トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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好きなだけ戦闘シーンをかけて満足です! シズナ(21歳)は少女カテゴリーに入れていいものなのか……。なんか美女ってより美少女っぽというか……


4月23日 特別演習2日目 死闘

 手筈通りに教練中に抜け出すことができた俺たちVII組の面々と、機甲兵を持ち出してくると豪語したのちにあとから合流する予定のアッシュ。……というか、どうやって持ち出してくるんだよ……。望み薄ながら、本当に持ってきてもらえたら超絶戦力アップにつながるので、それなりに期待して待とうということとなった。

 そして、リィン教官たちがパルム街道から外れた山小道に入っていくのを見て、それなりに距離を取って尾行する。そうでもしないと気づかれる可能性が高いのだ。

 

 だが、俺たちはあまりにも教官たち一行に集中しすぎたのだろう。だから、彼女の存在に気付かなかったのだろう。

 

「やあ、こんにちは。ノクスはお久しぶりかな?」

 

 白銀の長髪をたなびかせた和装少女が、凛とした立ち姿で物騒な刀を腰に引っ提げて現れた。まるで俺たちがやってくるのがわかっているかのように。

 

「「「「……!」」」」

 

 ユウナたちは黙ったまま警戒体制へと移行する。おそらく帝国政府から侵入が禁止されているような場所で出会った、武装している人である。結社のたくらみに一枚かんでいると思うのが自然だろう。

 

「おう、久しぶりだな。帝都での観光ルートは考えたのに、フライングしてこっちに来ちまったのか?」

「確かに逸る気持ちがあったことは否めないけど、今回はちょっと違うかな?」

 

 こうなってしまっては、早速自分が下した選択肢が間違っていたのではないかと思ってしまう。虎狩りに出かけたのに、その前に鬼と出会ったような気分である。

 

「そうか。何しに来たのかわからんが、今は俺たち忙しいんだ、用事が終わったら一緒にマーテル公園や帝都歌劇場にでも連れてってやるから、ちょっと待っててくれないか?」

「残念だけど、それはできないね」

 

 願わくばそうであって欲しくなかったが、どうやらここを簡単に通すつもりはないようだった。

 

「そんなに急いで行きたいのか? じゃあ先に行っててくれ。俺も後から追いつくから。なんなら連絡先交換しようか?」

「連絡先は交換させてもらおうかな。でも、お仕事だから、ここから離れるわけにはいかないんだ」

「そうか。じゃあ俺たちの背中は任せた。さっさと行くぞ」

 

 と惚けたようにVII組のみんなを連れながら、俺は山道の先へと足を進めた。

 

「え、えーと……?」

「僕たちの邪魔をするわけではないのか……?」

 

 困惑したような声が上がる。驚いたことに彼女は俺たちの前に立ちはだかったわけでも、いきなり先制攻撃をしたわけでもなかった。

 彼女に一切の警戒を怠らずに歩みを進める。

 リィン教官たちが進んだ曰く付きの山道であること、そして彼女の持つただならぬ風格によってすっかり勘違いをしてしまったのかもしれない。彼女自身が言ったように、彼女の仕事はこの山道にいることにはなるかもしれないが、この山道を進もうとする人間を止めるというわけではないかもしれない。事実、俺たちより先に奥へと進んだリィン教官たちと戦いになったわけでもないので、俺の早とちりであった説が徐々にその信憑性を上げていく。

 

 ――そうであればどれほど良かったのか。

 

「そういえば!」

 

 そう叫ぶ。

 叫ばされる。

 背中越しでもわかる、彼女の気配を。

 

「こいつが結社の連中と合流するとどうなるかわからん。幸い俺がこいつの知り合いだし、事情を聞いておく。お前らは先に行っててくれ」

 

 あと一歩でも――。

 あと1リジュでも――。

 

「え……?」

 

 振り返るライカの眼に映る彼女の姿は、先ほどからそこを一歩たりとも動いていないが――。

 

「どうやら、こいつが用があるのは俺だけらしい。そうだろ?」

 

 彼女の方を向かずに訊ねる。いきなり俺を残して先に行け的なフラグを立てた俺に対して、何言ってんだこいつ的な表情を浮かべながらこちらを覗き込むVII組の4人の面々。

 だけど残念ながらそれは難しいだろう。

 

「うん、そうだね」

 

 素直に白雪の彼女は答えた。

 

「みたいだから、先にリィン教官の援護に行ってくれ。俺も用事があったらすぐ追いつく」

「で、でも……!」

「心配しなくてもそんなには時間をかけない。そっちの戦力はちょっと減るかもしれんが、こいつには俺も個人的に用事があったし、致命的なタイミングで乱入されないためにも色々確認しておく。だから――」

 

 ――黙って先に行っててくれ。

 

 あらん限りの目力で伝える。

 それも、悲壮感たっぷりな目つきだとごねられかねないので、どちらかというと不倫をきっかけに別れた元カノが金づるをなくして復縁を求めてきた、みたいな深い事情があってどうしてもみたいな雰囲気を出す。出せているかはともかく。

 

「…………。うん、わかった。先行くわ」

「戦力の低下は懸念事項ですが、仕方ありません」

「……先に失礼する」

 

 唯一渋っているライカにもとびっきりの笑顔を見せる。これで何かが伝わってくれれば良いのだが……。

 

「無茶すんじゃねえぞ」

 

 彼女もなんとか説得できたようだ。

 

 

 そして、この場には俺と彼女――シズナ・レム・ミスルギが残った。

 遠い彼方昔の記憶。

 数度彼女と会った記憶がある。

 それがいつ、どこで、どのような出会いだったのか、さっぱり覚えていないが、その名前と彼女の姿はなぜか脳裏に深く刻み込まれている。

 

「久しぶりだな」

「そうだね」

 

 ため息がつきそうになりながらも語りかけることにした。

 このまま黙っていたとしても埒が開かないだろうし。

 なので、シズナが先にリィン教官の方へ向かった面々を見逃した理由でも聞くことにした。

 

「契約では、あくまで私が足止めしないといけないのは、君、ノクスだけだからね」

「そうか。……って聞いてねえのになんでわかったんだよ!」

「君が私のことを、不倫して別れた上に復縁を迫る元カノとして扱おうとしてることも含めてね」

「してねぇよ! ……いや、してたけどさ……」

 

 そんなに伝わるもんなのかね。いや、俺からそういう雰囲気を出そうとしてたのはそうだけども。

 

「依頼者はシャーリィ個人か、結社なのか……。個人的には前者だと嬉しいけど」

「だったら喜んでいいよ。今回は結社とは関係ないから」

「やっぱりなぁ……」

 

 この地で何かしらの事件を起こそうとしている結社。それに加担しているシャーリィ。結社が少数精鋭で行動する傾向にあることと、昨日の襲撃がたった二人で行われていたことを加味して考えれば、人形兵器の数はさておき、実働部隊自体の人数はかなり少ない。その状態で確実に自分を無力化することができる人間が敵対勢力にいるわけだ。猫の手も借りたいというのはこのことで、ゆえにたまたま居合わせたシズナと契約をしたわけだ。

 たまたま居合わせただけなのかは、まだ確信は持てないが。

 

「それにしてもあの紅の戦鬼に警戒されるほどなんだ、ノクス」

「ああ、訳あってあいつとは何回かやり合ったんだよ」

「ふーん。で、間違って殺しかけたと」

「そうそう。…………え? なんで知ってんの?」

 

 心を読んだわけでもねえじゃん。まさか、超能力……!?

 

「なんだか勘違いしてそうだから訂正すると、依頼主のことくらいちゃんと調べてるだけだよ」

「ああ、そういうことね」

 

 お仕事に熱心だね〜、なんて思ったが、よくよく考えれば俺だって似たようなことをしてた。

 

「で、どうする? 依頼はノクスを実験に近づかせないことだから、このままお喋りを続けても私は構わないけど」

「実験ねぇ……。結社がお得意のやつか。……って、そんなにあっさり案件内容をバラしちまっても良いのか?」

「別に守秘義務もなかった上に、ノクスならすぐにでも答えがわかってただろうし、隠す意味もないでしょ?」

「それは……そうだな」

 

 クロスベルからの経験からすれば、結社が行うことなんてのは実験と観察以外なんてのがほぼないということを勘定に入れれば自ずと導き出せる答えではあったが。そもそも、なぜ俺がこの答えに辿り着けると確信したのかもよくわからん。

 

「それにしても、このままお喋りを続けても構わないって……」

 

 ――そんな気さらさらねぇくせに。

 

 そう呟きつつ、ホルスターにしまっていた虚を抜き出す。

 VII組のメンバーと別れたすぐ後にドンぱちを始めてしまったら、下手すると引き返してきてしまう可能性があったので、このタイミングになってしまった。

 

「あの時、後一歩でも歩けば、速攻襲いかかってきてた奴が言う提案じゃねぇぞ?」

「あはは、確かに」

「だけどまあ、今回は付き合ってやるよ。あいにく向こう(結社)の戦力が確定してないだけに、あいつらだけに任せるのも不安だし、その上第三勢力の匂いもしやがる。お前とやり合うしか先に進む方法がないなら、さっさと決着をつけてやる」

 

 できないのはわかるが、戦う前に負けることを考えるバカでもない。

 彼女の実力は不透明ながらも、おそらくだが俺の人生で出会った中でもトップの方に食い込むレベルだろう。つまり、簡単には勝てないし、なんなら勝機もかなり薄い。

 だが運がいいことに、先日、おそらくシズナをも凌ぐ実力の持ち主である分校長との戦いを経験し、ある程度その経験の成果があり、さらには、シズナの扱う剣術に酷似した剣術使いと長時間稽古している。そこをフル活用できれば、まだなんとかなるかもしれない。

 

「実にいい啖呵だ。では、始めようか」

 

 そう言いつつ、彼女は鞘に収めている刀の柄に手を取り――

 

 ――ダンッ!

 

 その前にその柄に狙いを定めて虚を発射する……!

 

「――!?」

 

 弾丸が来たことにではなく、先ほどの銃弾が当たったことに少しばかりの驚きを隠せないシズナ。彼女の構えからわかるように、おそらく居合斬りで対処をしようと思っていたのだろうが、その対処はすでに理解(わか)っている。そして、彼女の懐に入り込む隙は……ここしかない!

 牽制のために数発の弾丸をばら撒きつつ接近する。目で居合斬りを捉え切るのは不可能なので、居合斬りが万全な体制で繰り出されないようにその予測経路にばら撒くことによって――。

 

「はぁッ!」

 

 渾身の気合いと力で右手に握っている虚を振り上げる。だが、この一撃を防がなければならない、そのように誘導する。攻撃の軌道についてもシズナが刀を振り上げただけで防げるようにしておく。

 本体と違って刃の機能をするレール部分が通常の金属なので、本体に比べればいくらかは脆い。そのため彼女の刀との衝撃である程度の刃こぼれをするものという前提である。

 

 ――キンッ!

 

 予測通り、半身まで抜き出されたシズナの刀と衝突する。同時に左手に握った虚から銃弾を発射させる――!

 

 ダンッ!――カキンッ!!

 

 だが、その些細な不意打ちは刀を完全に抜き取ったシズナによっていとも簡単に無力化される。だからと言って攻撃の手を止めるわけには行かない……!

 

「フン――ッ!!」

 

 右手の斬り下げ、左手の突き、右手の撃ち上げ、上段からの回し蹴り。

 その全てを、今現在達成出来る最大の精度で繰り出すが……。

 

(つ、強い……!)

 

 全てが難なくいなされ、防がれ、避けられる。

 ああ――。たった数度の戦闘で調子に乗ってしまっていたな、と反省する。確かにリィン教官と分校長との戦いは、俺の血肉となって今も生き続けているのだろう。だが、それだけでかくも格上なる相手に対して傲慢にも攻めから挑みに行くとは、我ながら全くもっての悪手だった。

 言葉には魂が乗るとはいうが、まさか自分の発した何気ない”さっさと決着をつけてやる”という言葉に自分自身が支配されるとはなぁ……。そんなの不可能だと、最初から知っていたというのに。

 だが、これ以上攻め込んだとしても埒が開かない。

 警戒用に虚で数発弾丸をばら撒きながら、距離を取る。仕切り直しだ。

 

「――ッ!!」

 

 だが、彼女が素直にそれを認めるわけもなく――!

 

 振り下ろされた凶刃をギリギリ避けることには成功する。……尤も、反応が遅れて頬に小さくない切り傷を作ってしまったので、成功と呼べるかどうかは怪しい。

 だが、この一撃で分かったことがある。

 

(この女、俺を殺すことを毛ほども避けてない……!)

 

 この一撃を見たことがなければ、上手くいって首から脇腹までを切り裂かれ、下手するとその線に沿って上下に分かれてもおかしくなかった。

 それだけ致命的な斬撃を最も簡単に繰り出すシズナに少しだけ恐怖しつつも、虚を握る力を強めて心を保たせる。

 

「へぇ……。今のを避けられるんだ」

 

 興味深そうに口ずさむシズナ。どうやらすぐに追撃はしてこないようだ。

 

(クソ……! 余裕ぶっこきやがって……!)

 

「実際余裕だしね」

「ナチュラルに心読むんじゃねえよ……!」

 

 ふぅ、と小さく呼吸を整えるように吐き出す。

 そして再び構える。

 確かにシズナに勝てる見込みは少ない。ほぼないと言ってもいいだろう。だが、それでも戦わないといけない。万が一にでも先に進んだ奴らがピンチになる可能性があるからには。

 

「まだ戦うんだ。私としては嬉しいけどね」

「ああ、どうしても先に進みたいんでな」

 

 心を鎮める。全ての先入観を捨て――、彼女の剣筋のみに集中する。

 なんちゃって観の目だが、何もしないよりかは余程いい……!

 

「へぇ……。そんなこともできるんだ」

「紛い物だけどな――!」

 

 吠えると同時に一撃を叩き込む。だが、振り上げられた刀によっていとも簡単に切り捨てられる。だが、そんなことは予測済みである。構わず全力で銃弾を叩き込む。

 

 ――ダンッダンッダンッダンッ!!!!

 

 だがその中に数発のゼムリアストーン弾による強力な射撃も混ぜ込むが……。

 

(お構いなしかよ……!)

 

 それですら斬り捨てていく。

 尋常じゃない力じゃなければ破壊できるはずもない弾丸のはずだが、まるで温めたバターのようにスライスしていく姿が見えている。それは技術によるものなのか、刀の素材によるものなのか。……いや、両方だろう。

 

「……ッ!」

 

 だが、おかげで戦線には変化が起きる。ひたすら距離をとって遠距離攻撃をし続ける俺に痺れを切らせて、シズナが距離を詰めてきた。これが良かったことなのかはさておき、少なくとも戦いは次の段階には進んでいる。

 

 飛び込んできたシズナの突きをなんとか体をそらせることによって避ける。追撃の斬り上げには虚で当たり、当て身に対しては同じく当て身を――

 

「――クッ!」

 

 相殺しきれず少しばかり体勢が崩れる。

 一体どんな力をしてやがる……! 分校長のときの方がまだ耐えれた気がするぞ。

 

 そんな俺の体勢が崩れたことに追撃を止めるシズナではなく、むしろより鋭く速い斬り下げがやってくる。

 

 ――キンッ!

 

 かろうじて撃ち込んだ虚による一撃。弾丸が刀を横から叩くことによって、なんとか軌跡をずらせることに成功する。

 同時に続く斬撃の連続。

 その対処をしつつ、全力で彼女の斬撃を理解する。

 斬る際の視線の動き、筋肉の膨張と収縮、呼吸の仕方、体勢の変化、そしてわずかに見える闘気のゆらめき。それらを全て観察し、学習し、理解し、次に繋げなければならない。だが同時に、致命傷となる攻撃全てに対処するための行動もしなければならない。

 

 斬り上げ、突き、斬り上げ、踏み込んでの横薙ぎ、回転しての蹴り上げ、その際に納刀したことによって繰り出される居合――。

 

 肩に、腕に、脚に小さくない傷をつけつつも、致命的となる負傷だけは避けていく。

 リィン教官には感謝しなければならない……。もしもこの刀捌きに対して無知であったのなら、ここまで耐える前に屍と化していただろう。

 分校長の時と違って、相手はある程度力の加減はしつつも、確実に命を刈り取るような攻撃を繰り出し続ける。ゆえに、それらに対応するには小さくない代償が必要であった。

 

「ふぅッ……! ふぅッ……!」

 

 上がりそうな息をどうにかして落ち着かせながらシズナの一撃一撃に回避を、虚による打撃の防御を、銃撃の防御を、ギリギリのタイミングで繰り出していく。

 少しずつ攻撃が激しくなっていくが、どうやら彼女も最初から本気を出しているわけではないようで、なんとかまだ対応できる域にある。だが、もう限界だろう。これ以上に激しい攻撃がやってきた場合、俺の肉体的反応速度では対応しきれない。

 だというのに、彼女はまだまだ力をセーブしているようだった。

 

 ――だから。

 

 彼女が比較的大きな隙を晒す横薙ぎを見定めて、刃ではなく柄にゼムリアストーン弾を叩き込む。少しばかり仰け反ったのを見計らい、彼女に逆に肉薄し、虚による打撃を加える。

 もちろんだがそれに対応できない彼女ではなく、すぐさまに体勢を直したのちに俺の攻撃を全て刀のはたき落としによって強引に無力化をする。そして、俺の攻撃に大きな隙ができて――

 

 ――ダンッ!!!

 

 ストックにあった最後の液体金属弾を、俺の首を狙って斬り下された斬撃に合わせて撃つ……! 同時に地面を蹴り上げ、全力で立ち退く。

 これからしなければならないのは、時間稼ぎである……!

 

「やっと、何かちょっとだけ実感を得た気分だよ……」

 

 追撃に来ない俺をいいことに、シズナは警戒を解かないまま語りかけてきた。

 

「この違和感に、ね」

「違和感だぁ……?」

 

 彼女の話に付き合う。あくまでに自然に、時間稼ぎであることを悟られないように……!

 

「あー、時間稼ぎをしようってことでしょ? いいよ、付き合ってあげる」

「…………。余裕かよ……」

「有り体で言えばね。だけど、不思議なことにどこまで余裕かは正直わからないな」

 

 シズナは意味深にそう語った。

 時間稼ぎとわかって付き合ってくれているとは、よくわからないが好機なので素直に乗っからせてもらうことにしよう。

 

「ねぇ、私たちが子供の頃出会ったことって覚えてる?」

 

 そう言って、シズナは当たり前のことを聞いてきた。

 

「もちろんだろ。じゃなきゃ、お互いのことなんて知らねぇだろ?」

「それはその通りなんだけど、いつ、どこで、どうやって出会ったかまで、覚えてる?」

「……。昔のことすぎて覚えてねぇな。それがどうした?」

「やっぱり。私もそうなんだ」

 

 だったら、なんで俺のことを特定して手紙まで出せたんだよと、心の中でツッコむ。出会った場所とか覚えてたら、そこから調べて俺の今の住所まで辿り着けるかもしれんが、それすら覚えてなくてゼムリア大陸全部から俺を探し当てるなんて無謀にも程があるだろうが……。

 

「だから、思い出すためにノクスのことを調べたんだ。ゼムリア大陸にいる知り合い全てを総動員してね」

 

 無謀なことをやってらっしゃった……。なんでそこまでやってんだよ……。

 

「それで、帝国に君がいることがわかった。()()()()()()()()()()()()()()から、ついでに観光もできると思ってここまできたんだけど……。やっぱり君もわからないか」

「そうだな……」

 

 彼女の言葉が脳裏に反響する。

 帝国に来たことのない彼女と出会える場所。俺が生まれてこのかた足を踏み入れたことのある国は、帝国のみと言ってもいい。いや、正確にはクロスベル自治州、もしくはクロスベル独立国、というのが選択肢には入るのだが、クロスベルにいたのはつい2年前レベルのことで、こんなにキャラの立つやつに出会っていれば忘れるわけがない。

 

「物心がつく前にでも出会ったんじゃねぇのか?」

「一応私今年で21歳だけど、ノクスは何歳だっけ?」

「……17だよ」

「ということは、どちらかは物心ついてたはずだし、そもそも物心ついてない時に出会った子の名前を覚えてるってこともありえないんじゃないかな?」

 

 それは……確かにそうだ。

 では、俺たちは出会っていない……?

 

「出会ってないにしては、私たちお互いのことを見ただけで認識できたよね」

「だから心を読んでくるんじゃねぇ! ……確かにお前のことはすぐにわかったよ」

「これの意味するところは、なんだろうね?」

 

 無意識のうちに出会っていた……なんてのは互いに認識できた時点である程度否定できるだろう。ならば……、

 

「出会っていたがその記憶を消された……?」

「可能性の一つだね。誰が何のためにどのようにそんなことをやったかについては全く理解できないけどね。あとは――」

「そもそも俺たちは出会ったことがないのに、出会ったかのような記憶を植え付けられた」

「そうだね。先ほどと同じく、可能性でしかないけどね。もちろん、私たちがただただ記憶違いしてるだけで、私は君と違う君とそっくりなノクスと、君は私と違う私とそっくりなシズナに出会っているなんてのもありえるし、二人仲良く子供の頃のことをさっぱり忘れてしまっただけの可能性がないわけでもない」

「あと二つは無視してもいい可能性だろうけどな。だが、そうとなれば誰が俺たちの記憶を改ざんしたかが問題になるが……。少なくとも現時点では情報がなさすぎるってことか」

「そうだね」

 

 そうとなれば、シズナが帝国に来た理由がかなり特異なものになるだろうという予測となる。その予測を確かめるために――

 

「猟兵団に所属してるのに、帝国まで単独行動はいただけないんじゃないか?」

「あれ、よくわかったね」

「その戦闘力と人様の命を刈り取るのに躊躇のない剣筋、それに加えて民間人ではない依頼を受けるとなれば、十中八九猟兵だろうが」

「確かに。まあ、先言った通り、せっかくだし帝都に旅行してみようとも思ってたんだ」

「そんな理由でよく休暇取れたな……」

 

 そろそろいいだろう。

 時間稼ぎのための会話だったが、案外いろんなことが発見できたものだった。猟兵という物騒な所属ではあるものの、絶世とも言える美女とはこのままお喋りを続けたいが、そういうわけにもいかない。

 虚を構え直す。

 

「時間稼ぎはもういいの?」

「ああ、あまりあいつらを待たせるわけにもいかないんでね」

 

 意識して考えないようにした時間稼ぎの理由。

 一片たりともシズナに悟られたくなかった戦術とは、液体金属による金属侵食を彼女の刀で起こすこと。劇的な化学反応ではあるものの、流石に戦闘中という短時間には起こらない。けど、1分もあれば金属である刀の、液体金属弾と触れた部分はおおよそ彼女の得物としての強度を失うだろう。

 だから、その効果を確かめるためにも。

 

 ――ダンッ!

 

 彼女が斬りつけることによって回避することを選択する射線に、ゼムリアストーン弾を撃ち込む。これで彼女の刀は折れ、ある程度彼女の戦闘力も下がるだろうと期待し。

 

 ――キンッ! …………カランカラン

 

 何一つ傷のつかないその刀を見て、驚愕と共に落胆がやってきた。転がるような金属音は、彼女の刀が折れた結果ではなく、斬られて転がった弾丸のものであった。

 

「あれ、企みは失敗した感じ?」

「そうだな……。その刀、金属じゃねぇのかよ……」

「ん? いや、多分金属だよ? ちょっと曰く付きの、だけどね」

 

 妖刀の類か何かか……。あまりに血を吸いすぎて、アーツ的特性が宿ってしまったのだろうか。そういうものに詳しいわけではないが、目にしたことがないわけでもない。

 そうとなれば、潔く諦めるか、それとも――。

 

  <選べ>

 

【先行したVII組の人たちのためにも戦い続ける】

【俺が行かなくてもVII組の人たちがどうにかするだろうから、諦める】

 

 選択肢が現れたわけではない。ただただ、俺が自分に対して選択肢を突きつけただけだ。

 そして、俺の選択は――。

 

「ふぅ……」

 

 リィン教官のあの姿を思い出す。

 赤黒いオーラである。

 その時のリィン教官が行った全ての身体操作を模倣する。

 完璧にできるわけではないが、この場を凌ぐためのわずかな足しにでもなればいいのだ。

 

「はぁああああああ!!!!」

 

 自らの奥底に眠る力を夢想し、それを引き出す。

 実際にあるかどうかは問題じゃない。あるとして、引き出すのだ……!

 精神論かもしれないが、リィン教官だって似たようなものだろう……!!!

 

「かぁああああアアアア!!!!!」

 

 心臓の奥底からほんのりとした温かみが全身を駆け回る。

 やがてそれは少しばかり温度を上げ、血液の通った全身が少しばかり痺れるような錯覚に陥る。だが、これまでになく視界はクリアになり、思考は加速される。

 

「神気、……合一!!」

 

 溢れ出す黒。だが、赤はない。やはり教官のものとは違って、紛い物だからこうなるだろうか。言うなれば偽・神気合一といったところ。それでも、少なくとも、これでまだ少し、シズナの領域に近づける……!

 

「へぇ……! そんなこともできるんだ」

 

 次の戦いの目標を決め、彼女へと肉薄す――

 

「はぁあああああ!!」

 

 だが、彼女に振り上げた虚を叩き落とす前に、吹き飛ばされる。

 

(な、何が起きた……!?)

 

 見上げれば、彼女の周りには透明なオーラが立ち上がり、彼女を中心にして地面にまるで巨石が落ちたように軽くクレーターのようなものができていた。

 闘気だけでこれとか、こいつ本当に人間かよ……!

 

「ちょっとしたお遊びのつもりだったけど、そんなのを見せられたら昂るじゃない。少し、楽しませてもらおうかな」

「……はは、そうかよ」

「それじゃ――――行くよ?」

 

 

 その一撃は、おおよそ人が繰り出せるものとは思えなかった。

 踏み込み、斬り下ろす。

 たったその2工程が……!

 

「ガ……ッ!!」

 

 辛うじて虚を頭上でクロスさせ、その一撃を抑えることには成功したが、偽・神気合一によって覚醒したばかりのはずの体が、メリメリと内部から軋みを上げていく。

 シズナの攻撃はそこで終わらず、堪えられた刀を引き、そのまま下まで持って行き、斬り上げる。加速した思考で、その攻撃は難なく知覚できた。

 

 ――ダンッ!

 

 軌跡をずらすために放った弾丸……。だがそれを刀身に受けたにも関わらず――

 

「――ッ!!」

 

 全力で回避行動に移る。一切ぶれない必殺の軌跡から身を守るために……!

 

(銃弾程度じゃびくともしない剣筋かよ……! 分校長ですら少しはずれてたのに……!)

 

 分校長を凌駕するレベルの使い手なのかと見えてしまいそうになるが、それは否定できる。少なくとも、今のシズナには分校長レベルの圧は感じられない。おそらく、得物の重量の問題だろう。分校長の使っていた鉄板のような大剣に比べれば、圧倒的に薄くて細い刀なのだから。

 だから、この攻撃には、銃弾ではなく虚による直接打撃による阻止をしなければならない……!

 

 ――キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ!!!!

 

 数度の衝突。幸いシズナの攻撃パターンは先ほどからある程度理解させてもらった。ゆえに、偽・神気合一によってブーストされた肉体で何とか対応することができているが……。

 

 ――さっきから痛いわね……! 何なの!?

 

 導力銃として機能させるために後から付け加えた機構の部分は、虚の本来の本体と違って所詮はゼムリアストーン製。液体金属によっても腐食しないとかいう異様な強度の刀による攻撃によって少しずつ削れていく。

 

 ――って、あんたなんてものの相手をしてるのよ!?

 

 金色に輝くシズナの瞳を観察するたびに吸い込まれそうになりながらも、虚を振るう。攻撃する余裕なんて全くと言っていいほど、まだ作れない。

 ……さっきから誰の声だ……?

 

 ――アタシよ、アタシ! あんたが握ってるでしょうが!

 

 え? 虚……?

 少しばかりの驚愕のために、一瞬集中力を失う。だがその間にやってくる攻撃が――!!

 

 ――ダンッ!

 

 引き金を引いていないにも関わらず、飛び出す弾丸。その弾丸はシズナの刀を握る手へと飛び、俺の心臓を狙った突きを無力化させた。

 

 ――集中しなさい! 死ぬわよ! ……ったく、久々に目が覚めたと思ったら、めちゃくちゃピンチじゃない……!

 

 脳裏に響く虚の声。

 そこには最低限の脳のリソースを割き、ほとんどはいまだに続くシズナからの攻撃に向けたままにする。少しのミスで命にまで届く刃をどうにかするのが大事なのだ。

 

 ――どうしてこんな無謀なことしてるのかはあとでたっぷり聞かせてもらうからね! だけど、今はアタシの言った通りに動きなさい!

 

 脳の回路が焼け切るような感覚に陥る。シズナの攻撃があまりにも苛烈で、それらを処理するのにとてつもない負荷がかかっているのだろう。

 だが、どうやら虚にはこの場面を打開する方法があるようだ。なので素直に従おう。

 

(どうすればいい!?)

 

 ――その女の周辺に弾をばら撒きなさい! ゼムリアストーンの方でも通常の方でも構わないわ!

 

(それでどうするんだよ!)

 

 ――アタシの本領を見せてやるっての! あんたは黙って従えばいい!

 

(ちっ……! わかったよ、任せたぜ、相棒!)

 

 虚のリクエストに応えたいが……!

 振り上げられた刀の軌跡を見ながら、隙を探す。先ほどから止まることを知らない剣舞には一切の隙が存在しないかのようにも見えるが……。

 

(隙がなければ……、作り出せばいい――!!)

 

 そして、唯一と言っていいコンマ数秒の、隙とも言えない余裕があるシズナの横薙ぎに対して――

 

(奥の手だ!!)

 

 もう一つの太陽を一瞬作る、俺の手製の花火が炸裂した。

 ともにばら撒かれるゼムリアストーン弾。

 

 ――ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダンッ!

 

 底が尽きるほどにばら撒く。

 相棒のためだ。出血大サービスである。この死地を切り抜けられるなら、50万ミラ程度安いものだ!

 

 ――よし、ナイスよ! さぁ、食らいなさい!!

 

 俺の手製花火がその輝きを失い、徐々にシズナの輪郭が見え始めた頃……。

 

 空にばら撒かれた大量の弾丸が彼女に向かって、一斉に発射された。

 

 ――くたばりなさい、この化け物女!

 

 その声とともに、とてつもない大きさの破砕音と、まるで嵐が起きたかのような衝撃波と、抉り返された土塊が焦げる匂いがやってきた。

 おいおい、えげつないことしやがる……。でも流石にやりすぎじゃねぇか……!

 不思議とこれだけやってもシズナなら死なないんじゃないかと思えてしまったが、それでも万が一がある。あたりどころが悪く、シズナが重症だったりした場合のことを考えて急いで彼女の方へと駆け寄ろうとしたが……。

 

(足に、力が入らねぇ……!)

 

 ――そりゃそうよ! あんた、自分がどんだけ無茶してたかわかってないでしょ!

 

 言われて気づく。

 上は頬から始まり、下はくるぶしまで出血が認められる切り傷が最低十箇所、出血していないものも含めたら数十を下らない。加えて攻撃を防ぐために虚を握っていた指の骨折が数箇所に、脱臼数箇所。立っているのもギリギリの負傷である。それでも戦えたのは、アドレナリンと偽・神気合一のおかげである。

 だからと言って歩みを止めるわけにもいかないので、懐から薬局で買ったティアラの薬を取り出し、飲み干す。傷はすぐに癒えずとも、最低限の気力は回復する。

 

 これでシズナの安否を確認し、問題がなさそうであればリィン教官のところへ向かおう。そう決めて、歩みを進めようとした時であった。

 

 

「フフ……フフフフフフ…………!」

 

 砂埃の中、片足をついていた彼女は、獰猛にも笑いながら続けた。

 

「正直そこまでは期待していなかった。けど、これは……、とてもいい感じだ…………!」

 

 立ち上がるシズナには、独特な東方の衣装についた土と、数箇所の銃弾による破れ以外に、特段大きなダメージは入っていなかったようだった。

 

「さて、準備運動はこれくらいでいいかな」

 

 途端に吹き荒れる黄金のオーラ。

 近いものを見たことはあるが、分校長のそれとは少し違う。

 それでも、分校長のものと負けぬものである。

 

「じゃあ、本気で死合おうか……?」

 

 ――どうなってんの、あの女!?

 

 脳裏から虚の声が聞こえる。

 相棒なだけに全く同じことを思っていたようだった。

 ああ、おそらく勝てないだろうな。だけど……。

 

 ――ちょっと! あんたも何興奮しはじめてるの!?

 

「ああ、そのいい感じなの、わかるぜ……!」

 

 偽・神気合一については裏でもこっそりある程度は練習をしていたのもあって、ある程度の安定性を持ってして達成することができたが、これからやろうとしていることについては、全くの初見である。

 最初に神気合一の真似事をした時に襲ってきた凄まじい頭痛のことを考えると、足が竦む感覚にも襲われるが、だが――

 

「はは……。俺も何でこんな性格してんだろうなぁ……」

 

 ここでならば辿り着けるかもしれない。いや、それは傲慢すぎるか……。それでも、分校長の次元に片足くらいなら触れることができるのではないだろうか……!

 

()ぁッ!!!」

 

 偽・神気合一と全く同じ工程を踏む。だが今回の模倣の相手はリィン教官ではなく、――オーレリア・ルグィンだ!!

 

「あああああぁぁァァアアアアアアアア!!!」

 

 脳が焼けこげるような錯覚――いや錯覚ではない感覚がする。

 だが、彼女に一歩でも近づくためには――!!

 

 ――それ以上はダメよ! 本当に死ぬわよ!

 

「讓。蛟」縺輔l縺玲ィゥ閭ス繧貞、ァ蝨ー縺ョ閾ウ螳昴↓繧医j譏?庄!!!!」

 

 張り裂けそうな痛みに耐えつつも、自分の状態を冷静に見つめることができた。自分の奥底から溢れ出す黒色の何か。オーレリアの金色とは違うが、それでも偽・神気合一とは比べ物にならない……。

 ただの肉体や精神の強化に留まらない。まるで生物としての階級(ランク)が上がったかのような。そんな全知全能感に浸ることができた。俺とシズナの関係性の謎だけではない。VII組の他のメンバーがたどる道のり、この地に潜む第三勢力の構図、果てには帝国の行末、そして我の行末。それらが全て、漠然とだが手に取るようにわかる。

 

 ――ちょっと! あんた、様子がおかしいわよ! さっきから何を……って、まさか!?

 

 この力さえあれば、帝国を……世界を……!

 ならばこそ、手始めにあの小娘を屠ることから――

 

  <選べ>

 

【虚にて自らを撃ち抜き、正気に戻る】

【全てを失う】

 

 ふむ。忌々しき因果律操作め。この我にはもうそのような小賢しいものなど必要ないと……。

 

 ――気をしっかり持ちなさい! アレに飲まれちゃダメよ!

 

「憑きものの類か……? 水を刺されるのは嫌だけど……」

 

 む? 因果律の力が働くとは、あれの意思がまだ残っていたか。だが、…………!?

 

 ――そういうことね……! アタシに任せて! やっと本領発揮って感じの活躍ができるし!

 

 我は……。我は産まれたの近くもすぐに滅びるというのか!?!?

 

 ――ダンッ!

 

「ふぅ……。ありがとう、虚」

 

 ――あんた本当に危なかったんだからね! 今度からは無茶しすぎないように!

 

 自らを撃ち抜いた虚に感謝しつつ、ギリギリのギリギリで選択をさせてくれた絶対選択肢にも感謝をする。おかげであのよくわからないものに精神を乗っ取られずに済んだのだが、アレは一体何だったのか……。

 いや、今はそうではないな。

 

「すまん、待たせたな」

「どうやら問題も解決したようだね」

「ああ、これで心置きなく――死合える……!」

 

 アレが消えたからといって、分校長の模倣が消えたわけではなかったのは、救いであった。でなければ、この死地を生き抜くことは不可能だっただろう。

 ああ、なんとも心地よい昂りである。

 

 

 だから、人はそれを慢心と呼ぶのだろう。

 

 

「――ッ!!」

 

 ほぼ目にも見えぬ踏み込みと、居合。

 もはや斬撃を置き去りにしたような、そんな一撃を。

 全てが手遅れだとわかったが――それでも渾身の回避をする。成功したかは……いや、あり得ないだろう。

 

「ガ――ッ!!」

 

 その一撃に、俺が真っ二つにならなかったのは運が良かったのか、彼女が手加減をしたからなのか。いや、前者だろう。アレほどに獰猛な笑顔のシズナがそんなやわなことをするはずがない。

 右脇腹から左胸部にかけての切り傷。じわっと血が流れて制服を汚した感覚もあるが――どうやら骨までは達していないようだ。

 だが、この一撃がすぐに俺の命を刈り取らなかったとしても、残念ながら俺の意識は保ちそうにない。滲み出ていく血液と共に、視界がチカチカとし、大地を踏み締める足に力が入っていかない。

 戦場だというのに、心地よい眠気というものが襲いかかってくる。

 ああ……、死ぬ直前に見る顔が、シズナの顔でよかった。

 …………そう感じて、しまう。

 

 ――立ち上がりなさい、ノクス!

 

 そんな叱咤激励の声がするが、真っ赤に染まった視界は端から少しずつ陰り始めていた。

 

 

 ――ここで諦めたら、斬り殺されるわよ!

 

 脳裏で叫ぶ声。

 虚だろうか。

 倒れた俺を。

 彼女は……

 だろう、……な。

 

 ――アタシもサポートしてあげるから!

 

 目の前まで踏み込み、

 振り上げられた白銀の刀の刃が振り下ろされ――

 

  <選べ>

 

【真の力を引き出す】

【斬り殺される】

 

 そんなものが……

 あれば……!!

 

 ・・・・・・

 

「手加減はしてなかったつもりだけど……」

「ああ、おかげで死にかけた」

 

 だが、ちょっとしたチート技によって蘇ったのだよ。

 選択肢には感謝しても感謝しきれない。……いや、よくよく考えたら、こいつのせいで俺は士官学院なぞに行く羽目になって、こうなってしまってるんだから、感謝なんてするわけもないが。

 傷は完全に癒えたとは言えない。いや、なんならいまだにどくどくと流れ出しているが、それが気にならないほどには、このチート技は有効的であったのだ。

 とはいっても、俺自身が強くなったり、そういったことではない。

 

 だからこそ決心する。一切の慢心を捨て、この戦を生き残ると。

 

 ――逃げなさい! あいつにはかないっこないわよ!

 

 虚が非常に常識的な意見を申し出てくれたが……。

(逃げたくても、もうできねぇだろう。見ろあの顔、逃亡者だろうがなんだろうがくびり殺す顔だぜ)

 

「こっちは準備万端だぜ。いつでもかかってこいよ」

 

 だからこそ、逃げるわけにはいかない。一切の油断も隙も見せてはならない。決して諦めてはいけない。

 あの壁は、乗り越えなければならないのだ……!

 

 先ほどと全く同じ、2撃目の居合は――

 

 ――その軌跡と寸分も違わず、虚を振るうことによって阻止する……!

 

 追撃の突きには――

 

 ――その刀の軌道と刀身両方に弾丸を叩き込むことによって無力化させる……!

 

 その後急いで飛び上がりながら振るう居合は――

 

 ――繋ぎの技だからこその精度の低さのため、全力で体を捻って避ける……!

 

 ここが反撃のチャンスである……!

 握りしめた虚にはもはや取手と本体の筒の部分しか残っていなかったが、俺の相棒ならば成し遂げられると信じて。

 2本の虚を組み合わせ――

 

「エテリウム・バスター!!!」

 

 ――前借りだからね! あとで高い使用料を払わせるわよ!!

 

 空間を揺らすほどの轟音。

 流石のシズナでも、この一撃は簡単に防ぎきれなかったらしく、吹き飛ばされて山道の岩場にドゴっとめり込むようにして叩きつけられる。

 だが、こんなのが有効打にならないことくらいはあの虚が披露した技を見れば明らか。すぐにでもこちらに切り返してきて襲いかかってくるのだろう。

 

 だったら――

 

(こちらの方からも行ってやろうじゃねぇか!)

 

 ――ドンッ!!

 

 空中での衝撃。

 シズナの妖刀と、俺の虚によって奏でられた打撃音は、衝撃波と共に周囲を吹き飛ばした。

 衝突のせいで手が痺れているが、かろうじて鍔迫り合いは拮抗させることができた。

 

「楽しいか、シズナ?」

「そうだね、こんなのは久しぶりなんだ……!」

「それは、よかった……ッ!」

 

 言い様にシズナを蹴り飛ばす。このまま鍔迫り合いを続けてもよかったが、分があるのは彼女に違いないので、わざわざ付き合うこともない。

 

 だが、そこで少し不思議なことが起きた。

 いや、今までの戦いに不思議なことが起きなかったわけじゃないが、そうではなく、場そのものに何らかの変化が生じた。

 

 ――また、なんなの!?

 

 どうやら虚もそれを感知したらしい。

 全くもって外部の力が、俺とシズナを囲って、いかにもこの戦いを盛り上げようとしているような……。

 観客がいるってなら別にいいが、これにはそれとなく不吉な雰囲気があるというか。

 

「……これが、相克ということか」

「え?」

 

 シズナも同じく感じ取ったらしく、何か独り言を言っていた。何を言っているのかは聞こえなかったが。

 

「私たちを利用しようという魂胆か……」

「利用……?」

「はぁ……」

 

 そう言うと、彼女はなぜか今まで放っていた禍々しい闘気を霧散させた。

 

「なんのつもりだ?」

「今日はもういいかな。これ以上戦っても邪魔が入るのが確定してるみたいだし」

 

 邪魔というのは、先ほどの外部の力のことだろうか。

 邪魔というか、どちらかというと俺たちの戦いをさらに盛り上げようとしてた気がするが、シズナから出た利用という言葉から考えるに、何かしら裏があるのだろうか……。

 

「猟兵としての契約はいいのかよ?」

「うん。とっくに実験は終わったみたいだし、終わってなかったとしたら、失敗したんだろうね」

 

 俺を拘束する時間でも決めていたのだろうか。

 もはやシズナが俺を止めないというのならばここに長居をしても仕方がないだろう。なので、偽・神気合一を解く。同時に急いで山道の奥へと向かおうとしたところ、

 

「ちょっと待って!」

「なんだ!?」

「傷をつけた本人が言うのもなんだけど、少しは応急措置をしてから行ったほうがいいよ?」

 

 見下ろすと血を吹き出しながら歩いていた自分の体が見える。

 ……これでは着いた途端に増援としての戦力ではなく、重症者として扱われるのが目に見えていた。我ながらよくぞこんなボロボロで戦えたのだと思う。

 

「私も手伝ってあげるから。その傷の責任者でもあるし」

 

 シズナの言葉に甘えることにした。

 よくわからないが、戦闘では血の気が多くなる猟兵ではあるが、少しは他人に思いやりができるんだなとちょっと感心した。

 

 

 ・・・・・・

 

 ほう、我を手ずから滅ぼした人形が、我に助けを乞うと。

 

 カカカカ! これを滑稽と言わずしてなんと言う。

 

 しかし我が目覚めるには未だ力が足りず。

 

 故に刹那の自由と幸福を享受するが良い。

 

 我が贄として。




誤字報告誠に感謝いたします!! また、よかったら感想や評価を残していただくとモチベーションに繋がります!

おそらく次でやっと閃の軌跡3の第一章が終わります……!

予定では戦闘回はかなり先になるので、今回はなかなか真面目なシーンゆえに手が出しづらかった選択肢さんが、これから猛威を振るってくれること間違いなしですね! ロゼたんをひん剥いた実績もあるので、是非とも新たなチャレンジに挑んで欲しいものです。

さて、そろそろ虚にも体が欲しいと思うこのことですが、どこかにいい感じの魂が入っていない肉体がないですかね……?

確定させるわけじゃないですが、卒業後のノクスの進路ってどこが一番らしいように見えますか?

  • 遊撃士
  • 情報局
  • 猟兵
  • スプリガンもどき
  • 結社
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