……圧倒的難産でした。
今回もオリチャーみたいな物なので次の次辺りでやっと決闘パートに進めるかな?
机の
それほどまでに、俺は唐突過ぎるカミングアウトにより気持ちが錯綜していたのだ。
「此処がその乙女ゲームとやらの世界だって?そんなまさか……」
「いや本当なんだよ!王国で女尊男卑の価値観が定着してるのも、ダンジョンとかが何かふわっとした原理なのもそういう世界観だったからなの!!」
そんなまさか、と失笑がこぼれた。
だが同時にリオンの言い分は―――ストン、と難解なパズルが解けたときのようにすんなり腑に落ちる物でもあった。
仮にこの世界が本当にゲームの世界ならば、物理法則の欠如や不可思議な価値観も創作物だからの一言で片付けられる。
―――もう少し話を聞く価値はあるな。
「……続きを頼む」
「おう。ええと、それでだな―――」
その後のリオンの話は結構な長話になったとはいえ、俺はこの世界のことを何故かダンが存在するだけのよくあるテンプレ異世界だと思っていた。
故にリオンの話はその何もかもが、白紙へつく墨のように目新しく、未視感に満ちた情報だった。
まず元となったゲームの制作背景なのだが、制作会社は主にRPG系のゲームを取り扱っていたらしいが、新規層獲得の為に乙女ゲームの作成を始めたらしい。
そして出来上がったのが、恋愛シミュレーションでありながら、RPG要素と戦略シミュレーション要素が混ざっており、さらに戦闘パートが課金アイテム前提としか思えない鬼畜過ぎるゲームバランスという闇鍋そのものだった。
実際にリオンも攻略の為に課金をしてクリアし、その時に購入したのが横のルクシオンらしい。
ちなみにお値段は約千円と実にリーズナブル。
―――据え置きゲームの中の1アイテムにしてはバカみたいに高いがな。
「制作会社ねぇ……」
「何だ?名前は思い出せないが有名な会社だった筈だし、記憶の中に心当たりでもあったか?」
「いや全く」
リオンが軽く首を傾げて聞いてくるが、俺としてはむしろそんな会社あったのね、と言うのが正直な感想だ。
昔はともかく、死ぬ直前はアニメこそ幾らか見ていたものの、ゲームは特に興味を惹かれる物が無く、あまりやっていた記憶がない。
だから本当に最上位の有名所しかゲーム会社の名前は知らないのだ。
もしかしたらそのゲームの宣伝くらいは耳にしていたかもしれないが。
そのゲームの簡単なストーリーを聞くと、本編の年代は丁度今であり、主人公は噂の特待生。
その娘がなんやかんやあって攻略対象―――皇子達と幸せになるんだとか。
………てか皇子様達ヒロイン(男)だったのか。
ちょっと今度見たとき笑ってしまうかもしれない。
「成る程、大体分かった。ここまで詳しく話してくれて助かったよ。優しいな、お前」
「そりゃあ俺は善良なモブAだからな。お前が意図せずストーリーを破壊しても困るし」
そう言って右手をひらひらと振るリオンだが、ソレを見て一つ思った事がある。
―――チートアイテムを手にしたモブってなにさ。
まあ……これは俺にも当てはまるので黙っておこう。
知らぬが仏とも言うからな。
「次は俺か……。やっぱり一番はこれか?」
色々説明して貰った以上、こちらの事も色々言わなくてはフェアじゃないだろう。
なので腰に巻いていた蛮刀を抜き、軽くしならせてからテーブルへと置く。
案の定二人?―――リオンとルクシオンも好奇の目を瞠って蛮刀を眺めていた。
「おおう……実際に見ると凄いな、それ。ちなみにルクシオン、どうだ?」
『特別な金属繊維で精製されているようですね。伸縮自在でありながら硬度も自在に変化し、他にも幾つか特別な機能があるようです。我々旧人類の遺産だということは分かりますが、私のデータベースには存在していない物質のようですね。複製するには他のサンプル無しだと物質なら半年、本体ですと最低一年はかかるかと』
「お前で一年もかかるのか!?―――いや、そうじゃなくて何でこれがあるんだ?」
言われてみれば当然の疑問がリオンの口から零れる。
確かに何で別ゲームの世界にこんなものが存在するのだろうか―――家のアレ含めて。
軽く頭を働かせて考えると、一つの可能性が頭に浮かぶ。
「……大方、DLCか何かでコラボでもしたんじゃないのか?一番有り得そうな可能性だと思うんだが」
「まあ確かにな。でもそんなことするほど人気が出てた印象が無いんだが……ジャンル違うし」
はあ、と互いに溜め息をつく。
これに関しては考えていても埒が明かないだろう。
鉤爪は流石に居ないだろうし、放置しても問題は無い。
―――だから今脳内でスーパーでロボットな大戦という可能性がダンスをしているのもあり得ない。
ないッたらないのだ。
そう祈りにも近い思いを抱いていると、突然ルクシオンが問いを投げてくる。
『ヴァン。質問なのですが、今までに原因不明の体調不良に悩まされたことはないですか?』
「ん?……無いぞ、全くない。いたって健康体だ」
「突然どうしたんだルクシオン?お医者さんの真似事か?」
何故そんな質問をしたのか疑問に思ったのか、リオンがそうルクシオンに問いかけると、ルクシオンは僅かにレンズを下に向け、若干声のトーンが下がったように感じた。
まあ機械なので感覚的な物に過ぎないのだが。
それにしても何故いきなりそんな事を?―――まさか、俺の身体に何かあるのか?怖いんだが。
心当たりがあるせいで。
『ヴァンはマスターと比べて旧人類の遺伝子が多いです。はっきり言って異常な程で、
「ああ、そういえば最初にそんなこと言ってたな。お前」
―――『旧人類』と『新人類』、どちらも聞き覚えのある単語だ。
ダンを見つけた研究所か基地みたいな場所にも文字化けしていたとはいえそんな文書があったな。
『敗北』というワードも気になるが……断句を投げるわけにもいくまい。
そう考えてルクシオンの説明に対し無言で頷くと、ルクシオンはそのまま言葉を紡ぐ。
『ですから、ここまで濃い旧人類の遺伝子を持つ貴方に魔素の満ちたこの環境は厳しいと思ったのですが……私の見当違いのようですね。バカは風邪をひかないとも言いますし』
「おいおい、唐突に人のことをバカ認定するなよ。いくらなんでも話の流れがおかしいだろ」
『スミマセン。ヨクワカリマセン』
なんで今の話の流れからバカ認定されなきゃならんのだ。
せめてバカならバカでも頭のいいバカに分類してくれ。
そう思って抗議の視線をルクシオンに向けるとフッ、と鼻で笑われたような気がした。
―――腹立つなこいつ。
「……結構話し込んだし、そろそろ帰るわ」
「お、もうそんな時間か。じゃあな」
これ以上いても特に収獲は無さそうだと判断し、時間も時間なので帰ることにする。
椅子からぬっと立ち上がり、軽く挨拶をしてリオンの部屋を後にする。
結構な時間椅子に同じ体勢で座っていたからか少し腰が痛いが、そのうち治るだろう。
「それにしても―――何だったんだ?あの真ん丸の変な問いは……」
帰路に着く中、リオンの使い魔―――ルクシオンが放った自身への問いかけを思い返して独り呟く。
なんでもその旧人類?とやらの遺伝子が俺は、同じく遺伝子を持つリオンと比べても『異常』なまでに割合が多く、尚且つ強いらしいが……
心当たりは―――ある。
オリジナルのダンに乗るためには本来、自身の身体に強力な生体電流を流すための『改造』を施さなくてはならない。
改造後には理論上の不老不死に近い存在となり、多少の手傷を負ったとしてもヨロイと一体化する事により傷を治癒することさえ可能とする。
まあデメリットとして、定期的にヨロイと繋がらないと死ぬことや、ヨロイが破壊されると自分も死ぬなどのかなり重い誓約があるのだが。
当然、俺はその『改造』を受けた覚えなど無いし進んで受けるつもりも毛頭ないのだが………
もし、あの研究所らしき建物で初めに蛮刀を握った時に、俺を襲った強烈な電流。
何らかの理由で空気中の魔素に適応した状態になったのだとすれば―――確かに說明がつく。
だが、ここで一つの疑問が浮かぶ。
俺は其処まで頻繁にダンを喚んでいた覚えは無いし、『改造』を本当に受けていたならば一週間以上ダンを喚ばない俺は死んでいてもおかしくないのだが……
―――まさか、そういうデメリットだけを無くした完璧な状態にでもなって…?
一瞬脳裏に浮かんだその可能性を、まさかと首を振って否定する。
そもそも、電流を通じての肉体改造なんてことが出来るとは思わないし、それなら最低でも
ダンを使えば使うほど生体電流を通じて流体が体内へと注入され、それで改造が進行して融合度が高まるというのはありそうだが、改造特有の蒼い紋章が身体に浮かんでいる訳でもない。
……これ以上このことについてゴチャゴチャ考えるのは止めにしようと結論づけた俺は、自室への扉を開き、そのまま部屋にある真っ白なベッドへと直行した。
「―――」
そのまま仰向けに寝転がった俺は、今日一日であったことを思い出しながら、窓の方へと視線を落とす。
丁度太陽が水平線へと呑まれていき、淡い夕焼けの光が部屋へと差し込んできた。
……明日は入学式か。
そう思って早く寝ようと目を閉じる。
先程の自分の身体についての問題や、この世界についての事などやることは山積みだが―――明日以降の自分に任せるとしよう。
そんな「なんとかなるさ」の精神で今日聞いた衝撃的な真実の数々から無意識に逃げた自分は、少しの時間と共にまどろみの中へと誘われて昏々と眠るのだった。
◆◇◆◇◆
翌日。
テンプレ風に言うなら大聖堂の様な建物で、学園の入学式は執り行われた。
会場全体を埋め尽くす程の生徒―――貴族の数には最初こそ驚かされたが、それ以上に女子の混ざりあった香水の匂いが酷くてとにかくヤバい。
そんな中、皇太子殿下こと【ユリ……ユリ―――ユリ何とか殿下】が新入生代表の挨拶をしていたのだが……
「眠い……」
感想としてはそれだけだった。
式ではよく聞くような定型文なので、国の皇子が読んでいる点以外は退屈なことこの上ない。
しかも昨日夕方ごろに寝て深夜よりの明け方に起きたのがいけなかったのか余計に眠気を誘われる。
まあ、他の人からすればその『皇子が読んでいる』と言う点こそが重要なのだろうが。
自国の皇子という贔屓目なしに、彼は国全体で見ても稀代の美型だと言えるだろう。
家柄もスペックも学生どころか貴族としても最高峰なのだから、そりゃあモテる訳だ。
まあ俺は興味無いから寝ますけど。
そう頭の中で結論づけ、顔を目元が見えないように伏せて瞳を閉じ、うとうとと意識が暗黒の中に飲まれかけていく中、突如隣から声が響く。
「ついに来たわね。もう、王子様ったら十年も待たせちゃって」
なんかうるさいなこの娘。
右目を薄っすらと開いて横の女子含めた周囲を一瞥すると、横の女子は何というか、他の女子とは毛色の違う視線を皇子に向けており、前の席に座っていたリオンは神妙な顔持ちで横の女子のことを見つめていた。
……何かの因縁でもあったのだろうか。
いずれにせよもう後は寝ているだけの簡単なお仕事なので、再び瞳を閉じた俺は周囲の音をシャットアウトして、少しの間だけの浅い眠りへと沈んでいった。
◆◇◆
そして入学式の後。
奇しくも同じクラスだったリオンと、褐色肌君と眼鏡君改めダニエルとレイモンドと共に俺達は、入学直後のテンプレとも言えるそれぞれの自己紹介的な物を済ませて、皆で昼ご飯を食べに食堂へと向かっていた。
長い廊下を歩いていく中、そういえばと思いあの時疑問に思っていた事を聞いておくことにする。
「―――なあ、入学式の間俺の横に居た女子のこと見てたが知り合いか?知り合いなら独り言がうるさいって注意して欲しいんだが……」
「あぁ……」
リオンはその露骨に嫌そうな雰囲気を隠そうともせずに、左腕でワシャワシャと頭を搔きながら苦々しい口ぶりで話し出す。
「知り合いじゃない。見ているとイライラするというか何というか………とにかく嫌いだ」
「そ、そうか……」
話してすらないのに此処までの悪印象を抱くことになるとは、よほどこいつの中での地雷らしい。
もしかしたら前世で似たような奴に痛い目に遭わされたのかもしれないな。
そして廊下を抜けた先には広い空間―――学園の食堂が広がっていた。
国中の貴族が通う場所なだけあって、かなり広いだけでなく食事のレパートリーも多く、高級感のあるレストランを彷彿とさせる雰囲気を纏っていた。
各々が好きな物を注文していき一通りの注文が終わると、近くのテーブルへと皆で座る。
「それにしても流石王都の学園だね。学食でさえその辺の店と遜色無い味なんだから」
「量は男子からすればちょっと少なく感じるけど、基本的に女子が優先だから仕方ないのかもしれないがな」
……確かにそうかもしれない。
レイモンドとダニエルが言う通り、学食の料理は美味いが基本的な量が微妙に物足りない。
女子からすれば丁度良いのかもしれないが、食べ盛りの十五歳男子達にとっては辛いのである。
「その代わりに、デザートの種類がだいぶ多いのは良い点かもな。卒業までに完全制覇したい所だ。………おいヴァン、何だその目は。何で食わずに料理を睨んでるんだ…?」
「……」
正確には一口食べたけど、何かが物足りない。
要は普段に比べて満足行く味の濃さでは無かったのだが、まあ些事であった。
リオンの言葉と共に三人分の視線が突き刺さる。
そう言われてもまあ単に―――
偶々近くを通りかかった店員が居たので、俺は声を掛けてその店員を呼び止める。
「はい、何か御用でしょうか?」
「ええと、調味料を全部」
「分かりました。調味料を全部………はい?」
『はあ?』
店員は困惑したような目つきで、そして他の三人は理解出来ない物を見る目で俺を見てくる。
まあ確かに普通なら聞き間違いだと考えるのかもしれないし、実際聞き間違いだと思ったのか再度店員が問い返してくる。
「し、失礼しました。申し訳ありませんがもう一度伺っても……?」
「調味料を全部で」
「ア、ハイ。ワカリマシタ……」
店員は何とも言えない表情を浮かべて、奥の厨房へと向かっていった。
心做しか顔が引き攣っていた気がするが気にしない。
店員がその場から去ると、ダニエルとレイモンドが俺の意図を図りかねたのか疑問の声を上げる。
「ど、どうした?体調不良なら言ってくれよ?」
「そうだよ。それに調味料なんか一体何に使うんだい?」
「まあまあ」
数十秒後、先程の店員がワゴンにかなりの数の調味料を載せてやってくる。
十本以上の瓶を載せて席に運んでいるのは何というか、物珍しい光景だった。
「お、お持ちしました」
「ああ、ありがとうございます」
「そ、その。差し支えなければこちらをどう使うのかお教えいただく事は出来ませんか……?」
「…?構いませんが、やることなんて一つですよ?」
「―――ヴァン、お前まさか…!」
―――そのまさかだぞ。リオン。
見た感じ置いてある物の種類は『塩・醤油・砂糖・酢・味噌・スパイス・みりん・こしょう・わさび・オリーブオイル・ケチャップ・マヨネーズ・ソース・ラー油・からし』辺りっぽいな。
何処で取れるのかは相変わらず疑問だが、まあ十分すぎるくらいだろう。
そして次の瞬間―――
「よっと……」
『ヒェッ……』
俺は無造作にワゴンに置かれた瓶を二つ手に取り、真っ逆さまにして自身の料理へと振りかけた。
どこかから軽く悲鳴が聞こえた様な気もするが、おそらく気の所為だろう。
リオン達三人は一瞬ぽかん、と鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたが、正気に戻ったのか狼狽しつつも凄い剣幕でまくしたててくる。
「お、お前マジで何してんだよ!?」
「何って……調味料をかけてる」
「違うよ!ダニエルが言いたいのは、何で完成した料理にアホほど調味料をぶっかけてるのかってことだよ!」
「いやまあなんか味薄かったし……」
「十分な濃さだったと思うんだが!?」
ダニエルとレイモンドの問いに答えながらも、両腕の調味料によるブレンドを止めはしない。
塩や砂糖、味噌に胡椒をまぶし。
醤油とみりん、お酢にオリーブオイルを適度に注ぐ。
ケチャップとマヨネーズを一対一の割合でつけて。
ソースとラー油を適当にかけて。
最後にわさびとからしを大さじ一杯程乗せれば―――
「ちょっとこれ以上はマジでやめとけ!?向こうでそれ作ったらしき人がこの世の終わりみたいな顔でこっち見てるからさあ!?」
「いやもう出来た」
「止められなかったかぁ……。これもう飯テロだよ飯テロ。物理的な意味でさぁ!!」
周囲の人の食欲を奪う的な意味での飯テロである。
そして後にリオンは当時のシェフの表情を『FXで有り金全部溶かした人』 と称したとか。
―――想像を絶する光景と化した料理からは、味噌や醤油の香ばしさや、鼻につくお酢やワサビ、からしの匂い等の、様々な匂いが混ざりあった特殊な匂いを発していた。
ソレを見て皆顔を顰めて僅かに距離を取る中、俺はフォークを手に取って多量の調味料ごと再び料理を口にした。
「―――」
「ど、どうした?不味いか?むしろ不味いと言ってくれ!」
「これは―――!!」
まず口の中でからしやわさび等のツンとした辛さが広がって、その直後にはお酢と砂糖によって微かな間ほのかな甘みが舞い、それが消えた後は醤油やラー油にオリーブオイル等による辛いに近いような何とも言えない旨味と共に口の水分が殆ど持っていかれ、最後に余韻として鼻腔にも残るツンとした辛味を再び感じる事となり―――
―――つまり何が言いたいかと言うと、
「……凄く微妙」
「え、馬鹿かな?」
大変ごもっともな突っ込みありがとう。
そしてこの日の一件を期に、俺の名前が以前よりも(悪い意味で)広まったのは完全な余談である。