トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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ユウナってかわいいですよね~


4月17日 嵐の前の平穏(前編)

「おっす、クルト! 今日も朝早くから精が出るな」

「ああ、そちらこそおはよう」

 

 結構朝の早い時間帯に起きていたのだが、すでに訓練室ではクルトが剣の稽古を始めていた。いつ見てもきれいな剣筋なもので、ついつい見とれてしまいそうになる。

 

「ノクスも体を動かしに来たのか? だったらぜひとも軽く手合わせでもしようじゃないか」

「あ、いや。ほら、こないだ朝見かけたらあいさつしたほうがいいって言ってたじゃん。それで顔を出しに来ただけだよ」

「……。律儀な奴だな。それでこの後何かやることでもあるのか?」

「ああ、ちょっとな」

 

 かつての日課のように朝のうちに片づけられる依頼はすぐに片づけてしまおうと部室に向かっている途中だった。

 例えばちょっとした買い出しや近くの街道の魔獣の討伐依頼なんかはわざわざ後に回したほうが面倒なのだ。

 なので残念ながらクルトの稽古の手伝いはできないんだな、これが。バトルジャンキーって程ではないが、同年代の実力者と朝から体を温めることができるのは魅力的ではあるので、残念ではある。

 

「そうか、では邪魔しないほうがよさそうだな」

 

  <選べ>

 

【せっかくなのでクルトの稽古に軽く付き合う】

【てめえにさいてる時間なんてねぇんだよ。俺の気が変わらないうちにとっとと消えちまいな】

 

 極端すぎるだろうが!! なんで軽く稽古に誘ってきただけの同級生をぼろくそに罵ってて挑発するんだよ!! あの剣筋でしばかれた日にはただじゃすまなくなるのは俺の方なんだぞおい!

 わかったよ、やればいいんでしょ、やれば? 別にそんなに嫌でもないしな!

 

「いや、急いでるわけでもないし、せっかくなんで付き合うぜ」

「それはありがたい」

 

 ついでなので、

 

「リィン教官も一緒にどうですか?」

 

 訓練室の前にいるであろう人にも声をかけさせてもらう。旅は道連れっていうし、軽い稽古相手ならうってつけの相手だろう。いや、教官なだけあって俺たちより忙しいだろうし、応じてもらえるかどうかはわからないが。

 

「おっと、ばれてしまっていたか」

 

 頭を少しかきながらやってきたリィン教官。大方俺たちの――俺の戦闘スタイルをちょっとでも知っておこうとしたのだろう。用事がかぶっていたせいで、小要塞攻略の際にことごとく仲間外れになってしまっていたので、スムーズな指導をするためにも俺のやり方を観察したかったのだろう。推測でしかないけど、そこらへんものすっごく律儀な教官のことだろうし、大きく外れているわけでもないと思う。

 

「おはようございます、教官」

「ああ、おはようクルト。ノクスは先ぶり」

「つっても数分も前じゃないですけどね」

 

 たまたま廊下ですれ違っていたので、軽い朝の挨拶は済ませていたのだ。

 

「それで、朝稽古の相手を探しているんだったか。さして急いでる用事もないし、必要なら相手になるよ」

「教官相手なら、いい練習になりそうです」

「内戦の英雄の腕前、疑ってるわけじゃないですけど、肌で感じたいとは思ってましたんでね」

「はは、それなりに期待してもらっても構わないさ。では、早いところ始めようか」

 

 リィン教官はそう言うと脇にさしていた刀を引き抜く。東方の刀なのはわかるが、彼女の持つものほどのまがまがしさは感じられない。おかげで肩に力を入れすぎずに相手できるというものだし、むしろ妖刀の類を持ってこられたほうが困るけどね。

 

「援護は頼んだ、ノクス」

「ああ、まかせとけ」

 

 獲物を抜きながらARCUSの戦術リンクをつなげる。もちろん俺とクルトが組んでリィン教官とやりあう流れである。英雄相手ならこれくらいのハンデを負ってもらってもいいだろう。

 それに対してリィン教官も当然なこととばかりに涼しい顔をしている。

 ちょっとイラついたので、軽い手合わせで終わらせずに、隙を見て重めの一発を叩き込んでやりたくなる。

 

「では、いざ」

「尋常に」

「勝負!」

 

 ・・・・・・

 

 その後、勝負の行方といえば、リィン教官もさすがに二人相手に抑え込むのは難しかったらしく、俺他の猛攻に防戦一方になりながらも、数分間技だけでしのいで見せてきた。奥の手はいろいろあるだろうけど、朝稽古ごときに出すものでもないだろう。

 クルトはもう少しだけ訓練室で体を動かすとのこと、教官は早朝からブリーフィングがあり、俺も俺で便利部に届いた依頼を確認しないといけないので3人ともにその場は解散となった。

 まだほとんどだれもいない早朝の学校の部室にはすでに何枚かの依頼が届いており、それらを整理していく。魔獣の討伐依頼に人数の少ない部活の応援、あとは忘れ物を持ち主に返してほしいとの依頼だな。部活の応援はともかく、あと二つはおそらく遊撃士協会ならば対応してたであろう案件である。まだまだ軍部の手が末端にまで伸び切っていないのがうかがえる内容だった。

 いや、そもそも帝国軍の軍部はもはや治安維持を第一目標としていなさそうなものだがな。内憂よって引き起こされる外患に対応を負われる羽目になっているのだから、少しは内部に目を向けてはどうかという提言をしてあげたい。けど、たとえ俺がそれなりに立場になったところで、指令を果たすのが使命とか何とか言って相手にされないだろうな。

 

「あ~あ、帝国のお先は真っ暗……。そのしわ寄せが来るのも目に見えてるし、いっそのことバックレてやろうかなぁ」

 

 などと、言論統制の始まった帝国内で、あまりめったに言うべきじゃない独り言が出てしまうくらいには憂鬱な気分であった。便利部の部室には俺しかいないし、気にしてもしょうがないけど。

 いや、朝から運動をして気分はすっきりしてるんだけどな。

 

「あまりめったなことをいうものではないですよ?」

「あれ、ミュゼ?」

 

 気づけば便利部の空いたドアからミュゼが入ってきていた。

 貴様いつの間に……!? っていうほど気配探知に優れてる達人でもないけどね。意識しないと背後を取られるなんて事は簡単に起きるし、常に背後を取らせないような化け物になりたいとも思わないし。

 

「ええ。おはようございます、ノクスさん」

「おはよう。って、あの、先ほどのことはオフレコでお願いしたいというか……」

「ええ、もちろん、二人の秘密にさせていただきますね?」

「あ、ありがたい……」

 

 分校長あたりの耳にでも入ったら、今度はリーヴスからも蹴りだされかねない……。

 

「で、朝から何の用だ? 依頼の話かな?」

「はい、実は昨日出せずにいた依頼を、今度こそ出させていただこうかと思ったのです」

「あ、そうだったんだ。昨日の今日ってことは、あの夕食のおかげでちょっとは信頼度の点数稼ぎができたってことかな……?」

「うふふ、どうでしょう?」

 

 そのままミュゼは俺に封筒を一つ渡してきた。

 

「依頼書は中に入ってるのかな……?」

「ラブレターかもしれませんよ?」

「え」

 

 急に!? ちょっと慌ててしどろもどろしていると、

 

「うふふ、面白い反応をなさいますね」

「あっ、からかったな!」

「すみません、つい」

 

 この女狐め! 俺をからかって何が楽しい!?

 とか思いつつミュゼに狐耳としっぽが生えた姿を夢想する。やっべ、可愛すぎるだろ……! 髪ももう少し伸ばして…… うっひょお!

 

「何を想像なされて鼻の下を伸ばしているかわかりかねますが……」

「あ、いや、なんでもないぞ! って、それより、なんでわざわざ封筒に……。開けたほうがいいか?」

「いえ、実はこの依頼ですが、ちょっと特殊でして……」

 

 説明させていただきますねと話し、ミュゼは依頼の内容について話し始めた。

 

「この封筒は次の二つのタイミングで開いてもらいたいのです。まずは、第2分校が再起不能な状況まで追い込まれた際、つぎは、わたくしが第2分校を離れる決断をした際です」

 

 真剣な顔でミュゼの口からは予言めいた二つのタイミングが言い渡された。

 おおよそ俺には簡単に予想できそうなものではないが、確実に起こるのだと予測しているのだろう。第2分校が再起不能になるか、ミュゼが第2分校を離れる決断をするのだと。

 

「ったく、意味深にもほどがあるだろ……。で、その時に依頼内容がわかるって話かな?」

「はい、封筒の中には依頼書を入れさせてもらいました」

「……ああ、なんとなく把握したよ。そのタイミングが来ないことをせいぜい祈らせてもらいたいけどな」

「ええ、それが最も望ましいことですね」

 

 柔らかな笑みを浮かべるミュゼの表情はどことなく乾いたような感覚だった。

 

「所定の報酬もきちんと支払わせていただきますので、どうかよろしくお願いしますね」

「ああ、わかったよ」

「また、その時が来るまで、この依頼があったことは気にしないでいただけると嬉しいです」

「ほいよ」

 

 まあ、来てほしくないその時のために、封筒はどっかに保管しておこう。で、それまでは気にせずに過ごそうかね。

 

「要件は以上です。ではわたくしはこれで失礼させていただきますね」

 

  <選べ>

 

【後日意趣返しに封筒に入ったラブレターを送る】

【ミュゼの目の前で依頼書の入った封筒をびりびりに破く】

 

 笑顔のミュゼが止まった世界で、空中に浮かぶ選択肢。なんでこいついつもいつも……! 前者はまだしも、後者の方、サイコパスかてめえ! 俺の評判が地に落ちるぞおい。だからと言って前者の方を受け入れるには心の準備というものがなぁ……。

 と言っても始まらないのがこの選択肢のことである。俺が選ぶまで絶対に世界は動き出さないのだ……。

 はぁ、これはもう腹をくくるしかない……。

 

「ミュゼ、今のうちにちょっと謝らせてくれ……」

「え……?」

「俺はお前を困らせるかもしれん……。けど、どうか、どうか寛大な御心でおゆるしください……」

「………………。」

 

 迷惑をかける宣言をしたのちにそそくさと部室から出ていった。鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔のミュゼよりも、俺のほうがいきなりすぎる境遇に置かれていることだけは主張しておきたい。

 

 ・・・・・・

 

 さて、朝のうちに片づけられる依頼として挙げられるのが忘れ物の調査だろう。よほど運がよくない限り、残念ながら午前のうちに完全に終わらせるのは難しいだろうが、少なくとも依頼人から話を聞くことくらいなら問題なくできるだろう。

 ということで、依頼を出してくれたリーヴスの本屋、カーネギー書房の店主であるレイチェルのもとに向かう。

 本屋というだけあって一般小説から実用書、トールズの生徒のための参考書類から専門書までもがある充実したレパートリーである。ただ、本屋なのに本に負けないくらいレベルのボードゲームの展示と、果てにはボードゲーム用のスペースまであるのはどうかと思ってしまうものだが。

 

「いらっしゃーい」

「どうも」

 

 ついでなのでほしかった本を1冊握って、カウンターまでもっていくことにする。

 

「お、珍しい本だね~。こういうのに興味があるのかい?」

「はい、何気に手にとって読み始めたらハマっちゃって……」

 

 なんか似合わないのはわかるが、古典文学に属する法の恋愛小説である。数百年も昔の本なので文法も語法も違うから読みづらいことは間違いないけど、どうも読んでいくうちにどんどん吸い込まれてしまって…… ってどうじゃなかった。

 

「そういえば、この依頼を出していただいたのはレイチェルさんであってますか?」

「あら、それは……」

 

 部室の郵便受けに入っていた依頼書を取り出した。

 

「ということは、あなたがノクスくんね?」

「ええ。初めまして。早速ですが、依頼の内容をお教えいただけますか?」

「うん、いいわ。ちょっと待ってね」

 

 そう言うと、レイチェルは店の奥から第二分校の生徒のものと思われる鞄を持ってきた。

 

「依頼書にも書いてもらったけど、実は昨日ここで買い物をしてた子が忘れていったんだ。制服からして士官学院の生徒だと思うんだけどね」

「そういうことだったんですか。で、依頼というのは……」

「うん、これを持ち主の子に返してあげてほしいのよ」

 

 わざわざ頼んでくれてありがたいのだけど……

 

「警察の方にはもう届け出は……?」

「いや、昨日出そうかと悩んでいたのだけどね。だけど、もしかしたら忘れてた子が取りに来るんじゃないかと思って保管させてもらってたの」

「それでまだ取りに来ていないと……」

「うん。それで、警察に届けるとほら、紛失届とかいろいろ出さないといけないでしょ? でもそれじゃあ授業に間に合わないんじゃないかと思って、そこでちょうどトールズ士官学院の子が遊撃士のようなことをしてるってチラシをもらってね」

「で、俺たちに依頼を出していただけたわけですね」

 

 まあ、確かにどうしても公的機関である警察――今は憲兵という扱いになっているが、行動が後手後手に回らざるを得ないのだろう。遊撃士の需要を埋め切れていない例がさっそく露呈したわけである。

 

「では確かに引き受けましたね」

 

 依頼書に用意したハンコを押す。一種の儀式でしかないが、これによって気が引き締まるのでいつもやっている。

 

「おそらく今日中には終わるので、届けられたらまた報告に来ますね」

「うん、待ってるわ~。あと、よかったら忘れ物をしちゃった子とも一緒にゲームをしに来てね!」

「ここ、本屋でしょうに……。でも、軽く見ただけでも奥深い世界ってことはわかりました。暇があれば友人を誘ってお邪魔させてもらいますね」

 

 

 ・・・・・・

 

「このかばんね」

 

 ハードな機甲兵教練の後、心持ち早めの昼食をとり、部室に集まった俺とユウナ。

 本来ならば全校生徒が集まる午前中のうちにすでに解決していたはずの依頼だったのだが――

 

「ライカ・リードナー……」

 

 そのかばんにあった唯一の所持者の特定に使えるアイテムは、今どきの若者に似つかわしくない古臭さとともに、造形の趣の深さを兼ね備えた万年筆だった。使い込んでいるのか少し擦り切れてはいるが、間違いなくそこに彫刻されている名前は――

 

「この学院に所属する生徒に、その名前はなかった……」

「生徒だけじゃなくて、何度か確認のために教員たちにも聞いてみたけど、そんな生徒はいないと口をそろえて言われるとね……」

「例えば貰い物のペンだったりして、とも思ったが……」

「そもそも学院の生徒で昨日忘れ物をした人がいなかった」

 

 今までの状態を口に出して確認しあう俺とユウナ。

 まあ、弱ったものである。簡単な依頼が、なんともまあ面倒なものへと変貌しているのだ。

 

「こうなったら所持者のプライバシーもあるんだが、カバンの中身を確認するくらいしか手掛かりは得られないかもなぁ」

「そうね」

 

 言いつつカバンから取り出したのは、オーバルカメラ。帝都に流通するごく一般的な、一般家庭の趣味でも問題なく購入できる価格のものである。ついてる傷などをみるかぎり、それなりに使われている痕跡はある。

 

「あとで格納庫の方に現像ができる施設がないか聞いてみて、何の写真が撮られているのかを確認してみるとして、ひとまず荷物の中身を見させてもらって、持ち主の特定につながる情報を探してみよう」

「うん、ちょっとグレーな気がしないでもないけど、忘れ物を届けるためだから仕方ないよね」

「ああ、ちょっと開けてみてくれないか?」

「うん、わかった」

 

 ただまあ、仕方ないかどうかで言うと、適当に警察に届け出れば終わりな話なのだが、とある疑念のためにそれではだめではないかと思ってしまう。

 

「えーと、なになに……? 参考書一式と……、女性用の服……。……ちょっと何をまじまじ見てるのよ!」

「ちっげーよ! ほら、ちゃんと見てみろ。その服、結構ボロボロじゃねえか」

「……。変な目で見ないでよね! えーと……」

 

 ワンピース型のその服を広げてみると、たしかにあちらこちらに補修の跡と、いまだに補修のされていない穴などがあるものだった。

 

「物持ちがいい――」

「――にしては、いくらでもやりすぎだろ? さすがにこのレベルになれば、雑巾にするかゴミ箱行きだよ」

「確かに……。士官学院でそんなにお金に困ってる人っていたっけ……?」

 

 目の前にいるぞ。いや、このワンピースは俺のものではないが……。

 

「おそらく学外の人なんだろうな。それに金銭で余裕がないような……いや、ここまでくると下手するとホームレスの可能性も高い」

「ホームレス……」

 

 クロスベルでも見かけるものだろう。特に夜のアルカンシェル裏通りなんかはそういった人が一夜の仕事を求めてたむろしてたりするし。

 

「で、俺の予想が間違っていなければ、参考書一式も俺たちが今勉強している内容と違っているはずだ」

 

 その予想を確かめるために二人して参考書を取り出していく。今現在使用できるものと、これから使用する可能性があるもの、最後に恐らく使用しないであろう参考書。

 3つに積み上げられた本の数々だったが――

 

「ほとんど士官学院では使えないものばかりね……」

「そう。おそらく持ち主は士官学院の生徒ではない」

「ということは――、士官学院の生徒を装って侵入した部外者ってこと!?」

「たぶんな」

 

 ため息をつきながら俺はつづけた。

 

「今までの物的証拠からかんがみれば、そいつの侵入目的もわかるだろ」

「まさか……」

「そうだ。泥棒の可能性が高い。下手するとこの本なんかも図書館か、もしかしたらカーネギー書房から盗み出されているかもしれないんだよな……」

「そんなことが……」

 

 始動二日目にしては面倒な案件が転がり込んできたものである。

 ただでさえ本校の生徒の忘れ物を届けただけで報酬を受け取るには抵抗があったのに、これではレイチェルさんに達成報告してお金をもらうのはあまりにも筋違いが過ぎる。

 だからといってこの案件を途中で投げて警察に頼むにしては、おそらくいろいろな事情で解決しない問題となってしまう。なによりも、不審者に簡単に侵入される学院という、仮にも士官学院としては小さくない恥を設立直後に受けることとなってしまうのだ。

 

「警察としても、看過できない……!」

「ああ、そうだろうな」

「絶対に捕まえないと」

「それには賛成だ。悪を見逃すのは、俺のやり方じゃないのでね」

「え……? なんか意外というか、どちらかというとめんどうなことはしないひとだとおもったけど……」

 

 少しばかり目を見開きながらユウナは独り言ちるように言った。

 まあ確かに、面倒なことは嫌いだし、契約以上のことを進んでやろうと思うたちではないけど――

 

「これでもユウナと同じくあいつら(特務支援課)の姿は見てきたし、あれほどの正義になれるとは思わなくとも、最低限自分の中の正しさは貫くつもりではいるよ」

「へぇ。なんだか意外ね」

「だけど、力みすぎて視野を狭めないようにな」

「うん、それはもちろん!」

 

 そして最後にカバンに残ったものを取り出す。

 それなりに大きなカバンだったので、奥に引っかかった最後のアイテムがどうしてもうまいこと取り出せない。なんか布製のものだが、果たして何なのだろうか。

 順当に考えればハンカチ類だろう。もしかしてポーチかもしれない。そうすれば何か当たらな証拠となるアイテムが見つかるかもしれない。

 やっと確実につかみ取ることができ、そのまま一気に引き抜く。

 これは――

 

「なっ……!!」

「なんだこれ、ぬのきれ……?」

 

 広げてみる。その布切れには大きな穴が3つほどあり、穴の周辺には刺繍らしきものが施されている。それにどことなく少湿っぽさがあって、数か所にシミのような汚れが――

 

「え、これって――!?!?」

 

 言い切る前に止まる世界。

 

  <選べ>

 

【嗅いだのち被る】

【味わって食べる】

 

 真っ赤な顔をして、今にも激高しそうなユウナの顔を見つつ、俺は心の涙を流しながら選択した。

 どっちを選んだかって? もちろん上だ。

 

「なにしてんのぉおおおおお!!!!!!!!」

 

 バチンッバチン――ッ!

 

 

 午後に発表された週末の<特殊カリキュラム>。

 おおよそその発表は驚愕でもって迎え入れられ、生徒のみならず教員までも緊張するような場面だったのだが、その中で両の頬に大きな紅葉跡をつけたやるも混じっていたらしい。

 誰かって? 誰だろうね。

 

・・・・・・

 

「この変態……!」

「(´・ω・`)」

「せっかくちょっとは見直してあげようと思ったのに……」

「(´・ω・`)」

 

 放課後の部室。怒りの炎がいまだ静まらないユウナ。その元凶が誰なのかは言うまでもない。

 

「ははは、ノク坊、また何かやらかしたのか」

 

 昼間にはいなかったランディも部室にいた。

 

「ユウ坊、こいつまた何をしでかしたんだ?」

「知りません!」

 

 尊敬していたはずの大先輩にもこの口調とは、相当な怒り状態なのだろう。放課後すぐに部室に来てたら、それこそ八つ裂きにされてたに違いない。ちょっと時間をおいてきたのは正解だったかも知れない。それでも、ほとぼりが冷め切るまで、丁寧に接することにしよう。

 

「えーとですね。依頼の話ですが……」

「……ふん」

 

 返答すらもらえない……。ここは聞いてもらってる前提で話を進めよう……。

 

「実はある程度足取りは調べがつき始めていまして……」

「……」

「お、そうなのか。さすがは仕事が速いな」

 

 ランディにはすでに依頼の概要は伝えてある。無視されている俺がいたたまれなかったのか、フォローの相槌を打ってくれた。

 

「分校長に話を伺ったところ、昨日の昼頃に不審者が学院敷地内に踏み入れたことは察知してたらしいけど、その対処すらできなくしてこの学院は成り立たぬであろうとかってことで気に留めなかったらしい。……です」

「……」

「で、昨日の昼に知らない人に出会わなかったかって軽く聞き込みしてみたところ、この学校の生徒ではない特長の人間に出会った証言が何個かあって、それをまとめると、身長は高め、スレンダーな体形で、くせっけが強い長い金と赤の髪の子という感じになった……。なりました」

「へぇ。教官がブリーフィングをしてた時間かもな? じゃなけりゃあ、さすがに誰かにつまみ出されてそうなものだ」

「……そこまでちゃんと調べたのね……」

 

 やっとちょっとだけ返答をくれたユウナ。だけどここで変に話しかけてもまた印象を悪くするだろうから、先と同じように判明した事実だけ陳述していく。

 

「それで、町の人にもちょっと声をかけてみたところ、つい先ほど帝都の方に手ぶらで向かってる学院の生徒がいたって話を聞いて……聞きまして。で、折角ユウナが……ユウナさんが配ってくれたチラシでもらった依頼だったので一緒に追跡しませんかとお声をかけさせていただこうかと……」

「……」

 

 帰ってきたのは沈黙だった。交渉失敗……。

 あああ、くそ! 選択肢てめえ恨むからな!

 

「えーと、では自分はこれにて……不審者の追跡に行ってまいりますので……」

 

 と、蚊のような小さい声で静かに部室の扉に手をかける。そっと、そっとだ。波風立てないように……

 

「待って!」

「ひゃい!?」

 

 え、何!? 俺もしかして断罪される!? ごめんなさい、ごめんなさい!!

 などと女神に許しをこいていた時だった。

 

「あたしもいく」

「え……?」

「何回も言わせないで! あたしもちゃんと、行くから……!」

「あ、えと……はい……(?)」

 

 あれ、ついては来てくれるのか。よかったぁ……。

 依頼を達成した時の達成感を味わえないのは本当にもったいないなとおもってたので、心変わりしてくれてうれしかった。

 

「俺もついていこうか?」

「このあとやることないの?」

「いや、あるにはあるが、念のために、ってやつ?」

「だったら大丈夫。そんなに遠くには行かないし、ランディの用事を優先してくれ」

「じゃあ、遠慮なくそうさせてもらうわ。お前らもけがすんなよ」

「……はい」

「おう」

 

 ・・・・・・

 

 もちろん言うまでもなく道中の雰囲気は死んでいた。たとえるなら、森で大型魔獣を見つけた時に決してばれないように息をひそめるような感じでユウナの隣を歩いた。

 

 そして金と赤髪の子の目撃情報を聞きながら犯人の足取りを確認し、やっとの思いで例の子の後ろ姿らしきものが見えたのは、帝都にまだ入らないくらいの場所にある、もう使われなくなったコンテナの集積地だった。

 正直あんまりいい雰囲気がしない。魔獣が住処にしてたり、ごろつきがたむろしてたりしてそうな感じなのだ。だけど、これならば俺たちが昼に特定した犯人の人物像にもあっている。

 

「まさに、って感じの雰囲気ね……」

「ああ、魔獣に出会ってもおかしくないし、はぐれないように一緒に行動しよう」

「うん」

 

 そしてそこから犯人を見つけ出すまでに早々時間はかからなかった。

 少し進んだところにある、ドアの空いたコンテナ。住処にしているのか、生活感のあるにおいがする。

 

「何のためにその制服を取り繕ったと思ってる!」

 

 そして聞こえてきたのは複数の男の罵声だった。

 

「何の収穫もなかっただと!? ふざけるな!」

「俺らの何日分の飯代がかかったと思ってやがる!」

「痛い目を見ないとわからないようだな!」

 

 そして俺とユウナはお互いを見合い、軽くうなずき、迷わずコンテナの中に突撃することにした。




閃3って3か月くらいの話なんですよね…….もっとあると思ってました.

実は主人公の件でどなたか守護騎士の方に登場していただかないといけないんですが,誰にしましょう……?

  • セリス
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