中川菜々と優木せつ菜、時々アクセントで俺   作:蒲鉾うどん

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 7月も終盤に差し掛かる頃。夏の大会もいよいよ佳境を迎えてきた。正直、トーナメント表を見た段階でナイーブになるほど組み合わせが悪かった。順当に当たれば、格上な相手に3回ほど勝たなければ甲子園にいけないという修羅の道。そんな地獄のようなくブロックをうちの主将は引き当ててしまった。ただ結局は1発勝負、やってみるとどうにかなるものだ。というよりここにきて心身ともに絶好調なのが大きい。疲れはあるはずなのにどうしてなのか正直、わからん。

 

 昨日も昨年度甲子園ベスト4の強豪校を破って準決勝進出を確定させた。俗にいうジャイアントキリングというものだ。それに、順当に勝ち上がってくるであろうと予想していた3校のうちの1つは初戦でつまずいたため、残りの格上の高校は1つ。次の準決勝が事実上の決勝戦となるだろう。

 試合の時は気にしなかったが、後で映像を観ると、会場は大いに盛り上がり、球場全体が異様な熱気に包まれていた。この雰囲気に少し恐怖を覚えたが、何はともあれ後2勝で甲子園。次の試合を獲れれば甲子園がぐっと近づく。嫌でも気合が入るというものだ。

 

 ただ、昨日の準々決勝を含めて、準決、決勝の3試合は1週間で行われる。全試合投げる予定の俺からしたら地獄のスケジュールだった。野球部の日程として、試合以外は全て練習日であったが、いかに調子が良いと言っても限度がある。今は練習をする以上にリフレッシュする時間が欲しかった。

 そのため、ダメもとで休んでリフレッシュさせてくれと顧問の先生に頼んだら快く承諾してくれたため1日だけオフが出来た。最初は1日寝て過ごそうと考えていたが、1日寝ただけで取れないくらい疲労が蓄積されていたため、だったらいっそのこと、という感じでずっと行きたかったフェスに勢いで参加するにした。

 

「それにしても・・・人多いな」

 

 結局寝坊して午後からの参加になった俺は一人で色々なアーティストのライブを見る。好きなアーティストの曲を生で聞きながら己は何もせず、のんびりする。ここ数か月は夏の大会のことで何をするにしても焦りのようなものも一緒についてきたため、今日だけは全てを忘れて純粋に楽しみ、リフレッシュして、3日後の試合に備えようと思った。

 ライブの曲や雰囲気を楽しんでいると、いきなり後ろから声を掛けられた。振り向くとそこには同じ学校の制服を着た、リボンの色から察するに、同じ学年の二人組の女の子がいた。

 

「あの・・・白浜祐介くん、ですか?」

 

「・・・どちら様?」

 

「えっと、高咲侑って言います」

 

「私は上原歩夢です」

 

「あ、噂の『侑さん』と『歩夢さん』じゃん。菜々から聞いてるよ」

 

「!!本当ですか!」

 

 そう言って俺の手を取ってくる侑さん。・・・もしかしてここから恋が始まる?『love so sweet』案件か?

 

「昨日の試合現地で観ました!あの異様な熱気と揺れる会場、必死に声を出し続ける応援席、そしてあの暑さの中で必死に投げてる白浜くんの姿を見て私!ときめきました!!」

 

「ときめ・・・?えーっと、ありがとう?」

 

「もうっ、侑ちゃん!急にそんなこと言われて白浜くんびっくりしちゃってるじゃん!ごめんね、白浜くん?」

 

「え!あー・・・ごめんなさい。つい伝えたくて・・・」

 

 しょぼんと落ち込む侑さん。それをなだめる歩夢さん。まんま話に聞いていた通りでつい笑ってしまった。それを見て不思議そうな顔をする二人

 

「ごめんごめん!二人が話に聞いていたのと全く同じだったからなんだかおかしくて!」

 

「せつ菜ちゃん、私たちのことなんて言ってたんですか?」

 

「んー?それは内緒」

 

 流石に今会ったばかりの子におしどり夫婦、なんて言ったらセクハラになりそうな気もしたから黙って言葉を飲み込む。

 

「何言ったか気になるなぁ」

 

「まあまあ、悪いことは言ってなかったから・・・ところで二人もフェスに参加しに来たの?」

 

「参加、というか関係者になると思います。ねっ侑ちゃん?」

 

「そうなんだよ!朝香果林ちゃんっていうスクールアイドルが今日ここでライブをするからみんなで応援に来たんだ!」

 

「え、今日果林さんがライブすんの?」

 

「果林さん知ってるの?」

 

「寿司食って道案内した仲だよ」

 

「それはどのくらい仲が良いんですか・・・?」

 

 二人でむむむと悩む。・・・聞いていた通り、本当に息ぴったりだなぁ。それはさておき話を進める

 

「何時からなの?」

 

「夕方だよ!」

 

「そうか、じゃあそこまで残って果林さんの雄姿を見届けることにするよ」

 

「ほんと?果林さんに伝えておくね!あ、そうだ!一回同好会のテントに顔出さない?果林さんも喜ぶと思うよ!」

 

 けっこうグイグイ来るんだな。初めて関わるタイプでちょっとびっくりするな・・・多分根はいい子なんだろうな。けど・・・

 

「いや、遠慮しとく。果林さんにも自分のリズムっていうのがあると思うから、突然俺が行って、万が一そのリズムを崩してしまうと申し訳ないからさ。気持ちだけもらっておく。ありがとね」

 

「確かにそうだね。私も特に考えず提案しちゃってごめんなさい」

 

「いいって。気持ちは伝わったから」

 

 他人のことをちゃんと考えている優しい子なんだなって素直に思った。菜々もこんな子と仲間になれて良かったね、と心の中で思う。少々三人で雑談をしたのち、歩夢さんが時計を見た。

 

「あ、侑ちゃん。もうそろそろ戻った方がいいかも」

 

「もうそんな時間!?じゃあそろそろ・・・」

 

「うん、色々話聞けて楽しかったよ。またね」

 

「こちらこそ!またね!」

 

 こうして二人と別れた俺は再びフェスの音楽に聴き入った。

 

~~~~~

 

 そろそろ果林さんのステージだなって思っていたらスマホがポケットの中で振動した。振動の長さ的に電話か?スマホに表示された名前には『中川菜々』と表示されていた。

 

『もしもし?』

 

『あっ祐介!果林さん知りませんか!?』

 

『いや知らないけど・・・何かあったの?」

 

『実は・・・」

 

 こうして一通り事情を聞いた。ふむふむ、なるほど・・・

 

『先ほど祐介に会ったって侑さんと歩夢さんがおっしゃっていたので、もしかしたら一緒にいるかなと思ったのですが・・・」

 

『残念。はずれです。・・・どこ行ったのか気になるから俺も探すよ。あの人のことだからどうせ迷子になってるだろうし。そしたら人手は多い方がいいでしょ』

 

『それは助かります!ありがとうございます!見つけたら連絡ください!』

 

『ん、おっけー』

 

 通話を切った俺は果林さんを探すことにした。心当たりはないけど、片っ端から探せばいるでしょ。

 

 

~~~~~

 

 

「あ、いた」

 

 あれからは立ち入れる範囲で施設内を結構探した。そしたら遠目に侵入者以外立ち入り禁止の場所に座り込んでいる女性がいた。直感的に果林さんだと思った俺は、バレたら怒られるのを承知で侵入。そして見事果林さんを見つけ出すことに成功した。

 

「(とりあえずは菜々に位置情報を送ってっと)」

 

 菜々に頼まれたことは完了した。ただ、このままうずくまっている果林さんを放っておくわけにもいかないため、話しかけることにした。

 

「こんにちは」

 

「・・・祐介くんがなんでこんなところに?」

 

「果林さんが迷子って聞いたので、もう一回飯を奢ってもらうために探しに来ました。同好会に割り振られたテントがどこかは知らないですけど、目印になるところまでは案内出来ますよ?・・・どうします?」

 

「・・・いいわ。遠慮しておく」

 

「そうですか」

 

 とりあえず、果林さんの居る場所はさっき菜々に教えたからぼちぼち来るだろう。ひとまずは果林さんが座ってるベンチに俺も座って待つことにした。少しの間お互い黙っていたが、しばらくしたら果林さんが口を開いた。

 

「祐介君は・・・」

 

「・・・はい」

 

「野球をやっていてプレッシャーを感じたことは無いのかしら」

 

「プレッシャー、ですか」

 

「ええ」

 

 今のでなんとなく察した。多分今果林さんは、プレッシャーに押しつぶされそうなのだろう。アドバイス一つでどうこう出来る問題ではないけど、少しでも力になりたいと思った。

 

「毎試合感じてますよ?」

 

「・・・昨日あれだけ凄いパフォーマンスしたのに?」

 

「いい結果が出たときでも悪い結果が出たときでも、試合前はいつも心臓バクバクですし、ナイーブになってますよ?菜々に聞けば慰めじゃないって分かります。俺って結構ノミの心臓なんですよね」

 

「・・・嫌みにしか聞こえないわ」

 

「いやいや本当に。でも最近ちょっとプレッシャーを前向きに捉えることが出来る魔法の言葉を知ったんですよね」

 

「魔法の言葉?」

 

「はい、そうです。・・・『始まったのなら貫くのみ』、この言葉を聞いてから、最後まで自分の出来ることを目一杯やり通して、それで駄目だったらしょうがないって割り切れるようになったんですよね。そのおかげで試合が少し楽しみな気持ちも芽生えてきました」

 

「・・・」

 

「それに、野球は団体競技ですから。みんながいるから結構頑張れてる節もありますかね」

 

「・・・確かに仲間がいればそうかも。でも私はソロアイドルだから・・・」

 

「本当にそうですか?」

 

「えっ?」

 

「うーん、確かに虹ヶ咲はソロでの活動がほとんどって聞いてますけど、それでも助けてくれる人はいっぱいいると思いますよ。少なくとも何人かは知ってます。ほら、あそこに」

 

 そうして集まった同好会メンバー。そこからポツリポツリと胸の内を明かしていく果林さん。それを聞いてみんなで励まし、勇気づける。『仲間だけどライバル、ライバルだけど仲間』、うん、いい言葉だ。そして吹っ切れた果林さんが仲間とハイタッチを交わし、ステージへ向かった。

 

〜〜〜〜〜

 

「祐介」

 

不意に声を掛けられる。声の主は菜々だった。

 

「一緒に探してくれてありがとうございました」

 

「おう、どうにかなって何よりだよ」

 

「ええ、ほんとに良かったです。良ければ私たちと一緒に果林さんのステージを近くで見ませんか?」

 

「俺関係者以外だけど大丈夫?ここも無断で入ってるんだけど」

 

「あ、じゃあちょっと厳しいかもしれないです。バレると後々大変なので、やっぱなかったことにしておいてください」

 

 実にシビアであった。学校主催じゃないから万が一があったらどうしようもないのは分かるけども。

 反抗する気も起きなかったため、おとなしく客席に向かった。そしたら侑さんがいたから一緒に応援した。意外と気が合うのかもしれない。お互い名前に『ゆう』が入っているから?試しに侑さんに言ってみたらゲラゲラ笑ってた。もしかしたら俺って笑いの才能があるのかも?こうして文化祭のお笑いの出し物で滑り散らかす哀れな生徒が1人生まれましたとさ。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

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