迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!)   作:abc2148

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近道の代償

 キャンプ『木星』には住民の増加に伴い発生する問題を解決し、円滑なキャンプの運営を行う為に統治組織としての機能を持つ部署が作られた。

 

 キャンプで生産された商品を用いた商業取引を担う『商業部』。

 ザヴォルシスクの探索を行い資源や機械を回収する『探索部』。

 ミュータントや野盗、マフィアといった外の脅威からキャンプを守る『軍部』。

 キャンプを訪れる傭兵を管理し、仕事を斡旋する『傭兵部』。

 キャンプにおける住民の管理、移住者の采配、駅やコミュニティーの首脳部との交渉を担う『内政部』。

 ノヴァが責任者であるインフラの維持管理や回収された機械の修理等の技術的な問題を一手に解決する『技術部』が設立されている。

 

『技術部』は移住希望者と冬眠状態から目覚めた住民の中から工学知識・技術に優れた者で編成され主な仕事としてキャンプで使用されるインフラの整備や工作機械のメンテナンスを担当している。

 また『技術部』内部にはノヴァが自由に動かせる直轄部隊として帝国軍補給部隊(仮称)が指揮下に置かれている。

 この部隊は全員がコールドスリープポットから目覚めた帝国軍人で構成され現状最高位であるイワンコフ・マリソル中尉をトップにして急遽編成された。

 これはコールドスリープから目覚めた帝国軍人が激変した世界と環境に絶望し自殺を防ぐと共に、自暴自棄になり犯罪に走るのを阻止する目的でノヴァによって編成された。

 そのような経緯があり帝国軍補給部隊は『技術部』に所属していながらも限定的ではあるが武装を許された特殊な部隊でもある。

 

「延焼はあったか?」

 

「被害は軽微、損傷した機材を運び出します」

 

「消火用の水は扱いに気を付けろ、機材の保護を最優先にして動け!」

 

 そんな彼らは帝国軍補給部隊本部の近くにある電波塔に集結し誰もが慌ただしく動いていた。

 彼らが動き出す原因となったのはキャンプのシンボルマークである電波塔で火災が発生しからだ。

 幸いにも初期対応を素早く行ったお陰で火災の規模は小さく大事には至らなかった。

 だが、消火後も安全が確保されるまでは危険であると電波塔の周辺は非常線が張り巡らされ一般人の立ち入りを厳しく制限していた。

 だが火災による一連の騒動は悪い事ばかりでもなかった。

 突如としてキャンプで発生した火災による被害を拡大させる事無く鎮火した中心である帝国軍補給部隊。

 今も電波塔の内外で機敏に働く彼らを見てキャンプの住民達は安堵し、また現役の軍人の振る舞いは多くの住民達の関心を集め、キャンプ内で何処か浮いた存在であった彼らを身近に感じる契機にもなったのだ。

 

「……やっちゃったな」

 

 そして火災の原因を作ったノヴァは帝国軍補給部隊によって電波塔から実力行使を伴って追い出された。

 その後、行く当ての無かったノヴァは電波塔の傍にあったベンチに座り込み、魂が抜けたような表情で当てもなく空を眺めていた。

 

「だから言ったではありませんか。エイリアン製であっても本来の用途を超えた出力を無理に出せば回路は破損するのは当たり前です。火災で済んだだけマシでしょう」

 

「いや、いけるかなと。事前に余裕のある設計であれば通信出来た筈だった」

 

「エイリアン製の通信機材に人類の安全基準を当てはめるのはどうかと」

 

 部隊を率いているイワンコフ・マリソル中尉はノヴァに対し辛辣な言葉を放つ。

 何故なら火災の原因となったのはノヴァがエイリアン製通信機材を用いて想定を超える過剰な出力を発信しようとしたからだ。

 だがそれは間違いであった。

 人類製の通信機器とは違い設計に余裕がなく、安全率も安全装置さえ配慮・搭載されていないエイリアン製機材であった事を失念して「まだ、いけるまだいける!」と呟きながらノヴァは無理な操作を行ったのだ。

 そして実験は失敗、ジャミングを突破出来た時間は10秒も無く圧縮通信であっても大した情報は送れず、そもそも途中で自然消滅しているだろう。

 止めはマリソル中尉が言う通り通信機材のショートによる発火からの火災発生、受信送信設備諸共に勢いよく燃え上がるという起こるべくして起こった事故であった。

 

「……そうだよな。ごめんなさい」

 

 マリソル中尉の言葉を受けノヴァは素直に頭を下げた。

 それを見たマリソル中尉は今回起こった火災に頭を悩ませながらもノヴァ本人がしっかり反省しており、また帝国軍補給部隊への日頃の配慮を考えればこれ以上強く言い出せなかった。

 マリソル中尉にとってノヴァは無茶苦茶な事を仕出かす上司である。

 それでも行動には善悪の分別があり、また間違いを起こせば素直に反省できる性格であるのは今迄の会話から知っている。

 であるなら、これ以上マリソル中尉がノヴァに言う事は無かった。

 

「後片づけは私がしておきますからボスは帰って休んでください」

 

「助かる、ありがと」

 

 火災の後始末のために電波塔に向かうマリソル中尉を眺めていたノヴァ。

 本来であれば事故を引き起こした主犯として後片づけに参加すべきだろうが現場から追い出されてしまった今は何もすることが無く、暫くベンチで当てもなく空を眺めた。

 そうしていると何処からか自分に向けて近付く足音をノヴァの耳が拾った。

 空に向けていた視線を足音の方に向ければ其方にはノヴァに近付く子供達がいた。

 

「ボスがいる?」

 

「何しているの、ボス~」

 

「なんだ、チビッ子ども。お前たちのボスは落ち込んでいるから構っていられないぞ」

 

 キャンプへの移住希望者の中には当然の様に赤子を含めて子供が何十人もいた。

 本来であれば駅やコミュニティーで勝手気ままに遊んでいる年齢の子供達であるがキャンプの性質上、工場等には危険な工作機械などが数多く配置されていて危険である。

 危険性を理解できない子供が迷い込んで事故が起きる可能性を考えてキャンプでは基本的に子供達は託児所を兼ねた簡易的な学校で預かり子供の両親が仕事を終えるまで中で過ごす事になっている。

 外で遊ぶ場合も指定された範囲内でしか遊べない様にして、事故を未然に防ぐためにキャンプの住民達にも協力してもらっている。

 そんな子供達であるが勉強以外にも社会見学を兼ねて危険の無い簡単なゴミ拾い等を学校ではさせている。

 今いる彼らはゴミ拾いの途中なのだろう、背負った小さな籠にはゴミ屑が幾つも入っているのがノヴァには見えた。

 

「ボス何か奢って!」

「奢って、奢って!」

 

「厚かましいな、チビ共」

 

 ノヴァが落ちこんでいる事など子供達には知った事ではないのだろう。

 社会見学を兼ねたゴミ拾いの途中であるのにも関わらず子供達は厚かましくもあり図々しい程の遠慮の無さを発揮している。

 だが子供達の行動はメトロで生きている内に培われた物だろう。

 一言二言の注意で治るものではなく、注意する元気さえ何処かに行ってしまったノヴァには子供達の波状口撃を受け流す事は出来なかった。

 

「あ~、あ~、煩い煩い、奢るから静かにしろ」

 

 そう言って子供達の奢れコールを黙らせたノヴァ、だがいざ子供達に奢るとなると何が良いのかさっぱり分からなかった。

 取り敢えず何か食い物をやれば大人しくなるだろうとノヴァは周りを見渡すが見つかった出店は一軒だけ、しかも閑古鳥が鳴いていて一人も並んでいなかった。

 ついこの前、限定的な商業活動を許可したもの全てが上手く運んでいる訳ではない様だ。

 だが近くに飲食物を扱う出店がない以上、ノヴァに選択肢は無く取り得ず出店に顔を出してみた。

 

「焼きシュリンプか」

 

 扱っていたのは水棲ミュータントであるシュリンプの串焼きであった。

 シュリンプ自体はエビを巨大化したようなミュータントであり地上の河川や水辺、メトロでも地下水で浸水した一帯にも生息している。

 硬い殻を纏った身体は低品質、低威力の弾丸を防ぐが地上では動きが遅く、メトロの住人は複数人で取り囲んで仕留めているらしい、とノヴァはアルチョムから聞いた。

 そんな残念ミュータントであるシュリンプは食用可能であるがメトロでの知名度は低い。その原因は食糧輸送に適した設備が無いためであり、輸送中のシュリンプが高確率で腐敗してしまう為メトロの住民にはあまり好まれていない。

 一方、キャンプに持ち込まれるシュリンプなどの生鮮食品は事前にキャンプが渡している冷蔵・冷凍装置を用いる事で鮮度を保ったまま輸送しているので腐敗の心配は無い。

 だが一度根付いてしまったメトロの固定観念の払拭は難しく屋台を出している男性は売り上げの少なさに目に見えて落ち込んでいた。

 

「お、旨いな。シンプルに塩だけだが、それがいい。もう一本くれ、それとチビ共全員分。領収書は内政部に」

 

「ありがとうございます!」

 

 試しにノヴァは一本買って食べてみる、すると意外にも味は悪くない。

 歯ごたえのあるプリプリとした身に塩を振りかけただけのシンプルな味だが食べ応えもありノヴァの味覚的には十分に美味しい部類である。

 そして生まれて初めて焼きシュリンプを与えられた子供達も最初の方こそ訝し気な目でノヴァを見ていたが串から漂う美味しそうな匂いに負け口にした。

 すると子供達の舌にもあったらしく無駄話をすることなく一心不乱に串を頬張っていた。

 

「それで、どうしてボスは落ち込んでいたの?」

 

 一番早く串を食べ終わった年長の子供がノヴァに話しかけてきた。

 串を食べ終わって他の子供達が食べ終わるまでの暇潰しなのかベンチに座って足をブラブラと動かしている。

 

「あ~、まぁ、なんだ、近道しようとして失敗した」

 

「そうなの?」

 

「そうなの」

 

 話かけられたノヴァは出来るだけ難しい言葉を使わない様に落ち込んでいた理由を語る。

 だが簡素にし過ぎてしまったせいで逆に内容が理解できなくなった子供は頭を傾けるばかりだった。

 

「でもボスなら何とかするでしょ?」

 

「どうしてそう思う?」

 

「だってボスが此処を作ってたんでしょ。パパやママも言っていたよ、ボスに出来ない事は無いって」

 

 そう言って子供は遠くに見える工場を、居住区に改修した廃墟を、そしてキャンプを指さした。

 確かに子供が指さした場所は全てノヴァが調査を行い、材料を揃えて図面を引き、設計したものが組み込まれている。

 

「確かにそうだが、俺にも出来ない事はあるぞ」

 

「じゃあ、今回の失敗はどうにか出来ない事なの?」

 

「……いや、そんな事は無いが」

 

 子供は単純であり、そして純粋でもある。

 ノヴァが何に悩んでいるのか、何に落ち込んでいるのかはまだ幼い知性では図り知る事は出来ないだろう。

 それでも時に子供達の単純明快な言葉はノヴァの悩みや失意を軽く吹き飛ばして、それがいかに小さいものであるのかを知らしめた。

 

「はぁ~、情けない」

 

 大の大人が子供に諭される、何とも情けない大人であると内心で呟きながら頭を掻くと、ノヴァは勢いよく立ち上がる。

 その顔には先程まであった無気力で呆然とした表情は無い。

 

「よし、もう一回やるか」

 

「何するの?」

 

「なに、こっちの話だ」

 

 確かに電波塔での実験は失敗してしまった。

 貴重な機材が火災で損傷し、下手をすれば二度と使い物にならないかもしれない。

 だが1回目で失敗したなら成功するまで何度も試せばいい。

 二回で駄目なら三回、三回で駄目なら四回、成功するまで何度も実験すればいいだけだ。

 通信機材が壊れたなら直せばいい。

 手元には修理を可能とする工作機械も素材も十分にあるのだ。

 それか出力を大幅に強化した通信機器を新しく制作するか、もう一度『禁忌の地』にあるだろうエイリアンの前哨基地に殴り込みを掛けて強奪する手段もあるのだ。

 

 追い詰められた訳でもない、打つ手が無い訳ではない。

 考えれば幾らでも手段を思い付き、準備を整えれば実行に移せる環境を自分は再び作り上げたのだから。

 

「ふ~ん。あ! ボス、此処でも『新年祭』はやるの?」

 

「『新年祭』、それはなんだ?」

 

 子供はノヴァが立ち直った事など興味がないので聞き流していた。

 だが何かを思い出したのか今度はノヴァに詰め寄るように質問を口に出した。

 

「知らないの? 新年祭はね──」

 

 そうしてノヴァが『新年祭』を知らない事に気付いた子供は得意げに話す。

 子供は話を聞く限りではメトロにおいて現在まで残った数少ない祝日であり、メトロの住人の多くが一年の終わりと新しく始まる一年を祝う日であるとのこと。

 駅によっては滅多に出ないごちそうが出る場合があれば、大人たちが翌朝まで羽目を外して酒を飲む日でもあるのだ。

 子供達も滅多に食べられないご馳走を『新年祭』に食べた記憶があったからこそ、もうすぐ訪れる祝日が気になって仕方がないのだ。

 反対にノヴァは子供達に知らされるまで『新年祭』を知らなかったため、どう子供達に返答すればいいのか頭を悩ませた。

 だが悩んでいるノヴァを助ける様に子供達を呼ぶ声が聞こえ、其方を見れば引率らしき女性と多くの子供達が集まっていた。

 

「お前達、先生が呼んでいるぞ。それとお前達にだけ奢るのは不公平だから全員分の串焼きをお土産に持っていけ」

 

「わ~い!!」

 

 出店の男性に追加の串焼きを大量注文し、子供達にお土産として持たせたノヴァは元気よく遠ざかる姿を眺めた。

 引率らしき女性が頭を下げて去っていく、すると入れ替わるように今度はオルガがノヴァの前に現れた。

 

「あ、ボス此処にいたんだ」

 

「オルガ? どうした、商業部の方で何かあったのか?」

 

 基本的にオルガは電波塔周辺に姿を現す事は無く、商業部の拠点である建物や会議室でしかノヴァは会う事が無い。

 そんなオルガが態々電波塔にまで来たという事は商業部の方で何かしらの解決が困難な問題が起こったのではないかとノヴァは考えた。

 

「あ、いや、実験が失敗してボスが落ち込んでいると聞いたから気晴らしに飲みに誘ってみようと思っていたけど、……落ち込んでないね」

 

「そうだな? いやな、ついさっきチビ共に励まされて、立ち直った処だ」

 

「そうなんだ……」

 

「だけど、偶には酒を飲むのもアリだな」

 

 だが話を聞く限りでは商業部の方で問題が起こった訳ではなく落ち込んだノヴァを励まそうとオルガは酒飲みに誘ってくれたようだった。

 であれば、子供達の励ましとは別に偶には思いっきり酒を飲むのも悪くは無いだろう。

 昔から如何しようもないストレスを発散するには酒を飲むのが最良の方法だと言われているのだ。

 何より態々オルガが気を使って誘ってくれたのだ、此処は下手に遠慮せずお言葉に甘えるしかないだろう。

 

「そう来なくっちゃ、僕が開いたお店ならいい品物が揃っているよ」

 

「ほう、それは楽しみだな。それとオルガは『新年祭』を知っているのか?」

 

 ノヴァの返事を聞いたオルガは表情を明るいものにしながら自分が開いた酒場へとノヴァを案内した。

 道中でメトロにおける『新年祭』の事を聞きながら、初めて訪れる酒場をノヴァは楽しみにしていた。

 

 

 

 

 

 そして翌日、大人として信じられない程のクソ雑魚な己の肝臓を呪いながら二日酔いに苦しむノヴァの姿がキャンプで散見され、その際に見つかった子供達から大いに馬鹿にされながら道端で盛大に吐くノヴァの姿があった。

 またノヴァを飲みに誘ったオルガは何故か机に突っ伏してしくしくと泣いていたらしい。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

『────────────』

 

『────────ァ───』

 

『─お──し──ヴ────』

 

『─応─う─────様──』

 

『──────ノヴァ様! ─』

 

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