迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!)   作:abc2148

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遅くなりました。


方針転換(3)

 マリナが組み上げた<世界管理計画>。

 その骨子となる経済システムの説明を聞いたノヴァはスケールの大きさに驚くと同時に、何処か納得を──いや、安心を感じていた。

 突如として何処にも道標がない世界を生きる必要に迫られたノヴァにとって、毎日が決断の連続だった。

 唯一の正解は何処にもなく、その場で足踏みを続ける事は許されない。

 故に与えられた知識という力で環境を改善し、身を守る力を作り上げた。

 

 だが、それで終わりでは無かったのだ。

 

 ノヴァが作り上げた力を頼ろうと、地上で生き残っていた多くの人間が近付いてきた。

 少人数であれば無理なく助けられただろうが、今や多くの人々が<木星機関>を、ノヴァの力を求め、許容範囲を大きく超えてしまっているのが現状なのだ。

 そんな状況にあってノヴァに出来た事といえば泥縄式の対応が精々であり、世界を相手にしたシステムを構想する事さえ思いつかなかった。

 だからこそマリナが掲げる<世界管理計画>という具体的な道標は、今のノヴァこそが最も欲していた答え其の物でもあったのだ。

 

「AWを代替できる兵器か……」

 

<世界管理計画>の実現に際しては多くの障害や問題が立ち塞がるのは間違いない。

 だが、マリナが此処まで具体的な計画を組み立てているのなら、問題に対して解決の道筋を見つけ、実現可能だと判断しているに他ならない。

 ならばノヴァが頭を悩ませるのは細々した問題ではなく、計画において一番重要な要素であるAWを代替できる兵器について考えるだけでいい。

 それがノヴァの能力を最も活かせる取り組みなのだから。

 

「新兵器に求めるスペックは?」

 

「現状で最も要望に近いのは解体重機として改修された人型重機です。この機体に武装を施し、人間にも扱えるようにすれば要望を満たせると考えています」

 

 マリナは新兵器に求めるスペックの一覧と共に、<木星機関>が運用する廃墟解体で重用している人型重機が映し出される。

 

「人型重機か、なんだが懐かしい気持ちになるな」

 

 人型重機の元となったのは、エドゥアルドが生み出したクリーチャーに対抗する為に急造したアンドロイド用強化外骨格である。

 だが対クリーチャー戦闘に導入される事は無く、その後は<ウェイクフィールド>から租借した工業団地を解体する為に武装や装甲を取り外し、解体工作用のプラズマカッターや高所移動用の射出式アンカー等の装備を付けて人型工作重機として転用されている。

 しかし、ノヴァの予想に反して間に合わせの機体でありながら重機としての性能は申し分無く、マリナとしてはこの人型重機を基にして新兵器を作ればいいと考えていたのだ。

 

「……マリナには悪いがアンドロイドが直接接続して動かす事が前提で作られているアレを人間用に改修するのは無理がある」

 

 だが、マリナの予想に反してノヴァから返って来た言葉は渋いものであった。

 

「スペックは満たしていますよ?」

 

「確かにスペックは満たしている。だけど、それは<木星機関>が運用する場合だけだ。機体を操作するアンドロイドの格納部分を人間用コックピットに転用しようとすれば棺桶みたいな狭さになる。何より設計に余裕が無い」

 

 結局のところ、人型重機の元となったアンドロイド用強化外骨格そのものが急造品であり、開発速度と戦闘能力を重視した結果として余剰スペースが殆ど無いのだ。

 それでも、人型重機が成功した様に見えるのは運用するのが<木星機関>のアンドロイドである前提を変えずに、運用が出来たからである。

 そんなアンドロイド専用の機体を、人間用に更に改修するのは開発者であるノヴァとしては不可能ではないが、困難であると考えていた。

 

「それならいっその事、新規開発すればいい。今ならすぐにでも取り掛かれるが……」

 

「その口ぶりだと何か問題があるのですか?」

 

「ああ、実はマリナが言ったようなAWを代替できる兵器を帝国で作ろうとしたことがあったんだ。結果から言えば諸々の理由でお蔵入りになったけど……」

 

 ノヴァとしてマリナの要望を満たす新兵器を開発する事に関して問題はない。

 何せ、帝国で暮らしている最中に小型化したAWの設計図をものは試しと作っていたのだ。

 そして、開発に必要な資材も設備もエイリアン製の物資を一部流用すれば問題なく開発出来る目算も立てていたのだ。

 だが、実際にノヴァが小型化したAWを帝国で開発する事は無かった。

 

「まず、お蔵入りになった理由は複数あるが、一つ目は機体の操作が難しいと言われた」

 

「操作……、兵器を操るという意味での“操作”ですか?」

 

「その操作であっている。アンドロイドの様に兵器と直接接続して機体を操作する事は人間には不可能だ。俺も、それを承知で人間用の操縦系統を組み込んでいたが、それでも操作が複雑すぎて誰一人満足に扱えなかった」

 

 ノヴァは試しに倉庫で埃を被っていた自分専用の強化外骨格を流用した小型AWの試作機を作り、キャンプに所属している元帝国軍人とプスコフの精鋭に実用試験をしてもらう事でデータを取ろうとしていた。

 だが、ノヴァの予想に反して試作機に乗った誰もが、満足に機体を動かす事が出来ず、操作系統を見直しても結果は変わらなかった。

 結局、試作機は形にならず、時間と資源を無駄に消費するばかりであったのだ。

 

「二つ目が運用方法の確立と整備環境の構築。纏まった数を揃えるのであればしっかりとした環境を構築する必要があるのを見落としていた」

 

 軍事において強力な兵器が一つだけあればいいという場面は殆ど無い。

 纏まった数を、必要な時に、必要な場所で、問題なく扱える。

 これが出来て初めて兵器として認められるのだ。

 反対に必要条件を満たせない兵器は欠陥品であり、道楽でしかない。

 そんな代物を人手も物資も限りがあるキャンプでは到底運用出来ない、という現実的な視点をノヴァは見落としていた。

 

「最後が新兵器を開発した場合、整備が出来る人材が俺しかいない点が問題視された。そうした問題点が積み重なって新兵器開発はお蔵入り、試作機は<キメラ二号>として無人機に改修される事になった」

 

 当時のノヴァにとって新兵器とは、キャンプの防衛戦力を飛躍的に向上させる道具の一つという認識でしかなかった。

 だが、実際に開発された新兵器を運用・整備する側にしてみれば幾ら防衛力の向上が実現するとしても諸手を上げて喜べる代物ではなかったのだ。

 新兵器の運用と戦術の構築、並びに日々のメンテナンスという現実的な課題をノヴァは見落とし、その点をタチアナに丁寧に指摘された。

 こればかりはノヴァの見通しの甘さが招いた問題であり、故に苦い経験として頭に刻み込まれていた。

 だが全くの無駄ではなく、この苦い経験を経たからこそノヴァは連邦で様々な事が出来たのは自らの能力以上に、<木星機関>という組織の力と人間とは異なるアンドロイドという存在によって成り立っていた事に気付く事が出来たのだ。

 

「マリナの構想は間違っていない。<木星機関>の現状を考えれば最適解の一つだ。だが、問題は兵器を操る人間だ」

 

「人間に対する見積もりが高すぎると?」

 

「それもある。だが一番の問題は此方の想定した下限を突き破る存在がいないとは断言できない点だ」

 

 マリナの構想する新兵器が地上において生存に欠かせないシステムになるのは間違いなく、これが開発製造できなければマリナの構想は机上の空論でしかない。

 だが、AWを代替できる兵器を開発できたとしても与えられた人間は道具を正しく使えるだけの能力を持っているとは限らない。

 それどころか、現状を考慮すれば持ち合わせていない人間が大半だろう。

 運用と整備という簡単な言葉の裏にあるのは膨大な知識と経験の積み重ねであり、一朝一夕で身に付けられるものではないのだ。

 だからノヴァは帝国で新兵器の導入に失敗した。

 無意識に人間の能力を高く見積もり過ぎた結果、問題を問題として認識できなかったのだ。

 

「マリナの<世界管理計画>では、整備は勿論だが新兵器に関する教育訓練もするつもりか?」

 

「はい、<木星機関>が中心となって整備品に関する流通網を整備する予定です。それと同時に兵器訓練も行うつもりでいます」

 

「そうか、流通網の整備と訓練もするのか……」

 

「はい、流通網の整備と訓練もします」

 

 ノヴァの言葉は何処か歯切れが悪いものであった。

 計画段階であってもマリナの<世界管理計画>は細部まで綿密に組み立てられ、計画において必要となるコストも算出されている。

 それらの数字もノヴァとしては理解出来る数字なのだ、現時点においては!

 

「…………」

 

「…………」

 

「……やっぱり、やめようかな……」

 

「前後左右上下、何処も地獄だ。逃げられる場所は……、何処にあるのかな?」

 

 マリナとしても<木星機関>の物資やリソースを大量投入するにあたり、どんぶり勘定ではなく、収集したデータを基に可能な限り正確な数字を算出したのだ。

 それが間違っている訳ではない、見通しが甘い訳でもない。

 恐らく、いや、間違いなく世界は素知らぬ顔で、更に酷い現実を剛速球で後出しで投げつけてくるだろうという予感がノヴァにはあった。

 

「……これ以上は悲観的になり過ぎるから考えるのは止めよう! それに何処に行っても地獄なら自分達でコントロールが出来る地獄に進もう。マリナが弱気になる必要は無い。一緒に付いて行くよ」

 

 ノヴァは割り切った、割り切るしかないと判断を下した。

 何よりマリナの<世界管理計画>以上の妙案をノヴァは思いつかなかったのだ。

 ならば、現時点においてマリナの計画が最適解であると判断して実行するしかない。

 

「修羅場確定の教育訓練は覚悟しておけば後は大丈夫、……大丈夫だと割り切ろう! 全ては予想でしかない、問題が起こればその都度に対処しよう! 問題はAW代わりの兵器のスペックだ!」

 

 車を操縦した経験も無ければ、ロボットゲーム等の娯楽作品を体験した事も無い人間がいきなりAWの操作や整備が出来るのか?

 まず、間違いなく不可能だ。

 前提条件が違う以前に人間としての能力がマリナの想定以下である可能性の方が高い。

 力を欲しているのは理解出来るが、力を扱えるだけの能力があるとは言えないのだ。

 

 それでも、覚悟を決めたノヴァは<世界管理計画>を本格的に稼働させる事を決断する。

 そして、<世界管理計画>において最も重要な要素、現在の経済システムの破綻を防止する象徴としてAWを代替する兵器についてノヴァは思考を無理矢理切り替える。

 

「新兵器に関する要望は此方になります。特に重要なのが、戦闘行為を含めた全ての行動において搭乗者に何らかの自己決断を必要とさせたいのです」

 

「全自動で戦闘させるのは駄目なのか?」

 

「はい、仮に戦闘行為の全自動化によって被害が発生した場合、<木星機関>の製造責任が問われます。何より、使用者に当事者意識と責任を持たせられません。ですから、兵器としての性能を妥協しても使用者の意思決定が存在する兵器にして欲しいのです」

 

「人型である理由は?」

 

「想定される戦場とミュータントが一種類とは限りません。ですからどの様な種類・環境にも対応できる汎用性が求められます。そして、人型であればAWの延長線上にある兵器として認識させられます」

 

 現地コミュニティーの首脳部は、AWという隔絶した兵器を欲していながら、自分達で運用する事は不可能だと理解している。

 それでも、現状においてAWに変わる選択肢を彼らは知らず、持ち合わせてもいない。

 そんな追い詰められた現状にマリナは着目したのだ。

 只の強力な兵器ではなく、彼らの願望を満たし、自覚を与え、当事者であると認識させると同時に、巨大ミュータントとの戦闘も可能にする兵器。

 それがAWを代替できる兵器であり、そんな無茶難題を現実の物に出来るのがノヴァの持つ力なのだ。

 

「まるで注文の多い料理店だな。……肝心の食材を此方が用意して食べさせないといけないのが本末転倒だけど」

 

 一先ず、ノヴァは現時点において新兵器に求められる大まかなスペックを基にして設計に取り掛かった。

 発案者であるマリナとしては最初から完成品が出来上がるとは思っていなかった。

 だが、本領を発揮したノヴァの設計速度はアンドロイドであるマリナであっても目を疑うような速さであった。

 

「AWを参考にするにしても動力関係は複雑になる核エンジンはリストラ。仕組みを簡素化する為にバッテリー駆動にして、軽量化する為に機体サイズも小型化。飛行能力はいらないから外す。整備性を上げる為にパーツ毎の交換が出来るようにフレームを分割。内装は人間用に最適化して、コックピットは胸部。現時点では武装を実弾系に限定、不整地走破能力を持たせる為に脚部にローラーを付ける、機体固定用のアンカーも付けるか? それなら──」

 

 コンソールの上を指が縦横無尽に動き回り、一秒毎に膨大な情報と共に切り替わる画面からノヴァの視線は一切外れない。

 今迄の様な頭の痛くなる政治関係の話ではなく、ノヴァが得意とする分野での作業。

 たったそれだけの事でノヴァの動きは見違える様に変わり、その姿はまるで水を得た魚の様としか言いようがない。

 そうしてノヴァは凄まじい集中力によって新兵器の雛形となるだろう機体の設計図を完成させた。

 

 ──完成させたのだが。

 

「……なんか……むせる」

 

「むせる? 何処か体調が悪いのですか?」

 

「大丈夫だ、サリア。これはアレだ、気分の問題だ」

 

「そうですか」

 

 サリアの心配に返事を返しながらノヴァは書き上げたばかりの設計図に視線を戻す。

 常人が聞けば鼻で笑うか、病院への受診を勧めるだろう異常な早さで生まれた新兵器の大きさはAWの半分程度しかなく、正に小型機とも呼べる代物である。

 仮に名前を付けるとすればHalf-AWと言った所だろう。

 

「鉄の棺桶を作るつもりはないが……、何かむせるな」

 

 実際に運用するだろうコミュニティーの整備能力を考慮して飛行能力を省き、動力周りとフレームの簡素化による整備性の向上。

 地上での活動、特に廃墟といった高低差の激しい不整地での活動を主眼に置いて小型化と同時に関節周りを入念に強化。

 そうして生まれた新兵器は何処かヒロイックな姿をしているAWとは対極であり、泥臭い兵器としての一面が強調された姿をしていた。

 そして、その姿は脳内に記憶されているリアルロボット系娯楽作品の幾つかに該当していたのだ。

 

「……一先ず機体はこれでいい、いいとしよう」

 

 決してワザとではないのだ。

 合理的な計算と最適化の果てに生まれた兵器であって、其処にノヴァの趣味嗜好は一切介入していない。

 狙ったわけではないのだ! 絶対に! ──と内心で自己弁護しながらノヴァは思考を切り替えた。

 

「一番の問題はソフト、機体を操作するOSだ」

 

「OSですか?」

 

「ああ、現状、機体を動かすOSはアンドロイド用を無理矢理人間仕様に変えたものだ。人間用に最適化されたOSとは到底呼べない代物だ」

 

 新兵器の機体は原型となったAWの各種データを参考にする事が出来た。

 同様に機体制御を担うOSも、既にAWに採用されているOSを流用して生み出したが、この急造OSには致命的な欠陥があった。

 

「AWのOSはアンドロイド用に最適化され過ぎている。これを人間用に流用するのは無理がある」

 

 アンドロイドと人間は機械に対する認識が全く異なる。

 それは無機物と有機物、機械と生命体である両者の間には決して埋めることが出来ない溝が存在するからだ。

 そして、ノヴァが開発したAWという人型兵器は機械であり、機械の延長線上に存在するアンドロイドに最適化された兵器なのだ。

 それを人間用に仕立て直すのはノヴァであっても一朝一夕とはいかない。

 ある意味ではアンドロイド用の兵器ばかりを開発していた弊害とも言える問題なのだ。

 

「もしかしたら<スカベンジャー>の中に急造OSでもAWを扱える人間がいるかもしれない。だが、そんな希少な才能を持った人間が見つかる可能性はゼロに近い。それでも、無理に適応させようとすれば多くの人材を文字通り使い潰すのは避けられない」

 

 もし、急造OSで十全に動かせる人間がいるとすれば、天才と呼ばれる人間しかない。

 だが、そんな希少な才能でしか動かせない兵器など欠陥兵器でしかない。

 

「やはり、一人では駄目だな。失敗した。AWを簡略化すれば大丈夫だと考えた自分が恥ずかしい」

 

「設計段階でも計画に求められるスペックは既に満たしていますよ?」

 

「駄目だ、これでは駄目なんだよ、マリナ。もし、こんな使えない欠陥兵器を自信満々に提供すれば<世界管理計画>の看板に泥を塗る。何よりコレでは信用を得られない」

 

 データ上のスペックではマリナが求めていた要望をクリアしているのだろう。

 だが、それはマリナの考えであって最終的な使用者である人間の考えではない。

 道具に求められるのは理論上の性能ではなく、現実世界において使い物になるかどうかであり、使い物にならなければ高価な鉄屑でしかないのだ。

 何よりノヴァ自身が一人の技術者であり開発者として、そんな欠陥兵器を押し付ける事を容認出来なかった。

 戦う力を求める人に、失敗作を押し付ける恥知らずではなかった。

 

「必要だ。大規模なテストが必要だ」

 

「どれ程の規模が必要ですか?」

 

「文字通りの大規模だ。テストパイロット一人や二人じゃない。人間を何十人も集めて運用させて、整備させて、戦わせてデータを集める必要がある。天才しか扱えない欠陥兵器から、訓練をすれば誰でも扱える兵器に生まれ変わらせる必要がある」

 

 データが、データが足りないのだ。

 人間が人型兵器を扱う際に必要となる機能は何か、不要な機能は何か。

 どの様な環境での運用を想定しているのか、どんな風に戦わせるのか、どんな負荷が機体に掛かるのか。

 理論値ではなく、実際に運用する事でしか得られない生のデータがノヴァには必要なのだ。

 

「それとOSの改良と並行して新しい操作系統を確立しないと駄目だ。この人型兵器を動かせるようにするには車両や航空機の延長線上にある操縦系統では無理だ」

 

 ノヴァは帝国での試作機から得られた経験から、人型兵器における新しい操作系統の確立が必須であると結論を出していた。

 航空機の様に大空を縦横無尽に飛ぶわけではない。

 しかし、車両の様に前後左右に動くだけではない。

 地上を駆け抜け、障害物を飛び越え、時に人間の様に物を掴み、身を隠すといった独自の操作が求められるのだ。

 だが、従来の操作系統ではAWが可能とする動きを十全に実現する事は出来ない。

 

 ──それこそ、人間の考えを読み取る事が出来なければ。

 

「……読み取る、思考を直接操作に反映させる。それが出来れば操作を簡略化出来るか? 何処から読み取る? 手、足、四肢の神経を、或いは脊髄を機体と直接繋ぐか? サリア、収集したアーカイブの中に人間と機械を接続して操作させる、或いはそれに近い研究はあるか?」

 

「少々お待ちください。……民間研究の該当件数は全部で8件、しかし5件が戦争によって喪失した手足の代わりとなる筋電義肢開発とサイボーグ化研究です。2件はノヴァ様が考えている思考による機械操作の研究ですが、資金不足により動物実験段階で止まっています。最後の1件が人間の脳と機械を接続する研究ですが、倫理委員会の許可が下りずに中止されています。連邦の軍事研究にも脳と兵器を直接接続する研究がありましたが、戦況の悪化により中止されています」

 

「参考となる先行研究は何処にも存在しないか……」

 

 ノヴァの脳裏に閃いたアイデアはSF作品にありがちな代物であり、空想の産物だ。

 それでも実現しようとすれば具体的なデータと参考となる先行研究の結果記録が必要だった。

 実際に連邦と帝国の両方で部分的に身体をサイボーグ化した人間が存在したことから、ノヴァが求める研究データもあるのではないか期待していた。

 だが、<木星機関>が収集したアーカイブの中に求めるデータも研究も存在しなかった。

 つまり、ノヴァが自身のアイデアを実現しようとすれば一から研究を始め、参考となるデータを大量に集める必要があった。

 

「時間が幾らあっても足りない。工学、技術方面なら如何にかする自信はあるが、医学は専門とは口が裂けても言えない」

 

 機体に関しては時間とデータがあれば改善出来る自信がノヴァにはある。

 だが、肝心の機体を動かすOSに関しては一人では作れない。

 それこそ、ノヴァの様に医学方面に精通した天才がいなければOSは完成しない。

 ノヴァは目の前に立ち塞がる壁の大きさに打ちのめされ──。

 

 ──そして、最悪のタイミングで一人の人物が脳内に浮かび上がった。

 

「……サリア。<特別収容施設>に向かう」

 

「危険です」

 

 サリアから返って来た返事は一言、それで十分であった。

 

「護衛戦力は勿論連れて行く。仮に問題が起こればサリアに守ってもらう」

 

「危険を認識しているなら中断して下さい」

 

「それはダメだ。事態をコントロール出来る分岐点は……、多分、今が最後だ。これを逃せば<木星機関>が選べる選択肢は狭まる。それだけは避けないと駄目だ」

 

 ノヴァが必要としている知識は生半可ものではなく、文字通り人体を切り裂き、数え切れない程の死体の山を築かなければ得られない禁忌の知識である。

 その知識を用いなければ人間と新兵器を繋ぐOSは生み出せないのだ。

 

「……分かりました。ですが、僅かでも危険と判断出来たら介入します。それだけは譲れません」

 

「ああ、その時は頼む」

 

 ノヴァの決意が変わらない事を理解したサリアは、その眼差しに折れるしかなかった。

 それでも、最後の譲れない一線だけは明示するのは、それが自らに課した役割でもあり存在意義であるからだ。

 

「デイヴ」

 

「了解しました。<特別収容施設>に収監しているエドゥアルドの元へ案内します」

 

 時間は有限であり、そして人類に残された時間は残り僅か。

 此処が最後の分水嶺であると認識しているノヴァには、悠長に研究している時間はない。

 しかし、エドゥアルドとの接触は危険であるという点はサリアと同じであった。

 

「もし、利用価値が無いと分かれば今度こそ確実に、万が一の復活の可能性も全て潰した上で消してやる」

 

 足りない知識を持つのは、積み重なった因縁を持つ敵である化け物。

 これがどの様な結果を招くのか、ノヴァには全く予想できない。

 それでも、今回の接触でエドゥアルドに利用価値が無いと判断出来ればノヴァは、即座にあの化け物をこの世から退場させるつもりであった。

 

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