迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!)   作:abc2148

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これからも本作をよろしくお願いします。


害虫駆除

 ザヴォルシスク放送局地下構造体。

 其処には非常用発電機、空調設備、地下駐車場、埋没化した各種ライフラインを中継する施設が重点的に配置され放送局の大きさに見合った広大な地下空間が嘗て広がっていた。

 だが人が去り長年放置された結果、一定の室温と湿度が保たれる環境を好んだ虫型ミュータントの巣窟と化した。

 地上部分に棲み着いたミュータントとは喰い喰われる関係になりつつも致命的な出来事が起こる事は無く地下構造体に数を増やし続けた。

 そして廃墟の地上部分に巣を構えた結果、全滅を、或いは致命的な損失を逃れることが出来なかったミュータント達とは違い数の減少による弱体化は免れた。

 

 元々の習性として縄張り外に出て積極的な狩りを行う種ではない虫型のミュータントは待ち伏せを主体にした生態であり個々の活動範囲はそれ程広くは無い。

 定期的に地上から地下に迷い込むミュータントを一匹も逃さず捕食していれば数を一定に保つ事は可能であった。

 誘い込み、囲み、数に言わせた暴力で蹂躙するそれは複雑怪奇な戦術ではなく種の特性を活かした単純な戦術ではあるが効果的であった。

 だが地上に巣を構えるミュータントの勢力とは拮抗するまで数が増えることが出来ず、結果的に言えば地上部分に進出する事なく地下に長年留まる事になった。

 

 だが状況は激変した。

 地上部分に巣を構えていたミュータントの悉く姿を消し、進出の際の障害は無くなった。

 そして廃墟外に大量放置されていた餌となるミュータントの死骸、本来であれば活動に適した環境ではないが簡単に食料が手に入る状況に動かない訳がなかった。

 質・量問わずに虫型ミュータントは働きアリの様に活動し、餌となるミュータントの死骸を大量に地下に運び込むと同時に食い付いた。

 雄雌問わずに大量の栄養を摂取できた事で虫型ミュータントの体格は大きくなりオスの身体はより強靭に、メスは生殖器の増大によって大量の卵を産み付ける事が可能となった。

 天敵が姿を消し、大量の餌を手に入れた虫型ミュータントは生存から増殖へ、新しく生息範囲を拡大するべくその数を大きく増やそうとしていた。

 

「許さねぇ」

 

 だがそれが叶う事は無かった。

 大量の虫型のミュータントが棲み着く地下、其処にノヴァが踏み込んだからだ。

 

 ──背中に燃料タンクを背負い大型の火炎放射器を携えて。

 

「許さねぇぞ、害虫ども!」

 

 殺意と怒りで脳内が満たされたノヴァが火炎放射器の引き金を引く。

 その瞬間、火炎放射器からは真っ赤に燃え盛る紅蓮の炎が勢いよく吐き出された。

 炎はミュータントの種類を問わなかった、芋虫、蜘蛛、百足、羽虫はその悉く炎に飲まれ其の身体を燃やされた。

 

「地下に棲み着くのは仕方がない、この環境はお前達を見れば此処が生息するのに適した環境であったのが分かる」

 

 体表は高温で炙られ、身体の側面にある気門からは侵入した高温が内部を焼く、炎は鱗粉を飲み込み、体毛を根元から燃やし尽くした。

 

「地上に放置されていた死骸を運び込んで腹一杯食べた事も……まあ、処理をしなかった自分が悪いから責めはしないさ」

 

 多くの犠牲を経てミュータント側も初動が遅れたものの外敵を認識。

 生息領域に踏み込んだ存在を迎撃しようと多種多様の虫型ミュータントが押し寄せた。

 

「だが、お前達は地下の……、この建物の基礎構造をズタズタに破壊しながら巣を拡張し続けた! さっき見ただけで壁とか柱とかボロボロになっていて……害虫が! 殺す以外の選択肢はない!」

 

 だが迎撃に出向いたミュータントは其の殆どがノヴァに爪痕を刻む事無く紅蓮の炎に飲まれ身体を炭へと変えていった。

 中には炎の壁を運よく避けることが出来たミュータントもいたがノヴァが装着する外骨格の装甲を貫くことは叶わず振り落とされ脚で、或いは近くにある柱や壁に勢いよく投げ飛ばされ潰されていった。

 

「消えろ……! 害虫!!!」

 

 蟲達がきいきいと鳴いている。

 それは侵入者に対する威嚇にも聞こえ、或いは迫りくる紅蓮の炎に恐怖し許しを乞うている様にも聞こえた。

 その鳴き声がどの様な意味を持つのかは人間には分からない、それ以前にノヴァからしてみれば耳触りの悪すぎる不協和音でしかない。

 

「突貫作業で進めた兵器開発、地下での火炎放射器の運用に備えた防火服、及び汚染の可能性が高い事から長時間使用可能な防毒・酸素マスク、地下での戦闘に備えた模擬訓練施設の建設」

 

 燃え盛る地下空間をノヴァは進んで行く。

 進行を阻むミュータントは一匹残らず駆逐し、張り巡らされた巣を燃やしていく。

 そして地下において一際大きな空間、大型車両用の地下駐車場に侵入したノヴァは見つけた。

 地面・天井・壁、至る所に産み付けられた蟲の卵を、その中央に居座る悍ましい程に肥大化した生殖器官を備えた虫型ミュータントを。

 その姿は紛れもない此処の主である事が一目で分かる程であり──ノヴァの怒気が更に上昇する結果しか齎さらなかった。

 

「まだまだあるぞ、お前たちのせいで増えた仕事はまだあるぞ!」

 

 背負ったタンクから送られる大量の燃料が大型火炎放射器によって今日一番の炎となって空間を埋め尽くす。

 有名なSF映画に出てくる人体寄生するエイリアン、それの幼体を内包した卵によく似たミュータントの卵が燃やされ、生まれる筈だった幼体が炎の中に消えていく。

 もう直ぐ生まれる筈であった我が子が殺されていく光景、虐殺を見せ付けられた母体であるミュータントは悲痛な金切り声を地下に轟かせた。

 そして醜く肥大化した生殖器を抱えながら鈍足でノヴァに迫る、その姿は子を思う母親の姿そのものであり、母親として虐殺から子を守ろうとしている様に見えた。

 

 ──残念な事にミュータントの命を賭した行動、その目的を叶えさせる優しさをノヴァは一欠けらも持っていなかったが。

 

 ノヴァに迫るミュータントの母体が炎に飲み込まれる。

 体表が高温で炙られ、気門を通して内部に入り込んだ高温が内部を焼き、体毛が根元まで焼かれていく。

 元々の体躯の大きさもあって炎に包まれても即死とはならなかったミュータントだが、紅蓮の炎が与える苦痛は耐えがたいものであった。

 卵よりも自己の生存を優先し母体はこの場から逃げようと動き出し、しかし炎は止まることなく浴びせられ続け身体を焼いていく。

 高熱で炙られ炭化した脚が砕けていく、身体を支え移動する為の脚が一本、また一本

 と炭と化して砕けていく度に元々遅かった脚はさらに遅くなる。

 そして足の半分が炭と化し砕けた頃には移動は不可能となった。

 最早逃げる事は出来ない、それを本能で理解したのか母体であるミュータントは弱弱しくなった金切り声を挙げる。

 

「死んで平伏しろ! 俺が此処の主だ!」

 

 ノヴァが放った炎がミュータントの全身を包み込む、それが止めとなった。

 僅かに動いた身体も徐々に動かなくなり、ミュータントの金切り声も聞こえなくなった。

 

 そうして地下駐車場の主であり母体でもあったミュータントは斃れ、また駐車場を埋め尽くす程にあった卵は今も燃え盛る炎の熱によって炙られ続けた。

 その光景を見た事で昂り殺気立ったノヴァの心も幾分か落ち着きを取り戻し──

 

「ひぇ……」

 

「こわ……」

 

「うぇ……」

 

「先生、あの、それ位にしてもらえれば……」

 

 ノヴァの背後に念の為にと控えていたアルチョム達は腰が引けていた。

 だがアルチョム達が怯えるのも無理は無い、燃え盛る駐車場をバックに炎によって照らされる外骨格の姿は紛れもない地獄への使者に他ならなかったのだから。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「ああスッキリした!」

 

「……それは良かったですね」

 

 終わる気配の見えない仕事に追われていたノヴァはストレスをある程度解消できたのか表情は目に見えてよくなっていた──今回の駆除に同行していたアルチョムの表情は反対に少しだけ悪くなっていたが。

 

「何はともあれ地下の調査は再開できる。踏み入れる事に怯えていた作業員も火炎放射器の威力を間近で見たからミュータントを過度に恐れなくなっただろうし」

 

「間違いなく怯える事は無くなりましたよ」

 

 それと間違いなく別の物を怖がるようになったと思いますよ──とアルチョムは内心で呟いた。

 

 今回は装備を万全に整えた状態で行われた地下に生息するミュータントの第1回目の駆除であり、火炎放射器と防具一式を着込み、短期間ながら訓練を重ねた虫型ミュータント特化部隊の初陣でもあった。

 だが訓練を重ねるも部隊員のミュータントに対する不安は解消されず残ってしまい、練度はあるが心理状態が不安定という部隊が出来上がってしまった。

 訓練を監督していたアルチョムから見ても実戦投入は時期尚早ではないかと考え、問題を知らされたノヴァが提案してきた。

 

 ──先陣は俺が切るから部隊は後ろから援護をして経験を積もう。

 

 訓練と実戦は違う、装備を幾ら整えても心理的な不安を解消するには小さくとも成功体験が必要だとノヴァは考えた。

 それに関してアルチョムも同意見であった。

 それから二人で話し合った結果、初陣はノヴァに先陣を切ってもらい部隊は背後の警戒とノヴァが仕留め損ねたミュータントに対応する事で経験を積もうと計画した。

 事前情報が少ない為、複数のパターンを想定し最悪装備を投棄して人命優先に進めようとし初陣を迎えた。

 

 ──結果として作戦は感情の昂ったノヴァが全てのミュータントを燃やし尽くし部隊はこれといった経験を積む事も無く駆除を終えてしまったが。

 

 少し……、いやかなり頭の痛い問題ではあったが今日の駆除を通して部隊が持つミュータントへの不安や恐怖の大部分は払拭されたとアルチョムは自分に言い聞かせた。

 実際に間違ってはいない筈だ、駆除を終えた後に部隊の聞き取りを行えば精神状態はかなり改善されていたのだから。

 

「さてこれで調査は進んでくれるのは間違いないとして……、取引で何か問題が起こったそうだね」

 

「はい、食料品が総じて値上がりを始めました」

 

「ふむ、値上がりはメトロでも珍しい事なのか」

 

「ありふれた事ですね。ですから駅や村の大小関わらずに何処も自前で食料生産を行っています。それでも足りないものを市場で買い、余ったものを売りに出しています。それがメトロでの常識です。それと、この時期になると扶養しきれない人間がコミュニティから追い出されますし、食料を巡っての衝突が起きたりもしますね」

 

「予想していた通り食料供給が不安定、自給するにはまだ時間が必要だが大丈夫か?」

 

 ノヴァは今後の取引において相手から食糧で足元を見られない様に自給自足できる体制の構築を急いでいた。

 空のコンテナを利用した屋内栽培設備にアルチョムが買ってきた食用植物の苗と種を育て、余った空地には作った小屋に繫殖用の豚が既にいる。

 それらを育てるのは作業人員とは別に村から雇った手隙な年配女性達であり、彼女たちを食料生産に従事させているが自給出来るようになるには時間がまだまだ必要だ。

 

「自給出来る体制は整えるべきでしょうが今の値上げ程度であれば問題ありません。ですが食料供給を優先させるのであれば作業人員の割り当てを変える必要があります」

 

「……いや、施設調査に充てる人数が減るのは避けたい。値上がりが今後も続くようであれば食料生産を重視するようにするが今はまだこれでいい」

 

「分かりました。それと其処まで思いつめることはないかと。単純な価格操作の可能性もありますが今迄の利益からしてみれば予算範囲内に収まっていますから」

 

 

「分かった。……念の為に火炎放射器を売りに出すか?」

 

「火炎放射器は……取り扱いが難しいです」

 

 急激な値上がりによって資金不足に追い込まれた時に備えて火炎放射器の売却を提案するノヴァ、だが取引を実際に行っているアルチョムからの反応は芳しくなかった。

 無論、火炎放射器の性能に問題は無い、訓練を通して実際に扱ったアルチョムからしても優れた兵器であるのは間違いない。

 むしろ、優秀な兵器であるからこそ商品として取り扱うのが問題であるのだ。

 

「メトロは薄暗く気温が一定なので虫型ミュータントが繁殖し易いのです。銃で撃ち殺すにしても逃げ足が速い、数が多くて意外にしぶといので火炎放射器があれば大変助けになりますが……」

 

「が?」

 

「数が足りないです。欲しがるコミュニティは沢山ありますし、買えなかったコミュニティから文句だけ来るのであれば良識があると言えます。ですが、どうしても欲しいコミュニティが此処に乗り込んで買い付けしてくるところもあるかもしれません。そうなった時に売れますか?」

 

 

「……売れないな。基本的に此処で使う事を想定しているし製造装置は他に作るものがあるから追加で製造する空きがない」

 

 優れた兵器、厄介な虫型ミュータントを一方的に効率よく駆除できる兵器であれば何処のコミュニティも欲しがるのは間違いない。

 価格は燃料も含めて販売する以上非常に高価なものになり購入出来る処は限られるだろうが両手の指には収まらないのは間違いない。

 である以上、資金を持っていたが購入が出来なかった買い手が札束で殴りつけてくる可能性もあるのだ。

 もしそうなっても無視しようと思えば出来るだろうが、その後に間違いなく面倒事が起こるのは避けられない。

 その対応に時間を取られるのはノヴァの本位ではない以上避けるのがアルチョムの考えでありノヴァも同意するところであった。

 

「分かった、外部に売りに出すのは辞めよう」

 

「それがいいですね。それに新しく商品に加えるものは火炎放射器ではなくマスクに付けるフィルターの方がいいでしょう。売却先については考える必要がありますがメトロには有毒な空気が滞留した場所は数多くあるので需要は高いです」

 

「成程ね、売る事に異論はないからそのあたりの問題を解決できれば作るよ。ああ、それと次の交渉ではメトロで栽培している植物の種や苗を買ってきてくれ、金には糸目は付けなくていい」

 

「分かりました」

 

 フィルターであれば製造装置に大きな負担を与える事無く生産できる。

 それに次の取引結果次第であるが売れ行きが良いのであればエイリアン製の製造装置ではなく専用の製造ラインを用意して生産させようとノヴァは考えた。

 

 ──そうした場合、新しくフィルターの製造ラインを作る仕事を誰がするのか、ストレス発散出来て少し頭がポヤポヤしたノヴァが気付くのはもう少し先になってからだった。

 

 

 

 

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 ・放送局を占拠しました。

 ・施設を完全に制圧しきれていません。

 ・ランダムでミュータントが襲撃してきます。

 ・簡易陣地を作成:ミュータント迎撃効率10%向上

 ・放送設備は使用不能です。

 ・労働可能人員:1+10人

 ・ミュータントの大集団を発見、至急駆除せよ

 →駆除進行中、大量増殖の兆候は未だに在り

 

 ・放送局制圧進行率 :82%

 ・放送設備修復率  :0%

 

 ・仮設キャンプ:稼働中

 ・食料生産設備:稼働中・自給率は低い

 ・武器製造:火炎放射器 生産完了:予備以外の追加生産の予定は無し

 ・道具製造:汚染除去フィルター(マスク用)市場流通分の追加生産を予定

 ・バイオ燃料:生産中

 

 ・ノヴァ・健康状態:ストレス解消出来た

 

 

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