遊戯王 Bitten Bullet   作:じぇね

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光と闇の麗人

ー翌日

収容所 共同エリア

 

「バトル。スリーバーストショット・ドラゴンでダイレクトアタック。『プレシジョン・レイン』!」

ドラゴンの胴体に構えられた3つの砲塔が連射音を轟かせる。

「ぐああああ!!!」

LP 2000→ 0

 

それは, 例の如く。夕食後の自由時間で繰り広げられているデュエルフィールドでの光景。

「これで5勝目…合計124連勝中ってとこだな」

横で立っていたライノが言ってくる。

「あと何人残っている」

「6人だな」

「…いつもより多いな」

少し驚く。普段通りの人数ならここらで終わるはずだが。

「昨日のことは誰にも喋ってないんだよな?」

もしやと思い, 俺は少し訝しげな表情でライノに振り向く。昨日のAの件以来, 俺は部屋にそのまま戻っただけなので当然誰とも出会っていない。が, ライノは古株で知り合いも多いし, かなりお喋りなタイプだ。

 

「安心しろ, 喋ってるわけねぇだろ。もし喋っていたら, この程度の騒ぎじゃあ収まんねえよ」

 

それもそうか。

もし俺が所長を決闘で下したという話が広まったとすれば...大騒ぎどころではないだろう。一介の囚人が所長に勝ったという構図から, 悪質なインスピレーションを受ける囚人も少なくはないだろう。そうなってしまえば, 俺とライノが巻き込まれる可能性がある。

 

「にしても, お前。今日は疲れてんのか?」

ライノの意外な質問に目を見開いた。

「いや, 疲れてないが。どうかしたか?」

「ならいいんだけどよ。今日のお前, 集中できてないように見えたぞ。さっきの試合だって, 効果を無効にできたとこで無効にしなかったからビックリしたぜ」

「......」

気付かれているのか, それとも単に心配されているだけなのか。後者だったら良いが。

事実, 俺は意識を決闘に向けていなかった。

なぜならば。普段ならばフィールドだけに向けられているはずの俺の視線は, この共同エリアの随所を転々としていたからだ。扉の位置, 階段の位置。看守の数, そして部屋を巡回するパターン。天井の照明。見える範囲のディテールを全て観察していたからだ。

 

ー隅々まで調べなければ。脱出の道筋を確実に, 早く考えなければ。

 

あの後間も無く, 消灯時間が回ってきたが, ベッドの上に寝転がっていた時も, 一睡もせずに脱獄のための計画を練っていた。

まずは部屋の内部を調べるところから始めようと思った。しかし窓もなく, 壁も地面も硬い物質で隙間なく作られている以上, 穴を掘ったり壁を破壊することはできないことは一目瞭然だった。

それに, 自分からは見えない小型カメラが部屋に仕組まれている可能性だってあるだろう。

詳しく調べるまでもなく, 部屋からの脱出は不可能だという結論にたどり着くまで, 多くはかからなかった。

 

とすると, 他の箇所から調べる必要がある。まぁ, 独居房の電子ロックを開けて外に出れるかどうかが問題だが, それは後々考えるとして。出口までのルートを考えておかねばならない。

最も重要なのは, 収容所内のレイアウトを把握することだ。

通常, 囚人には収容所の地図は渡されず, それに関する情報は一切見ることができない。もちろん, これは脱出を防ぐための措置だ。囚人は無知でなければならない。そして行き来できる場所も自分の部屋 ,作業場, 食堂, そしてこの共同エリアの4箇所と, 非常に限られている。

始めるところは, この4箇所のレイアウトと位置関係だ。部屋の作りだけでなく, 扉や通路の位置, 看守の立ち位置, そしてカメラやセンサー等の機械の有無を確認し, 記憶することにした。この時点まで, 作業場の食堂の大まかな構造を記憶した。

夕食後のこの時間で, 共同エリアをゆっくりと調べようと思ったのだが…いつもの如くライノに挑戦者の旨を伝えられ, こうして決闘せざるを得なくなっている。

 

ーこんなお遊びに構ってる場合じゃないはずなのに...

 

「910番?」

「うん? あぁ, すまない」

 

我に返る。

今は考え事に浸っている時間じゃない。早いところ, 今日の連中を片付けるしかない。

 

「ライノ。次の人を呼んでくれ」

「おうよ。えー, 次!666番!前に来い!」

ライノがフィールドの下で待っている囚人の群れに向かい, 今日の挑戦者を書いた紙を持って大声で読み上げる。俺も隣で人混みを見下ろす。見たことのある顔もあれば, そうでないのもある。この部屋だけでも軽く5 ,60人はいるだろう。

その人混みがざわめきと共に道を開けると, その中央を一人の囚人が歩いてきた。その姿に, 俺は目を細める。着ている服こそ同じ, 囚人番号が背に印刷されたオレンジ色のジャンパーだが, 他の面子との違いが一目瞭然だった。

 

 

 

「女…?」

 

 

 

俺, ライノ, そして見ていた皆も, フィールドの下に歩み寄ってきた囚人666番ー女性の姿を, 唖然とした表情で見つめていた。まるで珍しいモノを見るかのように。

当然だ。この収容所には男性因しかいないはずなのだからー少なくとも, このブロックは。とすると, 他のブロックか…?否。オレンジ色のジャンパーは, このブロック特有の囚人服だ。

 

女性の肌は白く, その髪は黒い肩ほどまで伸びる丸みのあるショートヘア。眼は澄み通るような紅色で, 背丈は俺と同じくらいか。顔立ちは非常に整っていて, とても劣悪な収容所内の環境で維持できるとは思えないような清らかさを兼ね備えている。その端麗な姿は, 瞬く間に男囚人達の目を虜にしてしまった。

 

 

「女だ…」

「ありえねぇ。ここは男しかいねぇはずだろ?」

「どーだっていい。女なんて久々に見たぜ…」

「くひひ…」

 

 

男達の醜悪な目線や言葉を聞いてもなお, 囚人666番は顔色一つ変えない。 不敵な笑みを浮かべ, 俺を見つめている。何かを言いたそうに。

 

「うるせぇ!静かにしろ!」

ライノの怒号で, 人混みのざわめきがピタリと止む。囚人達のまとめ役の貫禄がこちらにも確と伝わってきて, 一瞬身震いしてしまった。

「…ライノ。この人で間違いないのか?」

「確認する…オイ, そこのお前」

ライノが紙を片手に丸めて, フィールドの下に立つ女性に会釈した。

「左腕を見せろ」

そう言われると, 女性は無言で左腕の袖を捲り上げ, 俺達に見えるように腕を高く上げた。「666」という文字が黒く皮膚に刻みつけらているのが確かに目に入った。

これは囚人全員に入れられている, 自分の番号を表した刺青。どんなに洗っても落ちない物質で出来ているので, 本人確認のためにしばしば用いられるのだ。

そして…間違いない。誰がどう見てもあれは正真正銘の刺青だ。だが, おかしい…どうして今まで, この女性に誰も気づかなかったんだ?もしかすると新人だったりするのか?

 

「…文句は言えねぇな。お前, デッキは持ってるんだよな?」

「ええ」

女性はポケットからカードの束を取り出し, 頭上に仰ぐ。

「なら上がれ。ディスクは壇上に置いてある」

ライノに指示され, 666番はそのままフィールドの反対側に上がってきた。足元に置いてあった決闘盤を拾い, 無駄のない動作で左腕に装着してデッキをセットした。俺は彼女と向き合い, ディスクを構えた。

ー誰だろうが, 俺に決闘を申し込んできた人であることには違いない。ならば, それに応えるだけだ。

 

「…貴方」

「うん?」

対面している666番に声をかけられ, 一旦ディスクから手を下ろす。

 

彼女の放った次の言葉は, 場全体を凍りつかせた。

 

「聞いたわ。所長を打ち負かしたんだって?」

 

静かになった人混みが, 再びざわめきに溢れる。動揺のあまり身体が硬直し, しばしの間瞬きすることしかできなかった。

 

ー馬鹿な。なぜ知っている?

 

咄嗟にライノの方を振り向くと, 彼も拍子抜けした表情で突っ立っていた。やはり, 本当に何も話していないのだろう。いや, おかしい。看守は?これを聞いて黙っているはずがないだろう。

そう思い, フィールドから共同エリアの周りを囲むように立っている看守たちを見渡すが, 彼らは変わらず無表情で俺達の様子を眺めているだけだった。

困惑したまま, 視線をフィールドの彼女に戻す。

 

666番は笑みを浮かべたままだった。それは見下すような笑みでも, 嘲笑っているわけでもない。飄々としていて, 得体の知れない不思議な笑みだ。

 

「そうだ。なぜ知っている?」

俺は彼女に訊いた。

「たまたまよ。色々なことを知っているだけ。」

 

冷や汗が背中を流れた。なぜかはわからないが, この女。油断がならない。

その口ぶりからして, 知っているのはAとの件だけではないらしい。後で話を詳しく聞いてみたいところだが...今は決闘の時間だ。

 

「そうか。話は後だ。始めよう」

俺はディスクを構え, 手札のカードを引く。

 

「ええ, そうしましょうか」

彼女の表情が和らぎ, 落ち着いた風貌に戻る。

 

 

 

「「決闘!!」」

 

 

囚人番号 910番 LP 8000

囚人番号 666番 LP 8000

 

 

「先攻は私ね」

ディスクのターン判定機能が彼女に指し示す。

さて, お手並み拝見といこうか。

 

「マジックカード, 《無の煉獄》を発動。手札が3枚以上の時, デッキから1枚ドローできる」

ドローカードか。だが, そのカードは確かエンドフェイズに手札を全て墓地に捨てなければならないデメリットがある。このターンで手札を使い切るつもりなのだろうか。

 

「カードをドローし…私はターンエンド」

「なっ?!」

 

俺のみではなく, 会場にいた全員がその行動に面食らう。

666番は何事もなかったかのように5枚のカードを墓地に送る。

 

「オイオイオイ, やる気あんのか!」

「投げるつもりかよー!」

 

野次が飛んでくるが, 俺とライノは深刻な表情で今のプレイを眺めていた。

捨てる理由があるとすれば, 捨てる時に効果が発動するカードを利用するのか…とでも思ったが, 何も発動してこない。ならば, 墓地にある方が有利なカードを引き込んだのか。墓地で効果が発動するカードは少なくない。

…だが。丸腰の状態でターンを渡すことの意図がまるで理解できない。モンスターを召喚しないどころか, トラップカードも伏せてこないとは。

 

「さぁ, 貴方のターンよ?」

「…..」

666番の言葉を受け, 俺はデッキトップに指を当てる。

 

「俺のターン, ドロー。」

墓地に何が置かれたかは知らないが, 何となく感じる。ターンを渡してしまえば, 面倒なことになると。ならば, ここで一撃で沈める!

「フィールド魔法, 《リボルブート・セクター》を発動。手札のヴァレットモンスターを2体まで守備表示で特殊召喚する。《アネスヴァレット・ドラゴン》《メタルヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

アネスヴァレット・ドラゴン

星1/闇/ドラゴン族

DEF 2200 → 2500

 

メタルヴァレット・ドラゴン

星4/闇/ドラゴン族

DEF 1400 → 1700

 

「そして《トリガー・ヴルム》を召喚!」

銃の引き金の形を模した小さなドラゴンが現出した。

 

トリガー・ヴルム

星2/闇/ドラゴン族

ATK 600

 

「現れよ。未来を切り拓くサーキット!」

光が宙を撃つような衝撃と共に, リンクマーカーを構えたサーキットが顕現した。

「アローヘッド確認。召喚条件は, ドラゴン族・闇属性のモンスターが2体。トリガー・ヴルムとアネスヴァレット・ドラゴンをリンクマーカーにセット!」

2体の小さきドラゴンが, 上下のマーカーに取り込まれていく。

「リンク召喚!リンク2, 《デリンジャラス・ドラゴン》!」

 

デリンジャラス・ドラゴン

リンク2(上・下)/闇/ドラゴン族

ATK 1600

 

「闇属性であるデリンジャラス・ドラゴンのリンク素材となったトリガー・ヴルムは, リンクモンスターのリンク先にに特殊召喚される。ただし, この方法で召喚されたトリガー・ヴルムをリンク素材と使うことはできない」

デリンジャラス・ドラゴンの真下に, 再び引き金の小竜が現れた。

「速攻魔法, 《クイック・リボルブ》!デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚する。来い, 《ヴァレット・トレーサー》!」

 

ヴァレット・トレーサー

星4/闇/ドラゴン族・チューナー

ATK 1600→ 1900

 

「再び現れよ, 未来を切り拓くサーキット。召喚条件は, ヴァレットを含むドラゴン族2体。デリンジャラス・ドラゴンとメタルヴァレット・ドラゴンをリンクマーカーにセット。リンク召喚!リンク2, 《ソーンヴァレル・ドラゴン》!」

緑の羽根を背に, 両腕にダブルバレルを構えた黄色いフレームのドラゴンが降り立った。

 

ソーンヴァレル・ドラゴン

リンク2(左・下)/闇/ドラゴン族

ATK 1000

 

「さらに, ヴァレット・トレーサーの効果を発動。リボルブート・セクターを破壊し, デッキからヴァレットモンスターを特殊召喚する。《マグナヴァレット・ドラゴン》を特殊召喚!」

 

マグナヴァレット・ドラゴン

星4/闇/ドラゴン族

ATK 1800

 

「そして, ヴァレットが特殊召喚されたことにより墓地のデリンジャラス・ドラゴンの効果を発動!自身を墓地から特殊召喚できる。蘇れ, デリンジャラス!」

二足歩行の青き拳銃竜が, マグナヴァレットの隣に着地した。

「三度現れよ。未来を切り拓くサーキット!召喚条件は, 効果モンスター3体以上。リンク2のソーンヴァレル・ドラゴン, マグナヴァレット・ドラゴン, ヴァレット・トレーサーをリンクマーカーにセット!サーキット・コンバイン!」

 

「現れよ!リンク4。万物を両断せし, 破壊の化身。《ヴァレルソード・ドラゴン》!」

旋風を巻き起こしてフィールドに君臨せしめたのは, 銃を宿した剣竜。ヴァレットの中でも随一のパワーを備えた最強のドラゴンだ。

 

ヴァレルソード・ドラゴン

リンク4(上・左・左下・下)/闇/ドラゴン族

ATK 3000

 

どっと湧く歓声。前のAとのデュエルは静かに眺める看守とライノしかいなかったが, いつもはこんな具合で囚人達がヴァレルソードの姿を見ると, その姿への興奮を露わにしてくる。

「終わったな」

ライノが腕組みをして, ヴァレルソードを眺める。

相構える666番は依然として顔色一つ変えていない。不思議だ。今まさに, 決闘が終わろうとしているのに。

俺の場には攻撃力1600のデリンジャラスと, 攻撃力600のトリガー・ヴルムがいる。そして, ヴァレルソードの攻撃力は3000…2体で先に攻撃した後, ヴァレルソード自身の効果を使ってトリガー・ヴルムを守備表示に変更し, 2回の攻撃を連打すれば…相手のライフは尽きるはず。

 

「バトルフェイズだ」

「お待ち」

666番は人差し指を上げ, 俺の攻撃を制止する。

何だ, 何かあるとでも言うのか。

 

「貴方のメインフェイズが終了する時…墓地の永続罠, 《光の護符霊剣》を除外して効果を発動」

 

彼女の言葉と共に, 天から3本の光の剣が降り注ぎ, ヴァレルソード達の前の地面に突き刺さった。それらは, まるでドラゴン達がそれ以上前に進むことを阻むように。

 

「このカードは相手ターン中に, 墓地から除外することで発動できる。貴方はこのターン, 直接攻撃できない」

「…やはり, 墓地に何かあったか」

 

予想は当たっていた。が, そのカードの存在を知らなかった以上, 仕方ないかもしれない。まぁ, 良いだろう。

 

「バトルフェイズはそのまま終了。俺はカードを1枚セットして, ターンエンドだ」

 

TURN 2

囚人番号910番

手札: 0

フィールド:

ヴァレルソード・ドラゴン

デリンジャラス・ドラゴン

トリガー・ヴルム

伏せ1

 

囚人番号666番

手札: 0

フィールド:無し

 

攻撃こそできなかったが, この時点で666番のフィールド, 手札もゼロ。対して俺の場には, 戦闘では破壊されないヴァレルソードがいる。

それに加え, セットカード…《ヴァレル・バスター・バリア》は効果での破壊, 及びほとんどの除去カードを無力化することができる。

 

 

《ヴァレル・バスター・バリア》(※ アニメオリジナル)

①:自分フィールドのリンクモンスター1体をリリースし、

自分フィールドの「ヴァレル」リンクモンスター1体を対象として発動できる。

このカードを装備カード扱いとしてそのモンスターに装備し、

リリースしたリンクモンスターのリンクマーカーの数だけ、このカードにカウンターを置く。

②:装備モンスターは相手が発動した効果を受けない。

③:装備されているこのカードは相手の効果の対象にならない。

④:装備モンスターが戦闘を行うダメージ計算時に1度、

このカードのカウンターを1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●装備モンスターと戦闘を行った相手モンスターをダメージ計算後に破壊し、

その攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

●その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。

 

 

どのみち, 彼女にヴァレルソードを突破する術はほとんどないはずだ。

 

だが…不穏な予感がする。あの1ターン目のこともあるが, 何かをまだ隠し持っているような予感がする。そう思う根拠はないが, やはり, どこか不安だ。

 

「私のターン, ドロー」

666番はドローカードを一瞥すると, クスリと笑ってみせた。身構える。引いたのはキーカードか?

「今引いた, 《深淵の獣(ビーステッド) マグナムート》の効果を発動するわ」

ビーステッド…?聞いたことのないカードだ。一体どんな効果が?

「私, もしくは相手の墓地の光・闇属性モンスターをゲームから除外し, 自身を特殊召喚する。私は墓地の《シノビネクロ》を除外し, マグナムートを召喚」

漆黒のオーラが場に現れ, それを突き破るように現れたのは赤いドラゴンだった。身体中に拘束具のようなものが繋がれていて, 両腕の重そうな金属筒が目立つ。

 

深淵の獣(ビーステッド) マグナムート

星6/闇/ドラゴン族

ATK 2500

 

「そして除外された《シノビネクロ》は, そのままフィールドに帰還するわ。チューナーモンスター, 《シノビネクロ》を特殊召喚!」

目にも止まらぬ速さで, フィールドの外側から小型の忍者がシュタッ, とフィールドに走り出た。衣の上に骸骨を思わせる鎧を装着し, 両手にクナイを握っている。

 

シノビネクロ

星2/闇/アンデット族・チューナー

ATK 800

 

「チューナーモンスター…」

「そう。私はレベル6のマグナムートに, レベル2のシノビネクロをチューニング。」

シノビネクロとマグナムートが空高く飛び立つ。幾度となく見たシンクロ召喚を同様に, 緑のリングと光点が現れるのかと思いきや, シノビネクロがその姿を変えると, 2本の漆黒のリングが生み出された。それらがマグナムートを取り囲むと, 地面から黒と白が入れ混ざったような旋風が巻き起こり, ドラゴンを飲み込むように取り込んだ。

「何だ…?」

 

「光を喰らい, 闇をも裂く魔龍よ。愚鈍なる世界に, 混沌を齎さん。シンクロ召喚。《混沌魔龍 カオス・ルーラー》!」

天に登る竜巻の先に現れたのは, 暗い天井を照らす明るい光ー否。それは明るくも見え, 暗くも見えたー光であり, 同時に闇でもある。その彼方から, 一頭の黒龍が舞い降り, フィールドに勢いよく着地する。

二足で立つ黒龍は物静かで, 咆哮を上げるでもなく, 両腕に赤いエネルギーを宿してこちらを眺めていた。

 

混沌魔龍 カオス・ルーラー

星8/闇/ドラゴン族・シンクロ

ATK 3000

 

「カオス・ルーラーの効果を発動。『カオス・リファインメント』!」

カオス・ルーラーが両腕の赤いエネルギーを翳し合わせ, 光が一層強くなった。

「私はデッキの上から5枚のカードを確認し, その中に光・闇属性のカードがあれば, それを1枚選んで手札に加える。残りのカードは墓地に送る」

666番はデッキトップの5枚をドローし, それらを宙に投げる。5枚のカードは, カオス・ルーラーの赤きエネルギーを得て, フィールドの中央でお互いに見えるように並んだ。

 

《カオス・ミラージュ・ドラゴン》

混沌領域(カオス・テリトリー)

《暗黒竜 コラプサーペント》

《雷獣龍- サンダー・ドラゴン》

《ライトロード・アーチャー フェリス》

 

どれも見たことのないカードだが…2枚目の通常魔法である《混沌領域(カオス・テリトリー)》以外は, 全て光・闇属性のカードだ。

「私は《カオス・ミラージュ・ドラゴン》を手札に加え, 残りを墓地に送る。この瞬間, 《ライトロード・アーチャー フェリス》の効果を発動。このカードがデッキから墓地に送られた場合, フィールドに特殊召喚される」

猫のような顔つきの弓を持った女戦士が, 光と共にフィールドに降り立った。

 

ライトロード・アーチャー フェリス

星4/光属性/獣戦士族・チューナー

ATK 1100

 

「さぁ, その伏せカードは何かしらね?フェリスの効果発動。自身をリリースし, 相手モンスターを破壊する。私はヴァレルソードを選択」

フェリスが弓を構え, その矢先が光のエネルギーに包まれる。仕方ない, 今使うしかない。

「トラップ発動。《ヴァレル・バスター・バリア》!発動時のコストとして, デリンジャラス・ドラゴンをリリースする!」

デリンジャラス・ドラゴンが青い粒子となると, 粒子はヴァレルソードの目の前に到達し, 六角形型のバリアに姿を変える。

「このカードは装備カードとなり, これを装備している間, ヴァレルソードはいかなる効果を受け付けない」

「無駄よ。私は墓地から《幻影騎士団(ファントムナイツ)トゥーム・シールド》を除外して効果を発動。私のターン中に発動した罠カードの効果を, このターンの終わりまで無効にするわ」

「何?!」

ヴァレル・バスター・バリアが, 地面から現れた盾が放った青い炎に包まれ, 一時的に機能を停止してしまった。フェリスの放った光の矢がヴァレルソード・ドラゴンを貫き, 爆発音と共に消滅する。

「ち…このために手札を墓地に送ったのか…?」

「どうかしらね。続けるわよ。フェリスが効果を発動した時, デッキの上から3枚のカードを墓地に送る。そして, フィールド上のカードが破壊されたことにより, 墓地の《カオス・ネフティス》の効果が発動するわ。墓地の光属性のフェリス, そして闇属性の《雷獣龍- サンダー・ドラゴン》を除外。ネフティスは墓地から蘇る」

光と闇のエネルギーが地面に打ち出されると, 亀裂から蒼炎を纏った黄金の鳥が飛翔した。

 

カオス・ネフティス

星8/闇/鳥獣族

ATK 2400

 

これも最初のターンで墓地に捨てたカードか。

「そして, ネフティスの効果によって, 相手フィールドのカードを1枚と, 墓地のカードを2枚をゲームから除外するわ。私が選択するのはフィールドのトリガー・ヴルムと, 墓地のヴァレルソード・ドラゴンとヴァレット・トレーサーよ。『陰陽転生焔(カオティック・ブレイズ)』!」

ネフティスが宙で舞い, そこから夥しい青き炎の渦がトリガー・ヴルムを焼き尽くし, 墓地の2枚のカードのシルエットも完膚なきまで焼き払う。

 

「ここで, 除外された《雷獣龍 サンダー・ドラゴン》の効果が発動。デッキからサンダー・ドラゴンを特殊召喚するわ。私は2枚目の雷獣龍を特殊召喚」

空から降ってきた雷から現れたのは, 身体中に黒い電撃を纏わせていた, 青い毛を翻す四足歩行のドラゴン。

 

雷獣龍- サンダー・ドラゴン

星6/闇/雷族

ATK 2400

 

「そして私は手札の《カオス・ミラージュ・ドラゴン》を通常召喚」

 

カオス・ミラージュ・ドラゴン

星4/光/幻竜族

ATK 1600

 

ーたった一枚の手札から。

こちらの場を一掃され, ワンターンキルを狙うどころが, 逆に自分が総攻撃の的になった。さっきまで手札と場がゼロだったのは彼女のはずが, 気がつけば自分が全く同じ局面に立たされていた。

 

ー強い。

迫る初めての敗北に対して覚えるのは, 絶望感ではなく。単純な感動だった。

 

「この辺りかしら?もっといけるけども。早めに終わらせたいようだし, そうするわ。バトルフェイズ。3体で攻撃」

カオス・ミラージュ・ドラゴン, 雷獣龍, ネフティスの攻撃が続け様に俺を襲う。

囚人番号910 LP 8000→ 1600

 

「カオス・ルーラーで攻撃。『ダークネス・エラディケイション』」

カオス・ルーラーが両手を掲げ, 中央から真紅のエネルギー波が一直線に俺を直撃した。

 

「……..」

囚人番号910番 LP 1600→ 0

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