トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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5月14日 自由行動日(中編)

 便利部部室から帰るところ、学校の玄関前。

 手にした依頼書の中身を確認しつつ歩いていると、

 

「君は……」

 

 というひと言目でいきなりメンチを切りながら、俺のことを睨みつけている少年がいた。

 綺麗な金髪と鮮やかな赤色の制服が目立つ、そんな少年だ。

 

「ノクス・ハーカナ……!」

 

 彼はどうやら俺の名前を知っているらしい。俺はさっぱり知らないが……。

 どこかで知り合ったのか、それとも、間接的に何か悪いことをしてしまったのか……。

 

「え、えーと、……その、だ、誰きみ? 俺なんか悪いことでもした……?」

「だ、誰、だと……!? 僕の名前すら知らないやつに……!」

 

 こめかみにはちきれんばかりの青筋を立てながら、その少年は燃え上がる闘志を目に宿していた。

 

「君に勝負を挑ませてもらう!」

 

 綺麗な刀身の剣を抜き出し、彼は言い放った。剣が一切ぶれていないところを見ると、それなりに腕の立ちそうな感じの雰囲気だが……。

 ……え? 何、まさかこれからバトル展開?

 悪いけど俺は平和主義者だから、付き合わねえぞ?

 

   <選べ>

 

【一切の抵抗をやめ、殴る蹴る斬られるを全て受け入れ、たとえミンチになっても反撃をしない】

【身の程知らずのガキはわからせるのが一番。泣きだすまで殴り続ける】

 

 え、いや……。何もそこまでやらなくても……。

 マゾヒストじゃないので、上の選択肢は選ばないが、だからと言って初対面(おそらく)の同級生を泣くまでぶん殴るのは……。まあ、でも。喧嘩を売り始めたのは、お前からだぞ? 覚悟しろよ?

 

「いいだろう。ミハイル教官に運動場の使用許可を取ってくる」

 

 言い訳しておくと、この選択肢を取らせたのはお前だからな!

 

「涙腺溜めて待っておけ」

 

 ……我ながらクッソダサい捨て台詞だった。

 

 ・・・・・・

 

 本校生徒との実践を前提にした武術稽古、という名のもとで運動場の一セクションの貸与を許された。許可されたとはいうものの、全く芳しくない反応のミハイル教官を、隣にいた分校長の鶴の一声で押さえ込んだ形ではある。

 曰く、「若者同士の蟠りは、彼ら同士が解消すべきである」とのことだが、俺と蟠りのある人なんて……。いや、よく考えればユウナやライカに変態行為を繰り返してしまったあたり、それを蟠りだと言われればその通りであるが……。

 え、俺気づかない間にあの少年のパンツとかの匂いを嗅いだとか!? ……やめろやめろ!! そんなわけない!

 

「ノクスの周りって、常に何か起きてるよね?」

 

 付き添いというわけではないが、俺がまた何かをやらかしたらしいとの報を受けたユウナが、俺が暴走しないようにということで、わざわざ運動場までやってきてくれた。

 ……今回はといえば、俺悪くなくない?

 けど、流石に泣くまで殴り続ける俺のストッパー役にはなってもらえそうで、よかった。

 

「話を聞く限り、今回はノクスが原因ってわけじゃなさそうだけど」

「今回は、って……。まあ、いつも原因になってるのは否定できないけどさ」

「それに、相手の人が誰なのかわからないんでしょ?」

「あー、いや何となく似てる人は見たことあるけど、そんなわけないしなー」

「そんなわけない?」

「うん。新聞とかでよく見るんだが、そんな有名人が――」

 

 セドリック・ライゼ・アルノール。この国の皇太子の顔によく似てるのだが、まあ、他人の空似の可能性の方が高いだろう。第一、俺なんか会ったこともないし。

 

「新聞で?」

「ああ、この国の皇太子様に結構似てる人だった」

「え、大丈夫なの、それ?」

「似てるだけだろうよ。だって、皇太子って今年からトールズ士官学院で学生を始めて忙しいだろうし、首席ってことになっただろうし勉学に励んでるだろうよ」

「首席ということになった?」

「そうそう。俺があんな演説したものだから、繰り上げられたみたいだね」

「…………。あのね、ノクス」

 

 眉を顰めながらジト目で見てくる高度な表情を披露しつつユウナは続けた。

 

「相手の人って本校の制服だったよね?」

「うん」

「それで、皇太子に顔が似てて」

「うん」

「ノクスに対して恨みがある」

「そうだけど……?」

「それはもう、本人なんじゃないの?」

 

 本人? いやいや。

 

「ないない。皇子の方と会ったことがあるけど、あんな気難しそうで、真面目っぽそうな人間があの皇帝の血で生まれるわけないよ」

 

 クロスベルで2日間ほど行動を共にしたのだが、選択肢以上に振り回される経験など初めて体験したものだ。それに比べれば、オリヴァルト皇子――ってか、オリビエの肉親にあるまじき常識さである。

 

「何でそんな人と会ったことがあるのよ!?」

「あーほら、西ゼムリア通商会議、覚えてる?」

「あっ! あのとき!」

「そうそう。あん時に護衛の依頼貰って、気安く請け負ったと思ったら、猟兵にテロリストの相手までさせられたんだわ」

 

 ったく、皇子として宰相と共にクロスベルに来たとかって情報を、ギリギリのギリギリまで隠しやがってあのスチャラカ演奏家。おかげで、もう少し遅かったら大惨事が起きてたんだからなぁ。

 

「……、依頼人の素性はちゃんと調べるべきなんだね」

「そうそう」

 

 おしゃべりしながらたどり着いたのは、少年の待つ運動場。真昼間で昼食休憩中なのか、部活動をしてる人はいない。まあ、おかげで困った時にはあまり周りを気にせずに銃をぶっ放せるが、たった3人でだだっ広い運動場で寂しいという気がしないでもない。

 

「待たせたな」

「助っ人? 一対一では勝てないと怖気付いたのか?」

「ちげーよ」

 

 どちらかというとお前のためだかんな。選択肢のせいでやりすぎないように。

 って、それ以上に怖気って……

 

「本当の恐怖って知ってるか?」

「本当の恐怖、だと……?」

 

 ああ、本当の恐怖だ。わかるか、リミッター解放した分校長とか、その気になってしまったシズナとか、パンツを盗んだことがバレた時のユウナとか。……え? 最後の何って? 一線を超えた怒りを爆発させたユウナが破壊神の力を手に入れ、本気で命の危険を感じた俺がなんとか火事場の馬鹿力で逃げ切った話だよ。つい先週の話だが、流石にやりすぎたと反省したのか、選択肢のおかげでユウナも記憶が消えてるので、なかったことにはなってる。

 だったらロゼたんをひん剥いた記憶も消してくれ。あれもやりすぎだ。

 

「その片鱗、味わせてやるよ」

 

 言いつつ、偽・神気合一を展開。ある程度安定して使うことができるようになったので、気軽に使っていくことにしている。ただし、もう一段階上の、分校長のオーラはまだまだちゃんとは使えないが。

 

「なっ!? なんだそれは!」

「これが、恐怖というものだ……!」

 

 できるだけ、圧をかけて語りかける。……戦意喪失して泣いてくれないかなぁ……。

 

「ちょっ! ノクス! やりすぎよ!」

「大丈夫、オーラだけだから」

 

 威圧用である。いくらなんでも、”人間”相手にやる技ではないので。分校長? あれは人間カテゴリーに入らない。決戦用強襲人形兵器だって言われても疑わん。シズナも鬼神とかそういうカテゴリーの悪霊である。

 ……なんか背筋がひんやりとしたけど、気のせいだろう。

 

   <選べ>

 

【オカマ風の開戦の口上を述べる】

【女の子になったのちにオナベになる】

 

 おい、下の選択肢! 俺はどっちにもならねえよ!

 

「コテンパンにされる準備はいいわね? 月に変わってお仕置きよ!」

 

 なんだよその掛け声! だっせえなぁ!

 

「バカにしているのか!? いや、もしや、その女装……」

「バカにしてんだよ! 俺は決してオカマじゃない!」

 

 叫びつつ、大きく一歩を踏み込む。

 対応して振り下ろされる剣筋を目で追い、難なく避けていく。

 

「その格好で、何を言っているんだ!」

「制服だろうが! なんの問題がある!」

「それは女子制服だ!!」

「ごもっともだ、クソッタレ!」

 

 斬り上げられる一撃を、事前に足で踏み止める。

 

「ぐっ!」

 

 振り上げようと力を込めるが、なかなか持ち上がらない。そりゃそうだ。刀の腹を踏んでる俺の方が、刀の端を持つ彼に比べて圧倒的に大きいトルクを持つのだから。

 

「持ち上がらねえだろ? そういう時は、あえて無理に持ち上げずに、一度手放すといいぞ」

「うるさい! 僕に指図するな!」

 

 いや、指図というか、アドバイスというか……。

 剣を手放すだけで、片足に相当な力を込めてる俺のバランスを崩せるってのに。まあ、いいや。

 抑えていた足を素早く退けると、両手で力が込められた剣が大きく宙に舞い、体の重心を持って行かれた彼はひどく体幹を崩した。

 

「こんな感じね。力ってのは、何でも込めればいいもんじゃねえぞ?」

「うるさい!」

「大事な剣なんだから、上手く使ってやれよ」

「黙れ!」

 

 咆哮し、彼はそのまま癇癪を起こしたかのように、縦横無尽に華美な剣を振り回しながら迫ってくる。それらの斬撃を、拳で、脚で一つ一つ見極めながらいなしていく。

 剣筋は悪くないようだ。事実、一撃一撃が一切ブレがなく、冷静さを少し欠いているとはいえ、しっかりとセオリー通りの流れを守っている攻勢。道場だったら期待の新星としていろんな道場に出稽古をして、将来の師範代となりそうな感じだ。

 だけど――。

 

「よっ……と!」

 

 やってきた横薙ぎ。それを肘で軽く叩き落としたのちに距離を詰め、そのまま少年の腕ごと左脇に挟み込む。一瞬予測できない攻撃に怯んだ彼の隙をぬい、右手で顔に軽く掌底を喰らわせ、さらに崩れた体勢の勢いのまま足元を払って倒す。

 そのままマウントポジションに移行し、腕を振り上げて振り下ろし――

 

「武器に頼りすぎないこと。武器がお前のためにあるのであって、お前が武器のためにあるわけじゃない」

 

 振り切る前に拳を止める。思わず目を閉じてしまった本校の少年の頬を軽く叩く。

 

「な、舐めているのか!?」

「はい、そうやって挑発しない。挑発するのは、相手にして欲しいことを誘導するときだけ」

 

 言いつつ、マウントポジションを解除して、背を向けて離れるように見せる。そうすると、彼は急いで立ち上がり、無防備になった俺の背中を狙って走り込んでくる。

 それを予測して、後ろを見ずにわざと丸く倒れ込む。すると、勢い余って俺の体につまづいて、彼は簡単にひっくり返ってしまう。その彼の足をとって捻りあげる。俗に言うアンクルロックだ。

 

「いっ――!」

「こんな感じでね。挑発されたら、やりたいことの逆をすること。じゃないとこんな感じで痛い目に遭う」

「は、離せ!」

「はいはい」

 

 言われた通りに手を離す。

 同時に地面に弾薬を何発かばら撒き、警戒しつつ距離を空けるが、追撃は来ない。

 

「はぁ……」

「こ、今度はなんなんだ!?」

「余裕を見せてる相手には、選択肢を狭めさせること。お前が立ち上がってから俺に対して疑問を投げかけるまでの間に、俺はなんでもできた。例えば――」

 

 ばら撒いた弾薬にあらかじめ仕掛けておいたアーツを起動させる。すると、弾薬は宙に浮かび上がる。実際にはそのままバラバラな方向に発射させて、虚での射撃と合わせて跳弾させるわけなのだが、今回はそこまでしなくても良さそうだ。

 

「罠だって仕込めた。銃弾だったから良かったものの、対人地雷でも置いたら洒落にならなかっただろうな」

「くっ……!」

 

 と、軽く一通りライカとやってきた稽古の、入門編を教授する。俺なりの武術ってものの成果がこんなところで発揮されるのは、ちょっと微妙な気分だが。ユウナもよく稽古に参加してくれてるおかげで、ここら辺については問題なくこなせている。素直に鼻が高いと言いたいが、ユウナの場合は教えた分だけ自分への折檻として帰ってきてしまうのが困るところである。

 

「悔しがる前に、どうすればいいのかを考えること。相手は搦手を得意としてて、戦闘中にも関わらずおしゃべりをしてる。お前にできることはなんだ?」

「……!」

 

 ハッと驚いたような反応を見せ、彼は静かに剣を拾い上げ、そのまま肉薄してきた。

 

「は――っ!」

 

 そしてやってきたのは、それまでにはなかった攻撃の仕方、突きを中心とした連撃である。基礎がしっかりしてるのもあるのだろう、しっかりと俺の正中線に目掛けて攻撃がなされている。

 悪くない選択肢だ。搦手のしにくいまっすぐな攻撃、それを中心に模範から少し離れた追撃を行えば、俺のような相手は手札を削られることになる。

 だが……。

 

「おらッ!」

 

 一直線にやってきた刺突に、体を捻りながら殴り上げる。

 尋常じゃない、裂ける痛みが拳から走ってきだが、それは無視する。

 

「ノクス!?」

 

 驚きの声を上げたのはユウナだった。……確かに小さくない怪我にはなりそうなので、今更ちょっと後悔。けど、ただ単純な怒り任せではなく、相手に勝ちたいと思って戦う一人の人間相手には敬意を込めた一撃を返さなければならない。

 

「――!?」

 

 大きく体をのけぞらせた少年の腕をもう一度殴りつけ、剣を放させる。そして飛んでいく剣に視線をやっていく彼の首を脇に挟み、そのまま逆逆エビの形で締め上げる。

 

「武器にこだわるなって言っただろ?」

「う……っ、ぐ……ぷっ……!」

 

 呼吸が苦しく、変な声が出る少年。このまま締め落とせば痛みから涙も出るだろう。それで選択肢が達成されることを狙う。

 

   <選べ>

 

【ついでにユウナも泣かしてしまおう】

【トゥームストーンパイルドライバーだ!】

 

 なんでだよ!? ユウナがなんかしたんかよ! ……あのなぁ、選択肢(お前)も知ってるだろ? あまり揶揄いすぎるとユウナは鬼神化するって……。

 そう言うわけで、いい感じに力が抜けてきたところで彼の頭を股の間に入れ、太ももと腰を抱え上げる。

 

「痛いけど我慢しろよ」

 

 そのまま長座の形に落とす。

 

「あぎゃっ!」

 

 グギッという痛そうな音が鳴る。

 絶対痛いだろうなぁ……。けど、お前から喧嘩売ったんだから我慢しろよ? 俺は悪くないからな! 選択肢が悪いんだからな!

 そのまま倒れる少年。

 

「な、なんで……」

 

 と、まだ元気に声が出ているところを見るに、大怪我にはなっていないようだった……。仰向けで倒れている少年の目尻を見てみる。

 うーん、ちょっとは光ってるように見える! これで泣かすのは達成したってことにしてくれない?

 

「なんで、お前は……。君は僕なんかにアドバイスをするんだ……!」

 

 倒れ込みながら、金髪の本校生徒はそんなことを言った。

 なんで、かぁ。どう答えればいいのだろうか。

 俺も彼の隣に座って、同じ目線の高さで喋ることにした。

 

「お前さ、悪い奴じゃないだろ?」

「悪い奴……? 君にとっては、いきなり因縁をつけてきた見ず知らずの人だろ……!」

「私怨で喧嘩を売ってきてた割には、素直に俺のいうことを聞いてたし、途中からただの私怨で俺に制裁を加えたいって感じじゃなくて、俺になんとかして勝ちたいって思ってただろ?」

「……」

 

 ユウナに事前に持っておくよう頼んでおいた飲み物を渡してもらう。はちみつとレモン、塩が入ったちょっとしたスポーツドリンクだ。

 

「あ、ありがとう……」

「悪い奴は、礼も言わねえしな」

 

 俺の方はあまり疲れてはいないので、もらっていないが。

 

「それに、さ。できるだけ人の恨みを買わないように生きてきたつもりではあるけど、やってることがやってることだけに恨みを買ってしまうのもあり得るからさ」

「……」

 

 彼は静かに聞いてくれている。

 

「俺が気づかない間に、お前にとって嫌な存在になってしまってたんだろ? とりあえず、謝らせてくれ。すまんな。それで、良かったら俺が何をやらかしたのか、教えてくれないか?」

「……それでは、僕が…………」

 

 隣でユウナがジト目で俺を見ている。えぇ……、なんで……?

 少しばかり項垂れたのち、少年は静かに語り出した。

 

「僕は……。僕は、自分の”弱さ”が、誰かを傷つけてしまうことが嫌だったんだ……」

「……」

 

 少しずつ、彼は言葉を続けた。

 

「僕の不甲斐なさによって……、僕は他の人にとっての、大事な人をなくしてしまったんだ」

「大事な人……」

「うん。僕が憧れている、英雄の友人さ……。僕のせいで、僕を助けるために……。彼はその命を散らせてしまった」

「……そうか」

 

 弱々しく語る少年の肩は、少し震えていた。

 さぞ、辛い現実だろう。

 自分の弱さで、自分の不甲斐なさで、自分ではない誰かが傷つくのは。それは、おそらく彼のような人にとって、自分が傷つく以上に、痛かったのだろう。

 

「だから、僕は”力”が欲しかったんだ……。何者にも屈することのない”揺るぎない力”があれば――! そう思って、その第一歩として、トールズに入学することを決めたんだ」

「……」

 

 拳を強く握りながら、彼は声を振るわせた。

 本校に入学するのは大変だっただろう……。改革が進み、真のエリートのみがその狭き門を通ることができるようになったのだ。入試は格段に難しくなり、半端な覚悟では合格できない。

 

「だから、少なくとも自分の同年代で、最も前で立てるように……。自慢じゃないが、それだけの努力もしてきたつもりだ……。だけど――」

「首席は皇太子に取られた、と?」

 

 相当ストイックにやってきたのだろう。それで落ち込むのもおかしい話ではないが……。

 

「いや、本当の首席は別の人だった。ノクス・ハーカナ。ノルドからの学生で、筆記試験、実技試験ともに満点で合格した学生だ」

 

 ……。そこまで首席にこだわっていたのなら、俺のことも知らないわけがないだろう。

 俺は――。

 

「俺は、お前の前に立ってしまったんだな」

「ああ。でも、最初は、そこまで落ち込んではいなかったんだ……。僕と同じく志の高い同級生がいるのだと、ライバルになれると思ったんだけど……」

「本校から蹴り出された、と」

 

 隣でユウナが補足した。うん、確かにね。蹴り出されたんだけど、もうちょい柔らかい言葉を使ってくれても良くない? 退学になったとか、さ。

 

「僕の前にいると思っていた人が、帝国の批判を公然と行なって、第二分校へと追放されたんだ。なぜ……。なぜなんだと思ったんだ」

 

 彼は声を荒げて続けた。

 

「オズボーン宰相の率いる、”強い”帝国を無意味な悪と罵り! その繁栄の終焉を予言するその言葉が! そんな彼の……まるで”弱さ”を擁護するような態度が、どうしても気に入らなかったんだ!」

「……」

 

 あの入学式の演説が、ここまで尾を引くことになるとはなぁ……。

 

「すまん」

 

 まずは謝ろう……。俺の言葉が、俺の考え方が彼の好きなものを否定してしまったのだ。何をどう取り繕おうと、どんなに素晴らしい言い訳を用意しようとも、……それこそ、俺の語ってみせた妄言が全て真実となろうとも、俺が彼を傷つけてしまったことには変わりないのだから。

 

「謝るな……! 君は……、君は自分の言葉の責任を持つべきだ……!」

「……」

「………………」

 

 黙するしかできない俺。彼は少しの間心を落ち着かせて、語り出した。

 

「君の言葉が頭から離れず……、僕は君の言葉の真贋を確かめることにしたんだ……。君の妄言が全て嘘だと証明しようと思ったんだ……! だけど……」

 

 彼は小さく息を吐くと、続けた。

 

「…………だけど、君が正しいとしか思えなくなった」

「え?」

「君の言ったこと、その全てがあり得る未来――いいや、起こるであろう未来について語られていた」

 

 ……。すげえな、こいつ。

 いや、自慢じゃないが、生来そういったことに関しては人一倍聡いつもりであった。それこそ、こういった何が起きるだろうという予測を、ほぼ外したことがないと豪語できるほどには。けど、それらはなんというか、大雑把に把握できるってだけで、その理由を全て説明しろと言われたら、非常に困難になる。

 けど、彼は俺の語ったことを全て検証したのだろう。それは尋常じゃない根気と時間のかかる作業だったに違いない。

 

「君は、……”力”が欲しくないのか……? 君にとって、”強い”帝国ではダメなのか?」

「……」

 

 絞るように、縋るように吐き出す彼の言葉は、まるで力を失っていた。

 力に、強さかぁ。最近それに向き合わないといけない機会が増えてきたなぁ……。

 俺は、……少し考えて答えることにした。

 

「なぁ、力ってさぁ、……人を殴って自分の言うことに従わせるものか?」

「え……? ……そのような使い方がいいとは思わないけど、でも本質的にはそういうものだ」

「だったら、そいつはただの暴だ。暴力ですらない。そんなんじゃあ、誰にも勝てないよ」

「誰にも勝てない……?」

「そうだ」

 

 少しずつ、少しずつ、最近自分がやっとたどりつけた、ある小さな結論を語ってみせることにした。

 

「俺はさ、何も選べなかった人間なんだ」

「……?」

「お前が自分のせいで、尊敬する人の迷惑になったって話をしてただろ? 俺も俺で、悩みがあってな。俺は、俺自身何がしたいのか、それがどうもわかんねぇんだ……」

「何がしたいのか……?」

「うん。けど、たまたまトールズに入ることができて、おかげでそのきっかけを掴み始めることができたんだ……まだまだ、ほんのちょっぴりだけどね」

 

 少しだけ、ユウナの方を向く。困ったように笑う俺を、ユウナは優しく笑顔を向けてくれた。

 

「俺たちはさ、どうすればいいだろうな? お前は、自分の不甲斐なさを、俺は、俺の意思のなさを、なくしていきたいんだろ?」

「そうだと思う……」

「だったらさ、俺たちに必要なのって、誰かをぶん殴っていうことを従わせるような、そんな無意味なものなんかじゃなくて、自分自身をぶん殴ってでも前に向き続けさせるような、そんな”力”なんじゃないか?」

「…………」

「俺たちが勝ちたい相手なんて、自分自身以外にいないだろ? 他人をぶん殴り続けてる限りは、いつまで経っても、誰にも勝てないんだよ」

「……………………」

 

 彼は少しの間沈黙した。

 

「……。……それでも……! 自分を、自分の周りの人を傷つける奴らには、君のいう力で、どうやって対処すればいい! 僕はもう、そんな思いをするのは、…………嫌なんだ……!」

 

 涙ぐみながら、彼は語った。

 

「だから、俺たちは不甲斐ない自分を鞭打って前に向かせて、少しでもたくさんの守るべきものを守れるように、勇気を出して一歩でもいいから歩かせるしかないだろ?」

「それで……、そんなにゆっくり進んでいては…………」

「時には横で走る仲間に腕を引っ張ってもらわないといけないよね」

 

 立ち上がりつつ、彼に手を差し出す。差し出した手を握ってくれれば、これで仲直りできたと考えてもいいだろう。

 

「立ち上がれよ。俺たちには、まだまだ負けてはいけない相手がいるだろ?」とかでも言おうと、口を開けた時だった。

 

   <選べ>

 

【私のパンツを見てんじゃないわよ!】

【思いっきりビンタをする】

 

 空気を読め選択肢(この野郎)! 俺めっちゃいい話してなかった? ねぇ、俺めっちゃいい話してたよな! ……いや、他人を説教していい気分になってたことは否定できないけど、どっちかつうと、普通にこの少年のことを思って話しただけだよな! そんな俺への仕打ち、酷すぎない?

 確かに! 確かに、おそらく彼の視線からすれば、俺のパンツは見え放題になってるだろうよ。スカートなんて今まで履いたこともない俺が、こんな丈の短いスカートの中身を隠す気遣いとかするわけないしな。てか、そもそも野郎のパンツ見たがる奴なんていねえからな!

 はぁ……。

 これで、未来の友人になるかもしれない候補が一人減ってしまったなぁ……。

 

「私のパンツを見てんじゃないわよ!」

 

 パチンッ!

 

 何でだ!? 俺上を選んだよね! 下選んでないよね! 何でビンタしたの!? え、何で!?!? 見ろよ、少年の頬に綺麗な紅葉ができてんじゃねえかよ!

 ほらみろ、ユウナもあっけに取られて何も言えねえって顔だぞ。女子だけに気分がわかるってか? いや、そんなことはないだろうけどさ。

 

「殿下に何をしているんだ!?」

 

 そこへやってきたのは、クルトだった。ここまで全速力で走ってきたのだろう。額を汗ばませながら、血走った目で俺を見てる。何をそんなに急ぐことがあるんだよ……。

 って、あれ、今、クルト、何って言ってた?

 ……殿下…………?

 え?

 殿下……………………?

 え、他人の空似じゃなくて?

 え?

 殿下なの?

 見間違えじゃなくて……?

 いや、確か授業でも軽く触れられてたけど、ヴァンダール家って確か世襲で代々皇族の守護職をやってたはずだし、クルトが見間違えるはずもないか……。

 え?

 じゃあ、マジで?

 

「え、えーと、確認だけど――ですけど」

「?」

「あなた様は、まさかセドリック皇太子殿下様であらせられるので……?」

「まだ気づいていなかったのか……?」

「あっ……」

 

 これまでも数奇な人生を歩んできたつもりではあるけど、今度こそわかるぞ?

 

「ユウナ、遺書はこないだ書いたのが寮の引き出しにあるから」

「何で遺書なんて書いてんのよ!」

「俺が無事処刑されることになったら勝手に取り出してくれていいよ」

「何不吉なことを言ってんの!?」

 

 これ、詰んだな。

 

 ・・・・・・

 

「ってことがあってね……」

「ヌシも災難じゃったなぁ……」

 

 ロゼたんの工房で出してもらったお茶を啜りながら、ロゼたんに慰めてもらってる。

 

「だって誰も皇太子だと思わんやん〜」

「そうじゃのう、そうじゃのう」

「俺、これで帝国追放されたら、ここで匿って欲しいよぉ」

「ここも帝国の領内じゃがな」

 

 もぐもぐと俺が作ってきたシナモンスウィートロールを頬張りながら話を聞いてくれるロゼたん。

 

「そんなこと言わずにぃ! おねがーい!」

「ふむふむ。妾の専属シェフとして、雇ってやらんでもないぞ?」

「え? マジで!? いいの!?」

「毎日美味しいスイーツを作ってもらうのじゃ!」

 

 と、外見相応の子供のような反応をするロゼたん。

 ……いや、よくよく考えれば、ロゼたんって結構いつも反応が子供くさいというか。

 

「?」

 

 静かに観察している俺に、小さく首を傾げるロゼたん。

 

「今度はピスタチオヘブンケーキを作ってくるよ」

「それは、いいことを聞いたの」

「生きてたらね……」

 

 あの勝負騒ぎのあと、一度はその場は解散になったが、寮に戻った直後にセドリック殿下からの呼び出しをくらい、身の危険を感じた俺は、咄嗟に転位のペンダントを使うことにした。朝には溜まってなかった霊力(マナ)も、あの戦いの後には溜まり切ったようで、運よく使うことができたのだ。

 事前に一応リィン教官にアル伝手でイストミア大森林に行くことは伝えている。これで何かを察してもらえるだろう。

 

「俺、これからどうしよう……」

 

 学校に戻れないのは確定だとして、帝国にいるのも難しいだろう……。

 唯一伝手があるクロスベルも、今じゃあ帝国の管轄下だし……。

 ここは思い切ってカルバードに移民申請を行ってこようかね……。聞くに、アラミス高等学校なる、良さげな場所もあるし。それか、リベールの王立学園もいいかもしれない。転校じゃ、転校! こんな軍所属が運命付けられたような場所にいられるか!

 いや、別に学校にこだわるわけじゃないけど。けど、せっかく始めた学校生活は悪いものじゃなかったしなぁ。

 

 悩む俺に、リィン教官の知り合い伝手で、ロゼたんからどうやらセドリック殿下は怒っていないらしいことを聞き、男子制服で無事戻ることとなったのは夕方になってからのことだった。




 誤字訂正、感想、評価ありがとうございます!

 皇太子を女装姿でしばき回した挙句、トゥームストーンパイルドライバーをぶちかますノクスくん。追加にビンタも加わりました。これは、不敬罪で良くて終身刑、悪くて即処刑ですね!

 ちなみにビンタもさせられたのは、セドリックを殴って泣かした判定じゃなかったためのペナルティです。

 あと、選択肢ちゃんメスガキ問題についても、結構悩んでいて……。性悪すぎて、わからせが尋常じゃないスケールになりそうで……。今の所は宿っているかもしれないぞ? 的な微妙なスタンスをしてますが……。

 
追記

 プロットを用意していると、クロスベル編はシリアス展開が増えてしまいそうで……。もっとこう、ギャグテイストな作品を書きたいだけに困ってしまいました……。昔は物語でキャラクターが勝手に動き回るなんていう風に言う作家の方がうらやましく感じたのですが、かじ取りもかじ取りで難しいですね……。

 やっぱり、シリアス展開は削ったほうがいいのかなぁ……。


 さらに追記

 あまり良い評判をいただけず、最新話の公開を一度取りやめました。もう少し書き直してからあげなおします!
 また、少し忙しい時期となるため、投稿まで少し時間がかかるかもしれません! よろしくお願いします!

TS要素は……? そこまでどっぷりというわけじゃなく、ギャグ要素として入れてみたいですが、どうでしょうか?

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