トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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メモ帳で寝かせても仕方ないので放出しちゃいましょう


プロローグ

 どんよりとした気分に対照的に晴れきった空に向けて慟哭の波動を放ちたくなるのをグッと堪え、今日も寝慣れないホテルのベッドから起き上がる。

 はぁ。今日もろくな1日にならないだろうなあ。

 そんな呪詛にも似た掛け声で始まったこれからの1日はどう考えてもいい方向にはいかないことがわかっていた。

 

 顔を洗って軽く朝食がわりに口の中にクッキーを数枚入れると、ろくに咀嚼もせずに飲み込んでやる。

 それから歯磨きと着替えを終え、大してない荷物をカバンに詰めてホテルのチェックアウトを済ませると、リーヴスの地に足を踏み入れた。

 

 いや、踏み入れたのは昨日の夕方のことだけどね。

 それでも気持ちを新たにして、一歩目を踏み入れなければ、俺のメンタルは壊れちまうんじゃないかなと思ってしまった。

 その原因の発端たる手持ちの入学書類に再び目を落とすと、これから通うことになる学校への道のりが、もはや千里の溶岩流への渡河作戦かのような錯覚を得てしまう。

 

「ノクス・ハーカナ。彼の者をトールズ士官学院・第Ⅱ分校所属とし、入学を許可するものとする」

 

 この一文に全てが集約されている。

 

 確かに俺はトールズ士官学院の入試を受けていた。いや、そもそもの話、士官学院に受けること自体抵抗があったり、なんなら最大限の抵抗をしてやったけど、うまくいかなかったのはまた別の話で、結局折れてしまった俺は、トールズ士官学院を受験することにしたわけで、心機一転頑張ることにしようとしたところ、我が体質がその程度で許してはくれず、最終的には過剰すぎるほどの努力と研鑽でもってして受験に挑んだはずなのだ。

 そしてその結果、見事首席合格を手に入れてしまった俺は悪い意味で悪目立ちをして、その最中にやらかしてしまった。

 

 はぁ。

 ため息しか出ない。

 あまりにも理不尽な自分の境遇にも、もしかしてあれだけのやらかしをやってしまったのならば、ワンチャンス士官学院なぞに入学せずに済むかと期待した結果、捨て駒扱いの分校に入れられてしまったその時の流れにも、ため息が出る。

 

「はぁ……」

「大丈夫? 元気がないみたいだけど……」

 

 ため息をなん度もつく姿を見られてしまったようで、道ゆく人に声までかけられてしまった。

 

「あ、いや、これから入学式で、ちょっと緊張してて……」

 

 などと適当に返してしまったが、顔を上げて声をかけてきてくれた人の姿を見てみると、なんとその人も軍服と制服を足して2で割ったような服に身を包んでいた。制服の色は紺色だけど、分校ではその色に統一されてるのかな。いきなり本校から蹴り出された俺のは赤色だったりする。

 この時間にここにいるってことは、この人も新入生か?

 

「そうだよね! 実は私もちょっと緊張してるんだ……。制服の色ちょっと違うみたいだけど、トールズ士官学院、だよね?」

「あーうん。そんな名前だったなぁ……」

 

 よくよく見てみると、エメラルドのつぶらな瞳に、桃色のポニーテール。なかなかの美人さんである。

 こんな日じゃなければ、話しかけられただけで舞い上がってもいいくらいなもので、なんならここがリーヴスではなく、トリスタだったのなら、若者よ、虹色の学園生活の礎たれの掛け声と共にガンガン話しかけていただろう。

 

「自分のいく学校の名前もはっきりしてないの!? 本当に大丈夫……?」

 

 流石に塩対応すぎたかもしれない。いやでもこれから2年は付き合う仲になるだろうし、第一印象からマイナス点をつけてしまってはいけない。

 一度顔を叩いて、心気を一転させる。

 よし、決まってしまったものは仕方ない。頑張れ俺!

 

「ああ、目が覚めきってなかったかもしれなかった。うん、今日が入学式なんだから、がんばろう!」

「いきなり回復した!? よくわからないけど、元気になってよかった。私の名前はユウナ・クロフォード! 多分同じトールズ士官学院の新入生ね。よろしく!」

「ああ、俺の名前は――

 

 <選べ>

 

 突如脳内に響く渋い声。

 と同時に世界は時を刻むのをやめ、空を飛んでいた鳥も、流れ落ちる落ち葉も、花壇に水やりをしているおばちゃんの持つジョウロから滴り落ちる水滴一滴一滴も、ユウナの顔も、それら全てが凍り付く。

 嗚呼。

 目を瞑り、嘆きにも似た声が自分の喉から出てくることがわかった。

 おそらくこれから、俺の視界に大きく二行の文字列が現れる。

 そしてその選択肢のうちどちらかを選ばないと、この凍りついた世界は永遠に終わらない。と同時にある程度時間が過ぎるととてつもない頭痛がやってくるので、意地を張って選ばないなんてこともできない。更に選択後には俺の意思を超えて絶対的に選択した選択肢が実行される。選択肢のことを口外しようとすると絶対に選択肢による妨害が入るコンボまで備えてる。

 これのせいで、これのせいで……! 俺は士官学院を受験することになったし、士官学院入学前に色々とやらかされて、分校に飛ばされたんだよちくしょう!

 そして、選択肢よ……。お前はそれだけで飽き足らず、俺の第2の学園生活すら奪い取ろうとしているのか……。

 いや、まだだ。

 まだ、選択肢の内容次第では、なんとかなるかもしれない!

 恐る恐る目を少しだけ開けた俺に見えた第一の選択肢は、

 

【本当の名前を名乗ったのちにパンツの色を尋ねる】

 

 うん。ない。絶対ない。

 初対面の天真爛漫そうなおそらく同級生になる可愛い女の子に対して、初対面で聞くことでは絶対にない。

 名乗りとパンツ尋ねは同列に扱われない。

 そうすれば、自ずと次の選択肢が俺の選択になるだろう。

 再び、スライドガラスの上にカバーガラスを乗せるかのような慎重さで持って、もう少しだけ目を開いてみた。

 

【折角なので自分の性癖を紹介した後に名乗りをあげる】

 

 あ、俺の学園生活、入学式前に終了した。

 

 

 学院の運動場に集められた新入生の中に、頬に赤い紅葉じるしをつけてるやつがいたらしい。

 あ、俺か。

 どっちを選んだだって?

 どっちでも同じ結果だろ?

シズナ登場させてヒロインにしてももよき?

  • よいよい
  • だめだ!
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