且つ飛行船で移動中なので狙いが定めづらい。
続けて装填されている残りの五発を続けざまに連射すると、内二発が胴体、一発が頭部に命中した事により、力を失ったモンスターはそのまま海へと堕ちていく。
念の為身を乗り出して確認すると、海に着水する前にモンスターは黒い煙に包まれ消えていった。
「……何で消えるんだろうな?」
この世界において、モンスターは『純粋悪』と言って差し支えない存在だ。
言語能力を一切持たず、ひとたび目が合えば襲って来て、倒しても血を流さずに消えて行くので、殺生自体に忌避感のある自分でも特に何か思うことも無かった。
物理法則的に考えれば、モンスターがあの煙に変わっているとしなければおかしいのだが、未だ原理は解明されていない。
電気もガスもあるのに物理法則はしっかりしていないとか、ツッコミどころの多い世界観である。
……そんな事を呑気に考えていたからか、俺は気付くことが出来なかった。
自身の目の前に迫っていた―――嵐を起こす暗雲に。
「な、何だ?」
立ち上がったときにはもう遅く、猛り狂う風雨が矮小な船を襲う。
手に持った地図が今にも吹き飛びそうなほど揺れ、暴風が飛行船のマストに当ると不吉に鳴った。
「くそっ…、頼むから保ってくれよ……!」
吹き飛ばされない様に掴まりながら、必死に船を制御して、何とか横転するのを避ける。
だが嵐が止むことは一向に無く、進むどころか嵐の流れに逆らうことが限界だった。
空の上に居るはずなのに、まるで海の上……それも嵐の中の激流を進んでいる気分だった。
まあ実際に今は嵐の中なのだが。
数分が数時間にも感じられる状態の中、雷雨の音が響き渡る暗雲の中を、ただ只管雲の流れに逆らって進んでいく。
もう服は雨に濡れてびしゃびしゃで、甲板上で脚を動かすだけでジャブジャブと水音が鳴るのだ。
……はっきり言ってこの嵐はおかしい。
普通なら嵐の中では不規則な気流が舞っているものだと思っていたが、流石にこの風向きはあからさま過ぎる。
嵐の内側に入るにつれて、入るなと言っているかのように向かい風が吹き続けているのだ。
そんなのは、この奥に何か隠しているものがあると自分から言っているような物だ。
だから、たとえソレが何であろうと―――
「邪魔をするのなら、その上で押し通るまで―――!!」
どのみち今から戻ろうとした所で、五体満足で帰れるとは到底思わない。
風雨の音で掻き消されているが、既にエンジンが限界に近づいて爆音を鳴らしている以上、むしろ出たとこ勝負で進んだ方が良い結果になりそうだ。
「あれは……!」
ふと、暗雲の中に一筋の光を見つけた。
希望が見えたと思い、船のエンジンの出力を限界以上にまで引き上げて強引に突き進む。
そして苦難の末に漸く暗雲から抜け出すと、その先にある光の正体―――その全体像が見えてきた。
「これは―――浮島か。かなり小さいな……」
浮島と形容するには、ソレは余りにも小さかった。
直径から見ても、精々1キロ程度の面積しか無く、大地は荒れ果て、草木の一本も生えていない。
これは浮島というよりも、廃墟と言ったほうが正しいかもしれない。
島の端に、稼働限界を迎えかけていた飛行船を着陸させようとするも、先程のアレでガタが来ていたのか制御が利かず、半ば不時着のような形で上陸する。
じゃりじゃりと砂の上に触れる音を船底から発しながらも、何とか船体の原型だけは保つことが出来ていた。
「―――しっかし、これはもう流石にマズイな……」
何せ、空路の移動手段である飛行船がボロボロなのだ。
どのみち周りが嵐に囲まれている以上、飛行船が無事でも帰れたのかは定かでは無いのだが。
空を見上げる。
其処には、雲一つなく冴えわたっている青空があった。
どうやらこの島の中はあの嵐の中で唯一晴れている、いわば台風の目のような物らしい。
そしてこの島で何より目を惹くものと言えば、中心部にある建物―――の廃墟だろう。
上から観察してみた限り、地上階は跡形も無くなっているが、地下は割と残っている様だ。
「早速……と言いたい所だが、まずは服だな」
未だ服はぐしょ濡れなので、寒いし気持ち悪い。
船の割れた破片と荷物一式を持ってきて、簡易的なキャンプを作った俺は、一先ず服を絞って干しておくことにした。
船の木材に魔法を使って火を起こして、たまたまあった近くの石に腰を下ろす。
「―――味が薄い」
荷物にあったレーションの様な食べ物……というか乾パンを齧りながらそんな事を考える。
親父や爺さん達の酒のツマミとして味付けされた、あの実家の異様に濃い味付けに慣れてしまったせいか、ここ最近は別の所の食事や前世では何も思わなかった所で気になる所が出来てしまった。
当時は料理への冒涜ともいえる行為をする『彼』の思考が全く持って理解出来なかったが、『彼』ももしかしたらこんな気持ちだったのかもしれない。
……今度俺もやってみるか。
―――こうして将来、数々のシェフを泣かせる事となる『料理殺しのヴァン』が爆誕することになるのだが、それはまた別の話。
◇◆◇◆◇
―――翌朝。
焚き火を消した後、硬い地面で眠れない夜を過ごすことになると思っていたヴァンは、謎の図太さを発揮して熟睡。
無事に目覚めの良い朝を迎えることが出来た。
「うし、遂に探索か……」
そう呟きながら装備が万全かを確認する。
剣。
ピストル。
銃弾。
そして銃弾には氷のマークや雷のマーク、そして炎のマークなど、様々なマークが刻まれている。
―――魔弾。
通常の銃弾とは異なり、発砲すると属性に応じた魔法の効果を発揮する特殊な銃弾。
魔法がある程度使えるものの、近接が得意なせいで戦闘中に立ち止まるのが嫌いな俺からすれば、最低限の効果があり即効性のある魔弾は大変重宝する。
尤も、その分値段もかなりの物なので、決して無駄遣いは出来ないのだが。
銃身を折り曲げ、回転輪胴に氷と炎の魔弾を三発ずつ込めた俺は、そのピストルを腰のホルダーに仕舞って、廃墟の地下へと歩き出した。
其処までは良かったのだが―――
「―――何もねぇな」
びっくりするほどに何も無かった。
所々に、以前この建物にいた人物と思わしき人の名刺らしいものが落ちていたり、一応この建物の文明レベルが、この世界……何なら前世を逸脱していることだけは分かるのだがそれだけであり、それ以外には本当に何も無かったのだ。
あんなに頑張って収穫無しとか本当に勘弁してほしい。
まあ本当に何も無かった場合、俺は帰れずに野垂れ死にするのを待つのみとなるのだが。
―――これ以上は考えないようにしよう。
そしてそのままほぼ最深部まで到達したのだが、ここで漸く何かそれらしい物を発見した。
「扉か……」
横幅三メートルはありそうな巨大な扉。
間違いなくこの先には何かがある。
そう半ば確信に近い予想を抱きながら近くにあった、まだ生きているモニターを除くと、其処には本来あり得ない筈の言葉が記載されていた。
「日本語……?」
そう。
モニタ-に記されていたのは、本来この世界にあるはずの無いもの―――日本語だった。
軽く流し読みしてみても、英語、ハングル文字、アラビア語など、読み取れたものだけでもその全てがこの世界の言語では無く、前世の世界……地球を由来とする言語だったのだ。
もう一度拾った名刺を見てみる。
所属は分からなかったが、何とか持ち主の名前と、裏にメモ書きしてあった十六桁の何かの暗号だけは読み取ることが出来た。
「『
そんなことを思いながらモニターを操作して日本語を選択すると、『……生体情報が登録されていません。初回認証を行って下さい』という機械音声が鳴り、十六桁のパスワード入力画面が現れる。
―――ん?待てよ、十六桁だと?
もしやと思って、さっきの名刺に書いてあった暗号を入力してみると―――驚くほどあっさりと扉が開いた。
正直えぇ……(困惑)ってなった。
「―――まあいいや、進むか」
ありがとうヘンリー。
お前のとても杜撰なパスワード管理力が遠い未来で一人の男を救ったぞ。
まあ俺はお前のこと白骨化した姿しか知らないんだけどネ!ハハハ。
……いや全然笑えねーわ。早く忘れよ。
そのまま通路を進んでいくと、突き当たりにまたドアがあったので近づくと、そのまま自動ドアのようにドアは開いた。
ここにはセキュリティーが搭載されていなかったようだ。
「―――」
その先にあった部屋は、手術室というか研究室というか倉庫というか―――ふさわしい言葉が見つからないが、とにかくそんな感じの部屋だった。
周りにもおおよそこの世のものとは思えないような機械が並んでおり、一瞬違う世界に来てしまったのかと錯覚するほどには。
「なんだ―――これ」
そしてそのモニターの一つに、全ては文字化けしていて読み取れなかったが、興味深い一面を見つける。
―――旧■類残党、■星外移■■開■部に告■ル。
■暦XXXX年XX■ヲ以■、E.I.■画ハ破■さレた。
■リ返ス。
新■XXXX■XX日■■て、■.I.計■は■棄サ■タ。
我■がコの■争デ新人■に勝利■るコトは既二不■能であル。
魔■ヲ吸収スる新■物シツのデー■ハ■損し、オ■ジ■■7ノ内六■は開■途中デ新■類の■ル■■ィアの手で破壊され、同■ニ適■者■員ガ■亡しタ。
よっテ計画の続行は■可能トし、我々生■■は機■、開■■地及び■発デー■ヲ永久に■棄して、脱■する。
そして■後、我■は生存ノ■、星を■棄し惑■■■民船開■を最優先デ進■ルことヲ推■する。
「……何だこれ」
正直殆ど読めなかったが、SAN値が3程減少した気がする。
わずかに読めた部分でも、新人類だとか旧人類だとか、あまりにも聞き覚えの無い単語が多すぎた。
―――真っ先に脳裏に浮かんだのは、転生者という単語。
言語能力に富んだ転生者がはるか昔に存在し、秘密基地的なノリでここにこの建物を建てて、自分の考えた厨二設定を書き綴っていたと考えれば納得がいく。
まあおそらく、そこまで楽観視出来るものではないのだろうが。
「あれは―――!!」
他には何かないのかと思い、周囲を見渡すと―――部屋の中心部にあったソレに、俺は目を奪われた。
自分の意思とは無関係に、瞼が大きく開き、身体が吸い寄せられているかのような感覚に陥った。
まるでそれが―――定められていた運命のように。
ソレは、剣だった。
正確には、剣というよりも曲刀―――刀のような形であったが。
ただ一つ言えることは、初めて目にした筈のソレを、俺は確かに知っていた。
「あの剣―――だよな?」
『ガンxソード』劇中においてのヴァンが常に身に纏っていた蛮刀。
振り回せば蛇腹剣のようにうねり、銃弾さえも切り払う代物。
そんな剣が何故こんな場所にあるのかという疑問はあったが、無意識的に俺の腕はその剣に対して伸ばされていた。
見えない大きな力に引き寄せられるかのように。
「……ぐっ、あああぁぁぁぁっっっ!?」
そうして俺がその剣の柄を握った瞬間、突如として全身に電流が駆け巡る。
一瞬これはまずいと考えたが、その直後に頭の中をフラッシュバックのように様々な情報が駆け巡る。
それ即ち―――この剣の使い方。
「―――っ!?ハァ……ハァ……」
……分かる。
この剣の使い方が、この剣をどうすればいいのか。
それは確かに、前世の知識と同じものだった。
ふと下を見ると、剣が置いてあった机の引き出しから何かが出てくる。
本来のものから改造されたタキシードとリングの通された帽子―――それは『ヴァン』の正装であり、ヴァンという男が『ヴァン』であることを決定づける装い。
「ハ、ハハッ……」
もし、人々には辿るべき運命があると言われれば、今なら信じるかもしれない。
きっと今この瞬間、俺がこの剣を手に取るのも元から定められた宿命なのだろう。
ここまで露骨ならばそう思うしかない。
いやはや、これは全く――――
「ギャハハハハハハ、ハーッハッハッハ――!!」
―――良いだろう。
ここまでお膳立てされたのならば、その通りに成ってやる。
前世なら絶対にしなかったような、歪んだ笑みが無意識に浮かぶ。
完全に高ぶりきったテンションのまま、そのタキシード姿に着替えた俺は、被った帽子のリングに指を通して180度回転させて、
―――この瞬間、彼は本当の意味でヴァンになった。
遥かな時の中を眠っていた人工衛星が、世界で初めて担い手の要請の元起動する。
本来の世界では惑星を統べるべく開発されたオリジナル最初の一機。
この世界では、旧人類が生み出した
「
そう唱えた瞬間、島の外を取り巻いていた暗雲が一息の間に掻き消され、雲一つない晴天が訪れた。
七曜の名を冠した神の裁き。
―――その名を、『
刀をモチーフとした、最強の
◇◆◇◆◇
「……」
無言で佇むヨロイと、その中に片膝立ちで搭乗するヴァン。
その視線の先には―――跡形もなく崩壊し、その瓦礫によって埋め立てられた、先程の建物があった。
―――やってしまった。
そんな気持ちが頭の中に浮かんでくる。
所有者の下へと、あらゆる障害を無視して訪れるダンの性質を分かっていたのだから、よりによって地下室でやったのは不味かった。
実際に全ての天井をぶち抜いてダンがやってきたのがトドメとなり、ただでさえボロボロだった建物は崩壊してしまった。
……まあいい。
過ぎたものは仕方が無いのだ。
そんな言い訳じみたことを思いながらも、この島から出て帰る方法を考える。
飛行船はもう使えないだろうし、使いたくない。
ならば―――
「―――よし、じゃあ帰るか……我が家に」
そうして、人型形態だったDANNを再び刀の形態に戻したヴァンは、機体から青い粒子を噴射して、その島から飛び立つのだった。
◆◇◆◇◆
「………」
ヴァンの父……ガオードが、家の庭から空を眺めている。
既にヴァンが家を出てから一週間がたった。
そう簡単にあの息子がくたばるとは到底思っていないが、心配に思うのが親と言うもの。
「……はあ」
「―――どうした、大の大人が情けないぞ」
「父上……」
溜め息を吐いて戻ろうとしたガオードに対し、ネロが呆れたような顔をして話し掛ける。
「私の選択は正しかったのか、少し悩んでいましてね」
「……何だ、そんな事か馬鹿らしい」
そう吐き捨てるように言うネロに鋭い眼差しを向けるガオードだったが、ネロはそれなら、と一つ問いかける。
「……お前は彼奴が他所でくたばるような器だと思っていたのか?」
「……!それこそあり得ない。あのバカ息子はしぶとさだけは世界一だぞ!」
「なら、ソレが答えだと俺は思うんだが……違ったか?」
そう言われるとガオードはワシャワシャと頭を掻きながら困ったような表情を浮かべる。
「父上には敵いませんな」
「ハッハッハ、そうだろうそうだろう!――いいか、一つ教えてやろう」
そう豪快に笑って彼は、焼け爛れているかのように真っ赤な空を眺めながら言った。
そしてその先には、夕日を背にして鈍く光っていた―――空飛ぶ大太刀の姿があった。
「勇者は、勇気あるものは―――死なない」
ちなみにあの途中の裏設定的なアレに関係あるんですが、今のダンを持ったヴァンならイデアルを完全に仲間に出来ます。
【ヴァン】:タキシードとしてほぼ完全に染まっている。
この世界最初の料理の尊厳破壊の対象となるのは果たして。
ちなみにヴァンが今所有している銃は、『ガン×ソード』作中でウェンディが所有していた物とデザインが全く同じだったりする。
【ダン・オブ・サーズデイ】:ご存知タキシードの乗機にしてスパロボの切り込み隊長。
サイズがこの世界観に合わせて大きく縮小されている部分以外のスペックは変わらないが、製造されるまでの時代背景や中身は本来のソレとはかなり異なる。
それでは、高評価してくださった
☆9
ルサルカ親衛隊員さん、相良うううさん、翔悟さん、ころじさん、ネギトロ丼さん、読者1104さん、エビノアレさん、の月さん、わけみたまさん、ザクタンさん、いくざくさん、仮屋和奏さん、KNさん、Quentinさん、霧沢 白虎さん、御剣澄和さん、冬空 狐さん。
ありがとうございますm(_ _)m