迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!) 作:abc2148
ドレスファミリー、誘拐、人身売買、脅迫、強盗、麻薬の密売など一通り悪行を行いメトロにおいて知らぬ者はいない悪名高い犯罪組織である。
その構成員は複数の駅に跨り多くの破落戸と凶悪な私兵を抱えており下手に手を出せば苛烈な報復が本人を含めた家族や親類縁者にまで及ぶ事で恐れられている。
そしてドレスファミリーを束ねるボスや幹部の懐は数多くの上納金によって潤っており総資産は数少ない上層部だけで駅の富を9割保有していると言われる程である。
そんな彼らにとって『探検家アルチョム』と呼ばれる人物がメトロに持ち込んだ品々は今や注目の的でありドレスファミリー以外のマフィアもがその出所を探っていた。
血生臭い手段を問わずに行われた情報収集、それを経て最初にお宝に辿り着いたのはやはり最大規模のマフィアであるドレスファミリーであった。
使い捨ての子飼いの傭兵が持ち込んできたのはアルチョム達がメトロに運び込む品々を一時的に保管している倉庫代わりの廃墟の情報であった。
情報を知らせに来た傭兵は戦闘をしてきたのか装備や武器がボロボロであった、その事から情報の信頼性が高いと考えた幹部は先行して倉庫を強襲した。
情報通り碌な警備が置かれておらず、傭兵からはアルチョム達の人員そのものが少ないから監視に割ける人数は殆どないと聞いていたが事実であった。
それ以前にメトロならまだしもミュータント蔓延る地上を知り尽くした探検家であったからこそ野生のミュータントを番犬代わりにして倉庫として利用していた。
倉庫の中にはあったのは宝の山だった。
バラ売りされる前の高品質な機械部品にフィルター等が木箱の中に詰め込まれていたのだ。木箱一つが持つ価値は凄まじい、貧乏人から巻き上げる小銭は無価値に等しい。
そして情報を提供した傭兵によれば倉庫は三か所に分散されているというではないか!
一度目の襲撃で味を占めたドレスファミリーは多数の幹部と構成員を投入し二か所目の倉庫を強襲、一か所目とは違い組織的な抵抗があったもの数は少なく傭兵を前面に出すことで消耗を抑えてこれもまた占拠できた。
そして倉庫の中にあったのは一か所目以上に積まれた木箱だ。
中を見て見れば中にあったのは大型の機械部品、これもまた高品質でありメトロにおける価値は凄まじいものである。
「ハッ、笑いが止まらねぇな! こんだけのお宝を隠していたと思わなかったぜ!」
得られた望外のお宝としか言いようがない成果を前にしてドレスファミリーを束ねるボスはこれ以上ない満面の笑みを浮かべていた。
正確な鑑定は行っていないが安く見積もっても今迄の襲撃だけでファミリー全体の稼ぎの七割に迫る程の価値である。
それだけでも笑いが止まらないのに襲撃した倉庫は一時的な保管場所でしかないのだ。
本命ともいえる倉庫には未だに手付かずのお宝が眠っておりその価値はどれ程のものになるのか長年大金を扱ってきたマフィアのボスであっても正確な予想は出来ない。
そして手に入れた品々を適切に売り捌く事が出来れば駅一つどころではなく多くの駅を文字通り従える事も出来るだろう。
「ボス、奥の方に新しい箱が幾つもありました!」
「よし全部奪え! 一つも残すなよ」
「分かりました。おらさっさと働け!」
「これだけあれば酒も女も思いのままの報酬を与えるぞ! おら、動け動け!」
ボスの命令を受けて組織の幹部達は各々に動き出し機械が詰まった木箱を丁寧に運び出す。
幹部達も木箱の中身が持つ価値は十分に認識しているので決して雑には扱わない。
しかし同時に運び出しに関して動きを急かしているのはこれで終わりではないと知っているからだ。
本命がまだ残っている、一時的な保管庫なんか目でない量のお宝が待っているのだ。
「機嫌がいいようだね。それで報酬は何時になったら支払ってくれるのかな?」
「あぁ、お前か。最近は碌な成果を挙げてこなかったから期待はしていなかったが今回の事でお前を見直したよ」
上機嫌なボスに話しかけたのは随分前に首輪をつけた使い捨ての傭兵の一人だ。
本来であれば粗相が一つでもあれば気紛れに殺される立場でしかない傭兵が最大規模のマフィアのボスに対して生意気な口を開く事は許されない。
だが女傭兵が殺されずにいるのは偏にボスが気に入っているからだ。
「世事はいらないよ。情報に関する報奨金、それにアルチョム達を抑えるために死に物狂いで戦ったのだからそれなりの額は貰える筈だよ」
「安心しろ、其処まで値切ろうとは思わん」
そう言ってボスは今回の襲撃において手柄を立てた傭兵を代表して女に報酬を渡した。
中にあるのは今回の略奪で得た新品同然の高性能フィルターだ、売り先次第では大金に化ける品物であり使い捨ての傭兵からみれば確かに破格な報酬であった。
「確かに貰ったよ、これで僕とその下にいる傭兵達は一足先に抜けさせてもらう」
「おいおい、これからが本番だってのに帰ってしまうのか?」
「知らないとは言わせないよ。相手はあのアルチョムとその仲間達、武器も外骨格も戦いで破損を通り越してスクラップになっているのに戦うつもりはないよ」
二か所目の保管庫襲撃時に一番の脅威と見做されていたのは『探検家アルチョム』を筆頭とした少数で構成された部隊だ。
一人一人が猛者として警戒されファミリーの中では誰が対応するのか、あるいは貧乏籤を引くのかで少なくない時間が取られた。
結局の所、貧乏籤を引くのはファミリーではなく傭兵部隊に決まりアルチョムを倒せなくても消耗させればそれで十分という肉盾扱いであった。
だが予想に反して傭兵部隊は善戦しファミリー本体の被害は極軽微で保管庫を占拠することが出来た。
これには幹部連中も驚いたが結果が良いのであれば問題はない、今回の働きに関しても傭兵にしては上手くやったというのが幹部の総意であった。
結局の所ファミリー子飼いの傭兵とは一番損な役割を引き受ける消耗品である。
殆ど選択肢がない状況であっても最低限の武装さえ損失したのであれば仕事は出来ないと拒否するしかないのだ。
「それに仮に無理に参加しようとすれば法外な値段で壊れかけの武器や外骨格を親切なファミリーから借りるしかない、そんなのは御免だよ」
「ふん、可愛げのない。傭兵なんかやめて俺の女になれば底辺の生活を抜け出せるぞ。気が変われば何時でも来い、可愛がってやる」
「冗談として聞き流しておくよ」
「残念だ、それで最後の奴らのお宝の保管場所は例のスタジアムで間違いないな」
「そうだよ。二回の襲撃で襲った場所は一時的な保管場所でしかない。本命はスタジアムで取引の度に少しずつ引き出している」
アルチョム達がメトロに流している品々の出所であるスタジアムは地上において何もない場所でありながら旨味のない場所として有名であった。
価値ある資源が元々少なかった事もあり早期に資源が枯渇し昔から放置されていた場所であり今はミュータントの生息領域に含まれている。
常人であれば価値のない場所とみなし態々危険に身を晒さない、そこをアルチョムは突いた事で広大な敷地面積は彼らが見つけたお宝の保管場所として選ばれたのだ。
「さすが探検家だな。スタジアムは盲点だった」
「襲撃を掛けるなら人数をそろえた方がいいよ。彼らにとっても命が掛かった物資だ。撤退したアルチョムに加えて今度は『皆殺しのセルゲイ』も出てきて必死に抵抗するよ」
「はッ、余計な心配だ。次の襲撃に向けて動員できるだけの戦力は整えた。これだけいれば小細工をしようが簡単に踏みつぶせる」
構成員600人、子飼いの私兵200人、計800人が最後の襲撃に向けてドレスファミリーが動員した戦力である。
関連施設に最低限の戦力だけを残して掻き集めたファミリーの全戦力でありメトロにこれ以上の動員を可能にする組織は片手にも満たない。
正にメトロにおいて最大規模のマフィアに相応しい陣容であり小さな駅や村であれば一日も掛からずに滅ぼせる戦力である。
「なら僕が言う事は無いよ、先に帰らせてもらう」
自慢げに語るマフィアのボスには目もくれず女傭兵は離れていった。
その姿にボスは気持ちの悪い笑みを浮かべ、反対に幹部は苦々しい目で去っていく女傭兵を眺めていた。
「あの女ボスに対して舐めた態度をしていますが躾けなくていいのですか?」
「お前には分からんか? 面も身体も俺好みなああいう女を追い詰めてから最後には自分から股を開かせるのが最高に興奮するんだよ」
自らの性癖を気味の悪い笑みで語るも直ぐにマフィアのボスの視界から女の姿は消えた。
代わりに目に入るのは自分に膨大な富を齎してくれるだろうお宝の入った箱の数々だ。
「よし奪ったお宝はいつもの所に運んでおけ。最低限の人員を残して全力でスタジアムに襲撃を仕掛ける。他のファミリーに余計な手出しをさせない様に速攻で片を付けるぞ」
保管庫にあった物資を全て強奪したマフィアはボスの号令の下、本命であるスタジアムに移動を開始した。
道中に餌となる人間を察知したミュータントに襲われる場面が幾つもあったが拙い迎撃であっても数の力は大きく僅かな犠牲者を出しただけで終わった。
そうして数時間移動するとマフィア達は本命であるスタジアムに到着した。
「誰もいないな」
「大方隠れているのだろう。慎重に進め」
スタジアムの中に通じる通路にはバリケードが幾つも設置され道を塞いでいた。
自然に出来る様な物ではなく人為的な物であり進行を遅らせるための障害物であった。
この先に本命があると確信を抱いたマフィアは雑多な装備をした構成員を先頭にしてスタジアムに近付いていく。
先頭の立つ人員の多くが襲撃を予想しているのか廃材で作った粗末な盾を構えており防御を少しでも上げようとした結果進みは遅くなった。
だが最初の犠牲者は予想された銃撃ではなく隠されていた地雷による爆発であった。
「地雷だ! 其処彼処にあるぞ!」
地雷によって片足を吹き飛ばされた構成員が大声で泣き叫んだのを皮切りにマフィアの足並みは乱れた。
そして足並みが乱れる瞬間を狙ったかのようにスタジアムの複数の場所からマフィアに向けて銃撃が行われる。
高所からの銃撃は位置エネルギーも加わりスタジアムに押し寄せるマフィアの足を止め、防戦一方に追い込んでいった。
「ほぉ、どうやら此処が本命で正解だな。お前ら、さっさと圧し潰せ」
「分かりました。奴らは数が少ない、足を止めずに押し込め! バリケードを突破しろ!」
マフィアの幹部達は先手を打たれて乱れた足並みを最低限整えると部隊を銃撃が降り注ぐのも構わずにスタジアムに向って進ませる。
確かに高所からの銃撃は脅威である、だがマフィアを押し返すには火力が圧倒的に不足していた。
一方的に撃たれるマフィアであるが傭兵の情報通りアルチョム達が動員できる戦力が少ないのだろう。
スタジアムに陣取り幾ら一方的な銃撃を繰り出そうともマフィアは返礼として10倍の火力をお見舞いする事が可能である。
圧倒的な人海戦術の前には個々の戦術など意味を成さずに蹂躙されるだけ、情報通り火力は薄く犠牲は出るが許容範囲内であるとマフィアは判断して進み続ける。
「バリケードを突破しました!」
「いいぞ、いいぞ! そのまま進め!」
スタジアムの銃撃に倒れる構成員の数は時間と共に増えていく、その度に道を防ぐバリケードは破壊されスタジアム内部に侵入するマフィアは増えていく。
何より構成員の一人一人がこの先に待つお宝に目が眩み恐怖を置き去りにして一目散に進んでいるのだ。
今迄の襲撃で奪った品々の価値が分かるからこそ少しでも自分の分け前を増やそうと誰も彼もが必死であり、その光景は丸々と肥えた獲物に群がる飢えたミュータントの様である。
そして幾ら撃っても減る様子が見えないマフィアの戦力を前に迎撃を諦めたのか銃撃の密度は時間と共に減っていき最後のバリケードが破れる頃には銃撃は止んでいた。
今迄銃撃を加えていた場所を見れば人影の様な物が一目散に遠ざかる姿が見えた。
恐れを知らずに襲撃を繰り返す自分達に言い知れない恐怖を感じてスタジアムから逃げ出したのだろう、情けない姿で逃げていく姿はマフィアのボスとして何度も見ても飽きない光景であった。
「奴ら逃げ出したようです、追いますか?」
「腰抜けは放っておけ、それで中はどうだ」
「大当たりです保管庫らしき建物が幾つもあります!」
スタジアム内部に侵入したマフィア達は荒れ果てたフィールドに規則正しく並べられた数多くの保管庫を発見した。
そして誰が言うまでもなくマフィアの構成員は動き出し砂糖に群がるアリの様に急増で作られた保管庫を襲う。
「おお、神よ! 偉大なる恵みに感謝しますぞ!」
「よし行くぞ! おい、さっさと運び出せ」
中にあるお宝が仕舞われた箱以外はどうでもいい、と言わんばかりに各々が持った雑多な工具で保管庫を壊し中に仕舞われている箱を見つけ次第外に運び出していく。
二か所の襲撃で得た量を軽く超える膨大な成果を前にマフィアの誰もが浮かれ口々騒ぎ出した。
だが順調に進むかと思われた運び出しは三度目の襲撃で大量動員した戦闘員が作業の妨げとなり遅々として進まない事態となった。
その光景を見た幹部が私兵を動員して邪魔になる構成員を殴り蹴り飛ばして道を広げていき──
──突如としてスタジアムを揺るがす大爆発が起こった。
「なんだ! なにが起こった!?」
「スタジアムの入口が崩落しました!」
マフィア達は爆発に動揺したものの直接的な被害は殆ど無く、先程の爆発はスタジアムにある入り口の幾つかを崩落させるに留まった。
爆発を起こした犯人は考えるまでもなくアルチョム達であろう、出入口を制限する事で少
しでも有利な戦場を作り出し報復するつもりなのだ。
「何! クソ、女々しい足掻きだ! 瓦礫をさっさと撤去しろ!」
だがマフィアはアルチョム達の作戦通りに動くつもりはない。
出入口の瓦礫を人海戦術によって崩し逆に包囲殲滅してやろうと動き出し──
◆
「予想通りというか、此処まで上手くいくと何か見落としていないか心配になるな」
スタジアムを半分覆う壊れたドームの上に身を潜めていたノヴァは下に見えるマフィアの集団を見て何とも言えない気持ちになっていた。
傭兵を使い捨ての偵察に出す事からマフィアであっても戦略的に動く相手だとノヴァは仮定していた。
だが実際に蓋を開けてみればマフィアは幹部連中の統率がなければ即座に烏合の衆となり果てる破落戸の集まりでしかなかった。
マフィアが高度な戦術を行う事を想定してノヴァは幾つものパターンを想定して保険を仕掛けていたが必要なかった。
「まぁ、殆ど中に入ったようだし始めるか」
パターンとしては理想的なマフィアの動き、だからこそ下手に時間を与えて余計な動きをしない様にノヴァは二個目の起爆スイッチを押した。
「ポチっとな」
ノヴァの軽い掛け声とは反対にスタジアムで爆発が起きる。
それはマフィアが運んでいた木箱であり、今まさに打ち壊している最中の保管庫であった。
だが爆発の規模に反して犠牲者は少ない、近くにいたマフィアであっても腕が吹き飛ぶ位で致命傷には程遠い小規模な爆発であった。
だがこの爆発は殺傷を目的としたものではない、爆発によって薬品を広範囲に散布するためのものである。
そして散布された薬品、ミュータントを誘き寄せる誘引剤と精神を高揚させる興奮剤が広範囲に散布した成果は直ぐに表れた。
「「「──! ──!! ──!!!」」」
スタジアム全体を轟かせるミュータントの咆哮、それが廃墟を囲うように響く。
想定通りに事が運んだ事を確認したノヴァは無線機を手に取りスイッチを入れる。
「あーあー、テステス、テステス。『客人はペットと戯れている』繰り返す『客人はペットと戯れている』、オーバー」
事前に取り決められていた符丁をノヴァは無線機に語り掛けた。
そして、それはマフィアの運命が決まった瞬間であった。