トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが…… 作:全自動髭剃り
入学式
「これよりトールズ士官学院第2分校の入学式を執り行う!」
パツキンのおっさんが声を張りあげる。
ヒリヒリ痛い頬をさすられる雰囲気でもないので、それっぽい神妙な面持ちで直立する。
「略式のため、式辞・答辞省略! クラス分けの発表をする!」
えぇ……。
いや、確かに校長のお言葉とかいう催眠音波攻撃に遭わないで済むのは気楽でいいんだけど、省略しすぎでしょう……。
それからは次々に所属クラスが発表されていく。本校がIからVI組まで存在してて、分校はVIIからIX組まで割り当てられているらしい。
対してやることもないので、教師陣を軽く見回す。
栗毛の小動物みたいな女性教諭に、見間違いじゃなければ内戦の英雄って呼ばれてる人――リィンなんとかだっけ?と、銀髪の佇まいからして大物感がパナイ人に、プレイボーイそうな雰囲気が溢れる赤毛の人。あ、赤毛の教官に目が合った。俺の顔を見るなり、俯き出す。おい、笑ってんじゃねえぞ!
ひとしきりクラス発表をして気が済んだのか、パツキンの教官――ミハイル少佐は分校長に「お言葉がある!」つって何もかもを投げて後ろに下がった。
「第2の分校長となったオーレリア・ルグィンである。外国人もいるゆえ、この名を知るもの、知らぬものはそれぞれだろうが、一つだけしかと言えることがある」
オーレリア・ルグィンってあれか、ラマールシュウの伯爵けの当主で、ヴァンダール・アルゼイドの二大流派から免許皆伝をもらったいける伝説とか言われてる、種族分類がバーサーカーのあの人か。帝国にいればその伝説を聞かないことはないくらいの有名人がなんでこんなところの分校長なんてしてんだろう?
「薄々気づいている通り、この第2分校は”捨て石”だ」
わーお、どストレートに言っちゃったよ……。
まあ、入学者数が本校の5分の1なんてなれば、その通りだわな。
の割には、見える校舎自体結構立派に見えるけどな。
分校長の物言いに教官陣もざわめき出す。
「本年度から皇太子を迎え、徹底改革される《トールズ本校》。そこで受け入れられない厄介者や曰く付きをまとめて使い潰すためのな」
厄介者ねぇ。
誰のことやら。
「そなたらも、そして私を含めた教官陣も同じであろう」
へー。帝国内もめんどくさいことになってそうだなぁ。
直接的な言葉にざわつく一同。
まあ、確かに戦争がなければ英雄なんざ用済みだろうが、つっても帝国の外交を考えれば戦争へとまっしぐらしてるように感じられるんだがなぁ。
「だが、常在戦場という言葉がある。平時で絵型基礎の気風を学ぶには絶好の場所であるとも言えるだろう。自らを高める覚悟なきものは今、この場で去れ。――教練中に気を緩ませ、女神の元へ行きたくなければな」
<選べ>
【マジでこの場を去ってみちゃう】
【分校長を決死の覚悟で睨みつける】
な・に・が、マジでこの場を去ってみちゃうだよおおおおおお!!!
空気を読め、空気を!
いや、でもこれで士官学院に行かずに済むなら……それも一考の余地ありか?
止まったままの、済ました顔のオーレリア分校長を選択肢の強制力ではなく、自らの意志で睨みつけながら考えてみる。
この時期じゃなければよかったんだ。数年前から内戦が起きたり、クロスベルをめぐって共和国と小競り合いを起こしてたり、リベール国境に軍隊を貼り付けたりと、色々とやべえことを繰り返してるこんな時代じゃなければ、士官学院は由緒ある学舎で、そこを卒業すればエリート街道まっしぐらなものだけど、こんな時代なものだから、卒業とともにいきなり軍に配属されて最前線に駆り出されかねない。
最前線に駆り出された挙句に奇天烈選択肢が重なれば、命が危ういことこの上ないのだ。我が身が惜しい俺は、たとえ恥をかいてでも、この場をさるべきではないのか。
うーん。
いや、やっぱりだめだ。
いくらなんでも、
『あいつ士官学院入学式前に同級生のパンツの色を聞いた挙句に、入学式中に怖気付いて逃げ出したぞ』
なんて裏で噂でもされたら、耐えられん。
流石にその末代にまで続くような恥をかくわけには行かない。
「ふふ――ならばようこそ、第2分校へ!『若者よ、世の礎たれ』かのドライケルス帝の言葉を持って、諸君を歓迎させてもらおう!」
というわけで、一度それぞれのクラスの担任に連れられるような形でその場は解散となった。
自然とその場に残ることになる4名の生徒と、数人の教官。4人ともクラス分け発表で名前を呼ばれなかった人であり、VII組の発表がなかったものだから、おそらくそこ配属になる人たちだろう。
その中に、今朝出会ったピンクポニテの女の子がいた。
あれ以降一向に俺と目を合わせたがらない。なんでだろう。
というか、今は俺から目を合わせられないけど。
「そなたら4名の所属は《VII組・特務科》担当教官はリィン・シュバルツァーとなる」
などと分校長は説明をしてくれた。
少数精鋭クラスなのかと思ったけど、VIII組が戦術、IX組が主計を専攻しているらしいし、本来本校に行く予定だったけど爪弾きにされた奴らがVIIに集められたのかな。
虹色とは言わずとも、まともな学園生活を過ごすためにも、まずはユウナに誤解を解いてもらうことから始めないといけないなぁ。いや、誤解じゃないと言えばその通りだけど、仲直りをしなければ4人の中で孤立しかねない。
やがてVII組を連れてリィン教官がアインヘル小要塞へと向かうことで話がまとまり、ミハイル少佐とシュミット博士も一緒に行くこととなった。
「……。ノクス・ハーカナ、私に何か用か?」
「いえ」
「……それとも私の顔に何か?」
「いえ」
「ならばなぜそんな血走った表情で私を見る?」
「いえ」
「いえ、以外に語る言葉はないのか?」
「いえ」
「…………私に見惚れるのもいいが、VII組の行動に遅れぬようにな」
「はっ!」
やっと選択肢の呪縛から体が自由になった時、一向に目を合わせたがらなかったユウナがこちらを訝しげにみていた。
小要塞
可変式で、出現する魔獣の難易度設定が可能な場所。小要塞についてはそう説明された。
戦闘データをとることに特化しすぎだろ……。
確かに最近どんどん増えている戦争の火種を考えれば、こんな施設を作って戦闘を効率化させようとする努力もしたくなるっちゃあその通りだけど、それにしても戦争の音がどんどん近づいてきているのは勘弁してほしい。帝国も王国も共和国も平和にくらそーや……。
「”準備”が整うまでの間、お互いに自己紹介をしておこう」
というリィン教官の掛け声から始まって、みんながすんなりと自己紹介タイムに突入するかと思いきや、ユウナがいきなり突っかかっていった。
「《灰色の騎士》リィン・シュバルツァー。学生のみでありながら、一年半前にあった帝国の内戦を終結させ、クロスベル戦役でも大活躍した若き英雄。帝国どころかクロスベルでも知らない人はいないくらいの有名人じゃないですか」
「補足すると、その後も在学しながら帝国各地の事件や事変を解決し、ノーザンブリア併合にも貢献をしたらしい」
「ノーザンブリア併合にも!?」
ユウナの説明に補足をつけるように語った青髪の超絶イケメンの言葉に、驚きを隠さないユウナ。
何をそんなにカリカリしてるのだろうか。
というか、なんでリィン教官にまでカリカリしてるんだ?
その後ユウナの怒りを受け流しつつ、リィン教官が自己紹介をした。この人が武術の教練担当らしいが、若き大英雄にやらせることじゃないだろう……。もっと前線で戦って、戦争しないで済む世の中にしてくれ……
「クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダル出身です」
と語ったのは先ほどの青髪イケメン。なんとなくだが、女難の相ありだ。
で、どうやら帝国内でも有名な家系らしくて、有名人と血縁関係にあったりするらしいが、そこらへんの話に疎いので話半分にしか聞けなかった。
「――それはともかく、そのメガネは伊達ですか? あまり似合ってないので、はずしたほうがいいと思いますよ」
などと自己紹介の最後にぶっ込んできたものだから、ユウナも含めてちょっと笑ってしまった。
顔もあってユーモアもあるって、相当モテそうだなぁ
<選べ>
【クルトのギャグが面白かったので死ぬほど笑ってみる】
【クルトのギャグが面白かったので笑って死んでみせる】
ふざけんな!
今和気藹々に楽しく自己紹介タイムだろうが!!
ギャグが面白かったからって急死するやつがいるか!!
だからって上の選択肢も、急にサイコパスな行動をとらせるなよおおおおおお!!
今大事な初見タイムなんだから……。
はぁ。
覚悟を決めるしかない。
「あは、あはは、ははは、……はははははは、ははは! はははは!! はははははははははは!!!! あああはっはっ!はっはっ!はっはっはっはっ!!!! はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はっ!はああっ!はあっ!はあっ! ……はあああああああっ!」
もう最後はそれ笑ってないって……
やめろって、そんなどう反応すればいいのかわからないようって感じの表情……! ユウナに関してはもう可哀想なものを見る表情になってるって……
「あ、ああ、そんなに面白かったか……? それなら似合わないメガネをつけた甲斐があったかもしれないな……じゃあ、ちょうどいいし、君も自己紹介をしよう」
リィン教官……! そこまでして俺のフォローを……
目尻に涙が浮かびそうになるのを堪えながら、自己紹介をすることにした。
「ノクス・ハーカナ。クロスベル出身、ノルド育ちです。色々あって第2分校になりました。よろしくお願いします」
という模範的な自己紹介ですます。教官なら俺がやらかしたことを知っていそうなのだが、流石にここで口外しないでくれると信じよう。
「本校入学式で、首席として挨拶した際に公然と帝国批判を行い、退学処分寸前になったんでしたか……」
えぇ、なんでそこの銀髪のちびっ子が知ってるんだよ……。いや、100人の若い男女の前で演説したものだから、噂もすぐに広まってしまったんだろうなぁ。
なんでそんなことしたかって?
選択肢のせいだよ。
もう一つの方を選べばよかったじゃないかって?
【ここで全裸になって逆立ちブレイクダンスをすれば歴史に名を残せるかもしれない】
歴史に名を残したくはなかったんだよ。悪い意味で。
「あんたそんなことまでしたの!?」
「あ、いやー、あはは……」
と言っても俺の選んだ選択肢が【自分の思いを吐露する。何もかも全部ぶちまける】だったから、回り回って自分のせいっちゃあ、自分のせいだから、強く選択肢のことを責められない。
人間ってマジで建前で生きてるんだな、うん。
「ただの変態かと思ってたけど、ちょっとは見どころがあるじゃん……」
「え?」
見どころなのか……
「それにしても右頬にある紅葉のアザは何があったんだ……?」
クルトがそんなことを聞いてきた。
答えられるわけがねえ……。
「何があったんでしょうね……」
なんとなくユウナに目線を送ると。
「ふんっ!」
そっぽをむかれた。自業自得である。
いや、悪いのは俺やないねん。全部選択肢が悪いねん。
言いたいけど、言おうとするものなら超弩級にやばい選択肢がやってくるので、やめる。
超弩級って?
じゃあ、昔病院でお医者さんにこの選択肢が出る体質を告白しようとして出てきた選択肢を紹介してあげよう。
【薬品棚の奥に置いてある赤色の薬品が気になるので一気に飲み干してみよう(即死120%)】
【体力をつけるために、毎日クロスベルとアルモリカ村まで5往復しよう(1年)】
ん? どっちを選んだかって? 最後の方では一日5時間を切れるようになったってだけ伝えよう。
「ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身です」
怒りの口調のまま、ユウナの自己紹介が始まった。
「正直、よろしくしたくないけど……そうもいかないのでよろしく!」
ごめんよ……ごめんよ……。
俺を恨んでくれてもいいけど、学校のことは嫌いにならないでー!
「警察学校って、クロスベル軍警学校のことだよな?」
「併合前は警察学校でした! それを帝国が勝手に…… 正式名称以外は使うなってことですか!?」
よく見ればユウナのボルテージが上がってる。
あれ、よろしくしたくないって話、俺関係なかったり……? は、しないよなぁ……。
けどいくら統治してるからって名前まで変える必要はあったか?
「いや、……すまない無神経だった……」
「私も言いすぎたかもしれません」
などとお互い謝ってるし、ユウナも別にたかが一帝国人がやりたくてやってることではないとわかってても割り切れてなかっただけなんだろう。
なんか妙に重たい雰囲気になってるし……。
<選べ>
【雰囲気を和らげるために超絶爆笑抱腹絶倒の親父ギャグを言う】
【朝結局答えてもらえなかった質問をユウナに今一度ぶつけてみる】
ちがーう! 雰囲気が重たいからってしゃしゃり出てくんな! 朝に答えてもらえなかった質問って、パンツの色だろうが、聞けるわけねえだろうぉおお!!
あと、親父ギャグに超絶爆笑抱腹絶倒ものは絶対にない! ないったらない!
けど、下の選択肢を選ぶわけにはいかなかったので、
「アルミ缶の上にあるミカン」
「……」「……」「……」「……」
ほーら見てみろ。
「アルティナ・オライオン。帝国軍情報局所属でした。一応ここに入学した時点で所属は外れたことになります。どうかお気になさらず」
アルティナが俺のギャグの存在をもみ消して自己紹介を始めた。
つか、情報局て……。それバラしちまってもいいのか。
「聞き捨てならないことを聞いてしまったような……」
「情報局って……。それに”ことになってる”ってどう言う意味よ!?」
ほら、クルトやユウナも驚いてるぞ。
帝国軍情報局つったら、内戦の時に表に名声が聞こえてくるほどに暗躍を重ねた組織で、帝国の宰相の肝いりだったよな。こんなちっちゃい子までつかいこなしてたのか……。
「失礼、噛みました」
誤魔化されねえよ。
と、そんなところで、小要塞内部にシュミット博士の声が響き渡る。どうやら章要塞内部のダンジョンが準備完了になったらしい。
オリエンテーションがてらにダンジョン攻略とは物騒な学校に入ってしまったものだ……。
だが度重なる選択肢による試練の成果の見せ所だぜ。
こう言う時に先陣を切って戦えば、少しは下がってしまったみんなからの評価ポイントが上がる気がするので、気合いをいれる。
教官から全員にARCUSIIが支給され、そして小要塞の司令室から伝わる声がガヤガヤし始めたところ、がシャンという大きな音と共に、
「なっ……!?」
<選べ>
地面の板が抜けて、下の階にダストシュートされる寸前に世界が止まった。
生徒が誰一人反応できていない中、リィン教官だけは体制を整えていた。流石は英雄、アクシデントへの対処能力が高い。
てか、選択肢ぃ、お前こう言うところじゃあ役に立つじゃねえか。じゃなけりゃあ、俺も落ちちまうところだったぜ。
ちょっとは見直してやろうじゃねえか。
で、どれどれ、どんな選択肢だ?
【落下に身を任せて、着地地点に脳天から突き刺さり、頚椎を折ってしまう】
【クルトとユウナを全力で掴み、傾いたゆかにしがみつく】
あっぶねぇえ〜! 俺あのまま落ちてたら死んでたじゃん!?
入学式を乗り越えた学園生活1日目でお陀仏だったじゃん!?
こう言う選択肢ならウェルカムよ。頼むからこの調子のまま続けてくれよ。
そして、再び動き始める世界。
「きゃっ!」「くっ!」
勝手に動く体がクルトとユウナを掴み、……。
あれ、体の主導権戻ってる……。
しがみつくのは自分でやれってこと……?
しょうがねぇなぁ。
「ふんぬううううううううう!!!!」
顎と体と膝と足で全力で床にしがみつく。
「ちょっ、どこつかんでんの!?」
「俺は大丈夫だ、離してもらっても構わない!」
両隣から声が聞こえたので、クルトの方の手を離す。
離す。
離す……?
はな…………。
離れねええ!!!
「ふんにゃあああああああ!!!!」
「私ももう大丈夫だから離してえええ〜!!」
そろそろ限界に近づいている足の筋肉に鼓舞をかける。そりゃあ斜めの床に手をつかずにしがみつくなんて無理だって。
そして抵抗虚しく、ついには体が滑り始め――
「うわああああああああああ!!!」
手が離せたと思った瞬間、俺は真っ逆様に落ち始めてしまっていた。
ーーーーー少し後ーーーーー
「ねぇ……」
ん……? なんだこんな朝っぱらから……
「ねぇってば!」
……あ?
「起きなさいってば!」
ばしっ!
ん!?
思いっきりビンタされたと共に目が覚めた。
目の前には桃色の髪色の女の子がこちらを覗き込んでいた。
あれ、俺って何をやってたっけ?
確か今日が入学式で……
「大丈夫か、ノクス? どこか怪我してるのなら、医務室まで送るが……」
横を見てみると、リィン教官がいた。
あ、落とし穴に滑り落ちて……!
「あ、大丈夫です!」
急いで立ち上がる。
「何かあったらすぐに言うんだぞ」
「はい」
リィン教官の温かい言葉がありがたいけど、体のどこも痛くないんだよなぁ。後頭部でも打ってしまったかと思ったけど、さすってみても全然大丈夫だし。
そしてそれからはみんなが各々の持ってる武装について話し始めた。
クルトはクッソスタイリッシュな双剣、ユウナはガンユニット付きの警棒をそれぞれ持っていた。方やヴァンダール流のスッゲーカッコ良さそうな剣術を使ってて、方やクロスベル警察の開発した最新鋭の武装をそつなく使いこなしてる。別に戦ったりするのが苦手なわけじゃないけど、こいつら二人だけでも相当な戦力になりそう。
そして体のサイズ的におおよそ戦えるとは思えない情報局所属だった女の子も、クルトやユウナが戦えるのか心配そうにして問いかける質問に対して自己紹介を始めた。
「私の身体年齢は14歳相当。小さいというほどではないかと。それに、情報局に所属していた証拠たる”武装”もあります」
と言い出すと、虚空からいきなり刺股の先の部分だけのような機械が現れた。
え、それ、結構見覚えがあるんだけど……
「クラウ=ソラス――《戦術殻》という特殊兵装の最新鋭バージョンとなります」
あれ、どこでみたんだっけかなぁ……。
いや、見覚えはあるし、なんなら戦った記憶もあるぞ……?
いつだっけか…………。
「秘匿事項となるため詳細は説明できませんが、それなりの戦闘力はあるかと」
「帝国って、あんなのが普通にあるわけ……?」
「……僕も初めて見た」
あ、思い出した!
クロスベルにいるばあちゃんのところに遊びに行った時だ! あん時はてんやわんやで色々起きたせいで戦術殻とやり合った記憶が薄れてたけど、
あいつ元気にしてんのかなぁ。いや、元気にしてないほうがいいかもしれんけど……。
「ノクスの使う武器を紹介してもらえるか?」
「あ、はい」
おっといけね。思い出に浸ってしまってた。
「俺の獲物はこいつ、ダブルガンソードです」
懐から二丁の導力銃を取り出す。
「ダブルガンソード……? にしては両手で違う形の銃だし、刃の部分が歪なような……」
ユウナが興味津々に見て来てる。同じ遠距離武器使いだし、ユウナの持ってるガンブレイカーも導力銃と同じ発射機構を持っているのかもしれない。
けど……
「あ、この刃に見える部分は戦うのに使うわけじゃないんだ」
と言いつつみんなの前で二つの銃器を前後でくっつける。すると内部の導力機構がガチャガチャと動き、たちまち二丁の銃は一丁の長いカービン銃になる。
「戦えないわけじゃないけど、二つの銃を繋げるレールみたいな役割なんだ」
「へぇ……。帝国っていろんな武器を開発してるんだね……」
「先ほどと被るが、俺も初めて見た」
「って、帝国の武器っていうか、どちらかというとクロスベルの武器だな。ユウナなら知ってるかもしれないけど、ナインヴァリで譲ってもらったんだ」
「あ、旧市街の!?」
「そうそう。実家があそこで、よく行ってたんだよ」
「そうなんだ!」
お、同じクロスベル出身のためか、ユウナが話に食いついてくれたぞ。
つっても、親の仕事の都合でほとんどノルドで育ってて、クロスベルにいた時間なんてトータルで1年も足りないんじゃないかな。
だから旧市街以外のことはよく知らんし、突っ込まれたらクロスベルにわかだとばれちまうし、それとなく話題を流しちゃうか。
「で、ここをこうすれば……」
と、前の方の銃のグリップ部分を取り外して覗き込むようにしてユウナやクルトを見る。
「簡易的な望遠鏡にもなる。倍率は低いけど、索敵には使えるんだ。銃にくっつけてスコープがわりにしてもいいけど、いかんせん精度が低いのが難点だな」
「複雑な機構ですね……」
「クラウ=ソラスには遠く及ばないけどね……」
アルティナの背後に佇む自律で動く機械を見ながら、こぼした。
反重力装置は飛行船とかで実用化されてるけど、人間サイズにまで小型化なんてされてるはずないし、そのクネクネ動く触手に至ってはどんな素材で作られてるのか皆目見当もつかんわ。
「じゃあそろそろ。俺の武装を見せるか」
そういうと、リィン教官は腰に刺していた刀を抜き取った。
「八葉一刀流の太刀……」
「アリオスさんのと同じだ……」
「流石に風の剣聖は有名らしいな?」
「どこかの国のせいで今も手配中みたいですけど!」
「ああ……そうだな」
アリオスって、あの独立国騒ぎの中心にいた人だよな。特務支援課の人たち共々元気にしてるのかなぁ。
――こちらの準備はとっくに終わっている。さっさと要塞攻略を始めたまえ。
小要塞内に渋い声が響く。シュミット博士が痺れを切らして催促をしてきたようだ。
それに対してリィン教官が軽く返事し、全員で攻略開始ということになる。
と言っても要塞内部のレベル自体がかなり低く設定されているみたいで、それぞれが各々の戦術を紹介するように、1対1で次々に魔獣を退治していく。
アルティナはクラウ=ソラスでネズミのような魔獣を一撃で殲滅し――って、それ斬撃なのか……。見た目と随分違うというかなんというか――、ユウナはガンモードの警棒を使って魔獣を滅多うちにし――って、血煙にしようとするレベルで連射してる……。いいストレス発散になってそう――、クルトは魔獣を滅多斬りにしていた。滅多斬りにされた魔獣がタコ型の魔獣だったのもあり、一口サイズの足の破片が飛んできた。
醤油とわさびが欲しいけど、無しでもいけるか……?
「何やってるの、ノクス!?」
「え?」
いきなりユウナから叱責の声が上がった。
なんでだろう?
「魔獣の肉を……」
アルティナも怪訝そうな顔でこちらを見ていた。
リィン教官は苦笑してる。
あ、一応これも授業の一環だし、授業中に食べるのははしたないかも。
「ごくっ……。失礼しました」
「飲み込みました……」
「なんという……」
クルト君まで唖然とした顔でこちらを見ている。
そこまで非常識だったのか……。まあ、確かに授業中に早弁やってるのと同じか。
「すみません、教練時間中に食事をしてしまいました……」
「いや……それは別にいいけど、大丈夫なのか……?」
「クロスベル出身の人って……」
「違うからね! こんな野生児みたいなの、クロスベルにはいない!」
? 野生児?
おかしなことを言うなぁ。
じゃあ、次は俺の番だな。みんなの戦闘スタイルも一通り見たし、俺は行手に見えるなんとも形容し難い肉腫みたいなのが3つ生えたアレを片付けよう。
「じゃあ、自分のやり方を見せるので、アレを倒しちゃいますね」
「あ、あれか。だ、大丈夫なのか?」
「はい、お任せください!」
俺一人だけ落とし穴に落ちたのを見て、リィン教官は不安そうにしてるのだろう。
アレは両手の自由すらなかったし仕方なかったんだよ。実は俺もみんなと同じで、やればできる子だと言うのをアピールしなければ……!
「うおおおおおお!!!」
と、謎にハイなテンションになりながら叫び、魔獣に肉薄していく。
つか、俺使ってるの銃だから、叫んでも何も変わらねえけど。
――ダンッ!ダンッ!
飛んでいく弾丸は魔獣の体に吸い込まれ、そして貫通した部分から赤紫色の体液が飛び散る。うわ、グロ……
「一撃で貫通した!?」
骨格のない軟体生物だから、例え急所に入ったとしても少しの間は何の問題もなくこちらに攻撃してくることを予測して、魔獣から適度な距離を取りながら走る。
「次弾の装填には時間がかかるのか……」
リィン教官の見立て通り、実はこの武器、結構大きめな欠点として、エネルギー充填に時間がかかることが挙げられる。
通常導力銃とは、バレルを含めた銃全体に導力機関が常時エネルギーを貯めており、そのエネルギーを用いて弾丸を発射しているのだが、そのエネルギーは殺傷力のある弾丸を連続で打てる程度にはすぐに貯まる。故に連射の持つ瞬間的な制圧力を買われて、軍にも使われている。ユウナのガンブレイカーも似た思想だろう。
けど、俺の持っている導力銃は瞬間的な制圧力よりも、一撃の威力を重視している。射撃対象物が射撃を喰らった際にどれだけ行動不能になるか、いわゆるストッピングパワーを最重視している。
だからこそ、今対峙している図体のでかい魔獣だろうと、この一撃を受ければ必ず怯み、次回の発射までの時間を攻撃を避けながら稼ぐことができる。
万が一貫通した弾が壁にぶつかって跳弾してしまう可能性があるので、これでもだいぶ抑え気味にやっているが、デモンストレーションならこれくらいでいいだろう。
ギィいいいい!!!
ある程度回復したのか、魔獣が体をうねらせ、その触手で攻撃を仕掛けてくる。
「危ない!」
けど、それはこの銃のレール部分を使って切り落としていく。激しい衝撃が加わると合体時の噛み合わせが悪くなるのであまり使いたくはないが、軟体生物になら問題なく使えるだろう。
切り落とされた触手が、ドロドロした体液と共に飛び散る。……。流石に食えねえか……。いや、ああいうのこそ、珍味として楽しまれることがあるんだけどなぁ……。うーん。
などと唸っていると、
「戦闘中だ! 考え事は後にしろ!」
「あ、はい!」
リィン教官から叱責の声が飛んできた。
すいません……。
そして複数回の小競り合いののち、充分エネルギーが充填されていることを確認し、ダブルガンソードを合体させ、カービンモードにする。
さて、でかい一発をぶちかますぞぉ!
「エネルギー充分! いくぜ、相棒! ――マクシマム、バーストォオオオ!!」
収束されたエネルギーが金切り音を鳴らし、装填されたゼムリアストーン製の弾丸が一気に加速され――!!
――ドンッッッッッッッッ!!!
轟音と共に魔獣は消し飛んで、その後ろの壁に大きな穴と亀裂ができた。
爽快爽快!
……けど。
「うあっち! あっちち!」
ゼムリアストーンなんて滅多に見つからないので、撃つたびに自分で弾丸を回収しないといけないのが難点だったりする。あれだけのエネルギーに耐えられる上に、銃弾として使えるサイズのものは本当に限られてるので、重宝しているのだ。最初の2発はもちろん通常弾だけど、みんなとの連携を考えれば、デモンストレーションでは出し惜しみをしないほうがいいだろう。
「なんというか……」
「凄まじいわね……」
「想定外の威力です」
級友からの反応も上々! これで今まで失った評価ポイントも鰻登り――
<選べ>
【おい、デュエルしろよ】
【消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな】
? なんだこの選択肢……?
そこはかとなく意味がわからんが、決め台詞みたいなものか? つか、デュエルって決闘だよな、もう戦い終わったし今からしてもしょうがねえし、消える前にもうぶっ飛ばしてるし……
ま、いいや、適当に選んどくか。
「消えろ、ぶっ飛ばされんうちにな」
って、どこ見てんだ俺。格好つけようとしすぎて虚空見つめ出したぞ……。
「だっさぁ……」
「小物臭が……」
「ひとこと多い種族なのですか……」
なんか不評だぞおい! あのまま何事もなく合流すればいいものを!
「という感じで、俺は基本中遠距離でのスタイルの戦闘が得意だぜ。近距離も無理じゃないけど、多分クルトくんとか、アルティナさんのクラウ=ソラス、ユウナさんのガンブレイカーの方が断然強いと思う」
「捨て台詞はともかく、戦力としては大いに助けになりそうだ。これからよろしく頼む。それと、俺のことは呼び捨てで構わない。同級生だしな」
「私も呼び捨てで構いません」
「私も……。変なことを言わないんだったら、呼び捨てでいいわよ」
「本当に、ごめんなさい……」
「謝るくらいなら、最初からしないで!」
「……ごめんなさい」
違うんや、俺の意思やないんや……。
「お互いの戦闘スタイルもわかってきたことだし、そろそろ次に行こうか」
「「「「はい!」」」」
リィン教官の掛け声と共に、小要塞内部をさらに進む。司令部からの指示によれば、そろそろこのダンジョンも終わりに近いらしい。
そして難なく次々に魔獣を倒していき、ついて最深部に辿り着いたその時――胸にしまった導力銃がガタリと震えた。
「――これは!」
「センサーに警告。霊子反応を確認しました」
「え……!」
「霊子反応……?」
――み、みなさん、逃げてください!!!
交差する5人の声と共に、空間が大きく、紫に歪んでいき、そしてそこに現れたのは――
「帝国軍の……機甲兵!?」
「いえ、これは――」
「魔煌兵……?」
「知っているのか、ノクス」
「はい、これをおもちゃにして遊んでる悪魔を退治したことがあって……」
「君は一体どういう経験を……いや、今は目の前に集中しなければ」
――魔煌兵の出力自体は機甲兵に劣るが、自律走行する点においては優れている。これの撃破をもってして、今回のテストを終了とする。
「本気か……!?」
リィン教官がシュミット博士の指令に驚いている。まあ、それもそうだろう。こいつに関していえば、俺の最大火力に近い一撃を加えないと倒れない代物で、みんなの持っている武器との相性は最悪だ。
どうする? やるしかないの? 横を見てみると、
「来い、灰の騎神――」
と、ポーズをとっていた。
――騎神の使用は禁止する。
無情にも却下されたみたいだった。
――その程度の敵ではテストにならぬからな。せいぜいお前の“奥の手”を使うか、まだ使っていないARCUSIIの性能を引き出すと良い
え、奥の手? って、教官の奥の手だよな。俺の奥の手は今じゃあただの宴会芸にしかならんぞ。
などと思っていたら、ぽわーっと体が光り出した。
え、なに、これがリィン教官の宴会芸? いや、宴会芸なのは俺の奥の手であって、教官のは違うはずで……
「何かが、あの人から伝わってくる……!?」
「戦術リンク……? それとは別の……」
え、なに、みんななんか起きてんの? 俺体が光ってるだけなんだが?
「ブレイブオーダー起動。トールズ第2分校、VII組特務科、全力で目標を撃破する!」
「「「おう!」」」
「お、おう!」
リィン教官の号令と共に戦闘が始まった。
って、教官も一緒に戦うのかよ。生徒だけで戦うものだと思ってたから、ちょっとホッとした。流石に4人でやるのはきつそうな相手だった。
というのも、あの魔煌兵って兵器は、エネルギーをフルに充填した俺の得物で、ギリギリなんとか行動不能にできるもので、俺の武器はエネルギー充填中に発射できないものだから、前に戦った際には充填完了まであのデカブツと近接戦闘せざるを得なかった。その結果何本骨が折れたことか……。
だけど、今は少なくとも数の有利があって、さらにリィン教官は単独でも魔煌兵と同等に渡り合えそうなので、かなり余裕がある。
「みんな、ちょっとだけ時間を稼いでくれ!」
「銃のエネルギー装填ね! わかったわ!」
「前線の維持はこちらが受け持ちます……!」
「ならば、ブレイブオーダー防御陣≪鉄心≫!」
え、なんかみんな俺のやろうとしてること理解してるんだけど……? 空気読むのうますぎない?
あと、ブレイブオーダーが叫ばれた後、ちょっとだけ体がポカポカする。……まさかこれが奥の手……?
などと思っているうちに前線での戦闘はすでに始まってた。
――ゴォオオオ!
雄叫びを上げる魔煌兵。その音圧は物理攻撃をも伴うかと錯覚するほどのものであった。だが、
「こっちよ!」
その胸部装甲板に十数発の弾丸が突き刺さる。ユウナのガンブレイカーから発射されたものだ。
流石に魔煌兵の大きな図体だけあって、大きなダメージにはなっているように見えないが、少なくとも注意は走り出すユウナに向いた。
だが、素早く体勢をユウナに向け、魔煌兵はその大きな手を振り下ろす。その一撃は間違いなくユウナに当たるような軌跡をたどり――
「クラウ=ソラス!」
その一撃は虚空から現れた戦術殻が受け止める。
ガーンッ!
鈍い衝突音が空間に広がる。
あの魔煌兵の硬さはよくわかってるつもりだが、その一撃を凌ぐって……。いや、機密事項とか云々言ってたけど、それにしてもだ。
「今だッ!」
同時に魔煌兵の足元へと飛び込むリィン教官とクルト。抜いた刀と剣を魔煌兵の関節部分に突き刺していく。
GYAAAAAAAAAA――!!
大きく姿勢を崩す魔煌兵。
てか、こいつ機械なのに悲鳴を上げなかった……!? それに、それだけでかいダメージを入れられるんなら、俺の出番もねえんじゃねえのか……。
「追撃入ります!」
そう短く伝えると、ユウナは倒れたために手が届くようになった魔煌兵の顔面部分に縦横無尽に打撃を叩き込む。
……あんなに失礼なことを言ってしまったのに、ビンタ一つで済ましてくれたユウナに感謝。じゃなけりゃあ、今俺の顔面は腐った豆みたいになってた……。
だがタダで殴られる魔煌兵ではない。その大きさからして信じられないような速さで体制を整えて立ち上がる。見上げるとまさに巨木である。
そして再び振り上げられる幹のような腕でユウナを狙う魔煌兵。だけどこの攻撃は通らないだろう。なぜなら――
「ノワールシェイド……!」
アルティナの展開した物理反射障壁が、その一撃を難なく弾き返す。
……あれ、なんでアルティナがそんな技が使えて、なんならこのタイミングで使うことが自然とわかったんだ……?
そして自身の攻撃と同等の威力の反射ダメージが入った魔煌兵は、再びその体制を大きく崩す。これを機にとばかりクルトとリィン教官は大技を用意しており――
「レインスラッシュ!」
「弧月一閃!」
まともに攻撃を受けられる体制にない魔煌兵はそれらのクラフトを受けて無事でいられるはずもなく、のけぞるように倒れたのちに膝をつく。
「崩れました……! ノクスさん、今です!」
そして、俺のとっておきの一撃も準備完了となる。
「久しぶりに聴きてえな、お前の声が。――塵芥と化せ、エテリウム・バスター!!!」
俺の持っている弾薬の中でもとびっきり変な性質を持ったやつ。とある工房に無理言って作ってもらった、液体金属弾。その性質は、弾丸が発射とともに広がっていくことで、衝撃面積を増やすこと。貫通を考えれば面積を小さくした方がいいが、この弾丸は貫くことではなく、破壊することを目的にしている。対象物が十分固ければ、大質量であっても吹き飛ばし、硬度が十分じゃなければ、装甲のみを貫通し内部構造を破壊する。
この弾丸自体、俺のスタイルに合わないものだが、帝国が人形兵器を配備し始めているものだから、自衛用にどうしても必要になったために持ち運んでいた。
そしてその威力は目の前の魔煌兵を見れば分かる通りである。
「敵性対象の行動停止を確認」
「あの魔煌兵に大穴を開けるのか、凄まじい威力だな……」
そして同時に体の力が抜ける。
この武器――名は虚と言うんだが、こいつの特性の一つ。それは、使用者の体力を著しく使用すること。
抑え気味にエネルギーを貯めたつもりが、熱いバトル展開にリミットを超えてしまったらしい。
「って、大丈夫!?」
「大丈夫か!?」
いち早く俺の状態に気づいたユウナとクルトの声が聞こえるときには、俺は冷たい地面と熱い抱擁を交わしていた。
――その力、ますます我が血肉としようぞ。
シズナ登場させてヒロインにしてももよき?
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よいよい
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だめだ!