迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!) 作:abc2148
「認識の擦り合わせですが、前提として今の世界は征服する価値がありません。オブラートに包まず言うと無価値どころかマイナス急降下の不良債権、或いは資産価値が全損どころかお金を払ってでも手放したいとしか考えられない事故物件です。そんな世界を態々征服するのは被虐趣味が極まった過酷な罰ゲームとしか言えません」
「其処まで酷く言わなくても良くない? ……いや、事実としてその通りだけどさ」
基幹インフラの崩壊、環境汚染、ミュータントの跋扈、耕作可能な土地の減少、地球侵略のエイリアン等々。
ありとあらゆる項目を精査した上で何処にも前向きになれる要素はなく、今の世界に価値は全く無い。
それどころか、最低最悪の値札の更新が今も続いている曰く付きの代物であるというのがマリナの導き出した答えである。
そんな辛口を軽く超えた酷評ではあるが、聞き手であるノヴァとしても否定できる要素は何処にもない。
寧ろ頷ける要素しかなく、改めて聞けば聞くほど今の世界というのは怒りと絶望と恐怖と呪いをこれでもかと積み上げて作られた地獄のような代物なのだ。
「我々<木星機関>が世界征服可能な戦力を擁しているのは事実です。ですが世界征服を実行したとしても我々には全く利益がありません。利益があるとすれば各種資源の供給量の増加と供給先の多様化の二点しかないのです」
「3rdの指摘通り支配地域を拡大する事で資源供給先と供給量を増やす事は可能です。ですが現状の<木星機関>の生産活動から見て、これ以上の資源供給は不要というのが1stとしての判断です」
マリナの説明を補足する様にデイヴが<木星機関>という巨大組織の運営に必要とされる各種資源量をモニターに表示する。
その必要量は膨大であり、これ程の資源を持続的に供給しなければ<木星機関>という巨大生産設備は稼働し続けられない事を表している。
だが、ノヴァの視線の先にある大量に並べられた各種数値は、一部の希少資源を除いて大幅な黒字であるのだ。
それはつまり、<木星機関>が運営を続けるだけならば、現状維持でも大きな問題は無い事に他ならない。
「御覧の通り、現在の<木星機関>は各種コミュニティーから供給される資源で必要量を満たしています。更に言えば、大量の資源を持て余しているのが現状です」
「それ程までに大量に集まっているのか?」
「はい、現状の<木星機関>と各コミュニティーとの間で行われている交易は原始的な物々交換が主流です。ですが機関が持ち込む発電機や浄水器等に匹敵する価値の在る物資を何処のコミュニティーも持ち合わせてはいません。あるとすれば食料ですが、<木星機関>の構成員は全てがアンドロイドであり食料を必要としません。一応、制圧下にあるエリア向けの需要もありますが、各コミュニティーも余剰食料は非常に少ないので、必然的に取引規模が小さくなってしまいます」
「1stの補足説明にあるように彼らとの交易において共通の価値を見出せるものが金属資源しかないという現状が交易を歪めています。それでも、現状を維持し続けていたのは相手に無償許与という認識を与えない為であり、長期的な関係構築の為の投資という側面を持っていました」
「各コミュニティーも必死になっているのは分かるが……、これは歪だな」
「はい、現状の交易関係は歪なものです。そして、その負担の多くは<木星機関>が背負っていると断言します」
マリナの説明を聞いたうえで、ノヴァは改めてモニターに映された各種データを見る。
黒字自体は<木星機関>を運営する上で安心できる要素ではあるが、大量に集まり過ぎても使い道が無ければ倉庫の肥やしになるしかないのだ。
そして、現実問題としてモニターに大量に並べられている各種数値は、一部の希少資源を除いて必要量を大幅に超過した上で黒字になっている。
そんな資源余りの現状での世界征服なんて苦行の果てに得られるものは更なる大量の資源と資源回収ルートの多様化しかないのだ。
「<木星機関>が交易に価値を見出せるものが金属資源しかないから貯まる一方。だが代わりに差し出せる物がなく、大量の資源を持て余していようと<木星機関>としても受け取るしかない」
「その通りです。現在の<木星機関>に大量の資源が必要になる局面はなく、生産規模の整理、分散があったとしても現状の備蓄してある資源の遣り繰りで事足ります。その為、提供された資源の多くは利用されず、<ガリレオ>の郊外に大量に積み上がっています」
「持て余している資源の使い道としてノヴァ様が本気で世界征服を考え、大量の兵器を製造する事があれば有効活用が出来るでしょう。……因みにですがAWを筆頭とした兵器を大量生産すれば計算上では世界征服が可能です。いっその事やっちゃいますか?」
「マリナは近所のコンビニに買い物に行くついでのような気軽さで世界征服を提案するな。それに計算上で可能であっても絶対に嫌だぞ」
現状の観測可能な範囲において、<木星機関>に比肩しうる生産力と軍事力を保有する勢力は存在しない。
それが疑いの無い事実であろうと、世界というのは単一組織で征服可能な代物ではないというのがノヴァの持論である。
なにより、仮に世界征服しようものなら征服者として数えるのも億劫になる大小様々な問題に向き合う事は避けられない。
それはマリナが言葉にした様に無価値に等しい不良債権であり、資産価値が全損した事故物件の管理維持責任が生じるのだ。
そんな大きすぎる責任を背負える器で無い事は、ノヴァ自身が良く理解している。
「ちょっとした思考実験ですが、ノヴァ様が実行しようと思えば環境破壊前提の開発や資源の精製過程で生じる有害物質の不法投棄、現地住民がいれば消耗前提の過酷な労働に従事させるといった数々の無法極まりない行為も可能です」
「そんなフィクションで使い古されたような悪の支配者になってたまるか」
マリナの口にしたソレはフィクションにおいて主人公に倒される運命にある典型的な悪の支配者そのものである。
弱肉強食上等、他人を貶め、欲しいものは奪い、気にいらない物は破壊する傍若無人の極みのようなヴィラン。
そんな人格破綻者になる程にノヴァの精神構造は摩耗しておらず、道徳心と良心を投げ捨てた覚えはなく、なってたまるかというのが偽らざるノヴァの本心である。
「ノヴァ様がそう答える事は分かっていました。ですがノヴァ様がその良心を捨てないのであれば我々が選べる行動は限られます」
マリナとしてはジョークを含ませた例え話、或いは重苦しい場を和ますための冗談であったのだろう。
だが、ノヴァの考えが変わる事は無く、良心を捨て去る事が出来ない事を改めて確認したマリナは先程迄の笑顔を消し、真面目な顔になってノヴァに向き合う。
「歪な交易により発生する負担は許容する前提でした。今すぐに是正する事は無理があると理解した上で、十年単位の長い時間を掛けて各地のコミュニティーを復興させ正常な経済活動に誘導する計画でいました。ですが、今回の一件を契機に大きな問題と共に全ての計画が破綻する可能性が浮上しました」
モニターに映された各種データが消えて、改めて映し出されるのは<スカベンジャー>が遭遇した巨大生物。
ミュータントにおいて最強の一角であったデーモンをスナック感覚で捕食し、<スカベンジャー>が保有する戦力で仕留められなかった文字通りの怪物。
デーモンを超える巨体は見せ掛けではなく、それだけに怪物の存在はマリナにとって想定外に過ぎたのだ。
「マリナ、大きな問題とはなんだ?」
「各地のコミュニティーから<木星機関>の統治下にはいりたいとの希望が続出しています。それも、かなり前のめりに」
「来るものが来たか。だが何が大きな問題なんだ?」
「それを説明する為にも現状認識の確認をさせて下さい。まず初めに、この脅威の前では各地のコミュニティーの自警団程度の戦力では相手にもなりません。それどころか手頃な食事を提供しているのと変わりません」
「言い方はアレだが、事実だな」
「現時点において<木星機関>の名前と戦力は広く知られています。これはノヴァ様不在時において行った各地のコミュニティーへの接触において不必要な衝突を抑える為に< Establish and protect order >を相手にして行ったデモンストレーションが効果的に作用したためです」
「事の顛末を聞いた時は意識が飛んだが……、組織の理念からして衝突は不可避だったと今は理解している。……理解しているぞ」
「ノヴァ様の捜索過程で<木星機関>は複数のエリアを直接支配する事になりました。これは現地に存在したのが正当性のある統治機構ではなく、犯罪組織による恐怖政治が敷かれていたためです。この様な組織との取引は百害あって一利なしと判断して崩壊させ、今はカルラによる統治下にあります」
「ある意味では不当に弾圧、支配されていた住民を解放した形になるな。うん、何処にも問題はない。俺も同じ様な事をしているから責める気は全くない」
「こうした情報が浸透した結果、各地のコミュニティーから<木星機関>の統治下にはいれば安全になるという認識が生まれつつあります」
「……まぁ、順当な結果ではあるな」
「ですが、その本心は別にあります。飾らずに言えば手厚い庇護を格安の対価で得ようとしているのです。<木星機関>はお人好しだと、都合の良いボディーガードであると舐められています」
「……そうか、そうか」
これが只の強大な軍事力を持つ武装勢力であれば各地のコミュニティーは自分達の脅威であると認識しながらも恭順や抵抗、或いは中立といった様々な立場を自分達の利益を考えて選んだだろう。
その上で、差し迫る脅威と広く周知された<木星機関>の方向性を考慮した幾つもの検討を行った上で彼らは統治下に入る事を選んだのだ、──与しやすく自分達にとって都合の良い組織として。
「正直に言って統治したくありません。めんどくさいです」
「ぶっちゃけ過ぎだろ」
だが、当事者に当たるアンドロイド達にしてみれば、下心を丸出ししている相手の統治なんてものは面倒この上ない苦行でしかないのだ。
そんな、マリナの本音丸出しの言葉にノヴァが返せるのはツッコミだけであった
「現状、尤も簡単な問題解決方法はアンドロイド部隊を派遣・常駐させて問題が発生した都度対処させる事です。それが一番問題を迅速に解決出来ますが、この選択を選んだ場合の持ち出し費用の殆どが<木星機関>の負担になるばかりか、契約を結んだ我々には保護義務が生じ、行動の自由度が大きく制限されます」
「3rdの意見に付け加えれば、契約以前の問題として提供する防衛戦力に見合う対価を各地のコミュニティーが払えるとは到底考えられず、また<木星機関>としても、対価として今以上の土地や資源を差し出されても困ります。最早、慈善事業の範囲を超えたモノを求められているのです」
「……彼らも生存する為に必死になるのは理解出来る。理解出来るが、頼られる側にしてみれば勘弁してほしいな。……本当に勘弁してくれよ」
誰も悪くはない。
誰も悪くは無いのだ。
誰もが生きようと必死に足掻いているのだ。
その結果として支配下に入るという選択肢を選んだだけ、それだけなのだ。
だからこそ、質が悪いのだ。
「それ以上に厄介なのが、明らかに対価が見合わない事を承知で契約を結んでしまえばアンドロイドに対して変な勘違いを起こす人間が必ず現れます。そして、この不平等な契約を結んだ瞬間に──」
「──アンドロイドは人間に支配されることになる。だが、傍目にはアンドロイドが人間を支配している構図にしか見えない。……厄介にも程があるだろう」
マリナが危惧している事をノヴァは正確に理解出来た。
理解出来てしまったからこそ、この問題の厄介さに頭を痛めるしかなかった。
「流石にこれは不味いと思ったので他のナンバーズとも相談を行い部隊の派遣・常駐以外の選択肢としてAWの条件付きの売却も提案されました」
「AWの売却? 流石にそれは維持管理の面から考えて無理だろう」
「はい、碌な整備インフラを持たない彼らに渡しても1週間と経たずにAWはガラクタと化してしまうでしょう。ですから私はAW本体と整備インフラ一式をパッケージ化して売却する事を提案しましたが、1stと2ndが中立、4thと5thが反対した事で否決されました」
「アランは軍事的視点からの否定だから納得できるが、カルラが否定するとは驚いたな。てっきり自分でやった方が効率的だと判断するものと考えていた」
ノヴァに視線を向けられたカルラの表情は渋い。
それはマリナの提案が決して的外れでは無い事を理解していても、納得できない、或いは見過ごす事が出来ない問題を孕んでいるからだ。
「軍事的な観点であれば、売却されたAWを運用する事になるのはコミュニティーの自警団になります。ですが偽装部隊を通じて収集した各地のコミュニティーに所属する自警団に巨大兵器を扱った経験を持つ人間は皆無です。その様な組織がAWという突出した兵器を正しく運用出来るとは到底考えられません。AWという兵器の運用において心臓部を<木星機関>が握る事が出来ますが、利点が小さいというのが4thとしての判断です」
「最初はお父様の様に考えました。確かに3rdの提案であれば、彼らの防衛戦力の中核を<木星機関>が握る事が出来ます。この一点に関して言えば、4thとも同じ意見です。ですがコミュニティー統治の面で言えば、売却されたAWを用いた他のコミュニティーへの侵略行為が可能性として考えられます。そうでなくともAWという現時点において圧倒的な戦闘能力を持つ兵器を用いれば独裁体制を築くも容易く、コミュニティーの統治にどの様な悪影響が出るのか全く予想ができません」
「……アラン、カルラの言う通りAWは兵器であり、結局のところは道具の一つだ。悪用しようと思えば何でも出来る力を持つ圧倒的な道具だ。問題はそれを扱う事になる人間の能力と善性を信じられない事か。……確かに何処も追い詰められている現状では悪魔の囁きに耳を傾ける人は必ずいるだろな」
売却されたAWが想定された用途で運用されるのか。
ソフトもハードも<木星機関>が握っている現状では、悪用される可能性は限りなく低いだろう。
だが、ゼロではない。
ノヴァの想定外の運用によって、意図しない結果を出す可能性は極小であったとしても存在しているのだ。
「もし悪用される可能性を完全に消すのであれば、運用維持を完全に<木星機関>が受け持って、無人操作でAWを動かすしかない。……それだと、部隊の派遣・駐留と何ら変わらない結果にしかならないが、幾らかマシか?」
「お父様の言う通り最終的な解決方法はAWの無人運用しかないと考えました。ですが、全てが全自動になるのは避けたいのです」
「それは何故だ?」
「形骸化していても僅かにあった当事者意識が完全に消滅します。最終決定権さえ失えば彼らにとって戦闘に限定されていたとしても、AWは無茶無謀を何でも叶える都合の良い道具であると認識されてしまいます。その結果としてコミュニティー首脳部が意図しない暴走を引き起こす可能性があります」
「カルラ、悲観的過ぎる予測の具体的な根拠は何だ?」
「数も状況も違いますが我々は二つの異なるコミュニティーを統治する経験を得る事が出来ました。一つが<スカベンジャー>、もう一つが<ウェイクフィールド>です」
「<ウェイクフィールド>か、その名前を聞くのも久しぶりだな」
<ウェイクフィールド>とは最初期の<木星機関>が活動範囲を拡大する際に発見したコミュニティーである。
だが、ノヴァ達が訪れた時点では組織化された略奪者によって支配され、元々の住民は過酷な暮らしを強いられていた。
だが、様々な巡り合わせによりノヴァとアンドロイド達が略奪者達を殲滅、その際に生じた隙に乗じて潜伏していた住民達が決起し、コミュニティーを取り戻したのだ。
だが、肝心なのはコミュニティーを奪還した後であり、食糧や武器不足などの様々な問題を自力で解決する事が困難であると判断した<ウェイクフィールド>首脳陣は、<木星機関>の統治下に入る事を望んだのだ。
「二つの統治方針は全く異なります。<スカベンジャー>は武器と物資を与えた後は、彼らの自主的な行動に任せる事にしました。対する<ウェイクフィールド>は最初こそ同じ方針でいましたが、状況が想定以上に悪化していた事もあり我々が介入する直接支配に切り替えました。この二つは制圧下に置いたエリア統治において非常に有用なサンプルになりました」
「サンプルにするには差異があり過ぎると思うが?」
「確かにノヴァ様の言う通り二つのコミュニティーは立地や規模などの差異はあります。ですが状況を細分化していけば有用な法則を見つけだす事が可能です。そうして得られた情報を基に5thは各エリアを大きな問題を発生させる事無く統治しています」
「3rdの言う通り、この二つの比較から得られたデータは有用でした。そして運営と同時に継続的に行われている情報収集において、統治における重要な要素を改めて確認する事が出来ました」
「重要な要素、それは何だ?」
「当事者意識の有無、自らが自発的な行動を行っているという認識です。この認識の有無がコミュニティーの運営・再建には欠かせない要素なのです。ですからAWの無人化によって最後の自己決定権すら奪うのは回避したいのです」
悪用もされず、全てが全自動且つ適切な運用の元に稼働する無人化AWというシステム。
それは全自動で弾を弾倉に入れ、銃を構え、照準も定め、遊底を引き、安全装置も外し、当事者に代わって引き金も引いてくれる。
ある意味では理想的なシステムと言えるだろう。
だが最後に引き金を引く為に必要な殺意さえ外部委託すれば、使用者は当事者意識、或いは責任を一切感じる事は無くなる。
それが5thの最も恐れる事態なのだ。
「責任が無いと理解した瞬間に人は容易く予想外の行動を行います。それが、どの様な影響を与えるのか考える事無く、自己の欲望を最優先に考えて行動を起こす。それを防ぐ為にも責任と当事者意識という鎖で行動を制限する必要があるのです」
苦々しいカルラの口から出て来る言葉には生々しい程の実感が込められていた。
それ程までにカルラはエリア統治において見たくないモノを見て、想定外の問題に対処を続けたのだろう。
だからこそ、見ず知らずのコミュニティーが統治下にはいる事を危惧し、何とか現状を解決しようと数え切れない程のシミュレーションを行い、試したのだろう。
そうした積み重ねた情報と経験から、カルラは無責任とも言える無人化AWという全自動システムに反対しているのだ。
そして、帝国でも同じ様な経験を重ねたノヴァはカルラの苦悩が痛い程に理解出来てしまった。
「確かに人間は責任を背負わせないと面倒だ。実感を得られないと、生きていても死んでいる様な状態になってしまう。うん、カルラの考えは痛い程に分かる。──だからこそ、俺の出番なのか」
「そうです。ノヴァ様にはAWを代替できる兵器を作ってもらいたいのです」
「そうか、俺が新兵器を製造して、マリナが彼方此方に売って終わりにする……、だけどマリナはそこで終わりにするつもりはないのだろう? 一体何を考えている?」
AWを代替できる兵器、それを短期間で作り出すのは新しい兵器体系を作り上げたノヴァにしか実現出来ない。
そして、ある意味ではノヴァはマリナを信用していた。
だからこそ、ノヴァが作り上げた新兵器をマリナが各地に売って終わりにするとは到底思えなかったのだ。
そんな信頼とも言える視線を向けられたマリナは先程までの真面目な表情を捨て去り、今度は輝かんばかりの笑顔をノヴァに向けたのだ。
「現時点における<木星機関>は外部からの干渉に対して受け身です。そのせいで全てが後手に回り、能力がありながら主導権を握り続ける事が出来ませんでした」
それは紛れもない事実であった。
ある意味で<木星機関>はノヴァという一個人の延長線上にある組織であり、ノヴァの意向によって活動方針が定められている。
だからこそ、積極的な勢力拡大を企画する事なく、組織活動の殆どが資源回収といった穏便な行動で占められていた。
外部からの干渉があったとしても積極的に介入する事無く、何かしらの不利益が発生するだろうと判断してから行動を起こしていた。
これが、最初期の知名度が殆ど無い状況であれば何も問題はなかった。
だが、今や<木星機関>という名前は地上に広く知られるようになり、接触を求めるコミュニティーは数多くある。
その様な状況において、従来の対応を続ければ<木星機関>は行動を厳しく制限され続け、何れ窒息死を起こしてしまうとマリナは考えていた。
そして、その過程で発生する過度な負担は<木星機関>そのものであるノヴァが背負うしかないのが現状なのだ。
「新兵器の開発に合わせて新しい経済システムを構築。同時にシステムに加入する事が新兵器購入の絶対条件とします。そして、この経済システムにおいて<木星機関>は支配者ではなく機能として君臨します。これが私の導き出した<木星機関>の生存戦略です」
支援、復興、発展、安全保障、食糧供給等の複雑に絡み合った問題。
それらを無慈悲なシステムによって切り離し、ルールなき世界においてルールを生み出し、審判として<木星機関>を機能させる。
ノヴァ個人の決断を必要とする現行のシステムとは決別するのだ。
「これがマリナの作り上げた──」
「はい、支配者ではなく裁定者として君臨する。これこそが<世界管理計画>です」
新システムの加入は強制ではなく、自由意思を抑圧をしている訳でもない。
だが、ノヴァによって開発される新兵器は地上において生存に欠かせないシステムを担う事は間違いない。
だからこそ、無理に拘束も抑圧も強制する必要もないのだ。
そして、この新システムは何時しか人間の規範となり、規範に逆らおうとする人間なんていなくなるだろう。
それが<世界管理計画>におけるマリナの思惑なのだ。