迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!) 作:abc2148
自分の好みドンピシャのSYNDUALITY Echo of Adaに夢中になっていました。
人が消えた都市はどうなるのか。
基幹インフラを整備や補修をする者がおらず、絶えず降りかかる雨風によって朽ちるに任せるしかない都市。
連邦の大都市には及ばないが、地方都市として栄えていただろう廃墟には幾つものビルが立ち並び、大勢の人と車の往来を想定しただろう広い道路があった。
──あったのだ。
原型を保っているビルは数えるほどしか無く、大半のビルが大なり小なり崩壊を起こし、都市の往来を円滑にする幹線道路の路面は砕け散って幾つもの凹凸があった。
そして崩壊した人工物を覆い隠す様に夥しい植物が建物、地面を問わず無造作に生い茂り、風に揺られた植物が奏でる小さな音は重なり反響して、ミュータントの唸り声の様にも聞こえる。
これが人の消えた都市の末路。
長年に渡り整備される事無く放置された都市は既に機能を失い、その輪郭が自然の中に飲み込まれ掛けていた。
『おい、そっちはどうだ?』
廃墟自体は珍しいものではなく、地上ではありふれた光景の一つでしかない。
だからこそ、ある意味では見慣れた廃墟を背景にして撮影された映像がノヴァの感性を刺激したのだろう。
『こっちも駄目だ。簡単に取れる金属くずは掘り尽くされている。もう少し遠くまで行けば金目の物があるかもしれないがミュータント共が潜んでいて危険だ』
<木星機関>の中心であり、家でもある<タワー>。
その中にある会議室の巨大モニターに映し出される映像は久しぶりに目にするドキュメンタリー映画の様であり、鑑賞しているノヴァは不思議な臨場感を感じながら見ていた。
『だけど此処から完全に無くなった訳じゃないだろ? 外骨格を使って瓦礫を掘り起こせば簡単に見つかる筈だ。……だから何とかして借りれないか?』
『その貴重な外骨格をお前は何度壊した! 幾ら買い込んでもお前が無茶をして壊すからリーダーも回さなくなったんだろうが!!』
『戦うにも探すにも便利だからな。それで……』
『…………馬鹿だ』
『はは、我らの班長は今日も元気だ』
この世界に来てからノヴァも様々な都市の廃墟を見てきており、これまで目にした廃墟は一つとして同じものはなく、都市ごとに特徴があった。
だが、今見ている映像の主役は廃墟ではない。
人の姿が消え、荒廃した都市の成り果てである廃墟を背景にして映る男達の姿こそが、今回の映像の主役であった。
『おい、其処でサボるな!』
『これもちゃんとした仕事、周辺地域の情報収集だぞ』
『お前の趣味だろ!! 映像ばかり撮っていないで手伝え!!』
叱責に釣られたのか映像が切り替わり、今度は大きなバックを担ぎ、肩に銃を背負いながら道なき道を進む別の男達の撮影を始める。
映像を見る限り男達の雰囲気は険悪には程遠く、互いに軽口を言い合っている光景からも仲は良いのだろう。
そんな男達は進路上の瓦礫を退かしている者もいれば、崩れた廃墟の中を漁っている者、動き疲れたのか瓦礫の上で休憩している者も映っている。
それだけであれば、この映像は男達の愉快な廃墟探索の映像で終わっていただろうが、画面に映る男達の表情は渋かった。
『困ったな。最近は簡単に見つかる金属くずも少なくなってきている。近場は既に取り尽くしたと判断するしかないぞ。後は大量にある廃墟の解体か、或いは中を漁れば幾らか金属を回収出来るだろうが……』
『残念だが、其処までの装備は<スカベンジャー>にはまだない。それに買えるだけの貯えがあったとしても暫くはコミュニティーで使う設備の購入が優先だ』
映像に映る男達は<スカベンジャー>に所属しており、彼らは取引相手である<木星機関>から依頼された金属資源回収の最中であった。
だが、彼らの背負うバックが回収した金属資源で膨らんでいない事から、成果が芳しくないのは一目瞭然であった。
『なら外骨格を大量に使うのはどうだ? アレが大量にあれば解体も戦闘も問題はない』
『それは俺も考えたが純粋に人手が足りない。コミュニティーの開発と防衛、金属回収に仕事は山ほどあるが、使いものになる男の数が圧倒的に足りない。リーダー達も頭を悩ませているが解決策は今の所ない』
『そうか、いけると思ったが難しいか……』
『難しいどころか現状では不可能だろう』
新興コミュニティーである<スカベンジャー>の目下の問題は人手不足である。
急拡大したコミュニティーの運営とインフラ整備、金属資源の回収、その他大小様々な仕事が続々と生まれ人手が足りないのだ。
しかし、<スカベンジャー>にとって人手不足はある意味では嬉しい悲鳴であった。
地下に居場所が無く、どうでもいいとばかりに危険な地上に追い出された<スカベンジャー>は明日どころか、今日を生き抜く事すら絶望視されていたのだ。
だが、彼らの運命は<木星機関>と出会った事で変わり、様々な紆余曲折を経て<スカベンジャー>は<木星機関>との間に資源回収の取引を結び、糧を得る為の契約を勝ち取ったのだ。
『これでも前より大分マシになったんだ。あまり贅沢を言うとアンドロイドから見捨てられて、お前が好きな酒は一生飲めなくなるぞ』
『うへぇ、それは勘弁してくれ』
<木星機関>にとって瓦礫とゴミが溢れた廃墟は、精製前の鉱石と比べれば純度が桁違いに高い金属くずを豊富に有する都市鉱山であり、各種資源の山である。
そんな普通の人間であれば価値を見出せない瓦礫の山から、<スカベンジャー>は金属資源を集め、<木星機関>に納入する。
それが<木星機関>と<スカベンジャー>が交わした契約であり、<スカベンジャー>は精力的に金属資源を回収し、<木星機関>は納入された資源に相当する報酬として生きるのに欠かせない食料と水、浄水器を筆頭に生活を豊かにする各種設備に変わり、その中には数は少ないがアルコールといった嗜好品もあった。
こうした経緯もあり地上を探索するという危険な仕事であるが、その分の見返りも大きい<木星機関>からの仕事は<スカベンジャー>が存続する上で欠かせないものとなった。
『取り敢えず、もう少しだけ奥に進もう。それで多少の金属が回収出来れば文句なし。出来なくてもリーダーに詳しい情報を渡せれば納得してくれるさ』
<木星機関>から得た食料や武器、浄水器といった各種設備によって自立し始めた<スカベンジャー>のコミュニティーではあるが、その足元は未だに覚束ない。
食料と水の安定供給を始め、ミュータントに対する防衛力の強化など課題はまだ多く残っており、それらを解決するには<木星機関>との取引継続は必要不可欠。
一部では地上で金属資源以外に集めたガラクタで地下の人々との交易を試みているが、始まったばかりで結果も芳しくない。
<スカベンジャー>が自立したコミュニティーになるまでの道のりは程遠い。
だからこそ、<スカベンジャー>に所属する彼らはコミュニティーに危機が迫った場合を除き、<木星機関>との契約が最優先される事になっていた。
『そうだな、それしかないか』
『だな。ならさっさと行って終わらせよう』
此処では予定の収穫を見込めない、ならば別の場所を探した方がいいと判断した男達は気持ちを切り替えると装備を背負い直した。
そして、先程までの軽口を叩き合っていた雰囲気を引き締め、手慣れた動きで隊列を組んで四方への警戒を厳としながら歩き出した。
その映像からは先程まで見ていた牧歌的な雰囲気は何処にもなく、危険な地上での活動を何度も繰り返した<スカベンジャー>が積み上げてきた経験によって磨かれた動きであった。
──だが、男達の脚は直ぐに止まる事になった
『まて、何か様子がおかしい?』
これから足を踏み入れる場所が未知であり、何処に危険が潜んでいるか分からない事を十分に理解した上で僅かな異常も見逃さないと身構えていた男達。
その中でも特に五感が優れ、隊列の先頭を任されていた男が異常を感じて足を止めると他の男達も直ぐに足を止め、周囲への警戒を強める。
『何か感じ取ったか?』
『……悲鳴だ。此処からだと見ないが、向こうからミュータントの悲鳴が聞こえた』
『悲鳴? 威嚇じゃないのか?』
『ああ、威嚇じゃ──、不味い!! 近づいてくる!!』
最初に異常を感じ取った男の以外に聞こえなかった悲鳴の様な雄叫び。
それが僅かな時間で他の男達にも聞こえる程に大きくなってきている事から、もはや男の言葉を疑う余地はなかった。
何よりどんどん近付いて来る音はミュータントの接近を示す兆候であり、男達に危険が迫っている事を意味しているのだ。
『荷物は捨てて、急いで隠れろ!』
班長は素早く仲間に指示を飛ばし、余計な音を鳴らす荷物を捨てた男達は近くにあった廃墟に急いで身を隠す。
身体を小さく丸め、息を殺して存在感を消そうとするが、男達の心臓は思考とは正反対に痛みを感じる程に強い鼓動を刻み始めた。
そんな早鐘の様に鳴り響く心臓の音がミュータントに気付かれない様にと祈りながら、男達は銃を握り締めながら待った。
『……まじかよ、何で此処にデーモンが』
成人男性を軽く超える巨体だけに留まらず、背中から生えた翼による飛行能力も有するミュータントがデーモンである。
そんな凶悪極まりないミュータントが、必死になって息を潜めている廃墟の前に現れたのだ。
『大きな声は出すな』
現れたデーモンは一匹だけであるが、隠れた男達の視線の先にいるのは廃墟の食物連鎖の上位に所属するミュータント。
そして、デーモンの捕食対象は同種以外のミュータントに留まらず、視界に入った人間も手頃なスナックの様に頭から貪る生粋の捕食者である。
そんな恐ろしいミュータントの登場に隠れている男達の誰もが最悪の未来を予想し──、しかし一人の男がデーモンの異常に気が付いた。
『……待ってくれ、あのデーモンは手負いだ』
『ホントだ。アイツ、死に掛けだぞ』
『なんで、あのデーモンは血だらけなんだ?』
見付かったら死を覚悟するしかないと言われ続けていたデーモン。
だが、目の前いるデーモンは血だらけであり、その巨体に幾つもの傷が刻まれている。
何より飛行能力の象徴であった筈の一対の翼は片方が根元から無くなっていたのだ。
『飛ぶのに失敗したとか?』
『それで翼がなくなるのか? あのデーモンだぞ』
男達に限らず<スカベンジャー>にとってデーモンは恐るべきミュータントだ。
だからこそ、<スカベンジャー>に所属する男達はデーモンに遭遇しても生き残れるように様々な情報と知識を頭と体に叩きこまれている。
それらの知識を総動員しても、彼等には目の前にいるデーモンが死に掛けの大怪我を負っている理由が全く分からなかった。
『だったら一体……、待て、また何かが近付いて来る!!』
──そんな男達の悩みを解決するかの様に、また違う音が男達の耳に届く。
聞こえて来る足音と吐息らしき音はデーモンよりも大きく、何より重たい。
だが一番の問題は、聞こえて来る音に該当するミュータントを男達の誰もが全く知らなかったのだ。
その事に誰もが危機感を抱き──、そして男達の悩みに応えるように正体不明の何かが姿を現した。
『なんだ、あれは……』
デーモンを追うように現れたのは、デーモンよりも更に巨大な身体を持つ四足歩行のミュータント。
全高だけでも成人男性を超えるデーモンを更に軽く超える巨体、全長に至っては5mを超えるミュータントの枠を超えた生物は正に規格外としか言いようがない大きさだ。
だが、一番の特徴は其の頭部であり、生物なら持っている筈の眼球や耳などの感覚器官が全く見つけられないのだ。
『ギャアギャア!?』
巨大生物から命懸けで逃げて来たのだろうデーモンは逃亡を許されず、素早く近付かれると同時に片脚で上から押さえつけられる。
その圧倒的な質量差による拘束から抜け出そうとデーモンは無事な手足で必死に藻掻くが、無意味で無駄な行動であると言わんばかりに拘束が緩む事は無かった。
そして、巨大生物は捕まえた獲物を捕食しようしているのかデーモンに感覚器官が見つからない頭部らしき部位を近付ける。
──そして頭部がまるで花が咲くかのように裂けた。
『……噓だろ』
頭部らしき部位が裂けると内側には大量の牙が並んでいた。
そして花弁の様に裂けた頭部は一枚一枚が触手の様に蠢き、捕らえたデーモンの頭部をぱっくりと包み込んだ。
『ギャ──』
それがデーモンの最期の叫び。
ぶちぶちと何かが千切れる音と共にデーモンの頭部から肩にかけての肉体がごっそりと食い千切られ、花が閉じるように巨大生物は再び頭部らしき部位を形成する。
そして頭部らしき部位の肉は生々しく波打ち、ぱきぽきと何かが砕ける音が隠れている男達の耳にも聞こえて来た。
『やばい、逃げるぞ。回収したものは全て捨てろ』
『了解』
班長の言葉に男達からの反論は無かった。
デーモンよりも巨大な何かがデーモンを捕食していた、その情報だけで十分だと班長は即断した。
変な蛮勇を発揮する事もせず、巨大な何かに気付かれない様に身軽になった男達はゆっくりと後退る。
今も巨大生物は捉えたデーモンの身体を食い千切り、骨と肉が潰れ砕かれる悍ましい音を響かせるのに夢中で男達の存在に気が付いていなかった。
今しかない、この瞬間しか逃げられないという生存本能に突き動かされた男達は息をするのも忘れて必死に、しかし静かに巨大生物から遠ざかろうとした。
そして、それは成功して男達は巨大生物に気が付かれる事無く何時の間にか暗くなった廃墟から出る事が出来た。
──それが間違いであったとは気が付かずに。
『よし、このまま逃げ──』
廃墟から一足先に出た男の一人が走り出そうと逃走の一歩を踏み出し──、その瞬間に上から来た何かが彼の全身を包んだ。
それは一瞬の出来事であり、前兆も予兆も全く感じ取れなかった。
そして唐突に現れて男を包み込んだ何かから音が聞こえて来る。
それは先程まで聞こえていたデーモンの骨と肉が噛み砕かれ、磨り潰される音と同じ。
それが近い分よりハッキリと男達の耳に鮮明に届いてしまった。
『……もう一匹、いたのか……』
突然の出来事に思考が停止した男達だが、目だけは辛うじて動いた。
動いたからこそ男達の視線の遥か上、其処にデーモンを捕食していた巨大生物の口があった事に漸く気付く事が出来た。
大きすぎるせいで、今も捕食を続ける巨大生物から視線を逸らさなかったせいで、忍び寄っていた時の足音に気が付かなかったせいで彼らは致命的な代償を支払う事になった。
『走れ!!』
班長が叫び、身に着けていた緊急離脱用の煙幕を全て投げつけ起爆。
最早、隠れる事に意味は無く、音を出す事を躊躇う理由はない。
辺り一面に白煙が立ち込め、その中に隠れるようにしながら男達は廃墟を走りだす。
映像は揺れ続け、男の荒い気遣いがスピーカーから絶えずに聞こえてくる。
余計な言葉は一言も無く、誰もが巨大生物から生き残ろうと全力で走っていた。
──だが巨大生物にとって小さく遅い人間に追いつく事は煙幕があっても簡単であった。
『あ、たす──』
映像には映っていないが、背後にいただろう仲間の一人が巨大生物に捕らえられたのか小さな叫び声と嚙み砕かれた音が聞こえて来る。
聞こえて来る音に気を取られてはいけない、振り返れば走る速度が落ちると男達は絶体絶命の窮地に合って本能的に理解していた。
だが幾ら必死になろうと不運は前触れもなく訪れ、撮影者が躓いたのか映像が大きく回転し、カメラが勢いよく投げ飛ばされた衝撃で画面が暗転する。
そして、数秒の後に再起動したカメラが捉えた映像は、今まさに立ち上がろうとする男の背後に迫る巨大生物の口であった。
男も背後に迫る生臭い吐息を感じ取ったのか、画面越しでも分かる程に顔を青くさせていた。
だが男を捕食しようとした口に入ったのは新鮮な肉ではなく、鉛弾であった。
『おら、こっちだ!』
もはや逃走は不可能だと判断した仲間は、持っていた銃を巨大生物の剥き出しの口に向けて銃弾をフルオートで吐き出す。
見上げる程の巨体に対して小口径の弾丸は致命傷には程遠く、しかし行動を中断させる事は出来た。
『立て! 走れ!!』
もう一人の仲間が銃撃に合わせて投げた手榴弾が巨大生物の足元で爆発を起こすが、銃弾と同じ様に致命傷には至らない。
だが、僅かに生まれた隙を突いて男は倒れた仲間を立ち上がらせ、再び走り出す。
其処から先の映像は撮影者を失くしたカメラでは撮れなかったのだろう。
横倒しになった地面の映像と共に小さくなる音と声、新たに巨大生物の咆哮と銃撃の音が聞こえて来るだけとなった。
◆
時間にして一時間も満たなかった上映が終わる。
上映会場となった会議室を室内灯が部屋を明るく照らすが、<木星機関>のトップであるノヴァの顔は会議室の明るさとは正反対に暗く沈んでいた。
それは愉快な廃墟探索から唐突に始まったパニックホラー映像に驚き、恐怖を抱いたからではない。
編集の一切されていない無修正映像が見せ付けた事実がノヴァの想像以上に最悪だったからである。
「それで彼らはどうなった?」
「逃走の最中に異常を検知した<スカベンジャー>の防衛部隊によって三人が保護、巨大生物との交戦が発生しましたが撃破は出来ず、追い払うのが精一杯であったと報告を受けています。その後は参考資料として一連の出来事を収めたカメラを<スカベンジャー>が依頼と共に提出しました」
「そうか、全員ではないが三人が生きて帰って来た事を素直に喜ぼう」
ノヴァは椅子の上で姿勢を正すと短く黙祷を捧げる。
それが気休めでしかない事も、自己満足でしかない事も理解している。
だが、彼らが懸命に迫りくる死に抗った事により<木星機関>の元に情報は届いたのだ。
「そして、この映像に映っていた巨大生物に対抗する兵器を<スカベンジャー>は求めている、間違いないな?」
「はい、その通りです。<スカベンジャー>は迎撃に際して保有する火器を惜しまずに投入しました。そのおかげで追い払う事は叶いましたが、備蓄弾薬を大量に消費。今後のコミュニティーの運営にも支障が生じています」
<スカベンジャー>から<木星機関>への兵器開発依頼。
ノヴァは最初、マリナから聞かされた時は<スカベンジャー>は一体何と戦うつもりなのかと疑問が尽きなかったが、先程の衝撃的な映像を見れば嫌でも理解するしかない。
何より、映像に映っていた巨大生物を相手にするには現在の<スカベンジャー>が保有する火器では絶望的に火力が足りないのは火を見るよりも明らかだ。
「アラン、軍用アンドロイドとしての君の意見が聞きたい。現有装備で映像に映っていたミュータントは排除できるか?」
「我々であれば対人装備であっても可能です。ですが<木星機関>以外では相手にならないでしょう」
アランはノヴァの問いに迷いなく答えた。
迷い無く答えてくれたからこそノヴァは鈍く痛む頭を抱えるしかなかった。
「アラン達以外では倒すのが困難な理由は?」
「想定する敵が巨大すぎます。この様な敵に対して対人火器は威力不足であり、最低でも重機関銃か対物ライフル装備が必要となります」
尤もな理由である。
圧倒的な巨体と質量差に対して対人火器は余りにも非力なのだ。
「仮に保有する火器が対人装備限定で排除するのであれば複数の前提条件が必要となります。伏兵がおらず敵が単体であること。起伏の無い大部隊を運用可能な戦場である事、何より高度な連携が欠かせません。これらを一つでも不足すれば大部隊であっても餌にしかなりません」
「複数の条件が重なれば、現状でも創意工夫で倒せる可能性があると?」
「はい、ですが余りにも非効率的です。一体を斃すのに費やされる大量の物資と人員は簡単に回復せず、何より討伐自体が失敗する可能性が高いでしょう」
巨大生物を追い払うのに<スカベンジャー>が費やした物資は膨大である。
これが通常のコミュニティーであれば、追い払う事が出来たとしても今後のコミュニティー運営を大きく制限するしかなくなる程だ。
実際に<木星機関>の援助を受けている<スカベンジャー>であっても防衛範囲と活動範囲の大幅な縮小を迫られているのだ。
それが意味するのは<スカベンジャー>にとって必要不可欠な資源回収による収入の減少に他ならない。
だが、有効な対抗策が無い現状では受け入れるしかないのだ。
「可能性が0だとは断言しません。犠牲が前提であれば討伐は可能でしょう。ですが犠牲がどれ程の規模に膨らむのかは予想が困難であり、場合によっては一回の交戦でコミュニティー内の戦闘可能な人員が払底する可能性もあります。飾らずに言えば博打にもなりません」
「アランとは別意見ですが仮に武器を開発しなくても<スカベンジャー>であれば暫くの間は創意工夫で対処可能でしょうが、撃退に費やされる各種資源が膨大であり、コミュニティーの活動に大きな制約が掛けられます。それはコミュニティーの運営において致命的な損失となり、これは物質的な援助ではカバー出来ないと分析します」
「……終わりの見えない消耗戦、しかも失敗する可能性が高い理不尽な戦いを強いられるようなものか」
アランが軍事的な側面で、カルラがコミュニティー運営の側面で現状を分析するが、二人の予想は共通して暗いものである。
仮に創意工夫で乗り越えても根本的な解決とはならず、大量の物資と人員の消耗を前提とした終わりの見えない消耗戦が続くだけ。
そして、その先に待つのは瘦せ細り、碌な選択肢の無い破滅の未来でしかない事はノヴァであっても簡単に予想出来た。
「こうなると<木星機関>以外は破滅するしかないのが現状なのか」
「その通りです。ですが、これは得難い機会であると私は考えています」
「マリナ?」
アランとカルラの分析を聞いて落ち込んでいるノヴァとは正反対に、<スカベンジャー>から兵器開発依頼を持ってきたマリナは笑顔であった。
普段であれば苦労人枠であるマリナの笑顔になんだかんだと癒されていたノヴァだが、今はマリナが浮かべる笑顔に少しだけ恐怖を覚えた。
「得難い機会と言っていたが、マリナはこの問題を利用して何をするつもりだ? ……いや、どんな状況を生み出そうとしているんだ?」
「非道をするつもりはありませんから、そんなに警戒しなくてもいいですよ! それにノヴァ様にとっても悪い話ではありませんから!」
ノヴァから向けられる胡乱な目に対して断固とした抗議を行いながら、マリナは順番が来るのを待っていた。
「ゴホン、私が提案するのは今回の問題に乗じた<木星機関>による世界征服です!」
「世界征服!?」
「──という冗談は置いておいて。しかし、この機会を利用して<木星機関>が世界の指導的立場に就く事が機関にとっても有意義なものであると私は考えています。その計画こそがコレです!」
自信満々と言った様子でマリナがモニターを指差せば、先程まで映していた廃墟と巨大生物の映像が消え、その代わりに巨大な文字列が現れる。
「『木星機関による世界管理計画』?」
「はい、これこそが私が提案する現状打開の計画です」
マリナが打ち出した計画、そのスケールの余りの大きさにノヴァは何といっていいのか分からなかった。