Cybernetic Trigger   作:ヴラドミア

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勢いに任せていたら仕事中に3話目ができていました。


Corp / 契約

イーサンとデイビッドはそれぞれ別の個室に通された。部屋と呼ぶには質素で何もないが、牢屋といわれるには綺麗で整った部屋である。身包みを剥がれるということもなく、手荷物検査も特にされないままこの部屋に通されたが、ここのセキュリティは問題ないんだろうか。イーサンは少しだけ敵の警備体制を心配した。

 

<ホロコールはばれなかったみたいだね。>

<そのおかげでこうやって作戦会議ができる。エタン、どう思う?>

<俄かには信じられないよ。でも、サイバーウェアじゃない技術が発達してる。別の歴史を通ってきたって話は正直信じるしかないかも。>

<アメリカ合衆国が残ってるだとか、アラサカがないだとかも含めて俺たちの知ってる世界とは違いすぎる。それに2012年だってさ、今時アニメでだって取り扱わない年代だろ。>

<そもそも第四次企業戦争の時代でしょ。アラサカタワー襲撃事件が2013年にあるんだからナイトシティはあるはずなんだよね。>

<けど、あそこの奴らは誰一人ナイトシティを知らなかった、と。>

 

状況整理をすればするほど、ここは自分たちがいた歴史の上にいないことがわかる。それに加えてデータの物質化という超次元の技術。これに関しては疑いようがなく、自分たちの居たところにはなかった。もしあったとしたら魂の救済プログラムなんてものはもう過去のものだろう。

 

<俺は信じてみてもいいんじゃないかなって思うよ。>

<エタンがそういうなら賭けてみるか。>

<あっちは俺たちを捕まえてどうしたいんだろうね。このまま捕らえておく意味は無くない?>

<本来だったらボーダーと敵対する組織の人間だと思ったとか?それにしては対応が丁寧だった気もするけど……>

<さっきまでに会ったのは友好派というか、交戦に対して否定派とかかな。武器は構えてたけど、戦う意思がそんなに強いタイプじゃなさそうだったし。>

 

情報が足りないのはそうだが、大人の集まりは武装もしていないような人間ばかりだった。それも踏まえてイーサンは一時的にでもボーダーに協力してもいいと考えている。

何せ相手からは警戒されてはいたが、敵意は感じられなかった。こちらを疑うのは仕方ないこととしても、友好的な態度で接してくれていたものだと思う。

 

「済まない、少しいいだろうか。」

 

コンコンとノックが聞こえて、自動ドアが開く。そこには先ほど拳銃を回収した男とその隣に座っていた女が立っていた。

 

『何か?』

「おっと、そうだった……『時間も遅いが、何か食べるかな?』」

 

相手の発言にイーサンは凍った。何者かわからない不審者に食事を提供する軍があっていいのか。何かの罠、情報を引き出すための尋問ないし拷問の可能性もある。ただ、相手が自然すぎた。友人を食事に誘うような、そんな軽い口調で誘ってきている。無下にするのもなんだか悪い気がして、イーサンは返答に詰まった。

 

『もう一人の彼も一緒に。食べながらでいいから少し話をしたい。』

<デイブ、ボーダーから食事のお誘いきたんだけど……>

<はぁ? 正気か?>

<話がしたいんだって。どうする?>

<……エタン、確認したいことは。>

<ある。>

<わかった、乗ろう。>

 

『疑う気持ちもわかるが、我々は捕虜だろうと無下に扱ったりはしない。歴史の齟齬を含め、君たちを知る必要がある。協力してくれると嬉しいんだが……』

『わかりました。デイブも一緒なら話をしましょう。気になることが出来たので。』

『そうか、そう言ってくれると助かる。それでは一緒に行こうか。』

 

そういった彼の名前はシノダというらしい。隣にいる女性はサワムラ。誘いに乗ると彼らは喜んだように、にこやかに案内をし始めた。

 

 

 

『これが、食事……?』

 

とある一室で四人が同じテーブルを囲んでいる。眼前には日本の定食と呼ばれるスタイルの料理たち。左から椀の中に白い粒が入ったもの、皿の上に茶色い塊がいくつか置かれているもの、そこには草が添えられていて、右には濁ったスープが出されている。

 

『ええ、唐揚げ定食だけど……見たことないかな?』

『これは?』

『お米よ、知らない?』

『これは?』

『味噌汁……英語じゃ味噌スープね。』

『これは?』

『唐揚げよ。鶏肉を揚げたもの。』

『『鶏肉!?!?』』

『え、ええ、鶏肉、だけど……』

 

イーサンはシノダとサワムラの正気を疑った。これを食べることで共犯者にするのではないかと内心では正直恐れている。そこでシノダはデイビッドが下げている十字架に気が付いた。

 

『宗教上の理由で食べることができないなら別のものをーーー』

『あっ、いや、そうじゃなくて!』

 

デイビッドはそれに気づいて慌てふためく。イーサンとデイビッドはお互いに視線を合わせ、同時にシノダとサワムラを見た。二人は目をぱちぱちさせながら不思議そうにイーサンたちを見ている。

食事会が始まったわけだが、緊張して食べれない。シノダとサワムラは気にせず手に持った箸で器用に食事を始めた。米と呼ばれたもの、味噌スープと呼ばれたもの、そして問題の唐揚げを何も気にすることなく、平然と食べている。

 

<なぁエタン、この二人、実は内臓を改造してたりするのか?>

<いやいや、さすがにこんな健康体で内臓だけを換装している人なんて少ないでしょ。俺たちのホロコールにだって気づけないくらいクローム音痴なんだよ?>

<だよなぁ……まぁでも、鳥類駆除法はナイトシティの法律って聞いたし、日本じゃ普通なのかも……>

 

ホロコールで恐々とした通話をしながら、箸を手に取って食事を試みる。ナイトシティでは箸も一般的なカトラリーだったので扱いには慣れているが、見た目がキブルでもスコップでもない食べ物は初めてだ。

米をとって、恐る恐る口に運んでみる。柔らかくて少し粘性がある触感。噛むほどにほの甘く感じられる食材。美味しいとは本来こういうことなのだろうか。味噌スープは塩気がある水で、中に入っている白い塊は柔らかいがそこまで味があるものではない。

米と味噌スープは美味しいものだ。体に刻み付けられた合成食材なんかよりもはるかに。しかし問題は眼前にある唐揚げ……というか、鶏肉である。ナイトシティで鳥類駆除法が可決、施行されたのは2063年。イーサンとデイビッドは5歳のころである。物心がついてから鶏肉というものを食したことがあるのかもしれないが、記憶には残っていない。ナイトシティでは鶏肉なんてものは見ないし、食べるものではないとさえ思っている節がある。二人は唐揚げを箸で摘まんで、お互いに一度顔を見合わせた。頷き合って、いざ実食。衣がカリッと音を立て、噛んだ部分から肉汁が漏れる。油分、塩分とその食感も相まって、おいしいものであるという結論に至ったが、長年の癖はそうそう抜けるものではない。殺人を犯そうが窃盗をしようが苛まれなかった罪悪感がなぜか二人を襲った。

 

そんな様子をシノダとサワムラは微笑ましく見ていた。食事の作法にとやかくいうつもりはないが、しっかりと箸を扱える外国人というだけで少しだけ好感度が上がったというのもある。些細なことだが大事なことだ。

 

一通り出されたものを平らげて、二人は満足した。そりゃもうナイトシティの食事には戻れないと思うくらいに。

 

『美味しかった?』

『もちろん。ありがとうございました。』

『どういたしまして。』

 

サワムラは一般的な女性なのだろう。軍属の兵士ではないという意味で。所作が大人しく、口調も柔らかい。世話焼きな年上の女性という感じだった。

 

『さて、まだ状況の整理がついていないとは思うが、本題に入ろう。』

 

シノダは必要なことをさっさと片付けるタイプ。仕事熱心な軍の隊長といったところだろうか。きっちりとした性格のようだ。

テーブルを囲んだまま、シノダたちは話を始める。

 

『さて、まずは二人に報告がある。アラサカ社という企業はこの世界に存在していない。』

『アラサカがいないってことは、第四次企業戦争どころか、企業戦争自体がない……』

『それと、ナイトシティも存在しない。君たちは我々が今存在している地球ではない地球から来たんだろう。』

『……そんなファンタジーな話を、受け入れられるんですね。』

『ああ、我々は異世界からの侵略者を相手に戦っているからな。』

 

この世界に来てからイーサンたちは意味が分からないことだらけだ。アラサカは存在しないし、ナイトシティも存在しない。挙句の果てには異世界からの侵略者を相手に戦っている。

荒唐無稽だと感じる反面、シノダの顔は真剣そのもの。侵略者を相手にしているのは確かなのだろう。

 

『我々はそういった異世界から送られてくる兵器や人を近界民(ネイバー)と呼んでいる。』

隣人(ネイバー)……ですか。侵略者なのに?』

『目的はどうであれ、友好的な関係になれる場所もきっとあると我々は信じているからな。』

 

甘い考えだと正直思った。侵略者に対して情け容赦をしているようではまずいのではないかと。

ただ、先の通り、シノダは真剣だ。本気でそう信じているし、本気でそう願っている。きっと、この人たちの大半がそういう信条なのだろう。

 

『君たちに話があるというのはこれにも関係していてね。』

『侵略者の撃退に協力しろ、と?』

『話が早くて助かる。君たちが使う武器や装備をはじめとする軍需品、それと日常生活についてもある程度は保障しよう。君たちが元の世界に戻れるまでの間で構わない。我々は元の世界に戻るための協力もする。』

『俺たちに差し出せるのは戦力だけです。地位も金もない。本当に見返りがそれだけでいいんですか?』

『もちろんだ。我々は我々が住むこの星を守りたいだけだ。その為なら如何なる手も尽くす。協力してほしい。』

 

極めて真摯に、彼は頭を下げた。それに合わせてサワムラも同じ動作をする。

この依頼には個人や企業の利権も、金もなにも絡んでいない。ただそこに純然たる想いがあるだけだ。ナイトシティでは考えられないほど、純粋なものだ。

 

<エタン。>

<俺はいいと思う。>

<わかった。ここで食いつなぐためにも仕事はしなきゃいけないしな。>

 

イーサン達はデイビッドをリーダーとするチームだ。最終決定権はデイビッドにある。仕事を受けるのも、途中で放棄するのも、全て。だからこそ、イーサンはデイビッドに意見を示した。

 

『わかった。ボーダーの仕事を受ける。』

『提案した我々がいうのも何だが、本当にいいのか? 危険な仕事もたくさんある。よく考えてほしい。』

『危険な仕事なんて山ほどやってきた。ギャングの抗争を二人で鎮圧したり、企業に侵入して秘密工作をしたりもした。大丈夫、そんな程度じゃ俺たちは死なない。』

『……そうか。助かる。仕事もだが、この世界の常識も含めて明日からはちょっとした授業をしよう。今日はひとまず、ゆっくり休んでくれ。』

 

 

 

部屋まで案内され、なぜかデイビッドと相部屋になった。さすがにお人好しが過ぎないかとシノダに声をかけたが、信頼していると返されてはこちらも何も言えなかった。

窓のない部屋、音もなく、真っ暗にした部屋のベッドで隣り合って横になる。

 

『今度は企業の傭兵かー……』

『ここは少なくともアラサカとかミリテクなんかとは違う。俺も信じていいと思う。』

『いや、ちょっと前までサイバーパンク、しかも大企業に狙われるような生活してたのになって思ってさ。』

『それは言えてる。第二の人生、楽しもうぜってことでさ。』

 

短い会話を終え、二人はすぐに眠気に身を委ねた。

 




・アラサカタワー襲撃事件:2013年のナイトシティで発生した大きなテロ。死傷者がたくさん出た。

・鳥類駆除法:2063年にナイトシティ市街18マイル圏内にいる鳥類の駆除が決定し、2076年もナイトシティの空に鳥はいない。致死性の高い感染症が頻発したことをうけ、感染を媒介したと思わしき鳥類を駆除することとなった、という経緯がある。

・ギブルとスコップ:合成肉のようなものと虫原料の人口たんぱく質。ナイトシティの食事はだいたいこれであり、リアルな食べ物は一割程度。



そういえば話忘れていましたが、「」は日本語、『』は英語、<>はホロコールの会話です。めちゃ今更。

用語解説は

  • あると嬉しい
  • なくても良い
  • どちらでも構わない
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