トリスタから蹴り出されてリーヴスに着いたんだが……   作:全自動髭剃り

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はやくシズナを登場させたい……!


4月18日 嵐の前の平穏(後編)

 帝国内陸部のカラッとした春の晴天。

 雲一つない青空の下、今日も変わらぬ一日を過ごすこととなる学生の中、とてつもないどんよりとした雰囲気で、あたりに呪詛を振りまきながら蠢きつつ登校する男が一人。ノクスである。

 

「あーあ。空が急に落ちてこないかなぁ!!」

「今日はいつにも増して荒れてるなぁ」

 

 彼とともに運動場へと出かける級友が一人。クルトである。

 

「いいかクルト、俺はいま処刑台に自ら進む罪人なんだよ。処刑を逃れる方法はあの分校長が行動不能になるレベルの天変地異くらいしかねぇ……」

「うわさは聞いていたが、まさか本当だったとは」

「え、なにうわさ話にまでなったのか……」

「昨晩、リィン教官と凄まじい稽古をしてたじゃないか。それで何かあるのだろうと勘づく人もいるというものだ。まさか分校長を相手にとるほどとは思ってもみなかったが」

 

 あー、言われれば確かに、と思うノクス。

 昨夜の稽古は正直のところ、稽古という枠を超えているものだった。お互いがお互い、おそらく現時点で持てるものをすべて引き出したに近い戦いであった。ノクスは虚の持つ最大のポテンシャル、リィンは神気合一までも使ったのだ。

 これが普段の教練の延長線上にあるただの稽古ならばやりすぎにもほどがあるという話で済むが、オーレリアを相手にする手前、一夜漬けでもいいので徹底的に技術の精度を高めるほかなかったのだ。

 

「全くだよ、俺も思ってなかった」

「……? 自ら進んでやっているわけではないと?」

「ちがうちがう、まさか自ら進んで分校長に挑みに行くと思わなかったんだよ」

 

 ほら見ろとクルトに自らの手を差し出してみせるノクス。

 

「震えてるんだぜ。武者震いなんかじゃねえ。これが恐怖ってやつだ」

「どんな事情があったのかは知らないが、応援だけはさせてもらおう。敗れようとも安心するといい。骨は拾って帰ってやる」

「くたばる前提かよ!」

「五体満足だったらば、一食ぐらいおごってやってもいいぞ」

「だったら満漢全席頼んでやる」

 

 ただまあ、とノクスは言葉をつづけた。

 

「一応戦う準備をしとけよ。あの分校長の話だ、下手すると俺だけじゃあ闘争本能を抑えきれずにVII組全員を相手に指定しておっぱじめかねないし、なんなら実力試験だーなどと言って全校生を相手しだすかもな」

「さすがにそんなことは……いや、オーレリア卿(黄金の羅刹)ならばありえない話ではないのか……」

「そういうこった」

 

 遠目からでもわかる。運動場の中心にはすでにオーレリアが悠然と佇んでおり、一歩早く教練の準備に入っていた生徒たちが何事かと軽く騒いでいる。黄金の羅刹の名前に負けない、金色のオーラが見えているのは気のせいにしたいノクスだった。

 

「話は変わるけど、実はこの戦いが終わったら幼馴染と遊ぶ約束をしたんだ」

「幼馴染……?」

「俺は先に行かせてもらうが、万が一何かあった場合、彼女を頼んだ……!」

「…………」

「この戦いが終わったら、俺……特別演習に行くんだ……!」

「急ピッチで死亡フラグを建設してどうなる……」

 

 もはや待ち構えるオーレリアとの距離もなくなり、懐から獲物――虚を抜き出すノクス。観客側になるであろうクルトは少しばかり距離を取り、戦いの行く末を見守ることとなった。

 

 数分後、予鈴前には教員生徒が運動場に集まり、事情を聞かされていた数名の教員を除いて異様な雰囲気となる教練が始まろうとしていた。

 

・・・・・・

 

「本日の野外訓練の予定だが、事前に告知したものから少し変則的なものとなる」

 

 そう高らかに宣言したのはミハイル少佐であった。

 本来ならば数理科学などの科目を担当するミハイルだが、本日のイベントにはさすがに出席せざるを得なかったようである。

 ミハイルだけではなく、本来は合同訓練に出席する予定ではなかった教官もいる。トワはもしものための救護の要員として、シュミットは戦闘経過の観察と測定のために出席していた。

 そしてよく通る声でミハイルはつづけた。

 

「特別カリキュラムに備えてVII組特務科、VIII組戦術科、IX組主計科の3クラスで行われる連携のための合同訓練だが、実際の訓練の前にとある生徒の公開懲罰を行う」

 

 そのような宣言だったものだから、にわかに騒がしくなる生徒たち。

 

「公開懲罰……?」

「穏やかじゃねぇな……」

「いったい何が……?」

 

 だがそのようなざわめきを一切意に介さず、ミハイルはつづける。

 

「規則違反者はVII組所属ノクス・ハーカナ。罪状は士官学院施設への不審者の呼び寄せである。懲罰内容は――」

「――この私との決闘だ」

 

 ミハイルのセリフを奪うようにしてオーレリアはつづける。

 

「本来ならば軍法会議を通じて懲罰内容を決めるべきであろうが、ここは士官学院である。入学間もないこの時期に多少の融通を効かせてやるのも分校長の務めであろう」

 

 例えば休学や謹慎などの罰が下されるのが常例だろうが、入学したばかりの雛鳥にはいささか重すぎる処分であろうという配慮があったのだろうか。だが、多少の融通、というのがオーレリアとの決闘だとすれば、いかがなものかという話である。

 

「だが、そこの生徒は懲罰内容となる事項以上にさらなる要求を通そうとした。本来ならば門前払いしてもよかったのだが、自らの我を通すための覚悟を示すとのことだ」

 

 ノクスをにらみつけながらオーレリアは語る。

 おそらく昨晩、ノクスが要求したことなのであろう。いや、正確にはノクスはそこまで求めてはいなかったが、空気に流されて要求することになってしまったことだが。

 

「ゆえに、その覚悟を試すための時間をもうけさせてもらった。ノクス・ハーカナ以外の生徒及び教官(、、)にはこの戦いを通じて宝剣アーケディアの剣筋、および意思を通すこととは何か(、、、、、、、、、、、)を見てもらおう」

 

 言いつつ人一人の肩ほどの幅を持つ宝剣を抜き取るオーレリア。

 

「ふむ。御託はこれくらいでいいだろう。決闘の前に何か言うことはあるか、ノクス・ハーカナ?」

 

 そのように話を振られるノクス。暫し考えるようなそぶりをしたのち、

 

「では、俺の要求を念のためにもう一度説明させてもらいます。ライカ・リードナーという名の少女の、来年の士官学院の受験日までの学院寮における寄宿です。勝てる――」

 

 そこでノクスの言葉は一瞬止まる。そして次の瞬間、絶望ともいえる顔で言葉をつづけた。

 

「勝てるって簡単に思わないことだな、オーレリア! 今の俺なら、あんたを超えられる!!」

 

 勇ましい啖呵にしては悲壮感あふれる表情だった。

 

「立会人は私が務めさせてもらう。これもあくまで授業の一環のため、観戦者も集中するように」

 

 では、はじめ――!!

 

 その宣言とともに飛び出したのは、意外にもノクスだった。

 それに驚いたのはオーレリアではなく、観戦者たちだった

 

「飛び出した……!?」

「だ、大丈夫なの!?」

 

 クルトとユウナの驚愕も納得のものである。なぜならばノクスの戦闘スタイルとは中距離でのかく乱および十分のチャージを経た導力銃による重たい一撃である。ただでさえ格上なのに、近距離戦闘に適した武器を持つオーレリアに対して肉薄するのはどう見ても悪手のように思われたが――

 

 ゴン――ッ!!

 

 銅鑼の鳴るような大きな衝突音。

 それは突撃してきたノクスに対するカウンターとして宝剣を振り下ろすオーレリア、その行動を予想してその宝剣を横方向から虚をたたきつけたのだった。

 それだけ大きな宝剣なので尋常ならざる轟音が鳴ったのである。

 

 だが、その程度でひるむオーレリアでもない。ノクスの先読みの行動すら読み切っているかごとく強引に剣の軌道を修正し――

 

「く――ッ!」

 

 右肩をのけぞらせながらギリギリでそれをよけるノクス。

 

「フン――ッ!」

 

 だが返す刀に軽々と大重量の宝剣を切り返すオーレリア。

 並の戦士、いや、それなりに鍛えたような一般猟兵であればここまでだろう。死角にも近い方向から繰り出される素早くも致命的なカウンターの一撃。

 

 カン――ッ!!

 

 だが、その一撃がノクスに叩き込まれることはなく――

 

「はじきやがった!?」

 

 ガヤの一人であるアッシュの出た言葉通り、ノクスの左手に握られた虚のもう片方から発射された銃撃によってその軌道が大きくずらされる。

 この戦いのためにジンゴに無理を言って大量にゼムリアストーン製の弾丸を用意した甲斐があったと心で思うノクスであったが、すぐさまに次の追撃を待つために感覚を研ぎ澄ませる。

 

 この決闘には勝機などないことはノクスでも容易にわかることである。だが、わずかにも残る、引き分ける可能性をつかみ取るためには――

 

「はぁ――ッ!」

 

 角度を変えて斬り下される宝剣の軌跡を知覚し、脱力とその開放による文字通り瞬く間の時間すら許されない正確な体さばきによる回避行動を行う。それと同時に虚を握る余裕のある方の手を動かし、次にオーレリアが行うことのできる、回避行動が不可能な剣撃に対するカウンターを用意する。

 だが――!

 

「ぐ――ッ!」

 

 オーレリアはその構えを逆手にとり、体を一歩踏み込み、肩による打撃でノクスを吹き飛ばす。

 たまらず数歩近く飛ばされたノクスだが、そこに襲い来るのは無数の刺突。

 それでも――

 

 ガガガガ――ッ!!

 

 意表を突かれてしまったために受けてしまった最初の一撃を除いて、難なく対応させる。一撃一撃が致命的な大ぶりの斬撃には対応できない方法だが、威力をある程度犠牲にした乱雑な刺突に対しての解答、それは虚による弾幕であった。

 弾幕の目的は刺突を繰り返す宝剣に対して、先ほどのように弾丸をぶつけることによって軌道をずらすことではなく、刺突のリソースをある程度弾丸に対する防御にも使わせることによって乱雑性を上げ、回避行動するべき攻撃の回数を下げることにある。

 もっとも、弾幕に対して恐れずに攻撃をしてきたのならばどうしようもないが、その場合はいくらオーレリアといえどもただでは済まないので、ノクスはあまり考えないことにしている。さすがにこの弾幕には数に限りがあるゼムリアストーンの弾丸ではなく、一般的に売られている弾丸を使用するので、オーレリアならやりかねないことではあるが。

 

 そして弾幕をばらまきながらも崩れた体勢を戻しつつ、虚を握る手に力を籠める。

 

「す、すごい……!」

「あの分校長と互角に渡り合ってやがる……!?」

 

 思わず言葉が漏れてしまうミュゼとアッシュ。

 尤もミュゼはオーレリアの実力を知っているので大分手加減がなされていることはわかっているが、それでもノクスが一人の学生としてオーレリアの攻撃に対応できることは想定外(、、、)ではあった。

 だからこそ、すぐさまにこの想定外を修正する。

 アッシュに関しても、機甲兵訓練の時の機械音痴にもほどがあるような下手な操縦をするノクスの印象からは想像もできない身のこなしに驚くばかりであった。

 

「ハハ……!」

 

 一瞬にして無限のような時間を感じる刺突の連続。そんな中で素早く体勢を戻すことに成功し、宝剣の剣筋を難なくさばけるようになったノクスは、少しばかり乾いた笑いをこぼし――

 

 わずか一瞬のうちに

 

 ――オーレリアの刺突の一つを見切り、

 ――音もなくその一撃の側面へと回り、

 ――短い間だがチャージさせた虚を合体させ、

 

 ドン――――ッ!!!

 

 ――今の状態のオーレリアならば食らってしまうと確実にダメージの入る一撃を放った。

 

「速い……ッ!」

 

 その一連の反撃行動は、素早さにかなり重きを置いた武術を嗜んでいるリィンをして、唸ってしまうようなレベルのものであった。

 だが、それでも。

 

「ほう……!」

 

 戦いが始まったのちに初めて回避行動をしたオーレリアによって難なく躱されてしまう。

 

「あ……」

「それでもダメか……」

「分校長、凄まじいです……」

 

 その光景を見たVII組の生徒は少しばかりの落胆に襲われてしまう。

 まがりなりにも数週間を共に過ごした級友である。オーレリアに対する勝機が限りなく少ないだろうと思っていても、ノクスを応援してしまうものだった。

 

「けど、見てみろよ、あの顔」

「え、アッシュくん……?」

 

 いつの間にかVII組の近くにやってきたアッシュの言葉に反応し、ノクスの顔を再び見るVII組の各々メンバー。

 

「笑っています……?」

 

 ここまでの戦闘でノクスにはある確信が持てた。

 このままいけば、勝てる(、、、、、、、、、、、)

 今のままの状態のオーレリアの行動はすべて学習したつもりだし、おそらくこのままではオーレリアにはもう手札がない(、、、、、、、)

 

 だけど、思わず――

 

「分校長。もうちょい手加減を緩めてくれていいですよ。このままじゃ――」

 

 

 ――面白くないじゃないですか。

 

 

 挑発にも似た言葉であった。いや、ノクスとしては明確に挑発であっただろう。

 だがそれはアドレナリンの出すぎによる興奮状態だから出た言葉ではなく、むしろ真逆であり、自分でもよくわからないほどに冷静に分析して出てきた言葉なのであった。

 

(自分の中にこんなバトルジャンキーな思考があるとは思ってもなかったぜ……。でもなぜか今は、分校長の持っているすべてを○○しなければいけないと思っちまう……!)

 

「ふむ?」

 

 だが、オーレリアからすれば、ただただ一回の反撃に成功しただけのノクスがこれほどの豪語をする理由がわからなかった。確かにオーレリアは今まで回避もせずに片手で戦っていた(、、、、、、、、、、、、、、)。いや、最後には回避をするという枷を外したが。

 

「あー、わかってもらえないか……。っじゃ、こっちから行きますよ!」

 

 途端、虚による銃撃がなされる。その始まりの一撃は明らかにオーレリアを狙っているもので、だからこそ難なく宝剣の一振りによって、軽々とカンッとはじき返されることによって無力化される。残りの弾丸は縦横無尽に放たれているので決して自分には当たらないであろう自信があった。

 むしろ、この決闘を観戦している観客に向かってしまい、けが人が出かねないものである。尤も、オーレリアからすればこれくらい自分で対処できないと士官学院の生徒として失格だと思ってはいるが、それでも無差別な連撃をするノクスに対して教育的な制裁を加えなければと動き始める。

 そうしている間も、さすがにゼムリアストーンの弾丸だけに、万が一にも当たり所の悪いけがをしてしまう生徒が出ないように放たれた弾丸それぞれの軌道に気を配っていたのだが。

 

 ――それが功を奏した。

 

「ッ――!?」

 

 ありえない方向からこちらに向かってくる数個の弾丸に、ギリギリのところで防御態勢を整えるオーレリア。

 

 カンカンカンカンカンカンカン――ッ!!

 

 宝剣アーケディアの剣身とゼムリアストーンの弾丸の複数回の衝突音。もはや銃弾による針の筵のような状態であった。

 

「な、何が!?」

「ほう、興味深い」

 

 観客のうちの数名を除いて、ほぼ全員と同じく何が起きているのか全く分からないトワと、ある程度の察しがついているシュミットの声がする。

 この攻撃の種とは簡単である。重たいゼムリアストーンの弾丸の速度はどうしてもおそくなる。なので、放った後のゼムリアストーンの弾丸を一般的な軍用弾ではじき、ビリヤードのように軌道修正させてオーレリアに向かって跳弾させていたのだ。

 

「へぇ……」

「昨日の――」

 

 少しばかり感心するアッシュに、ちょうど昨日同じ技を食らったリィンも声を漏らす。

 

 だが、それにとどまらず、ノクスは追撃を敢行する。

 

「はぁ――――ッ!」

 

 再びチャージされた虚によって放たれる重量級の一撃。

 

「フン――ッ!!」

 

 その一撃は受けてしまえないということで急いで宝剣アーケディアを両手で構え、それ相応の一撃でもってチャージショットに対するカウンターを行う。

 もはや最初に課していた枷を解き放ってしまう結果となってしまった。

 

「ひゅ~、やるねぇ、ノク坊」

 

 囃し立てるような声を上げたのはランドルフだった。

 

「技のキレも、ありえねぇ正確さも変わらねぇ」

「え、ランディ先輩……教官も知っていたんですか!?」

「おう、見るのは久しぶりだけどな」

 

 アッシュやミュゼに続けてVII組の輪に参加するランドルフがノクスの戦う姿を知っていたことに驚きを隠せないユウナ。

 

「俺は導力銃をあいつほど使いこなしてるやつを見たことがねぇ」

「それほどとは……」

 

 猟兵時代を含めても、というのがランドルフの本心だったが、わざわざ語る意味もないので言わない。

 

「俺の言葉、理解してもらえました?」

 

 一方、一切の警戒を解かずにオーレリアに対して言葉を投げかけるノクス。

 それに対して静かにうなずくオーレリア。

 

「ふむ。確かに私の不明であったな。何せ、導力銃をもってして、弾丸を弾丸ではじいて攻撃するなどという曲芸を見たことがなかったのでな」

「じゃあ、今日覚えて帰ってくださいね」

「そうだな、決して忘れぬとも」

 

 かみしめるように言ったのち、オーレリアは言葉をつづけた。

 

「はじめは雛鳥に軽く試練を、と思っていたが、趣向を変えざるをえまい。武の高みを目指す先達として、続く者に越えがたき壁を示すとしよう」

 

 言い終えるな否や、溢れ出す黄金の闘気。

 観客のうち半数以上が震えるレベルの圧力であった。

 やはりな、とノクスは思った。どれくらい強いのか、底が知れないのはその通りだが、先ほどのオーレリアとは比べ物にならないオーラに気圧。

 

(なるほどなぁ。黄金の羅刹って言われるだけあるわ……。いくら気分が高揚してたとはいえ、何であんな挑発しちゃったんだろ俺。うん、過去に行って殴ってやりてえええええ)

 

 冷汗をかきながらオーレリアをにらみつけるノクス。

 

「凄まじいですね……」

「想定以上の脅威度です」

「なんであの人、校長なんかやってんだ……?」

 

 改めてオーレリアのすごさを体感し、言葉がこぼれるミュゼ。今までに会ってきた人の中でもトップクラスの戦闘力であることを分析するアルティナ。そして、もっともな疑問を呈するアッシュであった。

 

「この黄金の羅刹の連撃、見事凌いで見せよ!!」

 

 咆哮とともに飛び出すオーレリアを辛うじて知覚するが、今度ばかりは先ほどと同じくはいかなかった。

 

 振り下ろされる袈裟斬り、返し刀の斬り上げ、続く横薙ぎ、横薙ぎ、横薙ぎ、横薙ぎ、巧妙に挟まる刺突、剣の握り方を変えての斬り上げ。

 

 理解できたのはこれくらいだろうか。そして防ぎきれたのはこの半分も行けばいい方だろう。だが実際に振るわれた技はこの倍はくだらない。

 そしてこの場でその技のすべてを理解できたのは、過去の内戦の英雄であり、剣聖に最も近いリィン・シュバルツァーその人のみだろうか。

 

 複数の斬撃と、中途半端に回避した結果受けてしまった打撃によって、数え切れぬ裂傷と打撲を受けてしまい、激痛のあまり途切れてしまいそうな精神をどうにかして動かし続け、いまだにとどまることの知らないオーレリアの剣撃に何とか対応しようとする。

 

(凄まじ……すぎるッ!!)

 

 だが、それでも慣れてしまえば、致命傷になるような一撃をもらわぬように立ち回り始めることができた。それはひとえに昨晩のリィンの薫陶によるものが大きいだろう。

 

(一切の先入観を廃し、――斬撃そのものを見極める!!)

 

 本来観の眼と呼ばれる、理の領域に至るための過程である八葉一刀流の概念。それを限定的でかつ全くの不完全ではあるが、オーレリアの斬撃に対してのみ行使することによって、今まで理解できなかった連撃も、対応できるかどうかはさておき、少なくとも知覚することには成功する。

 

「と、止めたほうがいいんじゃないの……!?」

「ノ、ノクスくんが死んじゃう……!」

 

 ユウナとサンディが思わず声に出してしまう。

 それも無理のないことだった。

 オーレリアの一撃一撃が明らかにノクスを蝕み、そしてくだんのノクスは全くそれに対して対応できていないように見えていたからだ。

 だが実際には、致命傷をすべて何とか捌ききることができているノクスにとっての小康状態であった。とはいうものの、このまま何も打開策を用意せずにいてはいずれ、防御のカウンターのかなめであるゼムリアストーンの弾丸のストックが尽きるか、体力と気力の限界が訪れることは間違いないが。

 

「チッ――!」

 

 だから、ノクスは動くことにした。

 博打にも近い策だが、ないわけではなかった。

 

「くるか……」

 

 その策の完成を手伝ったリィンも、ノクスがついにそのために動き始めることを察知する。

 リィンの場合は、まだまだ未完成な状態でのその技を食らいつつ、少しずつ完成度を高めることの手伝いをしただけあって、たとえ今食らったとしても、苦労はするだろうが、何とか対処することができるだろう。

 だが、初見でやられた場合、いくら分校長であろうとも、対応しきれないのではないかと思われる。どうやって展開までに時間と隙が大きいその技を使うのか。そこが問題ではあったが。

 

(これくらいでいいだろう。完全には理解(わか)らなかったが――それでもこれ以上は体力が持たねぇ……! 奥の手を使わせてもらおう!)

 

「はぁ――ッ!」

 

 叫ぶなり、オーレリアの間合いから飛び退くノクス。

 すかさず追撃に来るオーレリアだが――

 

「って、まずッ! お前ら、目ェ閉じろ!!!」

 

 叫ぶランドルフ。仲間として戦っていたときにノクスが披露した”奥の手”。それによって敵ともども無力化された経験があったので、とっさに近くの生徒もかばいながら警告を発することができた。

 

 ピカッ――!!!

 

 瞬間凄まじい光量とともに爆ぜる何か。

 

「「「「ッ――!」」」」

 

 瞼越しでも見えるレベルの光に息をのむ第二分校の各人。ランドルフのとっさの機転のおかげで視力を失った人はいなかったが、

 

「使うなら、使うって言えってなぁ、ノク坊……!」

 

 思わず文句が出てしまうランドルフに、

 

「な、何ですか、アレ……!?」

 

 驚いた口調で聞くゼシカ。

 

「軍用の閃光弾に火属性と空属性の門外不出な特殊回路を組み合わせて作った特大花火だとよ。作るのに一番苦労したのが、本当の花火と同じ機能を持たせることだってさ」

「なんでそんな無駄な……」

「知らん。よくわからんところにこだわり持ってるからなぁ、ノク坊は」

 

 実際にその”奥の手”が花火として使用される場面に遭遇したことはないが、爆発の仕方を見れば嘘ではないことがわかるような代物であった。

 

「お前のための出番だぜ……! 付き合ってくれるよな、虚!!」

 

 ランドルフたちの目線の先。

 先ほど強引に”奥の手”によって戦闘を仕切りなおさせたノクスが、気炎を上げていた。

 

 ・・・・・・

 

「お前のための出番だぜ……! 付き合ってくれるよな、虚!!」

 

 気合を入れるためにも声を上げる。

 じゃなければ今にもオーレリアの圧に負けそうな気がしてくる。

 

 全く無謀な戦いに挑んで、はや数十分経ったのだろう。いや、体感はそうだけど、下手すると数分も経ってないかもしれない。

 

 俺の目の前に佇むのは、やっと両手でちゃんと相手してくれてるようになったオーレリア・ルグィン。勝てるわけのない大英雄様にして、ゼムリア大陸最強の一角。

 だからといって、今更あきらめるのはなんか悔しいのでなしだ!

 昨日特訓で何とか形にできてきてる技を披露させてもらう。これだけでもやっておかないと、リィン教官に申し訳ない気がするのでね!

 

 懐から装填していないゼムリアストーンの弾丸を十数発取り出し、空中に放り投げる。と同時に時属性のアーツを駆動する。

 幸い夜遅くまで弾丸の仕込みをしたおかげでさほど時間がかからずにアーツが効果を顕わし始める。その効果とは、弾丸の時間を遅らせることによって、落下までの時間を稼ぐこと。

 同時に虚へのチャージを始める。この一撃にすべてを籠めるつもりで渾身のチャージをする。これが通用しなかったら、もう諦めるしかないしな。

 

 同時に俺の技を止めるためなのか、俺に引導を渡すためなのかわからないが、分校長が凄まじい速度でこちらに肉薄する。だけど俺の”奥の手”はちゃんとその役目を果たしていたようで、分校長の目は光にやられていて、焦点はあっていないようだった。

 いや、よく考えれば閃光弾で視覚をつぶされてるのに、正確無比に俺の位置を把握するっておかしくね? やっぱこの人おかしいわ。

 

 そして覚悟していたが、先ほどよりも猛烈な連撃がやってくる。

 だが、残念ながら、もう見た(、、、、)ので通用しない! 体を使った回避や武具を直接攻撃に対して当て返すことによる防御ってのは、動かせる肉体の限界のために、分校長には通用しない。だけど――!

 

 ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッ――ッ!!

 

 弾丸自体を使って宝剣に充てることによって達成する防御には、肉体の限界が来ないのだ。

 ただし! 分校長がこれ以上に熾烈な攻撃をしてこない限り!

 空に浮かばせた16の弾丸は、予想を超えた攻撃が来た時のための札で、虚の直接攻撃によるカウンターが不可能な時に、アーツとして発射して緊急対応するのだ。けどどうしても虚による射撃に比べれば威力が弱いので、致命傷をずらすくらいの使い道しかない。

 

 ――15!

 ――14!

 

 だけど、猫の手も借りたい状態なので、使わせてもらう……!

 

 ――13!

 ――12!

 ――11!

 

 分校長の攻撃に対するために虚をチャージしながら射撃しなければいけないので、チャージ効率はかなり下がるが、それも仕方ないと割り切ろう。面倒な奴だけど、いいやつなのだ。

 

 ――10!

 ――9!

 ――誰が面倒な女だって!?

 ――8!

 ――7!

 

 そろそろ残弾も少ない。だけど、これなら十分――って今の誰だ!?

 

 ――6!

 ――5!

 ――ワタシを使うんだから、絶対当てなさいよ!

 ――4!

 

 やっぱなんか言ってるよな! え、誰!? って、そうじゃねえ! 今は分校長に集中しろ!

 

 ――3!

 ――2!

 ――1!

 

 そして、最後の一発は、目くらましのための特殊弾! アーツを駆動させることによって……!

 

 ボンッ!!

 

「煙幕弾……!?」

 

 説明サンクス、アッシュ!

 見えてなくてもこっちを察知して攻撃してくる分校長に果たして意味があるかって? そうなることも想定して、この煙幕にはえげつない匂いと肌を刺すような辛味成分を混ぜてあるのだよ! 嗅覚と触覚も遮断すれば、さすがに簡単に俺の場所はわからねえだろう!!

 

「グッ――!」

 

 そして、分校長の隙ともいえないような一瞬のひるみ。

 それさえあれば十分――!!

 声を出すことすら億劫になるが……

 

 久しぶりに聴きてえな、お前の声が。――塵芥と化せ、エテリウム・バスター!!!

 

「はぁああアアアアア!!!!!!!」

 

 ――いいわよ! あんなのなんて消し飛ばしちゃえ!!

 

「絶技・洸凰剣!!!」

 

 ・・・・・・

 

 気づいたころには急いで学校に向かっていた。

 方角すらよくわからない街で。それでも、力の限り走った。

 

 胸のざわめきが止まらない。

 何か起きてはいけないような、ものすごく不吉な予感がした。

 

 そんなオカルトじみた予感に従って、動かざるを得なかった。

 自分でもこんな経験をするのは初めてだった。

 

 だから校外からでも聞こえてくるレベルの剣戟の音がし始めた時には、なりふりをかまってられなくなった。

 最悪の予想が脳裏をよぎるが、何とかしてそれをぬぐって走り続ける。

 

 士官学院の玄関を通るのは二回目だった。

 前回はばれてしまわないかとドキドキしながら通ったものだったが、今回に関しては何も感じなかった。

 たとえ学院所属の教員に見つかったとしても、オレはいかなければならないんだ……!

 

 校舎に迷い込む。

 あの剣戟の音の発生源に一歩でもいいから早くたどり着きたいのに……!

 次から次へと、学院の施設が邪魔をしやがる……!

 

 と、そこで晴天にもかかわらず、とてつもない光が剣戟の場所からした。

 

「いったい、何が……!?」

 

 尋常じゃないことが起きているとは分かった。

 

 そして、何とかしてたどり着いた学院の屋上。

 見るとグラウンドでは、二人の人間が起こしたとは思えない衝突が起きていた。

 

「な、に……が…………!」

 

 目を凝らす。

 片方は長い銀髪が鮮やかな大剣をふるう女。

 そして、もう片方は……!

 

 やがて、その衝突は拮抗したまま、第三者の介入によって終わり――

 

 

 

 ――血だまりに沈むアイツが……!!!

 

 

 ・・・・・・

 

「やりすぎです、分校長……!」

「シュバルツァー……」

 

 途切れかける意識で聞こえたのは、リィン教官が分校長をとがめるような言葉だった。

 俺が力尽きる一瞬前、不自然に分校長の洸凰剣がずれたのも、おそらくリィン教官が介入したからだろう。

 救ってもらった、ってことかな?

 おかげでミンチにならずに済んだので、感謝しないといけないな……。

 

「ふむ……。いささか熱くなりすぎた……」

 

 テトテトと誰かが走ってくる足音がする。

 

「ノクス君、大丈夫!? 私の声聞こえる!?」

 

 この声は、決闘始まる前から救急箱を手にして待機してくれてたトワ教官のものだろう。

 

「は……ひ。ばっひ、り……ひこえてまふ、よ……!」

 

 くそ、声がちゃんと出ねえ。

 

「薬があるから、口を開けて!」

「あー」

 

 ごくごくと口に突っ込まれた液体を飲み干していく。さすがは教官なだけあって、俺が嚥下しやすいように、上体を起こしながら少量ずつ口に含ませてくれる。

 そしてある程度薬を飲んで、気力が回復したので、立ち上がろうとするが――

 

「あ、あれ……?」

「ティアラの薬では気力しか回復せん。あれだけ体を酷使したのだ、話があればそのまま聞いてやろう」

 

 立ち上がれずに戸惑う俺に、分校長が普段と変わらない尊大な声を震わせてた。

 わーお、あれだけやったのに、それくらいしかダメージなかったのかよ……。

 うん、二度とこの人には歯向かわないようにしよう。今度こそ跡形もなく消されちまう。

 

「えと、こんだけ派手に負けてしまって、言うのも恥ずかしいんですけど……、覚悟は示せたんじゃないかと思うんです。なので、ライカの件、了承していただけませんか……?」

「ふむ。確かに覚悟は示せただろう」

 

 と、そこで俺から目線を外す分校長。つられて俺も分校長の見る方向に視線をやったが……

 

「何やってるんだよ、お前……!」

「ライカ!?」

 

 金と赤の混ざった珍しい髪の毛の女の子が、男勝りな表情とは裏腹に目じりに涙をためながら俺をにらみつけていた。

 

「え、何でいるの……!?」

「それどころの話じゃねぇだろう! なんでお前は……、そんなボロボロなんだよ!」

 

 とてつもない剣幕で叫ぶライカ。

 あれ、俺なんかやらかしたのか……!? あ、まさか……!

 

「本人もちょうどいることだ、処置を言い渡す」

 

 もしかしてユウナがライカにあの件を伝えてしまったのかと戦々恐々していると、分校長が宣言するように声を張り上げた。

 

「ノクス・ハーカナは見事自らの意志を押し通す覚悟を見せた。ゆえに、公開懲罰はここまでとし、彼の要求を可能な限り聞き入れる。異存があるものはいるか?」

 

 あたりを見回す分校長。

 だが、誰も何も言えない。

 そりゃそうだよ。いまだにあの人ちょっと黄金のオーラが出てるし、さすがにあの一撃で服はボロボロになってるけど、それがむしろ臨戦態勢であるような雰囲気を醸し出してる。ここで異存とか唱えようものなら、そのまま女神さまのところ行きだろうが。

 そんな力による絶対的支配を敷いているのに気づいてるのかいないのか知らないが、分校長はつづけた。

 

「彼の要求は、ある女子を第二分校の寮に住まわせることであるが、残念ながら入学式でも伝えた通り、ここに覚悟なき者を受け入れることは許されない」

 

 あー、交渉決裂か……。

 それもそうだよなぁ。無茶なお願いではあったし……。

 せめて軍に行かないで済む方法はないかと、俺が声を上げようとした時だった。

 

「ついては、ライカ・リードナーを第二分校の生徒とし、入学していることとする。彼女がトールズ士官学院たる覚悟とそれに見合う成績を示し続ける限りにおいて、彼女をVII組特務科所属の生徒とする。以上だ」

 

 えっ?

 いや、えっ?

 そんなことお願いした覚えねえぞ……!?

 

「オレ……オレなんかのために……!」

 

 頭の中が疑問符で埋め尽くされている中で、ライカがこちらに走ってきた。

 ついに年貢の納め時かと思い、目をつぶってパンチの一発や二発を受け入れようと歯を食いしばった俺を。

 なぜか彼女は優しく抱きしめてくれた。

 

 

 ・・・・・・

 

 あのあとの合同訓練の時間は、さすがにボコボコにされただけあって医務室で休んでいいこととなった。

 途中までトワ教官が看病をしてくれて、大方の傷に処置をしてもらった。結果、ミイラとまではいかなくとも、体のあっちこっちを包帯でぐるぐる巻きにされてしまった。体感だが1日で教練の授業には出れるだろうし、全治までに2日くらいのものだろうと思われる。手加減してくれただけではなく、大きなけがをしないように配慮してくれた分校長に感謝。

 それで、ライカについては俺の看病をしたいと申し出てくれたはいいけど、さすがに今日からいきなり士官学院所属になったということで、いろいろと手続きと士官学院の講義内容などについての説明に時間がかかるだろうし、そちらを優先してもらった。

 手続きについてはミハイル教官、説明についてはトワ教官がやってくれるようで、それならば明日からなんとかみんなとやっていけるようになるだろうということで安心する。

 とはいっても、4日後にはいきなり特別演習が始まるので、きついことには変わりないが。

 

「失礼するよ」

「大丈夫か?」

「果物を用意させていただきました」

 

 そういうわけで手無沙汰になってしまった俺を最初に訪れたのはユウナとクルトとアルティナのVII組の仲間たちだった。

 

「まずはお疲れ様」

「ああ、いい戦いだった」

 

 そんな声をかけてくれたのは、ユウナとクルトだった。

 

「ああ、もう二度としたくねぇ……」

「はは、それはそうでしょうね……」

「俺もいつか手合わせいただきたいものだ」

「じゃあ、今度同じようなことになったらクルトに押し付けさせてもらうわ」

「いや、さすがに今日のような死闘は遠慮させてもらおう」

 

 どっちだよ! すがすがしい顔で面倒ごとを遠ざけようとしやがって、今度は絶対押し付けてやろう。

 静かに決心する俺だったが

 

「でも、今度はちゃんと相談してくれるとうれしいな。あたしも便利部の一員だし、二人でちゃんと考えればあんなことしなくてもよかったって思うの」

「あー、それは確かにその通りだな。すまん」

 

 正直、あのあとライカについての話がトントン拍子で進んでいたものだから、下手すると俺がこんなことしなくても分校長が受け入れてくれてたかもしれない。

 まあ、選択肢のせいで覚悟を示すって選ばざるを得なかったけど、それにしてもユウナと一緒に分校長を相手したほうが圧倒的に食い下がれただろうしな。

 今までに便利屋をだれかとやってた経験がなかっただけに、こういうところは反省反省。

 

「でも、なんとなくだけど、ノクスがどんな人なのか、今回の件でわかった気がする」

「ああ、そうだな。予想に反して案外バトルジャンキーなところとか、な」

「クルトほどじゃないよ……」

「いや、圧倒されているにもかかわらず、分校長に対して挑発の啖呵をはけるほど、俺は戦闘中毒者ではないな」

「あれはあの場のテンションにやられただけであってだな……!」

「リンゴの皮がむけました」

 

 差し出されたリンゴは、おそらく刃物を人生で初めて使ったのではないかというレベルにはジャガイモのような形をしていた。

 けどおいしかった。

 

 その後入れ替わりでやってきたランディが俺の”奥の手”について、事前に告知しろとの文句を言ってきた。さすがは食らったことがある人なので、どんな被害を受けるかよくわかってるだけあって文句を言われても仕方ないと思ったが、奇襲じゃなきゃあの人にかなわなかったのだから大目に見てほしいところである。

 

 次にやってきたのは分校長その人で、今日は熱が入りすぎたのでやりすぎてしまったことを謝罪された。大魔王に謝罪されるなど恐れ多いにもほどがあるということでやめてください! とお願いしたら微妙な目で見られた。また機会があったら稽古をつけてくれるとのことだったが、全力で遠慮したかった。けど、話を合わせて喜んでやらせてもらいますとだけ言っておいた。

 

  <選べ>

 

【1か月以内にもう一度稽古をつけてもらう】

【オーレリアにあらん限りの罵詈雑言を浴びせる】

 

 喜んでやらせてもらわなきゃいけないことになった。

 

 最後にやってきたのはリィン教官だった。

 疲れもだいぶ取れて、腹も減ってたのでバーニーズ(宿酒場)に行ってご飯を食べることとなった。金がないのに外食だって? リィン教官のおごりだからに決まっておろう。

 

「昨日の稽古、役に立ててもらってよかったよ」

「いや、マジで助かりました……。あれなかったら、俺今頃帝都の病院で寝てたでしょうね」

「はは、さすがに分校長ももう少し手加減してくれただろう」

 

 骨付き肉(スペアリブ)の照り焼きを全力で頬張りながらリィン教官に感謝の念を伝えさせてもらう。

 

「それにしても、ものすごく吸収率がよかったんだけど、どこかで東方の武術でもやったことがあるのか?」

「あー、ないわけじゃないですね。ガキの頃ですが、東方の武術……えーと名前なんだっけか……なんか八葉一刀流に似たような名前の武術やってる娘とよく遊んでたんですよ。たぶんそれで慣れ親しんだことがある感じです」

「へぇ……。老師も有名な人だし、似たような流派があってもおかしくないか……」

 

 少しばかり考え込むような仕草の教官。

 それを気にせず、どんぶりいっぱいの親子丼をかきこむ。失ったエネルギーが多かったせいか、今日はどこまでも食べられる気がした。

 遠慮? だってリィン教官が「遠慮せずに頼んでくれ」つって言ってたもん。

 

「そういえば、教官。最後の時助けてもらってありがたかったです。じゃなかったら、でかいけがしてたと思うので」

「ああ、教官としてそれくらいは当然のことだ」

 

 そのあとは、無事第二分校の仲間となったライカのお祝いを、準備してくれたみんなと寮の方で軽くやったのだった。

 

 

 俺にとっては部活を作った自由行動日から続く嵐のような3日間だった。

 まさか学費と生活費稼ぎのために始めた小金稼ぎが、3日目にして帝国最強に挑むことにまで発展するとは思っていなかったが、それで充実しすぎた生活だった。

 そして――

 

 このあと、俺はこの3日間が嵐の前の静けさに過ぎないことを実感させられることになった。

 

 

 ・・・・・・

 

 予定より早く帝国に着いちゃったから、ちょっとだけ覗きに行ってみたんだけど……

 

 いいもの見せてもらったなぁ……! 

 

 せっかくだし混ざったらよかったけど。

 

 でも、ノクスは別の子のために頑張ってたみたいだし、私がでしゃばるところじゃないか。

 

 それに、この目で見て分かったけど、やっぱりおかしいんだよね。何がおかしいのかはまださっぱりだけど。

 

 早く仕事を片付けて、会いに行かせてもらうね。

 




特別演習までの話を書き終えようと思ったらこんな字数に……
分割するべきだったのでしょうか……

実は主人公の件でどなたか守護騎士の方に登場していただかないといけないんですが,誰にしましょう……?

  • セリス
  • ワジ
  • リオン
  • ベルガルド
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