「大丈夫です」
「え?」
「何かあっても私が守りますから。だから大丈夫です」
垣根は言う安心してほしいと思いつめないでほしいと慈悲深い顔をみて中年教授は肩の荷が少し軽くなった気がした
「ありがとう…ございます…」
その言葉を聞いて垣根は満足そうに笑顔を浮かべている、横で見ている職員には後光が見えた。あまりにも眩しすぎて顔を覆いたいぐらいだ
(眩しいよ!すっごい眩しいよ!!腹を探られても痛くないはずなのになぜか心が痛いよ!!!!)
「どうしました?」
あどけない表情で職員の顔を覗き込んできたので思わず視線を逸らしてしまう、
仕事モードと自重していたのもあって気づいていなかったのだがよく見ると端正な顔つきをしているのだこの都市伝説は
(若さが目に染みるっ…!)
「?」
目線を逸らされた理由は分からないが眠っている彼女は扉の向こうにいる
「垣根帝督」の《自分だけの現実(パーソナルリアリティ)》が影響しているのか分からないがどうしようもなく会いたいという気持ちがこみあげてくる。
それを察してか中年教授は実験場に入るため扉の右側にあるパネルにカードキーをかざす
「垣根さんはこちらからどうぞ、念のため気をつけてください。」
「私たちは上から見ていますので」
「はい」
左の通路から上に続く階段を上っていく二人を見送り垣根は足を進める
やっと会える。嬉しさがこみ上げてくる、嬉しさとは別にチクリと引っかかるものを感じながら。
中年教授の後をついていき実験場を見渡せる観測室に向かう、ドアノブに手をかけたが扉越しに声が漏れ出しているのを聞くと中年教授が「またかぁ~」と言わんばかりにため息をついた
扉を開けると
「うがぁぁぁぁぁあああああ!!!!解析追いつかねえええええええええええええ!!!!!!」
「うるせぇ!!!未来予知のデータなんてそうそう拝めることないんだぞ!!!!分かったら死ぬ気で解析しろぉっ!!!!!!」
「英数字が、いっぱぁ~~~~い………いっぱぁ~~~~い…」
ガタガタガタガタガタシュゥ~…ガタガタガタッッッ!!!!シュゥ~…ガタガタガタガタ…
男性二人が叫んでいる中、丸メガネのレンズを光らせている女性に関しては頭を左右にフラフラさせたかと思ったら急にモニターに向かって前かがみになり一心不乱にキーボードを叩いている
キーボードを打つ音とPCの排熱音が部屋中に鳴り響き三重奏を奏でていた。
「普段は良い子達なんですよぉ…ほんとに…」
「心中お察しします。」
たった三人でこんなカオスな空間ができるとは…学園都市、恐るべし
バスケットのグラウンドはあるであろう広さの床一面には半透明の小型のウサギが分裂して埋め尽くしていた、ベッドで仰向けになって眠っている少女に近寄ろうとするが中には垣根の足元に引っ付いて離れようとしない子までいる。あまつさえ肩に乗りたいのか背中に飛び乗り足をばたつかせそのまま床に落ちていく子も
「おっと…」
(懐かれている…?)
怒っていると聞いていたのにさすがにこれは拍子抜けしてしまい戸惑いながらもかき分けながら彼女のもとに足を進める。
眠っている彼女の顔をうなされていないかと覗き込む、かすかに寝息をたてながら無防備な寝顔に少し安堵して彼女に手を伸ばす、するとパチッと目が見開いた。
「っ!」
「……」
むくりと上半身を起こす彼女は右腕についていた点滴のチューブを勢いに任せて引き抜く。
「急に抜いちゃいけなっ…」
グルっと顔が垣根に向く
異様な雰囲気をまとっていた、憎しみと殺意に満ちた目を見開きながらか細い声で唇を動かしている
「…ぃ…ゅ、さな」
「ゆるさ…な、い、ゆるさない…ゆるさない、ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないっ!!」
「殺してやる」
瞬間その場にいたウサギすべてが彼女に振り向いた
千羽千沙音がベッドから降りるのと同時にウサギの群れが彼女に向かって走っていく徐々に背中に集まって二つのオレンジ色をした半透明の塊が横に、下に上に、何かを形どりながら右に左に広がっていく
「アクセラレータも、アレイスターも、あの片目の女だって」
「全員悲劇に導いてやる」
彼女の宣言と同時にいびつに広がった塊が
黒い、真っ黒い
黒曜石の翼に変化した