ここはどこ?なぜこんな事になっている?記憶が、ない……
突如始まる脱出ゲームに、翻弄される少年の物語。
……という感じの、僅か5000字程度の1話完結の短編です。
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感想・評価など気軽にお願いします。
「……ハッ!?」
真っ白な部屋で目が覚めた。
ここがどこだ、という疑問が真っ先に浮かぶ。
急に飛び込んできた視覚情報よりも、体の不自由さが気になった。
「……縛られて、る?」
身体中がワイヤーでギチギチに縛られていた。椅子に雁字搦めにされ、身動きが取れない。両手は背後で背もたれに縛り付けられ、両足も椅子の前足にそれぞれ括り付けられている。
真っ白な部屋に、不自然にテレビがポツンと置かれていた。俺のすぐ目の前だ。
異質。
部屋は縦横七、八メートルもない正方形だった。
他に家具が一切なく、窓もないこの部屋で、蛍光灯に照らされているのは自分とテレビの二つだけ。
テレビの奥にドアがあったが、何故かドアノブが存在しない奇妙な扉だった。
「な、なん……」
状況を理解する。
その単純な思考が頭から抜け落ちる程、訳の分からない状況だった。
ここはどこだ?
今は何時だ?
そもそも何月何日だ?
なぜワイヤーで拘束されているんだ?
誰がこんな事を俺にしたんだ?それとも、誰かの恨みを買ってこんな事をさせられているのか?
次々と浮かび上がる疑問符を処理できなくなり、頭が真っ白になる。
と、ちょうどそう呟いた時だった。
ブツリ、と。部屋の中央に鎮座していたテレビが唐突に点灯した。
画面に映るのは、ピエロの仮面を被った白衣の人間。
『やーあ、目が覚めたかい、上条当麻クン。元気かい?……まぁ、ホントに元気だったらまたボコボコにして記憶消し飛ばしちゃうけどね』
「だ、誰だお前……」
記憶が飛ばされたって!?
確かに、どうやってこんな状況に陥ったのか全く覚えてない。言われて気付いたが、自分以外の記憶がない。人間関係についても何も思い出せない事に気付いてしまい、ぞっとした。
本当に俺の記憶が消されたってのか……こいつに!?
『さて、ゲームの説明をしよう。一度しか言わないから注意してくれ。繰り返し同じ文章を書くのは文字数が増えて疲れるからね』
「ちょ、ちょっと待て!!説明しろ!!」
『だから今からすると言っただろう、落着きたまえ。ゲームは単純。その建物から脱出して、囚われの姫を助け出す事さ』
「そういう事じゃない!!どうしてこんな事をする!!お前は誰だ!!なぜ俺の記憶を消した!!」
『真実に辿り着きたければ、ゲームをクリアする事だ。幸運を祈るよ……君だけでなく、囚われの姫の無事もね』
そう仮面の人間は言って、テレビがブツリと切れた。
「わ、訳が分からねぇ……」
それに、『囚われの姫』ってのは誰だ?
疑問が浮かんだ拍子に、ズキリ、と。
こめかみを貫くような痛みが駆け抜けた。
脳が沸騰するような感覚に襲われる。
……そうだ、インデックス!!
忘れていた。完全に記憶から抜け落ちていた。インデックスの顔も、姿も、声も、性格も、全て忘れてしまっていた。
どうやら、本当に記憶を丸ごと消されたらしい。
痒みを発するような熱が収まっていく。
「畜生ッッ!!」
訳が分からないが、まずはここから脱出しなくては始まらない。
ギチギチと身体に力を込めるが、ワイヤーはビクともしなかった。スーパーで買ってきた安物みたいなワイヤーだったが、何重にも巻かれると、俺の力ではどうしようもなかった。
「くっそ!何か使えるものは……」
と言っても、この部屋にはテレビしかない。
ん?
テレビ……?
「そうか!」
俺は思い切り背中を後ろに反らした。椅子の前足二つが宙に浮く。
ちょうど、椅子の後ろ足二つで全体重を支えるような姿勢になる。馬の手綱を引いて後ろ足で立つような感覚。
そのまま、
「ふんッッ!!」
思い切り前につんのめった。
椅子の前足が床に降りる勢いを利用し、前に勢いよく転んだ。
よし、これでいい!!
両手両足を縛られてはいるが、胴体までは固定されていない。詰めが甘い!!
身体を捩って床を這い、テレビの台座にワイヤーを擦りつけた。
そう、テレビの台座。
台座は床にはネジで固定されており、おあつらえ向きに金属製だ。
ヤスリで研ぐような要領で、台座の角にワイヤーを押し付け、少しずつ削り切っていく。
不自然な姿勢で地道な作業。
休憩を挟みながらたっぷり三○分近くかけて、全身のワイヤーを削り切る事に成功する。
「っ、だぁぁぁああ。やっと終わった……」
身体を起こして、両足で立つ。
汗だらけで、足が筋肉痛になりそうだった。
だが、ここからが本番だ。
部屋にたった一つしかないドアに駆け寄る。
ドアノブはない。押しても引いても開かなかったが、闇雲に触っていたら、パカリと何かが動いた。
「ん……?」
ちょうど、郵便受けぐらいの位置。
そこがスライドして、タブレット端末が現れた。ひとりでに画面が点灯し、画面に文章が浮かび上がる。
レトロゲームのフォントだった。
『 とらわれのひめ インデックスを すくうため
ぼうけんのしょを さくせい しますか? 』
「な、め、やがって!!」
思わず画面を右手で殴りつけた。画面が切り替わる。
『しゅじんこうの なまえを にゅうりょくして ください』
「は?」
意味が分からない。
この仕掛けを作った人間はふざけているのか?
……ふざけているのだろう。テレビの向こうにいた仮面の人間に、大層な理由があるとは思えない。
目の前の事に集中して、とっととこんな下らない事を終わらせるしかない。
考える。
主人公の名前。
囚われの姫、インデックス。
つまり、俺を主人公にしてゲームを開始したい、とでも言わせたいのか?
試しに、キーボードで『かみじょう とうま』と入力してみる。
『せいかいです あなたは しゅじんこうで なまえは かみじょう とうまです』
「……馬鹿にしてんのか。早くしろ!!」
『ぼうけんの はじまりです つぎの へやに おすすみ ください』
そのメッセージが表示された瞬間に、ガチャリという音がドアから響いた。
ドアに押すと、扉が動いた。
次の部屋に飛び込んだ。
次の部屋も、さっきの部屋と全く同じ外装をしていた。真っ白な部屋に、中央にテレビ。部屋はさっきよりも広い。学校の教室ぐらいあった。
ただし、決定的に違う点は一つ。
それは、
「んー!!んんんんんんんんんーーー!!」
口をガムテープで塞がれた少女がいた。
「インデックスッッ!?」
インデックスが、口をガムテープで塞がれ、目覚めた時の俺と同じように、椅子にワイヤーで雁字絡めにされていた。
「んー!!んんんんんー!!」
口が塞がれて、声がうまく出せないようだった。
近づいて助けようとする。
しかし、
ニョキっと。
彼女の椅子の傍から別の人影が現れた。
いや、人じゃない。機械だ。
もっと正確に言うのならば、サイボーグ。
真っ裸のサイボーグ少女が立ち上がったのだ。
胴体からケーブルがはみ出ており、胴体の半導体の回路が剥き出しだった。脚部に至っては、皮膚に似せる事を諦めたのか、金属に塗装が行われていない。
眼球はなく、その奥に怪しく光る光学カメラのレンズが、じっと俺を見つめる。
「な、なん……ッッ!?」
悲鳴を上げる余裕はなかった。
彼女が振り上げた右腕から、火花が飛び散った。
スパーク。
それが槍となって俺に迫る。
躱せたのは偶然だった。恐怖のあまり、腰を抜かして尻餅をついたから。それだけだ。
頭上を青白い火花が駆け抜けていく。
サイボーグは無言だった。いや、喋る機能がないのかもしれない。
と、そこで部屋にあったテレビが点灯した。
仮面を被った白衣の人間が画面に映る。
『さぁ、第一の関門の始まりだ。学園都市が誇るサイボーグが相手だよ!!「
「ふざ、なん、なんだ、これ……!?」
『実況と解説の私ならともかく、主人公の君に喋ってる暇はあるのかな?』
真横から電撃が飛んできた。
運よく、テレビが避雷針のように電撃の盾になったおかげで助かった。
テレビの陰に隠れようとしたが、隠れる、なんていえる程の大きさでもなかった。
『必ずしも君が彼女を倒す必要はないのだよ。このステージでの君の勝利条件は一つ。囚われの姫の拘束を解き、彼女と共に次の部屋へ逃げる事だ』
椅子に縛り付けられている、インデックスを見る。
手首に嵌められたリストバンドに鍵がついており、それがこの部屋のドアの鍵になっているのかもしれない。
と、そんな悠長に考えている余裕なんてなかった。
サイボーグが再び電撃を放つ。
咄嗟に俺は右手を、
……あれ?
咄嗟に俺は右手を突き出してみた。
しかし、
ドパァン!!と。
電撃が身体を貫く音が、耳ではなく身体を伝って感じ取る。
右手を貫通し、雷撃に全身を焼かれる。
視界が明滅した。チカチカする。
吹っ飛んだのか、床に倒れている事に遅れて気付いた。
痛いんじゃなくて、苦しい。
呼吸ができない。ヒィヒィと、過呼吸みたいな僅かな空気のやりとりが限界だった。
サイボーグがこちらに歩いて近寄ってくる。
ギシ、ギシ、と。ゆっくりだが、着実に一歩一歩を踏みしめて接近してくる。
床に延びている俺の首筋を掴み上げられ、釣り上げられる。
絶対絶命だ。
勝てない。能力なんてない
……あれ?
あぁ、無理だ。
勝ち目を夢見るなんて、それこそ幻想だ。
ただし、
それが本物の第三位ならな。
俺は、テレビの台座から強引に千切っていたケーブルを、サイボーグの胴体、その剥き出しの半導体回路に突っ込んだ。
電撃で痙攣する両手を必死に動かし、コンデンサー同士を強引に繋ぎ合わせる。
ブツッと。
明確な音が響き、光学レンズの光が消えた。
ショートさせてやったぜ!!
奴が首を掴む手から力が抜けたようで、俺は床に尻餅をついた。
「へ、へへ……ざまぁみろ。ゲームだかアトラクションだか知らねぇが、未完成サイボーグなんか作るからこうなるんだ」
『………ジジ……ザザ……まづ……ビビ……ザザザ…………』
機能停止したサイボーグが、ノイズを放っている。
無視して、インデックスの傍に駆け寄った。
「大丈夫か、インデックス!?俺が来たからには安心しろ!!必ず一緒にここから出よう!!」
そう言って、ワイヤーを外して、口からガムテープを引き剥がす。
息を大きく吸い込んで、肩を上下させながら咳き込むインデックスは、
「……インデックスって誰?」
そう、言っ……
え?
……は?
「な、何言ってんだ、インデックス?」
「……何言ってんの?インデックスって誰?」
「インデックス、どうしたんだ!?ま、まさかお前まで記憶を奪われたのか!?変な記憶を植え付けられてないか!?」
「……なに、これ。き、気持ち悪い」
その目は、宇宙人を見るかのような。まるで、同じ人間ではない何かを見るような。
そんな、冷たい視線だった。
そんな目で俺を見ないでくれ。
お、お願いだ、そんな目で俺を見ないでくれ!!
なんでだ!?意味が分からない!!
目の前にいる、ピンク色のジャージを着た少女は、紛れもなくインデックスだろう!!
俺の記憶通り、学生寮のベランダで遭い、魔術師に追われたところを俺が助け出した、正真正銘のインデックスだ!!
『
なんだ!?何がどうなっているんだ!?
「ねぇ、はまづら、どうかしちゃったの!?」
……『はまづら』?
『はまづら』って誰だ?
俺か?
そんな訳あるか。
俺は上条当麻だ。
右手にだって
……さっき、サイボーグの電撃を右手で打ち消せなかったのは、なんでなんだ?
「ははは……あ、あれ?あ、ははっはは。はははっはははははははははは……」
のそのそと。
インデックスを置き去りにして、部屋の中央にあるテレビの真っ暗な画面に向き直る。
自分の顔を見たかった。
画面に反射した自分の顔を覗き込む。
記憶通り、上条当麻の顔だ。
茶髪に鼻ピアスした不良っぽい顔立ちの男子高校生。
上条当麻じゃないか!!
なにが間違っているっていうんだ!?
俺は、俺は……
「インデックス!!帰ろう!!早く、こんな所にいちゃ駄目だ!!気がおかしくなる!!早くここから脱出するんだ!!」
「こ、来ないで……」
「何言ってんだ、早くしろ!!」
「来ないでぇ!!」
掴んだ手を、振り払われた。
なんで!?どうして!?
頭がくらくらする。もう何も考えたくない。早くこの建物から出たい!!
「急ぐぞ!!」
「や、嫌だ……こんなのはまづらじゃない……こんなの!!はまづらじゃない!!」
「俺は上条当麻だ!!」
「来ないでぇ!!嫌だぁぁああああ!!助けてぇぇええええええええええええええ!!」
インデックスが、傍に椅子を持って振り回した。
不意打ちだった。
ゴンッッ!!と。
側頭部を思い切り打ち抜かれた俺は、床に転がった。
痛い、というより、熱かった。
頭が熱い。その温かなものが、頭から流れ出ていく。
目の前でカタカタ震えてるインデックスは顔面蒼白で、
床に倒れた俺も、なんだか身体に力が入らず、
やがて、ブツリと意識が暗闇に落ちた。
テレビが点灯し、仮面を被った白衣の人間が呟いた。
「残念だ。まさかステージ1で脱落するとは……これで『浜面仕上のヒーローとしてのイレギュラー性の解析』実験はお終いだろう。
統括理事長ですら想定できないイレギュラー性。これが先天的なものか後天的なものか調べるため、『浜面仕上のクローン』を用意し、『
……蓋を開ければ、結果は明白だったな。彼のイレギュラー性が先天的なものなら、彼のヒーローとしての資質がこの理不尽な状況を突破する術を導いてくれただろうに。然るに、それができなかったって事は、やはり彼のイレギュラー性は後天的なものだったというわけだ。
とはいえ、イレギュラー性の解析……これでまた一歩計画が進んだ。……『
最近はなんだか短編ばかり書いていますが、書きかけのガンマンSSや『朝起き~』も必ず完結させるので、気長にお待ち下さい(汗)
因みに、登場した滝壺もクローンだったりします。