トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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 少し悩んだのですが、再投稿することにしました


5月14日 自由行動日(後編)TS要素あります

 女装をやめさせないとばかりに、女装を続けるか、1時間後に致命的な選択肢が現れるかを選ばされて、俺の意志の強さを選択肢に見せつけたのちに恐る恐る戻ってきた第二分校。

 陽は傾き始め、空は西へと青と橙のグラデーションを描き、緑に囲まれたトリスタは遠目で薄ら見える淡い霧が綺麗な時間。

 

 皇太子サマから呼び出しを喰らった場所は第二分校の屋上。まだまだ部活動に勤しむ同級生らから軽く挨拶をもらっての道筋は、まるで足に鉄球でも繋がれているかのような重さであった。

 できるものならばこのまま再びエリンの里に戻りたいものだが、ペンダントが次に使えるようになるまであと半月かかるので、逃げ場所もない。……いや、なんならこのまま高跳びしてやろうかなぁ。外交上帝国とは明らかな敵対関係ではないリベールに行くと、国際指名手配されて逮捕される可能性があるし、ここは帝国からの難民として共和国の方に行ってしまおう。

 うん、皇太子サマがなんか怪しい動きをしたら、そうしよう。

 念の為に持ち歩いてる閃光弾を取り出しやすい位置にズラせておく。俺を逮捕するってんなら、正当な抵抗をさせてもらうためにもな。

 それでアラミスに行って、軍務とか教練とかばっかりの士官学院とはおさらばだ。悪りぃな同級生ども、俺は一歩先に青春を楽しんでくる!

 

「ノクスさん?」

「え、アル? って、みんなも」

 

 俯きながら後ろめたい気持ちで楽観的な妄想をしてたものだから気づかなかったが、屋上に繋がる扉の前で、VII組の面々が集まっていた。

 

「ノクスか。先までどこにいたんだ、お前?」

「え? あー」

 

 ライカに問われて困ってしまう。どう答えようか……。

 

「イストミア大森林でお花を摘みに……」

「……お前のトイレはどんなスケールをしてるんだよ……」

 

 いや、隠語じゃなくて、ガチなんだけどね……。言っても仕方ないから言わないけど。

 

「で、ライカたちは何をしてんだ? 皇太子サマにお呼ばれしたの?」

「いや、そういう訳じゃないけど……」

「どちらかと言えば、呼ばれたのはリィン教官でしょう」

「教官が?」

 

 と、VII組のみんなと同じく息を潜めて、屋上で繰り広げられている会話に耳を澄ませる。

 

 ふむふむ。なになに?

 昼間の決闘騒ぎについての謝罪と、そんなことをした理由について話しているらしい。なんでも首席を譲らされてムカついたのもあるんだと。で、あの顛末になったものの、今は俺に対しては怒っているわけではないし、あとで迷惑をかけたと謝っていると伝えてほしいとのことだ。

 

「死刑にならなくてよかったわね」

 

 ニヤニヤしながらこっちを見てくるユウナ。

 

   <選べ>

 

【泣きじゃくりながら怖かったと言い、ユウナに慰めてもらう】

【帝国男児たるものここは切腹をしてセドリックへの謝罪とする】

 

「怖かったよぉ〜!! ころされるかと思ったよぉおおお!! うえぇぇええええーん!!」

「え、えぇ……。そ、そんなに怖かったの……?」

「だったらなでなでして欲しいなぁ〜」

「……え、えーと…………」

 

 ほら見ろ、ユウナも困ってんじゃん! だったら下選べばよかっただろって? ユウナがもっと困るわ! ……困ってくれるよね?

 

「ほら、バカなことやってないで話を聴けって」

 

 と、ライカから叩かれる。

 うん、その通りだね。落ち着いて盗聴くらいさせろよ。

 そうして再び耳を澄ませると。

 

「ですからリィンさん、次の特別演習が終わったら、本校に移ってもらえませんか?」

 

 皇太子サマがそんなことを言い出していた。

 

「え……?」

 

 と、リィン教官も鳩が豆鉄砲を食ったよう驚いている。

 

「第二分校も悪くない環境ですが、それでも“2軍”でしかない。今年の本校は前と有望な候補生も多く、設備や教官陣も遥かに充実しています。若き英雄たる≪灰色の騎士≫が始動するならどちらが相応しいか、議論するまでもないでしょう」

 

 なんて(のたま)うものだから、黙って聞いてられるかとばかりにユウナが飛び出した。

 

「ちょっと! 本校だか何だか知らないけど、いきなり来てリィン教官の所属を変えるって、いくら何でもそれは強引すぎるでしょ!」

 

 ユウナについでに俺たちも屋上へと出ていった。

 

「ああ、ユウナの言う通りだな。リィン教官や第二分校の事情を少しは考えて見た方がいいんじゃないか? いくら帝国の皇太子とはいえ、そんな無茶が簡単に通るとは思わないが」

 

 ライカも助太刀に駆けつけたようだ。同じ部活なだけあって、あいつらいつの間にか結構仲良くなってるんだよな。まあ、あんだけの依頼をこなせばそうなるだろうけど。

 

「君たちは……、リィン教官の生徒――VII組かな?」

「そうよ! 何か文句があるわけ?」

 

 口調強めで言い返すユウナ。……文句ならあるだろ、俺ら盗聴してたの忘れたのか……。

 

「昼にもいたけど、まさかクルトが第二分校なんかに入ってるなんてね」

「……っ…………」

 

 言いたい言葉を飲み込み、ぐっと息を堪えるクルト。旧知の仲なのだろうか。ヴァンダール家だし、知り合っていないことはないだろうが。

 

「長きにわたる皇族守護職からのヴァンダール家の解任。君の方も大変だったのだろうね」

「……」

「ショックだったのはわかるが、だからと言って本校への入学を辞退する必要はなかったんじゃないか」

 

 え、クルトも本校から(自主的に)蹴り出された系男子?おお、マジか! 一気に親近感が湧いてきたぞ!

 やっぱそうだよなぁ、戦争をする帝国なんてクソ喰らえだ! 仲良く卒業したら別の国に移住しよう! 俺のおすすめはレマン自治州。いざとなれば遊撃士に転職だ!

 

「丁度いい。君もリィンさんと共に本校に移るといい! そして君の望み通り、僕の護衛を務めながら切磋琢磨して欲しい」

「え……」

「政府の決定ごとき、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ん? え?

 そんなことが出来るのか?

 …………………………。

 思索にふけていると、

 

「黒兎のお嬢さんも久しぶりだ。リィンさんが本校に移ったら君が移ることも認めてあげよう」

「はぁ…………。本校に、移る……」

「おいおい、勝手に話を進めてんじゃねェぞ」

 

 浮浪時代の荒っぽい口調がで始めるライカ。流石に皇太子相手に噛み付くのは得策じゃないので、肩をさすって落ち着かせる。

 

   <選べ>

 

【ライカの背中をさすりながら、その奥のブラジャーの感触を精一杯味わう】

【クルトの尻をさすりながら、その奥のパンツの感触を精一杯味わう】

 

 何でだよ! 空気読めよ! おい! そんなことしてる雰囲気じゃねえだろうが!

 

「お、落ち着け……!」

「あ、ああ……。すまん」

 

 当たり前だけど、上の選択肢を選んだ。

 後悔はない。罪悪感はあるけど。

 選択肢の強制力によって、全集中力が無理やり手の方に持って行かれている中、まだ春先で冬服のブレザー越しに感じられる触感に身を任せていた。

 うん、小さくてもちゃんとつけてるんだな。

 

 あれ、ライカが鬼の形相で俺を睨みつけてる。え、俺なんか悪いことしたっけ……?

 

「それにノクスくん、君もだ。……女子制服から着替えたのか?」

「いいだろ別に」

「それはそうだけど……。まあいい。君のその才覚と武術、第二分校ではさぞ持て余しているだろう。僕としても、ライバル足り得る君のためなら、本校入学取り消しをもみ消してみせるさ」

 

 なぜか俺の方にまで勧誘の火は飛び移ってきた。

 だが、舐めないでもらおうか。お前についていったらそれこそ軍人への道まっしぐらなので、死んでも行かないぞ。

 

   <選べ>

 

【もう一度教育的暴力をちらつかせ、改心するように伝える】

【ホイホイついて行っちゃう】

 

 行かねえよ! ってか、上の選択肢もキツくない? 要は皇太子サマ相手にしばかれたくなかったらわかってるよなって脅すんだろ……? ええい、ままよ! 帝国にいられなくなっても知らん!

 

「俺の親父は黒月の長老だし、お袋は猟兵の師団長やってっかんな。産まれてすぐ助産婦をタイマンでボコして以来1億戦1億勝0敗貫く、泣く子も黙る最強の喧嘩屋に、てめえのようなママごとやってるシャバガキが調子に乗ってっとシメっぞ?」

 

 と,俺の口から垂れ流された訳のわからない言葉は、皇太子を含めたこの場の全員が総ポカーンを喰らうこととなったレベルには意味のわからないものだった。

 この場の全員にもちろん俺も含まれる。

 

「何言ってんの、みたいな表情してるけど、それを言いたいのはオレらだからな?」

「国際犯罪組織の重要幹部の血縁者でしたか……。要警戒リストに追加します」

「あたしが言うのもなんだけど、相手は一応この国の皇太子なのよ……?」

 

 特に女性陣からの反応が芳しくない。

 うん、予想通りだ。

 てか……。教育的暴力じゃなくて、これじゃあただのヤンキーだよ。それもくっそ旧時代的な。

 

「え、えーと……?」

 

 皇太子サマもどう反応すればいいのかわからないという表情だ。

 

「い、いずれにせよ、リィン教官には是非来てもらいたいんです。どうですか?」

 

 と、俺の存在が無かったことになった。気のせいだろうか、その無視がなんだか心地よい……。

 

   <選べ>

 

【あらん限りの力で一切の容赦なくセドリックをボコボコにする】

【女の子になる】

 

 ・・・・・・

 

「ノクス……?」

「え、あ、な……、何ですか……?」

「……いや、何だか様子がおかしいみたいだが、何かあったのか?」

「な、ナニが……!? ……いや、何が……何が…………」

「……本当に大丈夫か?」

 

 リィン教官が心配そうにこちらを覗き込んでいる。

 

「声も出ないようだし、体調が悪いのか?」

「ひゃっ!?」

「? どうしたんだ?」

「あ、いや、それは……」

 

 こちらを近距離で覗き込んでくるリィン教官。その行為が純然たる心配からくるものだとわかっているけど、今はちょっと……。

 いや、その意識してるとかじゃなくて、単純に……。このレベルの観察眼の人にはバレかねないというか……。

 だからちょっと距離を取ろうとすると、その分だけ近づいてくる。

 …………え、リィン教官まさか察してないよな。今までこんな距離近くまで来たことなかったよね? 野郎相手に盛る人じゃないんだろうけど……。……………………いや! だからこそか!?

 この教官って結構女たらしだというのは、前回の実習で確認済みである。噂を聞くに、あの時いたラウラやフィーって人以外にも色々手を出してるとか何とか……。

 それに“パートナー”と勤めていたというアルから、度々不埒な行為をされたとか何とかって話も聞いてたし……。

 まさか……!

 

「医務室まで一緒に行くか?」

「医務室まで一緒!?」

「え、えーと、そんなに驚くことか?」

「普通、だと……!?」

 

 や、やべえ!に、逃げないと……!

 何から?

 俺を医務室で食べちまおうとしてるリィン教官と、この心の奥底から湧き出る恐怖心からだ!!

 

「失礼します!!!」

 

 と、全力疾走で逃げる。もしリィン教官が追いかけてきてたら、神気合一で逃げよう……!

 

 という俺の想定も虚しく、リィン教官は追いかけてこなかった。流石に自重したか? ……いや、もしかしたら俺の考えすぎかもしれん。

 けど、警戒するに越したことはない。

 

「はぁ……」

 

 少しため息が出る。

 何でこうなってしまったのか……。

 気を抜いたため息の音が数段普段より高いのはただ単に気のせいかもしれない。念の為に一応、最も重要な場所を確認しよう……。

 

「やっぱり……ない…………」

 

 長年連れ添ってきた彼がいない……。

 雨の日も風の日も、悲しい日も楽しい日も、苦難の日々も全てを一緒に過ごしてきた彼がいないのだ……。

 

 あのあと、リィン教官はたとえ皇太子の言であろうと、VII組の担任でい続けると宣言し、みんなが一安心することとなったのだが、そのようにことが無事運んだことには、俺の尊い犠牲があってのことであった。

 俺は犠牲となり、私となった。

 

「マジかよ……」

 

 あの場でいきなり皇太子を殴りにいったら碌なことにはならなかったことだろう。俺は逮捕、教官は無理やり本校へ、存在意義の失われたVII組は空中分解と。

 だからこれはコラテラルダメージなのだ。

 けど……。

 手を下半身から上半身へと移す。

 むにゅむにゅ。

 うーん。

 柔らかい……。というか力入れたら痛い。

 サイズは……。おそらくアルやライカといい勝負? 別に価値観が女になったわけではないので、サイズが微妙でも大きくなりたいとは思うことはない。というか小さい方が誤魔化しやすいだろう。

 この選択肢のいたずらがいつまで続くかわからんが、女として生きていかないといけないことになったら、その時はその時に覚悟を決めるけど、少なくとも士官学院にいる間は男ということで通していくしかない……。

 

「でも、これじゃあどうしろって……」

 

 夢中になってリィン教官から逃げてたどり着いた場所は、寮だった。自室に戻ろう。ルームメイトがいなかったことを女神に感謝しよう。

 

「いや、その前に……」

 

 まだまだみんなが分校にいる間に風呂に入ろう。

 誰かに見られたら、終わる。俺の尊厳、自己同一性、羞恥心、そのうちの何かが。

 

 片っ端から服を脱いでいく。

 ブレザー、シャツ、ズボンと……。

 

(な、なんで肌がこんな敏感なんだよぉ!!)

 

 心なしか肌がスベスベなんだが! しかも今まで鍛えてきた筋肉が全部ぷにぷにとした女の子のそれに変わってるんだけど!

 最後の最後に残った、いまだに履き続けていた女性用下着が完璧にフィットしてるんだけど!!!

 

 恐る恐るパンツをずり下げていく……。

 やっぱりない。

 というか、前まであった毛的なものすらない。

 

「……驚くほど興奮しないな…………」

 

 正直裸の女の子を見たら卒倒するほど興奮する自信があったのだが、自分自身だと……。なんか、あ、ふーんってなるわ。

 

「さっさと入ろ……」

 

 シャワーもそこそこに、湯船へと飛び込む。

 風呂に浸かっていれば、少しは気が軽くなると思って。

 

 ざっぶーん。

 

 それにしても、これからどうすべきか……。

 まあ、授業とか教練とかってのは、制服が軍服なだけあって、着替えることがないのがありがたいものなんだが、たまにある屋内プールでの水練の時間がどうしようか……。

 見下ろす限りでは、一応男として主張できなくはないサイズだが……。いや、難しいか……。

 競技用水着の着用の申請をしないとなぁ。流石にそれくらいの融通は効くだろう。

 それ以上に大事なのはトイレである。

 個室に入ってすればいいというのはその通りだが、あいつやたらと個室入りたがるぞと疑われるのは避けないといけない。ゆえに、連れションはもってのほかで、できればあまり人のいない時間帯にトイレに行く工夫をしないといけないだろう。

 あとは、リィン教官のように察知能力の高い人相手にどうすべきか。

 分校長についていえば、もう諦めよう。バレたらバレたでどうしようもないし、あの人ならバレても大きな処断が来ないだろう。

 問題はミハイル教官やミュゼ、アッシュあたりだろうか。

 ミハイル教官からは可能な限り距離を取ることで対処して、ミュゼやアッシュの前では出来るだけ目立たないように行動しよう。あいつらの観察眼は並々ならないものがあるからなぁ……。

 

「ん、こんな時間に先客がいるのか」

 

 あと要警戒人物としては、ユウナやライカがいる。普段よくつるむ2人だけあって、俺の所作の違和感に敏感だろう。そこで察されないように、できるだけ女の子っぽい仕草をしないように気をつけなければならない。

 どんな摩訶不思議な力を使っているのか知らんが、骨格からして女の子になっているようなので、例えば内股で歩いたり走ったりするのは厳禁だ。

 

「入るぞー」

「へ?」

 

 顔を見上げると、そこには茶金の髪の男が肩にタオルをぶら下げて全裸で入ってきてた。

 

「な、何で裸なんだよ!」

「はぁ? ここ風呂だろうが」

「あ、そうだった!」

 

 そうだった、ここ風呂だった……!

 って、何でアッシュが!? まだ部活してたんじゃないのかよ!

 

「あ、あー。ぶ、部活の方はいいのか? 結構、は、早い時間だし」

「あ?」

「ひゃっ……」

 

 と凄みを効かせてこちらを睨みつけるアッシュに対して咄嗟に体を隠す。湯気で見えないだろうけど、警戒するに越したことはないのだ。

 

「文芸部だから、時間には自由が効くんだよ。それより、お前の方はどうなんだ? 流石に値上げをしたらしいが、それでも仕事はたくさんあんじゃねえのか?」

「あ、ああ。今日の分はもう終わったからな……」

「ふーん。昼間には皇太子サマとどんぱちもして、なかなか充実してそうじゃねえか」

「羨ましいなら代わってくれよ……。くだんの皇太子がその気になればいつでも俺は処刑されるんだぞ……」

「ははは、そりゃあまた傑作だな」

 

 全くあの皇太子、何を生き急いでるのか知らんが、少しはオリビエみたく余裕をもってどんと構えていろよな……。誰に唆されて調子に乗ってるんだか。

 ……って、そうじゃなかった! 今は一刻も早くこの場から安全に立ち去らないと……!

 

「そ、そういえば、アッシュ」

「あ? 何だ?」

「えっと、そのぉ…………、やっぱアッシュも湯船浸かる系男子だったり……?」

「はぁあ? 男子も何も、風呂があるんだから入るに決まってんだろ」

「そ、そうだよねぇ……」

 

 くそっ! アッシュが風呂入らずにシャワーで出ていくかもしれないと言う俺の見当が外れた! 湯船で時間を過ごしてやり過ごすのは難しいだろう……。

 だが、これは予測済み! まだまだやりようはある!

 よし、ここは第二策だ!

 

「あっと、その、風呂入る前にちゃんと髪は洗えよ?」

「お前に言われなくとも洗うわ。てめえは俺のオカンか」

「うん、オカンってことにしていいから、しっかり洗えよ? 鳥の糞とかがついてるかもしれないからな?」

「……、お前なんか今日様子がおかしいぞ?」

「へ?」

 

 やっばい! 怪しまれている!

 こちらを観察するように睨みつけてくるアッシュの視線からできるだけ体が隠れるように腕で隠す。そしてできるだけ何もなかったような顔をする。

 頼む! バレるな!!

 

「お前……」

「ひ……っ」

 

 何か察した様子のアッシュ……。

 や、やめてぇ……。お願い……! こんな場所でバレたら何をされるか……。

 

「お前、バテてねえか? 随分と痩せてるじゃねえか。もっと食って休まねえと、授業にもついて来れなくなるぞ?」

「え? あ、ああ、そうだよねー」

「つっても、てめえは明日の機甲兵教練も見学だろうがな」

「どうしても機構兵はまだまだ慣れてなくてね……」

「ふん、操縦できずに暴れられるよりかはマシだろうな」

 

 まあ、暴れる以前にこけるだろうけどね。

 ただ幸いにも体の変化を早い夏バテだと判断されただけだったのでよかった。確かに夏の熱気が感じられ始められる時期ではある。

 

「アッシュの方も最近寒暖の差がひどいから気をつけろよ?」

「はッ、お前に言われるまでもねえよ」

「……まあ、アッシュはいつだって元気に野原駆け回ってそうなくらい元気だもんな」

「人様をガキ呼ばわりしてんじゃねえよ」

 

 そう言い様に軽く体を水で流し終えたアッシュがシャンプーに手を伸ばして、数プッシュほどソープを取り出し、頭につけた。

 お、いいタイミングだ。

 それなりに長い髪なので、さぞ泡立ちもよく、すぐには洗いきらないだろう。この隙に、離脱させてもらうとしよう!

 

 立ち上がりざまに、頭に乗せていたタオルを、早撃ちでもしないようなレベルの素早さでもって腰に巻き付ける。もちろんだが、その間の警戒も一切怠っていない。

 アッシュはゴシゴシと頭の泡をかき混ぜている。

 よし、第一関門突破! このまま音を立てずに湯船から上がり、摺り足で入り口へと歩いていく。あくまで目立たずに、静かに。

 アッシュは自分の髪を洗っているのに夢中だろうけど、何かの拍子でこちらを向きかねないので、慎重に慎重を重ねるのだ。

 

「そういえば、ハーカナ」

「ひゃ、ひゃい!?」

「……? 随分と出るのが早いな」

「あ、あー。その、今日はちょっと体調が悪いし、のぼせちゃったらいけないからねー」

「ふーん。まあ、いいや。それで、お前に話があるんだが」

「へ?」

 

 俺に話!? な、何の話だ……!?

 

「……お前、この前チビ兎と帝都にいただろ?」

「帝都……? あ、あの時か」

 

 アルを助っ人として呼んで、依頼を解決してた時の話か。

 

「でも何で知ってるんだ?」

「たまたま帝都に用事があったからな。それで、てめえらの後をつけてもらったんだが」

「いや、何でナチュラルに尾行してるんだよ……」

 

 てか、全く気づかなかったし。……おそらく気配を消してただけじゃなくて、相当距離を置きながらついてきたんだろうなぁ。

 

「最後に見つけた武装集団を見逃したそうじゃねえか。あれは何だったんだ?」

「え? あー、それは社外秘というか秘匿事項というか」

 

 共和国のスパイを見逃したなんて言えないので、誤魔化すしかない……。

 しかも2回も……。

 

「……、まあ、そいつらが何者なのか、当ては大体ついてるがな」

「へ、へー。俺には何者なのか全く見当もつかないや。あははー」

「それで、てめえの本校でやらかした演説とやらも聞かせてもらったが……」

「な、なんでアッシュがその内容を知ってんのかなー……」

「緑青の女狐から原稿をもらった」

「ミュゼか……!」

 

 やつめ、何人の黒歴史を広めようとしてるんだ!?

 

「調子に乗った口調と、ところどころ挟まる中二病フレーズを無視すれば、あながち出鱈目を言ってるわけでもなさそうだった」

「その口調とフレーズをできればお忘れいただきたく……」

「ふん。それで、てめえはどこまで掴んでる?」

「ひゃっ!?」

 

 泡だらけの状態で俺を睨みつけるアッシュ。急いで胸を隠す。……というかこの仕草のせいで異変を察知されてしまうのではないか……!?

 ……という俺の懸念は、目にシャンプーの泡が入って痛がり出し、シャワーのレバーを探しに目を瞑ったまま右往左往しているアッシュの姿によって否定された。

 ……泡が目に入るってわかってただろうに。

 

「うーん」

 

 しかし、どこまで、と聞かれると難しい。

 この国が国益を無視した戦争に走ろうとしていることや、そのための準備を着実にやってきたことはわかる。あとは、何らかの方法で、限界まで達した諸外国の防衛体制を崩すための融和策を展開して油断を誘い、同時に開戦事由を得て帝国国民の開戦意欲を発揚し、最終的には大陸を巻き込んだ世界大戦へと足を踏み入れるだろう。

 ただこれはアッシュの欲しい情報ではないだろう。今の話はすでにあの演説でしたものだから。

 ならばこれを裏で全て操っている黒幕が誰なのか、というのがアッシュの聞きたいところだろう。

 

「……俺も全容を掴んではいないぞ」

「それでもいい」

「……。今まで疑ってたのは、ユーゲント・ライゼ・アルノールIII世とギリアス・オズボーン。だけど、どっちでもなさそうだ」

「……?」

「有り体でいえば、わからん。当てがあったのに両方が外れたんだよ」

「…………そうかよ」

 

 そう言うとアッシュは再び目に入ったシャンプーをゴシゴシと洗い流し始めた。

 ……って、長々と喋ってしまったけど、一刻も早くこの場から立ち去らないと……!

 

 急いで全身の水を拭き取り、即刻服を着る。

 万が一にでも途中で他の人が入ってきては、明日から学校を歩けなくなってしまう!

 

 そして着替え終えた俺が急いで自室に戻ろうとして更衣室から出たところ、風呂入りにきたリィン教官とすれ違った。

 

(っぶねぇ……。もうちょいで鉢合わせるところだった……。それにしてもこの人(リィン教官)、俺が女になった途端にやたらと出会いやすくなってないか……?)

「……?」

 

 訝しげにする俺を見て困惑しているリィン教官に別れを告げ、急いで自室のベッドに飛び込むことにした。

 一刻も早く、こんなこと(女の子になった)を忘れるために。

 

 ・・・・・・

 

 ……? あれ?

 え?

 み、見間違いかなぁ……?

 でも、そんなわけないし。

 …………。

 うーん、でもこんなことってあり得るのかなぁ。

 確かに身体操作で性別が違う人のフリをするのは不可能じゃないけど……。

 でもあれ、多分おち◯ち◯すらなくなってる……。

 

「? どうした、白銀の剣聖殿?」

「あ、いや、少し気になることがあって、ね」

「ふむ、ノクス・ハーカナのことか。どう言う理屈で女体化などを成し遂げたかは知らぬが、それも彼の――彼女の使命であろうな」

「使命、ねぇ。それでもあなたの生徒でしょ? 心配してあげないの?」

「なんの。それ如き試練を乗り越えられないほどではあるまい。……だが、女子としての融通は利かせてやらねばなるまいな」

「あ、らしくもない、いい笑顔をしてるね。分校長さんもノクスのこと気に入ってるの?」

「貴殿ほどではないさ」

 

 今のところ、まだ表立って動くのはまずいから、影で見るしかないのだけど……。

 けど、来週には色々と動きやすくなるだろう。

 それからは、今までの約束を果たしてもらおうかな。

 とりあえずは、帝都の観光だ。

 

 ・・・・・・

 

 俺の手元には何故か第二分校の女子制服がある。

 早朝の自室の玄関先に置いてあったものだ。

 さらに、その制服の上には紙が置いてあった。

 

 曰く、

 

 ――本日よりノクス・ハーカナは女子制服での登校を義務付ける。異論は受け付けない。

 

 俺は静かにため息をついた。

 溢れる涙は塩水の味だった。




 TS要素があまりウケが良くなかったみたいで、原稿を一度取り下げて、時間置いてから考えようとした結果、やっぱりこのまま書いていこうと思いました。

 できるだけたくさんの読者の皆さんの楽しんでいただけるように書いていきたいのですが、それと同じくらい自分が書いていて楽しい作品を作っていきたいなと思ってのことです。

 とはいえ、作者はかなりの豆腐メンタルをしているので、モチベーション維持が難しそうになったら、ひっそりとチラシの裏に引越ししたりするかもしれませんが、どうかお許しください。


 さて、この話で主人公が女の子になってしまったとはいえ、この作品の“今のところ”のストーリールートというのは、あくまでもノクスくんが頑張っていく形であって、ノクスちゃんになってしまうことを受け入れていくという形ではありません。ノクスくんの設定の根幹に関わる話なので、詳しくは語れませんが、ノクスくんがノクスちゃんでは不都合があるので……。

 それでは、どうかこの作品の行方を暖かく見守っていただければ嬉しいです!

TS要素は……? そこまでどっぷりというわけじゃなく、ギャグ要素として入れてみたいですが、どうでしょうか?

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