中川菜々と優木せつ菜、時々アクセントで俺   作:蒲鉾うどん

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後ろ(残りアニメ20話分くらい)がつっかえてるんだよ!!さっさと進めろ!!(戒め)


①-2

「まずは、今日はありがとうございました」

 

 公園に来て開口一番にお礼を言われた。そのまま菜々は話を続ける。

 

「先週、貴方に辞めることを告げてから今日の朝まで、ずっと自分に言い聞かせていました。これで良かったんだって。優木せつ菜として、最初で最後のステージが出来ただけ良かったって」

 

 菜々は話をしながらベンチに座った。俺も隣に座る。

 

「でも、日を重ねるごとに後悔している自分に気付きました。自分のやりたかったことを『優木せつ菜』として表現できるようになったのに、それを自分で終わらせてしまったこと。ラブライブにはもう出れないこと。・・・何より同好会の皆さんを振り回してしまったこと。同好会を自分で作って、人を集めて、振り回して、・・・そして廃部にした。1年生にとっても3年生にとっても新年度の最初の数か月は大切な時期です。それを自分本位な行動で、無駄にしてしまった。・・・でももう後には引けない。だから私は自分の気持ちに蓋をして、これで良かったのだと言い聞かせていました」

 

「うん」

 

「ですが、今日目一杯楽しそうに遊んでいる貴方を見ていたら、つい釣られて私も全力で遊んでしましました」

 

「スッキリしたでしょ?」

 

「ええ、その時は。施設から出たときは心も体も心地よい疲れのおかげでスッキリしていました。ですが、その後ご飯を食べて落ち着いたとき、やっぱり頭にあるのは同好会のことで。・・・先日耳にしました。旧メンバーを中心に新しくスクールアイドル同好会を作り直すと。私も部を作る大変さは知ってるつもりです。しかも、私のせいで人集めや部の方針の再設定など、おそらく色々やることが増えたはずです。・・・他の皆が苦労しているというのに、その原因の私がこんな呑気に遊び歩いていていいわけないじゃないですか。こうして自分で辞めるって決めたのにウジウジしている自分がもう本当に嫌で・・・ねえ祐介、私はどうしたら良かったんでしょうか・・・?」

 

 そう涙ぐんで彼女は話す。よっぽどこの一週間、悩みに悩みぬいたのだろう。そして罪悪感に押しつぶされそうになっている彼女を見て何もしないなんて選択肢はなかった。

 

「とりあえずさ」

 

「・・・」

 

「思いっきり泣こうか?スッキリするから」

 

「・・・えっ?」

 

「一応着替えてはあるけど、運動後だし多少汗臭いかもしれないけどさ、胸、貸すよ。拒否権は無いからね」

 

 そう言って怪我をしないよう眼鏡を回収し、抱き寄せる。最初は戸惑っていたし、体も硬直していたが、頭を撫でたら次第に弛緩していき、胸元が暖かくなった。

 

 胸元ですすり泣く彼女のことを考える。そういえばこうして本心を言ってくれたことあったっけな、と13年間を振り返るが、そんなことは一度もなかった。彼女は俺なんかよりずっと精神的に大人だし、周りからの期待に応えるだけの力を持っていたため、悩みを話すより聞く方が圧倒的に多かったと思う。俺と2人でいるときでも精神的にナイーブになるとしたら俺の方だし、その度に彼女に励まされてきた。

 では菜々が精神的に辛い時は誰に話しているのだろうと以前疑問に思ったことがある。俺?親?それとも友達?などなど。けれど、どんなに考えても答えは分からなかった。そもそも俺自身、大切な相談を菜々から受けたことは無かったし、それに菜々はおばさんにすらちょっと遠慮しているように感じていたからだ。しかもおばさんも菜々に対しては大切なところで一歩引いているように感じるし。

 今でこそおばさんがサブカルを黙認していることが分かったため、俺から見た中川家はただの面白い家族に見える。けれど菜々からしたら自分の大好きなものを規制している人に本心を曝け出すなんて然う然う出来ないことだろう。正体を隠してスクールアイドルをやっていたのがその証拠だ。それに加え友達を作るのが上手くないって自分で言っていたから友人に本心を話す機会もそうはなかったのかもしれない。

 それでも今日、菜々の本心を聞けた。今まで助けられた分、今回は彼女が困っているときに手を差し伸べることが出来て本当に良かった。菜々の本心を聞けたのが俺で本当に嬉しかった。心の底からそう思う。

 

 幾分か時間が経過した。胸元で啜り泣く彼女の声が消えた。寝ちゃったかな、と思ったがすぐさま俺から眼鏡を回収し、抱き寄せる前の元の位置に戻った。

 

「・・・ご迷惑おかけしました」

 

「いつでもどーぞ」

 

 ニコニコしている俺を見て彼女が怪訝そうな顔をする。

 

「なんでそんな・・・嬉しそう?なのですか?」

 

「菜々もちゃんと人間ってわかって安心したから」

 

「なんですかそれ」

 

「言葉のとおりだよ。個人的な理由だけど結構安心した。・・・聞いて欲しいことがあるんだ」

 

「なんでしょう?」

 

「『始まったのなら貫くのみ』」

 

「・・・!」

 

「甲子園に行く前、菜々がウジウジしていた俺に掛けてくれた言葉だ。もしかしたらただの思い付きで言った言葉だったかもしれないけど、俺にとっては勇気の出る魔法の言葉だった。そんな金言をくれた菜々に聞きたい。今回最後まで自分の気持ち、貫き通せた?」

 

「それは・・・」

 

「答えは言わなくてもいいよ。ただ、俺は一回失敗したらすぐに投げやりになる人より、どんなに泥臭くても必死に最後までやり切ろうとする人の方が好きだな。菜々はどう?」

 

「・・・私も祐介と同じです。そもそも私が『ユウキ』と『セツナ』を好きになったのも、どんな状況であれ最後までやり通す二人に惹かれたからです。でも、このままだと『ユウキ』と『セツナ』のことを大好きと言える資格はありませんね・・・」

 

「そうかもね。廃部にするまでの経緯聞いたけど、結構好き勝手やってたみたいだし。でもここから出来ることだってあるはずだよ」

 

「・・・そうですね。まずは皆に謝りたいです。許してもらえないと思いますけど。それでもケジメはしっかりつけないと。このままだと同好会の皆だけではなく、大好きな2人も裏切ることになってしまいます」

 

 同窓会の皆は菜々に帰ってきて欲しいと思っているよ、と口にしそうになったが流石に野暮だ。その辺は自分で会ったときに感じてくれ。

 

「それが良いと思うよ。まずは謝って。・・・そこから自分の気持ちを伝える必要もあるんじゃない?」

 

「自分の気持ち・・・ですか?」

 

「うん。これからスクールアイドルを続けるにしても辞めるにしても、自分の本心を俺以外の他人にぶつけることが出来ればきっといい方向に向かうと思うんだ。・・・まあ、あくまで勘だけど。それに、今菜々が何を考えているのか、これからどうしたいのかは同好会の皆も気になってると思うし」

 

「祐介の勘はよく外れますけど。・・・でも、信じてみようと思います。ただ、私が自分の気持ちを誰かにうまく伝えられるでしょうか?」

 

「誰にだって初めてはあるよ。大丈夫。謝る時は一緒に行くつもりだし、それに何があっても俺は菜々の味方だよ」

 

 そう言った後、菜々は目をパチクリさせた。そして、みるみるうちに涙がたまり、顔が歪む。でも、さっきよりよっぽど晴れた表情をしていた。

 

「・・・あなた、今日何回私の心をぐちゃぐちゃにすれば気が済むんですか?」

 

「それが全然飽きないんだよこれが。ことわざだと3日で飽きるはずなのにね。気づいたら13年の付き合いだ。どこかの省庁にでも異議申し立てておこうかな」

 

「・・・祐介は、本当にずるいですね」

 

「それはどうもありがとう」

 

「・・・悔しかったので結構皮肉を込めたつもりなのですが」

 

「知ってるよ」

 

 彼女の顔を見ると目が真っ赤で腫れてるし、鼻もずっとすすっている。手で顔を隠しているからちゃんとは見れてなけど、もう大丈夫だろう。・・・ふと時間が気になった。時計を見るとお互いの門限まであと少しにまで迫っていた。

 

「あ、」

 

「どうしました?」

 

「もう時間がやばい。急いで帰ろう」

 

「・・・祐介」

 

「何?」

 

「今日私、思いっきり運動して、思いっきり泣いたじゃないですか?」

 

「そうだな」

 

「そこから祐介に話を聞いてもらって、安心したらなんだか体に力が入らなくなってしまってしまいました」

 

「ほう、つまり?」

 

「・・・おんぶしてくれませんか?」

 

「ん、よく言えました」

 

 そういって菜々の前に屈み、菜々をおぶさった。そして家の方面へ向かった。

 帰り道を歩いている途中、菜々がポツリポツリと話し始めた。

 

「祐介、今日はありがとうございました」

 

「んー」

 

「祐介のおかげで、これ以上後悔しなくて済みそうです」

 

「それは菜々が決めたことだよ」

 

「いえ、今日祐介が一緒にいてくれたおかげです。同好会の皆ともう一度会うのは怖いけど、一週間のうちに気持ちを整理して会いに行こうと思います」

 

「後になるほどそういうの嫌だもんね。覚悟が決まったら連絡してね」

 

「はい!その時はよろしくお願いしますね」

 

「りょーかい」

 

 口数はどんどん減っていく。それでも歩みは止めない。

 

「・・・祐介」

 

「んー?」

 

「申し訳ないのですけれど、少し眠ってもいいですか?」

 

「んー」

 

 俺から了承を得た彼女は力を抜いた。安心したら眠くなったようだ。

 

「・・・ゆーすけ」

 

「んー?」

 

「貴方が私の幼馴染で本当に良かったです。大好きですよ」

 

 そう言った彼女の体は完全に力が抜けきっていた。耳元から規則正しい寝息が聞こえる。

 

「・・・知ってるよぉ」

 

 この一週間だけではない。ずっと独りで悩みぬいて、抱え込んでいた菜々にはゆっくり休んで欲しい。そして、これからいい方向に向かうことを強く願った。またしばらくしたら、目一杯『優木せつ菜』を楽しむ彼女が見れることを想像しながら、俺はゆっくり家へ向かった。いい夢みろよ。

 

 

 

 でもまあ、まさか次の日に吹っ切れて屋上でライブするとは思わなかったけどね。

 

 

 

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