トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが…… 作:全自動髭剃り
運良く晴れ渡った空の下、俺たちトールズ第二分校の面々は自由行動日という名の休暇を満喫していた。とは言っても、ほとんどの人たちは部活動に専念しているだろうこととは思うが、少なくとも入学した学生のポテンシャルを限界以上にためし続ける講義や、軍隊並みに厳しい教練の時間からの解放という意味では、間違いなく”自由”行動日であった。
流石に便利部の利用料金引き上げから数週間経ったということもあって、入ってくる依頼の数が落ち着いてきたので、便利部所属の面々は今日一日依頼のほとんどない時間を過ごすことになっている。昼と夕方に一度新しい依頼がないかを確認する必要はあるけどね。
そして、ほぼないながらも唯一の依頼があって、それはシュミット博士から来た小要塞での試験である。とはいうものの、便利部向けのものではなく、VII組向けのリィン教官への依頼として来たものだ。
「はぁ……」
少しばかりため息が出る。
いや、別に依頼が面倒とかそういうわけじゃなく、全くもって別の理由である。
それは何かというと、
――まだ転位できないみたいね。
手に握りしめたペンダントはうんともすんとも言わないのだ。
(おはよう、虚。なんか最近よく起きてるな)
――最近、アンタからの霊力の濃度が高いからね。
(そうなのか……。よくわからんけど)
まだエリンの里に行けていないせいで、未だに女子制服を着続けているのだ。
屈辱なことに。
昨日なんか、危うく男女別選択授業で女子側の授業を受けさせられかけた。
なぜか教師陣ですら俺の女子授業受講を後押しした。もちろんだが全力で抵抗した。いや、いくら調理実習で経験者のの助言が必要だからといっても、女子の中に1人だけ立ち入るのは憚られるというか。下手な動きをしようものなら、戦術科の連中に簀巻きにされちまう。
……とは言いつつも、男子の方の電算機の授業がそこまで楽しいものではなかっただけに、女子の方の授業に参加してればよかったなーなんて思わなかったこともなきにしもあらずだ。
「ふぅ……」
すでに着慣れたスカートの端をたくし上げながらため息をつく。実はこの制服、今使われている本校のものとも少し違ったりする。入学式で見たきりではあるが、最新のものはより軍服っぽいデザインで、スカートに至っては色から違う。
今の上着と色が合わせられた赤色のやつより、緑のストライプの方が可愛いと思うんだけどなぁ。いや、別に進んで履きたいわけじゃないが。
……けど、最初に着ていた時からずーっと思っていることなんだが、スカートっていう服装の危険性について警鐘を鳴らすべきだと思う。
いや、何もスカートが扇情的なので規制せよとか、そういった古めかしい考えをしているわけじゃなくて、せめてもう少しだけ丈を伸ばしたデザインにすべきではないかという理性的な提案である。というのも、履いているだけで不安になるようなスースーとした感覚を少しでいいから抑えようとボクサーパンツを下着としてつけていたのだが、歩いただけで下着が見えるというみっともない状況になってしまったのである。
ゆえに、スカートに適した下着を探しにナインヴァリに出かけ、そこでブリーフでも探そうとした俺の行動は誰も責められるものではなかったと思うが、その結果、私に任せとけとばかりに選択肢が現れたのである。
<選べ>
【郷に入れば郷に従え、だ。スカートの下にブリーフを履くくらいなら、ここは女性用下着を買おう】
【こういう時は経験者の知恵が重要だ。ランダムにVII組女子から実用的な下着を貸してもらおう】
理性的な俺は、理性的だと思われる選択をした。
え? どっちの選択肢が理性的だって?
級友に殺害されない方が理性的だと俺は思ってるよ。
その結果、ナインヴァリに行くたびにジンゴが汚物を見るような目で見てくるようになった。
まあ、そんなこともあって、俺の下半身は無敵状態だ。誰にも負けないぞ。(?)
「よっす、クルト。毎日欠かさず稽古しててすごいな」
と、軽く朝食を済ましたのちにクルトに挨拶しに教練室に行くと、いつもの如くいい汗をかいたイケメンがいた。
「毎日わざわざ挨拶に来るノクスちゃんもなかなかの勤勉さだけどな」
「ちゃん付けすんな。……なんか癖になってんだよ。俺の一日はクルトへの挨拶から始まる、みたいな感じで」
「朝から絶妙に不埒な言葉ですね」
話していると、アルも教練室に入ってきた。
「あ、おはようアル」「おはよう」「おはようございます」と、3人して律儀に挨拶をしあう。
「その女子制服、まだ続けていたのですね」
俺の意思じゃねえけどな……。
<選べ>
【どう? 似合ってる?】
【アルティナの着ているタイツを借りられないか直訴する】
下の方、度し難い変態行為じゃねえかよ! 直訴しないよ???? かと言って上の方も上の方で、俺が自ら進んで女装してるような感じになるじゃねえか!
「どう? 似合ってる?」
「…………? 女子制服は急場凌ぎのためと聞いていましたが……」
「あ、いや! 制服を綺麗に着こなすのも士官学院の生徒としての責務だから、ここは制服ベテランのアルに意見を伺おうと……」
「ベテラン……というほどでもないのですが……。強いて言えば、なぜノクスさんはこれほどにまで違和感なく着こなせているのか、理解に苦しむ程度です」
「あ、ああー。それはよかったー」
女子制服が違和感なかったのはよかったのかは分からないけど、変態認定から逃れられたのはよかった。
「普段の制服を置き忘れた、と言ったか? 結局どこに忘れたんだ?」
クルトの質問にエリンの里などと言うわけにもいかず。
「……イストミア大森林」
「……?」
何言ってんだこいつという顔で俺を覗き込むアル。事実なんだからしょうがないだろ……。
「……何か事情があるのだな」
なんかよく分からないけど察してくれたクルト。やっぱ男同士、話をわかってくれる。
「さっぱり分からんが」
「分かんないのかい!」
「だが、話を聞くに、制服をなくした次の登校日に女子制服で学校に来たのは、自らの意思ではなかったのか?」
「え、あ……、そ、それは……」
そこを突かれると弱る。
俺にしては選択肢によらない奇行なのだ。我ながら何で……。
「少しの間私服で登校するように申請をすればよかったにも関わらず、わざわざ本校の女子制服を手に入れて……。そこはかとなく不埒な事情が察されます。……その制服の入手経路を考えると、下手すれば法的措置を執らなければならないレベルの不埒な行為を……」
「い、いや! これは知り合いの人が譲ってくれたのであって!」
ロゼたんとリィン教官の共通の知り合いの人である。ロゼたんの住処に制服が置いてあるってことは、ロゼたんとかなり親密な関係の人なのだろうけど、残念ながら俺にはこの制服の元々の持ち主の顔を見たことがないどころか、名前すら知らない。
ただ、どこが、とは明言しないが、非常に逞しい方だったことだけはわかる。興味本位でタオルを詰め込んでみたところ、非常に綺麗にフィットしたのだ。
「いくら制服だからと言って……」
「うん、確かに。着ていこうと思った自分をぶん殴りたい」
「覆水盆に返らず、ですね」
その通りである。
いや、制服を取り返せば問題なくなるけどね。
「っと、そうだ。アル、先日の便利部の助力、マジで助かった。本当にありがとな」
「適切な報酬をいただきましたし、もう何度も感謝は伝えていただいたので、気にしないでください」
先週の自由行動日に、アルに助っ人として依頼を手伝ってもらったのだ。
最初でこそ簡単な依頼をお願いしていたのだが、色々と回り回って面倒な依頼を頼んでしまっていた感じになってしまった話だ。詳しくはまたの機会に話そう。
そんなことがあったものだから、ある程度はアルとの仲も深まった気がする。……とんでもない勘違いをされたままなのだけど、まあそこはおいおい解消していこう。
「用事ではなかったら、僕も手伝おうかと思っていたが……」
「実家の方の用事だろ? しょうがないよ。あ、もし小金が欲しいとかってなったら遠慮なく言ってくれよな。クルトならいつでも歓迎だぜ」
「そう言ってもらえるなら嬉しい」
などと談笑しつつ、あと二人の合流を待つ。
例のシュミット博士の用事で、VII組のみんなで小要塞に向かうことになっているのだ。
・・・・・・
蓋を開ければ大した依頼ではなく、ただただ小要塞内部の攻略だけであったのだが、入学式の時に比べて内部構造が複雑になって、出現する魔獣がちょっとだけ手強くなったというものだった。
最後の最後にシュミット博士が作ったとかいう自律駆動兵器を相手にすることになったのだが、ティータのラジオによる適切なサポートもあって、たいして苦戦せずに倒すことができた。
というか、人形兵器というものと、俺の武器の相性が良すぎるってのもある。対戦車砲とかそう言ったものを除いて、ゼムリア大陸を探しても大型魔獣や人形兵器を主ターゲットとした導力銃なんて、俺とライカくらいしか持ってないだろう。エネルギーをチャージすることによって、通常の導力銃の出せる威力ではない弾丸を発射するのだ。一人で戦ったならば時間稼ぎに手こずるかもしれないが、VII組には優秀な前衛が何人もいるので、苦戦する方が難しいかもしれない。
小要塞から離れる際、入れ違いで赤い制服の人が入っていくのを遠目で見たのだが、誰だったのだろうか。
女子制服ではなく、ちゃんとした最新のトールズ本校の制服だったし、本校からシュミット博士に抗議デモ受けにきた人なのだろうか。だとすれば相当勤勉な人なんだろうな。
・・・・・・
あのあと、すでにコンタクトをとっていたミュゼの所属する茶道部に顔を出す。部活の荷物運びで手伝った時の約束、かつ、選択肢の清算である。
どうやら俺がくるとのことで、ミュゼは1人で部室で待っていた。
「こんにちは、ノクスさん」
「おっす、お邪魔しまーす」
すでに桃色の和装に身を包んでいる彼女の向かいに座る。
ついでに来るまでの間に作っておいた茶菓子を取り出しておく。
「あら、それは……?」
「ロールケーキ。もっと東方風な菓子を用意できればよかったけど、あいにくスイーツは作り始めたのは最近で、レパートリーがまだないんだ。すまんな」
「いえいえ! お心使いありがとうございます! それに、茶道だからといって、特定のお菓子のみを楽しむものでもありませんよ。穏やかな心でお客人をもてなすことに意義があるのです」
「おお、そうか。いやー、なんか色々作法とかがありそうでドキドキしてたけど、ちょっと気が楽になったよー」
伝手聞きレベルの話だが、正座をして数えきれない数の礼をして、数十分待ってやっと茶にありつけるなんてものだと思ってただけに、ロールケーキを出した日には鞭打ちの刑に処されるかと思ってた。
……じゃあ何で持ってきたかって? 金欠で、お嬢様に出せるほどの土産なんて用意できんかったからや。悪いか?
「確かに流派や作法などいろいろあるのですが、お茶を楽しむことが大事ですから、最初のうちはあまり作法とか気になさらずに、日々の疲れを癒しながら、自然体でこの場を楽しみましょう?」
「そう言ってもらえるとありがたい」
自然体で、かぁ。
士官学院入って以降忙しい毎日に追われ、1人だけの静かな時間すらほぼほぼ取ることができていないのだ。
幸い入学すること自体がイレギュラーだったがために、本来は相部屋になるはずの寮生活は、1人部屋割り当てになったのだが、寝る時間以外で部屋にいることもないので、そういうプライベートというか、冷静になれる場所が欲しいとは常々思っていたのだ。
「はい。ノクスさんにとっては、とてつもなく忙しい一か月でしたでしょうから」
「気遣いありがとな」
<選べ>
【せっかくなので生まれたままの自然体になる】
【自然とクラウチングスタート姿勢となる】
これから、俺はせっかくの気遣いをフイにするどころか、踏みにじんで泥を投げかけることになるんだけどね。ごめんね。
「……? なぜクラウチングスタートを……?」
「なんとなく! 気にしないで、これが俺なりの自然体だから」
「えーと、……ユニークですね?」
ほら見ろ! なんとかフォローをしようとして失敗して、ミュゼが微妙な表情をしてるじゃねえか!
だからと言っていきなり脱ぐわけにもいかないけど……。
「そ、そうだ。せっかくだしロールケーキさっさと食べてしまおう! 時間がたったらぬるくなってまずくなるし」
「そ、そうですね! では、わたくしはお茶の用意をしますね」
と言いつつ、お互いよくわからない空気で別々のことを始めた。俺が全裸になるよりかは遥かにましな空気であることだと信じたい。
そして、お互いが準備した品が出そろい、少しずつ啜るように出されたお茶を飲みながらしていると、ミュゼは語りかけてきた。
「ロールケーキ、ものすごく美味ですね! こんなにおいしいお菓子が作れるなんて、妬いちゃいます」
「そう言ってもらえるならうれしいぜ」
「やはり、男女選択授業は女子のほうに参加なされたほうがよかったのでは……?」
「命を懸けても遠慮させてもらうよ」
面子的な意味でも、精神衛生上の意味でも。興味はないわけじゃないが。
「あっ、そういえば! 実はちょっとした相談がありまして」
思い出したかのように話すミュゼ。
「相談?」
何だか他人に相談とかする性格じゃないように思ったのだけど、そういうわけでもなかったようだ。
「はい。実は恋の悩み、恋愛相談をお願いしたいところで」
「え? それ、俺にしても仕方なさそうだけど……。自慢じゃないけど、生まれてこの方惚れただの腫れただのには疎いぞ」
「あら、そうなんですか? ノクスさんが適任だと思ったのですけど……」
俺が適任の恋愛相談だ? クロスベルに意中の人でもいるのか、それともVII組のメンバーにその人がいるのか……。便利部を通じてトリスタの人たちとはある程度広く浅くは知り合ってるが、話を通したりはできないだろうし……。
てことは、クルトかリィン教官か……。前者より後者とみた。
「先日、このようなお手紙をいただいたのですが――」
――と、ミュゼが取り出したのは、手紙が入った便箋。ご丁寧にシーリングワックスで封をされている。
……背中から嫌な汗が流れ始めた。
「な、なぁ、ミュゼ。やっぱ俺には恋愛相談は無理だって。ほ、ほら、ユウナとか呼んでくるから、な?」
「うーん、そうですか……。わたくしとしてはどうしてもノクスさんに――」
目を凝らす。
万が一もあるのだ。
万が一、その手紙が選択肢によって俺が送らされたラブレターじゃない可能性もある。
……けどシーリングワックスの印字が俺の持っているやつであることがはっきりとわかってしまう。
……まさか、俺が出したとばれたか!?
けど、跡がつかないように、筆跡も変えたし、らしくもなくわざわざシーリングワックスを買って封をしたのだ。ばれているわけないはずだ。そうに違いない。
「――差出人に相談をしたいと……」
ばれてーら。
い、いや、言い訳させてくれ! あれは選択肢の仕業であって……!
……と言うわけにもいかず。
「い、いやー、何のことだかー」
「あら、ノクスさんってば酷い男ですね。淡い乙女心を弄んだ挙句、知らぬふりなんですね」
そ、それを言われると弱っちまう……。
「ご、ごめんなさいでした……。煮るなり焼くなり何なりと……」
座を正して綺麗に東方風土下座を披露する。その誠意といったら全国大会レベルである。流石のミュゼも許さずにはいられまい! ……いや、そういう問題じゃないですね。ほんとすんません……。
「……あははっ。やっぱりですね」
「へ?」
意味深に控えめに笑いながら、ミュゼは続けた。
「いったい誰がこの名前のないラブレターを書いたのか、少し気になったものですから、カマをかけてみたんです」
「あっ! 謀ったな!?」
「とはいえ、このようなイタズラはあまり感心できるものではないですけどね」
「あ……っ。ご、ごめんなさいぃ」
確かにタチの悪い行為ではあった。送ること自体は止めれずとも、送ったその日にでも謝っておけばよかったと反省。
「わたくしだからよかったものの、ほかの女の子には絶対しないでくださいね?」
「はい……」
「でも、なかなか楽しませてもらいました。犯人探しもそうですが、会ってそれほど経たないわたくしの好きなところをたどたどしくも一生懸命書き上げられた文章についてもです」
……。中身もそりゃあ読んでるよなぁ。
まあ、俺がミュゼに抱いてるイメージを全て詰め込んだ文章だからなぁ……。一生懸命書いたのは、選択肢のせいだがな。
「今度、女子会で輪読をしようかと……」
「ミュゼさまぁ!!! どうか、どうかそれだけは……!!」
「うふふ、安心してください。ノクスさんが一線を越えるようなイタズラをしない限りは、公開しませんよ」
「おぉ!! ミュゼさまぁあああ!」
九死に一生を得たり!!
「今はお茶を楽しみましょう。本校からの転校、VII組という特別な環境、便利部活動、そして、分校長や白銀の剣聖との死闘に、先日の帝都での二連続の共和国間諜逮捕――いえ、見逃したのでしたか? これらの事件を乗り越えたヒーローにはふさわしい時間です」
「……いや、あのですね…………」
帝都での依頼は確かにあった。片方はミュゼから。もう片方はミュゼと関係ない筋から。
そして、それらの詳しい顛末についてはミュゼには伝えていない。依頼のほうについては間諜などの話はそれとなくごまかし、もう片方――アルと一緒に解決した方については話題に挙げたこともない。
このふわ髪のおっとり風の女の子は、どうやら俺に心休まる時間を過ごしてほしいと心から思ってるわけではなさそうだった。
「もうこの際、何で知ってるかって聞くのも野暮じゃねえか……」
「うふふ」
「意味深に笑いやがって……」
柔らかそうな笑みを浮かべているミュゼの顔を見つめながら……。
「で、俺の行動はお眼鏡に叶いましたか、ミルディーヌ公女殿?」
意趣返しとばかりに、この1週間のうちに手に入れた情報を見せつけてやることにした。
……とはいうものの、きっかけを掴んで少し調べればすぐにでも結論に辿り着けるレベルの事実だったが。
「あら? どなたのことでしょうか?」
「ミュゼだよ……。ったく、他人の身の上事情を調べるのは趣味じゃねえけど、依頼人の身元情報は調べ上げることにしてるんだよ。それを怠って酷い目にあったことがあるからなぁ」
懐からいつぞや渡された依頼書の入った封筒を取り出す。
ミュゼが学校から離れたり、学校自体がダメになった時に開けと言われているものだ。
「安心しろ。広めたりしないし、名前以上のことを詮索はしないよ」
というか、これ以上調べ上げるのは憚られた。いや、もうすでに調べた内容から、とてつもないものの片鱗が見え隠れしてたけど。
具体的には第二分校を設立する時の金の動きとか、分校長の就任理由とか、おそらくだが内戦時からの話とかな。
蛇が出るのが怖いので、これ以上は藪を突かない。
<選べ>
【せっかくだから脅しをかけてみる】
【鹿おどしになる】
ならねえよ! あっちは無機物じゃ!!
「これ以上調べられたくなかったり、隠してる秘密をバラされたくなかったら、わかってるだろ……な?」
先ほどと違って、急に方向転換したことを言い出す俺。
下衆だよおお! とてつもなく下衆だよおおお!!
んなことするわけないって、な? 俺の澄んだ瞳を見ろ。とても人を脅すような奴じゃないだろ?
「しくしく……。こうなってしまってはか弱き乙女であるわたくしにはどうすることも……」
「ぐへへへへ」
「どうかそのような猛る熱情を少しお押さえになって、せめて、せめてやさしく……」
「って! するわけないだろ!!!」
やっと体の自由が戻った。
「あら、そうでしたか? いざとなればユウナさんや――」
「やめてくれ……! ガチで逮捕されるわ!」
「――分校長に」
「俺を血煙にする気か!」
来年が俺の一回忌になるわ!
「あはは……。やはり、ノクスさんは面白い人ですね」
「へ? 何だよ、藪から棒に」
「二重人格なのかとも思ったのですが、どうやらそうではないようですね」
俺ってばそう思われてたのか……。
呆ける俺に対してミュゼは続けた。
「その場その場で何をしてはいけないか、そういった行為を思い浮かんでしまうと我慢できないのですね?」
「え? ……あー」
確かに,外から見るとそういう評価になるか。
選択肢が突きつけてくる選択ってのは、大体空気を読まずにその場に最も相応しくない行動を俺に強いてくる感じだからなぁ。
まあ、俺がそこら辺のタガがすぐ外れてしまう人に見えるのも不思議ではないかも。
「でも、それをきっかけにして、ノクスさんは困難を乗り越え、人脈を広げてきたのでしょうね」
「……?」
まあ、選択肢という苦難との付き合いはしてきたが、この選択肢をプラスに捉えたことは人生で一回もないぞ?
<選べ>
【選択肢のことを受け入れたのちに、この場に相応しくない行動をとる】
【選択肢から解放される代わりに、人間として最も相応しくない行動をとる】
何だよそれ、怖えよ!! 人間として相応しくない行動って何だよ……。“最も”ときてるし、穏やかじゃねえなぁ……。何だ、大虐殺でも起こせってのかよ……。
はいはい、わかったわかった。選択肢様は俺の人生のパートナーですよー。
「話の腰を折るようで悪いけど、火急の用だ。ミュゼのパンツを貸してくれないか? 最近スカートを履き始めたばかりだから、経験者の見本が欲しい」
「あら、そうでしたか。女子制服で登校なされたときに気を利かせておくべきでした。ちょうど今ならば手元にあるので少々お待ちを」
「いや、いらないから! 俺から言い出してごめんだけど、いらないですごめんなさい!!!」
「ちょうど着替えた後だったので、わたくしの脱ぎたてをお試しいただけるかと……」
「着れるか!? 俺をどんだけ変態だと思ってんだよ!?」
同級生の下着を欲しておいて、我ながら酷い矛盾である。
けど許してほしい、これは俺の意思ではない!
それにサイズとか無理だろう。俺一応男だぞ。女装してるけど。
「まあ、それは残念ですわ。この前女性用下着を購入した姿を見たので、喜んでいただけると思ったのですが……」
「喜ぶか! って、え!? 何で知ってんの!?!?」
「あら、そんなこともなされたのですね」
「カマかけたのか!? はめられたあああ!!」
「ほとんど自業自得でしょうけど」
ごもっともだ。
てか、さっきは軽くスルーしてたけど、何で脱ぎたての下着が手元にあるんだ……? 着替えるだけなら下着を脱ぐ必要など……。
――いや、早まるな俺。俺の記憶媒体の記録によれば、和装では下着をつけないことがあると聞いたことがある。特に本場ならば、下着をつけないのがマナーという噂話も耳にしたことがないわけではない。
まさか――!
「けど、よかったです。時たまおかしな行為をしても、ノクスさんが裏表のない、まっすぐで正直な人のようで」
「え? あ、ああ。そかそか」
その下には――!!
「最初は皇太子殿下を抑えてトールズの首席を取った方がどうして第二分校に来たのかと不思議でした。そして、失礼ながらとある伝手から、ノクスさんの入学式での演説を教えていただきました」
桃源郷が、桃源郷がここにあったぞぉ!!!!
「わたくしと同じ結論にたどり着いた、ノクスさんとでしたら同志として――って、どうなされました? お顔が赤いような」
「私用であるゆえ、気にせず続けたまえ」
「は、はぁ……。 ……? えーと、ノクスさんには、帝国の暗雲を凪ぐ、一陣の旋風になって欲しいのです」
――って、あれ!? は、鼻血が出ていますよ!
――だ、大丈夫じゃないでしょう! 止まることを知らずに流れていますよ! トワ教官を呼んでくるので、このティッシュで押さえておいてください!
そうか、彼女は、履いていないのか……。
・・・・・・
うん。こっちの首尾は上々。
一応団との話もつけておいた。そうね、結局こっちもこっちで忙しいから、私個人しか動けないけど。
あ、そうそう。彼に無茶させるときは教えてね。うん、……うん。帝都のあれも見てて楽しかったしね。
そうね。流石に危なかったら助けるよ。それは別に契約しなくてもやるから、安心して。
はいはーい。早ければクロスベルの実習、遅ければトリスタの講義でね。
いつもご感想、誤字訂正ありがとうございます!!
セドリック殿下は顔見せ程度で終わりました。次話でメインを張る予定です。そして予定は未定です。
ロゼたんルートって実は一番修羅ではないかと思ってたり。
そろそろクロスベルへの実習ですが、少し長くなるかもです。ノクスくんがクロスベルでやらかしてき続けてきた実情が、ことごとくノクスくんに帰ってくる感じになります。
もしかしたら零碧時点でのクロスベルでの話を独立させて書く可能性もあります。
追記
もちろんですが、別にタイトルを陣の軌跡に変えるわけではありません! 軌跡的に言えば、ノクスくんの役割は、帝国の闇とはまたちょっと違うところにあるので……。
選択肢に人格は宿ってる? 想定はいたずら好きなメスガキですが……、オリキャラをこれ以上増やしてもいいものかと……
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宿ってる(いつかわからせられる)
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そんなもの不要だ
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別の人格を用意しろ