トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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黎の軌跡,やっとPCで買えたのでやってました.遅れてすいません.あと構想してた主人公の職業がもろスプリガンとかぶってたのですが,気にせず書いちゃいます! 


4月15日 自由行動日前日

 暗くジメジメした路地裏にある店。

 その店内に置いてあるさまざまな「曰く付き」の品揃えのために、アングラすぎる雰囲気が漂う。

 そこでは、青年が少女に詰め寄っていた。

「なぁ、ジンゴ、頼むって……」

「ダメなもんはダメだー」

「ミラならいくらでも出すし、1発だけでいいからたのむよぉ」

 

 縋るような男の声と少しばかり引き気味に断る少女の声。

 

「先だけでいいから、な?」

「そんなこと言ったてよー」

「ちょっとくらいいいだろ? な?」

「無理なものは無理だぞ」

 

 困惑した少女の声に少しばかり苛立ちがこもる。流石にしつこすぎる男に辟易としたのだろうか。

 

「そんなこと言わずにさぁ……」

「これ以上言うならもう店出禁にするぞー」

「すみませんでした!」

 

 あ、いかがわしいことが行われてると思った? だったら心外だなぁ。

 ナインヴァリで特殊弾の注文をしてただけだぞ。

 

「わかればいいぞ」

「まあ、使っちまったこっちが悪いけど…… 次に液体金属弾入荷するのはいつになるの?」

「工房の機嫌次第だな。全く、お前のためだけにわざわざ連絡して取り寄せてるんだから、少しは感謝しろよな」

「ジンゴ様は女神様ですたい、ついでにこれを買っちゃる」

 

 カウンターのガラス棚に飾ってある人形を適当に1つ取ってきて、カウンターに差し出す。

 てか、あんまよく見てなかったけど、なんだこれ。はらわた飛び出してるゆるキャラの猫みたいなの。気色の悪い緑がかった紫の色合いからしてミッシーじゃないのはわかるが、姿形はそっくりだから、もはやミッシーに喧嘩を売ってる雰囲気がある。

 飛んだゲテモノだけど、まあジンゴの在庫処分のお手伝いとして恩を売っておくには悪くないだろう。

 

「えぇ、それ買うのか? いい趣味してんなぁ」

「こういうのがいいんだって。ほら、この飛び出たはらわたの芸術性がだなぁ」

「それ、臍の緒だぞ」

「まじかよ……」

 

 どういう精神でこんなものを作ったんだ、これの作者は……。

 

「お前が何が好きかはどうでもいいとして、どうしても欲しいんならやるぞ。金置いてけ」

「いくらなんだ?」

「誠意ある額を置いていきな」

「へいへい」

 

 ということはこの人形は文字通り0ミラの価値しかないということだ。クロスベルでもよく通っていたので、誠意を見せろってことは、この払った額がまるまるジンゴのお小遣いになるということだった。

 財布から1万ミラ紙幣を取り出して机に置く。

 

「お、なかなかいい誠意じゃねえか」

「いい誠意ってなんだよ……。開店祝いだよ。疲れてるだろ、これでいいもんでも食えよ」

「たまには気が利くじゃねえか」

「たまにはって……。まあ、ジンゴの店にはクロスベルの時から世話になってるからな。これからもよろしくって意味の額だよ」

「ありがとよ。そういえば、遊撃士ごっこはまだ続けてるんか?」

「あん時やってた何でも屋か? 見た通り学生やってるし、休業中だけど、なんかやって欲しいことでもあるのか? 時間がそんなにかからないなら手伝うぞ」

「お、そうか。じゃあ、これでうまいものを作ってくれ」

 

 そういうとジンゴは俺に、俺がついさっき渡した1万ミラを返してきた。

 

「どっかで外食したら? 俺の料理って龍老飯店と全く同じ味になるぞ」

「帝国に来てから無性に食べたい気分だったんだよ。それだけあれば作れるだろ?」

「まあ、作れんことはないが……」

 

 クロスベルでちょっとした期間、龍老飯店で働いてたこともあって、レシピは一通り頭に叩き込んではいる。

 それにしても1万ミラは貰いすぎだと思って

 

「日頃の感謝も込めて、タダで奢ってやるよ。だからこのミラでリーヴスを潤わしてくれや」

「いいのか?」

「おう、明日は自由行動日だし、夜にでも学生寮に来てくれ。あそこのキッチンで作るわ」

「りょーかい」

 

 と言いつつ、ナインヴァリから出ていく。

 

 清々しい朝である。

 真っ青な晴天に、鳥は歌い人は行き交う。朝の早い花屋はすでに店を開き終え、開店したてのレストランからはパンの焼けたいい匂いが漂う。

 リーヴスはいい街だ。住み始めて2週間弱でも住み慣れた我が家我が街のような気分である。

 そして止まった世界に流れる文字も素晴らしい。

 

 <選べ>

 

【いい天気なのでラジオ体操(二番)をしよう】

【いい天気なので女の子になる】

 

 いい天気だし、ラジオ体操をしてやってもいいかなー。

 俺分かっちゃったもんね。選択肢を受け入れれば案外明るい未来が見えるって。

 この歳からちゃんと健康に気を遣えて、さらに気持ちのいい1日を迎える準備にもなる。なんと素晴らしいことか。

 クルトなんかは毎朝鍛錬してるくらいだし、遅れを取ってはいかんのさ。

 

 <選べ>

 

【いい天気なのでラジオ体操は倒立したままやろう】

【いい天気なので男の娘になる】

 

 明るい未来が見えるもんね!(怒)

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 道ゆく人が怪訝と様子を見てくるのも気にならないもんね!!!

 

「ママー、あれなにー?」

「シーッ! 見ちゃダメよ!」

 

 なら突然女になってみせたろかこの野郎!! 道行く一般人だからと言って俺の倒立ラジオ体操は邪魔させんぞ!

 

 非常に健やかで清々しい気分(怒)でラジオ体操第2を終えると、

 

「何をしてるんですか……」

 

 呆れたようなアルティナの顔が地面からニョキっと生えてきた。いや、俺が倒立してるから、実際には上から覗き込まれただけだろうけど。

 

「これはラジオ体操と言ってだなぁ」

「ラジオ体操についての知識はありますが、ノクスさんのそれとは違います」

「いや、実はノルドでは……」

「流石に誤魔化されませんよ。ラジオ体操って実際に音声で体勢の指示をされていますよね」

「困った……」

「あなたの姿を見た街の人の方がよほど困ったかと。無意味に一般人の集中力(FP)を吸い取らないでください」

「くぅーん」

 

 無駄に一回転して立ち上がる。ラジオ体操なのに体のあちこちから悲鳴が……

 

「おはよう、アルティナ!」

「いまさら挨拶ですか……。おはようございます」

「今日もいい天気!」

「なぜ道端でそんなことを……?」

 

 天気の話に変えようとしたが失敗。

 仕方ない、ここは正論でゴリ押そう。

 

「いきなり女の子になりたくなったから」

「……?? …………???」

「それよりもアルティナはどこかに用事?」

「…………。特に用事はなかったのですが、定時連絡後に宿舎から広場を見ると、奇行に走る見知った男子生徒がいたので、様子を確認しに来ました。ですがその理由を話したくないのであれば深くは聞かないでおきます」

「え、ああ……。なんか、その……すみませんでした」

 

 ほんっとなんの言い訳も思いつかん。

 つか、定時連絡って、それ俺に言っちまっていいのかおい。

 

 それにしても、第二分校に来てから約2週間、選択肢に振り回されつつも、級友にはまだ見放されているわけではないようで安心する。申し訳ない気分もあるが、こうやってわざわざ様子を見に来てくれた分だけ、ありがたいものだ。

 辺りを見渡すとすでに分校に向かって歩いている制服姿の少年少女がちらほらと見え始めており、1日の始まりが迫っているようだった。

 

「そろそろいい時間だし、荷物まとめて学校行こうぜ」

「はい。ノクスさんを見かけていなければその予定でした」

 

 <選べ>

 

【いい天気なので、一日素っ裸で過ごす】

【今日一日、ランダムなタイミングで本音が漏れる】

 

「今日は厄日だわ!」

 

 あ、漏れた。

 

 ーーーーーーーーーー

 

 学生寮で荷物をまとめ、いざ学校へ出発進行の大号令を自分の中で発令したとき、すでに寮のエントランスでクルトとユウナが仲良く談笑していた。

 ユウナの持っている帝国人への感情という蟠りも少し解けたようで、めでたしめでたし。

 

「よお、朝から仲の良さを見せつけてくれるじゃねえか」

「あ、ノクス。って、見せつけるとか、そんなんじゃないってば!」

 

 少し気恥ずかしそうでぷりぷりのユウナを朝から見れて眼福眼福。

 

「おはよう、ノクス。朝はどこに行ってたんだ?」

「ナインヴァリでちょっと買い物。って、なんで知ってんの?」

 

 挨拶を返してくれたいつにも増してイケメンなクルトの清々しい笑顔を見れて眼福……かどうかでいえば、どちらかというと眼福ではない。

 しかし、朝起きた段階では学生寮には誰もいなかった気がしたんだが、いつの間に観られたんだろうか。

 

「もしかして、もう起きてたのか? 朝早いね」

「鍛錬室で日課の運動していた時、外に出る姿を見てしまってな」

「声かけてくれりゃよかったのに」

 

 まだ夜も開けてない時間だったのに。貴様、イケメンな上に努力家属性がついておるな。

 神様! ここに二物を与えられちまったやつがいまーす!

 

「朝早くから行った割には、結局目当てのものは手に入らんかったけど、代わりにこれが……」

 

 と、ナインヴァリで手に入れてしまったあの気色の悪いミッシーもどき人形を取り出して見せる。

 うげえ。何度見てもお前気持ち悪りぃなぁ……。

 紫がかった肌色に、はみ出た臍の緒と、おおよそ褒めるところのないぬいぐるみ。魔法陣においたら供物としてとんでもない大悪魔を生贄召喚しそうだ。

 

「なにそれ……」

「人の趣味に口出すつもりはないが……」

 

 うん、二人にもすこぶる評判が悪いようだ。

 そりゃあ所持者が低レベルだし当然だが。

 

「こういう奴の熱狂的なファンがいるから、そいつ対策に持っておこうと思ってね」

「確かにゲテ物好きな人もいるけど……」

「理解できないな……」

 

 脳裏にこう言ったものを軽く集めてるやつの顔を思い浮かべてみる。やたらと露出の多くて容姿だけは可愛い女の子が出てきたが、途端に香ってくる硝煙の匂いと血生臭さ……。まともな思い出がない……。

 クルトの言う通りだが、理解しちゃあいけない感じの人だ……。

 

「ユウナさんにクルトさん、おはようございます」

 

 と、俺が降りてきたのとあまり違わない時間にアルティナもやってきた。

 

「ア、アルティナ!? あれ、とっくに登校してたはずじゃ……!?」

「残念だったな、トリックだよ」

「トリック!?」

 

 え、なんとなくで思ってたことなのに、これも本音扱いで漏れちゃうの!?

 

「いえ、違います。早朝、定時連絡のために自習室を使っていました。もしかして移動の際に起こしてしまいましたか?」

「う、ううん。ぐっすり寝てたけど……。あたしは外が急に騒がしくなって目が覚めた……って、定時連絡って何よ……!」

「秘匿事項でした」

 

 お、いい感じに早朝から外が騒がしくなった理由はスルーされた。今日は幸先がいいぞ!

 

「あと、外で騒いでいたのはノクスさんです」

「また何かやらかしたの!?」

「なんでバラしたし!」

「やっぱり、何かしてたのね! まだ寝てる人が多いんだから、変なことをしちゃダメよ!」

「ごめんなさい……」

 

 俺の意思ではないんや……。許してくれたまえ。

 

「って、結構いい時間だし、そろそろ学校行こうぜ。ちょうど4人ともいるんだし、たまには一緒に登校しよう」

「そうだね、じゃあ一緒に行きましょう」

 

 俺の提案にユウナも賛同してくれ、そのまま学校に行くこととなった。

 

 道中、談笑しつつたどり着いたのは校門前で、そこで金茶髪の生徒が意味ありげに俺らのことを待ち伏せていた。

 

「選抜エリートが仲良く登校かよ」

 

 鋭い目つきとラフな制服の着崩しが特徴の男だった。すでに授業が始まって数週間経っており、カリキュラムのほとんどが他クラスと共同のVIIにいたこともあって、見知った顔ではある。

 

「あなたは――」

「確か戦術科の……」

「アッシュくんだったっけ?」

「俺たちに何か用なのか?」

 

 俺に名前を当てられてちょっと意外そうな顔をしながらアッシュは答えた。

 

「へぇ、俺の名前知ってたのか」

「授業で教官に当てられてたときに知ったんだ」

「ふん、それで見ず知らずの他人の名前を覚えるのか? 首席さまは頭の出来がいいんだな」

「むっ」

 

 腹立つ言い方だなぁ。せっかく名前を覚えてやったのに。忘れてやろうか!?

 

「首席に英雄の教官がついたと来たもんだ、さぞ充実した毎日を送ってるんだろうな」

 

 皮肉っぽくアッシュが挑発してきたのに対して、反応したのはクルトだった。

 

「悪いが、毎日大変なのはそちらと同じだ」

「そうね。今のところカリキュラムだって同じだし」

 

 言い返すユウナ。

 だがアッシュの言葉はまだ続く。

 

「だったらどうしてわざわざ少人数クラスなんて作ったんだ? 毛並みが良すぎる坊ちゃんに、明らかに歳のおかしいガキと、首席なのに本校から蹴り出されたやつ、それに曰くつきの場所から来たジャジャ馬留学生の集まるような、クラスをなぁ……?」

 

 指摘されて少し考えると、かなりとんでもないクラスではあるな。いや、俺が他人のこと言えたタチじゃないが。

 

「おっと悪い。留学生じゃなかったか?」

「……っ!」

 

 ムッとした表情のユウナ。留学生じゃない……? 何か事情でもあるのだろうか……。確かに、言われてみれば警察養成学校から来るってのも、それに毛嫌いしてる帝国にわざわざ来るってのも、おかしいっちゃあおかしいか。

 

「無用な挑発はやめてもらおうか」

 

 そこで立ちはだかったのはクルトだった。

 

「言いたいことがあるなら、いつでも鍛錬場に付き合うが?」

 

 いや、それも挑発じゃねえか。売り言葉に買い言葉で、マジの喧嘩になるのもいけないから、俺が仲裁に入った。

 

 <選べ>

 

【敵の敵は味方ってことは、男の中の男は女ってことか?】

【我こそ最強。アッシュとクルトに武威を示す】

 

 こんなタイミングで!?

 マジでふざけんなああああ!! 仲裁つってんだろうが! 武威を示すって、要は喧嘩をうってしばくってことだろ? アッシュだけならまだしも、クルト諸共敵に回してどうすんだよ!?

 

「はぁ……」

「ノクスさん……?」

 

 一足早く俺の異変に気づいたのはアルティナだったが、もうどうにもならないけど……。

 

「敵の敵は味方ってことは、男の中の男は女ってことか?」

「…………は? 何言ってんだ……?」

 

 この場にいる全員を呆気からんとさせた俺の言葉。口喧嘩の勝者は俺ってことでいいか? よくないか。そうだよな。

 なんとかして誤魔化さないと……。えーと言い訳、言い訳。

 要するに、だな。敵の敵はってことは、俺らを捨て駒扱いしてる帝国という敵の敵は、広義で帝国に不満を持つ人ってことだろ。じゃあ、多少なりとも不満を持つユウナは俺の味方ってことで、ユウナこそは男の中の男の女ってこと……?」

「……は? 何言ってんだ……?」

「へ? あっ……」

 

 いつの間にか考えてることが口に出てた。

 隣を見ると、ユウナが怒りと困惑とが混ざった不思議な顔で俺を睨みつけていた。

 

「あ、いや、ユウナが男だってそういうことじゃなくて、ユウナはちょっと気が強いところもあるけど、いつも周りに気をかけるれる根から優しい女の子で、って何言ってんだ俺」

 

 急にナンパし出したかのような言葉が溢れ出してくる俺の口はそれでも止まってくれなかった。

 

「なによりも変なことをやってしまう俺を嫌うどころかフォローまでさりげなくしてくれるし、内面だけじゃなくて容姿も端麗でファッションセンスもよく、可愛らしくて、っておい、俺の口止まれえええ!!」

「いきなり何言ってんの!?!?」

 

 ユウナが俺の言葉に激怒している。それもそうだよ。喧嘩の仲裁に入ろうとして、いきなりナンパに持っていかれたら、怒るよな。

 俺でも怒るわ。

 

「……さすがはエリート様だな。行動が理解できん……」

 

 軽く鼻を鳴らして、やってられないとばかりにアッシュはそのまま学校へと歩き去っていった。

 あれ、図らずも退散させれた……?

 

「VII組の皆様、おはようございます。気持ちのいい朝ですね」

 

 微妙な空気が流れていた中、ミント髪の女子生徒が丁寧に挨拶してきた。

 先ほどのナンパもどきの話を全力で回避するために、彼女に話しかけることにしよう。

 

「おはよう! ミュゼさん、であってたかな?」

「はい、そうです。ノクスさんですよね? 昨日の合同授業ぶりです」

 

 どうやら記憶はあっていたようだ。

 

「校門前で談笑なさるのもいい青春の1ページでしょうけど、そろそろ予鈴がなってしまいますよ?」

「あ、ほんとだ! みんな急ごうぜ!」

 

 渡りに船とはまさにこういうこと。ミュゼの素晴らしいパスを受けて、俺はみんなを催促して教室へと向かった。

 

 遠目で見えるリィン教官は、トワ教官と青春を過ごしているようだった。

 

 

・・・・・・

 

 どこかの部活に所属しなければならないとの通達を渡され、放課後に意味もなく学校を回りに回った。何かめぼしい部活を見つけられたかというと、全くそんなことはなく、精力的に取り組んでやろうと思えるものもなければ、隠れ蓑にできそうな楽な部活も見つからない。茶道部なんかはいい選択肢に見えたけど、あの備品のそろえようを見れば遠慮させていただくしかなかった。あそこには茶道で全国大会を目指しているに違いない。

 そして、実はと言うとトールズへ進学したはいいものの、俺には今現在非常に困った問題を抱えている。それもほとんどの部活に所属できないような。

 出自はともかく、このような高等教育機関に所属するというだけで、その生徒ならば基本的には抱えないであろう問題だ。特にトールズとなれば、尚更である。

 

 その問題とは、資金である。

 

 学費に寮費、そして生活費と、学校生活には何かと金がかかる。帝国立である学院なだけあって、かなり抑えめな値段で済んではいるものの、20にもならない若人にはちとばかり厳しいものであるのは違いない。

 クロスベルで稼いだ貯金もあって、今のところ困っている状況ではないが、2年間通うだけの金額どころか、後数ヶ月で底をつきそうな通帳残高を睨みつけながら、ここでも金策を本格的に考え始めないといけないと迫られていた。

 分校に来た理由が理由だけに公的私的拘らず、奨学金は望むべくもないので、それだけに切羽詰まった状況である。

 ならばと、クロスベルにいた頃と同じく、何でも屋でも始めようと思ったが、帝国では何かとそういった職業への風当たりが強い。おそらく遊撃士の影響を抑えるためだろうが、別株である俺の方にまでとばっちりが来かねない。まったく、あらゆる産業サービスの外国への依存を断ち切るような政策の一部なのだから、内部産業である何でも屋は全く関係のない話のはずだが、行政とはそういった融通の利かないものであるのが世の常である。

 だからこそ、たった二人からでも申請すれば自由に開ける部活動を隠れ蓑にするのは、渡りに船なものだった。部活動、それもトールズ士官学院のものであるならば、遠回しにではあるが、帝国がバックについていることにもなるのだ。毒を以て毒を制すような話である。

 そして今、部活動設立に対して最大の関門が立ちはだかることとなった。

 

 誰を誘おうか……。

 

 こういうところが俺のように人望のない人間の弱ったところである。急に奇行に走る人間とタッグを組んで部活をやりたい奴はいないのだ。少なくとも俺は一緒になりたくないね。

 こういう時にこそ、選択肢の強制力でもやってきてくれればいいのにと思ってしまう。

 

 <選べ>

 

【ユウナを部活に誘う】

【ミュゼを部活に誘う】

 

 こんな感じにな? いや、実際には強制力も何もない、ただの妄想ではあるが。

 それにしても適当に考えた割には、ユウナはまだしも、なんでミュゼが選択肢に出てきたんだ? 正直ほとんど接点もないし、人となりも――いや、人となりには少し見当ついてるっちゃあついてるが……。

 と、うだうだ悩みながら学院内を歩く。HRが終わってからもう結構な時間が経っており、部活に勤しんでいた生徒も残りわずかな校庭は、わずかな風切り音を残すばかりで、すっかりと静まり返っていた。

 

「もうこんな時間か……」

 

 あ、思ったことが口に出るルールまだ続いてたんだ。律儀なことだよほんと、もう誰もいないだろうに――

 

「黄昏出すにはまだ早い時間だぜ、ノク坊?」

 

 振り返ると、赤毛の教官がキザったく笑いかけてきていた。

 って、そうじゃなくてノク坊なんてあだ名で俺を呼ぶやつなんで一人しかいないはずだが……

 

「え? ランディ……?」

「おう、学校始まってだいぶ経っても気づいてもらえなくて、忘れられちまったじゃねえかと思ってたランディだぜ?」

「え、でもランドルフって……」

「名前が変わったくらいで忘れられちまって寂しいぞ、仮にも背中預けて戦った中だってのによぉ」

 

 そこにいたのは、よくよく見てみれば、あの頃と何一つ姿の変わらない、商売敵だった。

 

・・・・・・

 

 場所を移し、夕焼けの光の差し込む食堂へやってきた。適当なチーズタルトとドリンクを頼んで、積もる長話の肴にする。

 

「いやー、まさかこんな帝国のど真ん中で会うとは夢にも思わなかったぜ」

「ランディこそ、な。事情を考えれば、俺なんかよりよほど帝国にいる理由がわからないぞ」

「ああ、それを言われればその通りだな。まあ、人生ってな、色々あるもんだ」

「指名手配犯から公務員へのジョブチェンジがか? どんな伝手なのか皆目見当もつかねえ」

「ま、その話は置いておいてだ。なんか深刻そうな顔で校舎を歩いてたけど、何か問題があったのか?」

「うーんまあ、なかったわけじゃない。けど、そんなでかい問題でもないかな」

「なんだよみずくせえ、俺たちの仲だろ? 解決を手伝ってやるから、何に困ったか教えてくれ」

「つーか、教官なら生徒の困りごと手伝うのも仕事だろうに、恩着せがましい言い方をして……。実は部活を始めようと思ってたんだが、一緒にやれる人が見つからなかったんだよ」

 

 懐に入れてた部活動申請書を机に広げて見せた。

 

「『便利部』……? っておい、これって確か……」

「便利屋だよ。いつしか俺たちが争ってた、遊撃士もどきだよ」

「俺たちは警察だったけどな」

「似たいなものだったろ。遊撃士差し置いて、遊撃士もどき同士で版図争いとかバカなことやってたな」

「こっちは公務で、お前んとこは非正規だったけどな」

「って、ここで争っても仕方ないだろ? お互い商売たたんでるみたいなものだろうに。で、せっかくだし、あの仕事の続きってことで、ここでも便利屋をやろうかなって思ってたけど、なかなか人を集めれなくてなぁ」

 

 困った困ったと、わざとらしく落ち込みながら言ってみた。金が足りない云々の話を伏せておいたのは、お節介焼きのランディの耳に入れると何を言い出すかわからないからだ。

 

「お前も商売熱心だなぁ。共和国にでもいけば、立派な遊撃士になれるんじゃねえか?」

「誰があんな熱量の高いところに行くかっつうの。俺は気が向いた時にだけしか動きたくねえんだよ」

「とか言いつつ、受けた依頼はきっちりこなしてたらしいじゃねえか。依頼達成度で遊撃士より高かった俺らに食いつくレベルでな」

「この商売は信頼度が全てだから仕方なかったんだよ……。それより、教官なら教官らしく迷える生徒に助言くらいしてみたらどうだ?」

 

 ため息をつきながら言う。解決法を持ってるとは思えないが、今は藁にもすがる思いである。

 

「ったく、それが生徒の態度かよ。今はいいが、教練の時は敬語を使えよ?」

「だったら一人でもいいから部員推薦をしてくれませんかね、ランドルフ教官?」

「嫌味くさい言い方だなぁ……。あ、そういえばユウ坊が部活を決めあぐねていたな。もう決心してしまったかもしれんが、声をかけてみる価値はあるんじゃねぇかな」

「ユウナか……。いろいろ迷惑かけちゃってるから気が引けるんだよな」

「入学式のあれか?」

「え、何で知って……!」

 

 あれは門外不出の秘密なのに!? まさか、ユウナがチクったのか……!? いや、でも、そんな子じゃない気がするんだが……。

 

「はは、入学式の一日目から頬に紅葉つけてきてたから、カマかけてみたら見事当たっちまったな!」

 

 愉快愉快とばかりに腹を抱えながら笑うランディ。腹立つ。いつかし返してやる。

 

「じゃあな、次の教練の時にまたな」

 

 手を振りながら食堂を出ていくランディ。もはや学校に残っている生徒はほぼおらず、これ以上学校に残る理由もなくなったので、俺も寮への帰路につくことになった。

 

 ・・・・・・

 

 とある無線の傍聴記録

 

「ノーザンブリアを陥としたことで蛇どもの住む茂みはすべて焼き払った。主の計画を奪い返すため、いよいよ直接動き始めるはずだ。ならば翼と剣をもがれた皇子の最後のあがきたる第二分校、わが不肖の息子ともども、せいぜい踊ってもらうとしよう」

「閣下……」

「ったく……。ほんといい性格してるぜ」

「われら鉄血の子供達、閣下の待望のために働くのみです」

「ふむ……。封牢についての動きはあるか?」

「いや、どこかの組織からの干渉も、封牢の活動と思われる前兆も、何一つないな」

「無論、鍵と思われる存在も確認できず、帝国内のみならず、利害が一致している各国家からも一切の情報がありません」

「碧の大樹の不可解な消失および緋の騎神の消失、□□の書き換え。これらの元凶となる牢に封じられし□……。もしや外の世界ですらない代物の可能性すら考慮せねばならぬ」

「そりゃあ俺の勘に一切引っかからないわけだ。期待せずに待っててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――彼は、いつ……思い出してくれるのかしら…………?

シズナ登場させてヒロインにしてももよき?

  • よいよい
  • だめだ!
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