「新しい部員が入部しました」
「自己紹介?」
「ちが!・・・わなくはないですけど・・・もー!!」
「まーまー、どうどう」
屋上ライブから数日が経過した。今は昼休み。今日はたまたま昼飯を一緒に食べていた。
「ところで誰が入ってきたの?」
「一人は2年の『宮下愛』さん。もう一人は1年の『天王寺璃奈』さんです」
「あ、2年の子は知ってるかも。部室棟のヒーロー、だっけ?」
「え、そうなんですか?」
「違ったっけ?・・・なんでもいいか」
今日の学食の日替わりメニューは唐揚げ定食を頬張る。正直育ちざかりの男子にとってはありがたいけど、虹ヶ咲って女子比率の方が圧倒的に多いはずだ。多分、こんなドカ盛り漫画飯なんて女子から人気は無いだろうしどう考えても赤字な気がする。・・・食えなきゃ食えないでどうでもいいか。考えるのが面倒だ。
「なんだか貴方、今日は全てが上の空ですね」
「そうだなぁ。ここ一週間どっかの誰かのせいで悩みの種が増えたからね。その反動じゃないかな?」
「うぐっ、・・・その節はどうもお世話になりました」
「冗談だよ。今更そんなこと気にしないって。悩みがあるのは本当だけど、それはまた別件だよ。・・・ところで屋上のライブの経緯聞いてもいい?俺知らないんだけど」
「確かに話せていませんでしたね。時間が合わなかったとはいえ、本当なら祐介に真っ先に話すべきだったのですが。・・・すみません。ここ数日、充実感や安心感で気が抜けていました」
「気持ちは分かるよ。俺も甲子園終わってから完全に腑抜けていたし。・・・それにしても、現地で見ていたけど・・・完全に吹っ切れてたね」
「ええ、完全に吹っ切れました。祐介と同好会の皆さんのおかげです」
「同好会の人はなんて言ってた?」
「色々思うことは絶対あったと思いますが、まずはお帰りって」
「・・・全部解決した後だから言えるけど、話を聞きに行ったとき、あんな好き勝手してた菜々のこと心の底から心配していたからね。本当に優しい人たちだよ」
「・・・そうですね。本当に私は人に恵まれました」
「それで、自分の本心は伝えられたの?」
「・・・はい。いきなり屋上に呼ばれて。全然考えが纏まっていなかったですし、実はそこでも怖気づいちゃって中々うまく話すことは出来なかったんですけど。でもキチンと自分の気持ちを伝えることが出来ました」
「それは良かった」
じゃあ本当にこの件は一件落着というわけだ。いい方向に向かって本当に良かった。
「ちなみになんで屋上でライブやる流れになったの?」
「・・・最初は侑さんと屋上で話をして、ライブが終わったら同好会の皆と話をしました。中でも侑さんが『ラブライブなんて出なくていい。スクールアイドルを好きにさせてくれたのはせつ菜ちゃんだし、せつ菜ちゃんの歌が聞ければ十分だよ』って、祐介以外の人がせつ菜のことを肯定してくれたのが嬉しくて。そこから勢いで・・・」
「ライブしちゃったの?」
「ええ、お恥ずかしいことに。そこから先生に怒られる前に逃げたのですが・・・初めて悪いことをした気がします。なんだか楽しかったです」
「あんま羽目外しすぎないでね」
勢いでライブって・・・色々ツッコミどころはあるけど、それはともかく居場所が出来たようで何よりだ。たくさんあって困るものではないからね。ところで・・・
「『侑さん』って誰?1年生?」
「いえ、2年生ですよ?」
あれ、人数がおかしくないか?最初の5人に2人新入部員が入って7人のハズ。エマさん、彼方さん、それから菜々に宮下愛って子と天王寺璃奈って子で5人、それに加えて1年生が2人って話だったと思うけど・・・
「今全員で何人いるの?」
「?9人ですけど・・・あ、そういえば話していなかったかもしれないですけど、私がいない間に二人加入したんですよ」
「どおりで話がかみ合わないわけだ。そのうちの一人が『侑さん』か」
「ええ、『高咲侑』さんです!そしてもう一人が『上原歩夢』さん。どちらも私たちと同じ2年生ですよ?」
「へー」
「興味なさげですね」
「名前だけ言われても覚えられないって」
「そうですか?」
「くっそ、全校生徒の名前を把握してる実績があるからなんも言えねえ」
正直嫌みにしか聞こえないが、本人にはニコニコしてるから怒る気も無くなる。菜々って実は愛嬌ある?それからさっきの話で他に疑問に思ったことを聞く。
「ラブライブって全国大会だよね?」
「そうです」
「その子は菜々がそこに出たいって知ってたの?」
「ええ、屋上で会う前に一回別の場所で話しましたから」
「ほーん」
だとしたら凄いなその子。真剣に競技に打ち込むほど全国を目指さないなんて選択肢はふつう浮かばない。
俺も甲子園に出たからこそ、そのスクールアイドルの全国大会なんて出なくていい、なんて考えつかなかったし、もし思いついたとしても、甲子園で舞台で価値観がひっくり返された身からすると口が裂けても言えなかっただろう。せつ菜がラブライブに出たいと知っているうえで言うのは素直に感心した。
「面白いねその子。どっかで会ってみたいな」
「同好会来ますか?祐介なら大歓迎ですよ?」
「菜々にとってはね。部員の半分も知らないんだから行っても気まずいから無理。勘弁してくれ」
「それもそうですね。ではかんにんして差し上げましょう」
「どうして急に関西弁・・・?」
ケラケラと楽しそうに笑う彼女。そんな姿を見るとなんだか元気が出る。他人の事情に首を突っ込んで初めてよかったと思った。そうしているうちにふと何かを思い出した菜々がウキウキしたような目でこちらを見た。
「そういえば、先ほど別の悩みがあるって言ってましたよね?」
「え、うん。まあ、あるっちゃあるけど。大したことではないよ?」
「私で良ければ力になりますよ!さあ、話してください!」
やる気に満ちた目でこちらを見つめてくる。有無も言わせないような圧力を感じる。どうやら話さざるを得ないようだ。でもその前に・・・
「この前のことで恩を感じる必要はないよ?いつも助けてもらっているし」
「・・・エスパーですか?」
「ようやくその域に達したよ」
「・・・でも、助けられた分、私も祐介の力になりたいんです!・・・駄目ですか?」
「・・・じゃあこれで貸し借りは無しってことで」
「・・・!はいっ!それで構いません!!」
そんなに人に話すほどの悩みでは無いのに、ここまで言われたのならしょうがない。話を聞いてもらおうか。
「前さ、俺が廊下走っていた時あったじゃん?ほら、菜々が前日『劇録・警察密着24時!!』観てたって時」
「ああ、ありましたね。あれからもう2か月も経つのですね~」
「もうそんなに経つのか。あっという間だったね。・・・じゃなくて、あの時実は猫に会いに行こうと思って走っていたんだよね」
「猫、ですか」
「そう、猫。白くて可愛い奴。あの後も定期的に遊んでいたんだけど・・・最近何故か人気者になってだな。どんなに頑張っても先客がいて会えないんだよね。元気そうなのはなによりだけど・・・正直モフモフが足りない」
「・・・その猫、『はんぺん』っていうらしいですよ?」
「あ、そうなんだ。・・・名前つけたやつ天才か?もうあいつのこと『はんぺん』としか思えなくなってる。というかなんでそんなこと知ってんだ?」
「最初に話した愛さんと璃奈さんもはんぺんとよく遊んでいるからです。時々私も一緒に遊ばせてもらってますよ。はんぺんと」
「なんと。そんなところで同好会のメンバーと繋がりが出来るとは。世の中狭いな。・・・でも名前がピッタリなだけであそこまで人気が出るもんかね」
「ああ、それは野良だと駆除される可能性があったので私がはんぺんを「生徒会お散歩役員」に任命したからだと思います。おかげで気軽に生徒も触れ合うことが出来るようになりましたからね。アハハ・・・そんな般若のような顔しないでください。カッコいい顔が台無しですよ?ねっ?」
「誰が般若じゃい」
なるほどなるほど。最近アニマルセラピーが出来ないのは菜々のせいだったのか。駆除されないだけましだけど、それでも・・・
「菜々」
「はい、なんでしょう?」
「やっぱ貸し10ね」
「増えた!?」