あっという間に五月下旬。今日はスクールアイドル部の初お披露目ライブの日だ。スクールアイドルというのをこの目で見るのが初めてなため、ライブが始まる30分前から会場で待機していた。結構楽しみだ。
菜々とはGW最終日以降、お互い中間テストや部活の練習で忙しかったため、中々会うタイミングが無かった。メッセージは多少交わしていたが、それは必要最低限。それだけこの日に懸けているんだなって何となく感じたから、無理矢理時間を作って会おうとは思わなかった。きっとライブが一段落して落ち着いたときに色々話してくれるだろう、そんなふうに考えていた。
気づいたら開演まであと数分。始まってもないのになんだか俺の方が緊張してきた。知らないうちに手汗がびっしょり。甲子園の応援席で試合観ていた菜々やおばさんはこんな気持ちだったのか。確かにすっごいハラハラするね、なんて考えていたらついに開演時間になった。そして、ステージに現れたスクールアイドルを見て驚いた。
「(菜々一人だけじゃん。他の人、どうなった?)」
壁に貼ってあった、以前貰ったのと同じポスターを改めて見る。・・・うん、ポスターには5人いるから俺が数を数えられなくなったわけではなさそうだ。・・・ライブの演出かな、後から増えていくんだろうな、なんて考えていると菜々のステージが始まった。
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圧巻だった。昔から歌が上手いとは思ってたけど、まさかここまでだったとは。動きもキレキレで、これがスクールアイドルを始めて数か月とは信じられなかった。・・・もしかしたら、スクールアイドル界隈ではこのくらい初ライブで出来て当たり前かもしれないけれど、そんなの俺が知ったことではない。素直に大きな拍手をする。正直めちゃくちゃ心を揺さぶられました。
俺を含めた観客からの興奮は冷めやらない。結局一つ目のライブは菜々のソロライブだったため、あと4人で数曲パフォーマンスしてくれるんだな、とみんなが期待を込める。が、結局ライブが行われることは無かった。
「・・・本当にどういうこと?」
誰もいなくなった会場で呟く。他の観客はもう既にいなくなっていた。事前情報だと、エマさんや彼方さん、それから一年生が二人は入部したと聞いていたし、ポスターには5人のお披露目ライブと書かれていた。が、結果は菜々が一曲歌って終わった。流石に頭を抱える。理解が追い付かない。・・・考えてもしょうがないので菜々に何があったのかメッセージを送り、そのまま帰路に就いた。
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家に帰ってきた。玄関で靴を脱ごうとしたとき、スマホから通知音が聞こえた。画面を開くと、菜々からのメッセージだった。
『今うちに来れませんか?』
『すぐ行く』
靴を履きなおして向かいの家へ向かう。ほんの数十秒で着いた。こういう時本当に便利だとつくづく思う。息も切れていないため、勢いでチャイムを鳴らす。今回は菜々がドアを開けてくれた。
「・・・久しぶりです」
「おう、久しぶり」
「とりあえず入ってください」
そのまま菜々の部屋に通された。菜々はベッドに座り、俺は椅子を借りることにした。
「それで、話っていうのは・・・今日のライブのこと、だよな?」
「ええ、そうです。流石に貴方には話さなくてはいけないことですので」
「まあ、気にはなるな」
「・・・そうですね。では単刀直入にいます。・・・本日をもってスクールアイドル同好会は解散。優木せつ菜もお終いにします」
「・・・は?」
「だから、貴方も『優木せつ菜』のことは忘れて構いませんよ?」
「ちょいちょいちょい。経緯を話せ経緯を。流石にそれでハイ、明日からそうしますなんて出来ないって」
「・・・そうですね、では一から話しますね」
そうして彼女の話を聞いた。一人で突っ走ってしまったことへの自責。大好きを届けたいのに大好きを押し付けてしまったことによるチーム内の衝突、などなど。特に自分の気持ちを他人に押し付けて傷つけたことが相当効いてるようだ。
「・・・もう今更、あの同好会でパフォーマンスをするなんて、そんな資格は私にはありません」
「資格、ねえ」
資格も何も、やりたいことをやってる部活にそんなもの必要ないと思うけど、それを伝えたところで納得しないだろう。もしかしたら何か言ってほしいのかもしれないけど、今は話してくれた内容だと菜々が全面的に悪いように聞こえたため何とも言えない。現段階では何か言うつもりはなかった。
「菜々、来週の日曜暇?」
「・・・はい。もうスクールアイドルは辞めましたから、休日は時間がありますよ」
「よし、じゃあデート行こう」
「・・・へっ?」
「デート行くよ。一日空けておいてね。じゃ、そういうことで。もう疲れたから帰るね」
「えっちょっと!」
こうして有無も言わさずにデートの約束を取り付けて、そのまま帰った。とりあえずは・・・
「明日エマさんあたりから話を聞こう」
もうちょっと時系列を追って話を聞きたい。自分から人間関係に首を突っ込むのは正直嫌だけど、菜々のためならしょうがない。何があったかくらいは把握してもいいはずだ。そう自分に言い聞かせた。