A,一学期に一度でも名前が出た人以外です(予防線を張っておくスタイル)
学園は王都の中に存在している。
人口密度の高いこの場所に、これでもかと言う程の広大な土地を確保し、校舎だけでなく学生寮もそれ相応の広さがある。
エントランスの雰囲気はまるで高級ホテルのロビーのような豪華さをおぼえる。
当然受付にも人がおり、制服を着こなした彼らの動きは非常に手慣れていた。
「凄いな……」
これを豪華な学生寮、の一言で言い表わすのは流石におかしいだろうと考える。
流石上級貴族の集う寮。
サービスの質も段違いと言ったところか。
そんな感想を心のなかで述べつつ、正面に居た受付の人に声をかける。
すると俺の部屋を教えてくれた。
「ようこそおいでくださいました、ヴァン・フォウ・エルブレイブ様ですね。こちらが部屋の鍵と、寮内の案内図となります。それでは、私達が部屋へのご案内を―――」
「い、いえ結構です。自分で行けるので」
「そうですか。でしたらお荷物はこちらでお運びいたします!」
そう言って職員の人は俺の持っていた旅行鞄とその他諸々を持って行ってしまった。
まあ案内はともかく、荷物に関してはありがたいと思っておこう。部屋まで結構遠いし。
そう思ってそこそこの距離のあった寮の廊下を進んで行くと、これから三年間お世話になる、俺の部屋を示す番号を見つけた。
扉を開けて中を見ると、一人用とは思えない程の広々とした部屋が広がっており、中心には先程預けた荷物が置かれている。
いわば一般的な洋室とでも言うような部屋で、ベッドや鏡、テーブルなどの家具にも、使用した形跡が殆ど見られないほど綺麗に手入れがされていた。
「――ん?これは……」
部屋全体を見回していると、ふと机の上に教科書やノートなどの学習教材が置かれていることに気付く。
試しに一番上に置いてあった魔法関連の教科書を手に取り、ざっと流し読みしてみるものの、聞き覚えの無い定義や用語が多く大まかにしか理解出来なかった。
俺はどちらかというとこうして考えるよりかは感覚派なので、実際に練習しないと上手く使うことは難しそうだ。
そんな事を考えていると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえてきた。
◆◇◆◇◆
同時間にリオン達も、寮の自室へと入居していた。
室内ではバッグから出てきたルクシオンが宙に浮かびながら辺りを見回している。
時折発せられるルクシオンの嫌味を聞き流しつつ、リオンは部屋の片付けと荷物の整理を続けていた。
「それで、船旅はどうだった?」
『私の本体の方があらゆる面で優れていますね。船旅に感想はありません。魔法技術に関しては驚くしかありませんが、科学で再現可能なレベルです。……嘗ては魔法技術の再現ではなく、改良して流用するプランも存在したようですが、機体にそのデータはありません。なので魔法技術に関しては今後も調査を続けます』
旧人類の技術、叡智の結集たるルクシオンにとっては、現在の科学技術などお遊びのようにしか見えなかったらしい。
唯一興味持つに値する魔法技術も、まだ常識の範疇を抜けない程度のものだったようだ。
そして今の話などはどうでもいいと言わんばかりに一息の間を開けると、ルクシオンは本題を切り出した。
『【ヴァン・フォウ・エルブレイブ】と言いましたね。どうやら彼の存在が気になるようですが?』
「―――ああ、目が一度あっただけだが、ゲームではあんな家も人物も存在しなかった。モブだとしてもあの名前と見た目、王子たち攻略対象級の活躍というのは流石に……」
前世での知識を思い返す。
名前は思い出さないが、この世界こと『乙女ゲーム』に近い面のあるシミュレーションRPG作品として、数多のロボットの登場した内の作品の一つ。
彼はその主人公にあまりにも酷似していた。
故に彼が転生者だという確証が持てず、もし仮に彼が転生者ではなく本人だった場合、かなりまずい。
具体的には人類の危機が増えたり、ルクシオンでも対応できない奴が来て宇宙の危機に陥ったりする可能性がある。
この世界本来の流れを崩したくないリオンからしてみれば、迂闊に動くのも躊躇われる状況だった。
そんなヘタレ―――慎重な主に対して、ルクシオンは一つの意見を通す。
『そこまで不安ならば、一度彼と接触してみてはいかがでしょうか。それまでに私も軽く彼の調査をしてみましょう』
「まあ―――そうだよな。もし転生者なら知識を持っているかとか、一回話してみるとするか」
意を決したような声で言うリオンの表情には、少なからず緊張と不安の色が現れていた。
もし転生者じゃ無ければどうしよう、敵対する羽目になったらどうしようという、たらればの話だが、リオンにとってソレは余りにも危険な可能性だった。
そして彼の部屋にも、ノック音が聞こえる。
◇◆◇◆◇
その後、俺が学生寮を出て―――正確には俺達新入生を集めて、ノック音の正体であった先輩達が連れ出してくれたのは学園の外にある、洒落た雰囲気の居酒屋だった。
「え~、今年も同じ立場の新入生を迎えられ、誠に嬉しく思うわけでして―――」
挨拶をしているのは、三年生で男爵家の跡取りだ。
全体的に見てあまり裕福と言えない田舎出身の先輩方が、同じ境遇の後輩……俺達の為に歓迎会を開いてくれたんだと。
……え?何で実家が子爵家で割と裕福であろう俺がこの集まりにお呼ばれしてるのかって?
それはこと婚活において、家がある意味そこらの男爵家以上に厳しいと言える境遇だからだ。
故に兄貴も子爵や伯爵の集まるグループを避け、こちらのグループと仲良くしていたらしく、その繋がりで俺もこちら側に入れて貰えたらしい。
これに関しては本当にありがたいと思いつつ、周囲を見渡すと例の……名前なんだったっけ。
とにかく仮称:三男君の姿を発見したので、折角だし声をかけようと近づく。
「なあ、俺もここ座っていいか?」
「ああ、別に大丈夫だぞ」
「俺も別に大丈夫―――!?」
「―――あ、君は確か入学前に冒険者としてほぼ成功、並びに空賊討伐で名を挙げた子爵家の次男、確か今は独立した男爵だろう?こっちの実家にも噂は流れて来たよ、有望株だって。丁度その話をしていたんだ」
俺が声を掛けると、褐色肌の男子は普通に答えてくれて、仮称:三男君は何故か驚いたような顔をし、インテリっぽい雰囲気の眼鏡くんがいい感じに俺の説明をしてくれた。
……その話とは何だろう。
そこの彼の冒険者としての話だろうか。
だとしたら普通に気になるのだが、眼鏡の説明を聞いた褐色くんが驚いた様な表情を浮かべてこちらを見てくる。
「あの噂の奴がお前なのか」
「知らんが多分そうらしい」
「何で疑問形なんだよ……」
ごもっともなツッコミだが、実際此処まで噂が広まってるとは夢にも思っていなかったのだ。
―――つまり俺は『空賊ハンターのヴァン』。いや、『カウボーイのヴァン』と言うことでよろしいか?
そんな阿呆みたいなことを考えていると、上級生の一人がこちらにやってくる。
「いやぁ、今年は大出世した話題の騎士達がいるから楽しみにしていたんだ。君がヴァン君だよね?お兄さんには色々な所でお世話になったよ。あ、俺は【ルクル】って言うんだ。よろしく」
先輩は三年生で、兄貴の知り合いでもあるらしい。
既に結婚相手を見つけており、後は実家に戻るだけの状態だからか少し余裕が伺える。
ただ今の先輩の発言に対し、三男君が首を傾げる。
「話題の騎士'達'?」
「……とぼけないで欲しいね。そこの彼と同じで、入学前に冒険者としてほぼ成功した男爵家の三男は君だろう?」
軽く舌打ちをして眼鏡君が説明すると、またしても褐色君が驚いた表情をする。
「お前も噂の奴かよ!?って事は例の二人がここに居る訳か……」
「―――仕方なかったんだ。金を稼がないと変態婆と見合いコースだったんだ」
そう顔を伏せながら答える彼の声には、たまらない寂寥感が込められていた。
周りの三人も何というか……凄く悲壮感溢れる雰囲気で同情の視線を送っている。
―――ん?ちょっと待ってくれ、変態婆?変態婆って言ったか今!?そこまで切羽詰まってたの!?
自身のことを記憶の底から喚び起こす。
改めて彼らとは比べ物にならない程出生に恵まれていた事を再確認し、文字通り命懸けの彼と違い、楽しむ為に冒険者となった自分が少々情けなく思えてきた。
自己嫌悪までとは行かずとも、内心で妙に気まずいものを感じながら皆で先輩に対し色々と質問をしていると、先輩との話を一通り終えた三の人が放しかけてくる。
「な、なあ、ちょっといいか?」
「ああ、えっと―――」
「自己紹介がまだだったな。俺はリオン、【リオン・フォウ・バルトファルト】だ。それでな―――」
そして三男君―――リオンは、よく通る声で俺にある提案をしてくる。
その提案は、俺が思っていたよりも考慮に値する考えだった。
「ほら、俺もお前もせっかく似たような略歴なんだし今度色々話さないか?」
「―――ふむ」
『頼むからこれで承諾してくれ。そしたらなんか自然な感じでこいつが転生者かどうか分かる……!!』
まあ一理ある。
改めて考えて見れば、入学前から冒険者として活動しなおかつ成功するなんて極めて限定的な状況に何故二人もなっているのだろうか。
加えて言えばどちらも貴族の次男坊、三男坊だったわけだが卒業後には功績による陛爵&独立が決まっている。
それにしてもかなり積極的だが、まあ別に気にすることではないだろう。
「別にいいぞ。日程はそっちに任せた」
「うっし……、じゃあ部屋の場所教えるから明日にでも来てくれ」
何故か小さくガッツポーズをするリオンだったがそれ以外には特に気になることもなく、俺たち二人は当日の時間などを決めた後、他二人とも当たり障りのない事についていくらか話した後、歓迎会はお開きとなり解散した。
ただ、解散の直前に少々気になる話題のことを先輩が話し出した。
「ああそれと、君たちの学年に一人特待生が入学するらしいよ?なんでも優秀な人材を拾い上げるために、貴族以外の生徒も入学させるとか言っていたね」
今年から試験的に始まる特待生制度。
俺的には理に適っているし賛成だ。
やっぱその貴族以外も重用する感じの多様性を求めるのはいいと思います。
「特待生ですか?普通クラスですよね?」
そう先輩に問う眼鏡君の表情は芳しくなく、言葉にはしていなかったが褐色肌君も不服そうな表情だった。
まあ一般的な反応としてはこちらが正しい。
貴族の跡取りという特別な家柄の人しか通わない場所に、突然爵位も何もない人が入ってくると知れば、将来的に貴族であることの特別性が無くなるかもしれないしな。
眼鏡君の質問に対し、先輩は首を横に振って答える。
「上級クラスだよ。王太子殿下が入学する時期なのに迷惑だよね。あ、それから何かあったら教えてくれないかな?その特待生――なんの伝もない平民って噂なんだよね」
成る程、大体理解した。
先輩は王太子と同時に特待生が入学することに対してよく思っていないようだが、学校側としては王太子がその特待生を気に入ることによって来年以降に繋げていこうという案か。
いくら反対意見が出るからとはいえ、伝手もない人一人だけっていうのは肩身が狭くなりそうでよろしくないが、これがギリギリのラインだったのだろう。
「へぇ……」
ふと横に首を向けると、眼鏡君と褐色肌君は純粋に驚いているが、リオンに関しては其処まで驚いている風には見えなかった。
もしかして
明日ついでに聞いてみるとしよう。
◆◇◆◇◆
翌日。
俺は昨日教えられたリオンの部屋へと向かっていた。
改めて考えると何故こんなに急かされたのかは知らないが、多分入学式より前に予定を片付けたかったのだろう。
そう思ってドアをノックすると、中から「入っていいぞ」という声が返ってきた。
「邪魔するぞ」
「邪魔すんなら帰って〜」
「はいよ」
バタン、と音を建てて扉を閉める。
まさかそう来るとは夢にも思わなかったが、此処はあえて大人しく戻るとしよう。
よし。
「帰るか……」
「ちょ!?すまん悪かった俺が悪かったって!」
バタンと大きな扉の開閉音が廊下に響き、部屋から飛び出てきたリオンが俺の肩を掴む。
そんなに焦るならネタを振って来なければ良かった物を。
「安心しろ冗談だ」
「いやお前絶対ガチで帰ろうとしてたよな!?」
「……いや」
「今の間は何だよ……」
向けられるジト目を無視し、部屋に入って中を軽く見回してみると、広さ自体は俺の部屋よりも一回り小さいが家具等の基本的な物品は同じで、其処まで大きな違いは感じられない。
『もうこれ確定だろ。多分こいつ転生者だよなノリいいし。いやもう少し探ってみるか…?』
そんな事を考えられているとは露知らず、互いにテーブルの椅子に向かい合うように座ると、先程のやり取りで余力が無いのか早速本題へと突入する。
「え、えっとな、まず一つ相談なんだが……」
「相談?」
「ああ、俺がロストアイテムを見つけたダンジョンでこんな文書を見つけてな……。お前も何か似たようなものを見たりしなかったか?これなんだが……」
そう言って紙に記した何かの文章を見せてくる。
しかし文書か。
そういえばあの時見た文字化けの塊って何故か日本語だったなあと思い返しつつ、突き出された紙を見てみる。
『精巧な書体で「新人類絶殺」とだけ書いた紙』
―――ん?
いやいやいや。
いやいやいやいや。
衝撃のあまり思わず二度見どころか三度見してしまったが、一つだけ言えることがある。
―――なんぞこれェ。
日本語で書かれてるけど流石に綺麗すぎないか?
まだ機械が印刷したと言われた方が納得いくぞ。
書かれている内容も割と意味不明だし、流石にこんなことが書いていたはずはあるまい。
とまあ脳内では色々と考えたものの、不意に衝撃を受けて狼狽えていた俺は、感電したかのように無意識に口を開いていた。
「いやそれ日本語―――!?」
「……やっぱりそうか」
でも同時に確信した。
小声ではあったが確かに聞こえた、何かを確信するような物言いに、提示してきた物は日本語。
頭の中にあった霧がすうっと晴れていくように、今までの不審点が一つの線に繋がれていく。
しかしここで馬鹿正直に言った所で、今の緊迫した状況下では悪化の道を辿る一方であろう。
ならこちらに敵意が一切無いことをなんかいい感じに態度で示そうではないか。
「まあ、待て」と言わんばかりに手を挙げてリオンを制した俺は、一つ簡単な提案を投げかけた。
「……そっちの言いたい事は分かった。だからこっちも確認していいか?」
「……?お、おう」
椅子から立ち上がった互いの身体が無意識に強張り、握った拳が小刻みに震えている。
ごくりと生唾を飲み、口を開く。
「√2=?」
「
「川から桃が」
「どんぶらこ」
「大晦日。笑ってはいけない」
「24時」
「「………!!」」
直後、俺達はまるで十数年来の親友ばりに熱い握手を交わし、周囲の先程まで張り詰めていた空気は霧散した。
そこでようやく肩の荷が下りたようにほっとする。
「お前も転生者だったのか……」
「まあな……。というか俺としてはその格好について色々聞きたいんだが」
「知らん。なんか起きたらこうなってた」
「ああそう……」
どこかげんなりした表情のリオンを尻目に再び椅子に座り直し、俺が正面へと向きかえると―――赤い一つ目の物体が至近距離でこちらを見つめていた。
こんなのいたか?と思い、俺はソレを無言で見つめる。
するとソレの赤目が光り、やけに流用な声で話し出した。
『マスターと同じ旧人類の特徴を発見しました。しかもその比率が異常な程に多いですね。その身につけている武具共々、非常に興味深いです』
「……何だコイツ」
『……レンズを押さないでください』
つついていると注意を受けてしまったので手を引っ込めると、ソレは浮遊してリオンの右肩近くへと移動する。
……で、結局ソレは一体何なんだという疑問は残ったままなので、リオンに視線を送り説明を要求する。
「……ん?こいつか?こいつはチートアイテムのルクシオン。俺の……使い魔?とにかく相棒だ」
『私を使い魔などという魔の存在に捉えるのは辞めてもらいましょうか』
「チートアイテム…?」
ハハハ、そんなゲームみたいな言い回しを。
しかも使い魔にしては微塵も従わせてる感が無いのだが大丈夫なのだろうか……、と考えていると、リオンがキョトンとした顔をしていることに気が付く。
「あれ、もしかしてお前知らない感じか?」
「……?何の話だ?」
「うわぁ……やっぱりそうかぁ……」
どこか悩ましい表情をした直後、突然リオンがテーブルに額を打ち付けて頭を抱える。
そして数秒間何とも言えない声色で唸り声を上げたかと思えば、再び頭を上げてこちらを見てくる。
それは意を決した様な、それでいて少々同情と気の毒そうな色の混じった複雑な表情だった。
「―――今から俺はお前に残酷な事実を告げる」
「はあ」
「もしかしたら知らない方が良かったのかもしれないが……、お前も道連れにしたいから言っておく」
「おい」
こいつ今道連れって言ったぞ。
絶対碌なことじゃ無いパターンですやん。
ただもう既に帰れそうな雰囲気ではなく、あの使い魔も何も言ってないので、大人しく聞いておこうか。
「この世界は―――」
この世界は―――?
胸内で期待と不安が入り混じって、心音の動機が僅かに激しくなっているのを感じる。
まあでも言う程対したことじゃ……
「―――前世で俺がプレイしたことのある
「―――はあ!?」
あと多分って何だよ多分って。
「何で多分なんですか……」
「オメーが居るからだよ」
この後エルドラⅤも居るって知れば真面目に混乱してそうだよね。
それでは、高評価してくださった
【☆10】
紅鬼さん
【☆9】
セルドさん、呑兵衛さん、ニンジャ0号さん、翔悟さん、アクセル・アートさん、餡御萩さん、JOJIさん、チキサさん、シゲデゴガデネジバさん、ラグナ・さん、橘優希さん、クロードSさん、兼倶さん、ウルフウッドさん、 ryotoさん、くいさん
ありがとうございますm(_ _)m