トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが…… 作:全自動髭剃り
具材を揃えたのちに空いた寮のキッチンを使わせてもらい、アルバイトの時に腐るほどやってきた作業工程を通じて料理を仕上げていく。
本当はしっかりと鶏ガラからダシを取って……などとやらなければいけないことは多いのだが、残念ながらそこまで豊富な食材に時間があるわけではないので、市販品のもので済ませてしまう。
だからと言って味が落ちるかというと、そんなことにしてはいけない。食材には食材の輝き方があるのだ。素人が調理した珍味より、料理人が調理したセール品なのだ。と言ってもそこまで料理にこだわって生きてきたわけではないし、龍老飯店のチャンホイ師匠の飯に比べれば児戯にも等しい味だが、それでもクロスベルの懐かしさを感じてもらえるくらいの出来のものが出来上がったと思われる。
「いい匂いだね!」
そして料理がひと段落落ち着いて試食していたところ、隣から話しかけてくる女の子がいた。
「えーと、サンディさん……だっけ?」
「あ、なまえを覚えててくれたんだ!」
「当たっててよかったよ」
名前を間違えなかったことに少しホッとする。
柔らかい赤髪をツインテールにまとめている女の子。都会というよりかは長閑な農村で育ってきましたという雰囲気がどこともなくする、そんな子だ
「それって東方の炒飯って料理だよね? ものすっごく美味しそうな匂いだったから、釣られて来ちゃったよ」
「そんなにいい匂いだったか? なら頑張って作った甲斐があったぜ。実は来客に振る舞う予定で、今のうちから軽く作って味を調整しようと思っててな」
「うーん、なんだかすでに十分な完成度のような気がしないでもないけどね」
軽く味見してみると確かに悪くない出来ではあった。折角なのでサンディさんにもちょっと分けてあげた。
「でもちょっと理想には達してないなぁ。リーヴスの、というか帝国の食材は使い慣れてなくてなぁ……」
「だったら、私にも手伝わせてもらっていいかな?」
「え?」
袖を捲り上げながらサンディは軽く拳を握って見せた。
「実はわたし、料理研究会の部長でもあるんだ! それなりに詳しいつもりだから、ノクスくんの料理を“理想”に近づけるお手伝いもできると思うんだ!」
「あ、マジで!? 超絶ありがたい! ……って、俺の名前知ってたのか?」
「うん、これでね」
そう言いつつサンディはポケットから俺たち便利部が配ったチラシを取り出して見せた。
「ああ、それで……」
「うん! というか、もう学校じゃあ君たちのことを知らない人の方が少ないかもね?」
「有名人になりたかったわけじゃないけどなぁ」
「だけどノクスくんたちの部活動としては、知名度があればあるほどいいんじゃないの?」
「それもそうだな」
試しで作った少量の炒飯を二人で平らげた後は真剣に料理に向き合うこととなった。
料理の塩分を抑えつつ、刺激的な辛さを引き立てるためにはどんな香辛料を使うべきか、即席調味料では再現できない味の深みをどのようにして代替、もしくは再現すればいいのかのついて、あーでもないこーでもないと議論を重ね――。
シンディは途中で部室から珍しい調味料を、俺は買い出しで具材をそれぞれ調達しに出かけ――
約1時間にして完璧な分量と火加減、そして調理法によって当初の目標であった龍老飯店の再現となる味にとどまらず、それを帝国の食材による
そして気づけば、寮にあるキッチンにはザワザワと人が集まり、かなりの大所帯となっていた。
「なんだか美味しそうな匂いに釣られてきてみたけど……」
「なるほど、これは……」
「まさかノクスさんにこのような特技が……」
我らがVII組の面々も揃っていた。
「あれ、こんな騒ぎになっちまったか……」
「君たちが作っていた料理の匂いが部屋にまで漂ってきたものでな。恥ずかしながら、もしかしたらおこぼれに預かれるかもしれないと思った次第だが」
「垂涎ものの料理を食してみたくなったことは、否定できません……」
「あー、あたしも同じかなぁ?」
思わぬ客ができてしまってたようだ。
でもまあ、料理の匂いに釣られてきてしまったとか言ってくれるとは嬉しいじゃないか。全員分を作ってやってもやぶさかじゃないレベルには、嬉しいものだな。うーん。
「いや、なんか評価してもらえてるようで嬉しいものだけど、残念ながら食材は全員分ないんだよねぇ」
「あ、食材なら、わたしが買ってきますよ!」
そこで声を上げたのは金髪の女の子。えと確か名前は……
「ティータさんだっけ……? でもお金は……」
「俺たちが食いてえと言ってるんだ。食うやつが払うのが筋ってものだろ?」
「アッシュくん……」
「あー、そのくん付けってのは柄じゃないからやめてくれ。で、俺らが食材費を出すなら、そのうまそうな炒飯を作ってもらえるか?」
つい先日にちょっとしたいざこざをしたものだったが、どうやら炒飯の魔法がそのわだかまりをほぐしてくれたらしい。
アッシュとはいい友達になれそうだったというのもあって、食材も集まりそうなら、第二分校の人がかなり集まってる今、みんなで集まって夕食にするのはいい親睦会にもなりそうなものだし、そのまま了承しようと
「ああ、それなら――」
「――それでは、折角なのでこれを使ってみませんか?」
俺の言葉を遮りながらミュゼが昼間に便利部として配っていたチラシを掲げながら話しかけてきた。
「依頼内容としては、トールズ士官学院・第二分校の初めての自由行動日記念とした打ち上げの料理の準備、と言ったところでしょうか?」
「それは……」
「食材だけ渡して料理を作ってもらうのに、相応の労働に対する対価を出さないのも不平等な話でしょう。ですが、便利部の依頼としてお願いするなら、ノクスさんもモチベーションが上がるのではないでしょうか?」
柔らかな笑みを浮かべながらしてくれたミュゼの提案は、正直願ってもないようなものだった。
これで俺たち便利部の宣伝にまでなるのだ。咄嗟の機転にしてはこれ以上になく俺たちのためになるものである。後でちゃんと礼を言いに行かないとなぁ。いや、1ヶ月以内に絶対行かないといけないんだけどね。その時に菓子折りでも持って行こう。
「ああ、そうだな。便利部として、その依頼引き受けた!」
「では依頼人は――」
「――この私、オーレリア・ルグウィンということにさせてもらおう」
ミュゼの言葉が言い切られる前に、凛とした声がした。
いつの間にいたんだよ、分校長!? さっきまで気配一つしてなかったんだが……。
「ついでに食費諸々も
「あ、バレてたかぁ……」
「さすが分校長……」
「隠れててもわかるものなんですね」
分校長が睨みつけた方向から次々と現れたのはランディにリィン教官、それにトワ教官までも……。ちょっと気配を探ってみるとどうやらそれにとどまらないらしい。
いや、どんだけだよ、龍老飯店の炒飯の魔法……! いや、どちらかというとサンディが料理の完成度を上げてくれたからだろうけど。
「戦士とて休息は必要。来たる試練の前、思う存分に羽を伸ばすことも大事だろう。そして明日我が身の背中を預ける戦友との、親睦を十分に深めるといい」
全てを掻っ攫うように宣言して、オーレリア分校長は寮の狭いキッチンどころから出て行った。行き先はもちろん、学院の食堂だろう。こんなに人が集まったのであれば、数人の軽食のための量のキッチンは流石に狭すぎる。
てか、来たる試練って……。嫌な予感が当たってしまった気しかしないが……。
「あー、だけどこれだけの人の分を作るとなると相当時間がかかるぞ……」
「それなら私たちに任せてよ!」
適当にぼやいたところ、一緒に料理を作っていたサンディが応えてくれた。
「え、でもいいの?」
「もちろん! むしろ願ってもない機会だしね!」
「はい! 是非ともお手伝いをさせてください!」
ティータさんもサンディの話に乗っかる。
「なんのための料理研究部か、今こそ学校のみんなに知ってもらういい機会だからね!」
「そうです!」
「だったら、悪いけど頼りにさせてもらおうかな?」
料理研究会の2人も手伝ってくれるなら、なんとかなりそうだな。
まさかこんな大ごとになるとはつゆも思わなかったものだった。
「あ、ノクス! あたしにも何か手伝えることない?」
そこで話しかけてくれたのはユウナだった。同じ便利部の部員だし、折角だから食材の買い出しをお願いしようかな。
「便利部ではないが、俺も手伝えるところがあれば遠慮なく言ってくれ」
「クラウ=ソラスならば遠距離の重量物運搬にも十分耐えられます」
そこでVII組のみんなも、
「んじゃ、俺は先に行ってるぜ」
「あらあら……。あ、わたくしにもできることがあれば遠慮なくお申し付けくださいね」
アッシュはそそくさと行ってしまったが、ミュゼも助力を申し出てくれた。
「じゃあ、そうだな――」
折角なので手伝ってくれそうな人には仕事を割り振らせてもらうことにした。もちろん料理部の人も含めてみんなに報酬は分ける予定ではある。それに、実際に便利部がどのような活動をしてるのかを肌で感じてもらって、部活に参加してない人が居ればあわよくば誘ってしまえるのではないかというささやかな野心も抱きながら。
調理具などをまとめた後、ジンゴに寮ではなく学院の食堂に来るように待ち合わせの場所を変更を連絡し、寮から出る頃には寮の中の人の気配はほぼなくなっていた。
・・・・・・
「おうおうなかなかの顔触れじゃねえか」
分校長やリィン教官という英雄がいるのにいつまでも大物感抜群な雰囲気を保ち続けるジンゴってすごいなと感心しつつも二人でご飯を食べていく
もともとジンゴを招待する予定だったものだから、みんなにちょっとお願いして2人きりのテーブルにさせてもらった。
さすがにこれだけの宴になったのだからと炒飯だけではなく俺が習った龍老飯店の品々に料理研究会の人たちの料理も加わっていい感じの宴会料理が完成した。ジンゴとの約束とはちょっとずれてしまうが満足しているようで安心する。
「黄金の羅刹に灰色の騎士……あれは特務支援課にいたやつか。噂には聞いてたけど、よくもまあこんなメンツを集められたもんだよな」
「……そうそうたるメンバーだよなぁ。下手すると教師陣だけで戦争が起こせそうだぜ」
「そうなったらなったで、たんまりと稼がせてもらうけどな」
「俺としてはそんなことにはなってほしくねぇなぁ」
少しばかりしんみりとした気分になる。いい年したガキのくせしてどこまでも鋭いというかなんというか。だからこそ帝国の置かれた状況についてある程度の見識もあるわけで、どうしても湿っぽい話になってしまう。
「で、便利屋を再開したそうじゃねえか。うちにはチラシを渡さなかったけど、どういう了見だ?」
「あれ、そっちに届かなかったのか。校外のチラシ配りはユウナに任せてて……」
「遠回しに、うちの店が辺鄙な場所で気づかれなかったって言いてえのか?」
「いや、そこまでは言ってねえけど。でも、実際知る人ぞ知るって感じの店じゃん」
「客を選ぶ商売だからなぁ。それはそうだ」
「それにそっちが扱ってる品的にも、ユウナが知らなかったのも仕方ないだろ?」
「それもそうか。じゃあ、今回は大目に見てやるよ」
「……(汗)てか、掲示板にも張り出してんだからそれで間に合うだろ? それに俺の連絡先も知ってるんだから、わざわざチラシを持ってなくても、依頼なら受けてやるっつうに」
「そんなら頼りにさせてもらうぜ。うちが値切りせずに依頼する相手は、お前くらいだからな」
「はいはいおおきに」
そう言いつつ立ち上がるジンゴ。来てからそんなにまだ経ってないが、もう帰るつもりなのだろうか。
「おかわりはまだあるぞ?」
「あー、それは食いてえけど、あいにく先日でかい話が来てて、その取引ほっぽり出してきてるんだ。おかわりはまた今度頼むわ」
「ならしょうがねえな。もう遅い時間だし送ってこうか?」
「迷子になる年に見えるか? いらねえよ」
いや、まさに迷子になる年に見えるが。けど黙っておこう。機嫌損ねて値段釣り上げられては割に合わない。
「じゃあな。何かあったら連絡する」
「おう、気をつけて帰れよ」
そしてジンゴがさった後のテーブルには500ミラ硬貨が一枚残してあった。
「律儀なやつめ……」
などと呟いていると、入れ替わるようにアッシュがテーブルにやってきた。
「よお、邪魔すんぜ?」
「アッシュか。どうだった? 俺たちが作った料理は」
「味合わせてもらったぜ。正直人生で食ったものでも上位に食い込むレベルだ」
「それはよかった」
「そこは感謝するぜ。だけどここに来たのは別の話だ」
「別の話?」
少しばかり真剣な眼差しになりながら、アッシュは聞いてきた。
「お前はVII組の存在意義は知ってるか?」
「うーん、どう答えればいいんだろう。実際に聞いたわけでもないし、確証を得られてるわけでもないけど、まあ多少推測はできてるかも、って感じかな」
「ふーん。まあ、それでいい。問題はこれからだ。どうしててめえがVII組にいるか、分かるか?」
どうして俺がVII組なのか。
直接的な理由は、リィン教官のVII組に所属するかという質問に承諾したからである。けど、おそらくアッシュの聞きたいところはそうではないだろう。
おおよそ異物でしかない上に、戦闘スタイルが独立型である俺が、戦術科などの融通の効く学科ではなく、リィン教官の率いるVII組に配属されたのか。といったところかな。
「正直な話、わからないと答えざるを得ないなぁ」
遠くで他のVII組のメンバーと会食中のリィン教官を見ながら、俺は話を続けた。
「出自も平凡だし、経歴も平凡な俺がVII組のメンバーである、ということに疑問が湧かないといったら嘘になるけど、だけど、俺は自分の選択でここにいることにしたんだよ」
「……?」
「もしかしたら俺は書類上の行き違いでVII組になった可能性があるし、なんならそれに近い理由でVII組になったと俺自身思ってるけど、
「……」
「俺は今VII組であり、それに対して胸を張っているし、受け入れてもらえてる。たとえ過去の手違いだったとしても、今の現実が大事だろ?」
「……ああ、そうかよ。悪いな、邪魔して」
そのまま立ち上がって手を振りながら、
「精々その今の現実ってやつを大事にすんだな」
と捨て台詞を吐きながら去っていった。
なんとなく予感はあったが、先日挑発してきた割にはいいやつそうだと思った。言葉がぶっきらぼうだけど、筋は通ってて、それでいて他人を邪険に扱わない感じ。
そのうちVII組のみんなとも仲良くなれたら嬉しい限りだが。
「あら、席が空いてるようですね。お邪魔させてもよろしいですか?」
「どうぞどうぞー」
次にやってきたのはミュゼだった。
「では失礼させていただきますね」
失礼するんやったら帰りーや、なんて常套句は流石にこんなに低姿勢な態度のミュゼには言いづらかった。
<選べ>
【失礼するんやったら帰りーやと言いつつ自ら土に帰る】
【探偵風に『お前の正体はもう割れている』】
うん、言い辛えつって言ってんじゃん。んで、言った日にゃあくたばれと? ふざけんなよお前?
「お前の正体はもう割れている」
「あら、バレちゃいましたか〜。実はこのミュゼ、とある国の、それはそれはとても尊い姫様だったのです♪」
「ふははは! やはりなー! この眼から逃れられぬものなどいないのだぁ!」
ノリ良くて助かったぁ……! じゃなきゃまた空気が死んだぞおい。
「って、そういえば昼間の依頼は大丈夫だったか?」
「えと、茶道部の備品の運搬ですか? 間違いなくやっていただきましたが、何か問題が……?」
「ん、あー。いや、間違ってどっか壊したりぶつけたりしたら大変だと思ってな。問題ないなら良かったよ」
あの後、結局踏ん切りがつかずに部室前で引き返してしまった依頼人がミュゼだったことは、部室から遠目で見える通学路で確認した通りだった。
けどまあ、これだけ察しのいい子なら先の質問で茶道部の話をしてなかったことくらいわかってたはずだし、誤魔化したってことは触れられたくなかったのだろう。あえて薮を突くこともないし、ミュゼがその気になってくれた時にでも聞こう。
「はい。あ、実はちょっと気になったことがありまして。ノクスさんは確かクロスベルからいらしたのでしたよね?」
「ああ、正確にはクロスベルからノルドに帰ってから1年ちょい経ってるけどね」
「ご実家の方がノルドなんですよね?」
「そうそう。のどかな高原が広がる場所だぜ」
「はい、絶景であることは聞き及んでおります。是非とも一回はこの目で見てみたいものです」
「今度の休暇にでも来てみるか? 歓迎するぜ」
「時間が合えば是非とも」
「ミュゼもノルド出身だったり?」
「いえ、そういうわけではないですけど、噂に聞く草原をかける乗馬にどうしても心を動かされてしまいまして……」
「あーそうだったのか」
確かにノルドの名物ではある。観光客もほぼ1人残らず乗馬体験をするくらいには人気である。
けど、ミュゼが乗馬に興味かぁ。なんだか意外な面を知ってしまった気分だ。
「では、わたくしはこれで失礼いたしますね。ノルド高原では是非エスコートしていただけたら嬉しいです!」
「おう、ミュゼならいつでも歓迎だぜ」
丁寧に一礼したのちに、ミュゼは軽やかに去っていった。
ノルドに興味かぁ。ノルドなら多少クロスベルよりかは詳しいし、本当に訪ねてきてくれたら色々と紹介できるので楽しみである。
「席空いてるかな?」
そこで話しかけてきたのはリィン教官とVII組一同だっただった。
「あ、空いてますよ! みんなも座ってねー」
「では遠慮なく」
5人でテーブルを囲いながら作ってあった点心を少しずつ食べながら話し始めた。
「盗み聞きをしたわけじゃないが、先ほどアッシュへ行った啖呵はさすがだったぞ?」
「いや、啖呵ってわけじゃないよ……。ただ俺は俺の思ったことを言っただけで……」
「うん、でもそれだけVII組に、あたしたちに真剣に向き合ってるってわかったよ」
クルトだけではなく、ユウナも清々しくいい笑顔を向けてきた。
「ユウナも聞こえてたのかよ……」
「声量的にかなり聞こえてしまう状態でした」
「え、そんな声がデカかった? なら申し訳ない」
「いや、それだけ俺たちはノクスのVII組についての考えを知りたかったのだろう」
「リィン教官まで……。あれ結構言ってて恥ずかしかったんですから、あんま振り返らないでもらえると嬉しいんですけど……」
「はは、すまないすまない」
笑いながら答えるリィン教官。まあリィン教官レベルになれば意識もせずに聞こえてしまうのだろうし、しょうがないけど。
「だが、あれのおかげで俺たちの団結力がより強固になったと感じる」
「うん、ノクスもちゃんと考えてるんだってわかったしね」
「ええ。少なくとも普段奇行に走るノクスさんの不良生徒以外の側面を見ることができました」
こう囃し立てられると針の筵みたいだ。
強引に話題を変更してやる。
「ああ、俺たちなら明日以降に俺たちを待っている試練では、背中を預けてもいいと思ってもらえたかな?」
「……」
「ああ、そうだな。だが、試練というのは……?」
「なんなのかはよくわからんが、そのうち発表があるだろ。ほら見てみろ、リィン教官がこんな顔になるくらいには、厳しい何かが待ってるから、今のうちに楽しめるだけ楽しもうぜ」
そのまま席を立ち、VII組のメンバーから離れることにした。あのまま喋っててもいいが、そろそろ時間も遅いので、用事がある人のところにとりあえず向かうことにした。
そしてたどり着いたのは堂々と座る分校長のいるテーブル。恐れ多いのか、生徒は誰もが座りたがってなかったし、教員も軒並み別の席に行ってるのでちょうどいいタイミングである。
「分校長、昼に伺った時には留守にしていたので、改めて来ました。こちらが便利部のチラシ兼契約書です。気が向いた時に再びご利用いただけることをお待ちしてますね」
「ああ、良き仕事ぶりだった。今後ともよろしくな」
そそくさと用件だけ済ませて離れる。この人の周りで選択肢が出たら下手じゃ済まない可能性があるのだ。
・・・・・・
宴の片付けをやっているうちに、寮に戻った時はすっかり遅い時間になっていた。軽くシャワーでも浴びて寝ようかと、一応ポストを確認しながら部屋に向かっていたが、ポストには滅多に来ない手紙が届いていた。
便利部の依頼は部室に送るようにお願いしてるはずだが、間違って入ったのだろう。なになに、えーと内容は――
「え……?」
だがその手紙には僅かに握られていたぬくみすら残っていて、まさに俺がポストに手を伸ばした瞬間にでも置かれたような錯覚に陥いてしまう。
感覚を研ぎ澄ませてみる。分校長やリィン教官レベルの気配探知なんてのは無理な話だが、曲がりなりにもそれなりには修羅場潜ってるつもりである。いかに達人だろうが目の前に隠れられているのなら、流石に見つけられると思うが……。
だが人の気配はもうしない。
「もう行ったのか……?」
なんか変に曲芸が達者な達人が送ってきてくれたのだろうか。全く手紙くらい普通に出すことはできんのかと腹を立てていると、
「これは……」
珍しすぎる差出人の名前に思わず言葉が出てしまった。
いや、珍しいというか、あんな遠い子供の頃の、一期一会のような出会いの相手から、まさかハガキが来るなど思いもしなかったのだ。
考えても見てほしい。
子供の頃、公園でたまたま出会い、数回、いや、十数回遊んだだけの、下手すれば名前すら忘れてもおかしくない相手から手紙が来たのだ。
どんなカラクリで、俺の今の所属や住所を知ったのか、全く思いつきもしないのだが、あの頃の懐かしさに比べれば大したものではなかった。
ノクス殿
拝啓。
前略。
共に駆け回った幼き日の思い出を再び。
後略。
シズナ・レム・ミスルギ
追伸
多分来週くらいに着くかな? 初めての帝国で楽しみにしてるから、おすすめの観光ルートを用意しておいてね!
筆跡からわかる。あの日から変わらない、彼女なのだろう。
当初の設定と矛盾なくシズナを登場させられそうで一安心です!
シズナ登場させてヒロインにしてももよき?
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よいよい
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だめだ!