トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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シズナさん、かわいいですよね……。彼女を登場させたいですね……!


4月16日 自由行動日

 柔らかな朝日が学院を照らし、風は優雅に吹き抜けていた。心躍る想いを抱きながら、ユウナのいる寮の談話ブースに足を踏み入れた。

 テーブルには、彼女が可憐に座っていた。あまり笑顔を見せない彼女だが、珍しく微笑みが彼女の顔を彩っているように見えた。彼女の美しさに息を飲むが、心の奥底に勇気を振り絞った。

 ゆっくりと彼女のそばに近づき、深呼吸をして言葉を紡いだ。

 

「ユウナ、大事な話がある。この後時間あるか?」

「へ? い、いいわよ? けど、何の用……?」

「大事なことなんだ。俺たちのこれからについて、な」

 

 踊る心を押さえつけ、どうにか決意を固めて言葉を紡ぐことができた。

 

「え、ええ。まあ、時間がないわけじゃないからいいけど……。ノクスもたってないで、座って話そう?」

「ああ、ありがとう。実は――」

「う、うん」

 

 心なしか、ユウナは俺の緊張がうつったのか、ほんのり顔を赤らめて、こちらから視線を若干逸らしながら話している。

 

「今までずっと思ってて伝えそびれたことなんだ」

「そ、そうなんだ」

「だけど、今、伝えないといけないって、わかったんだ……!」

「え、えーと、それって……?」

 

 息を肺いっぱい吸い上げ、

 

「部活、一緒に作らないか?」

 

 あ、もしかして告白だと思った? ねぇねぇ、告白だと思った? 違うんだなぁこれが。

 で、なんでそんな告白のテンションだったかって?

 

 <選べ>

 

【告白しに行くテンションでユウナを部活に誘い、失敗した場合は本当に愛の告白をする】

【戦に向かう武士の気迫でユウナを部活に誘い、失敗した場合は切腹致す】

 

 これのせいだよ。え、なに、下を選べばまだ恥を晒さないで済んだって? 命は惜しいんだよこっちは。

 まあ、それでもユウナを誘えなかった場合、ガチで告りにいかないといけないので、全力で勧誘をしないといけない。くそ、選択肢のせいでさっきからずーっとユウナに一目惚れしたような気分だ……。これじゃあ誘えるものも誘えねえ。心を落ち着かせろ、俺!

 

「え? へ? 部活?」

「ああ、俺と一緒に部活を申請して欲しい! 万が一うまくいかなくても俺が責任持つし、絶対楽しいものにしてみせるから!」

「せ、責任……? は、何かわからないけど……、部活って何をするの?」

「みんなの困ってることややってほしいことを依頼として受けて、その手伝いや代行をする部活だ! 俺たちなら絶対、成功させられる!」

 

 と、このタイミングになって、ようやく体の自由が戻った。

 

「う、うーん。それに興味ないわけじゃないから、一緒に申請してもいいけど……。き、緊張した〜」

「俺も! うわ、めっちゃ緊張した〜。なんでだろうね?」

「なんでって……。告白されるかと……」

「ん? なんて?」

「なんでもないわよ!」

 

 ま、ともかく、なんとか部員を一人手に入れれたので、万歳である。ユウナといえば軽く咳払いをして、

 

「んん! それで、部活だったよね? 要するに特務支援課のような活動をするってこと?」

「そうそう」

 

 遊撃士ではなく、商売敵の方の名前が出てきた。まあ、俺はほとんど旧市街を根城にして活動していたので、クロスベル全体で言えば遊撃士や特務支援課の方が有名なのはその通りだろう。

 

「それなら頑張り甲斐がありそうだし、手伝ってもいいかもね」

「お、すんなり受け入れてもらえると思ってなかったから、嬉しいぜ」

「あたしが警察学校に通ってたのも、特務支援課の先輩たちみたいになりたかったからだしね」

「そうだったんだ。だったらちょうどいい機会かもな」

 

 商売敵というだけあって、便利屋と特務支援課のやっていたこと自体はほぼ内容が変わらない。ただ、向こうは警察組織の一部である制約がつくので、あくまで法的に正しい活動に制限されるが、便利屋についてその制約はない。だからと言って法的に解決が厳しい案件を専門に取り扱うような商売だったわけではないが。

 

「で、どうやって依頼を集めるの? 遊撃士や特務支援課の先輩たちは依頼を受ける窓口があったけど、あたしたちにはそんなものはないけど……」

「うん、そうなんだよな。だから、ちまちまと草の根運動から始めないといけない」

 

 俺がクロスベルで商売を始めた際も同じだった。なかなか案件を集めることができなかったものだけど――

 

「とりあえず最初のうちは、学院や町の掲示板と、あとはいろんな店に掛け合って、宣伝用のポスターを張り出して、何とか一つでもいいから依頼をもらうことが目標だな」

「それで集まるの? 正直あたしたちってまだこの町に住み始めて余りたってないというか、ぶっちゃけていうと新参者だし……」

「ああ、それはその通りだけど、でも需要がないわけじゃないから何とかなるはずなんだ」

 

 少し考えるそぶりをして、ユウナはポンと手をたたいて、

 

「遊撃士協会が閉鎖されたんだ!」

「そう。鉄道憲兵隊とそれに率いられた正規軍が治安維持部隊として遊撃士のやっていた仕事をある程度肩代わりしてたけど、残念ながら人員的にも、対応できる幅的にも完全に遊撃士の仕事をカバーしきれてない」

「つまり、憲兵隊が対応しきれない、遊撃士の仕事は余ってるってこと?」

「その通り。強制的に作り上げられたブルーオーシャンてわけだよ。だから、少なくともスタートダッシュは何とかなるとにらんでる」

 

 俺の言葉をうなずきながら聞いてるユウナ。おそらくだが前向きに検討をしてくれているのだろう。ありがたいことだ。

 

「うーん。実はランディ先輩に相談したときに、あたしは頭を使って取り組む部活より、体を動かす部活のほうがあってるって言われてて……。でも聞いた感じ、結構頭も使っていろいろしないといけなさそうというか……」

「あー、それは確かに。依頼者の事情とか依頼の背景とかを考えながら仕事をしないといけないのはその通りだな。ただ、ユウナが部活を選ぶのに悩んでるって話をしてくれたのはランディだし、そこまで深く考えずに言っただけだと思うぞ。それに、別に肉体活動にそこまでこだわる必要もないんじゃないか?」

「……。それもそうね。うん、ノクスの部活を手伝うわ!」

「ありがとう!!」

 

 やったあああ!! これでガチの愛の告白をせずに済むううう!!

 

 <選べ>

 

【喜びのあまり中東の踊り風のダンスを披露する】

【喜びのあまり舞台に上がるとアルカンシェルに直談判する】

 

「え、ちょっと、ノクス!? なにやってんの!? なんで服を脱ぎ始め……」

 

 俺もわかんねえよ! 勢いで中東の踊りを選んだけど、え、なに、服を脱がないといけない感じの踊りなの!?

 勝手に腰を振りながら踊りだす俺を見て、ユウナは目を手で覆いながら困惑していた。頼む、ユウナ。お前だけでもいいから俺の醜態を見ないでくれええ!!

 

「いや、困ってるのはこっちなんだけど! なんでノクスがそんな当惑してるような顔をしてるの!?!?」

 

 って、指の間からガッツリ俺のこと見えてんじゃねえか!

 

 戸惑いあう二人だったが、俺の踊りが始まった瞬間、混乱は頂点に達し、そして、

 

「え、何で急に踊り始めたの……?」

「あ、いや、喜びを表現するためにだな……」

 

 あまりにも純粋なユウナの質問に、ついにわけのわからない言い訳さえ口から出まかせに出始めた時だった。

 

「あら、それはカルバード共和国の遊興都市サルバッドに伝わるとされる、有名な踊りではありませんか?」

 

 思わぬ助っ人がやってきたのだった。

 

 ・・・・・・

 

「便利部、ですか……」

「ああ、ちょうどユウナと一緒に立ち上げようって話をしててな」

 

 あの後無事中東のダンスを踊り終えた俺と、うれしいあまりどうしても踊りたくなってしまう人種もいるんだという無茶すぎる言い訳を難なくユウナに通してくれたミュゼ、そして納得できてるのかどうか怪しいユウナ3人で談話ブースのテーブルをかこっていた。

 

「風のうわさで聞いたことがありますが、公的機関にも遊撃士協会にも属さないグレーな業務代行……。そういったことなのですか?」

「あー、たぶんだけどミュゼが知ってるやつとか別口かな……? だけど、グレーな内容をやらないだけで、おおむねやることは同じだぜ」

「なかなか興味深いですね! 私もぜひ一緒に、と言いたいところですが――」

「確か茶道部だったよな? 昨日帰りに軽く見たけど、ちゃんと器具とかそろえようとしてたみたいだし、そっちを優先したほうがいいぜ」

「はい。……ですがみなさんの活動にも少しばかりお手伝いさせてもらえるかもしれません」

 

 笑顔でそう言うと、ミュゼは聞いてきた。

 

「便利部の最初の依頼人になりたいのですが、どのようにして依頼を出せばよろしいのでしょうか?」

 

 

 ・・・・・・

 

「ノクスさんにユウナさん、手伝っていただき、ありがとうございました。これで問題なく茶道部の活動をはじめられそうです!」

「おう、それはよかった」

「うん、人助けって気持ちいいわよね!」

 

 あの後茶道部に届いた部室の備品の整理の依頼を正式にもらい、ユウナと共にミュゼの手伝いをしたのだった。

 東方の品々はどれもが深い意匠が見られるようなものであり、素人目ながら軽く触らせてもらっただけでも感銘を受けるようなものばかりで、なかなかいい経験をさせてもらった。

 

「正当な報酬はもらうから、ただのボランティアではないけどな」

「それは、そうだけどね。でも、これだけの仕事で報酬をもらうのはなんだか気がひけると言うか……」

「ユウナの前の学校の立場、警察という公務員からすれば一般人から報酬もらうのはなんだかズレてると感じるかもしれないけど、そのうち慣れていくだろうと思うぜ。自治体からもらう給与だって一般人からもらってる税金の一部だし、大きな目で見れば違わないだろ?」

 

 何より、ボランティアでやるとなれば、俺の日銭までも飛んでいくことになるからな。ここだけは譲れないんだ……。

 

「はい。その上、ユウナさんたちの要求の報酬は非常に良心的なので、問題ないと思いますよ? これからも色々とお願いしようと思うくらいには、しっかりとお手伝いいただきましたしね」

「うーん、そんなものなのかなぁ」

「そんなものだぜ。てか、それよりもよかったのか?」

「……?」

 

 先ほどから少し感じた違和感についてちょっとだけ触れようと思い、ミュゼに問いかけた。

 

「あ、いや、大したことじゃなくて……。俺たちにわざわざ頼んでくれて嬉しいけど、他に手伝ってくれる人がいる予定だったらなんかお金取るの申し訳ないと思ってな」

 

 流石にこの量の荷物を一人で運ぼうとしてたわけないだろうってくらいには色々と備品が積み上がっていたしなぁ。他の部員もいるはずだけど、来る時間も結構遅めみたいだし。

 

「…………。いえ、手伝ってくれる方がいらっしゃらなかった時でも、一人でゆっくりやろうと思ってたところだったので、お気になさらないでください」

「そうだったのか。だったらありがたく報酬を頂戴するぜ」

 

 誰かに手伝ってもらうかもしれないことを否定しなかったということは、誰か宛でもあったのだろう。でも気を遣われてるようだし、わざわざ詮索するほどのものでもないか。

 

「ええ。ちょうど1時間の依頼だったので500ミラですね」

 

 と、懐から硬貨を取り出してこちらに渡すミュゼ。ユウナとの山分けは寮に帰った後でやっておこう。

 

「確かにいただいた。1件目の依頼、出してくれてありがとな!」

「皆さんの部活動を成功に貢献できたなら嬉しい限りです! また何かありましたら依頼を出させていただきますね」

「おう、ミュゼからの依頼ならいつでも歓迎だからな」

「それと、またどうぞ茶道部にいらしてくださいね。お茶とお菓子を用意させていただきます」

「それは楽しみね!」

 

 うまそうな食いついたのはユウナだった。だが魅力的な提案に心揺れたのはユウナだけではなかった。

 茶菓子かぁ。俺も時間があったらお邪魔させてもらおうかな。

 

  <選べ>

 

【1ヶ月以内に茶道部にもう一度訪れる】

【むしろ茶道部に入部する】

 

 いいよ別にそんなに念を押さなくても! お邪魔させてもらおうつってんだから!

 

「……? どうかしましたか、ノクスさん?」

「絶対茶道部にお邪魔させてもらってしまうからな! 絶対にだぞ! 連絡もちゃんとするから覚悟しとけよ!」

「え、ええ。それは全然問題ないですが……。なぜ急にテンションが上がったのですか……?」

「あ、ノクスはたまにこうなるのよ。あんまり気にしないで! ほらノクス、部室の申請とか顧問のお願いとかまだやらないといけないことがあるんだし、話せるところに行くわよ!」

「いいか、絶対だぞ!!」

「は、はぁ……」

「じゃあね、ミュゼさん! 今度また話そう!」

 

 ぷりぷり怒ってるユウナに引っ張られながら、初めての依頼を完遂させたことにちょっと満足感を抱きながら茶道部から出ていった。

 

 

 

 

「ノクス・ハーカナさん、ですか……。少し調べさせていただくことにしましょうか…………」

 

 ・・・・・・

 

 あの後、報酬を分けたのちに、最初の依頼を達成した手応えを感じることができ、これならばやっていけそうだと決心してくれたユウナとともに本格的に部活動を始めることになった。

 便利屋の事務室にしては広くも狭くもないちょうどいい大きさと、校内校外からともにアクセスのしやすい場所の部室を貸してもらい、顧問教官としてランディを雇わせてもらった。生徒の自主性を重んじる士官学院では、部活の顧問をつけなくてもいいルールにはなっているが、元商売敵の視点や意見は貴重になることだろうという点と、ユウナのモチベーション維持にもつながるだろう点が引き入れる理由の決め手となり、分校長に直接話をしたことも功を奏して、無事捕えることができたのだ。渋々といった調子で軽く挨拶だけして、ランディは部室から出て行ったが、乗り気じゃないわけではない雰囲気だったのでこのまま顧問をお願いすることにする。

 それから、俺とユウナは手分けして便利部のポスターをリーヴス各所に配る活動にそれぞれ出かけた。二人で配るより、別れて配った方が早いのもあって、俺は校舎内、ユウナは校舎の外を中心に回っている。

 ここまでは順調だった。驚くほどに。

 何もなく、平穏な1日を過ごすことになろうと思っていたのだった。

 

 ああ、思えばあの選択肢のせいだった。

 いや、何もいつものようにひどい選択肢だったわけじゃない。【アカペラで琥珀の愛を激唱する】とかいう公衆の面前で恥を晒すような選択肢でもなければ、【コンクリートに埋まってみる】とかいう無茶苦茶なものでもなかった。

 だからこそ油断したのだろう。

 

  <選べ>

 

【宣伝力が大事だ。ここは校舎内の掲示板を重点的にして回るべき】

【草の根運動こそ王道。教員生徒分け隔てなくチラシを配るのだ】

 

 こういう、どうせちゃんと考えてないだろお前。だから代わりに選択肢をやってやった。的な無害な選択肢で、ろくに考えもせず下を選んだ結果、俺は人生で出会った中でもトップクラスに嫌いなやつに出会ってしまった。

 上の選択肢を選んだのならば、わざわざ生徒向けの掲示物など掲げられることのない裏門にまで来なかっただろう。

 

「ひさしぶりだな、ハーカナ。2年ぶりか?」

「正確には1年半ぶりだな」

「あれ、そうだっけ? 確かシュバルツオークションだったよな? あん時は世話になったぜ」

「ああ、慰謝料100万ミラでも足りないくらいには世話になってたよ。それと、俺たちが最後に会ったのはオルキスタワーだな」

「ん? そんなところで会ったっけ? 記憶にないんだがなぁ。攻略作戦に参加してたんなら声かけてくれてもよかったぜ?」

 

 どこまでも軽薄そうな男が惚けたように言う。

 いや、軽薄って言葉でいかにも罵倒したような感じになってるが、別にこいつのこう言うところが嫌いなわけじゃないぞ。

 それに、あんときは確実に俺のことに気づいた上で、あえて俺を避けてたのも全部見てたからな。目が合った瞬間に逃げられたものだから、あの後追うに追えなかったんだよなぁ。

 

「あんときは敵味方入り乱れてしっちゃかめっちゃかだったからなぁ。俺も遠目でしか確認できなかったんだよ」

「なるほど、道理で全く気づかなかったぜ。連絡先交換してればサポートしてやれたのに」

「これからはもうちっと存在感出せるように頑張るよ」

 

 こういった話題をばら撒いて、溢れた情報の中から未知なものと必要なものをかき集めてる態度も別に嫌いではない。というか人間誰しもある程度無意識にやっていることでもある。得意不得意はあるだろうが。特に諜報機関に所属するなら、圧倒的に得意であるべきだろう。

 とはいっても、あの時点で俺がどちら側だったのか、と言う情報は鐚一文教えてやらねえけどな。

 

   <選べ>

 

【さりげなく依頼がないか聞く】

【さりげなく股間を出す】

 

 えぇ……。このタイミングでぇ……。

 いや、下は論外なんだけど、上も全力でやなんだが……。この男――レクター・アランドールが嫌いな最大の理由が、こいつの過去に出してきた依頼にある。

 いや、確かに下請けに回ってくる仕事なんざ碌なものがないなんてのは覚悟でやっていたのはその通りだが、こいつの場合はぶっちぎりで、2回ほど受けたけど碌な目にあってねえし、結局はこっちを利用するだけ利用して終わるし。

 はぁ……。股間をさらけるよりはマシなのか……? なんかもうここまできたらどっちもどっちな気がしてきた。

 

「で、なんか手伝えることでもあるか?」

 

 さりげなく配っていたチラシをチラチラと見せつけながら言った。1時間あたり500ミラという記述の500の後ろに0を3つくらい足したくなる。

 

「……。俺からいえたことじゃないと思うけど、まだ俺からの依頼を受けたいって、まさかドMか?」

「ちっげーよ! こちとら困った人の助けになると言う崇高な目的があって活動してんだよ。依頼がねぇんだったら帰った帰った」

 

 まじで帰ってくれ。頼む。

 運がいいことに選択肢は「依頼がないか聞く」ってだけだから、依頼を受ける必要はない。そのまま帰ってくれ。

 

「ふーん。じゃあ、後でシュバルツァー経由にでも出させてもらうぜ」

 

 誰が受けるか。依頼書が届いた瞬間に破り捨ててくれるわ!

 

  <選べ>

 

【喜んで依頼をお受け致します】

【喜んで靴を舐めさせていただきます】

 

 あ”あ“あ”あ“あああああああ!!!!!

 

「喜んで!! 依頼を!! お受け致しますぅうううう!!!!!!」

 

 まじで勘弁してくれええええええ!!!

 

 

 ・・・・・・

 

 あのあと教官たちとのブリーフィングがあると別れを告げてレクターは校舎の方へと歩いて行った。

 なんで帝国情報局の人間がわざわざ士官学院如きの教員に混ざってブリーフィングなんてするのかとか思ったが、よくよく考えるとあのわけわからないくらいに充実したラインナップの教師陣で固められた曰く付きの士官学院ならば不可思議でもないものだろう。

 名だたる英雄を閉じ込める檻か何かなんだろうし、必要になればこき使うのだろう。その皺寄せが生徒にまで来なければ嬉しいものだけど、こういう悪い予感ほど当たるものという経験則に基けば、確実に悪報が後々もたらされるものだと思われる。

 

「もうやだ……」

「何辛気臭いこと言ってるの! 部活を始めてまだ一日も経ってないでしょう!?」

「いや、このため息は部活云々じゃなくて、俺らのこれからの進路に対するものでだなぁ……」

「……?」

 

 どういう意味なのか伝わらなかったようで、首をかしげるユウナ。あのレクターとかかわりを持ってないだろうし、そもそもレクターが学院に来ていることすら知らないのだから意味が分からなくて当然だけどね。

 

「どっちにしろ、シャキッとしないといけないなぁ。ありがとう、ユウナ。明日のことで悩むより、今日を精一杯がんばるよ」

「なんだかよくわからないけど、元気が出たならよかった」

 

 あきれながらもこちらのことを気にかけてくれるユウナにありがたいなと思いながら

 

「そういえば、ユウナってどこの部活に行く予定だったんだ?」

「部活? うーん、そうね。たぶんテニス部に行ってたかも」

「テニスか……。なんかものすっごいしっくりくるなぁ……」

「あ、だからと言って別にテニス部じゃないとだめだったとかそういうことはないから、変に気を使わなくても大丈夫よ」

「気を使うというか、便利部なんて活動内容いくらでもフレキシブルにできるから、テニスとかと兼部してもらっても全然よかったけど……」

「そう、そういう気づかいね。この部活がいいって、あたし自身が選んだんだし、やるからには全力でやりたいの!」

「……ありがとな」

「そりゃあテニスをやってみたかった気持ちはないわけじゃないけど、あの人たち( 特務支援課)に一歩でも近づけるのなら、こっちを優先しないわけないでしょ!」

 

 輝かんばかりの瞳に少し気圧されそうになる。そんなまっすぐな意思表示をされてしまったのなら、俺も下手に中途半端な気持ちでやってはいけないなと思えてしまうものだ。いや、別にはなからさぼろうとしていたわけではないが。

 

「でも、もしも便利部の活動がどうしても受け入れられないとか、別の部活動に代わりたいとなったら遠慮なくいってくれよ。俺も見限られないように頑張るからさ」

「うん、期待してるね」

 

 需要がある市場に参入をするわけだから、そうそう失敗することはないだろうけど、それでも一応の予防線は張っておく。絶対に成功するなんて保証は残念ながらないので。

 

「あ、そうだ。これからおそらくだけどいろんな方面から依頼が届くと思うから、その依頼を受けるかどうかのラインを決めておこうと思う」

 

 校内校外かかわらず張り出したり配ったりしたチラシとポスターにはすでに俺たちの部室の場所や名前、戦術オーブメントを介した連絡先を載せており、明日、早ければ今日中にでも依頼の連絡が来るだろう。だからこそ、どのような依頼を受けて、どのような依頼を拒否するのかを決めていかなければならない。依頼の受ける判断をいちいち二人で決めるのは難しいので、ユウナの法に来た依頼は基本的にはユウナの良識に沿って決めてもらうことになるが、世の中にはそういった良識を逆手にとって罠のような依頼を出してくる輩もいるので、俺の今までの経験を少しでも伝えておいたほうがいいだろう。

 

「依頼を受けるライン……?」

「そう。ほら例えば、人探しをしているつもりが依頼者がストーカーでうっかりその手伝いをしてしまったり、そういったことを避けるためだな。そんな野郎のダシに使われるくらいなら、依頼を最初から受けないほうがいいだろ?」

「ええ、まあ。その通りだけど、そんなのを見分ける方法なんてあるの?」

 

 少し考えて、ユウナは首をかしげながら尋ねてきた。

 

「厳密にはない。特に依頼者が初見さんならなおさらね。だけど、防ぐ手立てが全くないわけでもない」

「ちょっとでもいいからそういう依頼を受けないようにする方法?」

「そう。そういうわけで、その方法というか、鉄則をまとめておいた」

 

 言いつつ懐から例のアイテムを取り出す。

 

「これだ!」

「半紙……?」

 

 結構前の記憶だったのでちゃんと書けるものかちょっと怪しかったけど、問題なく完成させられたものを自慢げに広げてみる。

 

「確か東方で伝わる伝統的な書道……だっけ?」

「そう。ガキの頃ちょっと縁があって触らせてもらったけど、ちょうどいい機会だし思い出しながらやってみたら案外うまいことできてな」

 

 半紙に書かれているもの。それは、

 

 一、信用に足る依頼のみ受け入れよ

 一、自らの道を何よりも尊ぶべし

 一、手段がため目標を見失うべからず

 

 クッソかっこつけて書き上げたものなので、ちょっと恥ずかしいのだが、それでも俺の経験をまとめ上げているので常に見失わないようにしておきたい。

 

「きれいな字……。なんだか文字の羅列でしかない文章が一種の絵というか、芸術作品に見えてしまうような……」

「ああ、書道ってのはそういうものだろうな。かじった程度でしかない俺でもこんなものができるんだから、毛筆と墨ってすごいよなぁ」

「うん。ちょっと興味持ったかも。時間があったら教えてもらいたいくらいには」

「それはうれしいな。今度の自由行動日にでもやってみよう」

 

 いや、俺も人に教えられるほどに習熟してるわけじゃないが、まねごとをして楽しむくらいなら問題なくできるだろう。

 

「って、そうじゃなくて、依頼を受ける基準の話な。まぁ、ここに書かれている通り、依頼人が信用できるかどうかをしっかり考える、自分が正しいと思える依頼だけを受け入れる、依頼の全体図を常に確認して目標を見失わない、この3点が重要だな」

「うんうん」

「例えば依頼人の依頼についての説明が虚偽を含んでたり、依頼人自身が悪人だったりする場合は依頼を断れってことだな。受けるわけないと思うけど、盗人やテロリスト、猟兵団、特に帝国情報局からの依頼なんてのは言語道断なわけだ」

「盗人はまだしも、テロリストに猟兵団に帝国情報局から依頼が来るなんてことはないでしょ……。え、ないよね?」

 

 ないと信じたいが、おそらく近いうちに来るんだなこれが。その時断るって決断は残念ながら俺の手( 絶対選択肢のせい)に余るので、ユウナに頼るしかない。頼んだぞ、ユウナ!

 

「で、次に、俺がいないときに受け取った依頼をどうするかという判断は、全面的にユウナに任せる。ユウナの人となりをすべてわかったなんて言うつもりはないけど、少なくともあの人たち( 特務支援課)にあこがれて警察学校に行ったユウナが間違った選択をすることはないと思う」

「なんかすっごく買いかぶられてる気がするけど……」

「いや、買いかぶりじゃなくて、信頼だな。こう見えても人を見る目には結構自信があるんだよ」

「信用してもらって悪い気はしないけど……。でもあたしがさっき言ってた悪い人たちが出した依頼に騙されないとは限らないよ?」

「それは俺も同じだよ。だから、そういう時はフォローしあいながらなんとかしようってことだよ」

「それもそうね」

 

 そして最後である。これも重要なのだが、

 

「手段と目標を逆転させないことも大事だな」

「手段と目標の逆転……?」

「単純な例でいえば、バスの運転手から運行路の魔獣の駆除依頼が来たとして、その魔獣を狩るだけじゃなく、運行路で魔獣が繁殖している原因、導力灯の故障とかを報告したりして問題解決に働きかけるってことだな」

「うーん。つまり、依頼人が求めていることに常に目を光らせるってことかな?」

「おおむねそんな感じだぜ。そのためには、俺たちが何をするのかだけではなく、なぜそれをするのかを見失わないようにするってことだな」

 

 先の例でいえば、導力灯の故障を報告しないのならば、それこそ悪徳業者のすることだろう。それはそれで小金を稼ぐことはできるかもしれないが、そんな姑息なことしてまで稼ごうとは思わないなぁ。いや、しようとすれば碌な結末になりない。それは世の因果という意味もあるが、俺の場合は選択肢ももろ手を挙げて干渉してくるので、ひどい結末になるだろう。

 

「面倒な場合もある。例えば、どうしても子供のころに恋した相手を探したいという依頼が来てたとしよう。まあ、中には本気でその人を探そうとする人もいるだろうけど、実は依頼人はただただ今の自分の境遇が気に入らないだけかもしれないんだ」

「だから過去にすがろうとして……」

「その過去で輝いていたものを求めた。そういうことだな。けど、俺たちがこの場合してあげないといけないのは、依頼人の恋した人を探すことではなく、依頼人が今の自分自身に満足するように促すことだったりするわけだ」

「ということは、依頼の背景だけじゃなくて、依頼人の背景にも気をつけるべきってことかぁ。なんだか難しそう……」

「最初のうちはそうかもしれないけど、慣れていけばなんとかなるものだよ」

 

 少し考えるしぐさをしてユウナは聞いてきた。

 

「でも、なんでノクスってそんなにこういうこと詳しいの……?」

「あ、え――」

「もともと遊撃士だったというのは16歳だからありえないし、警察学校に所属してたわけでもないし……」

「いや、えーと」

 

 ここで素直に特務支援課のライバルとして旧市街でブイブイ言わせてたなんて自慢するものなら、『え、あの人たち( 特務支援課)の邪魔をしてたの!? そんなのってあり得ない! 軽蔑する! じゃあね! あたしはテニス部に行かせてもらうわ!』なんてことになりかねない……!

 ここはどうにかしてごまかさないと……

 

   <選べ>

 

【真実を話す(ユウナ退部フラグ)】

【意味深に誤魔化す(別フラグ成立)】

 

 おいおい……。実質一つしか選択肢が選べない系のあれかよ……。だったら選択肢制にするなよな……。実質強制なんだから……。

 いや、でもよく考えると、悪くない選択肢かもしれない。今の俺が誤魔化しに成功するほどの話術がないのは明らかなので、選択肢の強制力に身を任せるのもありなのかもしれない。

 

「虚幻の焔を鎮める無数の陽炎、その果てにこの部活動の意義が明かされるだろう……!」

 

 痛ぇぇえええええ~! 頼む、人が一人はいる絆創膏をくれええ!! 意味深にしてももうちょっとまともな文言があっただろうが……。

 

「なにそれ……」

 

 あきれたように頭を抱えながらユウナ。うん、俺もあきれてる。

 

「言いたくないなら別に詮索はしないけど……」

「ありがたい……」

「でも、誤魔化すにしてももうちょっとちゃんとした言葉があるでしょ……」

「これくらいしか思いつかなかったんだ……」

 

 ひどい空気とともにその日の部活動は終わった。

 結局あの後新たな依頼が届くこともなかったので、ユウナが苦戦している教科の勉強の手伝いをしながら雑談を続けるだけだった。部室前まで来ていた人がいたことは気配でわかったので、それなりの時間まで部室にいたものだったが、おそらく踏ん切りがつかずそのまま帰ってしまったのだろう。残念である。

 

 ・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、あの方は…………。一体……………………どこまでを――――」




どこまでどころか、何もわかっていない主人公「何の話だ……?」

シズナ登場させてヒロインにしてももよき?

  • よいよい
  • だめだ!
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