迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!)   作:abc2148

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招かねざる客

『新年祭』当日、メトロより一足早く行われたお祭りは大盛況の内に始まった。

 商機を逃すまいと突貫で作られた出店には多くの飲食物や小物が売られ老若男女問わずに多くの人が朝から集まっていた。

 仕事を割り振られていない男達は朝から酒を嗜んだ。

 女達は滅多に買えないお洒落な家財道具や小物に夢中になった。

 子供達は広場で披露されている遠征して来た雑技団が魅せる奇術に目を輝かせていた。

 キャンプのボスが手塩にかけて直したと噂される映画館は観客が途切れる事無く訪れては多くのメトロの住人の心を奪った。

 上映本数を稼ぐためにショートフィルムを中心にして、分かりやすいストーリーをしている作品を選択する事でメトロに住む人達でも初めて見る映画を飽きる事無く見ることができた。

 其処にあったのはノヴァが思い描いていた祭り、メトロの住人にとっては初めて経験する祭りであった。

 キャンプを訪れた誰もが出し物や食事を楽しみ、出し物に目を輝かせている。

 それはキャンプの外から訪れたメトロの住人も同じ。

 近年にない大規模なお祭りと化したキャンプの『新年際』を一目見ようと遠くの駅から多くの人が訪れて思い思いに楽しんでいた。

 

 ──誰もが笑っている、誰もが心から楽しんでいる。

 

 その光景はメトロにおいて得難いものであり、色々と頑張った甲斐があるとノヴァが自負するだけのものであった。

 

「A12に不審者1、付近で巡回している5班は対応を」

 

「C3に不審者3、2班は重要施設付近で留まっている男性3人組を監視、不審な行動が確認された場合は即座に鎮圧するように」

 

「B6で乱闘を確認、8班は彼らを仲裁。抵抗した場合は殴り倒せ。そうすれば頭も冷やせるだろう」

 

「F5に……」

 

 ──だからこそ、この『新年祭』を何事も無く終わらせようとキャンプの裏方では大勢の人間が入れ代わり立ち代わり、慌ただしく動いていた。

 

 お祭りの雰囲気に呑まれて羽目を外すものがいれば即座に取り押さえ、盗みを働いたものがいれば捕まえ、不審な行動をしているものがいれば監視を行う。

 キャンプの本部が置かれたビルのワンフロア全体を使用し、何十台にも及ぶ個人用端末と大型ディスプレイを運び込んで作られた大規模な監視施設。

 其処に映し出されるのは壊れたエイリアン製ドローンを再利用して作り上げた監視網から送られたキャンプ内外の映像。

 そして送られてきた映像を分析して機械を正確かつ迅速に操作するのは内政部憲兵隊の指揮下の監視員──冬眠状態から目覚めた元帝国軍人達であった。

 彼らが監視カメラから送られた映像に目を光らせたお陰もあり小さな事件は迅速に処理され誰もが『新年祭』を楽しむ事が出来た。

 

「住民達が楽しんでいる今日と言う日を台無しにしようと企んでいる首謀者は見つかったか?」

 

「いえ、それらしい人物は確認できていません。現在監視を行っている不審者は行動も仕草も雑過ぎることから使い捨ての駒でしょう。現状は監視に留めていますが拘束も可能です」

 

「……住民達に気付かれない様に拘束してくれ」

 

「分かりました。1から5班は監視している不審者を拘束後、拘留所に移送せよ」

 

 

 それとは反対に不審者を見つけ、乱闘を幾つも収めてきた憲兵は誰一人として気を緩める事は無かった。

 誰もが険しい顔をしており其処には楽観的な考えなどは一切存在しない、それは監視施設にいるノヴァも同じであった。

 そしてノヴァの傍で全体を指揮・統括しているタチアナは命令に従い憲兵を指揮してキャンプに入り込んだ不審者を拘束していく。

 二人の顔は監視施設に詰める憲兵たちと同様、いや、それ以上の険しい表情をしており、それは不審者を拘束し終わっても変わる事は無かった。

 

「現状確認できた人数は12人、他にもいるかもしれませんが少数である事は間違いないでしょう。であれば彼らの目的も自ずと推測できます」

 

「キャンプに入り込んだ彼らの目的は?」

 

「破壊工作、或いは重要人物の暗殺か誘拐。少人数で出来る事はそれ位しかありません。既に軍部には話を通して重要施設の警備を増加させています。キャンプ運営における各部長も警護が付いているので安全かと」

 

「そうか、此処は方々に恨みを買っているからな」

 

「気に病む必要はありません。敗者の逆恨みでしかなく正面から戦えない卑怯者達がする事ですから」

 

 ──キャンプで行われる『新年祭』で何かを起こそうとしている集団がいる。

 

 全てはタチアナの内政部、オルガの商業部宛に届けられた匿名の情報から始まった。

 キャンプ『木星』には内政部のタチアナによる調略や、商業部のオルガによる経済的な懐柔策によって味方は多い。

 だが味方の数に比例する様に壊滅させたマフィアの残党や先日半殺しにした共産党支配下の駅といった敵対的な組織や駅もまた多い。

 無論余計な手出しをさせない様に丁寧に手足となる人員や組織を潰してきたお陰もあり一目で分かる程目立つ大規模行動は現状確認されていない。

 だが奴らは目立つような大規模行動が出来ないだけだ。

 軸足を小規模な破壊工作等に限定すれば戦えるだけの戦力はまだ残っている。

 二人の人脈を通して伝えられた匿名の情報はキャンプ首脳陣に即座に共有・対策が話し合われた結果、内政部の憲兵を中心にして対策が行われる事になった。

 そして今日、彼らが残された戦力を動員して破壊工作を企んでいる事が不審者を拘束したことで判明した。

 しかし、タチアナの言う通り少人数で出来る事などは限られ、その全てに対してタチアナは既に対抗策を打った。

 その結果は一目瞭然、監視施設の大型ディスプレイに何度も写されるのは憲兵によって取り押さえられた不審者達の姿だけ。

 不審者と見なされた彼らが幾ら足掻こうとも憲兵達の目には無駄な努力であった。

 

「念の為に『新年祭』を中断すべきだったのかな?」

 

「それでは敵の思う壺です。彼らは自分達が『新年祭』を中断させたと、それだけの力があるのだと吹聴し増長するだけです。断固とした対応のみが彼らの意図を挫けるのです」

 

「手厳しいね、だが彼らが行う不正規戦はキャンプには有効だ。対応するために既に内政部に開放しているが監視システムの権限に加えて監視・戦闘用ドローンを追加するか?」

 

「いえ、必要ありません。これ以上はドローンの操作要員、監視要員が不足して逆に持て余します。重要施設に関しては軍部によって十分な監視網が敷かれていますから現状の人員と装備で対応します」

 

「となると後はじっと待つしかできないか。これはこれでキツイな」

 

「きつくても我慢してください。軍部の応援を呼んでいるのは此処を安全にするため、今一番暗殺の危険があるのはキャンプのボスである貴方なのですから」

 

「そうだな、気を付けるよ」

 

 今回行われた破壊工作、追い詰められた敵対組織にとっての勝利とは何を指すのか。

 貴重な機械や部品を生み出す工場の破壊、キャンプの住民の殺傷、キャンプを動かしている発電施設の破壊、それとも出荷直前の商品の強奪? 

 どれもが短期的に見れば相応の被害を与えることが出来るだろう、だがそれ以上では無い。

 工場が壊れても修理して再稼働すればいいだけ、人が死んでも代わりになる人間は幾らでも集まる、発電施設が壊れても何処からかまた見つけてくる、商品を強奪しても再び同じ物を作られるだけ。

 被害は限定的、それどころかキャンプは即座に対応策を打ち出し自分達に二回目のチャンスが巡ってこなくなるだけだ。

 ではどうするか、どうすれば一度しか許されない襲撃でキャンプに無視しえない大損害を与えられるのか。

 もう後がない彼らは揃って懸命に考え──そして思い付いたはずだ。

 

 ──一発大逆転、盤上を引っ繰り返す一手こそがノヴァの暗殺なのだと。

 

 だからこそタチアナは監視施設にノヴァを引き込んだ。

 フロアには武装した憲兵に加え、プスコフからの人員も受け入れて厳重な警備体制を敷きノヴァの暗殺という最悪の可能性に備えた。

 そしてタチアナが事前に想定した通りに大型ディスプレイに映るキャンプで大きな動きが起こった。

 

「複数の地点で火災が起きました!」

 

「火元はキャンプに納品された木箱からの発火、巡回中の部隊が住民と共に消火作業を行い鎮火していきます」

 

「……複数箇所で小規模火災、典型的な陽動です。キャンプの対応能力を圧迫させるつもりでしょう。ですがこれだと僅かな時間しか注意を引けない、であれば本命がある筈です」

 

 監視員からの報告を受けたタチアナは即座に指示を出す。

 そして複数の監視カメラが消火作業によって一時的に警備を手薄にした居住地に侵入する複数の人物を画面に映し出した。

 

「いました、9班は居住地に侵入した不審者を拘束、抵抗するようなら射殺せよ」

 

『9班了解。…………侵入者を発見しました。これより──、発砲を確認! 反撃を行います!』

 

 監視画面に映る不審者達は見つかると懐から拳銃を取り出し発砲を行う。

 だが憲兵が装備しているノヴァ設計製作の装備は銃撃を悉く無効化、致命傷を与えられなかった銃弾が威力を失い乾いた金属音を立てて地面に落ちる。

 そして憲兵の装備しているサブマシンガンから放たれた銃弾は迅速に不法侵入者の防具を貫き肉体を破壊した。

 開始から僅か5秒にも満たない銃撃戦を制したのは憲兵であり、不法侵入者は一人の例外も無く代償をその命で払った。

 

『不法侵入者を排除、これより検分を行う』

 

 監視カメラに見える様に憲兵は不法侵入者が持ち込んだ物を並べる。

 殆どの物がメトロの住人なら誰でも持つようなナイフといった小物ばかりであったが調べていく内に彼らが居住地で何をしようとしたのか判明した。

 

「大量に持ち込んだのは燃料か? ミュータント駆除用に売却した火炎放射器用燃料に時限式の発火装置、奴ら居住地で大火災を起こすつもりか」

 

「仮に実行できても対応は可能です。修復した消火設備を使えば被害は限定され鎮火に時間は掛かりません。実行犯はキャンプ外の人間である事を考慮すれば他にもいる可能性が高く──、そしてこれも陽動でしょう」

 

「これでも陽動なのか?」

 

「はい、咄嗟の対応から見て彼らも使い捨ての駒です。本命は別にあります」

 

 不法侵入者の一連の対応を見ただけで陽動であるとタチアナは即座に判断、その言葉を聞きながらノヴァは別の事を考えていた。

 憲兵の活躍によって火災は未然に防がれたがキャンプにはまだ実行犯が潜んでいる可能性があり、次も未然に防げるとは限らないと。

 見通しが甘かった、想定外に対する準備が不足していた、楽観的であり過ぎた。

 言い訳の理由など幾らでも浮かんでくる。

 だが事が起こった時に犠牲になるのは一体誰なのか。

 そうしてノヴァは悩み考えた末に決断を下す──『新年祭』を中断する事を。

 

「楽しんでいる住民達には悪いが『新年祭』を中断──」

 

 だがノヴァが『新年祭』の中断を告げる直前に音響機器を通じて室内に爆発音が響き渡る。

 それが何を意味するのか、一番初めに理解したのはタチアナであり鬼気迫る表情で命令を下す。

 

「爆発があった場所の映像を映せ!」

 

 タチアナの指示に従い監視員は即座に動き出す。

 監視施設の設置された大型画面が目まぐるしく移り変わり、そしてキャンプの一角で何かが爆発した痕跡が映し出された。

 

「映像を巻き戻せ!」

 

 監視員は命令に従い爆発直前まで監視映像を巻き戻した。

 するとそこに映っていたのはキャンプに納品された物資でもなく、規則違反で放置された燃料でもなかった。

 メトロの何処にでもいそうな一人の男性、それがカメラに映っていた。

 だがカメラ越しに見る男性の表情は一目で分かる程青白く、寒いのか両手で自らの身体を抱いては絶えず擦り合わせていた。

 だが映像の進行と共に男性の身体はカメラ越しにでも分かる程大きく震え──そして身体が突如として膨らんで爆ぜた。

 その直後再び異様な爆発音が音響機器を伝ってフロア内に再び響き渡った。

 

「自爆戦術!!」

 

 何の前触れもなく身体が爆ぜた男性、それが何であるかをタチアナは理解してしまった。

 考えうる限りで最悪な方法を奴らが選んだ事を。

 

「タチアナ、現状を打開する全ての行動を許可する。責任は私が持つ、あらゆる手段を行使して事件を防げ!!」

 

「了解! 緊急放送を行え、『新年祭』は中断を──」

 

 だが憲兵が動き出すよりも早く再び爆発音が響き渡る。

 今度の爆発は規模が大きく音響機器を通さずともノヴァ達の耳にも爆発音が聞こえた。

 

「被害報告!!」

 

「本部正面玄関で爆発! 後続も確認できます!」

 

「舐めた真似を! 一階に配置された警備要員は全力で自爆特攻を阻止せよ!!」

 

『奴ら痛みを感じないのか足が止まりません!』

 

「足を潰せ! 止める事が最優先だ!」

 

『大佐、──タチアナ部長!』

 

「大佐で構いません!! それよりも報告を!」

 

『自爆特攻要員の中にキャンプの住人がいます!』

 

「そんな!?」

 

 一階で戦闘を行っている憲兵からの通信を受けたタチアナが監視映像を見れば其処にはキャンプ外の人間に混じって移住者達の姿も確認できた。

 だがそれは在り得ない、移住希望者は身辺調査と簡易的な思想チェックも行い問題がない人物だけを受け入れているのだ。

 無論身辺調査の漏れや思想チェックをすり抜ける場合もあるだろう、一つだけなら在り得るかもしれない。

 だとしても経歴と思想の二つを問題なく通過した者達なのだ。

 そんな彼らがマフィアや共産党に靡くものなのか。

 脅迫の可能性もあるかもしれないがこれだけの人数を内政部や憲兵の目を掻い潜りながら脅迫できる規模ではない。

 

 それでもタチアナが今やらなければいけない事は何一つ変わらない

 

「全部隊に通達、これより当施設に自爆特攻を仕掛けてくる人間爆弾を全て排除せよ」

 

 多くの人の喜びと楽しみは悪意によって塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

<第一追加推進装置燃焼中、燃焼終了まで260セコンド>

 

<第一追加推進装置、燃焼終了まで60セコンドを切りました>

 

<第二追加推進装置点火準備を実施、第一追加推進装置の燃焼終了と共に点火します>

 

<第一追加推進装置、燃焼終了と同時に投棄を開始します>

 

<第二追加推進装置、燃焼開始>

 

<機体セルフチェックを実施、調査中……機体に問題を認めず。制御下にある編隊各機も問題なし>

 

<高度7000m、2.700ktを維持して飛行中>

 

<帝国領海に侵入まで1.250セコンド >

 

<事前情報通りに広域ジャミングを検知、各種通信に軽微の影響を認めます>

 

<レーダーに反応を検知。上空2.0000m地点に大型の浮遊物体を確認。ライブラリー照合、星外生物建造の環境改変機と予想されます>

 

<後方に浮遊物体の情報を送信、当機体の進路はそのまま──大型浮遊物体からの熱源を検知、電波照射されています>

 

<現空域を最大速度で離──行動中断、戦闘モードに移行します>

 

<火器管制システム立ち上げ、各種兵装に問題なし>

 

<ミサイル格納弁解放、機首搭載レールガン、多目的戦術レーザーシステムにエネルギー充填

 を開始します>

 

<強度のジャミングを確認。後方の味方試作無人戦闘機の機体権限を再掌握、IFFを味方に設定、再度指揮下に加えます>

 

<目標設定、大型浮遊物体中央に位置するエネルギー供給ユニットの破壊>

 

<敵無人航空機と誘導弾を確認>

 

<敵機交戦距離に侵入、エンゲージ>

 

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