トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが…… 作:全自動髭剃り
「く……っ!」
振り下ろされる宝剣の一撃を、何とかして虚で抑える。
「はぁ……ッ!」
その隙を見逃さず、横から一撃を入れようとするリィン教官だったが、
「甘いっ!」
鍔迫り合いをしていた宝剣を一瞬にして引かせ、難なくその一撃を弾き返す。
自由になった虚の照準を合わせて弾丸を発射させる。
だが、その一撃も難なくかわされる。
そしてそこで一度仕切り直しとなり、再び距離を取る。
「さすがですね、分校長……」
嘆息しつつ、感心するリィン教官。
そりゃそうだ。俺らが汗まみれで息が切れそうってのに、涼しい顔で仁王立ちしてるんだもん。
「まだまだ精進が足りぬようだな」
あんたが精進しすぎてるだけだけどな。思ってても口には出さないけど。
その後、軽く数合立ち会ったのち、そろそろ夕食の時間だということで分校長につけてもらっている稽古もひと段落ということになった。
え? なんで分校長なんかと稽古してたかって? 例の選択肢の消化だよ。ああいう、1ヶ月以内に〇〇する系の選択肢は、マジでちゃんとやっておかないと酷い目に遭うんだよ。前回に関していえば実質選択肢を忘れたせいでクロスベル独立国騒ぎのど真ん中に飛び込む羽目になった。
「ただ、現時点では及第点か。だが、いずれにせよ”神気”なしではまだまだだな」
「返す言葉もございません」
反省するかのようにリィン教官は返す。
神気か……。俺も真似事のようにできなくはないが、ブーストをして戦うより、素のままの方が何かと鍛錬になるので使っていない。その理由をわかりやすく説明すれば、素の俺の力100を鍛錬なら110にできるところを、偽・神気合一の俺の力200から210にまで上げても、素に戻ったら105まで落ちてしまう、という感じのカラクリだろう。人間、基礎力が大事なのだ。
「確か今は”制御”が効かぬという話だったか」
「ええ……」
あれ、初耳だったのだけど、リィン教官の神気合一って不安定なの? こないだの分校長との手合わせの前夜に使ってたような……。
「この前使った時、大丈夫だったんですか?」
「ああ、あの時はきみが分校長と戦うことが決まっていて、手を抜いた稽古をしても仕方なかったからな。それに、なぜかあの時は安定して神気合一が使える確証があったんだ」
「後押ししてくれてたようでありがたいんですけど、あんま無茶しないでくださいね」
「君が言えたことじゃないと思うけど、気をつけるよ」
好きで無茶してるんじゃないんだけどなぁ……。
いや、戦いになると気分が高揚するのは自己責任かもしれないけど、相手が悪いのは外的要因のせいだし。
「しかし、ノクス・ハーカナ。私の剣に的確にカウンターを打つことができることはさすがと言えるが、そなた自身の戦い方を見定めることがまだできておらぬようだな」
「あ、はい……」
軽くタオルで汗を拭きつつしていると、教練室で分校長が語りかけてきた。
「相手の一挙手一投足を全て見極め、それに対する最適解を編み出す。それがそなたの戦い方であろうが、それだけでは太刀打ちできぬ限界がやってくるだろう」
「……。その通りですね。何ならその限界、結構感じていたりもしてます」
分校長の言葉はものすごく的を得ていた。
こんな短期間に二度も化け物と対峙する機会があったので、気づかないほうがおかしいものだろう。この戦い方じゃあ、戦う相手が格上で、最初から本気を出していたならば、文字通り瞬殺されるだろう。
「どうやらはやくも私やシュバルツァーの気の開放の仕方を習得したようだが、それ程度では補えぬほどのものだろうな」
「…………、なんで知ってんっすか……」
「それくらい、そなたの眼を見ればすぐにでもな」
飛んだ化け物である。
確かにあれ以降、別に気を開放している――偽・神気合一の状態でなくとも、観測できる相手の速度が少し上がってはいる。その、俺自身ですらうっすらとしか実感できない変化を察知するって……。
「まさか、ノクス、神気合一が……?」
「あ、いやその、見ててカッコよかったんで真似してみようかなーって思ってやったらできちゃったというか、なんというか……」
技をパクった使用料でもせしめられるんじゃないかと思って少し慌てる。
「それでできるものなのか……? いや、それよりも、大丈夫だったのか?」
「それについては問題なかったです。多分なんですけど、所詮紛い物なんで不安定とかになる程度にすら達してないとかじゃないんですかね」
「それならいいが……」
少しばかり釈然としないような顔のリィン教官。どうか著作権のことは思い出さないでくれたまえ……! いや、技に著作権があるかどうかは知らんが。
「師たる者として、ここは何かしらの道を示すことが通例だろうが、だがそなたの実力はすでにある程度完成されているもの。剣ならば武とは何かを知る術もまだあるだろうが、その特殊な双銃剣の道を極めた人物も居なかろう」
確かに世には双銃剣使いはかなりいるだろうけど、虚のように二つを組み合わせたりする前提で戦う武器を持っているのは俺くらいなものだろうというのはその通りだ。虚を手に入れて以来、俺の戦い方はほぼ全部我流で、師匠という感じの人物はいない。
「故に、そなたは自らの武の道を切り開くと良いかもしれん。武は遥か高み、地図なしに進むは至難だが、そなたならば不可能ではなかろう」
「武の道を切り開く……?」
どういう意味だろうか。
「教官の八葉一刀や分校長のヴァンダール、アルゼイドのような流派を自分で作れってことですか……?」
いくらなんでも無理だろ……。だからと言って今更武器を変えてってのもなぁ……。
――アタシ以外の武器を使おうっていうの!?
(いや、使わねぇよ。……てか、使えそうにもねぇけどな)
あまりにも虚が手に馴染みすぎているのもあるのだ。
「それがそなたの出した答えならば、それがよかろう」
「うーん、実感が湧かないですね……」
<選べ>
【実感を得るためにオーレリアの胸を揉む】
【実感を得るために後でライカのパンツの色を訊ねる】
なんの実感を得にいってんだ!?!? 俺がいってる実感ってのは、自分で流派作れそうにないって話であって! あのバインバインの中に詰まってる夢の話じゃねぇんだよ!!! あの分校長を相手によくそんな発想できるな!
仕方なく下を選ぶ。すまん、ライカ。お前があんまりパンツの色にこだわりを持ってないのを利用するようで心の底から申し訳なく思うけど、それでも気にならないわけじゃないんだ……。
「いずれにせよ、悩み考えることだな。それこそが一歩を進む唯一の方法だろう」
カッコよく言い放つと、分校長は教練室を出て行った。
随分とまたボロボロになってしまった教練室の後片付けをリィン教官としながら、俺は先ほど分校長に言われたことを反芻した。
「武の道ねぇ……」
「難しそうか?」
「はい……。どうもしっくりこないというか……」
「はは、そうだろうな」
軽く笑いながら、リィン教官は続けた。
「特に君にとって道を定めるというのは難しいんじゃないかな?」
「はい。まあ、なんとなくで生きてきた自信があるので、今更何をやるんだ、って話ですけど……」
軽くため息をつきながら応える。
生まれてこの方、流される方へ、流される方へとやっていったのだが、それで困ることはほとんどなかった。時たま選択肢が現れては、それに付き従ってマシな選択をする、そんな適当に生きてきた自覚はある。
俺は……、そうだな――
「俺は、なんだかあんまり意志が強くないんですよ。何かやりたいことを見つけて、それに向かって全力を尽くすみたいな、そんなことが苦手なんです、きっと」
「……」
この士官学院に来たのも、なんならクロスベルから離れたのも、全部選択肢のせいであり、おかげだ。
「だから、こんな俺が何か目標というものを見つけて、道を作り上げるなんて、全く想像がつかなくて」
「……」
「なんで、ここは分校長の言ってた話とはずれるんですが、どこかの町道場にでも――」
「いや、そんなことはないんじゃないか?」
と、話している俺を遮って、リィン教官は語りかけた。
「きみは自分が意志が強くないと言っていたけど、先日俺から”正しい選択をするように”と言われて、自ら軍紀を破り、あの場へと駆けつけたんだろ?」
「それは、……あくまでそうすることが最善だったからで」
「それに、分校長相手に覚悟を示すと言っていたのは君自信だ」
「……、あれはああするしかなかったからで……」
「そもそも、VII組に所属すると言った君の言葉は、嘘ではないはずだ」
「あの言葉も、完全に自分の意志かというと……そうじゃないんです……」
「確かにきみに先ほどの選択をさせた外的な理由というのはあるかもしれない。けど、きみ自身が選んだ理由に、きみの意志が必ずあるはずだ」
俺の意志……。
悩む俺の姿を確認し、
「まあ、俺や分校長だけではなく、もっといろいろな人に話を聞いてみた方がいいかもしれないな」
そういうと、リィン教官は教練室から出ていった。
・・・・・・
「こないだは、VII組の面々の意思を通して、リィン教官が窮地に陥らないようにするためで、分校長と戦ったのはそれくらいしか選択肢がなかったからなんだよね……」
あの後、部室へ依頼の確認をしに行き、ばったりと出会ったライカに、先ほどの話をした。
本当は自分で考えて答えを出すべきなのだろうけど、ここは俺らしく他人に頼るわけじゃないが、他人の意見を聞いていこうと思った。
「やっぱり、俺には無理だと思ってしまうんだけど……」
「いや、そんなことはないと思うぞ」
だけどライカは俺の嘆くような言葉を否定した。
「なぁ、ノクス。あの時、お前はなんでオレたちの意思を通し、リィン教官の窮地を救おうとしたんだ?」
「え……?」
「お前が自分で言った通り、合理的な選択を選んだにすぎないなら、最も合理的だった軍紀を守るという選択をしなかった理由はなんだ?」
「……、それは、悔しそうにしているクラスメイトを放って置けなくて……、万が一リィン教官が危険な状態になってはいけないと……」
「非合理なのに?」
非合理……。
いや、合理的な選択肢を選び続けたつもりではなかったが……、少なくとも俺は”マシ”な選択肢を選び続けてきたわけではなかったのだろう。
「だけど、それはさ、俺がこれまで見てきた人の真似だったりにすぎないかもしれないんじゃない? いい意味でも悪い意味でも、クロスベルでやってた仕事のライバルは遊撃士と特務支援課っていう遊撃士のような奴らだったし」
「だったら、それはもうお前が真似た奴らの意思じゃなく、お前のものだよ。ノクスの志した意思ってやつだ」
俺の志した意思。
金と赤の髪を揺らしながらライカは続けた。
「誰だって最初は模倣するもんだよ。いろんな人間と出会って、そいつらからいい影響だろうが悪い影響だろうが受けて、自分が真似したいものを真似して、それで人ってのが出来上がるんだよ」
「……ああ」
「だから、お前は自分で目指したい奴らの真似をして、お前自身を作り上げて行ったんだ。聞くところによればクロスベルの旧市街にいたらしいじゃないか。お世辞にも治安のいいと言えない場所に住んでて、グレてないだけでなく、他人を助ける仕事をしたのは、ノクス自身の意思だろ」
「…………、そうだな」
思えば、便利屋を始めたのは、俺にしては珍しく選択肢の強制ではなかった。
日銭を稼ぐためとはいえ、遊撃士の真似事をしたのは、おそらく俺があいつらを見てああなりたいなと思って、だけど遊撃士になるには年齢制限があって門前払いを食らって……。悔しくて……。
「ありがとう」
「こんなので助けになるなら、いつでも相談に乗ってやるよ」
心強い限りで、こんな友人を持って幸せだという気分である。
おかげで、まだまだ実感はつかめていないが、少なくとも自分の道というものを始められそうな気がする。
「それと、溜まってた依頼も片付けておいたから、いつもの棚に終わった依頼書をまとめといたぞ」
「ああ、そっちもありがとな。って、相当量あったろ? 頑張ってくれるのは嬉しいけど、無理するなよ?」
「ああ、無理はしてないさ。たまたま手早く済ませられただけで、このペースで依頼が来るってんならオレらだけじゃ手に負えないぞ」
「それについては当面の間は学院にいる人で、時間がありそうな奴らに声かけて手伝ってもらうしかないかもな。新しく出した依頼書のチラシではある程度値上げしたし、それが広まったら少し落ち着いてくるだろう」
それまでの辛抱だ。
幸い学業に影響が出るほどのことにはなっていない。ただ、部活に時間を割かれすぎてユウナやライカの自由時間が減るのは避けたい。
「……って、そう言えばユウナはどうしたんだ?」
「ああ、ユウナならテニス部からの依頼で、練習の手伝いをしてた。多分今頃備品の片付けでもして、もしかしたら帰り道に部室に寄るかもな」
「ああ、そうだったのか」
ユウナが便利部じゃなかったら行ってたであろう部活である。興味があっただろうし、いい息抜きになってくれればいいのだが。
「先ほどの話だけど、ちょっとお願いしたいことがあるんだ」
「なんだ? オレにできることならなんでも言ってくれ」
「やっぱり、自分一人で流派を作るってのは難しそうだから、一緒に作り上げてくれないか?」
頭を下げてお願いする。
これでライカの時間をかなり食ってしまうことになるだけに、申し訳ない気分もある。
だが、ライカは、
「なんだ、そんなことか。いいぞ」
男勝りな笑顔で、ライカは朗らかに答えてくれた。
「いいのか……?」
「ちょうど使う武器を選ぶのに困ってたんだ。昔と違ってステゴロをやっていくのも厳しそうだったから、ちょうどいいじゃねえか。双銃剣、実はちょっとかっこいいと思ってたところだ」
「そうか……」
ライカがいれば千人力だろう。それに、せっかくかっこいいと思ってもらった双銃剣のカッコ悪いところを見せるわけにもいかないし。
早速クロスベルにあるあの工房に連絡をしないといけないなと思い、
「双銃剣のスペア、後で俺で取り寄せとくよ。とびっきりいいのお願いするから期待してくれていいぜ。それと――」
ついでに俺の口が勝手に動き出した。
「今日のパンツ何色なんだ?」
「ああ、お前が興味あると思って覚えておいた。今日は黄緑だ」
「おう、そうか。黄緑か……」
というわけで、よくわからないが素直にパンツの色を答えたライカ。……ほう、黄緑なのか……。………………って! いや! 何俺も感心してんだよ!!
よし、こういう時は波風立たせず別の話題にスムーズに――
「ただいま――って、なんの話をしてたの?」
「あっ!」
タイミング悪くユウナがテニス部の手伝いから帰ってきており、素早く話を誤魔化そうと言い訳を考えるより早く、
「何って、オレのパンツの色だが……」
「ノ・ク・ス!」
ライカがストレートにあったことを説明してしまい……。
俺はそのあと、小一時間説教されることとなった。
・・・・・・
<選べ>
【やっと辿り着いたぞ、ここが風呂だ! と叫ぶ】
【動くな、俺は今裸だ! と叫ぶ】
風呂に入っただけというのに、こんな仕打ちである。というか、どっちも当たり前じゃ。ここを風呂と認識できないほど耄碌もしてないし、裸じゃないのに風呂に来るわけがない。後者については、湯着ってのもあるが、男風呂にわざわざ着ていくこともないだろう。
まあ、珍しく夕食後の時間に誰も入ってないので、叫んだところで恥にはならないが……。
え、どっちを選んだかって? 誰もいないからってより恥ずかしい方を選ぶわけないじゃん。
「やっと辿り着いたぞ、ここが風呂だ!」
だが、予想に反して、
「……、このセリフと声は……ノクスさんですね」
壁の向こうからアルの声がした。
声で判別されるのはいいとして、わけわからないセリフを言うのが俺っていうのはやめて欲しかった。
その後、体を洗い、風呂にザッブーンと飛び込んで、おそらくすでに風呂を楽しんでいたであろうアルと喋ることにした。
「飛び込んだ水飛沫音がこちらにまで聞こえましたよ。こう言ったところでは静かに入るのが習わしではないでしょうか?」
「いいじゃん、今は俺しかいないし」
「それでもどうかとは思いますが……」
まあ、細かいこたぁいいじゃねぇか! 誰もいないでかい風呂に入ったら泳ぎたくなるの、誰しもがわかると思うんです!
「我ら、機甲兵へたくそ連盟、何か進展はあったかアル連盟員?」
「……、その名前今だに慣れないですが……。何か進展があったかと言えば、残念ながらあまりないというのが答えになります」
「そうかー」
特別演習以降、機甲兵教練の日までになんとか怪我を直しきり、機構兵に乗るのに挑戦したけど、正直なところ大きな進歩は見られなかった。
虚自身がうっかりこぼしてたが、どうやら虚がその原因の一端にあるらしく、その後どうすれば運用できるようになるか相談してみたはいいものの、”あんなの使わなくてもいいでしょ!”だの、”アタシもわかんないわよ!”だの、”そんなにいうなら、アタシに機甲兵の中央処理をさせなさいよ!”だのと、とりつく島もなければ、解決法もわからない。最後に関しては、もはや機甲兵を私物化でもしないと無理な話なのだ。
「ノクスさんはやっと基礎操縦をクリアしたみたいですね」
「ああ、放課後にちょっと時間作ってもらって動かしてた時にクリアしたんだけど、ありゃダメだ……」
「ダメ、とは……?」
「多分だけど、あの操縦の仕方ってのは機甲兵の操縦で想定されないやり方だよ。なんていうか、まともに歩かせようとするとこけるものだから、逆転の発想でこけさせようとして何回か試したらたまたまうまく行っただけ」
「それでは……」
「戦闘訓練なんて無理中の無理だわな」
転けまくってる気分で歩かせながら、自刃してる気分で相手に襲いかかるとか、不可能にも程があるだろう。
「アルの方はあまり進展なかったっていうけど、ちょっとはあったってことだろ? 些細なことでも教えてくれないか?」
「……ええ。気のせい程度のものかもしれないですが、クラウ=ソラスに機甲兵との同調を試してもらったところ、少しだけですが操縦がしやすくなったような気がします」
「同調かぁ……」
虚なら”なんでそんなことをしないといけないわけ!?”とかって文句を言いつつも、”しょうがないわね、今回だけよ!”と対応してはくれそうな気はするが。
「そうか。参考にさせてもらうぜ。ありがとな」
「はい、ノクスさんも頑張ってください」
『も』頑張ってください、かぁ。
アルは確かに他人と比べてあまり感情の起伏が薄いようには感じるが、頑張る理由があって、実際に頑張っているのだろうなぁ。入学当初からなんとなく親近感みたいなものを感じていたけど、こうしてみるとアルの方が何歩も俺の先に行っているようで……。
「アルは俺の先輩だなぁ……」
「え?」
「あ、すまん。口に出てたか」
選択肢のせいでもないのに、うっかり口を滑らすとは、湯船の魔力凄まじい……!
「……私自身が言うのもなんですが、外見年齢的に私がノクスさんの先輩というのは無理な話があるような……」
「あー、いや、そういう意味じゃなくてだな。アルって何かやりたいことがあって、それに向かって頑張れるすげーやつで、見習いたいなって思ってな」
「……? どういう意味なのか分かりかねますが……」
「まあ、分かっても仕方ないものだし、俺が勝手にアルみたいになれるように目指そうってだけだよ」
「……よく分かりませんが、……なんだか少し誇らしい? 気分ですね」
「うんうん、アルは誇っていいぞ〜」
俺も遅れを取ってはダメだなぁ。
その後、風呂から上がったアルにコーヒー牛乳を奢って、その場は解散となった。
最初でこそなんでコーヒー牛乳? と頭を傾げていたアルだったが、黙って飲んでもらうとその素晴らしさに気づいてもらえたようだった。1ヶ月分のコーヒー牛乳を餌に便利部の手伝いに来てもらうよう交渉するのも悪くないなと思える程には喜んでくれていた。
・・・・・・
「ほう、不審者の捜索とな……?」
夜、寮でくつろぎながら雑誌を読んでいたところ、先日の依頼の件についてミュゼが話しかけてきた。
「はい、わたくしが前所属していたアストライア女学院に通っている生徒からの話で、帝都周辺に近日、どうも挙動不審で見かけない人たちが増えているとのことで」
「ふむ。お主が女学院から士官学院へと転入した理由は聞くまい。だが、帝都に不審者とは……」
「……。ええ。本来ならば学院の警備の方や鉄道憲兵隊の方に連絡するのが先決でしょうけど――」
「あえてそうしない理由があるわけだ。言わずともある程度察せられるものだが、答え合わせとして聞かせてもらおう」
「…………。はい。それが、通報するにも確証たる証拠や証言がない状態なのです。なので、便利部の方々なら新たな視点で原因を究明できるのでは、と考えたのです」
あ、さっきからなんでこんな偉そうな口調なのかって? 選択肢のせいですよ。
<選べ>
【やたらと意味深な口調で話す】
【やたらとナンパしてるような口調で話す】
これで上を選んだんだよ。下を選ばなかった理由は? 昔一回こういう選択肢で選んで、酷い目にあったからな。コミュニケーションが不可能になるんだよ……。
「ふむ。表向きはそういうことにしよう。依頼の裏の裏まで読むのが便利部の流儀ゆえ、これ以上貴女が話すこともなし。我らはミュゼ殿の問いに見事答えて進ぜよう」
「…………」
呆れてものも言えてないミュゼ。そりゃそうだ、先ほどから俺自身ですら何を言ってるのか分かってないもん。
「これが最悪を回避する過程の一つになれば最良となろうが、貴女が握りし駒の有用性をまずは表そう」
うわあ、何言ってんだ俺……。最悪を回避とか、駒とか……。
ほら見ろよ、ミュゼの顔があまりにもらしからぬ渋いものになってるぞおい。
「願わくば陽炎となる運命を乗り越えることを……!」
などと、ひとしきり喋りたいことを喋って、俺の体は机に置いてあった依頼書を勝手に取ると、
「真の碁盤と違い、人とは盤上にあろうとも縄墨を書き換えるもの。勝機の勢の変わり目、とくと見ると良い!」
と叫びながら格好良く去っていった。
あっけに取られたミュゼが何も言えなかった……。もう二度と依頼出してくれないかもしれないだろうなぁ……。
何がとくと見るが良い! だよ……。
今更引き返して依頼の詳細を聞き直すのも仕方がないので、依頼書に書かれた女学院の生徒の名前を手がかりになんとか依頼は成し遂げていくしかないだろう。ただどうすれば女学院内の人と連絡を取ればいいのか……。
悩みつつ自室に戻り、明日の自由行動日の予定を考えるのであった。
・・・・・・
あの方は一体どこまで……?
しかしあの様子の変わり様。二重人格の可能性も否定できません……。
どちらの彼であろうとも、こちら側であることは間違いない様ですが……。
そして、彼の果たせる役割が判明するのは明日になるでしょう。
…………。
しかし、なぜでしょうか。
これほどの影響力を持つはずの方の、調べる限りにおける記録で信憑性があるものが――
――2年前のクロスベルの以降のものしかないのは。
主人公「え、差し手? 何それ、美味しいの?」
アンケートの結果ですが、スプリガンもどきが1位になるのはある程度予想がつきましたが、それに続くのが結社でしたか……。私的にはなんとなく猟兵団が似合うんじゃないかなと思ってます。
また、いつも誤字報告いただきありがとうございます!
よかったらお気軽に感想、評価いただけると嬉しいです!
追記
ついに評価バーがフルチャージされました! 超絶嬉しいです! ありがとうございます!
確定させるわけじゃないですが、卒業後のノクスの進路ってどこが一番らしいように見えますか?
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遊撃士
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情報局
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猟兵
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スプリガンもどき
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結社