トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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北斗の拳とその再翻訳のネタが少しだけ入ります。


5月20日 クロスベル 1日目 午前(1)

 ――午前4時40分。

 

 

 裏ルートを使って一足早くクロスベル入りをした俺とリィン教官。

 デアフリンガーの到着予定時刻は5時30分とのことで、それまでに仕込みを完成させておかないといけないのだが。

 

「……ジオフロントには行ったことがないわけではないが、まさかこんな場所まであったとは……」

「まあ、あんまり使われてない場所ですからね」

 

 リィン教官を連れてきたのは、ジオフロントD区画。

 議会議員のための駐車場になる予定だったものの、新らたな議会の建物となったオルキスタワーから離れている点や、そもそもクロスベル自治議会の解散など紆余曲折があって、今はただだだっ広いだけの地下空間になっている場所。

 今じゃあ人の出入りも少なく、小型の魔獣の棲家になってしまった場所。

 正規の入り口が崩落によって閉鎖された今、本来ならオルキスタワーの地下構造部分から入るのが正規ルートになるのだけど、西通りの端にそこに通じる道があるのだ。……政府すら把握しきれていない――というか把握し切ることを面倒がって諦めた場所なので、驚くほど簡単に進入ができたのだが。

 

「所々使われていない廃車がある通り、ここは駐車場予定地域として建築された区画になってます。なので、その車の整備のための施設や、わずかながらですけど燃料も放置されたまま残ってますよ」

「きみが言ってた、簡単な補給ができるというのはそのことか」

「はい。……教官の騎神にはそういった補給は必要ないみたいですけどね」

『うむ、その通りだ、緋き者よ。この体は霊力によって稼動するゆえ、通常の燃料は必要としない』

 

 やたらと渋い声が響き渡る。なぜか俺を緋き者と呼ぶ声。

 俺たちがデアフリンガーの速さを超えて、一足先にクロスベルに辿り着けたその理由。

 自我を持つ銀色に輝く騎士人形が、俺をその目で射抜きながら喋っていた。

 

「何か裏があると思ってたんですけど、騎神ってのは性能が高いだけじゃなくて、自我まで持つんですね」

「ノクスは初めて見たんだったか? 前回の特務活動では合流が遅かったようだし」

「見たこと自体は何回かありますよ。喋ってるのを見たのは初めてですけどね」

 

 そしてそれに対して大きく驚かない自分にもため息が出そうだ。

 ……何せ、喋る兵器が初めてじゃないからね……。

 つい先ほど喋りかけても無反応だったから、今の時間はおそらく寝ているだろう虚のことを思い出す。

 

「……精霊の道やらなんやら言い出した時には、ついに教官も新興宗教にハマってしまったかと思ってたんですけどね……」

「あはは、知らないとそういう反応にもなるだろうさ」

 

 しかし自我がある人形兵器ねぇ……。

 これについてもあながち初めましてってわけでもなさそうな気がするんだよなぁ。

 具体的に言えば、虚に乗っ取られた時の機甲兵。

 あれって、ハードウェアはともかく、ソフトウェア的に言えばヴァリマールと同じ状態だったのでは……?

 

 ……いや、そんなことはない。…………ということにしておこう。でなければ、下手すると帝国政府に治安維持の指令を出されたり、果てには英雄として担ぎ上げられかねない……。

 

「そういえば、よくこんな場所を知っていたな、ノクス。もう使われていないとはいえ、ジオフロントって確か特別な許可がないと入れない場所じゃなかったのか?」

「その通りっすね。その特別な許可ってやつをもらって入ったんですよ、ここ」

 

 その許可を出してきた人の顔を思い出しながら言う。

 今もどこかでウクレレを弾き語りしながら、誰かに迷惑をかけているだろう金髪の彼だ。

 ……悪い予感ほど当たるってやつで、俺は今どうしても彼がこの地で行われるVIPとやらの視察の一員としてやってくるようにしか思えないのだ。昨日の出発前に分校長が言ってた話である。

 

「テロリストと猟兵団の戦闘に巻き込まれて、危うく女神のところまで直通便で行くことになった場所ですよ……」

「……一体どういう経験なんだ、それは……」

「要約すればギリアス・オズボーンのケツにロケット花火をぶち込まないと俺の気はおさまらねえ、ってやつですね」

「どういう要約だよ……」

 

 嫌な思い出に嘆息が止まらない思いでいると、

 

「っと、そういえば、俺たちってここに来るのにヴァリマールさんの精霊の道ってやつを使いましたよね?」

「ああ、そうだけど?」

『運よくこの地が霊脈の集積地点だったゆえ、使用に問題はなかった』

「けど、帰りってどうします?」

 

 ヴァリマール本体がないと使えないだろうし。

 それに、デアフリンガーが今霊脈とやらの上にあるかもわからないだろうし。

 

「あ」

 

 何か致命的なことに気づいて、口が開いたまま閉じなくなった教官。

 その口に、ここまで来るときに狩った魔獣の可食部の刺身に手持ちのソースをかけたものを放り込んであげた。

 なぜか咳き込んだのちに吐き出してしまった。

 やっぱり帝国人には耐えられない生臭さだったのだろうか。

 今度はわさびをつけて渡そうと思った。

 

 

 ・・・・・・

 

 演習予定地でデアフリンガーを待つとかいう奇妙な体験をして、トワ教官に詰め寄られた挙句にミハイル教官に叱られるリィン教官という珍しいものを見せてもらったので、お腹いっぱいになって気づかれないようにそーっと荷物の搬出をしてる士官学院一生徒に紛れようとした俺の試みは、しかしランディによって止められた。

 

「お前がいなかったことは、朝の点呼の時点でバレてるんだっつーの」

 

 という至極真っ当なルートでの説教だったため、くすくすと笑う級友の隣でご指導を賜るしかなかった。

 

 そして二人して仲良く怒られたのち、VII組と教官陣とのブリーフィングが始まった。

 

 前回と同じく、どうやら今回もかなりの大物との面会から特務活動が始まることが決まったようだった。

 

 ルーファス・アルバレア。

 クロスベルの第一代目の総督であり、クロスベル州の統括をしている人物だ。

 

 彼の顔を見たことはそれとなくあった。

 俺がクロスベルを離れて帝国に行くまでの数ヶ月間、共和国との紛争を指導したのも彼であり、新聞のみならず、街頭放送車のスクリーンでもよく見る人だった。

 帝国に行ったのちも何かとよく耳にする人で、その辣腕を十全に振るいながら、不安定これ以上ないクロスベルの土地で、それなりに安定した施政を行っている。

 

「目の前はエルム湖。遊覧船とかも運行してるわね。右手に遠く見えるのはミシュラム――リゾート地ね。そして左手に見えるのが……国際貿易都市、クロスベルよ」

 

 演習地から出たウルスラ間道で、得意げにクロスベルについて語るユウナの姿を見ながら、俺も少しばかり郷愁の思いに駆られつつ辺りを見回した。けど、すぐに辞めた。

 エルム湖に浮かぶちょっとした遺跡はいい。

 なんとも風情があり、縁結びの地として親しまれているし、素晴らしい場所だ。

 けど……。

 

 俺、ミシュラム湿地帯で魔女の依頼を聞かないといけない上に、立派に聳え立つオルキスタワーの機能を停止させないといけないんだよなぁ……。

 ウッキウキ気分をぶち壊すことになるミッションについて暗澹たる気分になっていると、

 

「ノクス、どうしたの……?」

「え? あ、その……。久々にここ通ると懐かしいって感じになったというかなんというか」

 

 心配そうにこちらを覗き込むユウナに、今からテロの計画を立ててますよーというわけにもいかず……。

 

 そうしてウルスラ間道を歩いていると、運良くバスがやってきて、それに乗ってクロスベルの東口まで移動することになったのだった。

 

 ・・・・・・

 

   <選べ>

 

【ルーファスの執務室にカチコミをかける】

【ダイナミックおじゃましますをぶちかます】

 

 ルーファス総督がいるであろう、オルキスタワー上階の部屋の前。

 世界は止まっていた。

 俺の思考も止まった。

 

 クロスベルに入り、旧市街以外はあまり詳しくない俺と違って、都会出身のユウナの案内に従いながらたどり着いたオルキスタワー。

 そこで俺の命運は尽きようとしていた。

 

 カチコミって、あれだよね。借金の取り立てとか、そういうの。

 それか、強制家宅捜索とかそういうのもあり得るか。

 なんで?

 なんで、クロスベル総督の執務室にカチコミをかけないといけないの?

 うん、この選択肢はダメだね。

 じゃあ次。

 選択肢(こいつ)がダイナミックと言ってるんだ……。

 さぞ、破格のスケールでお送りするんだろうなぁ。

 カチコミですら、ダイナミックではないという判定になりかねない……。

 

 ……。

 俺のクロスベル帰郷および特別実習は始まった瞬間に終わった。

 

 もういいや。ランダムに選んじゃえ!

 

 

「? 何を――」

「聖帝にあるのは制圧前進のみ! 俺は扉の反逆も許さぬ!!!」

 

 俺のコントロールが一切効かない体はそう叫びながら、執務室の扉を蹴り飛ばした。

 そして吹き飛ばされた扉を見下ろしながら、

 

「聖帝に逆らったものは降伏すら許さん!!」

「おい! ノクス!」

 

 乱心した俺を止めようとライカが語りかけたが、俺はそれを無視した。

 ……俺は無視したというか、俺の体は無視した。

 

「……随分とヤンチャな訪問者が来たものだね」

「フッ……。その遠吠えが貴様の最後の遺言になる!」

「遺言とは穏やかじゃない。そうとは思わないかね、ノクス・ハーカナくん」

 

 不適な笑顔を浮かべながら、ルーファスは俺に相対した。

 さすがは総督である、こんな事態にも関わらず余裕である。

 

「おい、ノクス! 落ち着け!」

 

 そういうリィン教官の制止の声もしたが……。

 

「天空に極星は七つもいらぬ!!」

「極星が七つ……」

「極めて星は一つ! 空に輝く天帝はこの聖人の帝ノクス将軍のです!」

「……」

「ついでに、貴様らにも宣言させてもらおう!」

 

 そう言うと、俺はクロスベルを見下ろす防弾ガラス越しに見える、こちらを監視するような機械に向かって叫んだ。

 

「貴様らが紡ぎし歪んだ御伽話は、緋き黒鉄が全てぶち壊す」

 

 ……。

 今まで聖帝を語ってたのに、今じゃあ緋き黒鉄ときた……。

 ただの厨二病として片付けるのが楽なんだが、ヴァリマールも俺を緋き者なんて呼んでたし、これまた何かめんどくさい話の伏線になってそうで困る。

 ロゼたんの時もそうだったけど、俺の体を乗っ取って俺も知らない秘密を語るのはやめて欲しいものだけど……。

 そして俺の体は、未だ俺の意思には戻らず、ついでとばかりに壊れたために開けっぱなしになっている扉の方に向き直して、

 

「”計画”を乗っ取られている蛇ども、貴様らは我らの戦いを”指を咥えて眺めること”だな!」

 

 という言葉と共に、俺の体に自由が戻った。

 目の前ではあまりのことに呆気に取られているVII組の面々+どうするべきかあたふたすると言う珍しい表情のリィン教官。

 おそらく後ろではルーファス総督どのが爆発寸前のトマトのようになっていることだろう……。

 

 さあ、考えろノクス。

 この場を切り抜ける方法を。

 何もかもを投げ出して逃げると言う最終手段的な選択肢すら使えないこの状況を……!

 

 真っ先に思いつくのは土下座である。

 ……情けないが、最も穏便に住む可能性が高そうだ。

 だが、よく考えると、そういうわけでもないかもしれない。

 俺は今学生の立場にも関わらず、教官の制止を振り切って総督に喧嘩を売ったわけだ。本当なら極刑でもおかしくはない。土下座でどうにかなるかというと……。

 ならないだろうな。

 いや、焼き土下座ならば……。

 だが、それでは俺がミッションの遂行ができんくなっちまう……。大怪我で済まないだろうし。

 

 では次策である。

 全ての責任をリィン教官に押し付ける。

 ……こんな選択肢しか思いつかない時点で、もう他に選べる方法がないんだなと理解する。

 うん、俺流石にそんな外道じゃないよ。

 

 よし。

 進退極まるこの際である。

 もう全てを諦めてしまおう。

 まずは抵抗の意思がないことを示すために全身の武装を解こう。

 次に両手を頭の後ろに組ませて、うつ伏せになれば、この場で処刑されることはないだろう。

 

 そう思って実際に実行に移そうとした俺だったが、

 

「ふふ……。ふははははは! さすがは便利屋――いや、今は便利部だったか? 遊撃士協会ともどもこの街から掃き捨てたのはどうやら間違いだったようだな」

「ルーファス閣下……!?」

 

 急に豹変したように笑い出すルーファスの様子に驚きが隠せないリィン教官。

 掃き捨てたって……。

 クロスベルで遊撃士協会の活動を禁止する法令とともに、それに類似した活動も禁止する法令が出されて、新生特務支援課なんてのができないだけでなく、俺のような職業も立ち行かなくなったと言うのは事実だ。

 けど、俺はその法令が出る前に、選択肢の強制力によってクロスベルをさることになったし、ルーファスのせいではないんだよね……。

 そんな指摘をしても仕方がないが。

 

「実に良い啖呵だな。実に良い。あのお方がきみに目をつけた理由もわかった気がするよ」

 

 俺、誰かに目をつけられてんの……?

 つーかこの人が”あのお方”なんて言う人、数人しか思いつかないし、高い確率であの人なんだが……。

 振り返ると、顔を俯かせならがくつくつと未だに笑い続けているルーファス。

 そんな姿を見て、リィン教官が口を開いた。

 

「……ルーファス閣下、ノクスの今までの無礼をお詫びします。まだまだ学生の身ゆえ、どうか寛大な措置をお願いします」

 

 リィン教官……!

 こんなに出来の悪い生徒をも庇うその姿……!

 感動のあまり、惚れちまいそうだ……!

 

「いや、気にすることはない。彼がもたらしてくれた諷示に比べれば、言葉遣いなど些細な問題に過ぎない」

 

 ルーファス閣下……!

 なんと心のお広い方なんだ……!

 感動のあまり、惚れちまいそうだ……!

 

「……ですが……」

「だが、扉を壊されたのだ。そのことについては罰を与えぬわけにもいくまい」

 

 いーや、やめだやめだ!

 こんなクロスベルをめちゃくちゃにしてくれた人!

 惚れるわけなかろう!

 

「追って沙汰は憲兵隊経由で伝えよう。何、大したことではないからそう構えるな」

「大したことではない……?」

「ああ。いずれにせよ、彼に出す予定であった依頼なので、その告知手段が変わっただけだ。それよりも、君たちは用事があってここに来たのではないのかね?」

 

 その後、俺たちはルーファスから特務活動の内容について聞くことになった。

 どうやら俺の蛮行に対してそこまで思うところがあるわけではないのは本当だったらしく、その後の話し合いは驚くほどスムーズに進んだ。

 

 クロスベル各地で幻獣が現れて騒ぎになっているらしいこと、特務支援課らしき人たちがそのうちの数体をすでに撃破していること、俺たちの主要な依頼はその幻獣と、憲兵隊の監視の目を潜り抜けて活動しているらしい結社の調査であること。

 ざっとまとめればこんな感じである。

 去り際にリィン教官に、魔女がこの地にいるらしいことも伝えていたが、選択肢のミッションからしてほぼ確定でいることだろうと思われた。

 まだ刷新されていないミッション一覧を確認するためにARCUSを開いてみると、

 

 

    <ミッション確認画面>

 

⦅期限:5月15日11時0分⦆

【シュピーゲルSに搭乗したセドリックの撃破】

 

⦅期限:5月20日12時0分⦆

【アルカンシェルへ顔を出し、イリア・プラティエと話す】

 

⦅期限:5月20日16時0分⦆

【オルキスタワーの導力機関を停止せよ】

 

⦅期限:5月20日20時0分⦆

【LOCKED】

 

⦅期限:5月21日8時0分⦆

【LOCKED】

 

⦅期限:5月21日16時0分⦆

【ミシュラム湿地帯にて魔女の依頼を達成する】

 

⦅期限:5月21日17時0分⦆

【LOCKED】

 

 ・・・・・・

 

 現在時間は8時過ぎ。

 朝っぱらからキビキビ動く総督様のおかげで渡された依頼の数件を片付けてからアルカンシェルに顔を出せば良いというくらいの時間ではある。……何でそんな口が悪いかって、どうもあの総督に良い印象が持てないっていうか、俺と全然違っていそうなのに、同族嫌悪を感じるというか。

 まあ、先ほどの行動を見逃してもらった分、感謝しているが。

 

「ノクス。きみがルーファス閣下をどのように思っているのか、それについて言う事はないが、先ほどのあれは流石に看過できないぞ」

「はい……」

 

 そしてオルキスタワーのラウンジで、リィン教官に説教されることとなってしまった。

 

「目上の人に対する態度だけじゃなく、一人の人間として他人と接する態度ではなかった。きみが学生だということでおそらく閣下も見逃しただろうけど、普通ならどうなってもおかしくなかったぞ」

「その通りです……」

「重々反省せよ」

 

 と言うリィン教官の怒りの声を受け止める。

 うん、リィン教官の言う通りよ。

 選択肢、お前はちゃんと反省しろよ?

 と、そんな感じで俯き加減な俺を叱りつけるリィン教官に話しかける声がした。

 

「教官もいたについてきたか、リィン?」

 

 そして振り返ると、

 

「マキ――」

「マキアス!!」

 

 俺の声を遮るように驚くリィン教官。

 

「列車で来たばかりなのか?」

「いや、昨日クロスベルに入って、朝一番に参上したんだ。君たちの演習と同じく、今日から監査業務の開始でね」

 

 マキアスは軽くリィン教官と挨拶を交わすと、

 

「叱られるなんて滅多にできない経験を大事にするんだぞ、ノクス後輩?」

「あ、そうか。トールズに入ると、マキアスの後輩になるのか。……トールズやめようかなぁ」

「それはどう言う意味かねぇ、ノ・ク・ス・後・輩?」

 

 額に青筋を立てながら、こちらを睨みつけるマキアス。

 気の短さも健在でよかったよかった。

 

「あれ、二人とも知り合いだったのか?」

 

 そんな俺たちを見て、リィン教官が聞いてきた。

 

「数ヶ月前にノルドで出会ったんだ。司法監査官として仕事に出かけたときに、鉄道憲兵隊とトラブルになっている少年がいるってことでね」

「……きみの人生にはトラブルがつきものなんだな……」

 

 可哀想な人をみる目でリィン教官がこちらを見てきた。

 あんたも人のこと言えないだろうが。

 

「遊撃士だとかなんとかいちゃもんをつけてきたんで、無視してもよかったんですけど、あんときどうしても報酬をもらわないとその日を食い繋ぐ金すら無くなってたんで、ちょっとトラブルになってしまったんですよ……」

「便利部――いや、便利屋だったか?」

「そのときにはもう便利屋の看板を下ろしたので、流浪の手伝い屋さんみたいなものでした」

「職にアブれた浮浪者なのでは……?」

 

 ものすっごく辛辣なことをアルに言われた気がするけど、スルー。

 世の中には伝えない方がいい真実があるんだよ。

 

「数週間ですけど、お世話になったことがあって」

「そういうことだったのか」

 

 俺としても、あのときにたまたま助太刀してくれた人がリィン教官絡みの人とは思わなかったしなぁ。

 

 そして話を聞くに、なんでもマキアスは今日からクロスベル総督府の監査任務に就くらしいが、それに対してアルが再びその毒舌でもって、茨の道を行ってる上に少々頼りなさそうだという感想を漏らしていた。

 王を戴く帝国とはいえ法治国家である。

 行政の監査をする機関ももちろん存在するが、行政の不正を見逃さずに適切に対処するのは簡単なことではないだろう。それに相手はあのルーファスである。

 ……力不足というよりも、時期が悪い気がするのだが、まあ餅屋は餅屋だし、俺の変な見解を述べたところで仕方のないことだろう。

 

 その後、軽いブリーフィングで午前のうちに渡された個別の特務の依頼を完成させ、昼までにアルカンシェルへと社会見学に行き、午後に幻獣騒ぎの調査に出ることが確定した。

 

 ・・・・・・

 

 特務活動の依頼としてケイト准尉長に話を聞くことになり、クロスベルのあちらこちらに足を運ぶことになった。なんでも軍部から屋台や店などの売り上げとかを調査する仕事をもらっているらしくて、その人手に俺たちを頼ったらしいのだが……。

 で、頼まれたのはオーバルストアのゲンテン、港湾区のラーメン屋台、そして東通りにある商工会議所と、引っ越したナインヴァリでの軽いアンケートである。

 大して手間がかかる依頼でもなかったので、ここは俺とユウナとで二組に分かれて行動することとなった。公正なる儀式――グーパーでチーム分けした結果、比較的旧市街にちかい東通りに詳しい俺がリィン教官とアルとで、中央広場と港湾区をよく知るユウナがライカとクルトと一緒に片付けることとなった。

 

 最終的に次の依頼先となるエプスタイン財団の出張所のある旧クロスベル国際銀行(IBC)、現ラインフォルト(RF)クロスベル支社ビルで集合することを約束して、俺たちは解散することとなった。

 

 そしてたどり着いたは、辰砂で朱色に輝く東方人の街、東通り。

 

「街区が一つ変わるだけで、これほどにまで景色が変わるんですね」

「そうだね。東のほう、共和国あたりからの移民が多い地域になるからね」

「いわゆる東方風の街並みですね」

 

 ゆえにクロスベルで一番ピリピリしそうな場所でもある。

 歴史が長い街なだけあって、住人の共和国側への帰属意識こそ低いものの、東の方からの影響がどうしても大きい地域になるのだ。

 

「って、遊撃士協会の建物まだ残ってるな」

 

 帝国各地の支部と同じく取り壊されてもおかしくなさそうなものだが。

 そんな俺のちょっとした気づきに対して、

 

「高名な元A級遊撃士、風の剣聖が所属していた支部だったか。今は一時的に閉鎖されているようだな」

「そうみたいですね。おかげでクロスベル警察――軍警は大忙し、猫の手も借りたい状況になってるみたいですけど」

「クロスベルの遊撃士協会は大陸でも特に多忙なことで有名で、常に数十人体制で稼働していたと聞いた覚えがあります」

「そうそう。それでも回り切らないから特務支援課とかができたし、俺とかが商売していけたんよね。いくらか帝国本土からも人員が派遣されてるとはいえ、ここの治安を維持させるのは無茶なんだろうな」

 

 今でこそ帝国の武力でもってして災いの種を覆い隠せてはいるのだろうが、このまま燻らせ続ければいつか大爆発しそうなものだ。

 具体的には、大爆発した挙句に新社ビルを構え始めた黒月の奴らとかが動き始めるだろう。

 俺がクロスベルを離れるときにはまだ建築中だったはずの東通りの隅にある建物を呆れながら見た。

 

「国際的な団体ではありますし、政治的配慮によってこの建物もギルドの管理下ということになっているようです」

「遊撃士協会の看板が外れてないってのはそういうことだったのか。情報局経由で知ったことかな?」

「ええ……まあ、…………はい。すみません……」

「? そうしたんだ……? 謝られても困るんだが……」

 

 しゅんとするアルに少し戸惑う。

 なんていうか、……らしくない?

 

「その……。先日ノクスさんとユウナさんが会話したところを偶然聞いてしまったのですが……。ノクスさんも帝国に対して、その、嫌な感情を抱いているようで……」

「……?」

 

 帝国に対して嫌な感情……?

 俺そんなこと言ってたっけか……。

 いや、そう捉えられてもおかしくない会話だったのかも。なにせクロスベルがメチャクチャにされたのに腹が立ってるとかって話をしたんだし。

 けど、

 

「あー、それなら勘違いだぞ」

「勘違い?」

 

 聞き返したリィン教官に対して、はいと返事をすると、

 

「俺は別に帝国そのものや帝国政府、ましてや情報局が嫌いな分けじゃないぞ。……若干一名、赤髪の不良青年は大嫌いだけどね」

「レクター大尉か」

「そうっすね。あいつはいつか鼻の穴にわさびチューブをぶちこんでやらないと気が済みません。……って、そうじゃなくて、俺が気に入らないのはあくまでこの状況って話なんだよ」

「この状況……?」

「うん」

 

 軽く息を吸い、俺は続けた。

 

「私利私欲のために他人を蹴落とすも人の業、放置すれば喧嘩も起きるし戦争も勃発する。まあ、歴史が示す通りの話なんですけど、戦争を阻止する行動こそ平和ってやつだと思ってるんです。たとえそれが、武器を持って相手を牽制することだとしても、ですね」

「……抑止力という話か」

「まあ、そんな感じです。で、俺が感じるのは、全員が全員戦争を避けようと行動を続けているにも関わらず、なぜか泥沼にハマって行っている挙句に、そのついでとばかりにクロスベルをこんな状況に陥れてしまった、そんな状況が気に食わないんですよ」

 

 だから、と俺は続けた。

 

「アルが情報局にいるからというので嫌いになったりはしないし、嫌な気分になることもないから安心してくれ」

 

 と、拳を突き出す。

 少し戸惑いながらも、アルは俺の拳に軽く自分の拳を突き合わせた。

 

「…………はい。こんな感じで、よろしかったのでしょうか……?」

「バッチリだぜ!」

 

 といったところでそろそろ最初の目的地へ着いてしまった。

 見上げると前まで使っていたであろう古びた看板に、ナインヴァリとの名前が書かれている店舗がある。ケイト准尉長からもらった依頼の店だ。

 特務活動も大事だが、まずはジンゴの母親、クロスベルで俺がかなりお世話になった人に久々に再会しよう。積もる話があるわけでもないが、弾薬の融通など色々と世話になっているお礼もしなければならない。

 

 そうして勢いよく扉を開こうとした俺だったが――。

 

   <選べ>

 

【アシュリーママ生き別れの母親との再会が如く、泣きながら抱きつく】

【服装を正し、真剣な態度で、ジンゴを嫁にくださいとお願いする】

 

 早速クロスベルからリーヴスに帰りたいと思ってしまった。

 

 ・・・・・・

 

 総督執務室の破壊された扉の外。

 今しがたリィンたちをルーファスの元に送った案内人は、少しばかり呆気に取られていた。

 

「……”指を咥えて眺めること”、だって…………?」

 

 そしてそのまま数巡考え込む素振りを見せ、やがて誰にも聞こえないように意味深にふふっと笑った。

 

「へぇ、僕たちを部外者にしようとしているわけ? ……ははっ、面白いね、キミ」

 

 やがてその案内人の周囲にはアーツの発動のようなオーラが出現し、

 

「今日は盛大に挨拶してあげないといけないみたいだ」

 

 その場には、最初から誰もいなかったように、姿が消えた。

 




 いつも感想、評価、誤字訂正ありがとうございます!

 ちなみに選択肢がノクス君を帝国に行かせなかったら、今頃ルーファスの手駒になってたと思われます。

 クロスベル編が終われば閃の軌跡IIIも折り返し地点、そろそろノクスくんが相克とどんな関わりがあったのかが見えてくるのではないでしょうか。……解明しきる前に第四位さんや全部さんに燃やし尽くされなければいいんですけどね。

ノクスvs全部さんが起きたら、ノクスくんどうなる?

  • 塵芥残らず燃やし尽くされる
  • 全部さん火力抑えめで備長炭に
  • なぜか生き残る
  • ありえないことにいい勝負しちゃう
  • 全部さん、まさかの敗北
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