トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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オリキャラのライカちゃん、実はあの人と関係があったりして……


4月17日 嵐の前の平穏(中編)

「俺らがなんでお前を送ったのかわかってんのか!?」

「わかってるよ。金目のものを盗んで、盗撮し、そいつらから身代金を掠め取るって算段だろ」

「だったら、お前はなんで……」

 

 荒々しい中年男性の声に少し悲しさが混じる。

 

「悔しくねえのか、あんなクソガキどもの贅沢な生活が!? てめえもガキだが、少なくとも俺らと同じだろうが」

「ああ、そうだな」

「だったら何をしてきたんだ、お前は! 手ぶらで帰れって誰も言って――」

「――オレはなぁ!」

 

 怒鳴る別の男の声を遮り、少女は声を荒げた。

 

「てめえらと同じ穴のムジナってやつだ……。泥啜って生きてきたし、盗みも強請もやってきた。けどなァ、それでもオレなりの筋ってものを通してきたつもりだ」

「筋だァ? ドブネズミのくせしてなに綺麗事を言ってやがる」

「はッ! 綺麗事だとも。だがな、ドブネズミならドブネズミらしく縄張り争いしろって話だ。関係のねえ一般人に手を出すてめえらを見るたびに虫酸が走ってたんだよ」

「舐めてんのか、ガキ……!」

 

 激昂する男を無視しながら少女は続ける。

 

「てめえより恵まれてるのを見て羨んできたし僻んできた。てめえらと同じで騙して盗んだりもしたし、殴ってカツアゲたりもした。けど、一向にその日暮らしから解放されねェ」

「そのためにお前にデカいヤマを任せたんだろうが」

 

 デカいヤマ。要するに裕福である可能性が高い士官学院の生徒から盗撮の口止め料などの要求だろう。

 

「だからてめえらはその程度なんだって、改めてわかったよ。んなあぶく銭で小金持ちになったところで、クソ小悪党であり続ける限りは、てめえらともどもは一生虫ケラ以下であり続けンだよォ」

「虫ケラだと……!?」

「オレはやっと目が覚めたんだよ。現状に不満持っても変わる努力もせずに他人の足引っ張るくらいしか思いつかんゴミ溜めで骨埋めるくらいなら、ちったー女神様ってやつに胸を張れるようになってみてえとなぁ」

 

 そう言いつつ、少女は懐からミラの入った袋を取り出す。

 

「世話ンなったな。制服代に手切れ金まとめておいた。てめえらとはこれっきりだ」

「……」

 

 男4人衆の中のリーダー格と思われる中年男性が袋を受け取ると、黙ったまま中身を数えた。

 

「稼ぎをちょろまかしたな?」

「てめえらと同じにすんな。なんかのために貯めてだんだよ。てめえらへの手切れ金のためになるとは思ってなかったがなァ」

「そんな嘘が通用すると思ってるのか……?」

 

 黙ったまま数人の男がジリジリと少女を囲うように移動する。少女からもっと金を毟り取るためなのか、それとも憂さ晴らしに痛めつけるためなのか。いや、もっと下衆な考えなのかもしれない。

 

「てめえらにはもう用がねぇつもりだが」

 

 静かに後退りながら、少女はつぶやくように言う。

 流石に狭い場所で1体多人数なので、勝機が少ないのはわかる。こういう面倒なことにならないためにも手切れ金を多めに用意したつもりだったが、男どもは予想以上の下衆野郎と判明してしまった。

 

「ちょっとは、痛い目を見てもらわないといけないな!」

「中身はともかく、見てくれだけなら悪くねぇメスガキだ」

「おじさんたちが納得するまで付き合ってもらおうかね」

「チッ――!」

 

 逃げようと思った頃にはすでに包囲が完成していて、思わず舌打ちが出てしまう。逃げ切るのは簡単じゃないなと心の中で悪態を吐きながら、拳を握り上げる頃――

 

「トールズ士官学院・第二分校、便利部です!」

「依頼のために、彼女を返してもらおうか(、、、、、、、、、)

 

 第三者による大きな物音がしたのだった。

 

 ・・・・・・

 

 思えばまともな人生ではなかった。

 物心がつく頃には、すでにスラム街にいた。

 

「お前は俺と違って、こんなところからさっさとおさらばさせてやるよ」

 

 そんな言葉が口癖なアニキが世話をしてくれたこともあって、浮浪者にしてはまだマシな生活をしたのは間違いない。

 そんなものだから、アニキは誰よりもかっこよく見えたし、碌でもない餓鬼の集まりでも、オレがリーダーになってしまうくらいには影響力を持つアニキのようになりたいと思った。

 だからこそ、手癖の悪かったアニキの盗みのスキルも、喧嘩の作法も見よう見まねで盗んで行った。別にそれらを使わないといけないかというと、そんなことは決してないくらいには、アニキに色々と買ってもらっていた。

 中でもアニキは自分が読めもしないような本を次々に渡してきたのだ。

 

「お前は勉強して偉くなるんだぞ」

 

 何度も言われたその言葉を、忘れる日はなかった。けど、あのアニキの様子を見て、本当に勉強なんてものが役に立つのかと、いつも疑問に思っていた。こんな紙ペラに書いてる話を知ったところで、美味い飯が食えるわけないと、そう思っていた。

 

 そんな中、アニキがでかいヘマをしてしまい、明日の飯にすらありつけなくなった日がやってきてしまった。

 アニキの機嫌もみるみる悪くなっており、金もないのに夜遅くまで飲み屋で過ごすようになっていた。後で聞いた話だが、ツケにしてもらえる限界まで酒をあおっていたらしい。

 だからこそ、オレは今しかないとばかりに、アニキから盗んだ技をこれでもかと使い、次々と汚い金を手に入れた。これでオレとアニキが飢え死にすることはない。そう喜んでアニキに稼いだ金を見せた。

 

 その日以降、アニキが帰ってくることはなかった。

 

 最初のうちは死に物狂いでアニキを探し回っていたが、一向にアニキの足取りは掴めなかった。アニキのよく通っていた店なんかにも顔を出したが、みんな口を揃えてあの日以降顔を見ていないと言った。

 オレはアニキに見捨てられたのだった。

 意味がわからなかった。

 オレだってアニキのために仕事したのに、何でこんなことになったのか。

 

 それでもアニキの消息を探すうちに色々とわかったことがあった。アニキはあちらこちらで、オレをエラい学校に通わせて、いずれはこんなスラムじゃない立派な帝都のマンションに住めるようにするんだと。オレならそれができるに違いないと、そう豪語して回っていたらしい。

 そんな話を聞くたびに、アニキのことが嫌いになっていった。まるでカッコよかったアニキが、アニキ自身のことを否定しているようで。だからもう、アニキのことを探すのをやめるようになったのはすぐの話だった。

 

 あれから転々と場所を変えながら、ドブネズミ暮らしを続けていたオレが、たまたまつるんでいたおっさんどもの提案で士官学院とやらに行くことになったのだった。

 盗撮に窃盗。こんな暮らしをしてれば、誰もが身につけそうなスキルを買われて、制服まで拵えて侵入することになった。

 正直、学校に行ってるボンボンどもにはいい印象はなかった。こちとら生きるのに一生懸命だってのに、それを悩まずに済むだけ裕福な奴らを僻んでいるだけなのだというのも自覚していたが、それと同じくらい興味があったのだ。

 

「これがアニキの言ってた……」

 

 潜入して何枚か写真を撮って、それからそこらに置かれている本なんかも盗もうとした。

 けど、せっかくだしその前に中身くらい見せてもらおうと、勝手にパラパラと捲らせてもらった。コソ泥にしては完全に悪手だったが、それでもなぜかオレは好奇心を抑えることはできなかった。

 判明したのは、こいつらが読んでる本はオレがやってきた勉強のおままごととはレベルが違ってることと、こいつらの勉強してる内容がこの帝国という社会を動かす原点であることだった。しかも今日はどうやら授業ってのがない日で、学校のあちこちでガキどもが遊んでやがる。

 クソが。

 こちとら死ぬ気で飯にありつけようとやってるってのに、こいつらは遊びながら勉強しても、“偉く”なるんだとわかると、心の底から苛立ちが沸々と湧いてきた。

 

 けど、その苛立ちってのがガキどもへの僻みなんかじゃなくて、オレ自身の情けなさに対するもんだってのはすぐに気づけた。

 アニキが言いたかったことがようやくわかった気がしたんだ。

 

 ・・・・・・

 

「あんたら、だれだ……?」

 

 はじめてお目にかかる犯人の少女は、ナイフよりも鋭い目つきでこちらのことをにらんでいた。

 

「あー、えっと忘れたか? VII組特務科のノクスだ」

「VII……? なにを言って……」

「なんか同級生が怪しいところに入り込んでるところを見たからついてきちゃったけど、襲われそうになってるみたいだし助太刀にきたぜ」

「は……?」

 

 困惑した彼女の顔。あと男勝りな表情ではあるが、造形自体は驚くほど精悍で華麗であった。それこそ道さえ違えば、アルカンシェルの女優になっていてもおかしくないくらいには。

 

「おいおい、お前ら何を勘違いしてるか知らないが、そいつはお前らの学校に侵入した不審者だぞ」

「お前らボンボンならわかるだろうが、こんなクソガキが士官学院様なんかに入れるわけないだろうが」

 

 いやいや、突入前にも聞こえていたけど、行かせてたのお前らだろうに……

 とはいえば、そんなことを言われてもライカ(おそらく)が同級生であるごり押しを続けさせてもらうがね。

 

「おっさんらも見る目がねぇな。こんなかわいい子を捕まえてクソガキってなぁ」

「……軽蔑します!」

 

 ユウナからの援護射撃もくる。

 だがまあ、これで残念ながら衝突は避けられないだろう。

 

「クソガキども……。痛い目を見たいようだな」

「そっちの嬢ちゃんもよくみりゃあ上玉じゃねえか」

「おじさんをからかったつけ、払わせてもらおうか」

 

 不良4人。どいつもそれなりには喧嘩慣れしているが、実力でいえば警察学校で訓練をしたこともあって、おそらくユウナ一人でもどうにかなりそうなレベルである。

 

  <選べ>

 

【きざったいセリフで戦端を開く】

【ホモっぽいセリフで戦端を開く】

 

「おいおい、おっさん。よくみりゃあ上玉、じゃねえぞ。こういうのはな、一目惚れするほどの美少女っていうんだぜ!」

 

 言いざまに懐から獲物を取り出して、不良Aに強めの一発を叩き込む。もちろん致死性のないゴム弾だ。だが当たり所が悪ければただのけがでは済まない。

 あ、選択肢? 上に決まってんだろ。

 

「おら、お前ら、一斉にかかれ!」

「「おおお!」」

 

 と、気炎を上げて襲い掛かってくるおっさんB、C、D。え、名前を聞いてあげろって?どうせもう人生でかかわるこたぁねえし、別にいいだろう。

 おっさんBをユウナに任せ、C、Dの襲い掛かるこぶしを獲物――虚で受け止める。ゴギッ!という音が2回ほど鳴ったが、そりゃそうだ。曲がりなりにもあの工房で補強した武器に生のこぶしを叩き込めば、こぶしの方が砕けるにきまってる。

 

「うあッ!」「いってぇ!」

 

 そして、おっさんCの局部を蹴り上げ、おっさんDの顎を虚の片方の柄の部分でたたくと、二人仲良くその場にうずくまってしまった。

 隣を見るとおっさんBを難なく縛り上げているユウナ。背中でアームロックをがちがちに決めているので、これ以上暴れるに暴れられないだろう。それにしてもさすがは警察だけあって、暴れるおっさん一人難なく制圧している。

 

「で、ライカ、であってるかな? 事情を聞かせてもらってもいいか?」

 

 ・・・・・・

 

 その後、憲兵隊に連絡しておっさん4人を突き出したのち、ライカに部室まで来てもらい、そして、今回のおおよその事件のあらましと、事件を起こすことになったきっかけを聞き出すことに成功した。

 

「なるほど、そういうことが……」

「その、アニキって人の願いをかなえてあげるためにも、こんどこそ士官学院に通えるように頑張ってみたくなったと……」

「ああ、そうだ」

 

 部室に備えてあるティーポッドを使って入れた緑茶をすすりながら、話し合っていた。

 帝国的には紅茶が主流だろうけど、俺としてはどうも緑茶のほうが好きだった。中には緑茶に砂糖を入れて楽しむ人もいるだろうが、少なくともこの部室内ではそのような暴挙に走ることは許さない。たとえそれが客という立場であるライカであろうとも、だ。

 

「ぐえ、やっぱ苦ぇ」

「ちょっと飲んでみればこのお茶という文化の奥深さに気付けるから、最初は我慢して飲んでくれ」

「その奥深さってやつはもう気づいたから、頼むから砂糖を入れてくれ」

「だめだ」

 

 全く、これだから最近の若者は……

 って、いやそういうジジイくさい話じゃなくて、

 

「で、ライカはこれからどうするつもりなんだ?」

「あ? どうするって……?」

「いやほら、お前多分家ないだろ? んで、そんな状態じゃあ受験どころか、そのひぐらしすら危ういんじゃねえか?」

 

 幸い手切れ金としてライカが支払ったであろうミラは回収することができたが、それでも俺の貯金にすら満たない額でこれから生活するのは難しいだろう。

 なんならこのまま行けば、再び浮浪者生活に下手すれば盗人に元戻りしてしまう。

 

「そこはなんとかやってくさ」

「やってくつったって、その元手じゃなんもできねぇだろ。仕事でも探すのか?」

「そうだな。住み込みでできそうな仕事でも探してみるさ。アテはないけどな」

 

 投げやりにライカは言った。

 それにしても住み込みの仕事なぁ。ライカに何らかの専門的なスキルがあったり、もしくは人脈があればいいんだが、残念ながらどっちでもないだろう……。そのうえ公的機関が帝国が一般人に斡旋できる、いや、斡旋したがる職業なんてのは、今どきほとんど選択肢はないだろう。

 そうすれば必然的に行き着く先は予想できる。

 

「帝国軍くらいしか道がねえぞ」

「軍か……」

 

 かみしめるように反芻するライカ。隣を見てみると、ユウナが複雑そうな顔をかみしめていた。

 それもそうだろう。クロスベル人からすれば、帝国軍にいいイメージなど抱けるはずもなかろうなのだ。純粋なクロスベル人ではない俺からしても、帝国軍という選択肢は取ってほしくない。

 

「それくらいしか選択肢がねぇってんなら、やるしかねぇだろ」

「でも……」

 

 何かライカのためになるような選択肢を考えるユウナだったがなかなか答えが出てこない。そりゃあそうだ。だって俺らはたかが一学生に過ぎないのだから。そのうえ、帝国、特に帝都付近に知り合いなんてのもほとんどいないのだ。

 だからと言ってこのまま彼女を突き放してしまうのも俺の流儀に反するのだ。

 

「俺から言えるのは普通はそれくらいしか道がねぇってことだが……」

「なんとかならないの、ノクス?」

 

 少し心配そうに聞いてくるユウナ。

 

「別の道がないこともない。けど、ほとんど博打みたいなことになるので、期待しないでほしいけどな」

「博打……?」

「ああ。俺の方でどうにかしてみるだけしてみよう」

「ノクス……」

 

 暗に自分にもできることがないのかと語りかけるユウナだったが、これについては俺一人でやればいいだろう。ユウナには――

 

「とりあえず今日中に結論が出ることはないだろうし、ちょっとの間うちの寮に泊まってもらったほうがいいかもな。トワ教官あたりに事情を説明すれば何とかなるだろう.間違ってもミハイル教官にお願いするなよ」

「うん、その交渉は任せて!」

「ああ、頼んだ、ユウナ。……あっ、えっと……ユウナ、さん…………」

 

 思わず普段通りの言葉遣いになってしまい、慌てて直したのだが……

 

「はぁ……。あのことはもういいわよ。ただ、あとでちゃんとライカちゃんに謝ること。いい?」

「あ、はい……! ちゃんと誠心誠意謝ります!」

「え、オレ? って、それよりもライカちゃんって……」

「あれ、ライカさんのほうがよかった?」

「……どっちでもいいよ。呼び捨ての方がオレとしてはやりやすいけど」

「うん、わかったライちゃん」

「ぜってーわかってねぇだろ」

 

 ああ、でもわかるぞユウナ。ライカってば凛々しい雰囲気だけど、なんとなく小動物的なかわいさがあって、ついついちゃん付けで呼びたくなるよなあ。

 

「寮にはまだまだ空いてる部屋もあっただろうし、もし使うのが難しそうならユウナたちの部屋に泊めてあげてくれ」

「もちろんそのつもりよ! じゃあ、もういい時間だし、行こう?」

 

 そしてそのままユウナはライカの手を引きながら部室を飛び出していった。

 

「おい、手をつなぐなよ。恥ずかしいだろ」

「女の子同士なんだから気にしなくてもいいでしょ?」

「いや、確かに女同士だけどさ……」

 

 などと姦しい声を聞き届けながら、今日辺りに届いた依頼がないかをポストで確認して、万が一すれ違いになってしまわないように校長室に寄ったのちに寮に戻ることにした。

 

 ・・・・・・

 

  <選べ>

 

【わがままを通すためには力を示すしかない。全身全霊の武をもって挑んだのちに願いを聞き届いてもらう(成功率:高)】

【赤子でさえドン引くレベルで泣き叫びながら懇願する。いくら分校長とは言え、そこまでされてはひとたまりもないだろう(成功率:低)】

 

 今、寮の分校長室前で、俺は人生で最大レベルのピンチに陥っていた。

 世界は止まり続けているが、冷汗はとどまることを知らない。

 いや、俺としても非常に短絡的な試みであったことは認めよう。威厳があり、態度も厳しい分校長だけど、かなり豪快でおおらかな性格をしているものだから、ワンチャンスライカのことを直談判して、来年受験して入学するまでの間だけでもいいから寮に住まわせてあげてくれないかとお願いしようとしていたところである。

 うまいこと行く可能性は最初から低いと思っていたが、そこで現れたのが先ほどの選択肢である。

 

「はぁ……」

 

 思わずため息が出てしまう。

 言っても仕方ないことはわかる。だが、あえて言わせてもらおう。

 馬鹿じゃねえの?

 あのオーレリア・ルグウィンに挑めって? ばっかじゃねえの? しかも(成功率:高)って要は分校長に勝てばってことだろ? ばっっっかじゃねえの? 勝てるわけないやん。

 いや、そりゃあ勝ってしまえばある程度のわがままも聞いてくれるだろうけど、そんな天文学的な確率に賭けろってこと? 結局は(成功率:低)じゃねえかよ。

 でもなぁ、だからと言って赤子でさえドン引くレベルで泣き叫びながら懇願するってのは極端にもほどがあるだろうが。何ならそういうのって分校長が一番嫌いな部類の人間の気がするんだが……。なにがひとたまりもないだよ……。プライド的な意味も含めて、この選択肢はなしだ。だからといって上の選択肢も全力でご遠慮いただきたいものだが……。

 でもこうなってしまっては背に腹は代えられない。

 やってやろうじゃねえか、この野郎!!

 

 もはや俺のコントロールを失った俺の体は勝手に分校長室のドアをノックしていた。

 

「ノクス・ハーカナだな。こんな夜分に何の用だ?」

 

 ノックだけで誰なのかを当てられる化け物にこれから俺は挑まないといけないのか……。終わったな、俺。四肢満足とは言わないので、せめて骨くらいは残してくださいね……。

 

「決して通らぬわがままを聞き入れてもらうために来ました。いかに言葉を並び立てようと無駄なことは自覚していますので、武でもってその覚悟を示させていただきます」

「ほう?」

 

 あーあ、言っちゃったよ、俺。もしかしたらクソガキがなんかいってらぁってことで分校長が無視してくれるって可能性も考慮したけど……

 

「この私に挑まんとするか。面白い」

 

 分校長もその気になっちゃったよぉ……。

 

「だが今日はもう遅い。ライカという名の娘の、当分の寮における寄宿は許可した故、安心するとよい」

 

 えぇ、もう把握してらっしゃる……。てか、当分の間泊めてくれるってんなら、それ以上の要求をわざわざしなくてもいい気がしたので、その旨を伝えさせてもらおうと思ったのだが――

 

「だがそれ以上の要求であらば、簡単に通すわけにはいかぬな。明日の教練の時間、その覚悟を見せてもらおう」

 

 伝える前に分校長が言い切ってしまったために、言い出すに言い出せない。

 だからこう祈らせてもらおう。

 明日よ、来ないでくれ。

 

 とはいっても日はのぼり、虹はかかるのだ。せいぜい覚悟を決めるしかない……。今日は念のために虚の動作確認をやってからゆっくり休もう。

 

「なんだか大変なことをしようとしてるみたいだが……」

 

 分校長の部屋から離れる俺に話しかけたのは、リィン教官だった。

 おそらく先ほどのやり取りを聞いていたのだろうか。聞いてたとしたらとんでもない愚行に走る教え子を止めてほしかったものだが、言っても仕方ない。

 でもまあ、ちょうどタイミングがいい。いや、リィン教官が忙しいなら無理だけど、ちょっとお願いしてみよう。

 

「こんばんは、リィン教官」

「ああ、いい夜だな」

「聞いてた通りだと思いますが、明日は俺の命日になってしまったようです」

「いや、さすがに分校長も手加減をしてくれるだろう……」

「そうであればいいんですけどね……」

 

 いや、わがままを通すとか言った手前、そうならない可能性も無きにしも非ずなんだよなぁ。要求を受け入れない人間相手には殴って蹴ってわがままを暴力で通すしかない、みたいなノリのあれだろうから下手すると俺は血煙になって霧散するかもしれない。

 

「それでなんですけど、この後時間があれば、人生最後の稽古をお手伝いください」

「やけに悲観的だな……。だけど、ちょうどやるべき用事が終わってたから、相手になれるぞ。だけど分校長相手にわがままを通したいとなるんだったら、あまり手加減せずにやらせてもらうけど」

「今日だけは珍しく大歓迎です。何なら今日中に八葉一刀の伝承者にするレベルで鍛えてください」

「さすがにそれは無理だな」

 

 などと軽口をたたきながら訓練室に向かうことになった。

 結論を言うとそれなりにぼこぼこにされたが、ある程度感覚は研ぎ澄まされた。見慣れた剣筋ではあったので終盤にはそれなりに対応することもできるようになって自信がついたけど、明日の分校長の剣筋に関しては正真正銘初体験になるので、どう転ぶかはわからない。

 

 けどまあ、明日の自分が何とかしてくれるだろう。 そう信じて、遅すぎない時間に自室に戻って眠ることにした。




書きだめストックが切れたので次回の投稿はちょっとだけ遅れるかもです。
次回はバトル回です!

実は主人公の件でどなたか守護騎士の方に登場していただかないといけないんですが,誰にしましょう……?

  • セリス
  • ワジ
  • リオン
  • ベルガルド
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