八陰末席のシータは、今日もマスター(シド)の邪魔に忙しい。 作:醤油味のぽんず
我、三度の大脱出に成功。これから僕のことは、アルセーヌ・シータと呼んでくれたまえ。
前話で僕は非常に焦っていた。基本的に、管理人のもとに行くと非常に暇なのだ。日中は延々とくるはずもない持ち主を管理人とともに待ち続け、夜は夜勤のおっちゃんとふたりきり。
やましいことがあったら誰が責任を取るっていうんだ。この僕の柔肌ならぬ硬肌が危険にさらされてしまう。
だから、僕は、管理人が、嫌いだ。マスターもそれを見越してやったのだろう。
だが、その企みは不発に終わる。
管理人が管理していなかったからだ。勝利。
ここの管理人は昼間から酒を飲み泥酔するタイプのいい人だったのだ。
そんなやつを学園の管理にしていいのかという疑問は残らないでもないが、今回は非常に助かった。
ということで、捕まった翌日に脱出成功。
アルセーヌ・シータでござる。
ちょうど太陽が真上を通った頃、シータは体育館への道を歩いていた。
このままシドの部屋に帰るのもありなのだが、どうせ帰ってもやることがないので少しばかり冒険に出ることにした。
何、問題なんて無い。僕の見た目なら、一目みただけじゃただの美少女にしか見えない。
ここに、少女がいるのも十分に謎なのだが、シータはそれを無視して進む。
そして、ちょうど食堂の上を通ってる時、聞き馴染みのある声がした。
「おかしいだろ!?」
例にもれずマスターである。
うーん、どれどれと逆さまになってみてみると、なんかパットしない二人と歩いていた。
アイツらはなんだ?まさかマスターの友達か?!だとすれば、アルファ様への重要報告案件ではないか。あんな変人に付き合うなんてよっぽど頭がおかしいに違いない。すぐにご両親について調べてもらわねば。
と思ったら。
「正直言ってお前がアレクシア王女と付き合えるだけのスペックはない。俺ですら怪しいレベルだぜ?」
と話すのは雰囲気イケメン。イケメン度は29みた。
「シドくんが付き合えていたんなら自分もいけたかもしれませんね。あー。自分が告白すればよかったなぁ。」
と、話すのは雰囲気じゃがいも。じゃがいも度は53万とみた。
そして、周りでのこそこそ話。
これでなんとなく理解した。ようはあれだな。
いじめというやつだな。
間違いない。彼らはきっとシドをいじめて楽しんでいるのだ。うんうん。それならわかるってもんよ。あの二人はおそらくわざと人の多いところをマスターとともに歩いて、マスターの悪評を広める魂胆だろう。
なら、僕もそれにならねばなるまい。
『マジかよあいつ絶対に殺す、、、』
『演習で事故に見せかけて、、、』
『ここでやらなきゃ男が廃る、、、』
「あいつはもう人間じゃねえ。人を地獄に追いやるような化け物だ、、、」
「、、、?(なんか今よく知った声が)」
なんか、シドがこっち向いてきたけど多分バレてない。
僕は物陰に隠れて、シドが通り過ぎるのを待った。
さて、少し気も晴れたことだし、探検に出発──
──こつこつ
──コツコツ
──骨骨。
なんかすごいところについた。
そこは、不思議な空間。
繋がっているはずのものが繋がっておらず、真っ直ぐなものが曲がって見える。
深い霧に囲まれ、一寸先も見えない状態になる。
嘘。もうちょっと見える。
しかし、そう比喩していいくらいには周りが見えず、どうしたものかと悩んでいると、、、あ、晴れた。
と、思ったら優しいそうなおじいさんが出てきた。腰に剣をつけ、司書の格好をした、ワイルドなおじさまだ。
略してワドルジィ。
「おや、君、こんなところになんのようかね」
ワドルジィが温かく声をかけてくる。だから僕は堂々と答えた。
「この先に行きたいんだけど、通してもらえないかな」
「それはできかねる相談だよ」
とワドルジィが言う。
「つまり、この先になにか見られたくないものがあるということかい?」
「そうだと言ったら、、、」
ワドルジィは目を細め、こちらにさっきをぶつけてくる。
しかし、僕は両目をきっちりと開け、可愛く見返す。もちろん真顔。
「なおさら通らせてもらいたいかな。僕はやるなと言われたことをやるのが大好きなん──」
風が、舞う。
否。
風と見間違えるような剣が舞う。
「ほう、これを避けるか」
しかし、ワドルジィが切り裂たのは何もない空間。シータはすでにその場にはいなかった。
「良くないじゃないか。台詞の途中に人を切るなんて」
先程の位置から一歩下がった位置から少し不機嫌に話しかける。
「なに、不意をつくのは古くからの教えじゃろ」
「そうだね。でも、君は間違えた──そこは僕の間合いだ」
「、、、っ!」
途端にワドルジィはその細い首を斬るために、数メートルをつめようとした。
だが、体が動かった。
どういうことだ、と思い、よく見てみると、そこには細い光沢が見える。
──糸か
長年、戦いの場に身をおいてきたが糸使いと遭遇したことは少ない。
いや、無いと言っていいかもしれなかった。
そんなワドルジィはほんの一瞬だけ思考を止める。
それが決め手だった。
「人形が人を操るなんて、滑稽だよね──」
そんな言葉を聞きながら、意識は霧に埋もれていった。