迷い込んでしまったのはポストアポカリプスな世界でした(旧題:ポストアポカリプスなう!)   作:abc2148

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新兵器運用テスト(2)

 ミュータントと新兵器である<H-AW>との刺激的過ぎる映像が終わると共に<連邦復興委員会>の代表と副代表の二人は盛大な安堵の溜息を漏らした。

 吐き出した息の中には運用試験の成功に対する喜び、凶悪な生態を持つミュータントの存在への恐怖、試験小隊が無事に帰還出来た事に対する安堵といった様々な感情が綯交ぜになっていた。

 だが一通りの感情を吐き出して思考をリセットした代表は姿勢を改めると、報告に来た自警団団長に向けて労いの言葉を掛ける。

 

「第7次運用試験の成果を確認したが、文句のつけ処の無い見事な成果だった。団長、君はよくやってくれた」

 

「ありがとうございます。ですが代表と副代表のお二人がいなければこれ程の成果を挙げる事は出来ませんでした」

 

「そんな事はないが、賛辞は有難く受け取ろう」

 

 椅子に座り直した代表はコミュニティー防衛を担う自警団団長の言葉を素直に受け取る。

 そして格式ばった遣り取りを終えると三人は、先程まで浮かべていた柔和な笑みを隠す。此処までが準備運動であり、今から始める内容が彼らにとっての本題であり仕事である。

 

「得られた戦闘データは貴重だ。しかし部隊全員が無事に帰還出来た事は何よりも喜ばしい。貴官の教育の賜物だな」

 

「過分なお言葉、ありがとうございます」

 

「……しかし、映像だけであっても恐ろしいとしか言いようがない敵だ」

 

「その通りです。そして、最悪な事にこの様なミュータントが外では跳梁跋扈しています。自警団を指揮する身では更なる戦力の増強は差し迫った問題であると考えます」

 

「私も貴官と同意見だ。それとは別に、<木星機関>から依頼された新兵器の運用テストの最終段階が終わったのだが、貴官の意見を聞かせてもらいたい」

 

「正直に言えば兵器としての機能を保有させる事は出来ましたが、自分としては最低でも一年以上を通して各種試験を行うべきだと考えます。……しかし、現在の環境を考慮すれば<木星機関>の意向も理解出来ます」

 

「確かに貴官の意見は尤もだ。だが貴官が言った様に環境が許してはくれないのだ。何より、時間を費やして周辺コミュニティーとの関係が悪化するのは避けたい」

 

「その点は我々も理解して可能な限り問題点は洗い出し、修正を重ねてきました。そして、<木星機関>の協力の甲斐もあり現地の人々であっても最低限の使用可能な兵器に仕立て直せたと考えます」

 

 代表や副代表、自警団団長といった連邦政府の政策によってコールドスリープを受け入れ、未来へ希望を託した人々が目覚めた未来に広がっていたのは地獄であった。

 環境の激変により地上は人間以外の生物の楽園となり、逆に人類の生存権は猫の額程しかなく、その極僅かな土地と資源を巡って争うのが今の人類。

 肝心の連邦政府は大陸の何処にも存在せず、元連邦市民達は財産も何もない状態で遥か未来の荒廃した世界に放り出されたのだ。

 

 戦争が終結しても全てが元通りにはならず、それどころか更なる悪化を辿った今の世界。

 

 この過酷な世界において生きる事を強いられる人類は文字通り切羽詰まった状態であり、そんな環境にあって時間とは正に黄金以上の価値が在る代物なのだ。

 だからこそ<木星機関>によって生み出された兵器を現在生存している全ての人類が待ち望んでいるのだ。

 その開発過程における協力組織として選ばれた<連邦復興委員会>は、試作段階にある<H-AW>の運用における高品質且つ大量のデータを集めてくれた。

 

「では完成した<H-AW>に関して改めて貴官の所見を聞きたい」

 

「端的に言えばこの新兵器の本質は歩兵、それも対ミュータントを意識した代物でありゲリラ戦を念頭に置いています」

 

<H-AW>、それは<木星機関>が新たに生み出した異形の兵器であり、従来の人類兵器の系統樹から逸脱した兵器である。

 映像でミュータントと戦っていた鉄の巨人は全長約5mの大きさであり、そのサイズは<木星機関>が保有するAWの半分程度の大きさである。

 故にHalfという名称を足してHalf -AW、<H-AW>を名付けられていた。

 

「歩兵の延長線上にある機動兵器か」

 

「はい、従来の一点特化した兵器とは運用思想が全く異なります。この兵器は歩兵が出来る事を再現させるのが本領です。ですが前身であるAWの劣化では無く、小型化による運用コストの削減、操縦難易度の簡易化、都市部といった建設物密集地帯やミュータント生息域における戦闘力と生存性の向上に寄与しています」

 

 人間とは武装や道具次第で多様な役目を任せる事が可能であり、環境を選ぶ事無く運用できる万能の労働力である。

 だが、その評価は平和な時代であり対人類を念頭においた評価である。

 強固な爪や牙を持たず、硬質化した皮膚や鱗、毛皮を持たない人間という生物。

 例え、本能を超えた理性を持つ知的生命体であっても人間を容易く殺傷し、捕食するミュータントと呼ばれる天敵が存在する現状では、人間という生命体は脆弱過ぎるのだ。

 仮に銃器や戦闘用外骨格である程度ミュータントに対応できたとしても、数の暴力と異常発達した一部の特殊個体によって容易く蹴散らされてしまう。

 それは予測ではなく、地上に生存していた各種コミュニティーが流血と共に積み上げてきた歴史として残っているのだ。

 

「対ゲリラ戦、しかも相手が人間ではなくミュータントを想定した兵器か」

 

「はい、これが対人を意識した兵器であれば、技術と予算の無駄遣いで連邦議会から執拗に追及されていたでしょう。ですが現時点においては我々の要望を凡そ実現できる兵器であり、これ以上の物はありません」

 

 そんな環境にあって<木星機関>が生み出し、<連邦復興委員会>によって仕立て直された<H-AW>とは文字通りの希望の星なのだ。

 武装した人間が百人集まろうと討伐出来なかった化物に勝てる兵器であり、人が踏み入る事が出来なかった環境を切り開き、戦える人型重機。

 正に、地上に生きる人類が長年欲していた武器であり、道具なのだ。

 

「貴官の考えは十分に分かった。では、この兵器を自警団で組織的に運用する事は可能か?」

 

「可能です。訓練と実戦を重ね、戦場におけるAWの基礎運用理論は組み立てました、後は戦訓を積み上げるだけです」

 

<木星機関>から提供された<H-AW>という兵器は、嘗て連邦軍人であった自警団員の全員にとって未知の兵器であった。

 故に最初期はどの様に運用するべきなのかは手探り状態であり、<木星機関>から参考となる運用データを開示されて尚、試行錯誤の状態が続いていた。

 だが、本職の軍人であった彼らは運用と戦闘、得られたデータを基に人間によるAW運用の初期理論を確立してみせた。

 こうした経験の積み重ねは確固たる自信となり、自警団員は元より元連邦軍大佐であり自警団団長を担う男はギラギラとした戦意を滾らせていた。

 

「その為にも、<木星機関>からの補給と整備は欠かせません。彼らの支援が無ければ新兵器であっても何れガラクタになってしまいます」

 

「その点に関しては安心していい。私が何としても<木星機関>から協力を引き出す。君達自警団はこの新兵器を中核にした部隊の練成に集中、足りない物があれば都度要望を纏めて早めに提出をしてくれ」

 

「分かりました」

 

 そう言って自警団団長が報告を終え、会議室から退出すると、部屋には代表と副代表の二人が残された。

 そして、休む間もなく思考を切り替えた二人は、各々が担当する仕事を再開しようとデスクに戻ろうとした。

 だが、そんな二人の行動を中断させるかのように壁掛け時計から、電子的なアラームが鳴り響く。

 副代表が時計を見れば、時間は15時丁度であり報告は昼休憩を超えて長引いていた。

 

「我々も少し休憩しよう」

 

「はい、では飲み物を用意します」

 

 代表の苦笑に引き摺られる様に副代表もまた苦笑を浮かべる。

 そして、副代表が飲み物の準備を行い、代表は本日の昼食である非常食を戸棚から取り出した。

 

「それにしても良かったのですか?」

 

「構わない。それが私の仕事だ」

 

 自警団が武器を持ってミュータントと戦う事と同じ様に、コミュニティーの代表として書類とペンで戦い、<木星機関>と交渉を行い、更なる支援を引き出すのが二人の仕事。

 それを暗示する様に、二人の部屋には貴重な紙が使われた報告書や書類と共に、用途別に用意された複数の端末が机の上にはあった。

 此処が二人にとっての仕事場であり、形を変えた戦場でもあった。

 

「戦意が高揚するのであれば幾らでも頭を下げよう。それが私の役割だ」

 

 旧連邦政府によってコールドスリープ状態にされ、シェルターに避難した連邦国民が集まり、シェルター地上部を起点にして突貫工事でコミュニティーを形成。

 同時にコミュニティーの意思決定機関として<連邦復興委員会>が組織され、代表と副代表に祭り上げられた二人の役割は<木星機関>との強固な協力関係の構築である。

 何故なら、彼らのコミュニティーには人がいるだけで、資源も食料も何もないのだ。

 そんな、ないない尽くしの人々が曲がりなりにもコミュニティーを形成し、比較的に整った住居環境を構築しているのも、一から十まで<木星機関>から提供された各種物資と食料による援助があってこそ。

 だからこそ、<連邦復興委員会>は<木星機関>との協力関係は何があっても維持しなければならない生命線であるのだ。

 

「それに<木星機関>の方も得られたデータに満足していると聞いている。それを口実にすれば全ては無理でも、一部は可能だ」

 

「そうかもしれませんが……。それにしても、自警団は提供される塗料の色を増やして何をするつもりなんですか?」

 

 代表は差し出された代用コーヒーモドキを口にしながら副代表の問いに答える。

 但し、その顔には一目で分かる程の苦笑いが浮かんでいた。

 

「部隊のマークを描く為か、もしかしたら機体自体の色を変えたいのかもしれないな」

 

「それよりも更なる武器の調達に専念すべきでは? 安全を考えれば戦力は幾らあっても足りません」

 

「確かにそうだ。だが、<木星機関>と関係を持っているのも我々だけではない。それに今後の彼らの動きを考えれば、他との足並みを一定に揃える為にもこれ以上の優遇は難しいだろう」

 

 既に二人は<木星機関>直々に今後の大まかな動きを伝達され、知っているからこそ穏やかに話す事が出来ていた。

 しかし、嘗ての連邦時代と比べれば足りない物ばかりで、コミュニティーの現状を考えればやるべき事は他に多くあると副代表は考えていた。

 

「余計な塗料よりも資材や物資を優先してコミュニティーの防備を万全にすべきです。些細な量であっても削れる部分は削るべきでしょう」

 

「確かに君の言葉は的外れではない。少しでも余裕があるのなら足りない部分に転用したいという考えも理解出来る。だが、それを実行に移せば自警団の支持を失うぞ」

 

「……其処までですか」

 

「そうだ。極限状態で戦う彼らの戦意を保つ上でも色彩やペイントによる戦意高揚は無視出来ない。何より合理的理由だけでは人は動かない。それを考えれば必要経費として十分に価値が在る」

 

「必要経費ですか……」

 

「そう、必要経費だ」

 

 合理的理由だけでは人は動かない、そう言った代表は視線を意味深に窓に向ける。

 それを見た副代表が視線の先にある窓から外を見ればコミュニティーの練兵場には、自警団員を鍛える教官の掛け声と共に銃を持ってハイポートをしている団員達がいた。

 そして、何時の間にか隣にいた代表の向ける視線の先には幾つも<H-AW>が並んでいる一角があり、さび止めの塗料が剥がれた部分に新しい塗料を塗ろうとしている団員達の姿があった。

 

「……なかなか独創的な色合いですね」

 

「確かにそうだ。だが悪いものではない」

 

 練兵場に並べられている全ての<H-AW>には、戦闘による大小様々な傷が機体全体に付き、剥がれた塗料が塗り直されている。

 その結果として提供された時のサビ防止の灰色一色を保った機体は一機としてない。

 そればかりか、再塗装の際に自身の機体を好みに彩る者達が多くいるのが現状であり、凹凸の少ない平らな肩部や胸部の一部には部隊マークの様な特徴的な絵が限られた塗料で描かれていた。

 それが機体毎の個性を示す結果となり、練兵場の一角には兵器でありながら非常に色彩が豊かで芸術性に富んだ<H-AW>が並ぶようになっていた。

 そして、今も副代表の視線の先では塗料の塗り方について話し合っているのだろう団員達の姿があった。

 彼らの表情は悲嘆や恐怖、絶望と言った暗いものではなく、大人でありながらまるで新しい玩具を貰った子供の様に明るいものであった。

 

「コミュニティーが誕生する前、まだ我々が纏まりの無い集団であった時に遠征を企てた男達がいた。彼等は全てが手探り状態であったとしても入念に準備を行い、万事を尽くして遠征に赴いた」

 

「……しかし、三人しか帰って来なかった」

 

「三人も帰ってきたんだ」

 

 コミュニティーとして纏まりがなかった初期に勇み足で外へ向かっていった者達がいた。

 彼らは自信過剰ではあったが、愚かでは無く、可能な限り武装を整え、ミュータントとの遭遇も考慮に入れた綿密な下準備をしていた。

 だが、自信と共に外へ向かっていった彼らの殆どはミュータントによって殺され、逃げ帰る事が出来たのは僅か三人しかいなかった。

 そして、不幸の連鎖は其処で終わらなかった。

 

「物資も食料も得る事無く、生き残った三人は恐怖を持って帰って来た。恐怖は人々の不安を糧に成長し、自警団は一時期機能不全になった」

 

「覚えています。余計な事を仕出かしてくれたと私も怒りを覚えました」

 

「その通りだ。しかし、あの新兵器が来た事で事態は好転した。確かに君の言う通り、緊急事態において無駄は削るべきだ。だが、アレは単なる兵器では無く、今や“象徴”となっている」

 

 只の言葉では恐怖を拭い去る事は出来なかった。

 銃と弾丸を大量に持っていようと不安を消し去る事は出来なった。

 ミュータントの雄叫びと仲間達の悲鳴が人々の心を静かに、しかし確実に追い込み、絞め殺そうとしていた。

 

 だが、現れた鋼鉄の巨人が全てを吹き飛ばしてくれたのだ。

 

 ミュータントの牙と爪を弾く強固な装甲。

 脚を囚われれば死ぬ他ない死地を踏破する脚。

 豆鉄砲ではない、凶悪で残酷で無慈悲なミュータントを退ける巨大な武器。

 それは恐怖に捕らわれた人々にとって命を守る鎧であり、過酷な世界を生き残るための新しい身体となったのだ。

 

「……分かりました。彼らの要望を通す草案を作りましょう」

 

 代表が何を伝えたいのか理解した副代表は自らの主張を取り下げる。

 それと同時に、塗装の方針が決まったのだろう自警団員達が、各々が慌ただしく動き始める。

 それから暫くすると。納入されたばかりの赤い塗料が入った一斗缶を両手に抱えた団員が笑顔で戻って来た。

 

「……大切に使ってくれ。貴重な赤色塗料なんだぞ」

 

「ははは、確かにそうだ!」

 

 どうやら他の機体と差別化する為に、彼らは塗装の剝がれた右肩部を大胆にも赤一色に染めるつもりらしく、他の団員と共に貴重な塗料を満遍なく肩部装甲に塗り始る。

 そうして貴重な塗料が無駄遣いされる光景は、副代表の胃には優しくはなかった。

 それでも、代表の言葉通り士気を保つ為の必要経費であるのだと副代表は、キレそうになる自分に必死になって言い聞かせた。

 そうして心穏やかではない副代表を伴って窓から離れた代表は、遅くなった昼食を再開することにした。

 だが、心と身体を休める時であっても二人の脳内で、コミュニティーの運用に関する問題が常に頭を悩ませていた。

 

「自警団の要望については分かりましたが……、新兵器を始めとして各種の援助を行う<木星機関>の意図は何処にあるのでしょうか?」

 

「深読し過ぎれば身動きが取れなくなるぞ。これに関しては<木星機関>が行う事業の対象に我々が最適であっただけ、それ以上の理由はないと割り切るしかない」

 

<木星機関>が勢力を拡大する最中に直面した問題。

 連邦政府によってコールドスリープ状態にされシェルターに保存された人々の取り扱いは実に頭の痛い問題であった。

<木星機関>で面倒を見るには、戦争当事者であった元連邦市民はアンドロイド対して大なり小なり悪印象を持っていた。

 そして彼らが纏まった数になればアンドロイドに対して排外的な行動、或いは大規模な暴動を起こす可能性が予想されたのだ。

 問題の先送りとしてコールドスリープ状態を継続しシェルターに保存を続ける選択肢も<木星機関>にはあった。

 だが、長年放置されていたシェルターの老朽化は看過しえない状態となっており、仮に運用を続けるのであれば整備維持に掛かる負担は<木星機関>であっても無視出来ない負担になると判明してしまったのだ。

 

 こうして選択肢を狭められた<木星機関>は苦肉の策としてコールドスリープ状態にあった市民の一部を覚醒させ、援助と引き換えに他のコールドスリープ状態にある元連邦市民の面倒を押し付ける事にしたのだ。

 この一連の取引が<コールドスリープから覚醒した元連邦市民の生活基盤の確立に伴う社会再建に向けた事業>として<木星機関>と<連邦復興委員会>との間に結ばれた協定である。

 

「新兵器の運用試験に関しては……、敢えて理由を付けるとすれば現時点において我々の方が軍事的知識と経験に秀でていると判断したからだろう」

 

「確かに、自警団に所属しているのは元連邦兵です。他のコミュニティーに比べれば質が違います。それに加えれば多種多様な大型兵器を運用した経験があるのは我々だけです」

 

「その点が<木星機関>の目に留まった。後は……、不良債権化を防ぐ為だな」

 

 そう口にした代表の言葉に副代表はやり切れない思いを抱えつつも、反論はしない。

 何故なら、自警団が機能不全状態になった時を経験しているため、<木星機関>の予測が在り得ない可能性であると否定出来なかったからだ。

 

「やはり、議長は以前のままだと何れ見捨てられていたと考えますか?」

 

「寧ろ、考えない方が不自然だ。この時代において無償の援助を続ける負担は計り知れない。だが、それを当然とした上で引き籠り続ける我々を、養い続ける義理は彼らにはない。それどころか、我々は現時点で義理を通り越して、返しきれない援助を受け続けている無駄飯食らいだ」

 

 そう言って温くなった代用コーヒーを最後まで飲み干し、渇きを潤してから代表は再び口を開く。

 

「だから、これは最後の篩なのだ。新兵器を与えた上で引き籠り続けるようであれば<木星機関>は我々を不良債権であると堂々と認識出来る」

 

「そうなれば援助を誰はばかることなく中断できる。仮に提供された新兵器で暴動或いは敵対行動を起こせば脅威と見なしてコミュニティーを物理的に排除する大義名分を得ると?」

 

「事実として<木星機関>は敵対を表明した現地武装勢力を一方的に粉砕している。可能性が無いとは断言出来ない」

 

「……前途多難ですね」

 

「確かにそうだが、これ以上の幸運は無い。それとも映画にありがちな数少ない物資を巡っての醜い身内争いを繰り返す内戦状態でミュータント蔓延る地上を生きてみるか?」

 

「…………」

 

 副代表からは反論も明確な返事もなかった。

 だが、その青くなった顔からして<木星機関>の援助が見込めない場合の最悪が脳裏に容易く浮かんだのだろう。

 

「だから此処が踏ん張り時だ。<木星機関>に我々の価値を認めさせ、更なる援助を引き出す。その為にも君にはやってもらいたい仕事がある」

 

 そう言った代表が机の引き出しから取り出したファイルを副代表に手渡す。

 

「ああ、それと君には確か弁護士の友人が沢山いたと話していたね」

 

「はい、同じ施設で眠っていた友人がいます」

 

「彼らは今どうしている?」

 

「慣れない肉体労働に苦労しています。彼らの知識が必要となる仕事は何処にもありませんからね。一応、委員会にも誘ったのですが修羅場は嫌だと拒絶されました」

 

「成程、だがホワイトカラーにブルーカラーの仕事はきついだろう。だが、そんな彼らに最適な仕事があるぞ」

 

「……確かに、これは弁護士の友人を多く持つ自分にしか出来ない仕事ですね」

 

 会話をしながら受け取ったファイルの中身を見た副代表は、代表が任せる仕事の内容を理解した。

 

「これは<木星機関>から<連邦復興委員会>に正式に依頼された仕事だ。今後の我々の評価を確固たるものにする為に、君の友人達には協力してもらいたい」

 

 ファイルの内容は、あるコミュニティーに対する処罰草案の作成。

 それだけであれば<木星機関>単独でも対処出来ただろうが、問題は件のコミュニティーの被害が多方面に及んでいる点である。

 

「──もはや懲罰としてコミュニティーを物理的に消滅させるのが一番簡単な解決法なのでは?」

 

 問題のコミュニティーは他コミュニティーの住民を密かに拉致、代わりに拉致した人間と全く同じ姿をしたアンドロイドを潜り込ませ政治的、行政的影響力を確立。

 対象となったコミュニティー中枢に傀儡政権を樹立しようと暗躍していたのである。

 それを長期に渡り実行に移していたという、人類の悪意と悪行を濃縮したような大事件なのだ。

 

「その点は心配いらない。既にコミュニティーは<木星機関>によって軍事的に占拠されている」

 

「……では友人達に任せる仕事は、この問題の軟着陸ですか。これは難しい問題です」

 

「<木星機関>は圧倒的な軍事力を保有している事は既に周知されている。そして、今は軍事力を背景にした最低限の法治の確立に取り掛かっている最中だ。この段階にあって、物理的に消滅させるのは後々に禍根を残す。故に事件の主犯格を処罰し、コミュニティーの資産没収の方向で<木星機関>は決着を付けたいようだ」

 

「軍事力は万能の手段ではないと彼らは理解しているのですね」

 

<木星機関>が確立しようとする秩序において軍事力による懲罰は手段の一つでしかなく、法的解決が困難な場合の最終手段として位置付けようとしている。

 これは事件の当事者にとっては納得できる処罰ではないが、人治による軍事力の行使によって生じる悪影響を考えた<木星機関>の意見も否定できるものではない。

 この埋められない溝を埋める役目を任され、双方の妥協点を見出して擦り合わせる事が出来れば<連邦復興委員会>は<木星機関>に自らの有用性を示せる。

 任された仕事の重要度にファイルを持つ副代表の手に汗が浮かぶが、その顔には今までと異なる気迫を纏っていた。

 

「分かりました、友人達を集め取り掛かります」

 

「では、この一件に関しては此方も協力を惜しまない。その上で君に任せる」

 

「ありがとうございます」

 

 そう言って代表は<木星機関>から別口で依頼された仕事を、優秀な部下に任せる事にしたのだった。

 




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