「ん~ボーノ~♪」
「あら?もういいのかしら?ホオジロザメどころかウサギ分も食べてないわよ?なんならエマより食べてないように見えるけど?」
「いや、値段を見たらなんだかもう食べれないというか・・・ちょっと先輩に奢ってもらうレベル超えているというか・・・ハイ。もう勘弁していただくとありがたいです」
こうして果林さんに寿司屋に連れてきて貰った俺たち。正直高校生が手を出していい金額じゃないため、なんとなく遠慮してしまう。ここでガッツリ満腹になるまで食べる気合は俺には備わっていなかったようだ。
「えっと果林ちゃん、私いっぱい食べちゃってるんだけど大丈夫だった?」
「いいのいいの、エマの食べっぷりを見ているとなんだか気持ちがいいわ。対して祐介くんは・・・根性なし」
「ぐぐぐ・・・なんも言い返せない」
正直根性とかそういう問題じゃないと思うのだけど。飯を食べさせてもらってる身なのでおとなしくしておく。
「そういえば・・・どうしてあんな浮かない顔していたのかしら?」
「あ、確かに。お寿司が美味しくて忘れちゃってたよ。ごめんね、ゆーすけ君?」
「いえ、本当に大したことじゃないので話さないなら話さないで大丈夫だったので」
食事も程よいところで果林さんが俺に何故悩んでいたのか聞いてくる。エマさんは完全に忘れていたようだが。
「ほら、今日の寿司代と思って全部吐きなさい」
「寿司は迷子の果林さんを助けたからじゃ・・・。まあいっか。えっとですねー」
そういって今日の経緯を全て包み隠さずに話した。そうしたら二人とも目を白黒させていた。当然といえば当然の反応だろう。なんせ知らないうちに自分たちが原因になって醜い争いが起こっていたのだから。それから話して気づいたこともあった
「それはなんというか・・・」
「ええ・・・そうだね・・・あはは」
「皆まで言わなくていいですよ。だいぶキッショイ事してますから。ホントに」
本当に嫌なことに気が付いた。話していて段々と情けなくなっている自分がいる。
「そんなことは無いと思うよ?私たちの曲をそれだけ使いたいって思ってくれてるのはうれしいことだから、ね?」
「エマさん・・・!」
エマさんの優しさが心に染みる。争いが起きていた時、リアルタイムでそんなことを言われていたらコロッと墜ちていただろう。ただ今は完全に素面なため、エマさんのフォローでより惨めさが増す。
「そんなにせつ菜ちゃんの曲使いたいの?」
「うーん、使いたいというか、他の誰かが使うなら俺が使うって感じですかね」
「あら、そんなにせつ菜ちゃんのこと譲れない?」
「その言い方だとめちゃくちゃ語弊があるんですけど・・・でもそういわれたら、そうですね。誰かに譲る気は無いですよ?」
「・・・からかいがいが無いわね。清々しすぎて、逆になんだかこっちが恥ずかしくなってきたわ」
「わーなんだか私の方が顔が熱くなってきたよ・・・、そういえば二人は幼馴染なんだよね?良かったら話を聞かせて欲しいなぁ?」
「えーあんまり人に話すほど面白くないですよ?」
「・・・ダメ?」
そう言って上目遣いで頼むエマさん。流石にこんなことされたら断れない。
「・・・じゃあ、ちょっとだけ」
こうしてせつ菜、もとい菜々の話をする。俺の話に意外と興味津々な二人を見ていると、喋るつもりのなかったことまで話してしまった。勝手に口が回ってしまったためにお茶目な生徒会長のエピソードを話してしまったけど、まあコンビニのスイーツあたりで許してくれるだろう。
「生徒会長って正直取っつきづらくて苦手だったけれど、あれって素じゃなかったのね。どっちかと言えばせつ菜ちゃんでいるときが本来の生徒会長って感じかしら」
「うーんどうでしょう。生徒会の業務も割と楽しんでいたから猫かぶっていたわけでもないと思うんですよね。ただ優木せつ菜の状態だと自分のやりたいに忠実になってると思うんで、そういう意味だと本来の菜々に近いのかもしれませんね」
「へー凄いね!よくせつ菜ちゃんのこと見てるんだ!」
「13年の付き合いの付き合いですから」
「それだけで分かるものではないと思うのだけど・・・」
付き合いが長い分、相手のことを知る機会が多いのは当たり前のことだ。俺からしたら、短い期間でお互いのことをよく知っているエマさんと果林さんのほうが凄いと思う。
「あ、そうだ。二人にせつ菜のことでお礼を言うつもりだったんです」
「えっ!別にいいよ?私たちもせつ菜ちゃんともっと一緒にスクールアイドルやりたいと思っていたし」
「・・・私も、当時はエマのためだったけど、今になってはせつ菜ちゃんがいてくれるからこそ私も成長できているから、そんな気にしなくていいわよ?」
「それでも言わせてください。やっと菜々がやりたいことを見つけたのに、それを自分で手放したから、正直もうどうしようもないと思いました。けどエマさんや果林さん、それから他の同好会のメンバーのおかげでまた楽しそうな菜々を見ることが出来ました。本当にありがとうございました」
「・・・よしよし」
「・・・私も」
「うわっ!なんで頭撫でてくるんですか!?」
「それはゆーすけくんがいい子だからだよ」
「そうね、祐介くんがとってもいい子だからよ?」
「説明になっていないんですけど!?」
カウンター席に座っており、二人の間に挟まれて寿司を食っていたため、両サイドから手が飛んでくる。最初は抵抗していたが、しばらくして無理と悟ったため、おとなしく投降した。・・・撫でられるの普通に恥ずかしいんだけど。
「色々あったけどせつ菜ちゃん、前よりずっと他人の意見を尊重してるから、もう内部分裂みたいなことは起きないと思うよ。それに今度は私たち3年生がしっかりするから。ね?果林ちゃん?」
「ええ、せつ菜ちゃんのことは任せて頂戴」
「なんかせつ菜の保護者会みたいなことになってるですけど・・・。でもはい、菜々とせつ菜のこと、お願いしますね」
「うん、任せて」
エマさんの言葉に果林さんが大きくうなずく。本当に頭が上がらない。
「じゃあ、そろそろキリが良いから帰りましょうか?お会計してくるわね」
そう言って果林さんが席を立つ。そういえば・・・
「エマさんエマさん」
「ん?どうしたの?そんな小声で?」
「いや、流れで果林さんのこと下の名前で呼んでいたんですけど、戻した方がいいですかね?」
「ふふっそんなことは無いと思うよ?果林ちゃんもゆーすけくんのこと下の名前で呼んでいたし。意外と満更じゃないんじゃないかな?」
「・・・それならいいか」
エマさんとコソコソ話しているうちに果林さんが会計を終えて戻ってきたため、店を出る。
「果林さん、ご馳走さまでした!」
「果林ちゃん!ご馳走様!」
「ええ、また行きましょうね。・・・自分で連れてきてあれだけど、美味しかったわね、ここ」
「初めてこんないい寿司食べました」
「私も~」
そうしてしばし談笑をする俺たち。そして二人の寮の門限が近づいてきた。
「じゃあそろそろお開きということで」
「うん、そうだね。寮の門限も近づいてきたし・・・あっ、そうそう、ゆーすけ君」
「はい?」
「応援歌の問題はどうするの?」
「あーそういえば」
美人な先輩に囲まれていたからすっかり忘れていた。確かにこの問題をどうにかしなくてはいけないのか・・・
「あっ」
「何か思いついたのかしら?」
「そうですね。なんで気づかなかったのかってやつが一個ありました。俺はピッチャーなんだから、揉めてる奴らと一打席勝負して勝てばいいんですよ。あースッキリした」
「・・・?イチダセキショウブっていうのが具体的にはなにするのか分からないけれど、大丈夫なのね?」
「はい、勝ち負けはまだやってないから分からないですけど、これ以上揉めなくて済みそうです。興味があれば果林さんも野球やりましょう。そしたら一打席勝負の意味も分かると思うので!」
「前向きに検討しておくわ」
「それって私もいいかな?ゆーすけくん」
「もちろんです。エマさんなら大歓迎だ。じゃあまた時間が空いたら一緒に体動かしましょうね。果林さん、今日はご馳走様でした。また連れて行ってくれると嬉しいです」
「もちろんよ。ただ、今度は遠慮しないでね?」
「・・・善処します。じゃあ帰りますね。家が反対方向なので二人を寮まで送れないのは申し訳ないですけど、気を付けて帰ってくださいね」
「うん!ゆーすけくんも気を付けてね」
「はい、じゃあまた学校で」
「ええ、またね」
そうして俺が見えなくなるまで手を振る二人に手を振り返し、帰路に就く。明日で不毛な争いが終わるのが何よりうれしい。それにしても・・・
「遠慮して食べてたから腹減ったなぁ」
帰りにコンビニに寄ろう。そう考えながら小走りで家の方へ向かった。
~~~~~~
「ふう」
「ゆーすけくん見えなくなっちゃったね」
「そうね、私たちも帰りましょうか」
「そうだね。それにしても、あれだけ精神的に大人な感じでカッコいいから絶対モテると思うのに、せつ菜ちゃんに真っすぐで、それにすっごい大切に思ってるんだね。ゆーすけくん」
「そうね。あそこまでせつ菜ちゃんへの気持ちをハッキリされると逆に清々しいわ」
「せつ菜ちゃんにもゆーすけくんのことどう思っているのか聞きたいよね」
「ええ、多分本人たちは無意識だけどね」
「なんだかキュンキュンしちゃうね、果林ちゃん!」
「・・・外野はあまり手を出さないようにしましょうね、エマ。本人たちには本人たちのペースがあるんだから」
「ふふっ、はぁ~い」